コンパクト両面カラースキャナScanSnap S1300 - PFU

Compact Duplex Color Scanner ScanSnap S1300
山下政明 *
北川光一 **
Masaaki Yamashita
Koichi Kitagawa
*
**
イメージビジネスグループ イメージプロダクト事業部 第三技術部
イメージビジネスグループ イメージプロダクト事業部 ソフトウェア開発部
ScanSnap S300 シリーズは,オフィス内に限らず,出張先や外出先等幅広いシーンで使えるコンパク
トな両面カラースキャナである.S300 シリーズの新製品 ScanSnap S1300 は,上位モデル ScanSnap
S1500 の優れた「インテリジェント機能」を搭載して業務効率を加速させるとともに,スタイリッシュな
デザインに仕上げた.
The ScanSnap S300 series scanner is a compact duplex color scanner that can be used
at various locations, both inside and outside the office, or on business trips. The ScanSnap
S1300 - of the new addition to the S300 series - adopts both the intelligent technology of
the high-end model ScanSnap S1500 that help to further increase business efficiency, as
well as a stylish design.
1
まえがき
メントスキャナである.コンパクトなボディでありなが
企業や組織で IT システムによる情報活用は既に当た
ら,紙文書をワンプッシュで高速に電子化し,より有効
り前のことになっている.更に,
「いつでも」
「どこでも」
に活用・管理できるオフィスツールとして市場に受入れ
情報を活用する「モバイルコンピューティング」も広く
られてきた.
使われている.そして,
「モバイルコンピューティング」
2007 年より販売を開始参2)した ScanSnap S300
でも,情報を入力することが求められている.これは,
シリーズは,ドキュメントスキャナの利用シーンを更に
紙文書よりセキュリティが強化された IT システム
広げるため,
「モバイルコンピューティング」で利用で
(PC など)の方が,情報漏洩しにくいことが主な理由
きるように,オフィス内だけでなく,外出先でも使える
と考えられる.
「ScanSnap シリーズ」は,情報(書類)をより有
効に活用・管理を実現するツールとして好評を得てい
る.
携帯性を兼ね備え,オフィスユーザーだけでなく,パー
ソナルユーザーにも広く利用されている.
今回,S300 シリーズに対するお客様の声の取入れ
と上位モデル「ScanSnap S1500」
(以降,S1500)
本稿では,更にその利便性を追求した「ScanSanp
S1300」 (以降,本製品)の開発背景やねらい,商品
参1)
概要,技術的な取組みについて述べる.
で好評な「インテリジェント機能」を搭載して,お客様
の更なる利便性向上を狙いとして,本製品を開発した.
(1)本製品開発のポイント
1)読み取りの自動化/情報検索性を向上する「イン
2
商品化の背景・狙い
「ScanSnap シリーズ」は,商品コンセプトを「簡
単・スピーディ・コンパクト」とするパーソナルドキュ
PFU Tech. Rev.,21, 1,pp.7-12(05,2010)
テリジェント機能」の搭載
2)コンパクトで持ち運びやすい携帯性を備え,しか
も S1500 のデザインコンセプトを踏襲したスタ
イリッシュなデザイン
7
コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap S1300
3)Windows R 注1)と Mac OS を問わない利便性
(3)OS を問わない利便性
パーソナルコンピュータ(以降,PC)の OS が多様
3
製品概要と特長
になってきており,特に,Windows と Mac OS の両
方の PC で利用できるようにすることが課題となる.
3.1 概要
本製品は,ADF(Auto Document Feeder の略.
自動給紙機構)を装備したイメージスキャナである.
本製品外観を図−1に,仕様を表−1に示す.
4
課題を解決する開発の主なポイント
4.1 インテリジェント機能の搭載
本製品では,S1500 で好評の書類の電子化を強力に
3.2 製品開発における課題
本製品は,先に示した開発のポイントを実現するこ
とを製品開発における課題とした.
(1)Intelligent 機能の搭載(ソフトウェア機能)
本製品では,上位モデル S1500 で改善・追加し好
支援する“インテリジェント機能(ISW)
”を搭載した.
4.1.1 マーカークロップ/インデックス機能
(ScanSnap Organizer :詳細は,4.1.2項(2)
,
(4)を参照)
本製品では,読み取り部に CIS(密着センサー方式)
評を得ているソフトウェアでの自動化機能を搭載するこ
を採用し小型化を図っているが,CIS 読み取り方式(3
ととした.このとき,マーカーの蛍光体の特性と本製品
色 LED +白黒センサー)は,縮小光学方式(白色ラン
の光学系/光源の特性から,マーカーの検出が困難であ
プ+カラー CCD)と比較し,マーカー蛍光色の再現性
り,原稿のマーカーで囲まれた部分の自動検出が課題に
が低下するという特性がある.
なる.
(2)携帯性を備えた S1500 デザインコンセプトの踏
マーカークロップ/インデックス機能では,画像か
ら彩度成分を抽出することでマーカー部を検出するが,
襲
マーカー蛍光色の色再現性が低下すると,従来の方法で
S1500 は,オフィスユーザーが自分の机の上に設置
は検出精度が低下してしまう.
して使用するシーンで,クール「かっこいい」をコンセ
プトとしてデザインした.
本製品では,優れた携帯性を備えながら「S1500」
とシリーズ性のある高級感のあるデザインが課題となる
(図−1参照)
.
(1)分析と解決
CIS 読み取りでのマーカー再現性低下について解析
した結果,出力画像自体の色再現性の改善が必要と判っ
た.
改善目標の設定にあたり,世界中からマーカー(各
種・各色百数十本)を入手し,色再現性の分析を行い,
開発した.
(2)取組み 1(色再現性の改善と画質向上)
色再現性の見直しにあたっては,画像品質への影響
に十分注意を払って実施した.様々な媒体(印刷物,新
聞・雑誌,カタログ)で検証を繰り返し行い,色再現性
の最適化と同時にノイズ成分の低減にも取り組み,更に
画質品質を向上させた.
(3)取組み 2(発想の転換による解決)
色再現性の見直しでも彩度が改善目標には到達しな
いマーカーがあり,更なる改善に取り組んだ.マーカー
彩度が検出閾値に近い場合,画像の微小なノイズが問題
●図―1 ScanSnap S1300 の外観●
(Fig.1-External view of the ScanSnap S1300)
となるがこれ以上のノイズ低減は困難と判断した.そこ
で,発想を変え,
“マーカーらしさ”に着目した.マー
カーの特性(太さ,濃さなど)のエッセンスを検出アル
注1)Windows は,米国 Microsoft Corporation の,米国,日本
およびその他の国における登録商標または商標である.
8
ゴリズムに追加することにより解決した.
これらの対応開発によりマーカー検出精度向上を実
PFU Tech. Rev.,21, 1,(05,2010)
コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap S1300
●表−1 ScanSnap S1300 両面カラースキャナの仕様●
項 目
内 容
製品名
ScanSnap S1300
読取方式
自動給紙方式(オートドキュメントフィーダ)
,両面同時読み取り
読取モード
カラー/グレー/白黒/自動(カラー・グレー・白黒の自動識別)
光学系/光源
CIS(コンタクトイメージセンサ× 2)/ RGB 3 色 LED 光源
読取速度
ノーマルモード
カラー/グレー 150 dpi,白黒 300 dpi:両面・片面 8 枚 / 分
ファインモード
カラー/グレー 200 dpi,白黒 400 dpi:両面・片面 6 枚 / 分
スーパーファインモード
カラー/グレー 300 dpi,白黒 600 dpi:両面・片面 4 枚 / 分
エクセレントモード
カラー/グレー 600 dpi,白黒 1,200 dpi:両面・片面 0.5 枚 / 分
ノーマルモード
カラー/グレー 150 dpi,白黒 300 dpi:両面・片面 4 枚 / 分
ファインモード
カラー/グレー 200 dpi,白黒 400 dpi:両面・片面 3 枚 / 分
スーパーファインモード
カラー/グレー 300 dpi,白黒 600 dpi:両面・片面 2 枚 / 分
エクセレントモード
カラー/グレー 600 dpi,白黒 1,200 dpi:両面・片面 0.5 枚 / 分
(AC アダプタ
使用時)
読取速度
(USB バスパ
ワー動作時)
標準モード
読取範囲
長尺読取
サイズ自動検出,A4,A5,A6,B5,B6,はがき,名刺,レター,リーガル,
カスタムサイズ(最大:216 mm × 360 mm,最小:50.8 mm × 50.8 mm)
可(863 mm まで)
原稿の厚さ
64 g/㎡∼ 104.7 g/㎡(55 kg/ 連∼ 90 kg/ 連)
原稿搭載枚数
最大 10 枚(A4,80 g/㎡)
インターフェース
USB2.0 / USB1.1
消費電力
動作時:9 W 以下,待機時:3.2 W 以下(AC アダプタ使用時)
動作時:5 W 以下,待機時:2 W 以下(USB バスパワー動作時)
動作環境
温度 5 ∼ 35 ℃,湿度 20 ∼ 80 %
外形寸法
284 mm(幅)× 99 mm(奥行き)× 77 mm(高さ)
質量
1.4 kg 以下
環境対応
グリーン購入法,国際エネルギースタープログラム,RoHS 指令準拠
マルチフィード検出
原稿長さ検出
カラー自動判別機能(カラー・グレー・白黒)
インテリジェント機能
インテリジェント・インデックス機能,
インテリジェント・クロッピング機能
キーワード自動仕分け機能,
ScanSnap Manager V5.1(スキャナソフトウェア)Windows
ScanSnap Manager V3.1(スキャナソフトウェア)Mac
ScanSnap Organizer V4.1(PDF・JPEGファイル整理・閲覧ソフトウェア)Windows
添付ソフトウェア
名刺ファイリング OCR V3.1(名刺管理ソフトウェア)Windows
CardMinder V1.1(名刺管理ソフトウェア)Mac
ABBYY FineReader for ScanSnapTM 4.1 Windows Mac(米国 ABBYY 社製)
Scan to Microsoft ®※1 SharePoint 3.3.5 Windows(米国 KnowledgeLake 社製)
※1 Microsoft は,米国 Microsoft Corporation の,米国,日本およびその他の国における登録商標または商標である.
現した.
本製品に「グレー」の判別(出力)を新たに追加し,視
4.1.2 その他の ISW 機能の搭載
認性とファイルサイズの最適化を更に向上させた.マー
(1)カラー自動判別機能(ScanSnap Manager)
従来機種 S300 の「カラー」
,
「白黒」判別に加え,
PFU Tech. Rev.,21, 1,(05,2010)
カー機能の改善取組みにより色再現性が向上,グレー判
別(出力)精度向上にも寄与している.
9
コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap S1300
図−2に従来機種 S300 と本製品 S1300 の自動判
してキーワードに登録する例を図−4に示す.
(3)キーワード自動仕分け機能(S c a n S n a p
別結果の対比を示す.
(2)インテリジェント・インデックス機能
Organizer)
PDF 内記載のキーワード情報で,保存先の自動仕分
(ScanSnap Organizer)
画像を OCR(文字認識)処理し PDF のキーワード
けが可能.画像ファイル整理の手間を軽減する.
情報を登録可能.Windows デスクトップサーチや
図−5は,
「振り分け条件の設定」画面で条件を設定
Mac の Spotlight の検索機能を利用し,PDF の高速
して,振り分け条件に該当する PDF が指定のフォルダ
検索を実現.キーワードは,マーカー・インデックス,
へ自動的に振り分けられる例を示す.
ゾーン OCR,直接入力により,簡単設定可能.
1)マーカー・インデックス
マーカー部分を自動検知し,OCR 処理し,キーワ
ードを登録する例を図−3に示す.
2)ゾーン OCR
ユーザーが指定した矩形内の文字列を OCR 処理
●図―4 ゾーン OCR 機能を使ったキーワード登録例●
(Fig.4-Example of keyword registration using the Zone OCR
function)
従来の自動認識結果(S300)
S1300 での自動認識結果
●図―2 S300 と S1300 との自動判別結果の対比●
(Fig.2-Comparison of automatic color detection results
between S300 and S1300)
マーカー部分を自動検知,OCR 処理し,キーワードを自動登録す
る.
「振り分け条件の設定」画面で条件を設定
●図―3 マーカー・インデックス機能を使ったキーワード登録例●
(Fig.3-Example of keyword registration using the Mark Text
function)
●図―5 PDF 内キーワード情報による一括振り分け例●
(Fig.5-Example of scanning to folders based on keyword
information in PDF files)
10
PFU Tech. Rev.,21, 1,(05,2010)
コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap S1300
(4)インテリジェント・クロッピング機能
(ScanSnap Organizer)
マーカーで囲まれた部分を自動認識して切り出し,
Mac のふたつの OS を利用シーンに合わせ使い分けた
い(持ち運べるので,会社の Windows,自宅の Mac
を 1 台で使いたい 等)というお客様の声に応え,
PDF に変換する.この機能は,新聞や雑誌などの電子
Windows,Mac OS のソフトウェアのハイブリッド
スクラップに役立つ機能である(図−6参照)
.
化を実現した(図−9参照)
.
S1500 では,画像読み取り∼ファイル生成するドラ
4.2 携帯性を備えた S1500 デザインコンセプト
の実現
イバソフトウェア(ScanSnap Manager )の
Windows,Mac 版の 2 種を,Windows 版装置
本製品のデザインは,商品価値向上を狙い,下記を
コンセプトとして実施した.
(1)コンセプト
1)S1500 とのシリーズ性「ヨーロピアンテイスト」
2)携帯性(コンパクト/可搬性)
シリーズ性を保つため,S1500 のデザインを担当し
たイタリアの有名デザイナと携帯性とコンセプトの踏襲
を両立するデザインにした.
S1500 では,斜め上から見たときにコンセプトが分
S1300
S1500
●図―7 上位機 S1500 とのシリーズ性を図った外観●
(Fig.7-Designed in the same style as the high-end scanner
S1500)
かりやすいように,前上部を斜めにしてクールな印象を
与えるシルバー色にしている.また,
「動」と「静」の
二面性を持った「W-face」をコンセプトにしている.
本製品は,携帯性を高めるため,斜めや丸くなった形状
を無くして,スクエアな全体の造形でも二面性を表現し
たスタイリッシュなデザインにした.
図−7に上位機 S1500 とシリーズ性を図った外観
を,図−8に本製品 S1300 のコンセプトイメージ例
を示す.
オフィス機器との親和性
コンパクト(携帯/可搬性)
●図―8 S1300 コンセプトイメージ例●
(Fig.8-Images showing the S1300 product concept)
4.3 OS を問わない利便性の実現
本製品は,携帯性を備えていることから,Windows,
Win 専用:ScanSnap Manager
名刺ファイリング OCR
Mac 専用:ScanSnap Manager
CardMinder
利用環境に合わせて使い分けが可能
●図―6 マーカーで囲んだ部分を PDF に切り出された例●
(Fig.6-Example of portions enclosed by marked lines
scanned to PDF documents)
PFU Tech. Rev.,21, 1,(05,2010)
●図―9 Windows と Mac OS とのハイブリッド対応●
(Fig.9-Cross-platform compatibility for Windows and MAC)
11
コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap S1300
(S1500)と Mac 版装置(S1500M)の両方に同梱
インターネット上で最新の
ドキュメントを管理
し,読み取り時の利便性を向上させた.
本製品では,ScanSnap Manager に加えて,名刺
管理ソフト(Windows :名刺ファイリング OCR,
ドキュメントデータ
Mac : CardMinder)を新規に開発し 1 モデルに同
梱.1 台の装置で Windows と Mac OS の両環境で,
読み取りからデータ管理までのトータルでの利便性向上
を実現した.
Web
いつでもどこでも
最新の情報が閲覧
可能
5
Mac 又は PC
活用シーン
「モバイルコンピューティング」では,ネットワーク
Mobile
インフラで情報を活用することが求められる.
本製品は,携帯性によって「モバイルコンピューテ
ィング」で活用できるドキュメントスキャナとして開発
したことから,ネットワーク環境における活用のシーン
●図―10 ScanSnap と Evernote を活用した
ドキュメント管理例●
(Fig.10-Example of document management using ScanSnap
and Evernote together)
を以下に,紹介する.
可能となる(図−10参照)
.ScanSnap と Evernote
5.1 読み取った画像データをインターネット上で
管理閲覧(ScanSnap + Evernote 注2)を活用
した事例)
ScanSnap のアプリケーション連携機能を使用し
ScanSnap で読み取ったドキュメントを Evernote
を組み合わせることにより,紙情報の管理,閲覧がさら
に向上する.
6
むすび
と連携することにより,ドキュメントデータ(PDF /
以上のように本製品は,ハードウェアとソフトウェ
JPG ファイル)とメモ情報が,インターネット上のフ
アを融合した製品開発により,更に簡単・便利に進化し,
ァイルサーバに一元管理され,いつでもどこでもインタ
顧客の利用シーンに合わせ業務効率や生産性の向上を加
ーネットが繋がる環境であれば最新の情報を検索,閲覧
速させる製品である.
今後も常に顧客の声に耳を傾け,その要求を真摯に
注2)Evernote は,米国 Evernote Corporation 社が提供してい
るアプリケーションを含む Web サービス(クラウドサービス)
であり,ほとんどの環境(ウェブ,Windows クライアント,
Mac ク ラ イ ア ン ト , iPhone( iPod Touch) ア プ リ ,
BlackBerry アプリ)で,ユーザーの情報をメモ管理,ノート,
電子スクラップ機能といったデータ管理を提供する.
Evernote は,Evernote Corporation の,米国およびその
他の国における登録商標または商標である.
12
受け止め実現し,感動を与える製品開発を行っていく.
参考文献
参1)ScanSnap 紹介ホームページ
http://scansnap.fujitsu.com/jp/
参2)山下ほか:コンパクト両面カラースキャナ ScanSnap
S300,PFU Tech. Rev.,18, 2,pp.18-24(2007).
PFU Tech. Rev.,21, 1,(05,2010)