論文指導授業 - 北海道大学情報基盤センター

論文指導授業
日本では論文指導の在り方についての教授法はまだまとまっていない。それだけに、論文評
価を依頼された TA は以下の内容をよく理解した上で、授業担当教員から論文出題の意図と評価
設定を確認し論文指導並びに論文評価をすることが望まれる。
I. 文章の種類
A. 書き手の構成
単著:一人での執筆
共著:複数人による共同執筆
編著:複数人による分担執筆
B. 文章の種類
1. 主観的文章:個人的経験や思想を反映させて書く。
i. 個人的文章
日記
手紙
感想文
ii.
公的文章
随筆
論説
2. 客観的文章:客観的事象を効率的に書く。
i. レポート:記録・効用を明示する。
企画書
報告書
講義ノート
ii. テクニカル・ライティング:情報を明確に伝える。
アブストラクト(要旨・あらすじ)
新聞記事
取り扱い説明書
オンライン・ヘルプ
iii.
研究論文:研究対象に新たな指標を提供する。
授業用論文
学位論文
学術論文
II, 授業用研究論文の書き方・指導方法
A. 書く前に
・
字数制限並びに締切日を確認し完成までの計画を立てる
・
新規性のあるテーマの設定
・
先行研究の調査
・
予備実験、ブレイン・スト− ミング、イメージ・ライティング
・
アウトラインの構想
B. アウトライン
基本形は序論・本論・結論で構成する。そのなかでさらに細かく構成を吟味する。長
めの研究論文は、数字やアルファベットで章・節立てをする必要がある。I-A-1-i-a な
どの順がわかりやすい。
i. 実証系論文(テクニカル・ペーパー):実験・調査・歴史等、明示的事実を扱う
題目:論文の内容を端的に示す。Topic、Method、Purpose を組み込む。
序論:先行研究の紹介や課題など、本研究に至までの経緯を述べる。
本論:方法や材料、実験・調査結果、そして考察の順で行程に沿って書く。
結論:序論・本論を振り返りながら、最終的な成果を述べる。
参考文献:関連分野の書式に沿ってリストアップする。
ii. 弁証系論文:哲学・文学等、含意的事実を扱う。
弁証法的アプローチとして代表的なのは以下の二つ。推論を立証していく演繹
型論文は執筆者の思考過程をそのまま示すという点で書き手にとっての利点はあ
るが、読者には最後まで読まないと理解できないという欠点がある。結論を最初
に示し立証していく帰納法型論文はその逆である。アメリカの大学一年生向けの
論文授業ではこれが指導される。
また、ストーリー性のある作品(文学作品や映画)についての論文の場合、プ
ロット(ストーリーライン)に沿って論を進めるのは必ずしも得策ではない。論
文のテーマに合わせて作品を脱構築しアウトラインを構成する必要があるときも
ある。
a. 演繹型論文:起・承・結による構成
1
題目:比較的抽象的に論文の課題を表わすか、疑問文で示す。
2
起:先行研究の紹介や課題など本論文執筆に至までの経緯を述べ、問題提起をす
る。
3
承:問題提起を受けて派生する様々な対案・仮説を創出し、テキスト及び参考文
献へ言及しながらその真偽を検証する。
4
結:序論・本論を振り返りながら、最終的な説を述べる。
5
参考文献:関連分野の書式に沿ってリストアップする。
b. 帰納法型論文:要・証・展による構成
1
題目:具体的に論文の内容を表わす。
2
要:本論文の要旨と新規性を簡潔に述べる。
3
立証:要旨を構成する柱に沿って、テキスト及び参考文献へ言及しながらその真
意性を証明する。
4
展:新規性の確認と可能性を述べる。
5
参考文献:関連分野の書式に沿ってリストアップする。
C. 書くときの基本常識
・
原稿用紙(400 字詰めが標準)使用の場合は、黒ペンを使う。ワープロ・コンピュータ使
用の際は A4 用紙(40 字×40 行程度)が標準。
・
論文の題目(タイトル)は、最初の行に書く。通常上から3文字空け、ワープロ・コンピ
ュータ使用の横書きの場合はセンタリングして書く。
・
学生番号・名前は2行目に書く。縦書きの場合は下詰め、横書きの場合は右詰めで書く。
・
新しい段落は一文字空けて始める。
・
主語・述語を明確にする。
・
「て・に・を・は」などの助詞を的確に使う。
・
句読点を正しく使う。
・
「だ・である」調を使う。
・
形容詞・副詞・接続詞は多用しないで効果的に使う。
・
ワープロ・コンピュータ使用の際、数字やアルファベット表記は半角にする。
・
誤字・脱字を無くす。
・
一文にあまりにも多くの情報を組み込まない。
・
「流れるような文章」を心掛ける。
D. 序文の書き方
論文の基本概念を必ずここで説明する。核となるキーワードをいくつかここで挿入し
ておく。ただし、基本概念の提示方法は各論文型によって大きく異なるので、II-B を参
照しながら付録2の例文を参考にするとよい。
E.
本文のパラグラフ・ライティング
本文はパラグラフ(形式段落ともいう)というたくさんの小さな箱から成る入れ子箱
のような構造をとる大きな箱と考えてよい。論文の序文が概論ならば、本文のパラグラ
フ・ライティングは各論の部分であり、それだけにしっかりとした構造と内容が要求さ
れる。ただし、実証系そして弁証系でも演繹型と帰納法型では本文展開方法が大きく
異なるので以下に分けて説明する。
i
実証系論文のパラグラフ・ライティング:事実のみをコンパクトに行程に沿って書
く。
1 方法や材料:結果や結論を導く方法や材料について述べる。論文の新規性を表わす。
2
結果:実験・シミュレーションなどの結果を、データ(図・表)を添えて述べる。
3
考察:結果から目的の結論を導く。
ii 弁証系論文のパラグラフ・ライティング
弁証系の論文のパラグラフ・ライティングは、一つあたり4文以上1ページ未満
の長さが望ましい。したがって、各パラグラフでは序文のキーワードを一つ程度選
び、
それを詳しく検証・立証する。
パラグラフは論文の序論・本論・結論同様、トピック・センテンスで始まり、サポ
ーティング・センテンス、そしてコンクルーディング・センテンスで終わる。
弁証系論文のパラグラフ・ライティングの基本概念:
1
トピック・センテンス:パラグラフで論証される話題を紹介する。検証するキーワード
を伴うこと。
2
サポーティング・センテンス:トピック・センテンスで導入された話題を具体的に検
証・
立証していく複数の文からなる。
3
コンクルーディング・センテンス:パラグラフ内の議論をまとめる。
a 演繹型論文:
1
トピック・センテンス:基本的に推論のかたちをとる。疑問形や先行研究に言及す
るトピック・センテンスの使用も可能。
2
サポーティング・センテンス:推論を広げて一つ一つ丹念に検証する。回答・懐疑の
かたちをとり、推論の真偽性の検証を重ねる。
3
コンクルーディング・センテンスでは新説を導き出す。
b 帰納法型論文:
1
トピック・センテンス:そのパラグラフでの主題をキーワードを軸に述べる。
2
サポーィング・センテンス:キーワード展開させ、いくつかの例を基にトピック・セ
ンテンスを立証する
3
コンクルーディング・センテンス:トピック・センテンスを新たなかたちで確証す
る。
D. 結論の書き方:各論文型によって大きく異なるので、II-B を参照すること。
i 実証系論文:
本論での結果を考察し新規性の有無を示す。
ii 弁証系論文:
a 演繹型論文:
推論の結果何が結論として正しいと認められるのかを明記する。
b 帰納法型論文:
序論で立ち上げた論が正しいことを再述するが、しつこい繰り返しにならないよう注
意する。
その他の注意点
・
盗用・剽窃しない。著作権法以外にも学内での罰則規程あり。参考文献やインターネッ
トなどからの引用は必ず出典を明記する。
・
当該分野の論文執筆形式または授業担当教員の指示する形式を遵守する。
・
客観的な表現をする。
・
偏見や差別的な表現を使わない。
・
推論や仮説で終わらない。
・
議論に一貫性を持たせる。
・
テキストや最新及び信頼ある参考文献・実験結果などを十二分に活用する。
・
注や図・表を活用する。
F. 書いた後で
・
声を出して読む。
・
文言・記述内容などに気をつけ推敲を重ねる。
・
できれば第三者に読んでもらい意見を聴く。
IV. 論文評価の心構え
論文評価ほど複雑な評価基準を持つものはない。基本的な表現から始まり、論述対象へ
の理解度、理論構成、そして論文自体の学術貢献度のレベルまで、注目すべきは多種多様であ
る。したがって、TA の役割は授業担当教員の出題の意図と評価の基準または着眼点、並びに配
点を論理的に理解していなければならない。しかも、最近ではインターネット等からの無断引
用(盗作・剽窃)が増加する傾向にあるので、執筆指導中における注意・予防並びに評価時にお
ける究明策を施す必要がある。総じて、論文指導のクラスでは、学生からクレームがついた時
に、説明責任がとれるよう特に準備しなければならない。
・
授業担当教員の出題の意図と評価の基準を確認する。
語法、展開方法、内容、構成、発想、結果、配点(総合点、部分点、印象点)
など。無断引用を発見した場合の対応方法など。
全ての論文に目を通して、全体の出来具合いを把握し個々の論文の評価・採点を始める。
できれば、いくつか採点したものを授業担当教員に見せて、評価結果がそれでよいか確認す
る。
一貫した評価基準を維持する。
全体の評価が終われば、簡単なデータ(個人とクラス全体における項目別評価表)を作り、それ
に TA のコメントを加えて科目担当教員に提出。
付録1:論述方法の違い
実証系論文
弁証系演繹型論文
弁証系帰納法型論文
序論
本研究の目的・方法
問題提起・推論
本論の要旨
本論
実験方法1⇒結果⇒考察
推論1⇒検証⇒立証/否定
要旨1⇒検証⇒立証
実験方法2⇒結果⇒考察
推論2⇒検証⇒立証/否定
要旨2⇒検証⇒立証
実験方法3⇒結果⇒考察
推論3⇒検証⇒立証/否定
要旨3⇒検証⇒立証
研究全体のまとめ
最終論の決定
要旨のまとめ
結論
付録2:各種論文展開の例。
課題:「ウサギの目はなぜ赤いか説明せよ」
i
実証系論文
固体検査による「赤目ウサギ」の遺伝性
赤木
瞳
序論
これまで突発性のアルビノであるとされてきた「赤目のウサギ」200体を個別検査
することにより、「赤目」になる遺伝因子を究明する。(略)
本論
実験1
まず、因幡に赴き、「白ウサギ神話」の子孫達にインタビューを試みる。現在の赤
目の白ウサギ達に直接会い、彼らの先祖の目の色がどうだったかをテープレコーダー、
デジカメ等に収録する。(略)
インタビューできた33体のうち、31体までが自分の先祖は皆赤目であったと証
言。図10のように、「赤目のうさぎ」は突発性ではなく、遺伝的なものと推測できる。
実験2
次に、藻岩山に行き、黒目のエゾ鳴きウサギにインタビューを試みる。(略)エゾ
鳴きウサギには赤目ウサギの先祖は存在せずすべて黒目であった。(表15参照)。(略)
結論
「赤目ウサギ」は遺伝であることが、今回初めてウサギ達に直接インタビューする
ことで証明された。
ii
弁証系演繹型論文
ウサギの目はなぜ赤いか
赤野
次文
序論
ウサギの目はなぜ赤いのだろう。人間には茶色や青、灰色の目の人がいるが、赤い目
の人はいない。きっとウサギの目の「赤色」には、何か人間にはない特別な意味があるの
だろう。(略)
本論
まず、「赤い目」で連想されるのは寝不足の目である。ウサギはいつもおどおどして
回りをじっと観ているか、口をもぐもぐさせている。臆病さと食欲で寝る時間がないの
かも知れない。(略)
また、「赤い目」と言えば、涙目である。ウサギは声を出せない為に、目で泣いている
ことを表現しているのだろうか。(略)しかし、ウサギが24時間泣く原因は思い当たら
ない。
結論
ウサギの目はなぜ赤いか、それはウサギの勝手でしょうとうことかも知れない。しか
し、目の色について考えることで、我々はウサギに対し我々自身の目の色も変えること
ができる。ウサギの赤い目は我々自身の多義性を写し出すために存在している。
iii
弁証系帰納法型論文
社会的弱者としての赤目のウサギ
旗色
弱志
序論
ウサギの赤目はポストモダン以降の少数派擁護運動の象徴であり、社会的階級の底辺
で犠牲者となっている人々の訴えの目である。
本論
第二次世界大戦後欧米で始まった反体制運動は、先住民族やアフリカ系アメリカ人な
どの少数派を擁護する動きであった。(略)
少数派民族の弱者としての存在はウサギの白さに象徴される。純粋さや無罪を表わす
白は、、、(略)ウサギの赤目は、少数民族のもうこれ以上涙もでない苦しみと悲しみの
表れである。このようなウサギの目と非暴力主義を実践する弱者の目には、明らかな共
通点がある。
結論
資本主義社会における階級の問題はウサギの目を赤く染めることで我々に提示され
てきた。マルクス共産主義の赤旗はウサギの目の赤であると言っても過言ではないだろ
う。
付録3:論文執筆のための参考書並びにホームページ(長谷部秀孝氏の HP による)
大学生のための研究論文のまとめ方:データ収集からプレゼンテーションまで(1998 文化書房博文社 002.7¦¦N43)、
研究の進め方・まとめ方:学生・初心者のためのガイドブック(1980 川島書店 002.7¦¦SH85)、大学生のための研究の進め方・ま
とめ方(新版)(1994、1997 大学教育出版 002.7¦¦TA93)、学生・院生のための研究ハンドブック(第3版)(2001 大学教育出版
002.7¦¦TA93)、情報大航海術:テーマのつかみ方・情報の調べ方・情報のまとめ方(1997 リブリオ出版 007.5¦¦KA83)、レポート
を書くためのパソコン入門(1997 岩波書店 007.6¦¦O28)、レポートを書くための表計算活用(1998 岩波書店 007.6¦¦O28)、卒論
作成マニュアル:よりよい地理学論文作成のために(1994 古今書院 290.1¦¦MA61)、経済論文の作法:勉強の仕方・レポートの書
き方(1996 日本評論社 330¦¦KO27)、「さすが」と言われる書き方の技術:文章の達人になる勘どころ(2000 ロングセラーズ
336.5¦¦B42)、「実例」レポート・報告書の書き方:ビジネス現場ですぐに役立つ、見せ方・まとめ方の技術(1995 大和出版
336.5¦¦SH11)、「説得できる」文章・表現 200 の鉄則:パソコン・横書き時代の文書テクニック(新装版)(1994 日経 BP 出版セ
ンター336.55¦¦N25)、聞くに聞けない文書の書き方(1997 三心堂出版社 336.55¦¦W48)、受講ノートの録り方:大学・短大で学ぶ
人のために(1983 蒼丘書林 377¦¦SA25)、速く書く:講義・講演筆記の技法(1987 蒼丘書林 377¦¦SA25)、大学生の学習テクニッ
ク(1995 大月書店 377.15¦¦MO45)、論文作法:調査・研究・執筆の技術と手順(1991 而立書房 801.6¦¦E19)、文章構成法(新版)
(1995 東海大学出版会 801.6¦¦MO62)、文章を書こう!:1200 字からはじめる自己表現入門(1997 ベネッセコーポレーション
816¦¦A63)、大学生のための知的文章術(1997 燃焼社 816¦¦I11)、加藤諦三の文章の書き方・考え方(1998PHP 研究所 816¦¦KA86)、
うまい!と言われる文章の技術(1998 三笠書房 816¦¦KU94)、論文・レポートの書き方:構成力・表現力を身につける一〇〇のポ
イント(1978 日本実業出版社 816¦¦MI24)、論理的に書く方法:説得力ある文章表現が身につく(1997 日本実業出版社 816¦¦O67)、
文章の書き方:会得の12ポイント(1997 丸善 816¦¦SA29)、「いい文章」の書き方(1994 三笠書房 816¦¦SE57)、「書く力」を
つける本(1998 三笠書房 816¦¦SE57)、すぐに役立つ文書の書き方(1992 高橋書店 816¦¦SH36)、決定版!書く技術:ビジネス文
書からプライベート文まで、すぐに役立つ文章講座(1998PHP 研究所 816¦¦Y62)、小論文の設計:リズムのある文章を書く骨(コ
ツ)(1996 同友館 816.5¦¦E15)、アメリカ式論文の書き方(1994 東京図書 816.5¦¦F49)、こうすれば論文はできあがる:「A」の
とれる着想とまとめ方(1988 ネスコ 816.5¦¦H27)、論文の書き方マニュアル:ステップ式リサーチ戦略のすすめ(1997 有斐閣
816.5¦¦H27)、レポート・小論文・卒論の書き方(1978 講談社 816.5¦¦H91)、論文の書き方:まずは「小論文」を書いてみよう!
(1993 大盛堂書店出版部 816.5¦¦I76)、卒業論文の手引(1995 慶應通信(慶應義塾大学出版会)816.5¦¦KE26)、レポートの組み
立て方(1990 筑摩書房 816.5¦¦KI46)、大学生のためのレポート・小論文の書きかた(2000 明石書店 816.5¦¦KI46)、レポート・
論文の書き方入門(1997、1998 慶應義塾大学出版会 816.5¦¦KO76)、小論文に強くなる(2000 岩波書店 816.5¦¦KU94)、レポート・
論文のまとめ方と書き方:保育・教育と看護・福祉のために(1984 川島書店 816.5¦¦MI86)、小論文の書き方入門(2000 渓水社
816.5¦¦MO66)、人文系論文作法:Windows95 版(1998 夏目書房 816.5¦¦N41)、卒業論文作成の手引き(1996 アグネ技術センター
816.5¦¦O81)、卒業論文を書く:テーマ設定と史料の扱い方(1997 山川出版社 816.5¦¦R25)、大学・短大課題レポート作成の基本:
発想から提出まで)1986 蒼丘書林 816.5¦¦SA25)、学術論文の技法(1996、1998 日本エディターズスクール出版部 816.5IISA25)、
レポート・論文の書き方上級(1668 慶応義塾大学出版会 816.5¦¦SA47)、すぐ書ける小論文の模範文例:個性を生かす書き方 1993
新星出版社 816.5¦¦SA85)、博士・修士・卒業論文の書き方(1973 同文舘出版 816.5¦¦SA85)、小論文・レポートの書き方:文章上
達へのアプローチ(1986 日本文芸社 816.5¦¦SU33)、理科系の論文作法:創造的コミュニケーションの技術(1997 丸善 816.5¦¦TA36)、
作文・小論文こうすれば上達する(1992 法学書院 816.5¦¦TA47)、卒論を書こう:テーマ探しからスタイルまで(1995 三修社
816.5¦¦TO15)、卒論・ゼミ論の書き方(1974、1984、1997、2000 早稲田大学出版部 816.5¦¦W41)、論文・レポートはどう書くか:
テーマの決め方から文章上手になるコツまで(1994 日本実業出版社 816.5¦¦W42)、重点的理解と模範文による小論文作成法(1994
マネジメント社 816.5¦¦Y31)、読みやすく、よく分かる小論文作成法(1992 マネジメント社 816.5¦¦Y31)、卒業論文ハンドブック:
近現代文学編(1991 白地社 816.5¦¦Y31)、大学生と大学院生のためのレポート・論文の書き方(1997 ナカニシヤ出版 816.5¦¦Y86)、
論文・レポートの書き方(1984 大修館書店 830.8¦¦SU83)、MLA 新英語論文の手引(1981、1986 北星堂書店 836.5¦¦B32)、ライフ・
サイエンスにおける英語論文の書き方(1982 共立出版 836.5¦¦I13)、英語論文によく使う表現(1991 創元社 836.5¦¦SA42)、英語
論文に使う表現文例集(1996 ナツメ社 836.5¦¦SA43)、効果的な英語論文を書く:その内容と表現(1998 大修館出版 836.5¦¦SW1)、
英語論文とレポートの書き方(1976 英潮社 836.5¦¦TO67)、英語論文の書き方ハンドブック(1985 南雲堂 836.5¦¦V32)。
HP:
おり、
論文の書き方( 兵庫教育大学学校教育研究センターの成田滋先生のサイト。このサイトの特徴は、例文を用いて説明して
望ましくない例
、
その理由
、
改良例
などを載せている点です。一見の価値はあります)、これから論文を書く
若者のために(東北大学大学院理学研究科生物学教室の酒井聡樹先生のサイト。ここもかなり充実しています。必要条件と十分条
件について最初に述べてます。使えます!!)、論文の書き方の基礎概念:上智大学文学部岡先生のサイト。わかりやすいデザイ
ン、Q&A形式で、あなたが知りたい事に答えています)、レポートの書き方̶
情報発信の時代を迎えて(獨協大学の梶山皓先生の
サイト。大学でマーケティングを教えてられているそうですが、その前は日本経済新聞社で勤務されてたとのこと。新聞社で培っ
たノウハウがぎっしり詰まっています。はっきり言って使えます&とってもクールなサイト!)、卒業論文を書く2000(福教
大・西洋史研究室(玉置先生)発行のサイト。同卒論ゼミのテキストです。気に入ったのは
の工夫として、有罪あるいは無罪を立証する弁護士か検事さんのような頭の使い方をせよ
い説明だと思います。実践編、執筆編の内容共に役に立ちます!)、卒論執筆の心得
説得力をもつ論文にするための構成
というフレーズ。とても、わかりやす
五箇条(青山学院大学経済学部の須田昌弥
先生のサイト。青山学院大学図書館報 『AGULI』 45号に掲載された内容ということです)、私家版
卒業論文の書き方(京
都大学総合人間学部の東郷雄二先生のサイト。ここも比較的充実しています)、卒業論文の 評価基準 、成功する卒論・失敗する卒
論(九州大学の安立清史先生のサイト。トップ画面の下の方にある
大学生へのメッセージコーナー
で紹介しています。同先生
が論文を評価する際の基準と配分まで紹介しています。)、電脳式国文学研究入門(深津睦夫先生のサイト。つくりが非常にスマ
ートで、きれいなサイトです。文系の方ならどなたにも役に立ちそうです)、【オールアバウトジャパン】専門家がガイドするテ
ーマ別情報サイト:@卒業論文もお世話になっています。色々なジャンルについて、数百人の専門家が厳選サイトを整理して推薦
しています)、*お奨め:http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/ minobe/class/how2write_1.htm
論文・レポート評価
演習1
ウィリアム・スタイロン作『ソフィーの選択』についての以下の論文を添削せよ。
注:この授業は大学1年生向けに行われた授業。同名の映画を観て自由題目で、帰
納法型論文を書くよう指示されている。
あらすじ
1947 年、作家志望の青年スティンゴ(ピーター・マクニコル)はニューヨークに出て、ブルックリンにあ
るジンマーマン夫人のアパートに住む。ここは内装がピンク一色という変わったところであった。階段で
2 人の男女が争っているのを目撃。その夜、件の女ソフィー(メリル・ストリープ)が彼の部屋にやって来
た。「父はポーランドの大学教授でユダヤ人を助けようとした」と語るソフィーの腕には、強制収容所の
囚人番号の烙印があった。翌朝、スティンゴはソフィーとネイサン(ケヴィン・クライン)に起こされた。
ネイサンは製剤会社ファイザーに勤めている生物学者で、強制収容所から解放されて渡米したソフィーが
貧血と疲労で倒れたところを救い、今は一緒に住んでいるという。
三人はコニー・アイランドで終日遊び、親友となった。しかし、スティンゴはネイサンがソフィーに言
った「わかるかソフィー、俺たち死ぬんだ」という言葉が気になる。ネイサンの紹介でつきあった淫乱少
女レズリー・ラピダスを抱こうとすると、「性に対する恐怖を精神療法でやっと卑猥な言葉を口にするこ
とができるようになったところだ」と泣かれて閉口する。心身ともに疲れてもどった彼にソフィーが寝酒
を誘う。そして、父と夫がドイツ軍に拉致されて処刑されたこと、自分は病気の母のため闇市でハムを買
ったことがばれてアウシュヴィッツに送られたのだという。カソリック教徒である彼女は、解放後、教会
で自殺を図ったとも語る。ネイサンの部屋へ入ると、ナチ関係の本がいっぱい。ユダヤ人である彼はナチ
の犯罪が許せないのだ。ネイサンはスティンゴの大事な原稿をひっさらって読み、ソフィーとスティンゴ
を連れてブルックリン橋へ行き、スティンゴは偉大な作家になると予言するのだった。
ある日、ネイサンはノーベル賞ものの研究が完成したと打ち明ける。その夜、ネイサンはソフィーが雇
い主と外出したことを責めたあげくスティンゴの小説を青くさい自己憐憫という。翌日、ネイサンとソフ
ィーがいなくなった。スティンゴは、ポーランド時代にソフィーの父の講議を受けたという教授から意外
な事実を聞いた。ソフィーの父はナチ信奉者だったというのだ。その夜、もどってきたソフィーを問いつ
めると、彼女は父、父の弟子であった夫が反ユダヤ主義者であったことを認める。だが、ナチはそんなこ
とはかまわず、父と夫を拉致し、彼女自身も息子ヤン、娘エヴァと一緒にアウシュヴィッツに送られたの
だという。ヤンは子供バラックに、エヴァは抹殺され、彼女は収容所長ヘスの秘書にされる。父のナチ賞
揚の論文を見せヤンをドイツ人化計画に組み入れてくれと頼むが、効果なく、ヤンのその後は知れずじま
いに終ったと語るソフィー。
ある日、スティンゴはネイサンの兄ラリーから弟は妄想性分裂症であると聞かされる。その夜、ネイサ
ンはソフィーに求婚し、新婚旅行にスティンゴの故郷である南ヴァージニアに行くと発表する。幸福そう
なソフィー。ある日、またネイサンが怒り出し、スティンゴはソフィーを連れてワシントンに逃げる。ホ
テルの一室で、ソフィーに求婚するスティンゴ。彼にソフィーが告白する。「アウシュヴィッツの駅でナ
チの医者が 3 人の前に来て、子供を 1 人だけ手放せと迫った。出来ないと言うと、医者は、では 2 人とも
焼却炉行きだと冷たく言いはなつ。無情な選択を迫られ、ついに娘を連れてってと叫んだ」と。ソフィー
とスティンゴはその夜、結ばれた。翌日ソフィーの姿はなかった。ブルックリンにもどったスティンゴは、
ソフィーとネイサンが自殺したことを知る。
ソフィーの自己愛
北野
大地
ネイサンとの死は、ソフィーにとって、戦争によって歪められた人生を送ってきた
彼女の唯一の選択だった。ソフィーの一番の苦痛は、愛する人たちが次々死んでいく
中で、彼女ひとりが生き残ったということだ。生きていること自体に苦痛を感じ、罪
悪感を背負って生きてきたソフィーが、スティンゴではなくネイサンを選んだのは、
ネイサンに対する愛よりも自己愛が強かったからだ。しかしこの自己愛は、彼女の人
生を狂わせた戦争による悲惨な経験からきたものであり、そこに彼女が死を選ぶ必然
性がある。
ソフィーの苦痛は、ナチによって自分の家族や恋人など、自分に多くのかかわりの
ある人々がみんな死んでいく中で、自分ひとりが生き残ったという点にある。死んで
いった人たちは、ナチの残虐性に立ち向かう勇気のある人や、まだ何もわからない子
供だった。ひきかえ彼女は本来ユダヤ人を迫害する立場であるポーランド人として生
まれ、ナチ崇拝者であった父の教育のおかげで収容所ではルドルフの書記として優遇
された。そして何より彼女に罪の意識を感じさせたのは、身の安全のためにナチに対
抗する勇気がなく、自分の思想によって行動できなかったことだ。自分が生き残った
のは、ナチによる迫害に負けなかったからではなく、自分の周囲で死んでいった人た
ちを見捨ててきたからだという意識があったにちがいない。
さらに決定的なのは、彼女が自分の息子の命とひきかえに、娘の死を選択したこと
だ。このことに関しては、ソフィーは自分が娘を死においやったという意識をかなり
もっている。そして娘を犠牲にして助けた息子も、結局は彼女のもとにもどらなかっ
た。
このことは彼女に生きる気力をうしなわせた。
そのようなソフィーにとって、ネイサンを選ぶことは、彼女が生きる側にいるか、
死ぬ側に行くかの最後の選択だったといえる。ネイサンが死ねば、また愛する人を捨
てて生き延びたという罪悪感をさらに増すことになる。だからソフィーはネイサンに
死なれるわけにはいかなかった。
また、彼女は神が自分を生かしたのは、自分を罰するためだからであると言ってい
る。彼女には絶えず全てを放棄して死にたいという欲求があった。ここに彼女がネイ
サンを選んだ理由がある。絶えず一緒に死のうとほのめかすネイサンはソフィーにと
って死の象徴であり、対してスティンゴは、明るい未来を示す生の象徴であった。だ
から彼女はネイサンを選んだ。ここにはネイサンを救い、二人で幸せになるのではな
く、自分をさらなる悲劇から守り抜こうとする自己愛的なものが強く表れている。
戦争下での経験は、彼女の人生を決定する行動に大きく影響を与えた。それが、こ
のソフィーの自己防御ともいえる行為である。彼女のこうした精神面は戦争によって
作り出されてしまったもので、従って彼女の死の選択は、戦争の経験からくる必然的
なものだった。
演習2
以下の科目担当教員の課題を受けて二つの論文を評価せよ。
「映画『Braveheart』について 1500 字程度で論じなさい。ありきたりのことや授業ですでに
話したことをまとめるようなことはしないで、何か新しい視点を提供するような内容にするこ
と。そうそう、帰納法的に書くこと。参考文献は使わなくても結構です。よ∼く考えて、自分
の考えをまとめて書くこと。」
注:これは大学三年生向けの授業で、授業で実際に映画を観て討論した後の課題であ
る。ここでは以下に映画のあらすじを添付しておく。
あらすじ
残酷な王エドワード 1 世(パトリック・マクグーハン)が率いるイングランドの侵略で家族を皆殺しにさ
れたウィリアム・ウォレス(メル・ギブソン)は、故郷から遠く離れた異郷の叔父の下で成長し、懐かしい
故郷に戻ってきた。幼なじみのミューロン(キャサリン・マッコーマック)は美しく成長し、再会した 2 人
は恋に落ちる。
そんな折り、イングランドはスコットラドの貴族を支配するため、
初夜権"なる悪法を復活。それは
領地内で結婚の決まった花嫁を略奪し、初夜の権利を貴族の男たちに与えるという非人間的なものだった。
花嫁を奪われるのを恐れたウォレスは 2 人きりで結婚式を挙げるが、ミューロンは彼の目の前でイングラ
ンド兵に殺される。復讐を誓うウォレスは、悪政に苦しむ人々と共に自由と解放を目指す抵抗軍を組織、
彼のカリスマ性と指導力に魅かれ人々が続々と集まってきた。エドワード 1 世は抵抗軍を封じ込めるため、
数千の大軍を送る。3 倍もの兵を相手に、ウォレスたちは敵の騎馬隊が接近した時にハリネズミのように
槍で人馬もろとも突き刺す
シルトン戦法"という奇抜な戦略で圧勝した。ウォレスはスコットランドの
貴族からサーの称号を与えられ、さらに国境の南でも勝利を収め、国民的なヒーローとなる。
予期せぬ強敵の出現にエドワード 1 世は、息子エドワード王子(ピーター・ハンリー)の妃イザベル(ソ
フィー・マルソー)を停戦交渉の使者としてウォレスの元に送る。彼女は政略結婚によりフランスから嫁
がされるが、王子は同性愛者で夫婦は愛のない生活を送っていた。たくましいウォレスにひと目で魅了さ
れたイザベルは彼の命を救うため、エドワード 1 世が密かに北に向かっているとの情報を伝える。四方八
方から囲まれ、窮地に陥ったウォレスは、スコットランドの貴族たちに援軍を求め、特に若い貴族ロバー
ト・ザ・ブルース(アンガス・マクファーデン)を信頼し協力を頼んだ。だが、らい病に苦しむ彼の父は、
息子を国王にしたいがため、陰謀を巡らす。エドワード 1 世は総攻撃をかけてくるが、私利私欲に走った
スコットランドの貴族たちは敵に買収され、ロバートさえも戦場に現れずウォレス軍は大敗を喫する。
しかし、ウォレスは裏切り者を暗殺し、ゲリラ戦を繰り返しながら再起に備えた。エドワード 1 世は停
戦交渉に再びイザベルを送るが、ウォレスをより愛するようになっていた彼女は、彼と一夜を共にする。
一方、ロバートは裏切った罪の意識に苦しんでいたが、彼の父の仕掛けた罠により、ウォレスは捕らえら
れ、反逆児として裁かれることに。彼は群衆の前で、最後まで自由を求め続けながら極刑に処せられた。
10 年後の 1314 年、ウォレスの遺志を継いだロバート率いる軍が戦いに勝利し、スコットランドに自由
と平和が訪れた。
チェックリスト
内容:映画「Braveheart」に注目すべき解釈を提供しているか。
構成:帰納法型論文形式になっているか。
その他:誤字・脱字等など、基本的ミスはないか。専門用語等難解な表現には適切
な説明があるか。
評価値
A(優上):情報量・理論面で優れており他の考え方にも言及・批判しバランスがよく、独
自の考えが明確に示されている。
B(優下):情報量・理論面で優れており他の考え方にも言及しバランスはよいが批判的で
なく、結論に独自性がない。
C(良):情報量・理論性もあり他の考え方も紹介しているが、全体的に説明文的であり洞
察力に欠ける。したがって、結論も平凡である。
D(可):課題については知っているようだが、アプローチの仕方や構成が共に未熟で、結
論も練られた痕跡がない。
F(不可):基本的ミスが多く文章が書けていない。課題も全く理解していない。
評価用メモ
利点
構成
内容
その他
返却用メモ
総合評価:
コメント:
欠点
評価
その他
評価論文1
Brave heart
北大
艶麗
まずこの作品における各人の役どころはどんなものであるか考えてみたい。ウィリアム・ウォ
レスは何か。彼はヒーローである。ヒーローは人間ではない。ヒーローは一種の偶像である。
そのカリスマ性と強運でもって我々凡人の目の前に奇跡を起こして見せる人間離れした存在な
のだ。あなたは拷問にかけられながらも “Freedom“と叫ぶことができるか?板垣退助でもこれ
は難しいだろう。しかしながら、あまりにも人間離れしているとうそ臭いし精神的親近感を得
がたい。そこである程度の人間化が行われている。
彼が対英闘争に立ち上がった直接の動機は、愛する人を奪ったイングランドへの復讐であった。
非情に個人的な動機である。けして最初から(後の彼のように)「自由」のために戦ったのでは
なかった。想像してほしい。個人的感情を一切交えず、大義のためだけに立ち上がり、それに
殉じた英雄を。一般の観客はこんな人物の心情理解はできない。そこで復讐というきわめて人
間的な動機をも付与する必要があったのだ。
一方ブルース。彼は人間である。探偵小説で言うワトソン君役である。ヒーローと観客の橋渡
しをするキャラクターである。はじめは彼の親父に象徴されるように抑圧を甘受し、妥協の世
界の住人であった人間・ブルース。彼はヒーロー・ウォレスとの出会いによって眼を開かされ、
旧世界と決別して強い男になる。彼は基本的に凡人であり、観客にとって一番教官しやすい人
物である。
今までの話をもう少し詳細に検討するとこういうことになる。妻を殺されるまではウォレスは
ただ平和に暮らしたいと願う普通の人間であった。ここまでは観客も心情理解できる。しかし
対英闘争に立ち上がってから、彼はヒーローに生まれ変わった。自由への意志の権化となった。
こうなると観客は彼に対して感心はできても、心底からの教官はできかねる。そこでブルース
が必要になってくるのである。
目を転じてイングランド、これはもう悪の王国として描かれている。さてこの暗闇の国に一人
だけ光を放つ人物がいる。皇太子妃のイザベルである。彼女の役割とは何であろうか。僕の思
うに彼女も人間ではない。では何か。道具である。ウォレスに危機を知らせ、お腹に彼の子供
を宿すという役割を付与された道具である。主体性を持って行動することを期待された一個の
人格というよりか、脚本家の必要性から作り出された装置という感じがする。
思うに、ヒーローは敵の卑怯な罠に落ちて死んではいけないのだ。もちろんヒーローだって罠
に落ちることがある。しかしそれで死んではいけない。持ち前の頭脳と強運と美女の手助けに
よって、必ず窮地から脱出しなくてはならない。それがいかに汚くて巧妙なものであったとし
ても、敵の罠に落ちて死ぬヒーローはどこか頭が悪いような印象を与える。彼が死ぬときは、
信頼していた仲間の裏切りによるものでなくてはならない。それでこそ悲劇になり得る。敵に
だまされて死ぬのでは喜劇にしかならない。ウォレスがヒーローたりうるためにはイザベルの
ような美女が必要不可欠だったのだ。
007 モノの映画では、007 と敵対する組織に属していながら純粋な心を失っていない美女が必ず
登場し、必ず彼と恋に落ちて、自分の危険を顧みず彼に便宜を働く。こうした女性をボンドガ
ールと言うそうだが、イザベルはまさにボンドガールではないだろうか。
この映画に登場する女性はもう一人いる。ウォレスの死んだ奥さんだが、考えてみると彼女に
も人格がないような気がしてくる。前半部分で述べたようにウォレスの人間化のためにストー
リーに挿入された道具に過ぎないのではないか。どうもこの作品に人間の女性は出てこないよ
うだ。
ここからは僕の個人的な感想を述べたい。暗い画面や民族楽器を用いた音楽は印象的だったし、
戦闘のシーンもなかなか迫力があった。しかし褒めるのはここまで。長髪で、ひげの剃りあと
が青々したメル・ギブソンは男性ホルモンがにおい立つようで、ずっと見ていて気持ちのいい
ものではなかった。(男性ホルモンの臭いだなんて想像しただけで胸が悪い)。
また、ストーリーがあまりに単純明快でつまらなかった。別に話の筋が単純であること自体を非
難しているわけではない。単純であっても面白い映画はいくらでもある。では何でつまらないか。
冒頭でもちょっと触れたが、ウォレスが拷問にかけられるシーンがある。役人がウォレスを拷問
しながら「慈悲を請え」と迫るわけだが、たいていの人はウォレスの次の台詞が何であるかわか
っていたと思う。別にわかっていても問題ではない。「こうなってほしい」という観客の期待を
裏切ってはならない。しかし僕は”Freedom!”という台詞を期待してはいなかった。ただ予想した
だけであった。予想を裏切らないお話なんて面白くもなんともない。この映画では一事が万事こ
の調子であった。
評価論文2
Braveheart
60 年代という「父」、90 年代という「子」
99999
北大
大志
「ブレイヴハート」は、90 年代当時安易に用いられていた WASP 対マイノリティという二項対
立の中で、単に「間違った」WASP 側から「正しい」マイノリティ側へと視点を移動させるだけで
なく、WASP 側として生まれた人間が、マイノリティの「自由」の中に(再び)発見する彼ら自身
の「自由」を描いている。それは、ヒーローとしてのウォレスの中に、WASP 側であることの「立
場」と、マイノリティの目指している「自由」との間に挟まれる人間の体現であるロバートと、
WASP 側の中にあっても、女性であるがゆえに居場所が不安定な人間の体現であるイザベルとが発
見するものである。その過程は、「父」と「子」という構造に重ねて、公民権運動が起こった 1960
年代から 1990 年代へと一つの世代が移行する中で、前の世代の遺産を受け継ぐ「新しい世代」と
して自由の国に生まれて来た人間に向けられている。
ウォレスの持つ「自由」の信念は、60 年代以来の公民権運動以後、それまでの「アメリカの自
由」への疑問を提示し続けてきたマイノリティの「自由」と重なっている。それは、例えば蔑称
を自らのアイデンティティへと変化させて「チカーノ」に見るように、マイノリティと呼ばれる
ものたちが、かつて蔑称で呼ばれたことで「自分の国の人間として生きること」を奪われたもの
であるがゆえに獲得したものであった。ウォレスもまた、崩れ落ちた父の家の場所で、新しい自
分の「家」を共に作ろうとしていたミューロンが奪われ、隣村の者もまた「家」を奪われている
ことを知ったとき、「家」を作るために必要な「自由」が奪い取られていることを知り、戦いを
始めるのである。
そのウォレスを見るロバートは、彼の中にある「自由」に魅かれながらも、「自らの国を統治
するもの」として「父」の存在の中で苦悩している。彼は自分の行なおうとしている行動を逐一
「父」に報告している。それは、自分が正当であると見とめる「自由」のヒーローを目撃しなが
らも、無意識に残ってしまっている、WASP 側の人間として、マイノリティ側と妥協しながらも
「統治するもの」(と、自認している)としての価値観への拘束を表している。その価値観は、
WASP 側からマイノリティの側の視点へと向かっていく中で、「腐っている」ものであるために表
に出すことができないが、「自らの国を統治する」ためには必要なものだった価値観に重ねられ
ている。そしてロバートの苦悩もまた、自分の信念とは裏腹に、WASP 側に生まれたために安易に
マイノリティ側へと移行できずにいる、「父」を持つ 90 年代の新しい WASP の世代の苦悩に重ね
られているのである。
ウォレスを見るもう一人の人間であるイザベルは、何よりもまず「失った恋人のために戦って
いる」という理由で彼に魅かれている。そこには、彼女が望みながらも、エドワード皇太子の妻
としては獲得できない「眼差しを向けられる」女性像があったからである。あくまで道具として
扱われ、自分に眼差しを向けられない場所で、それでも彼女は未亡人になることに動揺を覚える。
彼女にとって自分がいることのできるのは、その自分に眼差しが向けられない場所しかなかった
からである。そこには、公民権運動以前に「見られていなかった」、WASP 側の中にいる女性の姿
がある。
ヒーローとしてのウォレスと彼を見るロバートとイザベルの関係は、ウォレスを象徴する
「青」という色との結びつきに表されている。ウォレスは、青い目をし、青で顔を塗り、青空の
背景として剣を突き刺し、そして死んでいく。それは、彼が持つ「自らの自由」に対して、「自
らの国」に対して、自分のアイデンティティが、何の曇りもなく重なっていることを示している。
それに対し、ロバートは、「国」のために裏切った戦いの後で、死骸の山を濃い霧の中で歩く。
彼は、背景となる青い空も、その色を塗るべき顔を持つ(見せる)ことができない。そこにある
のは、「自らの国」が不透明であり、誇示できるアイデンティティを持たない人間の姿である。
また、イザベルは、目をそらしてばかりいる皇太子とは対照的に、自分を見つめるウォレスの青
い目に動揺し、魅かれる。イギリス皇太子の妻という場所では向けられなかった、彼女を「強い
女性」と見ることができる眼差しである。それは、WASP 側にいながらも「見られていなかった」
女性が、マイノリティ側の視線へと移行する中で、その視線によって新しく女性という対象を
「見る」ことになった、フェミニズム運動の眼差しに重なっている。
ロバートが良心を裏切らないことを決意し、イザベルがエドワード王のもくろみを流す「子」
を宿すと、物語の中の「父」は死へと向かっていく。それは、90 年代に WASP 側として新しく生
まれた世代が持たざるをえなかった、60 年代という「父」であった。ロバートは、ウォレスの「自
由」を「自らの自由」とする WASP 側の人間となることで、イザベルは、彼女に眼差しを向けた人
間の血を引き継ぐ人間となることで、彼らの「父」は死んでいくのである。その過程は、彼らの
ヒーローであるウォレスが、「父」の死によって与えられた、「自らの国」を奪われることの記
憶と、崩れ落ちた「家」によって「自由」を獲得した過程と対照的である。
60 年代を「父」として持つ 90 年代の新しい「子」は、歴史が「ヒーローを葬った側」から描
かれていたことを知っている。映画の中で語られるのは、葬られたヒーローの物語である。しか
し、その語り手を「葬った側」に生まれた人間に設定することにより、葬られた側の「自由」だ
けを語るのではなく、その自由を見ながらも WASP 側の遺産に苦しむものが発見する、彼ら自身
の「彼らの自由」がそこに描き出されている。