下水道処理場内し尿受入の比較検討事例 - 全国上下水道コンサルタント

下水道処理場内し尿受入の比較検討事例
㈱東京設計事務所九州支社 技術チーム
宮﨑 宗和
○四宮
明宣
伊藤
正敏
1 はじめに
し尿処理事業は、昭和 28 年から国庫補助事業として適用されてきたが、平成 9 年度から
は、し尿、浄化槽汚泥に生ごみを含めて再生利用と適正処理を行う廃棄物処理施設整備国
庫補助事業へ移行している。近年、し尿処理事業は縮小傾向にあり、全国のし尿処理施設
平成 20 年度では 1039 施設 1)まで減少している。
数は平成2年度で 12121)施設であったが、
この傾向は、
都市部における下水道事業の推進と接続率の向上が起因していると推測され、
現に全国の終末処理場数は平成2年度で 836 箇所 2)であったが、平成 20 年度では 2120 箇
所 2)まで増加している。
一方、し尿処理施設の老朽化に対して、下水道事業では平成 7 年度に汚水処理施設共同
整備事業(MICS)を創設し、下水道以外の汚水処理施設も含めた複数の施設が共同で
利用する施設の整備を推進し、将来縮小するし尿の受入を行っている。
本稿はこのような背景を踏まえて、環境省管轄のし尿処理施設と国土交通省管轄の下水
道処理場内し尿受入施設について比較検討を行った一事例について報告を行うものである。
2 本検討が必要となった4つの背景
2-1
し尿処理場の使用停止
A市から発生する「し尿」及び「浄化槽汚泥」は現在、A市とB市の2市で構成するB
市し尿処理場で処理を行っている。B市し尿処理場は昭和 k 年に供用開始され、i 年をも
って使用を停止する予定である。
2-2
下水道未整備区域からのし尿処理の必要性
A市は公共下水道事業による整備を進めているが、i 年までの整備完了は難しく、5 年後
の j 年で整備が完了するため、未整備地区の「し尿」もしくは「浄化槽汚泥」の処理・処
分は必要となる。
2-3
下水道区域外からのし尿処理の必要性
A市の下水道区域は市全域を対象としておらず、下水道普及率 100%となった場合にお
いても、
「し尿」もしくは「浄化槽汚泥」の処理・処分は必要となる。
2-4
将来減少するし尿量に対するコスト縮減対策
将来的に縮小傾向にあるが継続して発生するし尿を効率的、経済的に優位な処理体制を
構築し、施設計画を行いコスト縮減を行う必要がある。
-1- 87 -
3 比較検討フロー
START
比較検討フローを図-1にまとめるが、本稿では
現状把握
検討1
し尿量予測
下記3段階を主点として報告を行う。
· 【第1段階】
:現況および将来のし尿量予測
検討2
比較検討
ケースの抽出
と絞込み
(本稿第5項に記載)
6 ケース
· 【第 2 段階】
:比較検討ケースの抽出と絞込み
可能性
4 ケース
(本稿第6項に記載)
ステップ2
定量的評価
ステップ1
定性的評価
実現性
2 ケース
· 【第 3 段階】
:時系列を踏まえた詳細検討
(本稿第7項に記載)
年度別
し尿量予測
検討3
時系列を踏ま
えた詳細検討
GOAL
4 現状把握
図-1 検討フロー
本検討を行うにあたっては、
事業を行うにあたっての管轄部署の違い、
保有施設の違い、
事業内容の違い等があり、検討には多数の組合せから最適解を抽出する必要があった。表
―1に関連部署、保有施設について整理を行う。
表-1 制約条件の整理
A市
(旧S町 と 旧T町の合併により誕生)
自治体
し尿処理事業の
管轄部署
○
下水道事業の
管轄部署
現状保有施設
コミュニティ
プラント
合併浄化槽
単独浄化槽
○
B市
C市
○
○
○
○
○
X終末処理場
(旧S町)
Y終末処理場
(旧T町)
し尿処理場
ごみ焼却場
標準活性汚泥法
オキシデーション
ディッチ法
標準脱窒素方式
+
高度処理
燃焼溶融処理
新規用地
処理方式
事業内容
-
・し尿、浄化槽汚泥 ・処理水をD川へ放 ・処理水をE川へ放
を汲み取りし、し尿 流し、汚泥をごみ焼 流し、汚泥をごみ焼
処理場へ搬出
却場へ搬出
却場へ搬出
汲み取り
・汲み取りしたし尿、
・し尿処理場、下水
浄化槽汚泥を処理
処理場の汚泥を燃
し、処理汚泥をごみ
焼溶融処分
処理場へ搬出
5 し尿量予測【第1段階】
適正な施設規模の設定、比較検討を行うため、適正なし尿の発生量を予測することが必
要である。i年にはし尿処理場の停止が予定されていたことから、i年以降のし尿発生量
を予測する。
5-1
し尿量予測フロー
し尿量予測フローを図-2に作成し整理する。
-2- 88 -
START
下水道事業計画
廃棄物処理計画
市コーホート
行政フレーム
下水道整備計画
区域内外人口
現況処理形態
別人口比率
下水道
区域外
下水道整備
区域内か?
現況
公共
合併
単独
汲取り
廃
止
微
縮
小
微
縮
小
縮
小
合併 浄化 槽
単独浄 化槽
汲取 り
整
備
進
捗
増
加
傾
向
下水道
区域内
下水道整備計画
区域内人口
(将来計画)
コミプラ
将来
将来計画人口
将来計画人口
に合致
実績値により
配分調整
処理形態
別算定
下水道整備計画区域外人口
合計値は
行政人口
時
系
列
に
よ
る
変
動
考
慮
公共下水道
合併浄化槽
汲取り
単独浄化槽
水洗化率
水洗化人口
非水洗化人口(下水道整備区域内)
原単位
原単位
原単位
原単位
計画下水量
計画汚泥量
計画汚泥量
計画し尿量
GOAL
図-2 し尿発生量予測フロー
5-2
し尿発生量予測結果
適正なし尿発生量予測を行うため、下記パラメータに主眼を置き、し尿発生量予測を行
った。
· コーホート要因法による人口予測
· 下水道整備計画 ⇒ 下水道課整備計画の精査と大規模浄化槽接続時期の把握
· 処理区別の水洗化傾向の把握 ⇒ X処理区とY処理区で個別に設定
· 現況し尿処理人口とし尿処理量から原単位を算定し、将来し尿量を推計
表-2 し尿発生量予測結果
この結果、i年度と 5 年後のj
年度
年度ではし尿発生量が大幅に減少
することが明確になった。
i年
し尿量
(KL/日)
i年 比
-3- 89 -
i+1 年
i+2 年
i+3 年
i+4 年
j 年
39.76
33.56
27.50
25.04
21.76
16.77
100%
84%
69%
63%
55%
42%
6 比較検討ケースの抽出と絞込み【第 2 段階】
本項では、4項の制約条件と5項のし尿発生量から、検討組合せケースの選定と絞込み
を行うことで、数案の詳細検討ケースを決定する。検討にあたっては、ステップ 1(定性
的評価)とステップ 2(定量的評価)の 2 段階により行う。
6-1
検討ケースの抽出
検討ケースを抽出するために、現在実績のある主なし尿処理方法について整理を行う。
[し尿処理方法の整理]
①し尿処理場あるいはこれに変わる助燃剤化施設を新設
②既存施設をし尿受入施設として改造し、希釈を行い下水道管渠に放流(改造特定事業所)
③し尿受入施設を新設し、希釈を行い下水道管渠に放流(新設特定事業所)
④終末処理場敷地内にし尿受入施設を整備し、水処理施設あるいは汚泥処理施設で処理
4項の制約条件に、し尿処理方法の整理結果を加味してケース抽出を行うことで、組合
せケースを6ケース抽出することができた。
6-2
ステップ 1(定性的評価)
本評価は、特に「実現性」
、
「可能性」というキーワードに注目し、行うものとする。
· 「実現性」の評価は、事業の不透明性、計画の大規模な変更が必要など、実現に対して
不可能に近いと判断されるものを排除するために行う。
· 「可能性」の評価は、「実現性」の評価後に残されたケースが補助事業の適合や用地利
用により経済的な利点を生む可能性があることを検証するために行う。
検討の結果、6ケースを4ケースまで絞込むことができた。
(表-3)
表-3 ステップ1検討結果
検討ケース
方針
配置予定位置
新設施設
実現性
ケース1
新設
市取得用地
し尿処理場
事業廃止
×
×
助燃剤化施設
○
環境省補助
用地有効利用
コミニュティプラント ⇒ 受入施設改造
○
既設有効利用
○
用地有効利用
計画見直し
×
×
○
国土交通省
補助
ケース2
新設
ケース3
既設改造
ケース4
新設
市取得用地
特定事業所として
受入施設
ケース5
し尿処理
下水道区域編入
-
-
ケース6
6-3
市取得用地
新設
処理場内
受入施設
可能性
ステップ2(定量的評価)
本評価は、特に「施設容量」
、
「経済性」というキーワードに注目し、行うものとする。
(1) 「施設容量」の検討
①既存施設改造時の能力(ケース3)
既存施設を改造する場合、
既設躯体の能力確認、
希釈水量の確保の可否について確認し、
判定を行う。
②下水道排除基準(ケース3,4)
終末処理場内に助燃剤化施設に必要となる脱水機の返流水やし尿等を投入する場合は、
下水道排除基準を遵守する必要があるので、希釈を行う。現況の水質調査結果等を基に、
-4- 90 -
下水道排除基準で示されている主要な水質項目に対して、
希釈倍率の設定を行うものとし、
今回の検討では、n-Hex(動植油)の希釈倍率が最も高かったことから、この希釈倍率で希
釈水量の設定を行う。n-Hex(動植油)は動植物油脂類含有量であり、近年生活形態の変化
により増加傾向にあり、有機物負荷量がきわめて高く、分解速度も遅いため排水処理施設
や浄化槽の機能へ障害を及ぼすことから、適正な希釈設備が必要であり、希釈水の設定指
標とした。
(2) 「経済性」の検討
終末処理場内にし尿受入施設を配置し、投入
表-4 終末処理場内受入方式別検討結果
する場合の処理形態は下記2ケースでケースス
項目
ケースA 希釈後 → 水処理施設投入
タディを行い決定する。
し
尿
· 検討ケースA:水処理施設内で処理
2ケースの比較検討を行った結果、ケースB
浄
化
槽
汚
泥
受
入
槽
破
砕
ポ
ン
プ
し
尿
ド
ラ
ム
ス
ク
リ
水
処
理
施
設
希
釈
槽
ン
受
入
槽
浄
化
槽
汚
泥
受
入
槽
破
砕
ポ
ン
プ
破
砕
ポ
ン
プ
は希釈が不要なため優位となった。
154%
経済性
よって、終末処理場内にし尿受入施設を配置
100%
し、し尿を終末処理場内で処理する場合には汚泥処理施設へ投入するものとし、ケースの
絞込みを行う。
(3) 検討結果のまとめ
検討の結果、下記2ケースが最も優位となったことから、次のステップで時系列を踏ま
えた比較検討を行う。
表-5 検討結果
「経済性」
検討ケース
方針
配置予定位置
補助事業
新設施設
「施設容量」
費用算定結果
補助
ケース2
新設
ケース3
既設改造
ケース4
新設
ケース6
市取得用地
助燃剤化施設
市取得用地
新設
全体
233%
333%
○
×
×
特定事業所として
受入施設
×
○
-
479%
479%
×
受入施設
国土交通省
補助
○
171%
140%
311%
○
処理場内
-
(1) 比較検討用処理フローシート
比較検討を行うための処理フローシートについて下記に整理を行う。
【ケース2】
:助燃剤化施設処理フローシート
し尿
処理工程 1
A市
環境部局管轄
前脱水処理
混合し尿
設備
処理工程 2 A市
脱水分離液
放流水
脱水汚泥
浄化槽汚泥
雑排水
(助燃剤)
処理工程 3
C市
清掃組合管轄
ごみ焼却場
-5- 91 -
希釈水
終末処理場
管渠
へ流入
水処理
工程で
処理
○
×
7 時系列を踏まえた詳細検討【第 3 段階】
発生汚濁負荷
判定
環境省補助
コミニュティプラント ⇒ 受入施設改造
100%
単独
下水道部局管轄
ド
ラ
ム
ス
ク
リ
ー
ー
· 検討ケースB:汚泥処理施設内で処理
破
砕
ポ
ン
プ
ー
処
理
フ
ロ
受
入
槽
ケースB 汚泥処理施設投入
ン
汚
泥
処
理
施
設
【ケース6】
:終末処理場内受入施設処理フローシート
発生汚濁負荷
処理工程 1
し尿
A市
環境部局
と
下水道部局
ドラム
スクリーン
破砕機
受入槽
の協同管理
浄化槽汚泥
処理工程 2 A市
貯留槽
汚泥処理
工程で
処理
し渣
処理工程 3
C市
下水道部局管轄
終末処理場
汚泥処理
施設
へ流入
清掃組合管轄
ごみ焼却場
(2) 時系列を踏まえたコスト比較
し尿発生量が、5 年間で大幅に減少することが明確なことから、
「し尿処理場の使用期限
の延長」が行われた場合に大幅なコスト縮減を図れる可能性がある。よって、本項では下
記のケースで、トータルコストを算定し、比較検討を行う。
· ケースα :i 年 助燃剤化施設が稼動(ケース2)
· ケースβ :i 年 し尿受入施設が稼動(ケース6)
· ケースγ :j 年 し尿受入施設が稼動(ケース6 使用期限延長によるし尿量減少)
トータルコストは現況のランニングコストの累計額に、施設を新設する場合のイニシャ
ルコストを加え、稼動開始後は新方式でのランニングコストを累計し算定する。
検討の結果、ケースγが最もトータルコストを抑制することができた。
(KL/日)
(百万円)
2,000.0
1,800.0
80.00
1,600.0
現況 トータルコスト
1,400.0
ケースα トータルコスト
1,200.0
ケースβ トータルコスト
1,000.0
800.0
600.0
60.00
コスト
縮減額
ケースγ トータルコスト
40.00
ケースα イニシャルコスト
ケースβ イニシャルコスト
ケースγ イニシャルコスト
20.00
400.0
200.0
0.00
0.0
○年
8 おわりに
○年
○年
○年
○年
○年
i年
i+1 年 i+2 年 i+3 年 i+4 年
j年
図-3 トータルコスト比較検討結果
今回の検討事例により、時系列による計画量の変化を把握することで大幅な費用削減効
果を見出すことができた。コスト縮減を図るためには、適正な整備計画、水量予測と施設
計画を行うことが重要であると考えられる。しかしながら、既存施設であるし尿処理場の
使用期限延長には補修費用が発生することから、更なる総合比較評価を行い、今後検討し
ていくことが必要と考えられる。
<参考文献>
1)環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課「日本の廃棄物処理 (各年
度版)
」
2)平成22年度 下水道白書 日本の下水道 社団法人 日本下水道協会
-6- 92 -