本文を正確に読解するための古典文法指導

平成22年度
高等学校授業力向上研修実践記録
本文を正確に読解するための古典文法指導
―古典『徒然草』二百三十六段の指導を通して―
国語科学習指導案
授業者
1
日
時
平成22年11月17日
2
対
象
1年8組
3
実施場所
教室
4
実施科目
国語総合
5
使用教材
教科書『高等学校
6
単元・教材
随筆(一)『徒然草』丹波に出雲といふ所あり
7
本教材の目標
新潟県立長岡向陵高等学校
教諭 池田 美香
第4校時
41名
新訂
国語総合
古典編』(第一学習社)
(1)意味調べ、現代語訳などを積極的に行い授業に臨む。(関心・意欲・態度)
(2)発問に対して、自分の考えをまとめ発表する。(関心・意欲・態度、話す・聞く能力)
(3)古語辞典を使い、本文中の単語の適切な意味を選び取り、現代語訳する。
(書く能力、知識・理解)
(4)歴史的仮名遣いを理解し、正しく音読する。(知識・理解)
(5)敬語法の基礎を習得する。(知識・理解)
(6)古典文法(助詞「ば」の訳し方、形容詞の語幹の用法など)を理解し、適切な現代語訳をする。
(書く能力、知識・理解)
(7)動作主体を明らかにし、本文の内容を理解する。(読む能力)
8
生徒の実態
〈省略〉
9
教材について
『徒然草』二百三十六段「丹波に出雲といふ所あり」は、国語総合では、4つめの古文教材で
ある。話が具体的でわかりやすく、ストーリー展開をつかみやすい教材である。
国語総合(古文)では、用言の活用について一通り学習を終え、助動詞の学習(接続・意味・
活用)を始めている。本教材では、高校入学後、はじめて古典の敬語法について学ぶ。古文を理
解する上で重要な敬語法の基礎を、ここで習得させたい。
本教材においては、助動詞の他に、助詞や敬語に留意し、内容をつかむ練習をすることを目標
とする。適宜小テストを行い、学習に対する意識付けと、知識の定着をはかる。
10
評価規準
ア 関心・意欲・態度
イ 話す・聞く能力
ウ 書く能力
エ 読む能力
①事前に指示され ①発問内容を的確 ①調べたことや、 ①本文の内容を理
た課題(意味調べ、 に押さえる。
学習したことを元 解する。
現代語訳など)に ②発問内容に対し にして、適切な現 ②本文のストーリ
とりくむ。
て、自分の考えを 代語訳をする。
ー展開を把握す
②発問に対して、 発表する。
る。
自分の考えをまと
め、発表する。
11 指導と評価の計画(全10時間)
時
各時間の目標
学習活動
1 ○『徒然草』について文 ○『徒然草』について理解す
学 史 的 な 内 容 を 理 解 す る。
る。
○本文を適切に読む。
○音読
○辞書を用いて語句の意 ○語句の意味を、古語辞典を
味調べを行う。
用いて調べる。
2 ○前時の復習。
○前時の内容(文学史)につ
・
いて小テストを行う。
3 ○辞書を用いて語句の意 ○語句の意味を、古語辞典を
味調べを行う 。(前時の 用いて調べる。
続き)
○本文の概要を理解する。○教科書の注や、自分で調べ
た語句の意味をもとに、箇条
書き要約をする。
4 ○本文1~4行目までを ○単語の意味・助動詞の意味
本 解釈する。
を確認し、現代語訳する。
時 ○助詞「ば」の用法を理 ○接続助詞「ば」の用法を学
解する。
習する。
5 ○本文4~8行目までを ○単語の意味・助動詞の意味
・ 解釈する。
を確認し、現代語訳する。
6
○聖海上人の感動している様
子と、そのほかの人々の様子
の違いを読み取る。
7 ○本文8行目~最後まで ○単語の意味・助動詞の意味
・ を解釈する。
を確認し、現代語訳する。
8
○会話文中の表現(敬語の有
無)の違いから、聖海上人の
感情の高ぶりを読み取る。
○この話のおもしろさを感じ
取る。
○原文プリントをみて、箇条
書き要約をする。
9 ○敬語法について理解す ○敬語法について学習する。
・ る。
10
オ 知識・理解
①敬語法や、文法
事項などを理解す
る。
②文学史的な内容
を理解する。
③本文を音読し、
古文のリズムをつ
かむ。
評価規準
○オ②
○オ③
○ア①
○ア①、オ②
○ア①
評価方法
○観察
○観察
○机間巡視に
よる観察
○小テストの
採点
○机間巡視に
よる観察
○ウ①、エ①②
○ワークシー
トの点検
○ア①、ウ①、エ①②
オ①
○オ①
○観察・発問
○ア①、ウ①、エ①②
オ①
○エ①②
○観察・発問
○観察
○観察
○ア①、ウ①、エ①② ○観察・発問
オ①
○エ①②、オ①
○観察・発問
○エ①②
○観察・発問
○ウ①、エ①②
○プリントの
確認
○観察・ワー
クの点検
○オ①
12 本時の計画( 4/10時間)
(1)ねらい
・接続助詞「ば」の用法を理解する。
・動作の主体を明らかにして本文を読解する。
(2)本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想
これまでの教材では、授業で本文を解釈したあとに、箇条書き要約をし、授業者が点検していた。
現代語訳がわかっている状態なので、訳してあるノートを見ながら要約する生徒が多く、ほぼ全訳
を書いてくる生徒もいる。自力で「主語を明らかにし、話の概要をつかむ」という目的を達成する
ため、今回は、解釈を行う前に、既存の知識だけで要約をすることを試みる。自分の解釈が適切で
あったか、また適切でなかった場合には、何が間違っていたのかを授業を通して確認をする。そし
て、助動詞や助詞の意味(また、接続や活用形等)を理解することの重要性を感じ取らせる。
(3)展開
学習活動
指導上の留意点
評価の実際
導 ○箇条書き要約の返却。
○ア① 要約を回収し、取
入
り組み状況を確認する。
5 ○本時の学習内容の確認。○学習予定箇所を音読する(指名読み)。 ○オ③ 歴史的仮名遣いの
分
部分が正しくて読めてい
るか指名読みにより確認
する。
展 ○「丹波に~めでたくつ ○旧国名地図(教科書付録・プリント) ○オ② 旧国名地図中から
開 くれり。」の解釈。
で、丹波の位置を確認する。
丹波の位置を探し出すこ
①
とができたか、観察によ
20
り確認する。
分
○「めでたし 」、助動詞「り」の意味を ○イ①②、ウ①、オ① 語
確認する。
句の意味を正しく理解し
ているか指名して確認す
るする。
○「しだのなにがしとか ○「誘ひて」の主語を明らかにする。
○イ①②、ウ①、オ① 主
や~誘ひて、」の解釈
語が「しだのなにがし」
であることが理解できた
か指名して確認する。
○接続助詞「ば」の用法 ○文法書やワークを利用する。
○ウ①、オ① 順接確定条
を学習する。
「しる所なれば」を適切に訳す。
件を適切に訳すことがで
きるか指名して確認する。
展 ○「いざたまへ~具しも ○「召す」の意味を辞書で調べ、敬語の ○ウ①、オ① 尊敬語につ
開 て行きたるに、」の解釈
種類、訳し方を確認する。
いて適切に訳すことがで
②
きるか指名して確認する。
25
分
○「具しもて行きたるに」の主語、客語 ○イ①②、ウ①、エ②
を明らかにする。
主語・客語を理解してい
るか指名して確認する。
ま ○本時の復習と次回の
と 予告
め
5
分
○本時の内容を簡単に復習する。
○ア①
○次回の範囲を指示する。
○指示内容を理解している
○小テスト(接続助詞「ば 」)の予告を か観察によって確認する。
する。
(4)評価
本時の授業のねらいとして、以下の二点を設定した。
1 接続助詞「ば」の用法を理解する。
2 動作の主体を明らかにして本文を読解する。
まず、1の「接続助詞「ば」の用法を理解する」については以下のような観点から、理解度をはか
った。
①授業時に、本文中にあらわれた「ば」について、適切に現代語訳できる。
②「ば」の用法(仮定条件か確定条件か、また、確定条件の場合、原因・理由を表すのか偶然条件、
恒時条件を表すのか)が理解できる。
③授業で扱った部分以外の例文においても、用法を理解し、現代語訳できる(小テストで確認)。
授業時に取り上げた箇所は、「しだのなにがしとかや、しる所なれば、秋のころ、聖海上人、そのほ
かも、人あまた誘ひて」の部分である。この部分について、授業時に指名した生徒は「原因・理由」
を表すということが理解でき、適切に現代語訳できていた。
また、翌日に行った小テストでは、ほとんどの生徒が、用法について概ね理解できていたものの、
短文の用例を用いたため、適切に現代語訳できていない生徒もいた。返却と同時に解説を行い、知識
の定着をはかった。
次に、2の「動作の主体を明らかにして本文を読解する」については、以下のような観点から達成
度をはかった。
①「人あまた誘ひて」の動作主体を明らかにできる。
②「具しもて行きたるに」の動作主体・客体を明らかにできる。
事前準備として、本文を解釈する前に「箇条書き要約」を実施した。細部は気にせず、大まかに本
文の内容をつかみ取る練習である。その際に、必ずすべての文の主語を明らかにするように生徒には
指示をしておく。ただし、今回は「誘ひ」の主語がきちんと押さえられているかを確認するために、
あらかじめ要約プリントに「しだのなにがしが」という言葉を入れておいた。
箇条書き要約を集めた段階では、正しくとらえられている生徒が1/3程度、間違えている(聖海
上人としている)生徒が1/3程度、要約からでは主語を正しくとらえているかどうか不明な生徒が
1/3程度であった。授業時に、接続助詞の「ば」の用法とあわせて解説をし、本文をすべて現代語
訳をしてから再度、要約を行ったところ、誤った理解をしている生徒は数名に減少した。
「具しもて行きたる」の方は、「誘ひ」の主語が明らかになると、主語・客語をきちんと理解するこ
とができた。
01
*箇条書き要約をしよう*
02
登場人物をすべてあげよ。
箇条書き要約をしよう。
(必ず主語を明示しよう!)
)
)になってしま
・丹波国の出雲に、出雲大社の神霊をお迎えして、(
に作ってある。
・
しだのなにがしが、
)の感動の涙は、(
▲箇条書き要約プリント
・獅子・狛犬が、背を向けて立っていた。
・(
文くらいにまとめてみよう!
った。
*
10
13
実践の考察とまとめ
今年度、3年生と1年生の授業を持つことになった。3年生の様子を見ていると、予習をして授業
に臨む生徒はごく少数であり、授業で「正しい訳」を確認し、ノートに書き取るという受講スタイル
の生徒がほとんどであることに気がついた。本文をノートに書写してくるだけで、単語の意味を調べ
たり、自分でできるところまで現代語訳するという生徒はほとんど皆無であった。また、基礎的な文
法事項についての理解が浅く、授業内容を理解できない生徒も多くいた。しかし、単位数が少ないた
め、授業中に単語の意味調べをする時間もとることはできず、結局、授業者側も生徒に「正しい」訳
を書き取らせる授業展開をしてしまっていた。
定期テストでいい点数をとることは、先述のような受講スタイルでも、十分に可能である。しかし、
初見の文章を理解する力は身についていかない。また、訳を書き取るだけでは、自分が「どこまで理
解できていて、どこが理解できていないのか」ということを自分自身で把握することが難しい。結果、
効率よく学習することができず、古文に対する苦手意識や、古文はおもしろくないという意識が生ま
れ、古文に対する興味関心が薄れていくと考えた。
そこで、これらの問題点を打開するために、1年生の早い段階から基礎的な力を身につけさせるこ
と、そして、あらかじめ、本文の内容を大まかにつかみ取り、授業で不明なところを明らかにすると
いう、基本的な力や姿勢を身につけさせる必要があると考えた。
1年生の授業は単位数も多く、1つの教材に時間をかけられるように、年間計画が立てられている
ので、改善策として以下のような方策を考えた。
①小テストを繰り返すことで、基礎的な文法事項の定着を図る(用言・助動詞など)。
②重要単語等を指示し、授業の時間を使って意味調べをさせる。
③用言や助動詞の活用表を書かせることで、知識を定着させる。
④①~③を行うことによって、本文の概略をつかむ(箇条書き要約をさせる)。
*古文が「わかる」ことによって、達成感をもたせ、古文に興味を持たせる。
具体的指導については以下の通りである。
①用
言:あらかじめ指示した用言について、活用表を完成させる(自宅学習)。
*適宜チェックをして誤りを訂正する。解説が必要なものについては授業時に行う。
②助動詞:未習のものについてはワークを使って学習し、翌日小テストを行う。既習のものは、
プリントを使い、活用や、文法的意味などを確認する(自宅学習)。
①用言編
②助動詞編
③単
語:古語辞典を使って授業時に意味調べを行う。(プリントで指示)。
指導の実際と反省
8組
古典文法 小テスト
番 氏名
記号(
)
の中から選び、記号で答え、現代語訳せよ。
)
京 に は 見 え ぬ 鳥 な れば 、 皆 人 し ら ず 。
春過ぐれば、夏来る。
)
◆次の「ば」の用法を
風吹けば、出で立たず。 記号(
)
記号(
人を殺さば、悪人なり。 記号(
エ順接確定条件(恒時条件)
イ順接確定条件(原因・理由)
)
ア順接仮定条件
野を行けば、山あり。 記号(
ウ順接確定条件(偶然条件)
小テストは 、「文学史(徒然草について )」「接続助詞『ば』の用法」のほかに、助動詞の接続のテ
ストを4回実施した。すべて前日に予告をして行ったため、正答率は高かった。問題数が少ないので、
憶えやすかったという理由も考えられる。接続助詞の小テストについては、例文が短文であったため、
「原因・理由、偶然条件、恒時条件」を選び取れなかったり、現代語の意味にひかれてうまく訳せな
い生徒もいた。今後も丁寧に指導していく必要がある。
単語の意味調べや、用言・助動詞のプリント作業は、これまでにも行っており、また作業を好んで
行うクラスのため、取り組み状況は非常
01
02
04
03
05
によい。研究協議の中で、助動詞活用表
の中に「接続」の欄を設けた方がよいと
いう指摘をいただき、以後のプリントに
は欄を設けた。
助動詞は、文法書の助動詞活用表を見
る習慣が身についてきた。今後は、よく
出てくるものについては文法書を見なく
ても、答えられるように繰り返し指導を
していきたい。
箇条書き要約については、本文を解釈
する前に要約を行うのは難しいのではな
いかと考えた。しかし、実際に書いたも
のを集めてみると、ほとんどの生徒が大
まかに本文の内容をつかむことができて
いた。
生徒が書いたものを集めて確認すること
で、授業者が、生徒の躓くポイントを把握することができるので、授業者側にとっても有益であった。
解釈を行った後、もう一度、何も見ないで要約する作業を行った。若干解釈に誤りがあるものの、ほ
とんどの生徒が内容を把握することができた。短い文であることと、わかりやすい内容であったので
生徒も取り組みやすかったのかもしれない。
研究授業での反省事項は以下の通り。
①授業のねらいが生徒に伝わっていない。
②授業が平板で(抑揚がなく)、ポイントがつかみづらい。
③ポイントを絞り切れていない。
④講義形式の授業になってしまい、生徒が活動する場が少ない。
授業では、重要なポイントがあると、それに触れながら進めていた。しかし、全ての事項について
丁寧に取り上げていると、限られた時間の中で教材を終えることは不可能である。授業の構成を考え
る際に「本時のねらい」に絞り、その部分を強調して授業を行う必要がある。そのためには、綿密な
教材研究と、担当者間の密な打ち合わせが必要であることを痛感した。
また、①や②は全て③が原因していると考えられる。先述したように、授業の組み立てをしっかり
と考えることがやはり重要である。
また、授業者に、限られた時間の中で、教材を終えなければいけないという意識があると、一方的
な講義形式の授業になりがちである。授業者が問いを投げかけた際、生徒は頭を使い個人個人で「考
える」活動を行っているのかもしれない。しかし、授業者が「正解」を教える場合と、生徒が自分で
考え、発表し、その答えが合っていた場合とでは、後者の方が達成感もあり、記憶に残りやすいと考
えられる。時間を工夫し、また、生徒の力を信じて、なるべく生徒に活動させ、「教える授業」だけで
なく、「考えさせる授業」も取り入れていきたい。