社会的実践力を育む特別活動 - プール学院大学・プール学院短期大学部

プール学院大学研究紀要 第 56 号
2015 年,247 〜 260
社会的実践力を育む特別活動
― 生活科や総合的な学習の時間との関連を図った特別活動のあり方 ―
山 本 景 一1) 藤 田 英 治2) プール学院大学 1) 堺市立浅香山小学校 2) Ⅰ はじめに
特別活動で学んだことが学校生活だけではなく,社会での実践力として生きて働く資質や能力と
なるように育てたいものである。本稿では,社会的実践力を「問題解決力」,「社会参画力」「豊かな
心」,「自己成長力」ととらえ,それらを育む特別活動のあり方を追究することにした。
学校教育活動の中で,特別活動は様々な教科等の内容と関連しながら実施されている。しかし,
それらは意図的・計画的に,そして有機的に関連を図った活動なのであろうか。
特に,学校行事をはじめとする特別活動の内容と生活科や総合的な学習の時間の内容については,
重複する部分があるとともに,一方では,混同されている部分も見られる。
そこで,それらの目標や内容の共通する部分と相違が見られる部分を明確にし,生活科や総合的
な学習の時間との関連を図った社会的実践力を育む特別活動のモデルを再構成することを研究の目
的としたい。
Ⅱ 問題の所存
教育委員会在籍中,算数・数学,生活科や総合的な学習の時間(以下,総合的な学習と記す),特
別活動の担当指導主事をしていて感じたことは,特別活動と算数・数学との混同はなかったが,特
別活動と生活科や総合的な学習との混同が多かったことである。
その理由として,平成 10 年当時,各学校が独自に総合的な学習の活動をつくることになったが,
教科書がないということも影響し,特別活動の遠足・集団的宿泊的行事である林間・臨海学校,修
学旅行や文化的行事等の学校行事をもとに総合的な学習の活動構成を行っていったことが,その原
因の一つとなったのではないかと考えている。
そのことは,学校現場に管理職として赴任した時期においても状況は同じで,特に校長として学
校の教育課程を管理する立場になり,特別活動と生活科・総合的な学習との関係について,理論的
な整理が必要だと考えるようになった。
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そのことと関連して,磯島氏(プール学院大学)が「特別活動のあり方についての一考察」において,
大学生における特別活動と総合的な学習との混同についても述べられている。
そこでは、磯島氏の「今までの学校生活で最も思い出に残っていることは」という質問に対して、
学生の回答では、修学旅行、林間学校、卒業式、体育祭、文化祭、音楽会などが上位を占めたにも
かかわらず、学校行事に関わる活動を特別活動とは認識していなかったことも述べられている。
そこで,今後,特別活動を進めていくうえで,生活科・総合的な学習との共通する部分と相違が
見られる部分を明らかにしていくことが重要だと考えた。
Ⅲ 研究の方向性
1.研究主題について
特別活動における子どもの育ちが学校生活の中でのことだけではなく,子どもたちが生きる地域,
言い換えれば社会に生きて働く資質や能力として,子どもたちの内面に育まれてほしいと願うので
ある。そのことを「社会的実践力」と捉え,『社会的実践力を育む特別活動のあり方』というテーマ
を設定し,研究を進めることにした。また,社会的実践力を育てるにあたって,特別活動と生活科
や総合的な学習との意図的・計画的な,そして有機的な関連を図ることが重要だと考え,サブテー
マを「生活科や総合的な学習の時間との関連を図った特別活動のあり方」と設定し,追究していく
ことにした。
2.研究の方向性について
本研究では,はじめに,特別活動で子どもの内面に育みたい「社会的実践力」について述べる。次に,
学習指導要領に示されている特別活動と生活科・総合的な学習の目標における共通する部分と相違
がみられる部分を明らかにし,それらの関連について考える。そして,学校行事を中心に,生活科
や総合的な学習との関連を図った特別活動のモデルを構築する。
最後に,そこで育つ社会的実践力について考察し,成果と課題についてまとめる。
Ⅳ 研究の内容
1.社会的実践力について
今回の研究の目標となる社会的実践力については,子どもに育みたい学力を「総合的な学力」とし,そ
れを「教科学力」,
「学びの基礎力」,
「社会的実践力」に範疇分けし,学力を多面的な観点から総合的に
とらえ,子どもや学校の実態に応じた特色ある学力向上の取り組みを進めている。
特別活動においては,当然,教科で培われる学力「教科学力」や豊かな体験や自ら学ぶ力などの「学
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びの基礎力」が発揮されるのだが,特に,学校生活において,特別活動で身に付けた資質や能力を家庭
での生活や地域での活動に生かしていくこと,言い換えれば,社会における実践力として育んでいきたい
と考えた。そこで,本研究では,
「総合的な学力」の中の,
「社会的実践力」の育成に焦点をあて,追究
していくことにした。
ここでは,特別活動で育みたい社会的実践力を以下のように考えた。
「問題解決力」
特別活動で育みたい社会的実践力
・学校生活で起こる問題を協力して解決できる。
・筋道立てて物事を考え,自分なりの意見をもてる。
「社会参画力」
・調べたことや考えたことを適切な手段で表現できる。
・社会に対して関心を高かめ,積極的に参画しようとする。
「豊かな心」
・自分なりの貢献のあり方について考える。
・自ら課題を見つけ,最後まで責任をもってやり遂げる。
・自分と異なる意見を尊重し,協力しながら難しいことにも積極的に取
「自己成長力」
り組む。
・自分の力を伸ばしたいという意志と目標をもち,その実現に向けて取
り組む。
・自分の伸びや成長を感じる。
このような資質や能力は,当然,特別活動が重視している内容でもあるが,生活科や総合的な学習と
の意図的・計画的、そして有機的な関連を図ることにより,より一層社会的実践力が子どもの内面に育ま
れると考える。
2.特別活動と生活科や総合的な学習との有機的な関連を図るために
ここでは,特別活動と生活科や総合的な学習との意図的・計画的、そして有機的な関連を図るために,
特別活動と生活科や総合的な学習の目標から共通する部分について考察する。そのことから,特別活動
と生活科や総合的な学習の取り組みで混同されやすい内容や活動について考察する。
(1) 特別活動(小学校)の目標
望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り,集団や社会の一員とし
てよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度を育てるとともに,人間としての生き
方についての自覚を深め,自己を生かす能力を養う。
○ 望ましい集団活動の展開と望ましい集団の育成
○ 個人的な資質の育成
○ 社会的な資質の育成
○ 自主的,実践的な態度の育成
○ 自己を生かす能力を養う
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(2) 生活科の目標
具体的な活動や体験を通して,自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわりに関心をもち,自分
自身や自分の生活について考えさせるとともに,その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付
けさせ,自立への基礎を養う。
○ 具体的な活動や体験を通すこと
○ 自分と身近な人々,社会及び自然とのかかわりに関心をもつこと
○ 自分自身や自分の生活について考えること
○ 生活上必要な習慣や技能を身に付けること
○ 自立への基礎を養うこと
(3) 総合的な学習(小学校)における目標
横断的・総合的な学習や研究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体
的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に
付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考
えることができるようにする。
○ 横断的・総合的な学習や探究的な学習を通すこと
○ 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を
育成すること
○ 学び方やものの考え方を身に付けること
○ 問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育てること
○ 自己の生き方を考えることができるようになること
(4) 特別活動と生活科や総合的な学習の目標における共通する部分
① 特別活動と総合的な学習
特別活動における「人間としての生き方についての自覚を深め,自己を生かす能力を養う」という部分と
総合的な学習における,
「自己の生き方を考えることができるようになること」については,達成感や自信
をもち,自己のよさや可能性に気付き,自分の生き方について考えるところが,共通する部分であると考える。
また,特別活動における「望ましい人間関係」や「協力して」という文言が記されていることと総合的な学
習の「協同」という文言に大きな共通点があると考える。
さらに,総合的な学習においては,答申の中でも,
「これからの社会において自己との対話を重ねつ
つ,他者や社会,自然や環境と共に生きる,積極的な開かれた個であることが求められる」と示されてお
り,お互いの考えや意見を出し合い,見通しや計画を確かめ合い,他者の考えを受け入れながら,問題
の解決や探究活動を協同して行う学習活動を行うとある。そのことは,特別活動の「個人的な資質の育成」
に述べられている集団から認められ,集団の中で自らのよさをよりよく発揮し,他者と協調できるような「開
かれた個」と共通すると考える。
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② 特別活動と生活科
特別活動の個人的な資質の育成については,生活科においても,具体的な体験活動を通して,自分の
よさや可能性に気付き,心身ともに健康でたくましい自己を形成できるようにすることと述べられ共通する
部分が大きい。
また,
「個性の伸長」については,集団の中での仲間意識や帰属意識の育ちや様々な体験活動を通して,
自分のよさや得意とすることなどに気付くことは,同時に,友達のよさにも気付き,認め合い,それらを生
かし合って共に生活や学習ができることであると特別活動でも生活科でも述べられている。
生活科で述べられている自立とは,第1に「学習の自立」
(自分にとって価値があると感じられる学習活
動を進んで行うこと),第2に「生活上の自立」
(生活上必要な習慣や技能を身につけ,自らよりよい生活
を創りだしていくこと),第3に「精神的な自立」
(自分のよさや可能性に気付き,意欲や自信をもって前向
きに生活していくこと)である。
上記の3つの意味での自立への基礎を養うことは,互いに支え合い補い合いながら,豊かな生活を生
み出していくことに役立てられるものである。
これらの自立への基礎は,特別活動において自己のよさや可能性を集団の中で生かしてよりよい生活を
築いていくことができるような能力を育成することにつながると考える。
このように,それぞれの目標について比較検討すると,特別活動がめざすものと生活科や総合的な学
習がめざすものには,共通する部分が多くあることがわかる。
(5) 特別活動と生活科や総合的な学習の取り組みで混同されやすい場面
以上,特別活動と生活科・総合的な学習の目標において,共通する部分について述べてきたが,ここでは,
「Ⅱ 問題の所存」でも「特別活動と生活科や総合的な学習との内容や活動の混同や安易に結び付けて
いる場面もよく見られると考える。」と述べたように,混同されやすい部分について,学校行事の中の遠足・
集団宿泊的行事である林間学校と修学旅行を例に挙げて考察する。
① 林間学校と総合的な学習との関係
総合的な学習で環境問題について考える取り組みにおいて,身近にある川を調べていた場合,そこでは,
川のゴミや水質,指標生物,生活排水等を調べ,身近な川が汚れていることに気付いていく。その過程で,
子どもたちは川について地理的なことも調べているので,
「上流はどうなっているのか」という疑問をもつ。
そこで,子どもたちの願いに応じて,林間学校において,上流にある川の水質や指標生物等を調べる
場を設定する。子どもたちは,川だけではなく,山の空気やゴミの様子などについても「自分の住んでい
る地域と比較したい」という意欲をもち調べる計画を立て,調べるための道具の準備等を行っていく。そ
して,林間学校では,川やゴミ、空気を調べる活動を行う。さらに学校に帰ってからは,それらの結果
を比較・検討し環境問題についてまとめていく。
一方,特別活動としての取り組みである林間学校は,
「自然の中での集団宿泊活動などの平素と異なる
生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとともに,人間関係などの集団生活の在り方や
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公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと」をねらいとして進められ
る。
そこで,林間学校へ行くために,山の植物の探索をするグループや宿泊するグループの編成、飯盒炊
飯の役割分担やその計画,そして,集団での宿泊や野外での活動を楽しくスムーズに進めるためのルール
づくり等を学級活動での話し合いなどを中心に進めていく。
この場合,厳密には,林間学校に行くまでに,川や山の環境を調べるための道具の準備や計画等を行
う時間や,例えば,林間学校の2日目の午前中に,川を調べたり山の空気やごみについて調べたりする活
動を行ったとすれば,それに充てた時間が「総合的な学習の時間」となる。
しかし,子どもたちは特別活動と総合的な学習を分けて活動することはできないので,むしろ関連を図
りながら活動を構成することで,特別活動のよさも見え,活動内容も深まると考える。
このように,特別活動と総合的な学習の担うべき内容を十分把握することにより,特別活動と総合的な
学習との混同や安易な統合もなくなり,特別活動の充実を図ることができると考える。
② 修学旅行と総合的な学習との関連
修学旅行に行く前に,学級活動では,グループ編成をしたり,各バスの中でのレクリェーション,現地
に行っての自由行動の活動班,食事係,部屋の係などを決めたりし,1泊2日の活動時間をより有効に活
用するために,また,どの子どもも責任をもって活動できるように役割を決めていく。さらに,リーダー会
議等を行ったりしながら,計画を立てたりしおりづくりをしたりする。
一方,総合的な学習では,社会科学習の発展として修学旅行先の地理を調べたり,そこにある歴史や
文化を調べたり,行くための行程を調べたりしていく。
それを保護者説明会の時に,子たちがプレゼンテーションする場を設定する。子どもたちは昨年プレゼ
ンテーションを行った卒業生に聞きに行き,コンピュータ等(パワーポイント)を用い,その内容をまとめる。
また,修学旅行から帰ってきた後には,自分たちの思い出を残すためだけではなく,来年修学旅行に
行く5年生に対するプレゼンテーションを行う場を設定する。そのために,修学旅行の行程では,子ども
たちは,写真を撮ったり,メモを取ったりする。
修学旅行から帰ってきたら,再びプレゼンテーションの準備を行う。この際,行く前は対象が保護者で,
今回は,対象が5年生であるという相手意識をもち,内容のまとめ方や発表の方法等も工夫していく。
この場合も,厳密に言えば,歴史や文化について調べる学習やその行程を調べる学習,プレゼンテーショ
ンを計画し発表する場は,
「総合的な学習の時間」となるであろう。
しかし,宿泊を伴う行事を進めていく中で,リーダーシップを育てたり,協同で活動することのよさに感
じたり,人間関係を深めていったりすることは,特別活動として大きな目標となる。
そこで,その違いを生かしながら,特別活動を中心に総合的な学習を意図的・計画的,そして有機的
に関連付けることにより,より充実した特別活動になると考えている。
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Ⅴ 生活科や総合的な学習との関連を図った特別活動モデルの構築
ここでは,生活科や総合的な学習との関連を図った特別活動モデルについて,学校行事である文
化的な活動を中心に述べていくが,それを構築するために,関連が深い生活科と総合的な学習の具
体的な取り組みについて簡略に述べ,そのことを網羅した文化的な活動を『○○フェスティバル』
として特別活動のモデルを構築し,そこで育つ社会的実践力について考える。
1.特別活動と関連が深い生活科の取り組み
ここでは,24か月で学習を進める生活科で,特別活動との関連が深い内容について,2年生の
学習から1年生の学習につながる学習の流れに沿って述べる。
(1) 生活科,2年生の学習から「おもちゃで遊ぼう」
ここでは,子どもたちに昔の遊びを紹介し,それで遊ぶ場を設定する。子どもたちは遊ぶ中で,
「な
かなかうまく遊べない」や「遊び方がわからない」などの疑問や困惑をもつ。
昔の遊びということで,祖父母に教えてもらう子どもも出てくるが,祖父母と同居している子ど
もが少ないので,子どもたちから出てきた「教えてもらいたい」という願いを大切にし,老人会と
の交流の場を設定する。子どもたちは手紙を書くなどして,教えてもらえるように計画を立てる。
そして,遊び方を教えてもらう中で,遊びの面白さを感じるだけではなく,昔の文化に触れたり,
高齢者のやさしさに触れたり,一緒に遊ぶことの楽しさを味わったりしていく。さらに,高齢者に
対する尊敬の念ももつようになる。
この交流が終わった後,自分たちが体験したことの喜びや教えてもらったことに対しての感謝の
気持ちなどを絵や文章で老人会の方々にお礼の手紙を書く活動を行う。
(2) 第2学年の学習「おもちゃをつくろう」
昔の遊びで,おもちゃで遊ぶことの楽しさや高齢者との交流の楽しさを体験した子どもたちは,
今度は,「自分たちで遊び道具をつくり,遊びたい」という意欲をもつ。
この学習では,風で走ったりゴムで動いたりするおもちゃを工夫してつくる活動を行う。その後,
「自分がつくったおもちゃで遊びたい」や「友達がつくったおもちゃでも遊びたい」という気持ちを
もつようになる。そして,自分たちが楽しく遊ぶために,遊び方を工夫したり、遊ぶルールをつくっ
たりしていく。
それをさらに,1年生との交流の場へとつなげる。すると,2年の子どもたちは老人会の方々か
ら教えてもらったり,親切にしていただいたりしたことを思い起こし,「1年生に遊び方を教えてあ
げたい」や「1年生を楽しませたい」というような願いをもつ。そして,おもちゃのつくり方や遊
び方の説明を考えたり,1年生が楽しめるようにルールを考え直したりし,一緒に遊ぶための計画
を立て,交流活動を深めていく。
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(3) 第1学年「秋を楽しもう」幼稚園・保育園との交流
秋を見つける学習では,春や夏の生き物や植物との違いや変化を見つけていく。そして,集めた
秋の実や葉を使って,リースづくりを行う。
2年生から影響を受けた1年生は,自分がつくるだけではなく,「年下の子どもに教えたい」とい
う気持ちをもつ。そこで,幼稚園や保育園の園児との交流の場を設定する。
子どもたちは,2年生から教えてもらったり親切にしてもらったりした経験を生かし,園児に関
わっていく。
ここでは,園児は自分たちが思うように動いてくれなかったり,自分たちの説明が通じなかった
りすることに問題意識をもつが,お互いに協力し合ったり,参加した保護者(大人の人)の支援を
受けたりしながら,一緒に遊ぶことやお世話をしたことに対する喜びや成長を感じていく。
このような一連の生活科の学習では,特別活動で重視している「望ましい集団づくり」や「人間
関係づくり」との大きな関連がみられる。特に異年齢や幼児・高齢者との交流を行うことについては,
学校で常時活動として行っている縦割り班活動で培った資質や能力を発揮する場ともなる。
また,下学年の子どもや幼児に対するかかわり方やリーダーシップ,高齢者や大人に対するかか
わり方や尊敬の気持ちをもつことも特別活動の発展として生かすことができる。
2.特別活動と関連が深い総合的な学習の取り組み
ここでは,4年間で進める総合的な学習において,特別活動との関連が深い内容について,学年
ごとの学習の流れに沿って述べる。
(1) 第3学年「福祉について調べよう」
2年の生活科の学校の周りの探検から発展させて,3年では,社会科で校区探検を行う。
その中で,歩道にある点字ブロックや駅にある点字ブロック,スロープや障がい者用の信号など
に関心をもつようになる。そのことから発展させて総合的な学習で,「福祉」という観点から学習を
発展させていく。
子どもたちは,点字ブロックや手話をはじめ,車いすや盲導犬などについても調べていく。その
中で,「キャップハンディ体験」をしたり,近くにある障がい者施設に行ったりし,誰にでも優しい
町づくりや自分たちにできることはどのようなことなのかを考えていく。
(2) 第4学年「身近な環境を調べよう」
社会のごみ処理の学習から総合的な学習に発展させ,環境問題について調べていく。その後,身
近な環境を汚している事柄に目を向けるようにする。すると,子どもたちはゴミの問題だけではなく,
近隣を川や大気の汚れに気付き,それを調べようとする。
その中で,市役所の環境事業部の方々をゲストティーチャーとして迎え,パックテストの使い方
を教えてもらうなど,水質や大気汚染の調べ方を学んでいく。また,このことをきっかけに環境を
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調べる道具をつくったり,環境問題についてインターネットや本などで調べたりしていく。
そして,生活排水やゴミなどの減らし方を工夫したり,リサイクル等について調べたりし,環境
を守るために,自分たちにできることを考え,実践していく。
(3) 第5学年「米の力を感じよう」
社会の農業についての学習から発展させて,特に米を題材にした総合的な学習を行う。
子どもたちは一人ひとりが植えたバケツ稲を育てる中,地域の水田に関心を高め,「実際に田植え
をしてみたい」という気持ちをもつ。そこで,地域の農家の方にお願いし,水田で実際に苗を植え
る体験をさせてもらう。さらに,米を育てるために,その育て方や害虫について調べたり,そこか
ら発展させて,米の種類を調べたり,世界の米料理について調べたりする学習へと広げていく。また,
一方で,ゲストティーチャーを招いて,米の育て方,昔の農具や脱穀の仕方等を学んでいく。
米を収穫したときには,その量の少なさに子どもたちは驚くが,米づくりの大変さや精米になる
までの農家の人をはじめとする米づくりに関わる人々の大変さを感じていく。
(4) 第6学年「自分の夢や将来の仕事について調べよう」
卒業に向けて,子どもたちがこれから頑張っていきたい目標や将来就きたい職業等を調べたり聞
き取りしたりしていく。
ここでは,2年の生活科で学習した「自分の誕生」について調べる学習や4年の総合的な学習で
取り組んだ「1 / 2 成人式」の内容とつなぎながら,自分の成長や自分の将来について考えていく。
それらの一連の学習の成果を生かし,卒業に向けての制作物として映画づくりを行う。子どもた
ちは,自分たちのこれからの夢や生き方,友達との将来のことなどを題材にしながら,ストーリー
を考え,台本のつくり方や台詞,表現の仕方などを調べたり練習したりしながら映画づくりを行っ
ていく。
Ⅵ 特別活動における学校行事(文化的行事)のあり方
1.生活科や総合的な学習との関連を図った学校行事のあり方とその活動モデル
ここでは,文化的行事を『○○フェスティバル』と名付け,Ⅴで述べた生活科や総合的な学習に
おける通年での取り組みとの関連を図った活動モデルを考える。
学校行事としては,勝見氏が,「体験活動をその場限りの活動に終わらせるのではなく,事前の体
験活動のねらいとの関連や計画準備,事後での体験活動を通した気づきや感想の交流等,文章とし
てまとめたり,発表・交流し合ったりする言語活動を充実させる」ことの重要性を述べている。
文化的行事に関しては,「文化や芸術に親しむ」という目的があるが,学習指導要領に,「平素の
学習活動の成果を発表し,その向上の意欲を一層高めたり,文化や芸術に親しんだりするような活
動を行うこと」とあり,そのことを踏まえて,
「キーワードで拓く新しい特別活動」で,石塚氏は,
「集
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団への所属感や連帯感を高め,人間関係調整力を育むとして,学年や学級の枠を超えた多様な集団
活動によって,児童生徒が自分の役割を担い,責任をもって協力し合うことにより,仲間とともに
喜びや苦労を分かち合えようにすることが大切である。そのことが,自他のよさや新しい発見につ
ながり,自尊感情も高まり,人間関係も広がっていくことになる。」と述べている。さらに,「他の
教育活動との連携を図り,円滑な運営を心がける」ことについても示している。
文化的行事に関しては,「○○まつり」や「○○発表会」等の名称で,その行事のために迷路やお
化け屋敷というような場をつくったり,ボーリングや的当てゲーム等の遊びを新たに作成したり準
備したりしている活動が多く見られる。
このことについて,子どもたちが自分たちで楽しむ遊びを創意工夫したり,開催に向けて共同で
つくったり,話し合ったりしながら活動を構成していくこととしては意義のあることだが,一方,
その活動の終了後多くの廃材や段ボールが出てしまうことや次の活動に発展しにくいこと,児童に
余分な時間の負担をかけることが問題点として残る。
ここでは,文化的行事の準備のために新たに時間を設定し組み立てるのではなく,Ⅴで述べた今
まで行ってきた生活科や総合的な学習との意図的・計画的,そして有機的な関連を図ることにより,
学習や活動の連続や発展が期待できる。そのことで,子どもの内面に社会的実践力が育まれると考え,
ここでは,文化的行事『○○フェスティバル』(全学年で行う活動)の活動モデルとして,以下に示
すことにする。
文化的行事の活動モデル『○○フェスティバル』
各学年の活動
内 容
関係する人
・リースづくり
・生活科「秋を見つけよう」の学習として秋の木 ・保護者
第1学年
の葉や実等を使った「リースづくり」を保育園 ・保育幼稚園児
の活動
や幼稚園の幼児を招き,そのつくり方を説明し
たり,協同でつくったりする。
・おもちゃ遊び
・1 年生を対象に行った「おもちゃづくり」や ・老人会
「 お も ち ゃ 遊 び 」の対象を全学年に広げ行う。・保護者
第2学年
その中には,お年寄りから教えてもらった昔の
の活動
遊びコーナーも設ける等,自分たちの活動につ
いても発展させる。
・福祉体験活動
・キャップハンディ体験の場づくりと支援の方法 ・地域ボランティ
第3学年
・福祉についての発表
を考え,全学年に広める。
ア
の活動
・福祉について調べたことをまとめ,発表する。 ・保護者
・環境問題についての発表 ・環境問題について調べたことをまとめ,ポス ・市役所の環境事
・環境の調べ方についての
ターセッションを行う。
業部の人
第4学年
体験活動
・環境を調べる体験学習を行う。
・保護者
の活動
・リサイクル作品づくり
・リサイクルの作品の紹介や材料を集め,作品づ
くりの説明や共同で作品づくりを行う。
学 年
社会的実践力を育む特別活動
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・米の 1 年間についての映
像紹介
・米につ い て の プ レ ゼ ン
第 5 学 年 テーション
の活動
・昔の農具の展示や紹介
・わらを使ったしめ縄づく
り
・米づくりをはじめとする一年間の取り組みの紹 ・ ゲ ス ト テ ィ ー
介をコーナーを設けて開催する。
チャー
・米の映像紹介をする。
・老人会
・パワーポイントを使ったプレゼンテーションを ・保護者
行う。
・ゲストティーチャーを招いてわらを使ったしめ
縄づくり体験をする。
・昔の農具の展示と説明をする。
第 6 学 年 ・自分たちの夢についての ・卒業に向けた将来の夢を題材にした映画づくり ・中学生
の活動
映画公開
の過程の説明と映画の公開をする。
・保護者
このような文化的な行事を行うことにより,子どもたちは約1年間取り組んできた特別活動の成
果を発揮し,生活科や総合的な学習の成果を発表することができる。
2.文化的行事の活動モデル『○○フェスティバル』で育つ社会的実践力
ここで育つ社会的実践力は,以下のようなものと考える。
問題解決力
社会参画力
豊かな心
自己成長力
文化的行事の活動モデル『○○フェスティバル』で育つ社会的実践力
それぞれ行ってきた生活科や総合的な学習の取り組みを発表したり参加体験型の催
しをつくったりする過程で,
・「どのように表現すればよいのか。」
・「どのような役割分担をすればよいのか。」
・「どのようにすれば,たくさんの人に参加してもらえるのか。」
といった問題を学級活動における話し合いで,立案計画していく。
・今までかかわってきた保育園・幼稚園児を招待する。
・老人会をはじめゲストティーチャー等,お世話になった人を招待する
・招待状の書き方を調べ,それをつくり,参画する人との交流を深める。
・友だちの意見を受け入れ,取り組みに生かす。
・一人ではできないことが協力するとでできるという実感をもつ。
・やり遂げたという自信と自己の成長感をもつ。
・1年間かけて取り組んできたことの成果を感じ取る。
このような資質や能力を育てるために,各学級における話し合いを学年へと広げ,児童会を中心に,
どの学年がどのような役割をするのかということを話し合い,計画・実施をすることが重要である。
また,自分が頑張ったことや自分の成長を子ども自身が実感するために,子どもたちに評価が返っ
てくることが大切である。そこで,自己評価や相互評価をする場を設定するとともに,外部から参
加した人からの評価が得られるようにすることも重要である。
Ⅶ 終わりに
1.本研究の成果
今回の研究で,特別活動と生活科や総合的な学習の共通する部分と相違がみられる部分を考察す
ることにより,それらの活動や学習の内容の混同は,特別活動,生活科,総合的な学習それぞれの
目標や実施すべき内容が明確になっていないことが原因だということが分かってきた。
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さらに,考察を続けていく中で,特別活動と生活科や総合的な学習には,共通する部分が多く,
それらの活動や学習内容を意図的・計画的 , そして有機的に関連付けていくことが重要だということ
も明確になった。
2.今後の課題と継続研究の必要性
(1) 特別活動と道徳教育との関連を明らかにする
今回,生活科や総合的な学習との関連を図った社会的実践力を育むための活動モデルをつくり,
その考察を行ったが,「社会的実践力」における「豊かな心」の育成においては,特に道徳との関連
も深いと考えられる。
学習指導要領道徳編にも,「学校における道徳教育は,道徳の時間を要として学校の教育活動全
体を通して行うものであり,道徳の時間はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及
び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければ
ならない。」と明記されており,また,「道徳教育の目標は,-中略-学校の教育活動全体を通して,
道徳的な心,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。」と明記され,「豊かな心を
育む」ことが記されている。
そこで,今後,社会的実践力を育むために,特別活動と生活科,総合的な学習,道徳との関連を図っ
た理論の整理や活動構成について追究していきたい。
(2) 生活科や総合的な学習,道徳との関連を図った特別活動のカリキュラムの構築
今回,特別活動と生活科や総合的な学習との関連を図った活動モデルを構築したが,今後の課題
として,特別活動と生活科や総合的な学習との関連に加え,道徳との関連を図ったカリキュラムの
作成が重要となる。
また,今回,堺市立槇塚台小学校や堺市立浅香山小学校等の実践をもとに活動モデルを構築したが,
そのモデルに沿った実践を行い,社会的な実践力の育ちについても評価していきたい。
(3) 特別活動における評価の観点・規準と社会的実践力との関連について
今回社会的実践力を5つのカテゴリーに分け,その育ちを評価することについて述べてきたが,
その内容と特別活動における評価の観点・規準である「集団活動や生活への関心・意欲・態度」や「集
団の一員としての思考・判断・実践」,「集団や生活についての知識・理解」との関連を考えた評価
のあり方についても追究していく必要がある。
<参考文献>
磯島秀樹『特別活動のあり方についての一考察』(プール学院大学研究紀要 LV 2014)
日本特別活動学会 監修『新訂 キーワードで拓く新しい特別活動』(東洋館 2010)
弓野憲一 編著『特別活動と総合的学習の心理学』(ナカニシ出版 1999)
社会的実践力を育む特別活動
原清治・檜垣公明 編著『深く考え,実践する 特別活動の創造』(学文社 2009)
藤田英治『総合的な学習の時間における実践や研究が教師に与えた影響
― 総合的な学習の時間における成果の検証と今後の方向性の探求 ―』
(修士論文:大阪教育大学大学院 教育研究科 実践学校教育 2004)
学習指導要領解説 特別活動編 (文部科学省 2008)
学習指導要領解説 生活編 (文部科学省 2008)
学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 (文部科学省 2008)
学習指導要領解説 道徳編(文部科学省 2008)
言語活動の充実に関する指導事例集 【小学校版】(文部科学省 2010)
秋山麗子『特別活動を中心とした小学校の学級集団形成に関する研究』
(関西学院大学大学院教育学研究科 審査論 2014)
伊藤正明『小学校「特別活動」の内容と保育内容「人間関係」の指導に関する一考察
-係活動・園行事に注目して-』(帯広大谷短期大学紀要 第 52 号 2015)
岡野亜希子『特別活動における「望ましい集団」像をどうみるか』
(近畿大学産業理工学部 論 2012)
阿部敬信 神田文聡 新城浩仁『小学校の教育課程における特別活動の意義と課題』
(別府大学短期大学部 論 2015)
堺市学力向上の取組及び学力調査分析結果(堺市教育委員会 2010)
259
260
プール学院大学研究紀要第 56 号
(ABSTRACT)
Developing Social Practical Skills in Special Activities
- In connection with Living Environmental Studies and
Periods for Integrated Study -
YAMAMOTO Keiichi 1) FUJITA Hideharu
1)
Poole Gakuin University
2)
Asakayama Elementary School2) Aptitudes, knowledge, attitudes learned in the subject of Special Activities could become
a practical skill in school life as well as social life. Practical skill is consisted of a variety of abilities
such as problem-solving, social participation, matured mind, and self-empowerment.
Primary school pupils learn Special Activities in connection with all subjects. Most of the
learning, however, is not acquired at the intentional and structured settings, particularly at the
cases of school events.
In this study, we propose a model teaching plan of Special Activities coordinating with the
subjects of Living Environmental Studies and Periods for Integrated Study.