記事の内容とポイントを確認していきましょう。

解答作成のヒント
記事を読む
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さっそく、記事の内容とポイントを確認していきましょう。記事は、2枚刃
カミソリにまつわるエピソードをもとに、
「不便の魅力」について述べています。
現代社会は、効率や機能を優先し、不便なものを極力排除しようとしてきまし
た。しかし、そうして排除してきた「見過ごしがちな不便さに、暮らしを豊か
にするヒントが見つかることがある」というのです。
記事では、2枚刃カミソリの他にも、万年筆や家庭菜園を例にあげて、「不便
の魅力」が述べられています。ここでは、
「不便の魅力」についてより具体的に
考えるために、比較的考えやすい家庭菜園を例に記事の主張を確認していきま
しょう。
スーパーやコンビニエンスストアがあたりまえのように近所にある生活をし
ているわたしたちにとって、野菜を一から育て上げるのは、大変非効率的なこ
とに思えます。育て始めてから食べられるようになるまでには長い時間がかか
るし、天候によっては育たないことすらあります。生活に必要な分を手に入れ
るだけなら、買ったほうが安い。そう考えることもできます。しかし、自分で
丹精込めて育てた野菜を食べるのは、何の苦労もせず手に入れたものよりも、
味わい深いものがあるはずです。野菜がどのように作られているのかを自分で
体験することで、
「食に対する安全性」についてより具体的に考えることもでき
るでしょう。このように、不便さの中には、暮らしを豊かにするヒントが隠さ
れているのです。
例〈家庭菜園〉
⇔
①、現代社会=効率や機能、利便性の追求
・スーパー、コンビニエンスストアの増加
↓
②、①で排除されてきた不便さ
・野菜を自分で育てること(時間と手間がかかる、天候不順など)
③、②の中にある、暮らしを豊かにするヒント
・自分で育てた野菜を食べる喜び
・食の安全性に関する興味、関心を持つことができる、など
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解答の方向性
解答の方向性を
方向性を考える
さて、記事の内容とポイントを押さえたところで、解答をどのように組み立
てるかを考えていきましょう。
今回の小論文講座の問題には、字数制限の他に、二つの条件が付されていま
す。一つ目は、
「不便の魅力」について述べること。二つ目は、その「不便の魅
力」を説明する「具体例」をあげることです。
まず一つ目の「不便さの魅力」については、記事の例でも確認してきたよう
に、不便さの中には暮らしを豊かにするヒントがあると言えそうですから、解
答では記事の主張を肯定する方向で論を組み立てていくとよいでしょう。問題
は、二つ目の「具体例」をどうするか、ということです。
そこで、先ほどの家庭菜園の例に立ち返って、これを「不便の魅力」の「具
体例」とするために必要な条件を考えてみましょう。すると、①現代社会にお
ける効率や機能、利便性の追求、②その結果、排除されてきた不便さ、③不便
さの中にある暮らしを豊かにするヒント、の三つの条件が必要であることが分
かります。したがって、
「不便の魅力」に対する「具体例」には、この三つの条
件を満たすものを考えなくてはならないということになります。
今回の解答例では、この三つの条件に沿うものとして、「情報社会」を具体例
としてあげてみました。例えば、わたしたちは調べ物をする際、Google や Yahoo!
などインターネットの検索エンジンを利用して、簡単に「答え」を導き出すこ
とができます。あるいは、ホームページの質問コーナーなどに「◯◯について
教えて欲しい」と質問を書きこめば、そうしたサイトを通して、誰かが丁寧に
「答え」を教えてくれます。このようなインターネット環境が整い始めたのは
1990年代後半からですが、現在では、インターネットがなければ日常を送
ることすら難しいほどに大きな影響力を持っています。こうしたところから考
えると、インターネットは非常に利便性に優れたシステムだと言うことができ
るでしょう。
しかし、ここで排除されがちなのは、「自分で考える」という姿勢です。例え
ば、インターネットが使えないとなると、調べ物をする際に有効な手段となる
のは、文献を探すことです。しかし、文献を探すといっても、自分の調べたい
内容にたどり着くためには、そもそも何から調べたらいいのか目星をつける方
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法がありません。だから、まずは本のタイトルや作者などから、ある一冊を手
にとってみて、大枠を掴む。そして、そこに掲載されている参考文献などをも
とに、作者の主張やそれと対立する意見を探っていくなど、自分で調べ物の方
向性を定めていくことが必要になります。
これらは、誰かが「答え」をすぐに教えてくれる状況に慣れきっているわた
したちにとっては、非常に不便な作業です。しかし、そうすることで、一面的
ではないものの見方を手に入れたり、それまで関心を持っていなかった情報に
触れて新たな発見を得たりすることもできます。時間も手間もかかりますが、
その分大きな達成感を得ることができ、自分の中の情報のひきだしを豊かにす
ることにも繋がるでしょう。このように考えていくと、
「自分で考える」という
一見、非効率で不便に思える行為には、暮らしを豊かにするヒントがあると言
えそうです。
さらに言えば、「自分で考える」という不便に思える行為を排除し続けること
には、大きな問題が潜んでいると言えます。例えば、Yahoo!の知恵袋などのよ
うなインターネットの質問コーナーにおいて、対人関係の悩みや疑問を相談し
ているものを見かけることがあります。ケンカした友人とどのように仲直りす
ればよいのか、といった相談などがそれです。しかし、
「答え」というアドバイ
スを提示してくれるのは、相談者と友人がそれまでどのような関係を築いてき
たのか、全く知るはずのない赤の他人です。赤の他人であるアドバイザーは、
友人がどういうことで怒るのかがわかりません。したがって、誰にでもあては
まるような一般的なアドバイスや、常識の範囲内でのコメントを示すしかない
のです。それゆえ、そうしたアドバイスをそのまま適応すれば、場合によって
は相手を逆に怒らせることになったり、関係を悪化させることにもなりかねま
せん。
それでも、こうした質問コーナーには、非常に多くの人が書きこみをしてい
ます。なぜでしょうか。それは、おそらく何らかの問題が生じている他者と向
き合うときに、何の準備もなく対峙するのは怖いことだからだと考えられます。
だから、一般の人の意見を聞いて自分の行動を決めようとするのでしょう。
しかし、他者との関係は、当事者同士の個別的な関わりの中で作られていく
ものです。したがって、一般的な「答え」をそのままあてはめることができる
ような人間関係は本来ありえません。だからこそ、わたしたちはどのような態
度を取れば失礼にならないのか、こういうことを言えば相手を傷つけるのでは
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ないのかなど、その都度その場にふさわしい自分の振る舞い(=「答え」)を自
分で考えていくのです。このように、対人関係の構築には手間がかかるもので
す。しかし、このような「不便さ」を経なければ、他者との豊かな関係性を築
くことはできなくなります。
これらの考察から分かるように、利便性ばかりを追求してきた現代のシステ
ムに慣れきってしまうと、他者から「答え」を示してもらうことだけで満足し
てしまい、
「自分で考える」力がどんどん弱くなってしまいます。それは、わた
したちが社会で生きていくための根本的な姿勢を見失うことと同じことです。
これは、非常に恐ろしいことではないでしょうか。
解答例の構成について
解答例の構成について
これまで「不便の魅力」について、「情報社会」を例にあげながら考えてきま
した。これをまとめたのが解答例です。
第一段落では、記事にある「不便の魅力」の要点をまとめ、それに賛同する
ことで、解答の方向性を示しています。第二~三段落では、
「情報社会」を例に、
インターネットが普及したことで排除されてきた「不便さ」=「自分で考える」
について指摘しています。第四段落では、インターネットによって安易に手に
入れることができる「答え」の危険性について述べ、
「自分で考える」ことによ
ってしか得られないものの重要性について説明しました。そして、最終段落で
はそれまでのまとめとして、
「答え」を手に入れるまでの不便な過程を一つ一つ
たどることによって、人間の内面に豊かな広がりが生まれると結んでいます。
最後に
今回扱った記事は、やわらかい語り口で書かれた短い文章でしたが、日頃わ
たしたちが特に気にも留めずにきたものを、あらためて考えなおすきっかけと
なったのではないでしょうか。
具体例を上げながら論じるのは、なかなか難しかったかもしれませんが、「不
便の魅力」の例は、他にもたくさん考えられます。
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〈不便の魅力の具体例〉
・
「自動化」-車を運転するなら、オートマよりマニュアルのほうが運転する楽
しみがある。
・
「機械化」-医療現場での患者の状態の管理は、機械に頼るよりも医療者が患
者のもとに行って確認するほうが、患者との信頼関係が築ける。
・「交通(乗り物)」-乗り物に乗って移動するところをあえて歩くことで、運
動能力を維持することができ、同時に季節の変化や地域の特色を感じとること
ができる。
・
「メディア」-世界遺産や芸術作品等、映像で満足せず、実際に足を運んで見
ることで初めて発見できるものや、得られるものがある。
参考:「不便益システム研究所」http://fuben-eki.jp
このような多くの事例に目を向けることで、自分の考えをつくりあげる練習
を積んで下さい。それは、小論文を書くためだけではなく、これから社会で生
きていくための大切な経験となるはずです。
(田中
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友美)