三価クロム化成処理について

三価クロム化成処理について
ユケン工業株式会社 技術部 杉浦寿裕 はじめに
近年、世界的に環境への意識が高まっており、従来より防錆の
ために使用してきた6価クロムが使用しにくい状況にあります。
6価クロメートに替わる防錆処理として3価クロム化成処理が
多くの部品で採用されております。ここでは3価クロム化成処理
の特徴についてご説明します。
・ELV指令(廃自動車指令)
鉛、水銀、カドミウム、6価クロム
・RoHS指令(電気電子機器に含まれる特定有害物質使用制限指令)
鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、PBB(ポリ臭素化ビフェニル)、
PBDB(ポリ臭化ジフェニルエーテル) 化成処理工程
6価有色、3価白銀色
6価黒色、3価黒色
亜鉛めっき品
亜鉛めっき品
硝酸活性
硝酸活性
水洗
水洗
化成処理
化成処理
水洗
水洗
乾燥
仕上げ
処理工程に違いはない
乾燥
化成処理の反応機構
【6価クロメート】
亜鉛の
溶解
6価クロムの還元
被膜形成
水素ガス発生
pH上昇
【3価クロム化成処理】
亜鉛の
溶解
水素ガス発生
pH上昇
3価クロム化成処理はpH管理が重要
被膜形成
化成処理外観
6価有色クロメート
白銀色3価クロム化成処理
CY-51
YFA
化成処理外観
6価黒色クロメート
3価クロム黒色化成処理
CK-418
YFB
化成処理皮膜の耐食性
白サビ発生までの時間(hrs.)
耐食性(白サビ発生時間)
hr
250
200
150
100
50
0
仕上げあり 仕上げな
6価
黒
黒
6価
6価
緑
緑
6価
6価
有
黄
6価
3価
黒色
な
し
仕
上
3価
黒
3価
黒色
上
あ
り
仕
3価
黒
3価
白
銀
3価
白銀
JIS Z2371
塩水噴霧試験
表面拡大写真(白銀色)
6価有色クロメート(CY-51)
多数のクラック
白銀色3価クロム化成処理(YFA-S)
均一で欠陥がない
表面拡大写真(黒色)
6価黒色クロメート(CK-210)
多数のクラック
3価クロム黒色化成処理(YFB)
均一で欠陥がない
(白銀よりは粗い)
仕上げ処理の必要性
3価クロム黒色化成処理に
求められる性能
化成処理と仕上げ処理に役割分担
黒み
黒み
耐食性
光沢
全てを兼ね備えるには
範囲が狭い
・・・ 主に化成処理
耐食性 ・・・ 化成処理
仕上げ処理
光沢
・・・ 主に仕上げ処理
仕上げ処理をする事で良好な性能が
得られるようになった。
3価クロム化成処理の紹介
Cr6+代替皮膜種類について
めっき種類
亜鉛めっき
6価種類 3価対応状況
青色
3価青色、3価白銀色
黄色
3価白銀色
黒色
3価黒色
緑色
3価亜鉛鉄黒
高耐食3価黒色の要望
亜鉛鉄合金めっき
亜鉛ニッケル合金めっき
黄色
3価白銀色
黒色
3価亜鉛鉄黒
黄色
高ニッケル3価白銀色
黒色
高ニッケル3価黒色
新しい
要望
ユケンCr3+使用化成被膜の紹介
めっき種類
種類
ユケン商品
無機/ 有機
亜鉛めっき
青色
メタスYFA
有機タイプ
白銀色
メタスYFA
有機タイプ
メタスYFE
無機タイプ
メタスYFB
有機タイプ
黒色
無機タイプ
亜鉛鉄合金めっき
亜鉛ニッケル合金めっき
共通
白銀色
メタスYFA
有機タイプ
黒色
メタスYFK
有機タイプ
白銀色
メタスCYN
有機タイプ
黒色
メタスCKN
有機タイプ
黒用仕上げ
CR−U/ I
有機タイプ
CR−U3/ I
有機タイプ
白銀色3価クロム化成処理(YFA)
3価青色タイプ(YFA)条件
ラックタイプ
バレルタイプ
メタスYFA−M 50cc/L
メタスYFA−M 50cc/L
使用pH 2.6(2.4-2.8)
メタスYFA-30HR 10cc/L 使用温度 30℃(25-35℃) 使用pH 2.6(2.4-2.8)
反応時間 25秒(20-30秒) 使用温度 30℃(25-35℃)
反応時間 25秒(20-30秒)
・低濃度、pH高め、低温、時間短い
3価青色(YFA)耐食性
250
白錆発生時間
赤錆発生時間
SST時間︵
h︶
200
150
高耐食は得られない
100
※青色外観、耐食性は6価より優れる
50
0
6価青色
3価青色
ドアストライカーにて日本国内実績有り(カゴ処理)
3価白銀色(YFA)条件
ラックタイプ
バレルタイプ
YFA−S 100cc/L
建浴pH 1.7-1.8
使用温度 30-40℃
反応時間 30-50秒
YFA−M 100cc/L
YFA-30HR 10cc/L
建浴pH 2.0-2.2
使用温度 30-40℃
反応時間 30-50秒
YFA乾燥温度における耐食性確認
(乾燥熱条件は各熱量で5分処理してます。)
白錆発生時間
赤錆発生時間
500
450
400
SST処理時間︵
h︶
350
300
250
200
150
100
50
0
乾燥常温
乾燥20℃
乾燥温度不足
乾燥40℃
乾燥60℃
乾燥温度適性
乾燥80℃
乾燥100℃
3価白銀色(YFA)後加熱耐食性データ
加熱条件:200℃−2時間処理 処理品:ボルト品
3価 480h赤錆無し
SST処理時間︵
h︶
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
白錆発生時間
赤錆発生時間
240h赤錆発生
6価黄色
塩化浴
24hr程度まで低下
ジンケート浴
シアン浴
摩擦係数について
摩擦係数の比較
めっき浴種:塩化浴
0.5
0.45
ほぼ同等
0.4
0.35
0.3
ほぼ同等
0.25
0.2
6価有色
3価白銀
6価黒色
3価黒色
浴種などの違いにより調整が必要な場合もある。
摩擦係数が異なる要素
一般的に6価よりも3価の方が摩擦係数が高い傾向にある。
更に次の要素により差が大きくなる可能性がある。
①浴種による違い
高い ジンケート > シアン ≧ アンモン浴 > カリ浴 低い
②ベーキングによる違い
高い ベーキング有り ≧ ベーキングなし 低い
浴種による違いが大きい。
カーメーカーさんは浴種に関わらず安定化させることを要望。
摩擦係数を一定にする必要性
ボルト、ナットを使用する組み立て現場では
色々な浴種でめっきされたボルト、ナットが使用される。
使用したボルトの摩擦係数が
低すぎる場合 → 締めすぎ発生 → ボルトが折れる危険
高すぎる場合 → 締め付け不足 → ゆるむ危険
めっき浴種に合わせた締め付けトルクに変更して使用
する事は不可能。
表面処理の現場で一定にしておく必要がある。
添加剤により対応可能(YFA−L)
6価と3価で何が違うのか?
6価と3価では削れ方が違う。
(写真参照)
6価と3価では皮膜中含水率が違う
添加剤により含水率を調整
6価黄色クロメート座面板の削れ表面
CY-51
ボルト頭接触部
通常部
3価化成処理座面板の削れ表面
YFA
ボルト頭接触部
通常部
化成皮膜中含水率について
12
皮膜含水量(μg/cm2)
10
8
6
4
2
0
六価黄色
YFA
YFA(L併用)
YFA−L併用で含水量が増加
摩擦係数を下げ安定化
摩擦係数値の調整事例1(塩化浴)
アンモンカリ浴 光沢剤MZ11
0.6
0.55
添加剤にて調整可能
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
ノンベーク
ベーキング
めっきのみ
ノンベーク
ベーキング
YFA処理
ノンベーク
ベーキング
ノンベーク
ベーキング
六価黄色処理 YFA処理+調整剤
摩擦係数値の調整事例2(ジンケート浴)
ジンケート浴 光沢剤ZST
0.6
0.55
添加剤にて調整可能
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
ノンベーク
ベーキング
めっきのみ
ノンベーク
ベーキング
YFA処理
ノンベーク
ベーキング
ノンベーク
ベーキング
六価黄色処理 YFA処理+調整剤
元の摩擦係数が高いジンケートの方が効果大
実機処理における課題点
1.pH変動が激しい
2.化成処理液の発泡
クロメート溶液の緩衝性について
3価化成処理液
6価黄色クロメート液
5dm2/L処理
PH2.30
PH1.35
PH2.20
PH1.34
PH2.10
PH1.33
2dm2/L処理
明らかに3価の方がpH変動
値が大きい(0.1−0.2)
6価はせいぜい0.01程度
PH2.00
PH1.90
PH1.32
PH1.31
PH1.30
3価のpH変動は6価黄色
の約10倍程度
自動装置による
細かなpH管理が必須
3価白銀タイプ実機現場使用状況
化成処理槽
めっき皮膜から溶解した
光沢剤成分が蓄積する。
水洗槽
3価実機バレルカゴ発泡対策
1.バブリングによる液揺動停止 (液撹拌は噴流による循環が望ましい)
2.バスケットが液面に全没すること 液面が低いと
泡が発生しやすい
3.活性炭による濾過循環させる
めっき光沢剤成分の除去
YFA不純物許容性について
溶液中の不純物として・・・Fe、Cu、Cr6+
不純物の影響 Fe ・・・200ppm混入
外観モヤ、キズ付き耐食性の低下
Cu ・・・5ppm混入
外観ムラ(黒ずみ)、耐食性の低下
Cr6+・・・30ppm混入 150ppm混入
外観の黄ばみ 外観ムラ、耐食性の低下
一般的なFe溶解量・・・ 10dm2/Lの鉄板浸漬にて
200ppm/1晩でNG
3価クロム黒色化成処理(YFB)
亜鉛メッキ浴種との相性について
3価亜鉛黒
メッキ浴種
塩化浴
ジンケート浴
シアン浴
(外観色調に対する相性)
ラック
バレル
備考について
○
○
ユケン光沢剤、他メーカーも可能
YFB-A3B3C3
YFB-A3B3C3
光沢剤選択性少ない
○
○
D社高速ジンケート、ユケン光沢剤
YFB-ZM,ZR
YFB-NA/NB
K社超ジンケートは対応可
○
△
YFB-A3B3C3
YFB-A3B3C3 出やすい
浴、ラインによる外観差が
めっき浴種毎に最適な薬品の選択が必要
メタスYFB−A3使用条件
有機タイプ(塩化浴、シアン浴、ラック・バレル対応)
(塩化浴バレルが最適)
YFB-A3 60cc/L
YFB-B3 90cc/L
YFB-C3 60cc/L pH 2.3(2.2−2.6)
処理浴温 40−45℃
反応時間 40∼60秒処理
YFB-AR35 60cc/100dm2 YFB-BR34 20cc/100dm2
pH調整 白塩酸使用
3液建浴、2液補給
メタスYFB−ZM使用条件
無機タイプ、ジンケート浴、ラック用
YFB-ZM 100cc/L
YFB-ZR 50cc/100dm2 pH 1.8(1.6∼2.0)
処理浴温 35℃(30∼40℃)
反応時間 40∼90秒処理 pH調整 白塩酸使用
1液建浴、1液補給
メタスYFB−NA/NB使用条件
無機タイプ、ジンケート浴、バレル用
YFB-NA 50ml/L
YFB-NB 80ml/L YFB-NA 30cc/100dm2 YFB-RB 60cc/100dm2 pH 2.2(2.0∼2.4)
処理浴温 35℃(30∼40℃)
反応時間 40∼60秒処理 pH調整 硝酸使用
2液建浴、2液補給
3価黒色バレル用仕上げ剤使用条件
シリカタイプ
メタスCR-S 10cc/L
メタスCR-Z 10cc/L
常温-10秒浸漬
乾燥温度 60℃
乾燥時間 3分
pH 弱アルカリ
外観向上効果少ない
シミにならない
クロムタイプ
メタスCR-U 200cc/L メタスCR-I 20cc/L
40℃-5秒浸漬
乾燥温度 80-100℃
乾燥時間 5分以上
pH 3.5−4.5
外観向上効果大きい
シミ発生の可能性がある
3価黒色ラック用仕上げ剤使用条件
一般タイプ
クロムタイプ
メタスCR-N 100cc/L
乾燥温度 60℃
メタスCR-U 30cc/L
メタスCR-R 100cc/L
40℃-5秒浸漬 乾燥温度 60-90℃
乾燥時間 5分程度
乾燥時間 5分程度
pH 弱アルカリ
pH 3.5-4.5
40℃-10秒浸漬
樹脂系
3価黒色バレル用仕上げ剤(シミ対策品)
クロムタイプ
メタスCR-U3 200cc/L メタスCR-I 20cc/L
40℃-5秒浸漬
乾燥温度 80-100℃
乾燥時間 5分以上
pH 3.5−4.5
外観向上効果大きい
シミがほとんど目立たない
3価黒色化成被膜の耐食性
建浴濃度と耐食性
300
200
100
0
3価黒
CR-U3/I
(200/20)
黒
3
価
3
価
黒
3価黒
3価黒
CR-U3/I
CR-U/I
建浴濃度(ml/L)
(150/20)
(200/20)
黒
価
3
価
黒
6価黒
6
塩水噴霧時間(h)
白錆発生時間
黒色化成処理の摩擦係数
メッキ浴種:塩化浴使用(ボルト品:6角M10ボルト ベーキング)
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
6価黒
CR-U/I
200/10
CR-U3/I
150/10
従来品と同等の摩擦係数
CR-U3/I
200/10
仕上げ剤の課題点
• 三価化成処理は仕上げ剤が濃厚
• 付着量を増加させるため粘性アップ
品物にくぼみがあると
乾燥時に仕上げ剤成分が緑色のシミになる
CR−U3開発により液溜まり部分の平滑化、透明化
処理外観紹介
実機処理YFB-ZM 防錆能力確認
メッキメーカー:Y社
ジンケートラック:光沢剤K社
均一な黒色光沢外観 240h処理で白錆ほぼ0%
処理プロセス YFB-ZM ∼R∼ 仕上げ
標準条件
240h処理後
CR-U/I 30/10cc/L
実機処理YFB-NA/NB 防錆能力確認
メッキメーカー:O社
ジンケートバレル:光沢剤ユケン
均一な黒色光沢外観
SST120h処理で白錆0%
処理プロセス YFB-NA/NB ∼R∼ 仕上げ
CR-U/I 標準条件
200/20cc/L
120h処理後
まとめ
3価クロム化成処理は優れたバリヤー効果を生かして
従来の6価クロメートに近い性能を得られるまでに進歩
しました。完成した被膜性能は向上しましたが、管理の
難しさ、コスト高な点など生産現場から見た課題点は多く
残っています。今後も3価クロム化成処理技術の進歩を
進めていく必要があります。
END
(不明な点は弊社技術まで御相談下さい)
〒448-8511 愛知県刈谷市野田町場割50
TEL 0566-21-7311㈹ FAX 0566-23-5159
E-mail:[email protected]
URL http://www.yuken-ind.co.jp