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意思決定における情報の役割と評価

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システム情報工学研究科、経営・政策科学専攻
(平成 18 年度第3学期火曜日3、4時限目)
意思決定における情報の役割と評価
1. はじめに
本章では新しく入手した情報により、はじめに得られている事前確率の推定値を修正す
るプロセスに注目する。議論の中心はベイズ定理と呼ばれているものである。この定理は
新しい情報が利用可能になったとき、確率評価をどのように修正すべきかについて示して
くれる規範的道具として利用される。しかし、人々がこの定理に従って判断を実際に修正
するかどうかという記述的分析は後章で扱う。
2. ベイズ定理
新しい情報を得る前の様々な事象に関する確率の推定値は事前(先見)確率と呼ばれ
る。新しい情報が得られたもとで、事前確率を修正するためにベイズ定理を適用すると
き、その修正された確率は事後確率と呼ばれる。
事象 A の事前確率を P (A) とする。いま、ある情報源から情報を入手することを考え
る。その情報源の信頼性を表す条件付き確率 P (·|A) は既知であるとする。すなわち、対
象となる種々の事象 A が真であるという条件のもとで、その情報源からメッセージ B が
得られる確率 P (B|A) はわかっているとするのである。このとき、メッセージ B が得ら
れた(事象 B が生起した)という条件のもとでの事象 A が真である確率 P (A|B)(事後
確率)は次式で与えられる(ベイズ定理)。
P (A|B) =
P (B|A)P (A)
P (B|A)P (A) + P (B|Ac )P (Ac )
1
以下では、この定理の直感的なアイデアを示し、事前確率を修正するために、確率木をど
のように適用するかを示そう。
【例】先週の工場の生産量は 2, 000 部品であり、検査の結果、30% が不良品であったとす
る。不良品は他の部品と分離されずに同じ箱の中に梱包されてしまったとしよう。ここ
で、注文に間に合わせるために、箱の中の部品を良品と不良品に仕訳しなければならない
とする。選び出した一個の部品が良品である事前確率はいくらか? 明らかに、唯一の賢
明な推定値は 0.7 である。
検査をし直すと費用がかかるので、信頼性は低い簡易検査をおこなうこととする。その
検査の信頼性を表す条件付き確率 P (·|A)(ここで、A は部品の真の状態)は次表のよう
に与えられているとする。
簡易検査結果
良品 不良品
部品の真の状態
良品である (A) 不良品である (Ac )
80%
10%
20%
90%
部品の真の状態が不良品であるときのほうが正しい検査結果を与える確率が高いので、こ
の簡易検査にはバイアスがかかっていると言われる。
簡易検査を行ったとき、その結果は部品が不良品であると示しているという結果が出た
とする。この結果をもとに、どのように事前確率 P (良品) を修正すべきであろうか。ベ
イズの定理によると、事後確率 P ( 良品 | 不良品) は次のように計算される。
P (良品 | 不良品)
=
P (不良品 | 良品)P (良品)
P (不良品 | 良品)P (良品) + P (不良品 | 不良品)P (不良品)
= (0.2 × 0.7)/(0.2 × 0.7 + 0.9 × 0.3)
= 0.341
これを図 1 に示すツリー・ダイヤグラムから考えてみよう。
この図より、1000 個の部品をすべて簡易検査すると、そのうち 410 (i.e., 140 + 270)
個の部品が不良品と判断される。このなかで、140 個が実際には良品であるにもかかわら
ず不良品という検査結果が出たのである。このことから、不良品であるという検査結果が
出たという条件のもとで、その検査された部品が実際には良品であるという事後確率は
140/410 であるべきである。すなわち、
P (良品 | 不良品) = 0.341
2
図 1: ツリー・ダイヤグラム
となるので、簡易検査結果により部品が良品であるという事前確率 0.7 を事後確率 0.341
に修正すべきであることがわかったのである。
以下ではベイズの定理の応用を定式化するために、確率木にもとづいたアプローチを考
える。図 2 が図 1 の確率木である。
図 1 のツリー・ダイアグラムによる計算を確率木により行うと次のようになる。簡易検
査に合格しない確率(検査結果が不良品である確率)を求めよう。同時確率は
P (良品かつ不合格) = 0.7 × 0.2 = 0.14,
P (不良品かつ不合格) = 0.3 × 0.9 = 0.27
となるので、これより
P (不合格) = 0.14 + 0.27 = 0.41
が得られる。部品が良品であるという事後確率を求めたいので、確率木における「部品は
OK 」であるという枝から得られる確率を選ぶ。すなわち、0.14 である。ゆえに事後確率
は 0.14/0.41 = 0.341 となる。
以上のプロセスをまとめると、次のようなステップにより事後確率は計算される。
(1) すべての可能な事象を表す枝をもつ木を構成し、それらの枝に対応する事前確率を
書き込む。
(2) 各枝に、得られた新しい情報を表現する新しい枝を付加することにより、木を拡張
する。前の枝により表される状況が与えられたとき、この情報が得られる条件付き確率を
各枝に書き込む。
3
図 2: 確率木
(3) 各事前確率に、木上でそれに従う条件付き確率を掛けることにより同時確率を求め
る。
(4) 同時確率を合計する。
(5) 事後確率を得るために同時確率の合計により適当な同時確率を割る。
3. 確率判断修正に対する新しい情報の効果
事前確率と新しい情報が事後確率へ与える相対的影響を調べる。
【例】天然ガスの新しい埋蔵場所を探索している地質学者を想定しよう。ある特定の場所
において、ガスが発見される確率を事前調査にもとづいて推定するように求められている
とする。この推定をするとき、試験的採掘による情報を得ることができるとする。
事前確率に自信がなく、その推定値はあいまいであるとする。ここで、あいまいとは無
知な状態を表し、確率は等確率を与えることを意味する。このとき、試験的採掘は信頼性
が高いとしたときの確率木と事後確率の計算を図 3 に示す。ここで試験的採掘にはバイ
アスがないと仮定している。すなわち、
採掘結果 OK
採掘結果 NO
ガスの存在
あり なし α
1−α
1−α
α
4
図 3: あいまいな事前確率と信頼性の高い情報の効果
の表に与えられる。これにより、事後確率は情報の信頼性のみに依存し、あいまいな事前
確率は影響しないことがわかる。
事前確率のあいまい性と新しい情報の信頼性の関係は図 4 に示される。縦軸は採掘結
果が OK となったときの事後確率を示す。たとえば、事前確率が 0.4 であり、信頼性が
70% のとき、事後確率は約 0.61 となる。信頼性が 50% のときは、事前確率と事後確率
は一致する。一般に、より信頼性が高いと、事前確率の修正の程度が大きいことがわか
る。しかし、事前確率が高いかまたは低いときには、修正の程度は相対的に小さくなって
いる。
事前確率が 0 または 1 のときは、どのような情報か得られても、またその信頼性が高
くても、事後確率には変化がないことがわかる。
4. 決定問題へのベイズ定理の応用
ベイズ定理を応用することは事後分析と呼ばれる。すなわち、事前確率ではなく事後確
率を利用するからである。
【例】小売り業者が来年の夏シーズンのために在庫量を決めるとする。小売り業者の利得
に対する効用は
利得(万円)
効用
2万
0
8 万 14 万
0.5
0.8
5
22 万
1.0
図 4: 情報の信頼性への影響
のように評価されているとしよう。利得表と事前確率は以下のように与えられていると
する。
事前確率
在庫量の決定 少量
在庫量の決定 多量
売れゆきの真の状態
小 大
0.4
0.6
8万
14 万
2万
22 万
事前確率にもとづいた事前分析を行うと、在庫量の決定にともなう期待効用は次のように
計算される。
在庫量小量の期待効用 = 0.4 × u(8 万) + 0.6 × u(14 万) = 0.68,
在庫量多量の期待効用 = 0.4 × u(2 万) + 0.6 × u(22 万) = 0.6
このディシジョン・ツリーを図 5 (a) に示す。
6
図 5: 事前分析と事後分析
7
いま、来夏の売上についてのある情報源が利用可能であるとし、その信頼性は次表のよ
うに与えられているとする。
情報源 多
情報源 少
来夏の真の売れゆき
多量 小量
0.75
0.2
0.25
0.8
これにより、ベイズの定理を適用し、事後確率を評価すると図 5 (b) に示すように計算さ
れる。この情報源より来夏の売れ行きは多いという情報が得られたとき、事後分析にもと
づくディシジョン・ツリーは図 5 (c) のように書き改められる。これによると、在庫を多
量に抱えておくことが最適であることになる。また、事前分析で得られる期待効用と事後
分析で得られる期待効用を比較すると、どちらの代替案についても、事後分析の方が大き
くなっている。すなわち、情報源から情報を得る費用はかからないと仮定しているので、
その場合に情報を得ることは常に期待効用を高めるのである。
5. 新しい情報の価値を評価する
新しい情報は不確実性を取り除くか、または減少させる。このために期待利得を増加さ
せるのである。しかし、多くの場合、情報を得るためには費用がかかる。そのために次の
ような問題が発生する。情報を得る価値があるかどうか。また、いくつかの情報源があっ
たときに、どれがもっとも好ましいか等である。
5.1 完全情報の期待価値
実際の意思決定状況においては、完全に信頼できる情報を得ることは困難である。しか
し、完全情報の期待価値(EVPI;expected value of perfect informa-tion)を知ることは
役に立つ。例えば、あるコンサルタントの予測は完全に正確ではないとする。しかし、た
とえ完全に正確であっても、期待利得を 1, 000 増加させるだけであるとする。このとき、
コンサルティング料が 1, 500 であれば、その情報を買う価値はないことになる。
以下では例題により、完全情報の価値をどのように評価するかを示そう。簡単化のた
め、EMV 基準が適用可能であるとする。
【例】1 年前に、所有する農場で病気のためポテトの生産に大きなダメージを受けたとし
よう。それ以来、土壌からビールスを撲滅するための処置がとられた。それを行った技術
者によると、70% の確率でその処置が効果を上げていると推定されたとしよう。 農場
主にとって、次の2つの代替案が考えられる。
8
代替案 (1): ポテト生産を行う。このときの利得は、ビールスがまだ土壌にいれば、20, 000
の損失を、いなければ、90, 000 の利益であるとする。
代替案 (2): 他の穀物を生産する。このときの利得は、確実に 30, 000 の利益をあげられる
とする。
いま、土壌中にまだビールスがいるかどうかを判定できる試験を A 社が行うことがで
きるとする。農場主にとって、その試験精度と費用は未知であるとする。もし、この試験
が完全に正確であるとしたら、いくら A 社に支払って試験を行ってもらう価値があるで
あろうか? この完全情報を得ることを第3の代替案としたときの農場主の決定問題の
ディシジョン・ツリーを図 6 に示す。
図 6: 完全情報の期待価値の決定
このディシジョン・ツリーに従って計算された結果をまとめると以下のようになる。完
全情報の期待利得は次の表より 63, 000 + 9, 000 = 72, 000 となる。
A 社の検査結果
ビールスはない
ビールスはいる
検査結果の
確率
0.7 0.3 検査結果にもと
づく最適行動
ポテト生産 他の穀物生産
利得 確率 × 利得
90, 000
30, 000
63, 000
9, 000
完全情報を得ない場合は代替案 (1) により最大の期待利得 57, 000 が得られるので完全情
報の期待価値 (EV P I) = 72, 000 − 57, 000 = 15, 000 として計算される。
A 社の試験は完全ではないことは十分考えられる。その場合は、その情報の価値は 15, 000
より低くなる。しかし、EVPI は新しい情報の価値の上限を与えてくれるので、有用である。
9
5.2 不完全情報の期待価値
完全な信頼性がない情報の価値を計算する方法を以下では考えよう。前節の問題におい
て、A 社の試験の信頼性は完全ではないことがわかったとしよう。いま、試験の信頼性
は、実際に土壌中にビールスが存在するか、または存在しないときに応じて次のように評
価されているとする。
試験結果
が存在する
が存在しない
実際にが土壌中に
存在する 存在しない
90% 20%
10%
80%
このとき、この試験を行うために、いくらまでなら支払ってもよいであろうか?この計算
のためには、不完全情報の期待価値(EVII;expected value of imper-fect information)を
計算する必要がある。
農場主が直面する新しい決定問題は図 7 に示すディシジョン・ツリーとして表される。
もし、試験を実施するならば、図中の?印の確率を評価しなければならない。
図 7: 不完全情報を買うべきかどうかの決定問題
試験によりビールスが存在するという結果が得られたという状況を考えよう。この状況
がおこる確率は図 8(a) 確率木を使って計算できる。また、試験によりビールスが存在す
10
るという結果を得たときに、実際にビールスが存在する、または存在しない事後確率も同
図より計算できる。試験によりビールスが存在しないという結果が得られたという状況に
関しての計算は図 8(b) に示されている。
図 8: 事前確率の修正
以上の結果をもとに不完全情報の期待価値を図 9 のディシジョン・ツリーから、ロー
ルバック法により計算しよう。その結果は次のようにまとめられる。
A 社の試験からの不完全情報による期待利得:
P = 0.41 × 30, 000 + 0.59 × 84, 500 = 62, 155
試験を行わないときの期待利得:Q = 57, 000
不完全情報の期待価値 (EV II) = P − Q = 5, 155
11
図 9: 不完全情報の期待価値の計算
以上より、この試験を実施するためには、A 社には 5, 155 より多く支払う価値はないこ
とが言える。
以上の分析の概要はをまとめると以下のようになる。
(1) 事前確率のみを使って選択される代替案を決定し、その期待利得を記録しておく。
(2) 新しい情報がもたらす可能な結果を同定する。
(3) それぞれの結果に対して、
(a) その結果が得られる確率を決定する。
(b) この結果が得られたとしたときに事前確率をベイズ定理により修正する。すな
わち、事後確率を得る。
(c) この結果が得られたとしたときの最良の代替案を決定し、その期待利得を記録
しておく。
(4) それぞれの結果が起こる確率と、その結果が得られたときの最良の代替案の期待利
得を掛け合わせ、その和を計算する。これが不完全情報のもとでの期待利得である。
(5) 不完全情報のもとでの期待利得(4で得られる)から事前確率のみから計算される
期待利得(1で得られる)の差が不完全情報の価値である。
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