福岡導水漏水事故対策検討委員会の報告書

福岡導水漏水事故対策検討委員会
報
告
書
平成20年6月
福 岡 導 水 漏 水 事 故 対 策 検 討 委 員 会
目
1. 委員会設置の目的等
次
----------------------------------------P 1
1.1 委員会設置の背景
1.2
目
的
1.3 委員会名簿
1.4
検討経緯
2. 福岡導水漏水事故の概要
----------------------------------------P 2
2.1 事故の概要
2.2 応急復旧の概要
2.3 応急復旧時の山口調整池の運用状況
2.4
事故箇所の可撓管施工の経緯
3. 漏水事故箇所の調査結果
----------------------------------------P 5
3.1
調査概要
3.2
管内緊急点検
3.3
可撓管ゴム破断箇所の詳細調査と結果
3.4
地盤調査と結果
3.5
応急復旧管の安全性について
4. 漏水事故の原因
----------------------------------------P13
4.1
詳細調査から考えられる破損の原因について
4.2
可撓管の詳細調査と緊急管内調査のまとめ
5. 漏水事故発生箇所以外の点検調査結果 ----------------------------------------P15
5.1
点検調査概要
5.2
点検調査の実施
6. 可撓管の対策
6.1
可撓管の課題
6.2
可撓管の取替
6.3
地震対策
6.4
可撓管の仕様
6.5
可撓管の型式選定
6.6
設計・施工上の留意点
----------------------------------------P22
7. 併せて講ずべきハード対策
7.1
----------------------------------------P32
ハード対策の考え方
7.2 点検や「危機管理対策としての緊急送水停止措置」並びに「緊急時の早期機能回復」
のために必要となる施設
8. ソフト対策
----------------------------------------P33
8.1
管水路の定期的な点検
8.2
可撓管の管内現地調査マニュアル(案)
8.3
福岡導水漏水事故対応マニュアル(案)
9. おわりに
----------------------------------------P34
1. 委員会設置の目的等
1.1
委員会設置の背景
平成 19 年 5 月 13 日に、福岡導水施設で漏水事故が発生した。
事故は、可撓管の破損によるもので、その応急復旧のため 7 日間導水を停止するなど、
福岡都市圏と佐賀県基山町の水道用水の安定的な供給に極めて深刻な影響を及ぼすこと
が懸念される状況であった。
この漏水事故を契機に、地域のライフラインをささえる基幹施設として、二度と漏水
事故を起こすことなく、その安定供給の確保に万全を期す必要があることから、事故の
原因となった可撓管の破損の原因究明を行うとともに、福岡導水施設に設置された他の
可撓管全体の状況把握等を行い、漏水事故時の対策や同施設の取り替えの判断を適切に
行うため、第三者による委員会を設置したものである。
なお、今回破損した『可撓管』は、管水路で一般的に云われる『とう性管』
(「
(管体の
許容されるたわみ率が 3%以上の管を云う。):鋼管、ダクタイル鋳鉄管等」)とは違い、
管水路と構造物などを接続する場合に、不同沈下等に対応するため構造物と管体をつな
ぐ部分に使用する伸縮及び沈下に対応できる特殊な構造の管である。
1.2
目
的
平成 19 年 5 月 13 日に発生した漏水事故に関する原因究明とその対応策について検討
を行い、対策工法を決定することを目的として「福岡導水漏水事故対策検討委員会」
(以
下「委員会」という。
)を設置した。
1.3
委員会名簿
委員長:神野健二 九州大学大学院工学研究院教授
委 員:長嶺 浩 日本水道鋼管協会(技術専門委員)
安福規之 九州大学大学院工学研究院准教授
平尾隆道 福岡地区水道企業団施設部長
本田健一 佐賀東部水道企業団佐賀営業所長
幹事長:矢野久志 水資源機構管理事業部次長
幹 事:三友 隆 水資源機構水路事業部次長
鈴木康夫 水資源機構総合技術推進室次長
恒吉 徹 水資源機構筑後川局次長
笹 繁生 水資源機構筑後川下流総合管理所長
下川 明 福岡地区水道企業団施設部課長
(前任:川上伸行 福岡地区水道企業団管理課長)
園田和孝 佐賀東部水道企業団浄水課長
-1-
1.4
検討経緯
現地検討会
平成 19 年 6 月 6 日
第 1 回委員会
平成 19 年 6 月 8 日
第 2 回委員会
平成 19 年 7 月 10 日
幹事会同年 7 月 4 日
第 3 回委員会
平成 19 年 9 月 14 日
幹事会同年 9 月 11 日
第 4 回委員会
平成 20 年 2 月 28 日
幹事会同年 2 月 21 日
第 5 回委員会
平成 20 年 3 月 28 日
第 6 回委員会
平成 20 年 5 月 13 日
幹事会同年 4 月 30 日
6/6 漏水現場視察全景
6/6 漏水現場視察
6/6 破損可撓管視察
6/8 第1回委員会開催
2/28 第 4 回委員会開催
2/28 第 4 回委員会開催
2. 福岡導水漏水事故の概要
2.1
事故の概要
(参照:添付資料 1∼3)
1. 発生日時:平成 19 年 5 月 13 日(日)午後 2 時頃
2. 発生場所:取水口から約 3.5km 地点(味坂水管橋直上流部)
3. 被災状況:破損箇所から約 0.2m3/s(推定)の漏水により
・小郡市道の陥没(約 4m×約 4m 深さ約 1m)
・麦畑(4 筆
約 5,000 ㎡)の冠水
-2-
4. 復旧方法:可撓管を撤去し、管理所内に備蓄された鋼管を用いて応急復旧
5. 取水再開日時:平成 19 年 5 月 20 日(日)午後 8 時
福岡県
県境
ル
ネ
佐賀県
ト
第1号
トンネル
鳥栖市
2
第
管 水 路
久留米市
取水口
揚水機場
号
福岡地区
水道企業団
(浄水場)
牛頸川
兎ヶ原川
基山分水口
P
ン
味坂水管橋
山口川
サイホン
基山町
太宰府市
山口調整池
山
口
川
筑
後
漏水箇所
凡例
小郡市
川
揚水機場等
P
幹線水路等
福岡導水施設概要図
トンネル
流水方向
陥没箇所
漏水発生箇所
味坂橋水管橋
宝満川
九州自動車道
思案橋水管橋
B= 4 m
H=1.7m
W= 4 m
西鉄天神大牟田線
福岡導水管理所
漏水事故状況写真
-3-
2.2
応急復旧の概要
(参照:添付資料 14)
復旧にあたっては、漏水が可撓管ゴム部の破断箇所と鋼管部に生じた孔からであることか
ら、可撓管部全体の交換が必要となった。交換にあたっては、新たな可撓管の準備等には
多大な日時を要することから、通水の再開を最優先とし、緊急時の対応のため備蓄してい
た鋼管(φ1500 ㎜,長さ 3m)を加工して当面の応急対策とした。
なお、破損した可撓管に代えて、普通鋼管を用いることにより必要な可撓性の確保が当面
困難であるため、鋼管の設置時に管の変位(沈下)を測定にするための沈下棒を設置し、
定期的な観測により、安全性を確認しつつ通水することとした。
沈下棒
〔経 過〕
5/13 14:00頃 事故発生
19:50 山口調整池から供給開始
22:05 筑後川からの取水停止
5/14∼15 管内水の排水作業
5/15 6:30 最大8㎝の楕円形の穴(8カ所)確認
15:30 可撓管ゴム部分の損傷を確認
5/15 管撤去部の鋼矢板打込、
鋼矢板内の掘削・土砂撤去
5/16 鋼矢板の掘削・土砂撤去完了
5/17 可撓管切断・撤去
5/18∼19 鋼管溶接、塗装・養生
5/20 13:10 充水開始
20:16 取水再開
(約0.5m3/s 段階的に要請流量へ)
2.3
内・外面溶接
内・外面溶接
スラストブロック
内・外面溶接
流れ
応急復旧管詳細図
応急復旧時の山口調整池の運用状況
漏水事故の復旧に要した 8 日間については、関係者との調整を行った上で筑後川からの送
水を停止させ管内を空水にした。この間の福岡都市圏への水供給は、山口調整池からの補給
で必要な量を確保し、佐賀県基山町へは農業用水のため池等の協力による補給により必要量
を確保することができた。
山口調整池からの補給により減じた貯留の回復は、筑後川からの取水量(水利権量の範囲)
の中から山口調整池に注水し行う。今回の応急復旧については、福岡地区水道企業団の供給
先団体の協力や福岡地区水道企業団内の施設運用などにより節水し、山口調整池の貯留を回
復した。
2.4
事故箇所の可撓管施工の経緯
(参照:添付資料 4)
1. 施工時期
事故箇所の可撓管は、昭和 53 年 12 月から昭和 55 年 3 月に施工された。
2. 通水前の沈下状況
試験通水の実施前に行われた点検調査で、味坂水管橋の上下流部において水管橋前
後の杭基礎の構造物(スラストブロック等)と埋設管路との取り付け部に設置された
可撓管に、管体が沈下したことに起因すると考えられる鉛直方向の大きな変位が測定
された。
-4-
3. 可撓管の改修
水管橋の上流側・下流側ともに管体を掘り出し、可撓管の偏心を解消するため敷設
換えによる改修(自昭和 58 年 4 月、至昭和 58 年 6 月)を行い、試験通水(昭和 58
年 5 月)の実施に至ったものである。改修の状況については、下図のとおりである。
なお、今回破損した可撓管については、事故時の観測により 190mm の変位が確認さ
れている。
可撓管
改修前
敷設換え
可撓管
改修後
基礎地盤改良
S58 年
改修工事断面図
3. 漏水事故箇所の調査結果
3.1
調査概要
1. 管内緊急点検の実施
漏水事故に係る復旧作業の断水期間を利用して空水区間(復旧作業のため管水路内
の水を排水した区間)について管内からの緊急点検を実施し、漏水箇所以外の可撓管
及び鋼管部の変状や損傷等の調査を行った。
2. 可撓管ゴム破断箇所の詳細調査
漏水箇所の破断した可撓管については、破断箇所及びゴム部の詳細な状況を確認す
るため、物性試験を行った。
3. 地盤調査の実施
事故地点における地盤の状況を確認するため、ボーリング調査を実施した。また、周辺
地盤状況の確認のため、近傍の橋梁等の施設を対象に地盤調査資料の収集を行った。
4. 応急復旧管の安全性
漏水事故箇所の復旧管は、可撓管に代え鋼管による仮復旧を行っているため、沈下
等の地盤変位に対して、安全性についての検討を行った。
-5-
3.2
管内緊急点検
(参照:添付資料 5)
復旧作業期間における空水区間について、管内からの点検を実施した結果、同類の可
撓管のゴム部にクラック等が確認され補修を実施した。
写真−1
可とう管のゴム部
鋼管の孔食
①
鋼管内径φ150 0mm
可とう管内径φ18 42mm
②
写真−2撮影方向
③
詳細写真
可とう管のゴム部
写真−1撮影方向
流水方向
写真−3撮影方向
可とう管底部のゴム亀裂状態
写真−2
写真−3
①∼⑥は貫通箇所
鋼管内の底部
⑧
⑦ ⑧は表面剥離箇所
⑤
②
③
④
①
⑥
可とう管のゴム部
⑦
孔食⑤の拡大版
鋼管の孔食部全景
可とう管底部のゴム亀裂状態
可とう管底部のゴム亀裂状態
流水方向
可とう管底部のゴム亀裂部より漏水
拡大版
漏水事故箇所 EJ16
1. 可撓管の調査と結果
空水期間中に実施した可撓管の調査結果を下記に示す。
(1) 変位量の調査結果
味坂水管橋上流−漏水箇所(可撓管番号は EJ16)
思案橋水管橋下流(EJ15)の調査結果を下記に示す。
(※可撓管番号については、添付資料 32 を参照)
味坂水管橋部(漏水事故箇所) EJ16
設計値 実測値
名 称
(mm)
(mm)
鉛直変位
水平変位
交差延長(縦断方向1)
交差延長(縦断方向2)
交差延長(水平方向1)
交差延長(水平方向2)
ゴム部の変位量
天
上流
地
天
下流
地
(200)
(±50)
2156
2156
2156
2156
差
(mm)
備考
ジョイント調査前にヘドロの清掃
190
2303
2077
2180
2165
-147
79
-24
-9
-65
35
-60
( )は、許容値を示す。 -6-
ジ ョイント部鋼管たわみ測定状況
思案橋水管橋部 EJ15
名 称
鉛直変位
水平変位
設計値
実測値
差
(mm)
(mm)
(mm)
(200)
(±50)
備考
120
-
ゴム部の変位量
天
上流
地
天
下流
地
120
-35
120
( )は、許容値を示す。 ジ ョイント部塗膜厚測定状況
〔調査測定箇所〕
可撓管断面
(上流側より)
鉛直変位・水平変位
天
天(左)
交差延長
可撓管
下流
上流
可撓管
上流
天(左)
下流
縦断方向1(水平方向1)
右
左
縦断方向2(水平方向2)
地
地(右)
地(右)
鉛直変位
(水平変位)
縦断面図
(水平断面図)
縦断面図
(水平断面図)
ゴム部の変位量
可撓管
天(左)
下流
上流
地(右)
縦断面図
(水平断面図)
ゴム部変位量:+
ゴム部変位量:−
-7-
2. 鋼管部の調査と結果
鋼管の内部から変形、鋼管内面塗装の状況、管の沈下状況を調査した結果、管のた
わみは設計値内、内面塗装も設計厚以上で錆こぶも発生していなかった。
また、管内面全体に泥質等の付着物が約 1∼2 ㎜程度張り付いていた。管の沈下は最
大で 26 ㎝、沈下による勾配は 0.26/1000 であった。
3. 緊急点検時に発見された思案橋水管橋下流部可撓管の補修について
(1) クラック補修について
思案橋水管橋下流部可撓管のゴム部クラックの補修は、ゴムを充填し補強帆布を
張り付けた上にカバーゴムを張り付け保護する応急的な処置である。
(2) クラック補修部の取り扱いについて
補修はあくまでも損傷を受けたゴムの損傷を拡大させないための応急処置であり、
直ちに恒久的な処置を行うことが必要である。
思案橋水管橋下流部ヘアークラック状況
3.3
思案橋水管橋下流部補修完了
可撓管ゴム破断箇所の詳細調査と結果
(参照:添付資料 6・7)
1. 可撓管の物性試験方法と結果について
(1) 物性試験方法
漏水事故対象可撓管のゴムの物性試験として
1) 解剖分析:破損した可撓管を切断・分解し破壊部や断面等を目視により調査す
る。
2) 物性試験:当初の強度、伸び等の物性値との比較を行う。
なお、物性値確認箇所は、可撓管の上下流(2 ヶ所)の 8 方向を実
施する。また、その深度方向の劣化状況も確認する。
(2) 試験結果
1) 解剖分析からは、ゴム−金属面との接着不良、ゴムボリューム不足等の製造面
での問題は見られなかった。
2) 物性試験からは、内部のゴムについて異常は認められなかった。
-8-
2.ミクロ解析方法と結果について
(1) 実施方法
ゴム表面劣化については、より精密な試験としてミクロ解析を下記内容で実施し
た。
1) 表面のクラックの観察、表面硬度の位置的な変化や深さ方向への劣化の進行度
合確認
2) クラック調査:表面のクラックの観察
3) 表面硬度測定:表面硬度の位置的な変化の調査
4) ミクロ硬度分析:ミクロ硬度計にて深さ方向への劣化の進行度合いの調査
(2) 分析結果
1) クラック調査の結果
① 上流側、下流側の比較では、破断した下流側にき裂が大きく深いものが多く
発生している。
② き裂の大きさ深さの程度は、ゴム部の変形状態に依存している。(下流側管
底部に発生した破断部分の変形は、下図のタイプⅠに相当し、A 部に大きな
き裂が発生している。一方、管頂部のゴムの変形は、タイプⅡに相当し、C
部に大きなき裂が発生している。
)
タイプⅠ
流 れ 方
タイプⅡ
A部
流 れ 方
C部
2) 表面硬度測定の結果
① ほとんどの部位で、オリジナル値(規格値)の A55∼A65 を超えて表面が硬
化している。
② 特に、上流側、下流側とも A 部(角部)、C 部(R 部)で A70 を超えるような
硬化を示している。
③ 一部に A80 を超えるような極めて高い硬度を示す部分も見られる。
A部
A部:角部
B部
B部:中央部
ゴム部
C部
鋼材
-9-
C部:R(アール)部
3) ミクロ硬度分析の結果
① 表面から 0.15mm までの深さでは、高いもので A80∼A90 のゴム硬度があり、
内部の安定した硬度から比べて 20∼30 は高く硬化が進んでいる状態である。
② 表面から 0.5∼0.6mm の深さでは、硬度はほぼ安定している。
硬度変化(上流側管頂部)
3.4
地盤調査と結果
(参照:添付資料 8∼13)
当初の設計での圧密沈下の検討には、事故地点近傍の河川内におけるボーリング結果が用
いられているが、可撓管の破損原因として、地盤沈下による可撓管の変位が大きな要因とし
てあげられる。事故地点における地盤の状況を確認する目的で、事故地点とその上流側の地
点の 2 カ所においてボーリング調査を行った。
また、より広い範囲の地盤状況を把握する目的で、近傍の橋梁等の施設を対象に地盤調査
資料の収集を行った。
なお、ボーリングは、主に圧密沈下の影響を把握する目的で行い、N 値 30 以下の範囲で
行った。
1. 土質調査ボーリングの結果
(1) ボーリング調査による地盤の判定
今回実施した、ボーリング結果により、事故地点上部の土質は、近傍の河川内の
ボーリング結果に見られた、砂層とシルト層の互層とは異なり層厚 4m 程度の粘性土
との結果が得られた。
なお、その下部については、砂礫層が分布し、近傍の他のボーリング結果におい
ても、標高 2.0m 付近を上端とする層厚 2∼3m 程度のレキ混じりの砂層とその下部に
位置する砂礫層で構成されている。
(2) 新しいボーリング結果による沈下量の算定
ボーリング結果に基づき、「水道用鋼管路における伸縮可撓管
平成 9 年改正版
(日本水道鋼管協会)」
〔以下、
「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」という。〕で沈
下量を計算した結果は以下のとおりである。
道路現況(幅 4m)をふまえ、設計荷重は当初設計の T-20 を今回も用いて沈下量
を算定した。
- 10 -
圧密沈下量
可撓管技術資料
(日本水道鋼管協会)
46㎜
即時沈下量
16㎜
矢板引抜き時の沈下量
30㎜
-㎜
総沈下量
92㎜
57㎜
当初設計
57㎜
(3) ボーリング結果と沈下のまとめ
今回のボーリング結果からは、埋設部の地層について当初の設計条件と異なるこ
とが確認された。
一方、通常の沈下計算(92 ㎜)の結果と実際の沈下量(190 ㎜)では、およそ 100 ㎜
の乖離が見られる。これについては、管を設置した位置が粘性土地盤であることか
ら、管路の施工における矢板引き抜き時の沈下が大きな要因と考えられる。
(設計上矢板引き抜き時の沈下量 30 ㎜が土質条件に関係なく一律として算定し
たため、粘性土地盤では、砂・シルト質地盤に比べ、この値が大きくなる。
)
2. 周辺地盤調査結果の報告
(1) 他機関の地盤調査結果
近接する高速道路、鉄道、河川や近傍の下水処理場、に聞き取り等を行い、西日
本鉄道並びに下水道事業者の調査データを入手することが出来た。これらの結果、
事故地点近傍の地盤状況は、地表から約 5m∼8m はシルト・粘土層、この下部に比較
的緩い砂層更にその下部にレキ層が分布することが確認された。
(2) 広域的な地盤沈下
事故地点における広域的な地盤沈下については、近傍の高速道路、鉄道において
調査が行われておらず、平成 9 年度に水資源機構が土中に設置した基準点高さに対
する沈下結果からも、近年の沈下を示すデータは確認されなかった。
今回実施した、事故地点に直交する水路天端並びに水路底の測定結果からは、最
大 80mm 程度の沈下が見られた。漏水場所付近において地盤沈下があったと想定され
るが、その範囲は不明である。
なお、導水路線の一部は昭和 60 年の「筑後・佐賀平野地盤沈下防止等対策要網」
により、指定を受けた地域に属する。福岡県下でのこれまでの地盤沈下は最大 750
㎜、近年 5 年間の最大沈下は 52 ㎜であるが、いずれも比較的有明海に近い地域であ
り、導水路線に最も近い久留米市内の観測井では、昭和 60 年から現在までの累積沈
下 49mm,近年は、年間 2mm 程度の沈下である。
(3) 管水路路線上の地盤状況
管水路の可撓管近傍の 11 箇所の土質柱状図から判断すると、揚水機場から約 6
㎞地点(SV-4)を境に地盤の状況が変化している。この地点から上流部は表層から
5∼6mの間に粘性土もしくは、緩い砂層とシルトの互層とその下部に中位のレキ混
じりの砂層と更に深部の砂礫層と言った地層構成となっている。
- 11 -
一方、この地点から下流部は、表層の耕土の下層には、上部に N 値が 10 に近いレ
キ混じり砂などが分布し、下流部に進むに従って N 値が高い値を示すようになって
いる。なお SV5 から SV6 地点において火山灰土が管の埋設深さ以下に見られること
からこの区間の管体沈下は矢板施工時の土の攪乱による地盤の支持力低下に起因し
ていることも考えられる。
3.5
応急復旧管の安全性について
(参照:添付資料 14・15)
1. 漏水事故箇所の応急復旧管
(1) 漏水事故箇所の復旧については、通水の確保を優先し、鋼管による仮復旧を行っ
ている。そのため、大きな地盤沈下に対し追従できない可能性があり、安全性につ
いて検討した。
(2) 仮復旧部について、
・スラストブロックに直接鋼管が接続していることによる管体
の安全性、・一部減肉した既設管体の安全性、・管体の温度応力に対する安全性の検
討をおこなった。
(3) 検討の結果からは、当面管体の安全性は確認されたものの、大規模地震等に起因
した変位が発生した場合の安全性まで確保されているとは言えない。このため、構
造物に接続する箇所でもあり、可撓管による本復旧を検討する必要がある。
2. スラストブロックに直接鋼管が接続していることによる管体の安全性
スラストブロックに管体が直結(固定)されていることから、管体の沈下による変
位により発生する応力に対し安全性を確認する必要がある。現在の鋼管の許容応力の
範囲で許容される沈下量を求めるため試算を行い、沈下量 33 ㎜において管端部の応力
が許容の範囲となる結果が得られた。なお、沈下量 33 ㎜における鋼管の端部応力は以
下のとおりである。
鋼管の最大応力は計算結果より
Mmax
≒
4,400 KN・m
これより鋼管の管頂部応力は σ=165N/mm2<170N/mm2
OK
このときの管体横断方向荷重はスラストブロック内であるので無視できる。よって、
実際に測定されている沈下は微小であり、さらに、沈下が 33 ㎜以内であれば、管体は
許容応力を超えることはない。従って、当面管体の安全性は、確保されているものと
考えられる。
3. 一部減肉した既設管体の安全性
サンドエロージョンにより減肉している部分の強度を算定すると、以下のとおりで
ある。減肉が 4mm 程度で 15-4=11mm に減じている。減肉部分を考慮したときの管体応
力はこの部分をコンクリートで新たに巻きたてているので、巻きたてコンクリートに
より土荷重と上載荷重を受けるものとして、以下の検討を行う。
- 12 -
(1) 巻き立てコンクリートの検討
土荷重と上載荷重を巻きたてコンクリートで(片持ち梁)負担する計算を行う
と、以下のとおりである。
片持ち梁のモーメントは底版部に於いて
M=1.92
KN・m
必要鉄筋量は
As=94.6mm2
鉄筋 D13 使用のとき(奥行き 1m当り)
N=94.6/(1.27×100)=0.75 本<2.5 本(5 本/2m)
OK
(2) コンクリート巻き立て部の管厚検討
管体については、コンクリート巻き立て部は外圧がないので、内圧のみの検討
を行うと以下のとおりとなる。
設計内圧
P=1450KN/m2
管内径
D=1.5
m
内圧による管体必要管厚
t ≧
t
は
(1.5×1450)÷(2×176×1000)=0.006m=6mm
t+1.0=
7.0
<15.0-4.0 =11.0 mm(減肉した厚さ)OK
(3) 管体の温度応力に対する安全性の検討
鋼管の温度応力に対する安全性については、河川水の温度変化(25℃)により発
生する応力度は、以下のとおり鋼管の強度に比べて小さく安全である。
62N/mm2<170N/mm2
内・外面溶接
内・外面溶接
OK
スラストブロック
脱型後の復旧現場の状況( 上流から)
内・外面溶接
流れ
流水方向
ス ラス トブロッ ク補修箇所
応急復旧管詳細図
応急復旧完了状況
4. 漏水事故の原因
4.1
詳細調査から考えられる破損の原因について
(参照:添付資料 16・17)
ここでは,破損した可撓管ゴムの劣化の要因と、破損に至るメカニズムを検討し破損の
原因を明らかにする。
1. ゴム部破断の要因について
(1) ゴムの亀裂や硬度が基礎地盤の沈下に伴う可撓管の変形の大きさに応じて大きい
こと、更に水流に対面することとなる下流側が大きいことなどから、以下の因子が
- 13 -
考えられる。
エネルギー因子:機械的ストレス・・・・ひずみ、応力、砂じん
(砂利:可撓管の凹部等に 3mm 程度のものが見られた。
)
(2) 表面の殆どの部位で硬化が見られることから、以下の因子が考えられる。
環境因子:水、空気・・・・・河川水
なお、ゴムの劣化のその他の要因である、熱(ほぼ一定で常温)
、光(紫外線は当
らない)
、酸・アルカリ、油・溶剤(河川水の送水)等については、この可撓管が地
中で使用されていることから除外できるものと考えられる。
2. 破損のメカニズム
今回の可撓管の破損は、以下のようなプロセスを経て発生したものと考えられる。
(1) ゴム部のひずみの増大 → 可撓管の沈下、伸縮によるゴム部の変形
(2) ゴム部の機械的劣化
→ 水中の土砂等による打撃
(3) 微小クラックの発生
→ 砂利の衝突による劣化によりゴム表面に微細なき裂が
発生
(4) クラックの進展
→ 可撓管に大きな変位が生じていることおよび、連続的
に水圧が作用するため、微小クラックは先端の応力集
中により、時間の経過とともに徐々に進展していく。
(5) ゴム割れ(漏水)
→ クラックの進展により残存しているゴム部が、水圧に
負け一発破壊し漏水に至る。
3. 破損の原因
以上のことから、今回破損したゴム可撓管については、可撓管に許容変位量を超え
る大きな変位が生じたことにより、ゴムが劣化し、そのため発生した微少な亀裂が徐々
に増大したため、ゴム割れが発生し、ゴム破断部からの高圧水により、埋め戻し砂によ
るサンドエロージョン(サンドブラスト)現象を招き、短期間で鋼管外面から研磨された
ような状態で損傷が生じ、管体の破損に至ったものと考えられる。
①変形し引張応力によりゴム表面が劣化、
河川原水に含まれる固形物の打撃により微小クラック発生
②発生した微小クラックが管内水圧により時間の
経過で拡大し、ゴムが破断して高圧水が噴出
③サンドエロージョン(サンドブラスト)現象が発生
液体中に含まれる固体粒子の繰り返し衝突により、
材料が磨耗・損傷されること
固形物
④鋼管に穴があき漏水
- 14 -
4.2
可撓管の詳細調査と緊急管内調査のまとめ
詳細調査の結果から、破損した可撓管は、沈下等で変位しストレスを受けた状態で、
流水に含まれる土砂等による打撃などにより劣化が進行し破断に至ったことが確認され
た。
その他の可撓管の管内調査によって破損に至らないまでも、許容変位量(複合変位)
を超える偏心や伸縮が生じた一部の可撓管では、ゴム割れやクラックが生じていることが
確認された。
以上、漏水事故を契機に実施した、可撓管の管内調査、並びに損傷した可撓管の詳細
調査の結果から、大きな変位によるストレスを受けた可撓管において、クラックやゴム
割れ等が発生していることが確認された。
一方、ストレスの原因となる変位を受けた状態で流水中の固形物等による打撃等によ
って表面が劣化することにより、クラックが進行することが想定される。これらのこと
から、可撓管については、変位やクラック等の損傷の発生に注意し、必要により交換等
の対応や、定期的な点検を行い健全性を評価しておく必要がある。
5. 漏水事故発生箇所以外の点検調査結果
5.1
点検調査概要
1. 調査目的
平成 19 年 5 月 13 日に発生した福岡導水管水路の漏水事故に関する原因究明、
また、
対策工法計画策定の為の基礎資料に必要な調査と同時に施設点検整備(軽微な)を実
施する。
2. 調査項目と作業内容
(1) 可撓管は変位(水平変位、鉛直変位、ねじれ)・ゴムの変状、ゴムの傷、外観
(2) 制水弁、ブローオフ、空気弁
の点検と整備
(3) 鋼管内面塗装の外観を目視確認(錆こぶ等)並びに管路の縦断変位
3. 調査範囲と時期について
(1) 緊急点検の範囲について
導水路は約 15km と長く、全線同時の緊急調査は約 10 日の断水期間となることか
ら 2 回に分けて実施する。1 回目は、漏水事故が発生した導水路上流部約 4.0km(漏
水時調査区間 2.1km)を実施する。2 回目は残りの区間を実施する。
(2) 実施時期
1) 1 回目の実施時期
平成 19 年 6 月 12 日∼14 日
(筑後川の河川流況が良い 6 月中旬の田植え前までに緊急管内点検調査を完了
させ山口調整池の減水を早期に復水できるよう実施した。
)
- 15 -
2) 2 回目の実施時期
平成 20 年 3 月 3 日∼8 日
(当初 10 月初旬の実施を検討していたが、山口調整池の復水に必要な筑後川の
河川流況が悪化したことから延期した。)
福 岡 導 水 管 内 調 査 計 画 縦 断 図
標高(El.m)
140
凡例
地盤高
管中心線
空気弁
BO:ブローオフ
SV:手動制水弁
MV:電動制水弁
ST:サージタンク
135
130
125
120
第1回管内調査区間
115
第1回管内調査区間
第2回管内調査区間
110
105
B区間
285m
A区間
974m
100
可とう管数
東洋 1
BS 6
西部 0
95
90
85
C区間
2,124m
可とう管数
東洋 0
BS 4
西部 0
D区間
261m
可とう管数
東洋 0
BS 4
西部 0
可とう管数
東洋 0
BS 2
西部 1
E区間
2,471m
F区間
595m
G区間
1,709m
H区間
1,596m
I区間
870m
可とう管数
東洋 1
BS 0
西部 2
可とう管数
東洋 1
BS 1
西部 0
可とう管数
東洋 0
BS 4
西部 0
可とう管数
東洋 1
BS 1
西部 0
可とう管数
東洋 2
BS 0
西部 0
J区間
460m
K区間
1,852m
可とう管数
東洋 2
BS 0
西部 0
L区間
1,238m
可とう管数
東洋 1
BS 1
西部 0
可とう管数
東洋 2
BS 1
園部接合井
西部 0
80
75
SV9
鳥
栖
筑
紫
野
推
進
工
70
65
55
SV6
50
35
SV1
SV4
MV1
SV2
牛
逢
小
原
線
推
進
工
秋
光
川
↓
ST1
SV7
↓
SV5
40
SV8
↓
45
ST2
九
州
縦
貫
道
推
進
工
↓
事故箇所を含む
管内緊急点検区間
60
基山分水工
SV3
MV2
30
25
思案橋水管橋
味坂水管橋
BO5
10
5
国
道
J
R
推
進
工
西福童シールド工
実
松
川
推
進
工
BO8
BO1 BO2
0
-
5.2
BO6
BO7
BO4
25
↑
↓
15
↑
宝
満
川
↓
新
宝
満
川
20
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
3,500
4,000
4,500
5,000
5,500
BO3 6,500
6,000
7,000
7,500
8,000
8,500
点検調査の実施
9,000
9,500
10,000
10,500
11,000
11,500
12,000
12,500
13,000
13,500
14,000
14,500
(参照:添付資料 18∼30)
1. 可撓管の点検調査結果について
(1) 可撓管調査の箇所数
全 38 箇所設置されている中で、管内への侵入が困難で、近接する構造物の間にあ
り変位量が少ないと想定される 5 箇所を除く 33 箇所を調査した。
製造メーカー
ブリヂストン製(BS製)
実施箇所数 設置箇所数
20箇所
24箇所
東洋ゴム製(東洋製)
西武ポリマ製(西武製)
8箇所
5箇所
9箇所
5箇所
計
33箇所
38箇所
- 16 -
(2) 変位量調査の結果
可撓管変位量調査結果から、調査した 33 箇所の可撓管の内 12箇所(EJ2,3,4,
5,6,7,9,15,16,27,32,40-BS 製)で許容変位量(複合変位)の許容範囲を超
える変位が観測された。残り 21 箇所の内 6 箇所(EJ24-西武ポリマ製, 28,30, -BS
製,25,35,36-東洋製)は許容変位量の近くである。
変位量の大きな可撓管は、構造物間の距離が離れたところに設置されたものが殆
どである。構造物間が 3m 未満では大きな変位は観測されていない。しかし、1 箇所
(EJ9-BS 製)では許容変位量以上の水平変位が観測されている。
対象可撓管数
変位量状況
許容変位量の範囲以上のもの
12箇所(BS製-12) 許容変位量付近にあるもの
許容変位量の範囲以内のもの
6箇所(BS製-2、東洋製-3、西武製-1)
15箇所(BS製-6、東洋製-5、西武製-4)
計
33箇所(BS製-20、東洋製-8、西武製-5)
(3) 目視調査による損傷状況の結果
1) 可撓管ゴムの損傷の程度は、下記区分で取りまとめた。
・ゴム割れ(ゴムが変形し断面方向の連続性が
無くなり一部切断され深さ 5 ㎝未
満のくさび状にゴムが割れている
状態、漏水箇所のゴム破断の前段
の状態。
)
・クラック(ゴムが変形し断面方向の連続性は
保たれているがその表面にクラッ
クが 1 ㎝未満発生している状態)
・ヘア−クラック(ゴム表面が髪の毛状の細か
いクラックが多数発生し
ているもの)
- 17 -
・クボミ(ゴム表面が約直
径 5mm、深さ数
mm 程度のクボミ
が出来ているも
の)
・発錆び(ゴム端部と鋼管部の境界部に錆が発
生している状態)
2) 調査した 33 箇所の内、3 箇所(EJ5,27,16 破断箇所含む-BS 製)で下流側底部の
ゴム割れが見られ、EJ27 では亀裂(幅約 1.0m、深さ最大 3.5 ㎝)が大きく、さら
に進行すればゴム破断の可能性があることが確認された。
この他、3 箇所(EJ2,6,15-BS 製)で底部のクラック、1箇所(EJ30-BS 製)で上
部にクラック(幅 10 ㎝、深さ 1 ㎝)
、2 箇所(EJ7,8-BS 製)で底部のクボミ・ヘア
ー ク ラ ッ ク 、 2 箇 所 ( EJ4,6-BS 製 ) で 上 部 の ク ボ ミ 、 11 箇 所 ( EJ22,23,
28,29,31,32,39,40 -BS 製,24,41,42-西武ポリマ製)でゴム凹の全周にクボミ、がそ
れぞれ確認された。
更に東洋ゴム製の可撓管では 5 箇所(EJ26,33,34,35,36-東洋製)でゴム端部と鋼
管部の境界部に発錆が見られたが、3 箇所(EJ25, 37,38-東洋製)には軽微な錆び
があるのみで全周には錆は見られなかった。また、この 8 箇所(東洋製)のゴムに
はクボミ等は確認されなかった。
このように、33 箇所中 22 箇所で主に下流側の管底部にクラックやクボミ等があ
り、11 箇所は何も確認されなかった。なお、可撓管 EJ7 など、BS 製可撓管の凹部に
10mm 程度の貝や 3mm 程度の土砂が溜まっているのが確認されている。
可撓管ゴム損傷状況
ゴム割れ
クラック
クボミ・ヘアークラック
クボミ
発錆(ゴムと鋼管の境界部)
損傷なし
計
対象可撓管数
3箇所(BS製-3)(EJ5,27,16破断箇所含む)
4箇所(BS製-4)(EJ2,6,15,30)
2箇所(BS製-2)(EJ7,8)
13箇所(BS製-8、西武製-5)
6箇所(東洋製-6)
5箇所(BS製-3、東洋製-2)
33箇所(BS製-20、東洋製-8、西武製-5)
- 18 -
3) 確認されたクラック等(BS、西武製)の補修について
・各損傷に対する補修は、可撓管の損傷状態に応じて、①5 箇所(EJ5,6,15,27,30
−BS 製)はゴム充填+補強帆布+カバーゴム②1 箇所(EJ2−BS 製)は補強帆布+
カバーゴム③8 箇所(EJ28,29,31,32,39,40−BS 製)はカバーゴム④2 箇所(EJ4,5
−BS 製)はゴム充填を実施した。
また、2 箇所(EJ41,42−西武製)はゴム厚があり軽微であることから補修は実
施しなかった。
・補修はあくまでも損傷を受けたゴムの損傷を拡大させないための応急処置であ
り、すみやかに恒久的な処置を行うことが必要である。
4) ゴムのクボミの発生原因とその対策について
① 発生の要因としては、流水中の固形物(貝殻、細石等)によるゴム表面にカッ
ト傷が付き、経年によりゴム劣化とその後の継続的な「水中の土砂等による打撃
(サンドブラスト現象)で拡大し丸みを帯びた。もしくは、水中微生物の浸食等に
よるものと考えられる。今回のクボミは形状から見てこれらの発生要因が複合的
に作用した出来たものと考えられる。
(メーカーの文書回答から)
② クボミ発生防止対策については、クボミの発生要因から水流方向に対し衝突す
る形状の場合、発生については避けられないと考えられる。現状のクボミについ
ては、西武ポリマ製の可撓管では、ゴムの厚さから構造上問題が生じないとされ
ており、ブリヂストン製については、カバーゴム貼付け等を行うことで、クラック
の発生を抑制すると共にクボミ代を増やすという応急処置が考えられるとしている。
また、流れに対して平滑な東洋ゴム製の可撓管では発生していないことから、
構造上で可撓性を妨げない方法で内面を平滑にすることも考えられる。
(参考)
・西武ポリマのコメント
「クボミの深さが 2mm 程度であり、可撓管のゴム厚からすれば補強コード
層及び補強リングまで 15mm∼20mm の距離があることから特に問題は無い
と考えられる。納入当時の内面ゴムは天然ゴム系を標準としていたが、現
在は合成ゴム(スチレン・ブタジエンゴム系、エチレン・プロピレンゴム
系)としているので、天然ゴムと比較して耐候性、耐薬品性、耐オゾン等
は向上したゴム体質となっている。
また、内面溝部を平滑にして耐摩耗性の向上を図ることが対策として考
えられる。
」
・ブリヂストンのコメント
「クボミ発生を防止する抜本的な対策は無いと考えられるが、今回の補修でも
採用したカバーゴム貼付け等を行うことで、クラックの発生を抑制すると共に
クボミ代を増やすという応急処置は可能と考えられる。」
- 19 -
5) 可撓管端部の発錆について
「可撓管ゴムと鋼管の接着境界部では、鋼管の内面塗装をゴム部分にも 5mm 程度
塗布されている。境界部分ではゴムの変位によって塗膜が割れ、この部分の鋼管
端部に錆が発生したものと推定される。錆の状況からは、境界部の接着層そのも
のが破壊された状態ではなく、現況では問題のない範囲と考えられる。
」とメーカ
ーから報告を受けているが、変位量が許容以上であり、過去に EJ1 において同様
の部位で漏水事故が発生していること、今後の変位等により錆がゴム/金属接着境
界面の深部へ進行もしくははく離等の発生により漏水につながることも想定され
ることから、定期的に点検し確認する必要がある。
6) 点検調査で確認された可撓管の損傷箇所の対応
これまでの点検により損傷が確認されたものについては、クラックへのゴム充
填、補強帆布貼付によるクラック進展防止、カバーゴム貼付による補強層保護等
の補修を行ってきた。この補修については、当面、表層の損傷拡大防止となるも
ので、応急的な範囲にとどまるものであり、恒久的に安全を保証するものとなっ
ていない状況である。そのため、補修を実施したものについては年 1 回程度毎に
点検等を実施し、安全の確認を行う。
なお、これらの施設については、基本的には、許容を越える変位を示しており、
地震動による変位に対し対応出来ないことも考えられることから、大規模地震へ
の耐震性確保の観点からも取り替えを検討する必要がある。
EJ5 可撓管クラック補修前
EJ5 可撓管クラック補修後
2. 鋼管の管内調査結果について
(1) 鋼管の管内調査結果
1) 調査結果について
鋼管の状況を確認する目的で実施した管内調査において、鋼管の変形、内面塗
装状況、管の沈下状況を調査した結果、管のたわみは全て設計値内であった。内
面塗装については、№60+60 付近では楕円形(40 ㎝×20 ㎝)に内面塗装が剥離しさ
びているのが確認され、№135+94 付近では円形で直径約 10 ㎝程度の塗装のふくれ
が確認された。また、№117+75 付近、№121+47 付近でも塗装の剥離が確認された。
- 20 -
また、前回と同様に管内面全体に付着物が約 1∼2mm 程度張り付いていた。さら
に、思案橋調圧水槽の分岐管に貝と土砂の堆積が見られた。なお堆積物について
は、大量であったことから調査の期間内に撤去した。
AV-23 上流部内面塗装剥離状況
ST-1 連絡管内状況(二枚貝、巻き貝)
2) 鋼管内面の発錆
№60+60 付近で確認された底部の発錆については、管製造時の溶接に沿って発
生していた。当該の錆についてはケレン等を行った結果、表面が一様に錆びたも
ので、0.5mm 程度薄くなっているところが見られたが、深い損傷にはなっていな
かった。このため、応急的に水道用エポキシ樹脂塗料を塗布した。
3) 管内面のふくれ、剥離対応について
その他、確認された管内部の塗装のふくれ、剥離についてはケレン後に水道用エ
ポキシ樹脂塗料を塗布する補修を行った。
4) 調査実施における今後の課題について
なお、管内調査については管内の勾配により排水が困難な箇所(AV33 下流部)
、
制水弁からの漏水により排水が困難であった箇所(AV40 下流部)について、調査
を断念せざるえない箇所があり、今後、定期的な点検調査を計画する上では、作
業時間の短縮のためにも、排水施設の増設などの検討が必要である。
3. その他施設点検結果
その他施設の(1)空気弁、(2)制水弁、(3)排泥施設については、損傷等は見られなかった
ものの、機能性の点から施設周辺の構造について検討する必要性が確認された。
(1) 空気弁
空気弁設備について異常は見られなかった。
なお、弁室が狭隘で作業が困難であった。特に人孔フランジの開閉作業において、
工具を取り回すスペースがないなど、弁室拡張の検討が必要と考えられる。
また、マンホール蓋の径が小さくフランジが搬出できない箇所についても、改造
を進めていく必要がある。
- 21 -
(2) 制水弁
止水した 3 号制水弁、8 号制水弁とも漏水が見られた。点検の結果では、扉体と
弁本体の接合する扉体のシート面については 7 カ所中 1 カ所で腐食による直径 2 ㎝
程度の損傷が見られ、金属パテによる補修を行った。そのほか
ゴミ等の張り付き
が見られたが清掃を行った結果異常は見られなかった。扉体全般については、軽微
な発錆は見られたものの、機能上の問題は認められなかった。
なお、制水弁室について、内部に安全施設(足場、吊具)が設置されておらず弁
室内の作業が非常に危険であり、今後設置を検討する必要がある。また、弁体の動
作が重い状況から減速機グリスが劣化していることが推測されるため、今後、分解
点検およびグリス交換を検討する。
(3) 排泥施設
長年動かしていないことから、固着してなかなか動かない箇所があった。
なお、副弁が無いことから、通水中の動作確認が困難なうえ、漏水時のバックア
ップが無いため、副弁増設の検討が必要である。
山口川サイホンブローオフ固着状況
6. 可撓管の対策
(参照:添付資料 16・17・31)
6.1 可撓管の課題
1. 可撓管について
漏水箇所の可撓管破損原因は、不等沈下により許容以上の沈下・伸縮変位が発生し、
ゴムに引っ張り応力(ストレス)が発生するとともに、流水中の固形物による打撃等
による劣化によりゴム表面の微細な微少クラックが発生し、この微少クラックが可撓
管の変位と連続的な高水圧の作用で、時間とともに徐々に進展しゴム深部に進行して
ゴムが破断したものと考えられる。
なお、漏水事故については、ここでできたゴムの空隙より噴出した高圧の水による、
サンドエロージョン(サンドブラスト)現象により鋼管が摩耗し穴があき発生したも
のと考えられる。
- 22 -
可撓管は、大きな変位が発生した場合には、応力並びに砂利の衝突や溶存酸素によ
る劣化によりゴムが破断することが確認された。
漏水事故時及び管内点検調査並びに過去の事故歴調査の結果から、可撓管は 33 箇所
のうち 12 箇所(36%)が許容変位(複合変位)をオーバーし、21 箇所は許容変位内であ
った。許容変位を越えた 12 箇所うち、10 箇所(漏水箇所含む)で「ゴム割れ、クラ
ック、クボミ、錆」が確認された。1 箇所は漏水事故発生し、止水バンド工法で恒久
対策を実施していることが確認された。残りは損傷無し。
許容変位内の 21 箇所には、1 箇所で「クラック」
、10 箇所で「くぼみ」が確認され、
残りは損傷無し。
クラック、くぼみ、錆等のある可撓管は、28 箇所で今回調査した 8 割であり、約 4
割が許容変位量をオーバーしていた。基本的に構造物(杭基礎による不沈下)と構造
物との距離が大きい箇所では、可撓管の許容変位量を超えている。これは、ある程度
の埋設管距離があるため、埋設管が地盤沈下等の影響を受け可撓管に大きな変位(沈
下および伸縮)が生じたものである。
「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」より、可撓管変位仕様決定に当たっては、
常時荷重と地震荷重を考慮して、変形性能の安全率を 1 以上確保しなければならない
が、既設可撓管で安全率が確保されていないものがあることを確認した。
2. 可撓管の安全率について
ここで、前述の技術資料の安全率(1 以上)は、水道施設に使われる全ての材料を
対象にしているのではなく可撓管の変位を対象としたものである。地震時や常時の可
撓管に働く軸直角方向(沈下)・軸方向(伸縮)・捻じれを複合的に考え、想定される
変位量に対して変形性能が取るべき値を示したものである。
沈下などの定常的な変位と地震時の瞬間的な変位で耐力への影響を考えれば、破損
するような大きな変位を除き、瞬間的に大きく変形しても復元し、結果的に小さな変
形で収束する一時的なものについては問題は小さいと考えられる。
また、現状で許容値に近い可撓管について、構造等により異なるが許容範囲を超え
ているから直ちに破壊することはないと考えられる。
しかしながら、安全範囲の可撓管においても、今後、材料であるゴム等が時間の経
過とともに劣化することを考慮すれば、時間の経過に合わせ定期的に点検を行い調査
する必要がある。
3. 許容変位以上及び損傷のある可撓管対策について
可撓管の調査結果から、複合変位が許容以上の可撓管、また可撓管のゴムにクラッ
ク、くぼみ等がある可撓管は、応力並びに流水中の固形物による打撃等によりゴムが
劣化し、ゴム部の破断が予見されることから、これらの可撓管は取り替える必要があ
る。また、未調査区間で同様な変位が想定される可撓管も取り替える必要がある。
- 23 -
4. 大規模地震対策について
兵庫県南部地震等の大規模地震の経験により可撓管の耐震性能の重要性が改めて注
目されてきたことから、可撓管の変位仕様の決定に当たっては、常時荷重と地震荷重
の両方を考慮する必要がある。
なお、当導水路施設は、兵庫県南部地震を契機に改訂される以前の設計であり、地
盤の沈下による変位量のみを考慮するにとどまっている。更に、大規模地震時に発生
のおそれがある河川護岸近傍地盤の大きな水平移動や、液状化等により発生する地盤
変状による変位仕様の検討がなされていない。
以上のことから、取り替える可撓管は耐震構造とする必要がある。
(参照:添付資料 32)
6.2 可撓管の取替
1. 基本的な考え方
可撓管を取り替えるにあたり、留意すべき事項を下記のとおりとする。
・変形の状態が、①許容変位量(複合変位)の許容範囲を超える変位が確認されたも
の。②許容変位量に近いもの。
・変形状態は許容範囲内ではあるが、ゴム割れ、クラック、クボミとヘアークラ
ック、クボミが確認されたもの。
・過去に漏水事故が発生したもの。
・大規模地震対策を考慮し必要なもの。
なお、経年的な劣化について、調査点検等を行い、状況を把握する。
2. 取り替える可撓管の決定について
上記に示す基本的な考え方や新たな耐震設計手法等も考慮し、整備計画等を取りま
とめ、関係利水者の意向も踏まえ総合的に検討し決定するものとする。
6.3
地震対策
(参照:添付資料 33∼41)
兵庫県南部地震等の大規模地震の経験により可撓管の耐震性能の重要性が改めて注目
されてきたことから、可撓管の変位仕様の決定に当たっては、常時荷重と地震荷重の両
方を考慮する。
また、平成 17 年に発生した福岡県西方沖地震は、大きな地震の記録がないこの地域では、
有史以来初の大地震となり、さらに、平成 20 年 4 月の地震調査委員会による「警固断層帯
(南東部)の地震を想定した強震動評価」において、
「今後 30 年以内の地震発生確率は、0.3
∼6%と我が国の主要活断層帯の中で高いグループに属することになる。」とされている。
以上のことから福岡導水の可撓管取り替えにあたっては、耐震性能を有する必要がある。
1. 福岡導水路、路線の地質評価
(1) 地質性状の検討
・ 福岡導水管路全体の地質性状を把握するために、設計・施工段階での調査結果
- 24 -
を確認する。
・ 福岡導水では、昭和 52 年度から実施された工事に先立ちボーリングによる地質
調査が実施されている。この結果を基に、地質性状の代表断面として、地層の
構成をもとに 4 系統に区分することとする。
① No.3 付近∼思案橋付近
表層付近から深度 20m 程度まで砂層と砂礫層が互層に分布する。
② 始点部,思案橋∼福童地区付近
表層からは粘性土層が 5m 程度分布し、その下層に一部シラス層を介在し、砂
層及び砂礫層が互層に分布する。
③ 福童地区∼西福童地区付近
表層の粘性土層は、1m 程度と薄くなり、砂層が主体となる。砂層の下部には、
洪積の火山灰層が 3m 程度分布する。火山灰層の下部は、粘性土と砂が互層と
なっている。
④ 基山地区∼終点部
表層から 5m 付近まで分布する砂層が徐々に礫を含み、砂礫層が主体となる。
砂礫層の下部は、洪積の火山灰層及び砂礫層となる。洪積の火山灰層及び砂礫
層は徐々に薄くなり、基盤岩である風化花崗岩となる。
①断面
②断面
粘性 土層
砂 層
砂 層
砂 礫層
砂礫層
砂 層
シラス層
砂 層
砂 礫層
砂礫層
③断面
④断面
粘性土層
砂層∼ 砂礫層
砂 層
火山灰層
砂礫層
火山灰層
粘性土層
砂 層
粘性土層
砂 層
粘性土層
- 25 -
風化花崗岩
2. 地盤の地震に関する検討
(1) 算定における条件
地震時の変状予測は、1)地震動による地盤の変位,液状化による地盤の変位とし、
算定に必要となる定数は以下のとおりとした。
1) 変位は、可撓管の選定のための指標であるため「可撓管技術資料(日本水道鋼管
協会)」の示す算定方法を用いる。
2) 地震動による変位算定における地盤の強度は、代表 4 系統に区分した各地区で実
施された地質毎の標準貫入試験の N 値を平均したものとする。
3) 液状化による変位算定における地盤の強度は、同じ地層内で軟弱層がある場合そ
こが弱点となって液状化が発生する可能性がある。従って、ボーリング調査が実
施された各標高毎の N 値を基に検討する。
4) 液状化対象層の判定及び補正 N 値算定に必要となる細粒分含有率 Fc は、試験結
果も少ないため各地層全体の評価として平均値を採用する。
5) 地震動レベル 1,2 それぞれの設計水平震度は、下表のとおりとする。
※:地震動レベル 2
は、上限と下限が設
定されているため、
ここでは下限値を採
用することとする
(道路橋示方書に示
す標準値)
「水道施設耐震工法指針・解説
平成 9 年版(日本水道協会)」より抜粋
3. 地震動に対する検討
計算結果は、以下のとおりとなり、表層基盤の厚さが約 15m 以上となる区間では、
70 ㎜程度の水平振れ幅が予想される。
断面
区分
表層厚
①
②
③−1
③−2
④−1
④−2
④−3
№3付近∼思案橋付近
思案橋付近∼福童地区付近
福童地区∼西福童地区付近1
福童地区∼西福童地区付近2
基山∼終点部1
基山∼終点部2
基山∼終点部3
14m
16m
21m
22m
20m
10m
10m
- 26 -
設計変位
レベル1 レベル2
9.0㎜
71.4㎜
8.9㎜
74.9㎜
10.0㎜
85.5㎜
9.3㎜
79.4㎜
8.2㎜
62.2㎜
3.2㎜
14.8㎜
2.8㎜
11.4㎜
4. 液状化に対する検討
(1) 液状化の判定
液状化の判定は、
「水道施設耐震工法指針・解説
平成 9 年版(日本水道協会)」に
準拠し行った。
○ 始点∼No.3 付近
始点から No.3 までの範囲は、表層付近粘土層より下層の砂層が N 値 6 程度で
あるため、思案橋∼福童地区付近と同様で液状化を起こす可能性がある(検討結
果は 2)思案橋∼福童地区付近を参照)。
○ No.3∼思案橋付近
思案橋水管橋調査で実施したボーリングのうち、
上部に砂層が厚く分布する範
囲(N 値 6 程度の部分)で液状化が発生する結果が得られた。その層厚は、レベル
1 で 3m,レベル 2 で 5m である。
○ 思案橋∼福童地区付近
表層の粘土層下の砂層の N 値 3 の付近において、
液状化が発生する結果が得ら
れた。その層厚は、レベル 1,2 ともに 1m である。
○ 福童地区∼西福童地区付近
シールド工始点付近では、
表層付近の砂層において液状化が発生する結果が得
られた(N 値 4∼13 の範囲)。その層厚は、レベル 1 で 1m,レベル 2 で 4m である。
シールド終点以降では、沖積層で液状化は起きないが、洪積層の弱部(N 値 12 の
砂層)で液状化が発生する結果が得られた。しかしながら、この液状化層と沖積
層の間には、
洪積の粘性土層が 4m 程度分布しており、仮に液状化を起こしても、
表面付近に影響する可能性は低いと判断される。
(2) 液状化による変位の算定
液状化による変位の算定には、
「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」のほか、
「下
水道施設の耐震対策指針と解説 2006 年版(日本下水道協会)」「土地改良施設の耐
震設計の手引き 平成 16 年 3 月(農林水産省構造改善局)
」などに算定式が示されて
いる。これらを福岡導水に適用すると「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」によ
るものが大きな値を示す。その他については、平成 16 年度と近年の知見を反映して
いると考えられ、液状化層厚の 5%程度が生じるとしている。これらのことから、
福岡導水において、液状化を考慮する際の沈下量の算定には、液状化層厚の 5%を
見込むものとする。
断面
区分
①
№3付近∼思案橋付近
②
思案橋付近∼福童地区付近
③−1 福童地区∼西福童地区付近1
③−2 福童地区∼西福童地区付近2
④−1 基山∼終点部1
④−2 基山∼終点部2
④−3 基山∼終点部3
設計変位:0.05×H
- 27 -
レベル1
液状化
設 計
層厚(H)
変 位
3m
150㎜
1m
50㎜
1m
50㎜
レベル2
液状化
設 計
層厚(H)
変 位
5m
250㎜
1m
50㎜
4m
200㎜
非液状化
6.4
可撓管の仕様
(参照:添付資料 39・41・42)
1. 可撓管の仕様の検討
取り替える可撓管の仕様について、その必要性も含め検討を行い、近年発生した福
岡県西方沖地震等や、福岡都市圏の水供給に大きな役割を担う施設としての役割を果
たせるよう施設全体としての安全性を高める事を目的に検討を行うものとする。
2. 可撓管選定における変位仕様
(1) 沈下性状に対する変位仕様の考え方
福岡導水における地盤の沈下による変位仕様については、①広域的な地盤の沈下
による変位,②地盤の圧密沈下による変位、③施工による変位について検討を行っ
た。
①については、近年収束傾向にあること、②については、施工から 20 年以上経過
しており、現状で圧密は収束していると考えられ、取り替えによる荷重増加も見込
まれないこと、③については、鋼矢板の存置等、施工上で対応可能なことから可撓
管の変位仕様に影響を及ぼすことはないと判断される。
なお、局所的には近接する工場等による地下水くみ上げについては、注意し、最
終的な仕様の検討を行うものとする。
(2) 地震に対する変位仕様の考え方
福岡導水における地震による変位仕様については、①地震動による変位、②地盤
の液状化による変位、について検討を行った。
なお、地震に対する検討では、下記の条件を用いた。
1) 福岡導水は、筑後平野の沖積層に敷設されており、H17 福岡県西方沖地震の発生
時には、震度 5 が記録されている。したがって、可撓管の選定に際しては、地震
動レベル 2 まで見込むこととする。
2) 地震動による変位は、可撓管の選定のための指標であるため、「可撓管技術資料
(日本水道鋼管協会)」の示す算定方法を用いる。
3) 液状化による変位の算定には、「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」のほか、
「下水道施設の耐震対策指針と解説 2006 年版(日本下水道協会)」「土地改良施設
の耐震設計の手引き 平成 16 年 3 月(農林水産省構造改善局)
」などに算定式が示さ
れている。これらを福岡導水に適用すると「可撓管技術資料(日本水道鋼管協会)」
によるものが大きな値を示す。その他については、平成 16 年度と近年の知見を反映
していると考えられ、液状化層厚の 5%程度が生じるとしている。これらのことか
ら、福岡導水において、液状化を考慮する際の沈下量の算定には、液状化層厚の 5%
を見込むものとする。
(3) 変位仕様の決定
福岡導水施設の可撓管の変位仕様は、取り替えであることから、地震時に発生す
る、地盤変動による変位と液状化による沈下を考慮し決定する。
水平変位については、地震動による変位を見込むものする。
- 28 -
沈下については、液状化区間において、液状化による地盤変状による変位を見込
むものとする。
(㎜)
断面
①
②
③−1 ③−2 ④−1 ④−2 ④−3
今後沈下は小さいことから考慮しない
沈下性状による変位
地震動による変位
レベル2 71
66
86
79
62
15
11
非液状化
液状化による変位(沈下) レベル2 250
50
200
6.5
可撓管の型式選定
(参照:添付資料 43∼45)
1. 選定に当たって考慮すべき事項
可撓管の型式選定においては、①摺動型②ステンレスベローズ型③スチールベロー
ズ型、④ゴムベローズ型、⑤摺動型(カバー型)などの型式の中から、要求される変
位仕様、現地の状況や変位状況により適切に選定するものとする。
(1) 変位仕様
可撓管の選定に当たっては、変位仕様を満足する規格はそれぞれの機種により異
なることから、変位仕様に適合する適切な機種を選定するものとする。
(2) 現状の変位状況
現状の変位状況により、可撓管を水平に配置する場合の乙字管を設置する必要が
ある。その際①摺動型については変位の規格の大きなものを設置し乙字管を省略で
きる場合がある。
(3) 施工工程
工事に要する日数については、管内の排水並びに充水に要する期間を考慮し 7 日
程度となるものと考えられる。この間、福岡導水の送水が停止することとから、制
水弁の増設等他の条件で送水停止となる場合を除き、不断水工法となる⑤摺動型(カ
バー型)の採用について、断水による効果にも配慮し検討を行う。
6.6
設計・施工上の留意点
(参照:添付資料 12・13・46・47)
1.地盤の沈下
(1) 沈下性状の検討
1) 路線の広域的な沈下
福岡導水管路は、筑後平野北部に位置している。本地域は、沖積粘土層(有明粘
土)が表面に分布しており、含水比が高く極めて軟弱であることや、地下水位によ
る水位低下のため地盤沈下が生じやすい地質となっている。
このことから、導水路線の一部は昭和 60 年の「筑後・佐賀平野地盤沈下防止等
対策要網」で指定を受けた地域に属する。福岡県下でのこれまでの地盤沈下は最
大 750 ㎜,近年 5 年間の最大沈下は 52 ㎜であるが、いずれも比較的有明海に近い
地域であり、導水路線に最も近い久留米市内の観測井では、累積沈下 49mm,近年
は、年間 2mm 程度の沈下である。
広域的な沈下は、収束状態にあるといえる。なお、局所的には、近接する工場
等による地下水くみ上げ等について注意を要する場合がある。
- 29 -
2) 圧密沈下
地質性状により区分した代表 4 断面より、圧密沈下量の算定を行った。地質性
状の違いによる圧密沈下計算結果は、以下のとおりである。沈下量は、上層が粘
性土の場合に大きくなる傾向にある。
区分
①断面
②断面
③断面
④断面
圧密沈下
60㎜
100㎜
50㎜
40㎜
3) 今後の影響
圧密沈下は、可撓管取り替え施工後を現況復旧としていることから、上載荷重
の増加がないため、圧密沈下の影響は低いと考えられる(当初の施工から 20 年以
上経過しており圧密沈下は、ほぼ収束している)。
2. 施工に伴う沈下
(1) 矢板の引き抜き
実施工は、鋼矢板による土留め施工が行われており、管敷設,埋戻し後に引抜き
を行っている。鋼矢板は、引抜きの際に土砂が付着することが予想され、粘土層に
おいてはその影響が大きいと予想される。
管埋設の状態を以下のとおり推定し、矢板引抜きに伴う地盤沈下量を推定すると、
最大で 58 ㎜程度となる
(引抜き時の鋼矢板への付着を上表より粘性土 30mm,砂質土 20mm,矢板延長を 9m
として算出)。
Dmax
すべり面の影響範囲b2
(鋼矢板引抜き)
鋼矢板の引抜きに伴う地盤沈下面積Vs
粘性土
45°
鋼矢板引抜き跡空隙Vp
砂質土
Vs=Vp
45°+φ/2
- 30 -
(2) 沈下性状の総合評価
福岡導水施設は、昭和 58 年に完成しており、現在までの管路周辺地盤沈下は、最
大で観測値とほぼ同様の 50 ㎜程度(久留米市観測井)と考えられる。また、圧密沈下
は砂質土と粘性土での違いはあるが 40∼100 ㎜程度の数値が見込まれる。
これらの結果から、始点に近い位置での粘性土への埋設区間では、最大で 150 ㎜
程度の沈下が想定される。このことに加え実施工は鋼矢板による土留工で行われて
おり、引抜き時の土砂付着による空隙の発生の程度により沈下が進行する可能性も
ある。特に粘性土ではその影響が大きいと考えられる。これまでの実測結果を見て
も粘性土層に敷設してある区間での変位量が比較的大きい結果となっている。
広域的な沈下
圧密沈下
施工に伴う沈下
合計沈下量
計算値
49㎜
100㎜
58㎜
207㎜
実測の
最大値
190㎜
(3) 今後の影響
今後の可撓管取り替えに対しては、以下の点を考慮することとする。
1) 地盤沈下は、近年福岡県内での観測値の最大が 12 ㎜、久留米市観測井の沈下
は平成 16∼17 年で 2mm 程度である。今後は地下水の利用も減少することが予想
されるため、地盤沈下の影響は低いと考えられる。なお、工場等による地下水
くみ上げ等について注意する必要がある。
2) 矢板引抜きによる沈下は、引抜き時に常に発生するものと考えられる。本計画
においても仮設矢板を計画していることから、ある程度の沈下が発生すると予
想される。矢板引抜きの影響は土質によっては上記参考値よりも大きくなるこ
とも予想される。したがって、本計画では仮設矢板を存置、もしくは、必要に
より矢板施工以外の施工方法を検討する。
<参考:付着厚を変化させた場合の最大沈下予測>
付着厚
沈下量
付着厚
沈下量
1㎝
34㎜
6㎝
106㎜
2㎝
48㎜
7㎝
120㎜
- 31 -
3㎝
62㎜
8㎝
134㎜
4㎝
77㎜
9㎝
149㎜
5㎝
91㎜
10㎝
163㎜
7. 併せて講ずべきハード対策
7.1
ハード対策の考え方
福岡導水は、福岡都市圏等の不可欠な水道水源施設として、これまで断水することが
できず、施設の定期的な点検等も必ずしも十分とは言えない状態であったことが、本件
漏水事故の一因である。これに対応するため、今後は山口調整池を有効に活用しつつ、
定期的に管内の点検等を行い、事故の発生を未然に防止することが必要である。そのた
めには、代替水の確保、管水路の排水・充水時間の短縮等を図り、水道用水の安定供給
に大きな影響を与えることなく点検が可能となるよう必要な施設・設備の設置が必要で
ある。
なお、新たな施設・設備の設置にあたっては、福岡導水施設の安全性、安定性の向上
が図れるよう十分な検討を行うと共に、コスト、使用頻度等を考慮し、関係利水者の意
向も踏まえ、適切に計画するものとする。
7.2
点検や「危機管理対策としての緊急送水停止措置」並びに「緊急時の早期機能回復」
のために必要となる施設
(参照:添付資料 48∼50)
1. 管水路部点検施設
今回の漏水事故時の基山分水への原水供給は、他の水源から緊急補給を受けること
ができた。
また、第 1 回点検時は 1 号トンネル内に予め貯留するなどにより対応した。しかし、
今後は、事故時や点検時に他の水源からの補給を受けられないことも想定されること
から、基山分水工へ原水を供給し、且つ管水路の点検が可能な施設が必要となる。
このため、基山分水工から上流部と下流部に区分し、下記の点検用施設を設置する。
(1) 基山分水工から上流部の点検・事故の場合の施設
(2 号トンネル上口にゲート設置)
基山分水工から上流部の点検・事故の場合は、福岡導水揚水機場から送水ができ
ないことから、2 号トンネル上口に新たに設置するゲートを操作して、点検時は 1
号トンネルと山口川サイホン内に予め原水を貯留することにより、1 号トンネルを
介して基山分水に供給する。
(2) 基山分水工から下流部の点検・事故の場合の施設
(制水弁と分水工の設置)
基山分水工から下流部の点検・事故の場合は、上記施設での供給が不可能なため、
基山分水工の直上流に制水弁と分水工を追加して既設基山取水管(φ350mm)に連結
する。また、福岡導水揚水機場に新たに設置する管内点検用バイパス管又は充水用
ポンプを利用して、基山分水量を送水し新設分水工から供給する。
2. 管水路の通水及び停止期間の短縮施設の設置
(1) 管水路の排水時間短縮等の施設
漏水事故への対応、以降の点検において、排水作業に多くの時間を要することが
- 32 -
明らかになった。制水弁と制水弁の間に排水施設がない区間、区間距離が長く平坦
で1カ所では排水時間が長くなる区間、縦断線形により排水が困難となっている区
間などに排水施設を増設することにより排水時間の短縮を図る。
また、現状で手動となっている制水弁については電動化し操作に要する時間の短
縮を図る。
(2) 管水路の充水時間の短縮施設
福岡導水揚水機場のポンプは高揚程のため最小流量が 0.5m3/s 以上となっており、
適切な充水流量 0.2m3/s の送水が不可能である。このため、ポンプ設備にバイパス
管、又は充水用ポンプを設置して充水時間の短縮を図る。
3. 備蓄資材の充実
今回の漏水事故の復旧にあたっては、備蓄していた鋼管によりすみやかな通水確保
が可能となった。量的に運用期間が限られる山口調整池の他、単線で代替の送水施設
を持たない、福岡導水にとって必要なものとして資材の備蓄が行われてきた。今後と
も継続的に備蓄鋼管を整備しておくとともに、その他、想定される事故に対応する資
機材の備蓄について積極的に取り組み、事故への即応能力の向上を図る。
8. ソフト対策
8.1
管水路の定期的な点検
今後の点検計画については、送水を停止し行う管内調査と、補完的に行う外面調査を
効率的に組合せて行う必要がある。
なお、取り替えた可撓管については、沈下測定可能な施設(沈下棒等)を設け、変状
等が把握可能な方策を採ることにより、内部的な調査の頻度を軽減することが可能と考
えられる。
以上の点を考慮し、5 カ年毎程度の管内点検(定期点検)と、毎年行う沈下計測等の
補完的な点検(日常点検)によることが望ましい。点検実施にあたっては、関係利水者
や関係機関と充分に調整の上、点検計画を定める。なお、管内定期点検の実施にあたっ
ては、追加する制水弁・バイパス等を有効に利用し短期間に排水・充水可能な範囲とな
るよう 3km 程度を目途に 5 分割し、輪番的に 5 カ年で一巡する計画で実施することとす
る。
なお、期間等については、施設の状況を把握し、適宜見直しを行うものとする。
1. 調査項目と作業内容(定期点検時)
・可撓管は変位(水平変位、鉛直変位、ねじれ)
・ゴムの変状、ゴムの傷、外観
・制水弁、ブローオフ、空気弁
の点検と整備
・鋼管内面塗装の外観を目視確認(錆こぶ等)並びに管路の縦断変位
・施設の軽微な補修
- 33 -
8.2
可撓管の管内現地調査マニュアル(案)
(参照:添付資料 51)
福岡導水漏水事故後に可撓管の管内調査を実施した結果、可撓管の大きな変位量とゴ
ム表面のクボミ、クラックの発生が確認された。この他、漏水事故で破断した可撓管ゴ
ムの室内試験結果からゴム表面に引張応力が発生した部分のゴム硬度が非常に高く、微
少なクラックが確認された。このことから、今後管内調査を実施する場合に、可撓管の
変位量、ゴムの変位量、ゴムの損傷状況、ゴムの硬度測定方法等の調査手法について取
りまとめ、同一な方法で調査、試験、取りまとめを可能にするためにマニュアルを作成
する必要がある。
8.3
福岡導水漏水事故対応マニュアル(案)
(参照:添付資料 52)
福岡導水の漏水事故発生時に適切な対応を図れるようマニュアルを作成する必要があ
る。
9. おわりに
福岡導水施設は、筑後川からの取水により、福岡都市圏(230 万人)の水道用水の約 1/3
と、佐賀県基山町(1.9 万人)の水道用水全量を供給している。この地域の水道用水の安定
的な供給を図る基幹施設であり、ひとたび断水すれば、極めて深刻な影響を及ぼすことが
懸念される重要な施設である。さらに、近年、この地域は、東アジアの窓口として大きな
役割を担っており、安定的な水供給への要請はさらに大きなものとなっている。
また、福岡県西方沖地震の経験やその後の調査により大規模な地震の発生が想定され、
関係利水者においても大規模地震への対応が進められているなど、耐震強化も重要な課題
となっている。
これらのことからも、地域のライフラインを支える基幹施設として二度と漏水事故を起
こすことなく、その安定供給の確保に万全を期す必要がある。
事故の原因となった可撓管の破損については、当初の設計を上回る基礎地盤の沈下によ
り可撓管ゴム部に許容以上の変位の発生と、ゴムが大きなストレスを受けた状態にある中
で、ゴムが破損して高圧水が噴出し、鋼管に穴があき漏水事故が発生したものである。対
策の実施にあたっては、原因究明時の検討や調査による知見に留意し地盤条件や現状を的
確に把握して、耐震化を図るよう取り替えの対象となる可撓管の選定や仕様の設定を適切
に行う必要がある。
運用開始からの年月の経過に伴い、両筑平野用水施設の改築が進められているなど、更
新に取り組んでいる施設もある中で、今回の漏水事故を契機に施設の更新や定期的な点検
による施設の状況把握の重要性も明らかになった。中長期的な観点からの施設の整備とし
て、山口調整池の利用ができず点検等も困難な 2 号トンネルへの対応、経年変化に伴う施
設全体の老朽化への抜本的な対策の検討をおこなうとともに、緊急的な観点から現状で早
期に実施すべき、取り替えが必要な可撓管に加え、被災に伴う漏水事故による第三者被害
軽減に向けた施設や、通水停止期間短縮のための施設など、施設の安全性・安定性の向上
に向けた取り組みの計画的な実施について検討を進め、よりよい施設整備を目指すことを
期待するものである。
- 34 -