第3章 プロピライアの設計法

第3章 プロピライアの設計法
3-1. はじめに
(1)プロピライアの概要(写真 3)
プロピライアはアクロポリスを登頂する人々を迎え入れる門として紀元前 437 年
432 年の間に建
築家ムネシクレスの設計に基づき建設された。プロピライアはその前身建物となる古プロピライアと
同じ位置に建てられた。建物の構成は、中央部建物、左翼部、右翼部の3つで構成されている。中央
部建物はパルテノンに祭られている女神アテナを祝う行列が通過するための門の役割を果たしている。
左翼部は前室と後室に分かれており、前室は人々の休憩所として使用され、後室はピナコテカと呼ば
れる絵画収蔵庫であった。右翼部はアテナ・ニケ神殿へと続くアプローチ的な働きをしている。北東
側と南東側には更に 2 部屋作ろうとしてした痕跡があるが、ペロポネソス戦争によりプロピライアの
工事は途中で中止され計画だけに終わった。
中央部建物は建物の前後に列柱をもつアンフィ・プロスタイル(両前柱式)の神殿に似た形をして
いる。西側正面には 6 本のドリス式円柱が建ち並び、中央柱間はパンアテナイア祭のときの行列を通
すため他の柱間より広くなっている。西側正面の列柱をくぐり抜けると、奥にむかって両側に 3 本ず
つイオニア式円柱が建ち並び、扉がはめ込まれる壁が建てられている。東側正面には再び 6 本のドリ
ス式円柱が建ち並び、西側正面と同じく、ドリス式神殿風の正面が形成されている。
両翼部は、中央部建物正面のドリス式列柱に呼応して 3 本のドリス式円柱が建ち並び、中央部建物
と両翼部の列柱が前庭を囲うようにコの字型になっている。前庭を囲う正面列柱は両翼部が左右対称
になるように計画されているが、平面の形は左右対称とはなっていない。左翼部はイン・アンティス
式の神殿によく似た平面形式になっている。
(2)実測値について
プロピライアに関しては、ディンズムア・ジュニアの詳細な報告書がある1)。分析に必要な実測値
は、殆ど全て、この報告書から得ている。また、平面寸法においては、同じ箇所の部分でも、壁の外
法寸法や内法寸法、或いは壁心など、複数の寸法値があり、前面や背面で寸法を取る位置の組み合わ
せを含むと相当な数になる。更に、プロピライアは3つの建物の複合建築となっており、その数は更
に増える。本章では、分析の結果、設計に特に重要だと考えられる寸法のみを、その中から選んで、
表 3-1 に示している。また、各部寸法を示す記号は、平面については図-1 に、立断面については図-2
に示している。
3−2 基本構想
(1)平面の基本構想
- 19 -
平面各部相互の比例関係を分析した結果、プロピライアの全体の計画は柱間数で計画された可能性
が見えてきた。先ず、中央建物の心々間標準柱間寸法(以下、標準柱間(I)と呼ぶ)と平面における
各部寸法間に多くの単純な比例関係が見られた。中央部や翼部のスタイロベイト上における基壇幅は、
クールトン氏が述べる「スタイロベイト上における基壇幅=(柱間数+単純な分数)×柱間寸法」に
適合する部分が多々見受けられる。詳細に関しては、後
に記載するが、これらの関係から、プロピライア全体の
基本構想が、標準柱間(I)の単純な倍数、即ち、柱間数
で、下記の様に構想されたと推測される。
中央部 幅:奥行き= 5 柱間 : 6 柱間
左翼部 幅:奥行き= 3 柱間 : 4 柱間
右翼部 幅:奥行き= 3 柱間 : 2 柱間
前庭 幅:奥行き= 7 柱間 : 2 柱間
これにより、中央建物や翼部建物のおおよその規模やそれらの配置ばかりでなく。中央建物と翼部で
生み出されるコの字形の前庭の平面形状が規定できる。前庭は、アクロポリスへのアプローチに直結
しており、アプローチの大階段がそのまま前庭の幅となる。アプローチをコの字に包み込むように建
築を配置することが意図された場合、上記の柱間数による大まかな設計は、基本構想を具現化するに
は極めて有効であったと推測できる。
(2)設計の始まり
プロピライアの前庭部分は神聖なアクロポリスに足を踏み入れる人々を初めに迎え入れる重要な部
分となる。また、クールトン氏は「アクロポリスに登っていく人は、プロピライアの左右非対称と南
西翼廊の平面とそのファサードがうまくあっていないことには気づかない。
・・・プロピライアの前庭
で人が受ける建築的な感銘を半減させるようなこともない。この建築的効果は、南西翼部と北西翼部
が非対称であるにも関わらず達成されたものであって、けっして完全な対称を単に無定見に追求する
ことにより達成されたものではないという事実は、ムネシクレスがこの空間に対して特別の興味を抱
いていたことを示している。この空間は、イクティノスによるパルテノン神殿の全体の設計にとって
その内部空間が重要であったと同じく、ムネシクレスによるプロピライアの全体にとって重要であっ
た。」と述べ2)、ムネシクレスが前庭という空間にこだわったことを示唆している。これらを鑑みれば、
この全体計画において初めに寸法が決定されたところは前庭に面する部分であることが推測できる。
各部寸法相互の比例関係の分析から、標準柱間寸法(I)が、各部寸法の設計に大きく関連している
ことは前記した。従って、最初に決定される前庭に関連する箇所から、設計の次の段階に移行するた
めには、最初に決定される寸法が標準柱間寸法(I)と比例関係が無ければならない。比例関係の分析
の結果、南北翼部の列柱が乗るスタイロベイトの内側間の寸法(WS;以下、翼部柱を含んだ正面基壇
幅)が、標準柱間寸法(I)の 7 1/4 倍であることが分かった。
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WS
= 7 1/4 I
(誤差 -0.006m)
従って、この部分から設計が始まったと仮定して、分析を進めることとした。
古代尺が 1ft.が 0.295
0.330m の範囲であった仮定し、翼部柱を含んだ正面基壇幅(WS)を古代尺
に換算すれば、実測値は 26.309m であるから、79.7
89.2ft.となる。最初に決定される寸法は、出来る
だけ単純な寸法値であることが望ましい。そこで、この範囲で単純な寸法値としては、80 ft.のみであ
る。従って、翼部柱を含んだ正面基壇幅(WS)、80 ft.として設計が始められたとする。
この寸法から標準柱間寸法(I)を算出すれば下記の通りとなる。
I
= W÷7 1/4
= 11 1/29 ft.
→ 11 ft.
(誤差 -0.006m)
この寸法から再度、翼部柱を含んだス正面基壇幅(WS)を再計算すると、下記の様になる。
WS
= 7 1/4 I
= 7 1/4 × 11ft.
= 79 3/4ft.
そこで、翼部柱を含んだ正面基壇幅(WS)からプロピライアに使用された古代尺 1ft.の長さを求める。
1ft.
= 26.309m ÷ 79 3/4ft. = 0.32989 m
そこで、本章では、1ft.=0.32989 m と仮定し、分析を進めることにする3)。
3-3. 中央建物の設計過程
(1)中央建物幅方向の設計過程
中央部建物の平面各部寸法は、標準柱間寸法(I)との比例関係が随所に見られた。
先ず。中央建物正面スタイロベイト上における基壇幅(WSc)と標準柱間寸法(I)との間には、下
記の比例関係が成立している。
WSc
= 5 5/6 I
(誤差 -0.038m)
中央建物正面は、正面6本のドリス式神殿のファサードと類似しているが、プロピライアの中央部分
を通り抜ける中央通路部分で、柱間が広くなっている。ドリス式の場合、柱間を広げるといっても、
適当な長さを自由に広げることは出来ない。即ち、フリーズのトリグリフ・メトープの装飾パターン
を壊すわけに行かないからだ。プロピライアの場合、標準柱間上部にはトリグリフ・メトープのパタ
ーンが2組、配置される、所謂2メトープ式となっている。中央部においては、そのパターンを1組
増やし、3パターン、所謂3メトープ式となっている。従って、中央通路部の心々間柱間寸法(IC;
中央部柱間寸法)は、標準柱間寸法(I)の 3/2 倍となる。
IC
= 1 1/2 I
(誤差 -0.006m)
中央部柱間寸法が通常の2メトープ式であったら、中央部正面スタイロベイト上における基壇幅
(WSc)は、WSc
= 5 5/6 I − 1/2 I = 5 1/3 I という比例関係となる。これはクールトン氏の示す後期ギ
リシア本土形のスタイロベイト上における基壇幅と柱間寸法との関係、「スタイロベイト上における
基壇幅=(柱間数+単純な分数)×柱間寸法」「単純な分数は 1/3 や 1/4」に一致する。即ち、プロピ
- 21 -
ライアの中央建物のスタイロベイト上での基壇幅(WSc)は、通常の正面6柱の神殿のファサードと
同一の設計手法となっていることになる。
上記したように、標準柱間寸法(I)は I = 11 ft. である。中央部柱間寸法(IC)は、上記の関係式
から算出すれば、16 1/2 ft.となる。スタイロベイト端から隅から2番目の円柱中心までの距離(IS;
第2柱位置寸法)は、IS = 1 1/6 I となり、結果的に 12 3/4 ft.と算出される。
I
= 11 ft.
(誤差 -0.001m)
IC
= 1 1/2 I
= 16 1/2 ft.
IS
= 1 1/6 I
= 12 5/6 ft.
= 12 ft. 13 1/3 dactyl
= 12 13/16 ft.
(誤差 -0.007m)
(誤差 -0.010m)
従って、これらの合計としてスタイロベイト上での基壇幅(WSc)は 64 1/8 ft.が求められる。これは、
スタイロベイト上での基壇幅(WSc)を標準柱間寸法(I)との比例関係で求めた場合と同じ結果であ
る。
WSc
= IC + 2 I + 2 IS
= 64 1/8 ft.
= 5 5/6 I
= 64 1/6 ft.
= 64 ft. 2 2/3 dactyl
→ 64 1/8 ft.
(誤差 -0.029m)
壁内法幅(WWi)との標準柱間(I)との間には、WWi = 5 I という比例関係がある。これは壁内法
幅(WWi)を単純に 5 柱間分として設計したと考えられる。.
WWi
=5I
= 55ft. (誤差 0.001m)
中央建物の円柱下部直径(Dd)と標準柱間寸法(I)との間にも、Dd = 3/7 I という比例関係が見ら
れる。これは、I = 2 1/3 Dd という関係であり、ヴィトルヴィウスが示す密柱式の I = 2 1/2 D という関
係に類似している。
Dd
= 3/ 7 I
= 4 5/7 ft.
= 4 ft. 11 3/7 dactyl
→ 4 11/16 ft.
(誤差
0.010m)
円柱を置く位置、スタイロベイトから隅の円柱の中心までの距離(SA;柱位置寸法)は、円柱下部直
径に 2 dactyl 加えることにより求められたと考えられる。
(2)中央建物奥行方向の設計過程
中央建物の奥行方向の長さにおいては、6柱間として基本設計がなされていることは先に述べた。
これは基本設計として、西側及び東側の円柱の中心間距離(DpC)が標準柱間寸法(I)の 6 倍として
構想されたようだ。
DpC
=6I
= 6 × 11ft.
= 66 ft.
(誤差 0.399m)
プロピライアは内部に門扉を配する壁がある。この門扉壁がプロピライアを 1:2 に分割する。即ち、
門扉壁から西側列柱中心までの距離(DpCw)が 4 I、門扉壁から東側列柱中心までの距離(DpCe)が
2 I である。
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DpCw
=4I
= 4 × 11ft.
= 44ft.
(誤差 0.506m)
DpCe
=2I
= 2 × 11ft.
= 22ft.
(誤差 -0.108m)
何れにしろ、実測値との誤差が大きいので、基本設計通りに施工されていないことは明確である。特
に正面側(西側)部分の距離で誤差が大きい。中央建物の西側部分では、中央通路沿いに、西側から
ドリス式円柱、3本のイオニア式円柱、門扉壁が並んでいる。それそれの中心間距離を見ると、イオ
ニア式円柱の心々間距離(Ii)は、標準柱間寸法(I)と同じであるが、ドリス式円柱とイオニア式円
柱の心々間距離(Id)やイオニア式円柱と門扉壁の心々間距離(Ig)は、標準柱間(I)より、幾分長
くなっている。
Ii
=I
= 11ft.
(誤差 0.010m)
Id
= 11 7/8 ft
(誤差 0004m)
Ig
= 11 9/16 ft.
(誤差 -0.007m)
ここで、比例関係の分析より、イオニア式円柱下部直径(Di)は標準柱間寸法(I の)2/7 倍として算
出される。即ち、Ii = I = 3 1/2 Di という関係である。
Di
= 2/7 I
= 3 1/7 ft.
= 3 ft. 2 2/7 dactyl
= 3 1/8 ft.
(誤差 0.005m)
また、門扉壁の厚さ(G)は、ドリス式及びイオニア式円柱の下部直径の中間の寸法となっている。
G
=(Dd + Di)/2
=(4 11/16 + 3 1/8)/2 ft.
= 4 ft. 14 1/2 dactyl
= 3 7/8ft.
(誤差 0.007m)
ここで、それぞれの柱間の内法寸法は、下記の様にして算出できる。
内法 Ii
= Ii - Di
= 11 ft. − 3 1/8 ft.
= 7 7/8 ft.
内法 Id
= Id − 1/2 Dd −1/2 Di
= 11 7/8 ft. − 2 11/32 ft. − 1 9/16 ft.
= 7 31/32 ft.
内法 Ig
= Ig − 1/2 Di −1/2 G
= 11 9/16 ft. − 1 9/16 ft. − 1 15/16 ft.
= 8 1/16 ft.
少々違いはあるが、プロピライア内部列柱においては、円柱の内法を同じくしようとした意図が読み
取れる。そこで、ドリス式円柱下部直径(Dd)とイオニア式円柱下部直径(Di)の差の 1/2、及び門
扉壁の厚さ(G)とイオニア式円柱下部直径(Di)の差の 1/2 を計算すると以下のようになる。
(Dd−Di)/2 =(4 11/16ft. − 3 1/8ft.)÷2
(G−Di)/2
= 25/32 ft.
=(3 7/8ft. − 3 1/8ft.)÷2
→ 13/16 ft.
= 3/8ft.
それぞれの計算結果を、イオニア式円柱の心々間距離(Ii)に加えれば、内法寸法を同じくしたドリ
ス式円柱とイオニア式円柱の心々間距離(Id’)と内法寸法を同じくしたイオニア式円柱と門扉壁の
心々間距離(Ig’)が算出される。これをそれぞれの心々間距離(Id、Ig)として、誤差を算出すれば、
下記の通りとなる。
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Id
= Ii + (Dd−Di)/2
= 11 13/16ft.
(誤差 0.016m)
Ig
= Ii + (G−Di)/2
= 11 3/8ft.
(誤差 0.054m)
プロピライア内部列柱の内法寸法を等しくするためには、上記計算値の合計、即ち、「13/16ft. + 3/8ft. = 1 3/16ft.」を、西側及び東側の円柱の中心間距離(DpC)及び門扉壁から東側列柱中心までの距離
(DpCw)に加えればよい。
DpC
= 66ft. + 1 3/16ft.
= 67 3/16ft.
(誤差 0.007m)
DpCw
= 44ft. + 1 3/16ft.
= 45 3/16ft.
(誤差 0.114m)
西側及び東側の円柱の中心間距離(DpC)においては、理論値と実測値の差が 7mm となった。即ち、
DpC = 11 I として設計された西側及び東側の円柱の中心間距離(DpC)は、円柱や壁の内法寸法を等
しくするために、1 3/8 ft.延長して施工されたことになる。また、これに柱位置寸法(SA)を東側、西
側に加えた長さが、スタイロベイト上での奥行長さとなる。
DpS
= DpC + 2 SA
= 67 3/16 + 2×2 1/2 ft.
= 72 3/4 ft.
(誤差 0.022m)
門扉壁から東側列柱中心までの距離(DpCe)が、22 ft.とした場合の実測値との誤差は「-0.108m」、
また、門扉壁から西側列柱中心までの距離(DpCw)では、上記で算出した理論値と実測値との誤差
が「0.114m」となっている。従って、門扉壁から東側列柱中心までの距離(DpCe)は、この分(約
1/4 ft. or 5/16 ft.)だけ短くなり、門扉壁から西側列柱中心までの距離(DpCw)では長くなったと考え
られる。その理由として、門扉壁がトイコベイトの東寄りに立てられたことに起因している様に思わ
れる。これは仕上げのことを考慮した収まりのようだ。その移動量としては現在の誤差から考えて 5
dactyl(= 5/16 ft.)であろう。その移動量は、それぞれの柱間に割り振られ、最終的な寸法が求められ
た。即ち、門扉壁とイオニア式円柱心々間距離(Ig)に 2 dactyl、イオニア式円柱心々間距離(Ii)に
1dactyl ずつ、ドリス・イオニア円柱心々間距離(Id)に 1dactyl 分配したと考えられる。これらを考慮
して最終的な奥行き方向の寸法を算出すると以下のようになる。
DpCe
= 22ft.− 5/16ft.
= 21 11/16ft.
(誤差 -0.005m)
DpCw
= 45 3/16ft. + 5/16ft.
= 45 1/2ft.
(誤差 0.011m)
Ig
= 11 3/8ft. + 1/8ft.
= 11 1/2ft.
(誤差 0.013m)
Ii
= 11ft. + 1/16ft.
= 11 1/16ft.
(誤差 -0.010m)
Id
= 11 13/16ft. + 1/16ft.
= 11 7/8ft.
(誤差 -0.004m)
3-4. 翼部平面の設計
(1)翼部幅方向の設計過程
翼部の幅方向については、ファサードに関しては左翼部と右翼部は左右対称に設計されている。幅
方向については左翼部、右翼部を併せて設計過程の分析を行う。
- 24 -
基本構想において、前庭に突き出した翼部の正面長さは、2 柱間分と構想された。中央建物と同じ
設計過程が取られているとすると、中央建物の列柱の延長線上にある翼部円柱の中心から、西側トイ
コベイト端までの長さ(WSw;翼部突出長)は、下記の様になる。
WSw
= 2 1/6 I
= 23 5/6 ft.
→ 23 7/8 ft.
(誤差 0.047m)
ここからムネシクレスは、翼部のオーダーを中央部のオーダーより小さくすることを考えたと推測さ
れる。中央建物の平面上の各部寸法の多くが、柱間寸法との比例関係で求められていることを鑑みれ
ば、翼部においても、柱間寸法を基準寸法として設計された可能性が高い。そこで、翼部の設計の基
準となる柱間寸法を縮小するることにより、オーダーそのものも縮小することが意図されたように思
われる。
柱間寸法を縮小するために 2 柱間のところを 1 1/2 倍の 3 柱間と変更する。従って、算出した翼部
突出長(WSw)の寸法を 3 柱間と考えて翼部標準柱間(Iw)を求めると次のようになる。
Iw
= WSw ÷ 3 1/6
= 23 7/8ft. ÷ 3 1/6
= 7 41/76ft.
→ 7 9/16ft.
(誤差 −0.012m)
以降、翼部の設計は翼部標準柱(Iw)を基準として設計が行われたと考えら得る。そして、翼部列柱
間距離(WSw)を再度求めると、23 15/16 ft.となる。
WSw
= 3 1/6 Iw
= 3 1/6
7 9/16ft.
= 23 91/96ft.
= 23 15/16ft.
ここで、1 dactyl 加えて、24 ft.という完数尺として施工されたと考えられる。
WSw
= 23 15/16ft. + 1/16ft.
= 24ft.
(誤差 0.006m)
翼部の西側トイコベイト端から円柱中心までの距離(ISw;第2柱位置寸法)は下記の通りとなる。
ISw
= 1 1/6 Iw
= 1 1/6 × 7 9/16ft.
= 8 79/96ft.
→ 8 13/16ft
(誤差 0.002m)
翼部突出長(WSw)は 24 ft.、第2柱位置寸法(ISw)は 8 13/16ft.であるので、翼部柱間寸法(Iw)
は事実上、下記の様に計算される。 Iw = (24 − 8 13/16)ft.
2 = 7 19/32 ft. (誤差 0.002m)
更に、3柱間分として構想された翼部幅(Ww)も、1 1/2 倍の 4 1/2 柱間として設計さたと推測され
る。翼部にも、トリグリフ・メトープが配置されている。クールトンの言う、「スタイロベイト上に
おける基壇幅=(柱間数+単純な分数)×柱間寸法」という比例関係は、フリーズにおいて、均等な
トリグリフ・メトープを作り出すための手法である。従って、翼部幅(Ww)そのものも、クールト
ンの比例関係式が適用出来る。
柱間数が 4 1/2 と言うのは、中央建物と同じく、もし、均等に列柱が配されたとしたら、その内一
つは3メトープ式のフリーズがあると言うことになる。従って、翼部隅柱間(ISw)が 1 1/6 I である
ことを考慮すると、Ww = (4 1/2 + 1/6) Iw = 4 2/3 Iw と考えることが出来る。また、翼部突出長(WSw)
- 25 -
が 3 1/6 Iw = 23 15/16 ft.と算出されている。残りの部分は 4 2/3 I − 3 1/6 I = 1 1/2 I となる。これを計算
すれば、下記の様になる。
1 1/2 I
= 1 1/2
7 9/16ft.
= 11 11/32 ft.
→ 11 5/16 ft.
= 35 1/4ft.
(誤差 0.025m)
従って、翼部幅(Ww)は下記の通りとなる。
Ww
= 23 15/16 ft. + 11 5/16 ft.
上記の計算過程は、翼部正面の突き出し長さを算出し、更に翼部正面の残りの部分を算出した後翼部
幅を決定し、その後、翼部突出長さを 24 ft.と 1 dactyl 長く施工し、翼部幅は計算通りに施工したこと
を示している。
なお、翼部の円柱下部直径(Dw)も、翼部の柱間寸法(Iw)との比例関係で求められるが、その比
は中央建物のドリス式円柱の場合と同一である。
Dw
= 3/7 Iw
= 3 27/112 ft.
= 3 ft. 3 6/7 dactyl
→ 3 1/4 ft.
(誤差 0.002m)
(2)翼部奥行方向の設計過程
北翼部奥行(Dpl)も幅方向と同じく、標準柱間(I)の 4 柱間分とされていたものを、1 1/2 倍の 6
柱間としたと考えられる。また、翼部正面や中央建物正面と同じ設計手順が適用出来るとすれば、Dpl
= 6 1/3 Iw という比例関係が成り立つことになる。また、北翼部前室奥行(DpPro)は翼部柱間寸法(Iw)
の2倍として、従って、北翼部後室奥行(Dpn)は翼部柱間寸法(Iw)の 4 1/3 倍となる。北翼部前室
奥行(DpPro)及び北翼部後室奥行(Dpn)を翼部柱間寸法(Iw)との比例関係から算出すれば、下記
の様になる。なお、北翼部後室奥行(Dpn)は、完数尺に丸められ、33 ft.として施工されたと推測さ
れる。
DpPro
= 2 Iw
=2
7 9/16ft.
= 15 1/8ft.
Dpn
= 4 1/3 IW
= 32 37/48 ft.
= 32 ft. 12 1/3 dactyl
→ 33 ft.
(誤差 -0.013m)
(誤算 0.002m)
従って、北翼部奥行(Dpl)はその合計の長さとなる。
Dpl
= DpPro + Dpn
= 15 1/8 ft. + 33 ft.
= 44 1/8 ft.
(誤差 -0.011m)
一方、南翼部奥行(Dpr)については、翼部柱間寸法(Iw)の 2 1/2 倍で設計されている。これは、
アテナ・ニケ神殿へのアプローチを確保するために、北翼部奥行(DpPro)より若干大きめの寸法に
することが意図されたためと考えられる。
Dpr
= 2 1/2 I
= 2 1/2 × 7 9/16ft.
= 18 29/32ft.
→ 18 7/8ft. - 26 -
(誤差 −0.010m)
3-5. 立面平面の設計
(1)中央建物及び翼部の外部立面寸法の設計過程
平面の各部寸法は、中央建物では中央建物の標準柱間寸法(I)と、翼部では翼部の柱間寸法(Iw)
との比例関係が多く見られた。立面の各部寸法においては、共に、中央建物においては中央建物のド
リス式円柱の下部直径(Dd)との、翼部においては翼部円柱下部直径(Dw)との比例関係が見られ
る。それも、同じ部位では同じ比例関係となっている。
先ず、中央建物の東側及び翼部においては、円柱高さ(CeH、CHw)は円柱下部直径(Dd、Dw)
の 5 1/2 倍となっている。中央建物西側の円柱高さ(CwH)は、東側より若干高く円柱下部直径(Dd)
の 5 2/3 倍となる。
CeH
CHw
= 5 1/2 Dd
= 5 1/2
4 11/16 ft.
= 25 25/32 ft.
→25 13/16 ft.
= 5 1/2 Dw
= 5 1/2
3 1/4 ft.
= 17 7/8 ft.
CwH
= 5 2/3 Dd
= 5 2/3
(誤差 0.021m)
(誤差 -0.044m)
4 11/16 ft.
= 26 9/16 ft.
(誤差 0.045m)
エンタブラチュアにおいても、アーキトレイブ高さ(AH、AHw)が円柱下部直径(Dd、Dw)の 3/4
倍、フリーズ高さ(FH、FHw)も、同じく 3/4 倍、コーニス高さ(CorH、CorHw)が 1/4 倍となる
AH
= 3/4 Dd
= 3 33/64 ft.
= 3 ft. 8 1/4 dactyl
→ 3 1/2 ft.
(誤差 -0010)
AHw
= 3/4 Dw
= 2 7/16 ft.
(誤差 0.002m)
FH
= 3/4 Dd
= 3 33/64 ft.
= 3 ft. 8 1/4 dactyl
→ 3 9/16 ft.
= 3/4 Dw
= 2 7/16 ft.
FHw
⇒ 2 1/2 ft.
CorH
CorHw
(誤差 -0010)
(誤差 -0.004m)
= 1/4 Dd
= 1 11/64 ft.
= 1 ft. 2 3/4 dactyl
= 2 3/16 ft.
(誤差 0.008m)
= 1/4 Dw
= 13/16 ft.
(誤算 0.017m)
中央建物においては、アーキトレイブ高さとフリーズ高さは、円柱下部直径と同じ比例関係で求めら
れるが、計算値の dactyl 以下の端数を、アーキトレイブ高さでは切り捨て、フリーズ高さでは切り上
げ、結果、1 dactyl だけ、フリーズが高くなる。一方、翼部においては、中央建物と全く同様の比例関
係で算出されるが、その計算値には端数が出てこない。そこで、翼部においては、アーキトレイブ高
さは計算値通りの寸法とし、フリーズ高さはそれに 1 dactyl 加えて寸法が決定されたと思われる。
また、トリグリフ幅(T、Tw)は、柱間寸法の 1/5 倍として算出される。これは、ヴィトゥルヴィ
- 27 -
ウスの示す比例関係と同一である。
T
Tw
= 1/5 I
= 2 1/5 ft.
= 2 ft. 3 1/5 dactyl
→ 2 3/16 ft.
= 1/5 Iw
= 1 41/80 ft.
= 1 ft. 8 1/5 dactyl
→ 1 1/2 ft.
(誤差 -0.013m)
(誤算 -0.004m)
中央建物の基壇は 4 段のクレピスで構成されている。その高さ(KreH)は中央建物のドリス式円柱
下部直径(Dd)の 4/5 倍として算出される。
KreH
= 4/5 Dd
= 3 3/4 ft.
(誤差 -0.020m)
即ち、1 段のクレピスはその 1/4 の 15/16 ft.となる。翼部では最下段のクレピスが大理石ではなく灰色
の石材でつくられ、3 段の基壇(KreHw)であるかのように見せている。即ち 15/16 ft.
3 = 2 13/16 ft.
が基壇高さとなる。
(2)中央建物内部立面寸法の設計過程
中央建物は、内部において東側と西側で床のレベルが異なっている。先ず、西側から中央の門扉に
向かって 4 段の階段があり(StpH)、3 5/16 ft.の高さとなっている。更に門扉壁の床まで 1 ft.上がり
(SH)、門扉壁床から東側スタイロベイトの上面まで、更に 1 ft.上がる(B)。即ち西側スタイロベ
イト上面と東側スタイロベイト上面までのレベル差が、5 5/16 ft.あることになる。
StpH
= 3 5/16 ft.
(誤差 0.012m)
SH
= 1 ft.
(誤差 -0.003m)
B
= 1 ft.
(誤差 -0.008m)
東西スタイロベイトのレベル差 = 5 5/16 ft.
(誤差 -0.001m)
中央建物の内部柱であるイオニア式円柱の高さ(CiH)は、イオニア式円柱の下部直径(Di)の 10
倍となっている。また、内部のアーキトレイブ高さ(AiH)は、2 9/16 ft.となっている。従って、円柱
底面からアーキトレイブ上面までの高さ(a)は、これらの合計となる。
CiH
= 10 Di
= 31 1/4 ft.
(誤差 -0.009m)
AiH
= 2 9/16 ft.
(誤差 0.009m)
a
= 33 13/16 ft.
また、西側正面のスタイロベイト上面からフリーズ上面までの高さ(b)は、次の通りとなる。
b
= CwH + AH + FH
= 33 11/16 ft.
a と b の寸法の類似は、西側正面のフリーズ上面とイオニア式内部柱上に乗るアーキトレイブ上面が
おおよそ揃えられ、天井梁が架けられていることを示している。
また、西側の床面から門扉壁床面には 4 段の階段(StpH)と門扉壁のトイコベイト(SH)、それに
門扉壁のトイコベイト上面から東側スタイロベイト上面(B)まで、徐々にレベルが上がっている。
その合計は下記の様になる。
- 28 -
StpH
= 3 1/4 ft.
(誤差 0.033m)
SH
= 1 ft.
(誤差 -0.003m)
B
= 1 ft.
(誤差 -0.008m)
レベル差の合計
= StpH + SH + B
= 5 1/4 ft.
尚、階段の 1 段の高さは 13/16 ft.である。東側のドリス式円柱高さ(CeH)にこのレベル差を加えれば、
西側床面のレベルから東側円柱上面までの高さ(c)が算出される。
c
= レベル差の合計 + CeH
= 31 1/16 ft.
この寸法は、内部のイオニア式円柱に類似しており、イオニア式円柱上面と東側円柱上面がおおよそ
揃えられていたことを示している。
3-6. Waela の示す設計法
(1)Waela の示す設計法
パルテノンの章でも記したが、本稿のように、設計の始まりから終わりまで、その設計過程を考察
し、細部に至るまでの設計過程を分析した論文は少ない。プロピライアに関しては、ヴァエラのもの
が唯一であろう4)。そこで、本節では、ヴァエラの提案する設計法に関し分析し、その評価を試みる。
なお、ヴァエラの示す比例関係を表 3-2 にまとめた。その比例関係に係る各部を図-3 に示す。また、
ヴァエラの設計法を分析するに当たり、各部の呼称や設計手順の記載の形式については、本稿の形式
に合わせて書き直した。
【設計に使用された基準寸法】
Waele は、各部寸法を分析することにより、Propylaea に使用された1ft.の長さを、0.302 m として結
論した。そして、その7倍の 2.114 m が、平面の基準寸法と考えている。
基準寸法を M(= 7ft.)で示せば、中央建物は、以下のようになる。
基壇幅
A
= 10 M
= 70 ft.
(-0.015 m)
基壇長さ
H
= 12 M
= 84 ft.
(+0.015 m)
次に、北翼部の深さ(B)が 57 ft.と結論づけられている。これは、8 M + 1 ft.である。また、南翼部
の深さ(C = 28 ft.)は、4 M で、北翼部の深さ(B)は、そのおおよそ約2倍であるとしている。
北翼部深さ
B
= 8 M + 1 ft.
= 57 ft.
(+0.123 m)
南翼部深さ
C
=4M
= 28 ft.
(-0.085 m)
翼部の幅(E)は 6 M = 42 ft.で、中央建物の基壇長さ(H)の 1/2 となっている。即ち、H:E = 2 : 1
である。また、翼部幅(E)と F, D との比例関係は 2:3 となる。
翼部幅
E
=6M
= 42 ft.
(-0.052 m)
F, D
=9M
= 63 ft.
(0.104 m)
- 29 -
【基本設計の段階】
Waele は、比例関係の分析から、Mnesikles の設計過程には2段階あると指摘している。最初の段階
は、基準寸法(M = 7 ft.)の倍数で決定される段階である。従って、上記している M の倍数で示され
る寸法も基本設計の段階である。また、北翼部長さ(B)では、8 M に 1 ft.加えられて、最終寸法が算
出されている。即ち、1 ft.加えるのが微調整の段階である。
中央建物は、その基壇長さ(H)が、12 M であり、それが1:2に分割され、中央扉の東側ホール
(I)と西側ホール(J)に分割される。
基壇長さ
H
= 12 M
= 84 ft.
東側ホール
I
= 1/3 H = 4 M
= 28 ft.
西側ホール
J
= 2/3 M = 8 M
=56 ft.
(+0.015 m)
北翼部(Pinakoteke)の深さ(B)は西側ホールと、南翼部の深さ(C)は東側ホールと同じ寸法とさ
れた。
北翼部深さ
B
=8M
= 56 ft.
南翼部深さ
C
=4M
= 28 ft.
(-0.085 m)
更に、北翼部の円柱中心から南翼部の円柱中心までの距離(以下、西正面列柱幅)は、基壇長さ(H)
と同じとされた。
= 12 M
西正面列柱幅
= 84 ft.
(+0.015 m)
【微調整の設計】
Waele は、第2段階は微調整の段階であったと考えている。先ず、中央扉の壁位置を西側へ 1 ft.、
寄せられた。その理由は、中央建物の西側ホールのドリス式円柱、イオニア式円柱、中央扉の壁のそ
れぞれの内法距離を等間隔とするためである。
東側ホール
I
= 28 ft. + 1 ft.
= 27 ft.
(-0.069 m)
西側ホール
J
=56 ft. - 1 ft.
= 55 ft.
(+0.084 m)
= 27 ft.
(-0.073 m)
次に北翼部(Pinakoteke)の深さ(B)を 1 ft.、延ばされた。
北翼部深さ
B
= 56 ft. + 1 ft.
これは、初期の杭打ち工事の段階に原因があると、Waele は独自の考えを展開している。即ち、Mnesikles
は、工事を始める際、南北方向全体を 1 1/2 plethron(= 150 ft.)に 5 ft.を加えた長さ(= 155 ft.)、東
西方向の全体を 1 plethron(= 100 ft.)に 5 ft.加えた長さとして、敷地を実測した。
建築全体幅(Propylaia 幅)
全体長さ
=B+A+C
= D, F + E
Ideally
= 154 ft.(22 M)
= 105 ft.(15 M)
Executed
= 155 ft.(31
= 105 ft.(21
5 ft.)
5 ft.)
Waele の実測によれば、南北方向の全体長さ(Propylaia の幅)は、47.026 m である。これは、北翼部
(Pinakoteke)北壁の toichobate 北端から、 南翼部の南壁の toichobate 南端までを、西側ホールの円柱
- 30 -
の中心軸線上で計測した寸法である。翼部における壁から toichobate の出っ張りが、南北それぞれ 98
mm、72 mm あるのでこれを差し引き、南北方向の壁の外面間での長さ(= W、Propylaia の幅)は、46.865
m となる。
Propylaia 幅
W
(46.865 m)
= 155 ft.
(+0.055 m)
また、Propylaia 幅は、設計の初期の段階では、北から順に、下記のように設計され、矢印の右の様に
微調整された。(Fig. 28 参照)。
北翼部ナオス
5 M(35 ft.)
→
35 1/2 ft
(+0.007 m)
北翼部プロナオス円柱中心
2 M(14 ft.)
→
14 1/2 ft.
(+0.065 m)
北翼部から中央通路まで
5 M(35 ft.)
→
35 1/2 ft
(-0.018 m)
中央通路
2 M(14 ft.)
→
12 1/2 ft.
(-0.025 m)
南翼部から中央通路まで
5 M(35 ft.)
→
35 1/2 ft
(-0.015 m)
南翼部円柱中心
3 M(21 ft.)
→
21 1/2 ft.
(+0.041 m)
合計
22 M(154 ft.)
→
155 ft.
(+0.055 m)
更に、北翼部プロナオス円柱中心から南翼部円柱中心までの距離は 35 1/2 ft. + 12 1/2 ft. + 35 1/2 ft. = 83
1/2 ft.とまり、建築全体の長さの 84 ft.に近い寸法となることを、Waele は指摘している。
(2)Waele の示す設計法に対する評価
Waele は、基本的には 1 ft. = 0.302 m の尺度を用いて、平面各部の寸法を求めており、各部寸法は、
単純な古代尺で表記されている。また、1 ft.以下の尺度は、1/2 ft.、若しくは 11/4 ft.しか用いておらず、
全体的に極めて単純な尺度表記であると評価することが出来る。
しかし、Waele は、1 ft. = 0.302 m 以外に、石材寸法には 1 ft. = 0.294 m(AT = Attic feet、通常 Ionic feet
と呼んでいる)が、石材の高さ寸法には 1 ft. = 0.3272 m(DF = Doric feeet)が使用されたことを示唆
している。ただし、それらは相互に検討され、最終的には 1 ft. = 0.302 m が使用されたものの、その影
響が中央建物中央入口の寸法に現れているとしている。
何れにしろ、Waele の提案する古代尺による換算は、評価することが出来るが、様々な点で疑問も
ある。
先ず、基準寸法(M = 7ft.)を用いた各部寸法決定の過程に、いくつかの疑問点がある。Waele は、
基準寸法(M)の倍数で寸法決定される段階を、設計の初期の段階としている。これによれば、中央
建物の基壇幅(A = WS)は、10 M、基壇長さ(中央建物の深さ、H)が 12 M、その比が5:6であ
ることを示している。ところが、基壇幅はスタイロベイト上での長さであるのに対し、基壇長さは、
東側のスタイロベイト端から、西側の最下段の基壇端までの距離としている。
Propylaea は、東側の基壇は1段のクレピスとスタイロベイトで構成されている。また、西側は3段
のクレピスとスタイロベイトで構成されている。基壇は、通常2段のクレピスとスタイロベイトで構
成されていることを考えれば、東西ともに、通常の形式とは異なる。
- 31 -
西側の基壇が3段で構成される理由は、東西翼部との基壇の調和が考えられている。翼部は中央建
物に比較して巣のスケールが小さく、従って、基壇も低くなる。基壇は翼部に調和させ、2段のクレ
ピスとスタイロベイトで構成された。しかし、正面では建築のスケールが大きく、翼部に調和した基
壇では、正面では小さすぎると考えられた。そこでムネクシレスは、1段のクレピス高さは同じにし
て、正面は1段多い3段のクレピスにスタイロベイトで構成したと考えられている。翼部全面にも、
正面基壇の最下段は巡らされているが、これは灰色の石灰岩を使用し、他の部分のペンテリコンの大
理石と区別している。
Waele は、基壇の設計を行う場合、西側の基壇を、最下段のクレピスを含む長さで検討しているが、
西側でクレピスではなく、スタイロベイト上での寸法となっている。また、Propylaea の正面幅におい
ても、クレピスではなく、スタイロベイトにおける幅として設計されている。即ち、5:6という比
例関係が、設計者に意識されたとしたら、同じレベルで、即ち、全てスタイロベイト上で、或いは全
て基壇を含んで、5:6という比例関係を実現しようとしたのではないかという、疑問が残る。
次に、北翼部の深さ(B)が、基準寸法(M)の8倍に 1 ft.加えられている。その理由として、基準
寸法(M = 7 ft.)の倍数で寸法を決定した基本設計と、施工時に使用した物差しの長さ(5 ft.)が異な
ることに起因していると説明している。しかし、物差しの長さが 5 ft.であった根拠は一切無く、1 ft.
延びる理由とはなり得ない。
また、これとは別に、Propylaea の全体幅を、各部寸法を M の単純な倍数で決定した後、それらの
寸法に 1/2 ft.をそれぞれ加えて、最終寸法を決定した設計過程を示してる(前述)。即ち、北から、
全体幅
= 5M + 2 m + 5 m + 2 M + 5 M + 3 M
= 35 ft. + 14 ft. + 35 ft. + 14 ft. + 35 ft. + 21 ft. = 154 ft.
= 35 1/2 ft. + 14 1/2 ft. + 35 1/2 ft. + (14 - 1 1/2) ft. + 35 1/2 ft. + 211/2 ft.
= 155 ft.
としている。各部に 1/2 ft. 加えるのも理解できないが、中央通路部分だけは 1 1/2 ft.引いているのは、
更に理解に苦しむ。
Waele の説明で、最大の疑問点は、基準寸法(M)により、Propylaea の全体寸法の決定は可能かも
しれないが、基準寸法(M)は細部の寸法とは一切無関係である。例えば、中央建物、スタイロベイ
ト上での基壇幅は、10 M = 70 ft.であるは、その円柱の心々間寸法は、
中央部柱間
IC
= 18 ft.
2 4/7 M
標準柱間
I
= 12 ft.
1 5/7 M
第 2 柱間寸法
IS
= 14 ft.
=2M
となる。なお、「第 2 柱間寸法」とは「隅から 2 番目の柱からスタイロベイト端までの距離」のこと
である。これを見ると、第 2 柱間寸法は基準寸法(M)の 2 倍であるが、中央柱間も標準柱間も基準
寸法とは単純な比例関係などは無い。まして、標準柱間寸法と中央柱間寸法が 2:3 という比例関係を、
基準寸法(M)から、いかにしたら求められるか、不明である。
- 32 -
以上のことから、Waele は Propylaea の各部寸法が、0.302 m という寸法との単純な比例関係がある
ことは示しているが、それらの寸法が、如何なる理由で、或いは他の寸法との如何なる比例関係で決
定されたのかは示しておらず、Propylaea の各部寸法が決定される設計過程を説明したことにはならな
いと判断できる。
3-7. まとめ
プロピライアはアンフィ・プロスタイル形式のドリス式の中央建物に、その南北に翼部を持つ建築
である。その設計過程をまとめると下記の様になる。
1)プロピライアはコの字形の複合建築とし、アプローチである大階段を意識し、コの字で囲まれた
前庭を 80ft.として構想する。これより基準となる中央建物の標準柱間寸法を算出する。
2)標準柱間寸法の倍数、即ち柱間数で、中央建物、翼部建物、コの字形前庭の概要を設計する。
3)標準柱間寸法との比例関係で、中央建物の平面上の基本的な寸法を決定する。
4)標準柱間の倍数、2 柱間分として設定された、コの字形を形成する翼部突出部分を、3 柱間として
設定し、翼部の柱間寸法を決定する。即ち、翼部は中央建物の 2/3 へとスケールダウンして設計
される。
5)翼部の柱間寸法との比例関係から、翼部の平面上の基本的な寸法を決定する。
6)立面に関しては、柱間寸法から導き出された円柱下部直径との直接的な比例関係から、殆どの寸
法が算出される。
プロピライアにおいては、中央建物と翼部は、3:2 という比で関係づけられ、設計過程やその比例関
係の基本的な概念が全く同一であった。その上、その比例関係においても、全く同じ比が用いられて
おり、翼部は正に中央建物を 2/3 に縮小して設計された。
平面上の各部寸法は柱間寸法を基準として、また立面上の寸法は円柱下部直径を基準として、その
単純な比例関係から、直接、オーダー各部の寸法を決定していく設計過程は、正に、ヴィトルヴィウ
スがドリス式神殿で示しているモデュラー方式そのものである。ただし、内部立面の設計法や、古代
尺の復元に、更なる検討が必要と思われ、上記の設計法を再検証する必要を感じる。
注及び参考文献
1)
W.B.Dinsmoor Jr., THE PROPYLAIA TO THE ATHENIAN AKROPOLIS, NEW JERSEY,2004
なお、寸法が不足している場合や、不明確である点の確認のための補足としては注 4)の waela の文献より下記より補足し
た。
2)
J.J.クールトン著、伊藤重剛訳、古代ギリシアの建築家たち、中央公論美術出版会、1991、pp.167
- 33 -
3)
WS = 80 ft.から標準柱間寸法(I)を計算すれば、I = 11 1/29 ft.となることは先に記した。この端数を切り捨てれば I = 11 ft.
となるが、切り上げれば I = 11 1/16 ft. = 11 ft. 1 dactyl となる。この 11 1/16 ft.から WS を再計算すれば、
WS
= 7 1/4 I
= 80 13/64 ft.
→ 8 1/4 ft.
と、算出できる。この場合、古代尺 1 ft.は、0.32784 m となる。本論文では、標準柱間寸法(I)は、各部寸法決定に際し
て基準寸法となることを考慮し、古代尺の完数である 11 fr.として分析を進めることにした。しかし、この場合、1 ft. =
0.32989 m と、ドリス尺にしては幾分大きすぎる観がある。これに対し、1 ft. = 0.32784 m は妥当な長さであり、この古代
尺寸法を使用した分析が必要であると考えられる。
4)
J Jos De Waele, THE PROPYLAIA OF THE AKROPOLIS IN ATHENS −THE PROJECT OF MNESIKLES−, AMSTERDAM
1990
- 34 -