米国特許制度調査報告 - jimuwww|信州大学

「大学知的財産本部整備事業」
21 世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム
【国際関係】
国際的な産学連携を進める上で問題となる米国と日本の特許制度における相違点(米国バ
イ・ドール法の留意点を含む)に関する調査研究
目次
1. 調査の概要
1.1 目的と背景
3
1.2 調査項目
3
1.3 調査方法
3
1.4 調査スケジュール
4
2. 米国特許法と特許庁規則など
5
2.1 米国憲法(U.S. Constitution Article1, Section 8, Clause 8)
5
2.2 米国特許法(Patent Laws)
5
2.3 連邦特許法施行規則(Federal Regulations)
5
2.4 米 国 特 許 審 査 マ ニ ュ ア ル (MPEP: Manual of Patent Examining Procedures),
Patent Procedures & related guides
5
3. 米国特許制度の概要
6
3.1 出願
6
3.2 審査
7
3.3 特許査定とその後
11
4.大学の共同研究や技術移転に関連する米国特許法
4.1 Bayh-Dole Act - 35 USC §200-§212 & 37 CFR 401
13
13
4.2 Cooperative Research and Technology Enhancement (CREATE) Act of 2004 – 35
USC§103
13
5. 米国特許制度の動向
15
5.1 米国特許庁(USPTO)の規定改正と米議会の法改正を推進する理由
15
5.2 米国特許庁(USPTO)の規定改正
15
5.3 米議会の法改正案議論
15
17
6.日米の特許制度比較と協力体制
1
6.1 日米の特許制度比較
17
6.2 日米協力
18
7.米国の特許訴訟
19
7.1 特許訴訟の概要
19
7.2 訴訟前の調査
21
7.3 訴状と答弁書
23
7.4 ディスカバリー(Discovery)
23
7.5 マークマンヒアリング
24
7.6 サマリージャッジメント
25
7.7 公判(Trial)
25
7.8 数字で見る特許訴訟
26
8.技術移転や共同開発に関係するその他の米国法案
28
8.1 独占禁止法(Antitrust Law)- Title 15 USC
28
8.2 不正使用防止法(Misuse law)
29
8.3 技術輸出に関する米国法
29
9.知的財産を管理するための手段と体制
31
9.1 大学の産学連携と技術移転
31
9.2 知的財産管理
31
9.3 共同研究およびライセンス契約書(JRA)
33
10 特許制度の参考資料のリストとリンク先
34
11 まとめ
35
【参考資料等一覧】
36
【添付資料】
資料 1
Non-Exclusive License Agreement
資料 2
Exclusive License Agreement
資料 3
Joint Research & Development Agreement
資料 4
参考資料のリストとリンク先
2
1. 調査の概要
1.1 目的と背景
日米間の技術移転や共同研究など国際的な産学連携を推進する上で、産学の技術移転に
関連する Bayh-Dole 法や CREATE 法などを含めた米国の特許制度(出願、公開、審査、
異議申立、侵害訴訟など)を調査し、日米の制度上の相違点よく理解することが重要であ
る。米国の特許制度は日本や欧州を始めとする他の国の特許制度と大きく異なる点を有し
ている。また、米国議会の特許改正法案、米国特許庁の規定改正、および連邦最高裁判所
の判例などの動向を常に把握しておくことも必要である。大学が国際的な産学連携に対応
できる体制を整備し、日米間の産学連携を推進するために必要な知的財産や技術移転に関
わる知識を習得することを目的に米国特許制度の調査分析を実施した。本報告は、の技術
移転担当者に米国特許制度の基礎的な知識と情報を与えるものである。
1.2 調査項目
1) 米国特許法と特許庁規定
2) 米国特許制度の概要
3) 大学の共同研究や技術移転に係わる米国特許法
4) 米国特許制度の動向
5) 日米の特許制度比較と協力体制
6) 米国の特許訴訟
7) 技術移転や共同開発に関係する米国の関連法案
8) 知的財産を特定、保護、管理するための手段と体制
9) 共同研究契約書・特許ライセンス契約書の一例
1.3 調査方法
1) 会議・セミナーでの調査活動
大学技術移転マネージャー協会セミナー(AUTM2007Anual Meeting)
国際特許流通セミナー(工業所有権情報・研修センター)
米国特許弁護士セミナー(日本弁理士会他)
特許庁派遣研究員セミナー(日本学術振興会サンフランシスコオフィス)
2) 訪問調査
米国現地企業への訪問調査
日本学術振興会サンフランシスコオフィス、日本貿易振興機構サンフランシスコオフ
ィス、在サンフランシスコ領事館、サンフランシスコ・ベイエリア大学間連携ネットワ
ーク(JUNBA)などへの訪問調査
3) 調査委託と契約書作成委託
米国法律事務所への米国特許制度調査委託と定型共同研究契約書・特許ライセンス契
3
約書作成委託
1.4 調査スケジュール
下記のスケジュールに従って調査研究を実施した。
2006/10
プログラム採択通知
2006/11
文献調査
2006/12
知的財産シンポジウム
米国法律事務所(業務委託先)調査
2007/1
国際特許流通セミナー
米国法律事務所(業務委託先)との事前打合せ
2007/2
日本弁理士会セミナー(2 回)
米国法律事務所への業務委託
2007/3
AUTM2007 Annual Meeting 調査
日本学術振興会サンフランシスコオフィスなど調査訪問
米国現地日系企業調査訪問
日本弁理士会セミナー(3 回)
米国法律事務所からの報告
調査報告書作成
2007/4
報告書提出
4
2. 米国特許法と関連法規
2.1 米国憲法(U.S. Constitution Article1, Section 8, Clause 8)
米国特許制度は米国憲法の知的財産条項を基本としている。憲法の条項には「科学および
有用な技術の発展を促進するために、著作権および発明者にそれぞれの作品と発見に対す
る独占権を限られた期間補償する」とある。
"To promote the progress of science and useful arts, by securing for limited times to
authors and inventors the exclusive right to their respective writing and discoveries"
2.2 米国特許法(Patent Laws)
合衆国法典第 35 巻(Title 35 United States Code – Patents)
特許法は米上院と下院で票決されて制定された後、大統領によって署名されたものであ
る。新法や改正法は類似の法律などとの関連がわかるように合衆国法典(United States
Code : USC)の番号が付与されている。
参照先
http://www.uspto.gov/web/patents/legis.htm
http://www.bitlaw.com/source/35usc/index.html
2.3 連邦特許法施行規則(Federal Regulations)
連邦規則集第 37 巻(Title 37 Code of Federal Regulations - Patents, Trademarks, and
Copyrights)
連邦規則集 37 巻は米国特許庁(USPTO)によって作成された規則である。連邦規則集 37
巻は特許法(合衆国法典第 35 巻)をどのように実施するかを詳細に説明するために作成さ
れたものである。法律自体には、手順についての詳細な説明や、起こりうる特別な状況に
ついての対応などのついての記述はないので、規則はより詳細な解説や運用について記載
している。
参照先
http://www.uspto.gov/web/patents/legis.htm
http://www.bitlaw.com/source/37cfr/1index.html
2.4 米国特許審査マニュアル(MPEP: Manual of Patent Examining Procedures), Patent
Procedures & related guides
米国特許審査マニュアルは、米国特許庁の特許審査官、特許弁護士(弁理士)、出願人、出
願代理人が特許庁に特許出願をする際に、その実施方法や手順について参照するためのも
のである。マニュアルには審査官への指示事項、解釈に関する事項、特許審査する場合に
従う事項、現行の手順の要点、審査官の権限と義務などが記載されている。ただし、マニ
ュアルには法律や規則のような強制力はない。
参照先
http://www.uspto.gov/web/patents/legis.htm
http://www.bitlaw.com/source/mpep/index.html
5
3. 米国特許制度の概要
3.1 出願
3.1.1 特許の種類
特許には分類の仕方によって様々な種類がある。以下はその一例である。
1) 対象による分類
①有用特許(Utility Application)35 USC §101
②意匠特許(Design Application)35 USC §161
③植物特許(Plant Application)35 USC §171
2) 形態による分類
① Provisional Application(仮出願)
② Ordinary Application(通常出願)
③ Divisional Application(分割出願)
④ Continuation Application(継続出願)
⑤ Continuation-in-part Application(部分継続出願)
⑥ Substitute Application(差替出願)
⑦ Reissue Application(再発行出願)
3.1.2 先発明主義(First to invent system)
米国以外の国は発明に対して先に出願した者に特許を与える先願主義(First to file
system)が採用されているのに対して、世界で唯一、米国は先発明主義(First to invent
system)を採用している。先発明主義は同一の発明に対して最も早く発明した者に特許権を
与える制度である。先発明主義においては、新規性や進歩性の判断は原則として発明日が
基準になる。ただし、米国特許庁に出願をした日が発明の完成日と推定されるのが通常で
ある。同一発明の出願に対して、どちらが先に発明したかが問題となる場合、先発明者を
決定するためにインターフェアレンスの手続きがおこなわれる。一般に発明の先後の判断
は容易ではなく多くの時間と労力を必要とする。
3.1.3 発明者(Inventor)
米国の特許出願人(Applicant)は発明者(Inventor)の名前で行う。特許の権利は譲渡などで
権利を譲り受けたもの(Assignee)に帰属できる。複数が共同で発明をした場合は、原則とし
て共同発明者全員を発明者として記載する必要がある。
3.1.4 仮出願 (Provisional Application)
35 USC §111(b)
形式的に簡略化した明細書で仮に出願する制度で、1 年以内に本出願が必要となる。本
出願をすると、仮出願日を出願日とすることができる。パリ条約に基づく外国出願の優先
権を主張して仮出願をすることができないが、仮出願に基づいて外国に優先権を主張して
6
特許出願することができる。従って、一般に米国を最初の出願国にする場合にしか利用さ
れない。なお、仮出願から 1 年以内に本出願をしないと自動的に放棄となる。
3.1.5 情報開示報告書(Information Disclosure Statement)
特許出願人は、発明の特許性に関わる全ての情報を記載した情報開示報告者(IDS)を米国
特許庁に提出しなければならない。発明者、特許出願人、出願代理人など出願に関係する
者は、知っている全ての特許性に関わる重要な情報を開示する義務がある。情報を意図的
に開示しないなどの情報開示義務違反は不公正行為と考えられ、特許権は無効となり、行
使ができなくなることがある。
3.1.6 出願公開制度
35 U.S.C. §122(b)
米国も現在は出願公開制度が採用されており、出願日から 18 ヶ月以内に特許は公開され
る。ただし、米国内のみに出願された特許は公開の適用から除外され、出願人の請求によ
って非公開とすることができる。
3.1.7 出願書類
出願時に必要な提出書類は以下の通りである。
1) 明細書(Specification)と要約書(Abstract)
2) 図面(Drawings)
3) 発明者宣誓書(Declaration)
4) 出願料金(35 USC§41 および 37CFR§1.16 –§1.21 参照)
5) 譲渡書(オプショナル)
6) 優先権証明書(オプショナル)
3.1.8 出願方法
USPTO は現在 Virginia 州の Alexandria にある。ほとんど全ての出願提出書類は USTPO
の利用者サービス窓口を介して提出することができる。
1) 電子出願システム(EFS)
2) FAX
3) USPS
4) 宅配
5) 手渡し
3.2 審査
3.2.1 特許主題 (Patentable Subject Matter )- 35 U.S.C. §101
1) 新規性があって有用な方法(process)、機械(machine)、製品(manufacture)、組成
7
物(composition of matter)、または新規性があって有用な改良を発明又は発見した者
は、特許法が定める条件および要件に従って、特許を受けることができる。
2) 米国最高裁の判断では、より広義に人間が作ったものであれば何でも特許の対象にな
る"Anything under the sun that is made by man"としている。
例1)遺伝子工学によって創られたバクテリアに関する発明
例 2)具体的な結果が得られるビジネス手法
3) 特許不可の対象 "Not Patentable"の例
アルゴリズム(algorithm)
物理的現象(physical phenomena)
自然法則(laws of nature)
数式(mathematical formula)
抽象的なアイデア(abstract idea)
仮出願
パリ条約優先権出願
通常出願
限定指令
出願公開
局指令
審査再開
最終局指令
継続審査請求(RCE)
アドバイザリー
アクション
許可通知
審判請求
特許発行料
支払い
判決
発行/公報
控訴
再審査
再発行
拒絶確定
米国特許出願の基本フロー
8
3.2.2 有用性 (Utility) - 35 U.S.C. §101
有用性の要件は以下の通りである。
1) 具体的(Specific)
有用性はクレームされた発明に特定されたものでなくてはならない。
2) 実質的(Substantial)
実用的な用途であること。
3) 信頼性(Credible)
該当技術分野で普通の知識をもつ者(以下「当業者」)が、提出された申請書の情報
に基づいてその有用性を認めること。
3.2.3 新規性 (Novelty) - 35 U.S.C. §102
1) 発明の全てのクレーム構成要件を開示する先行技術(prior art)がなければ、その発明
は新規である。
先行技術には以下のものを含む。
① 刊行物(論文、ポスター、ウェブページ、博士論文/試問、議事録、配布資料を伴う
講演、講演…?)
② 発明完成日より前に公知、公用、特許付与、刊行物に記載、または販売されたもの
2) 発明の公表から 1 年間は新規性を喪失せず、特許出願ができる猶予期間(グレースピ
リオド)がある。
3) 新規性の拒絶理由
① 新規性喪失事由 (Anticipation) - 35 U.S.C. §102(a)(e)(g)
発明の完成時を基準とする規定で、発明に新規性がなければ特許を取得できない
② 法定拒絶事由(Statutory Bar)- 35 U.S.C. §102(b)(c)(d)
特許出願時を基準とする規定で、発明の公表から 1 年以内に出願しないと特許を取
得できない。
3.2.4 非自明性または進歩性 (Nonobviousness) - 35 U.S.C. §103
1) 発明に新規性があったとしても、以下のものであれば特許性がないと判断される。
① 該当技術分野で普通の知識をもつ者(以下「当業者」)にとって自明である。
② 発明時点において、当業者であれば従来技術から知り得ると推定される。
③ 判断基準は以下のとおりである。
- 先行技術の範囲と内容
- 先行技術と該当クレームの相違点
- 当業者の水準
2) 技術の進歩を促進するための発明が特許であり、非自明性は、先行技術の設計変更や
9
単なる組合せが特許とならないようにするための要件である。
3.2.5 明細書の開示要件(Disclosure Requirement) - 35 U.S.C. §112
明細書は、出願時に発明記述要件(発明が記載されていること)、実施可能要件(発明が
実施可能な程度に記載されていること)、ベストモード要件(最良の形態が記載されている
こと)の 3 つの要件を満足していることが要求される。
1) 記述要件(Written Description)
発明を明細書に記載しなければならない。
2) 実施可能要件(Enablement)
当業者が発明を生産して使用ことができる程度に方法や手順を十分、明瞭、簡潔かつ
適切な用語で明細書に記載しなければならない。
3) ベストモード要件(Best Mode)
発明を成し遂げた発明者が最良と考える実施態様を明細書に記載しなければなら
ない。これは米国特許法に特有の要件である。
3.2.6 拒絶通知局指令(Office action)
審査官による審査が始まると、特許許可通知か拒絶を通知する局指令(オフィスアク
ション)が出される。このオフィスアクションには特許性に関する拒絶(Rejection)と形式上
の不備に対する拒絶(Objection)の 2 種類がある。出願人は意見書の提出やクレームの補正
などでオフィスアクションに回答しなければならない。回答しないときは出願を放棄した
ことになる。回答によっても拒絶が解消されない場合は最終局指令(最終オフィスアクシ
ョン=拒絶査定)が出される。最終局指令に対しても補正などによる回答を提出すること
ができるが、それでも許可できない場合に審査官はアドバイザリ・アクションを出願人に
通知する。これに対して、出願人は審判請求をするか継続審査請求(RCE)をしなければ拒絶
が確定する。
3.2.7 継続審査請求(RCE) 35 USC §132 と継続出願(CPA)
継続審査請求は拒絶査定の撤回と審査再開の請求であり、審判請求なしで審査を継続す
る手段である。継続出願(CPA)の制度は 2003 年に廃止(デザイン特許を除く)されている。
RCE は日本に無い制度である。
3.2.8 限定要求(Restriction Requirement)と分割出願(Divisional Application) - 35 USC
§121
独立して別個の複数の発明が含まれているとして審査官から出願の限定命令を受けた場
合、出願人はその一部の発明を選択して出願しなければならない。
10
3.2.9 特許庁審判部への審判請求(BPAI) - 35 USC §134
審判手続きは審判請求理由書を特許庁に提出して、審査官の回答書、請求人の答弁書、
審判ヒアリング(任意)を経て特許庁審判部が決定を下す。審査官または審判部が許可す
れば審査が再開される。審判部により拒絶された場合は拒絶が確定するが、請求人が不服
の場合は裁判所に提訴ができる。
3.2.10 インターフェアレンス(Interference) - 35 USC §134
同じ発明に対して複数の特許出願が場合、どちらが先発明かを決定する手続きがインタ
ーフェアレンスである。インターフェアレンスを行う場合、後願特許は先願特許から 1 年
以内に出願されていなければならない。また、少なくとも一方が特許出願の段階であれば
特許庁でインターフェアランスの裁定ができるが、双方が特許を取得済の場合は連邦地裁
の管轄となる。
3.3 特許査定とその後について
3.3.1 特許許可(Notice of Allowance)
審査官は特許許可通知を出願人に送付し、出願人は特許発行料(Issue Fee Payment)を納
付する。許可通知後は、審査官の許可があれば、クレームの削除と形式の補正に限り補正
ができる。また、出願人は特許発行の延期や辞退を求める請願ができる。
3.3.2 特許期間(Patent Term)
米国の特許期間は出願日から 20 年となった。1995 年 6 月の改正以前は特許発効日から
17 年が特許期間である。また改正時点で生きていた特許出願は特許発効日から 17 年か出願
日から 20 年かのいずれか長い期間が適用される。
特許維持料は特許発行から 3 年後($900)、7 年後($2,300)、11 年後($3,800)にそれぞれ納
入する。ただし、料金は現行の料金であり、将来変更される可能性がある。
3.3.3 再発行出願(Reissue Application) - 35 USC §251
軽微でない特許の誤りで、詐欺的な意図がなく、特許の一部や全部が機能しないか無効
である場合に、特許権者は再発行出願をすることができる。特許発行から 2 年以内であれ
ば、特許請求の範囲(クレーム)を拡大することもできる。
3.3.4 再審査(Reexamination) - 35 USC §302
1) 再審査制度は、新たな疑問や有力な先行技術が発見された場合などに、米国特許庁に
再度審査をしてもらう制度である。請求は特許や刊行物への記載されている内容をもと
に行わなければならない。また、新規性、非自明性、ダブルパテントなども再審査請求
の対象となる場合がある。
11
2) 再審査の種類
①査定系再審査(Ex Partes Reexamination) - 35 USC §302
特許権者や第三者を含めて誰でもが USPTO に請求できる。USPTO は提出された先
行技術が該当特許の特許性に疑義を生じないと判断した場合は特許性が確定する。これ
は最終決定であり控訴できない。また USTPO が提出された先行技術が該当特許の特許
性に疑義があると判断した場合は再審査が決定する。特許権者は意見書の提出や特許の
申請内容を修正することができる。特許権者の意見書は第三者請求人に送られ、第三者
請求人は答弁書をだすことができる。審査の間、第三者請求人は特許権者の応答に対し
てコメントを提出するなど積極的に審査に参加できる。審査結果に不服の場合は BPAI
に審判を請求できる。また特許権者が BPAI の判決に不服の場合は CAFC に控訴できる。
②当事者系再審査(Inter Partes Reexamination) - 35 USC §311
1999 年以後
第三者が USTPO に請求できる。USPTO は提出された先行技術が該当特許の特許性
に疑義を生じないと判断した場合は特許性が確定する。これは最終決定であり控訴でき
ない。また USTPO が提出された先行技術が該当特許の特許性に疑義があると判断した
場合は再審査が決定する。特許権者はオフィスアクションにたいしてその都度答弁書を
提出する。第三者請求人はオフィスアクションか特許権者の答弁書に対して最初 1 回の
み意見書を出すことができる。以後は審査官と特許権者による審査となり、第三者は参
加できない。審査結果に不服がある場合、特許権者は特許庁審判部 (BPAI)に審判を請求
できる。また BPAI の判決に不満がある場合、特許権者は CAFC に控訴できる。
再審査で特許が有効であると確認された場合、第三者は後の裁判で同じ先行技術によ
って特許の無効を主張することはできない。また、特許侵害訴訟中に再審請求した場合、
再審査の結果が出るまで継続中の訴訟は中断される。
12
4.大学の共同研究や技術移転に関連する米国特許法
4.1 Bayh-Dole Act - 35 USC §200-§212 & 37 CFR 401
4.1.1 Bayh-Dole Act の概要
1980 年に制定された法案で、連邦政府が資金を提供した研究開発によって得られた発明に
対する特許の権利を大学、中小企業と非営利団体に所属する発明者に付与するものであり、
University and Small Business Patent Procedures Act とも呼ばれる。この法律により、
大学や中小企業の研究者に研究成果の商品化への動機付けと責任を与えられて研究開発が
加速して、多数のベンチャーを輩出するなど米国産業の競争力が改善された。この法案は、
米国の近年の特許法改正案として最も影響が大きなものの一つと考えられている。Council
on Governmental Relations (COGR)に Bayh-Dole Act を詳細に解説した参考資料がある。
参照先
http://www.cogr.edu/
4.1.2 大学に関連する主な条項(概要)
1 )政府機関からの資金による研究開発において、大学を含めた非営利機関と中小企業は
発明の権利を与えられる。
2) 大学は、政府機関からの資金で得た発明の利用を促進し、企業関係者との協力を奨励
される。
3) 大学は発明の特許申請を求められる。
4) 大学は中小企業への技術移転を求められる。
5) 連邦政府は、無償で非独占的特許ライセンスを取得することができる。
6) 連邦政府は、その発明を第三者に実施させるための請求権(march in right)をもつ。
7) 連邦政府の資金による研究開発の成果として生じた発明を特許申請する場合、出願人
は特許明細書にその旨を記載しなければならない。
4.2 Cooperative Research and Technology Enhancement (CREATE) Act of 2004 – 35
USC§103
4.2.1 CREATE Act の概要
共同研究において大学と企業などの関係は近年より協力的なものになっており、両者に
よる会議、口頭や文章による情報伝達がしばしば行われ、また相互交流も頻繁に行われて
いる。CREATE Act 以前は、大学教員と企業などの共同研究者や研究委託者との間の情報
伝達内容は米国特許法上の先行技術と考えられていた。したがって、結果的に異なった 2
つ以上のグループ間の個人的な情報交換は先行技術とされ、両者の情報交換の結果から得
た知識や開発した技術に関する有効な特許をそれぞれのグループが取得する機会を制限し
ていた。本法律は、単に出願人に、先行技術と考えられていた特定の情報を除外し、特許
を取得できる範囲を拡大したものである。非自明性の例外要項を修正して、共同研究契約
に基づく特許にも含むように改正された。目的は、共同研究の成果によって生まれた発明
13
に対して特許を付与して共同研究の促進をするものである。
4.2.2CREATE Act が適用される契約書(JRA)
共同研究契約書(Joint Research Agreement: JRA)は書面による契約でなければならない。
1) 共同研究契約(Collaboration Agreement)
2) 秘密保持契約(NDA)
3) 受託研究契約(Sponsored Research Agreement)
4) ライセンス契約(Licenses Agreement)
5) マテリアル移転契約(Material Transfer Agreement)
6) 客員研究者契約書(Visitor/Visiting Faculty Agreement)
7) 学内の契約書(Inter-institutional Agreement)
8) その他
4.2.3 利点
1) 共同研究での情報交換が容易となった。
2) 共同研究の秘密情報を非公開とする場合の不公正行為の発生リスクを軽減できる。
3) 以前には情報交換による先行技術として排除されていた特許が取得可能となった。
4) 共同研究が促進される。
4.2.4 危険性
1) ターミナルディスクライマーの提出が義務付けられている。
2) 税金問題が複雑になる。
3) 共同研究に対する影響が大きく、大学や技術移転機関の管理を複雑にする。
4) 適用の範囲が不明確である。
Council on Governmental Relations (COGR)に CREATE Act を詳細に解説した参考資料
がある。
参照先
http://www.cogr.edu/
14
5. 米国特許制度の動向
5.1 米国特許庁(USPTO)の規定改正と米議会による法改正
規定改正や法改正を進める理由
1) 審査の負荷軽減
2) 特許の質的向上
3) 国際的な協調
4) 裁判費用の軽減
5) 訴訟の危惧低減
6) パテント Troll など加熱した特許ビジネスへの対策
5.2 米国特許庁(USPTO)の規定改正
5.2.1 改正された規則
審査の迅速化に関する改正が行われてきた。12 ヶ月以内に最終的な判断をだすことが目
標である。
5.2.2 現在の改正案の例
1) 継続出願、分割出願と関連する出願の制限
継続出願、部分継続出願、継続審査は請求が認められない限り 1 回とする。
分割出願は、親出願に優先して主張できる。また、分割出願では 1 回のみ継続審査が
できる。
2) クレームの数制限
初回に審査するクレームは 10 件までとする。10 件以上の場合は出願人自身が審査資料
を用意する必要あり。
3) 情報開示報告書(IDS)の数制限
IDS において提出する資料は 20 以下とする。
5.3 米議会の法改正案
米議会には以下のような特許法改正案が提出され審議されている。
1) 先願主義への移行(First-to-file)
2) 先行技術の再定義(Redefinition of prior art)
3) 譲渡任による出願可能(Assignee filing)
4) ベストモードの削除(Elimination of best mode)
5) 正直と誠意の義務化(The duty of candor and good faith)
6) 不公正な行為の見直し(Inequitable conduct)
7) 出願公開を全てに適用(Publishing of application)
8) 当事者系再審査の適用拡大(Inter partes reexamination)
15
9) 認定後の異議申立手続き(Opposition proceedings)
10) 第三者による先行技術提出時の意見書(Third party prior art submission)
11) 先使用者の権利拡大(Prior use rights)
12)米国特許法§271(f) 域外適用規定の削除(Elimination of 35 USC§271(f))
13) 故意侵害の判定見直し(Willful infringement)
14) 差し止めの適用を制限(Injunction)
15) 裁判地の制約(Venue)
16) その他(敗訴側が勝訴側の弁護費用負担、USPTO の権限拡大など)
16
6.日米の特許制度比較と協力体制
6.1 日米の特許制度比較
日米の特許制度の主要な相違点を比較すると以下のようになる。
1) 先発明主義と先願主義
日本やその他の国では先に出願した者に特許を与える先願主義をとっているのに対し
て、米国では先に発明した者に特許を与える先発明主義をとっている。国際協調の流れ
に沿って、先願主義の考え方を一部に導入した制度への法改正が検討されている。
2) 審査請求
米国には審査請求制度はなく、全ての出願について特許審査が行われる。
3) 出願公開制度
米国も出願日または優先日から 18 ヶ月後に公開する出願公開制度を導入したが、米国
では国内のみに出願された特許は公開から除外されている。ただし、重要な特許は米国
外の複数の国に出願されるケースが多いので大きな影響は無いと考えられる。
4) 情報開示義務
日米共に特許を出願する場合は、先行技術など特許性に関して重要なすべての情報を
開示する義務を負う。日本では開示しないと拒絶理由となり特許は認められない。米国
ではより厳しく、意図的に開示しないなどの不正行為があると、特許訴訟などにおいて
特許は無効となり、特許権の行使ができなくなる。
5) 特許存続期間
以前は米国特許の存続期間は特許発行から 17 年間であったが、現在は日本や欧州と同
じく出願日から 20 年間に改正されている。
6) 審査継続制度
日本では拒絶査定の後は審判請求するしか補正はできない。米国では最終の拒絶通知
局指令(Final office action)に対して補正することができる。さらに、審判請求か継続
審査請求(RCE)ができ、いつまでも出願を継続できる。
7) 仮出願
仮出願は優先日を確保するための制度で、1 年以内に通常出願をしなければならない。
米国出願において仮出願をすることで、通常出願の優先権を得ることが目的である。
8) 特許発行後の意義申立制度
米国には特許庁に請求する再審査制度と裁判所に請求する無効審判制度がある。再審
査がより一般的である。
9) 明細書のベストモード記載
日本ではベストモード記載は必要ない。米国では明細書に出願人が知る最善の実施形
態を開示する必要がある。ベストモードを意図的に記載しないなどの不正行為が見つか
ると、訴訟において特許は無効となり特許権の行使ができなくなることがある。
10) 特許訴訟制度
17
米国の特許訴訟制度には Discovery、陪審員制度、故意侵害の三倍賠償、短期集中型の
公判、陪審制度など特異な制度があり、日本の司法制度と大きく異なる。詳細は第 7 項
を参照。
6.2 日米の特許審査協力
1) ドシエシステム(Dossier Access System) - 2005 年 10 月から
日米欧が各国の審査のやりとりを他国に提供する制度である。自動翻訳を使用する。
2) 日米特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway :Pilot) - 2006 年 7 月から
最初の出願国で特許査定された特許出願(仮出願も可)に基づく他国への出願につい
て、他国の特許庁に特許査定されたことを通知することによって、他国特許庁にて早期
に実態審査が行われるシステム。
参照先
http://www.uspto.gov/web/patents/pph/pph_index.html
http://www.jpo.go.jp/torikumi/index.htm
3) 国際的な特許システム構築のための共同イニシアティブ(2007 年 1 月から)
経済産業省と米国商務省の間で、国際的な特許システムを構築するための両国間の協
力体制。
18
7.米国の特許訴訟
7.1 特許訴訟の概要
7.1.1 特許訴訟が盛んな理由
1) 特許およびビジネスのマーケットが大きい
2) 特許権者を保護する強い特許制度がある
3) 差止命令(一時的/永久的)ができる
4) 賠償金が高額になる
5) ディスカバリーによる情報開示制度がある
7.1.2 特許訴訟をするときに考慮しなければならない事項
1) 差止め命令ができるか否か
2) ディスカバリーによる手間と費用が嵩む
3) 訴訟費用が膨大である
4) 判事は技術的なトレーニングを受けていない
5) 陪審員制度がある
7.1.3 侵害の分析
1) クレームの解釈
クレームの文言の意味を明確に解釈する。クレーム、明細書、審査の経緯からクレー
ムを判断する。
2) 解釈されたクレームと侵害製品の比較
クレーム解釈に照らして、侵害製品とクレームの比較をする。特許権者が侵害の立証
責任を負う。立証には優位性が必要となる。
3) 文言侵害(Literal infringement)
告発された製品の中に特許クレームの全ての要素が含まれている場合は文言侵害とな
る。特許権者は先ず、文言侵害の立証を目指すことになる。
4) 均等論侵害(Doctrine of equivalent)
告発された製品が文言侵害に該当しない場合においても、均等論のもとで特許クレー
ムを侵害している場合がある。均等論での侵害は、告発された製品や方法が特許を取得
した発明の個々のクレームの要素と同一または類似の要素を持っているかどうかを調べ
る。均等論は関連する特定の特許クレームの個々の要素に対応しなければならない。特
許侵害の判定は要素ごとに客観的に比較されなければならない。特許と侵害製品が本質
的に同一の方法、機能、効果であれば特許侵害となり得る。現在、均等論は、クレーム
の構成要件と異なる部分とクレームで限定されるものとの差異が非現実的かどうかとい
う「非現実的テスト」により判断される。この判断基準は常に変化しており、特許弁護
士など専門家の判断が必要となる。均等論侵害の事実判定は陪審員によって行われる。
19
5) 特許は推定有効
特許は推定有効が基本なので、一般に特許権者に有利である。陪審裁判などでは特許
侵害を立証することより、特許を無効化することのほうが困難となる。無効化を立証す
るには明確で説得力ある立証が必要で、全ての要素が単一の先行技術に記載されている
か。出願より一年以上前に販売されているなどの強い証拠が必要である。
7.1.4 米国司法制度
1) 裁判所(特許裁判は民事裁判である)
① 連邦最高裁判所(US Supreme Court)
特許裁判が最高裁に行くことはまれであるが、法律の解釈に関係するような重要な
案件は最高裁で公判が行われる。通常は年に数回程度である。
② 連邦巡回裁判所(Court of Appeal for Federal Circuit)
地方裁判所からの控訴は全て連邦巡回裁判所(Federal Circuit)に行く。12 人の判事
がおり、1 つの案件につき通常は 3 人の判事が担当する。所在地は Washington DC に
あるが、公判は全米の各地で開かれる。
③ 連邦地方裁判所(District Court)
全米に 94 の連邦地裁各があり、約 1200 人の判事が公判を担当する。各州に最低一
つの地裁がある。
2) 連邦準司法機関(裁判所以外の機関)
① 国際貿易委員会(International Trade Commission: ITC)
ITC に提訴するためには、侵害製品が輸入品で、米国内産業の存在(影響)が無け
ればならない。ITC の裁定では賠償金は得られず、差止め命令が出される。通常 1 年
以内で判決がでるので、急いで差止めをしたい場合などスピードが要求される場合や
費用を削減する目的で ITC の裁定を利用することが多い。
② 米国特許庁の審判部 BPAI(Board of Patent Appeals & Interference)
7.1.5 訴訟の流れ
1) 訴状提出(原告)
2) 答弁書(被告)
3) ディスカバリー
4) マークマンヒアリング(クレーム解釈)
5) 裁判(サマリージャッジメント、判事裁判、陪審員裁判)
6) 判決
7) 控訴
20
連邦最高裁判所
S u p re m e co u r t
連邦巡回控訴裁判所
CAFC
連邦地方裁判所
D istr ict c o u rt
国際貿易委員会
IT C
特許に関する米国司法制度
訴状提出
答弁書提出
ディスカバリー
マークマンヒアリング
公判
サマリージャッジメント
判決
結審・控訴
米国特許訴訟の基本フロー
7.2 訴訟前の調査
7.2.1 1 合理的理由
特許訴訟を起こすには合理的な理由があることが基本で、十分な事前調査を実施する必
要がある。
21
7.2.2 価値と費用
米国での特許訴訟は、一般に特許一件につき約 US$3 million∼US$5 million の費用がか
かると言われている。この費用と特許の価値(差止め、賠償金など)を天秤にかけて訴訟
を起こすかどうか決める必要がある。
7.2.3 損害補償
1) 補償的損害
特許法で認められている補償で、遺失利益と特許使用料がある。
① 遺失利益:証明が必要で金額的には大きい。
② 適正な特許使用料:補償額の最低限の金額となる。
2) 懲罰的損害
特許法で例外的に認められている補償で、意図的侵害(不正行為)に対するものと弁
護士費用負担がある。
① 意図的侵害(Willful Infringement):遺失損失の 3 倍以内まで賠償を命令できる。
② 弁護士費用負担:原告と被告がそれぞれの弁護士費用を払うのが基本であるが、不
公正な行為や意図的侵害の場合は例外的に勝訴側の弁護士費用を敗訴側に負担するこ
とを命令できる。
7.2.4 裁判の利点
1) 特許権者の要請に基づき、裁判所は侵害者に特許の使用差止め命令ができる。
①永久的差止め命令(Permanent Injunction)
判決が出たあとに使用差止め命令ができる。
② 一時的差止め命令(Preliminary Injunction)
下記のような場合は、係争中でも例外措置として差止め命令ができる。
・マーケットシェアを大きく損なう様な回復不可能な損失が特許権者に発生する場合
・特許権者が過去の係争で勝利したなど、強い特許権であることを証明できる場合
2) 特許権者が弱腰でない姿勢を示すことができる。
3) 大きな特許ポートフォリオの内の 1∼2 個の特許で訴訟を起こすことで、全体のポー
トフォリオの価値を上げることができる。
4) 業界にメッセージを送ることができる。
7.2.5 裁判のリスク
1) 無効、非侵害、行使不可という不利な裁定が下りる可能性がある。
2) ディスカバリーの資料準備や従業員の証言などは長期間にわたるので、費用が嵩み、
また通常業務に深刻な障害がでる。
22
7.2.6 訴訟前の調査事項
1) 特許を回避することが容易か
2) 不公正な行為はないか
3) 特許は有効か
4) 特許性を強化する(再審査、継続出願など)ことが可能か
5) 証拠収集
6) 専門家の招集
7.2.5 紛争の解決方法
1) 交渉(Negotiation)
2) 仲裁人の勧告による和解(Arbitration)
3) 弁護士や裁判官などの勧告による和解(Mediation)
4) 訴訟(Litigation)
7.2.7 チーム編成
1) 訴訟弁護士選定
2) 現地の弁護士選定(海外での訴訟の場合)
3) 陪審制度について調査チーム
7.2.8 裁判地の選定時に考慮する点
1) 裁判地のスピード
2) 陪審員の質
3) 移転を阻止できるかどうか
4) 判事の過去の記録
5) 証人の確保
6) 相手方に有利な場所を避ける
7.3 訴状と答弁書
7.3.1 訴状(Complaint)
原告が、裁判権の根拠(特許権を所有など)、クレーム(請求の原因)、請求の趣旨(差
し止めなど)などを記載した訴状を裁判所に提出することで訴訟が開始する。第一審は連
邦地裁となる。輸入品については国際貿易委員会(ITC)に提訴することもできる。
7.3.2 答弁書(Reply)
被告に訴状が送付されると、訴状に記載されたそれぞれの事項に対する認否の答弁書を
出す必要がある。被告は答弁と同時に原告を反訴することができる。また、認否の他に、
23
特許権の無効(invalid)、不正行為(equitable conduct)による特許権行使不能、怠慢(latches)
による特許権行使不能などを主張することもできる。
7.4 ディスカバリー(Discovery)
7.4.1 ディスカバリーとは
ディスカバリーは米国の訴訟で、原告と被告の間で紛争に関する証拠の収集と開示をお
こなう制度である。米国の特徴的な制度であり、真実を明らかにするための重要なプロセ
スである。通常、ディスカバリーには半年から 3 年の期間がかかり、訴訟費用の大きな部
分を占める。
7.4.2 ディスカバリーの手段
1) 質問状(Interrogation)
関係者の特定、資料の所在、侵害製品の詳細、特許情報など相手側の情報を得るため
に質問である。
2) 資料と物品の提出請求
相手方が求める書類や物品の提出要求に応じなければならない。事件に関連するあら
ゆる資料、物品が対象となり、極めて広範囲で大量の書類となる。対象は以下のものを
含む。
① 告発された製品や方法
② 訴追
③ 書簡
④ 研究開発
⑤ ビジネスプランや記録(トレードシークレットも含む)
3) 自白請求
相手側に特定の事実や書類が正しいかの確認を求めるものである。
4) 宣誓証言(Deposition)
公判に先立ち、証人を尋問して記録を作成する手続きである。関係するあらゆる証人
に様々な質問を行うことができる。場所はどこでもかまわない。証言をとるために裁判
所記録担当者を同席することができ、記録ビデオは証拠として裁判で上映できる。宣誓
証言には十分な事前準備が必要となる。
5) 専門家の報告書と証言
特許や技術に関する専門知識に基づいて意見を述べる証人で、陪審員や判事がその報
告書や証言を参考にする。
7.5 マークマンヒアリング
7.5.1 マークマンヒアリングとは
24
特許訴訟案件でもっとも重要なのはクレームで、クレーム解釈と争点を決定するのは判
事である。クレーム解釈は第 1 に内部証拠(特許クレーム、明細書、審査過程)に基づき
判断されるが、外部証拠(辞書、専門家の証言)なども適用できる。マークマンヒアリン
グは多くの場合、公判の初日に行われるが、判事の判断で行わない場合もある。
7.5.2 マークマンヒアリングの利点
1) 解釈の統一性確保
2) 早期の和解を推奨できる
3) 訴訟費用の低減
4) 裁判効率の向上
5) 訴訟担当者が戦略を検討できる
7.5.3 判事が持つ裁量権
1) 実施するか否か
2) いつ実施するかを決める
3) どの証拠を採用するか
4) クレームを解釈するために外部証拠を使うか否か
5) クレームの文言をどのように解釈するか
7.6 サマリージャッジメント
事実関係に関して大きな争点が無く法律問題が争点となった場合、判事は公判をする前
にサマリージャッジメントを出すことができる。サマリージャッジメントによって訴訟は
終了する。また複数の争点に対して特定の争点に対するサマリージャッジメントが出され
る場合は公判での争点が少なくなり費用と時間を節約できる。
7.7 公判(Trial)
7.7.1 陪審員(Jury)
米国では、原告または被告の一方が請求すれば特許訴訟においても陪審裁判を受ける権
利が認められる。陪審員の役割は事実認定を行うことである。通常 50 名程度の利益相反が
無い候補者の中から、原告と被告双方の合意に基づいて 6∼12 名の陪審員が選定される。
7.7.2 冒頭陳述(Opening statement)
原告が特許侵害に対する事実と証拠について説明し、被告がそれに対する事実、抗弁お
よびその証拠について説明する。
7.7.3 直接尋問
25
自ら立てた証人に対して尋問をするのが直接尋問である。ここでは原告が主たる論点を
述べる。自分に有利な証言を引き出すように、ストーリーに沿って質問をし、証人は Yes/No
の回答でなく自由回答形式で証言を行うのが一般的である。
7.7.4 反対尋問
相手側の証人に対し、直接尋問の証言の信憑性を攻撃して相手側に不利な証言を引き出
すための尋問である。質問に対して、証人に Yes/No で回答することを求めることが多い。
事前に録画などで記録した宣誓証言を引用して攻撃することもある。
7.7.5 最終陳述
原告と被告が自から立証した事実と相手側の証拠の問題点などについて整理して、それ
ぞれが陪審員に直接訴える。
7.7.6 評決
陪審裁判では最終陳述の後、陪審員は判事から判断すべき事項、法律の解釈、立証の基
準と責任、証拠の評価方法などについて説明をうける。討議は陪審員のみでを行い、通常
は全員一致に基づいて評決を出す。陪審評決には一般評決、特別評決、参考評決、指示評
決、陪審に従わない評決などがある。
7.7.7 控訴(Appeal)
判決に不服な当事者(通常は敗訴側)は、控訴通知を連邦地方裁判所に提出する。その
後連邦巡回裁判所(CAFC))に控訴を申し立てることができる。連邦巡回裁判所はヒアリング
において両当事者が口頭で討論を行い、事実判決は行わない。通常は控訴から1∼2 年で判
決が出る。
7.8 数字で見る米国特許訴訟
・・・(注 1)
7.8.1 訴訟件数
約 2,800 件(2005 年)
7.8.2 訴訟期間
9 ヶ月∼43 ヶ月(地裁により異なる)
7.8.3 訴訟で公判まで行く割合
1) 地裁の場合 3.6%(ほとんどがサマリージャッジメントや和解となる)
2) ITC の場合 40%
3) 公判の 70%が陪審裁判を選択する
26
7.8.4 判決
1) 陪審評決:68%が特許権者の勝利
2) 判事評決:51%が特許権者の勝利
3) Federal Circuit の控訴した場合:36%に逆転判決がでる。
7.8.5 裁判費用
US$ 3 million ∼ US$ 5 million(1 件当たり)
注 1)Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP のデータを引用
27
8.技術移転や共同開発に関係するその他の米国法案
8.1 独占禁止法(Antitrust Law)- Title 15 USC
8.1.1 独禁法の概要
1) 共同行為(Joint conduct)
① 商売の不当な制限 – Sherman Act§1
② ライセンスの不当な制約、価格指定、顧客や地域の割当、グループボイコット、抱
合せ販売
③ 排他的取引 – Clayton Act§3
④ M&A – Clayton Act§7
⑤ 独占的ライセンス
2) 一方的行為(Unilateral conduct)
① 独占および独占の企て – Sherman Act§2
3) FTC Act§5
① 不公正行為と実行
② 共同行為と一方的行為
8.1.2 独禁法の留意事項
1) 訴追の対象となる
2) 重い懲罰が課せられる
3) 原告が自身の損害を証明する義務がある
4) 陪審が賠償を決める
5) 刑法(特許法は民法)が適用される
8.1.3 国際的な適用
1) 国際カルテルに対して適用できる。
2) 国際的運用については米司法省(DOJ)が連邦政府の施行ガイドラインを作成している。
参照先: http://www.usdoj.gov/atr/public/guidelines/internat.htm
3) 米国独禁法は米国外の行為についても適用される。(Sherman Act §6a)
8.1.4 知的財産のライセンスに関するガイドライン
1) 司法省(DOJ)と連邦取引委員会(FTC)が知的財産のライセンスに関する独占禁止ガイ
ドラインを作成している。DOJ や FTC はこのガイドラインを基に独禁法違反の調査や訴
訟を行う。
参照先: http://www.usdoj.gov/atr/public/guidelines/0558.htm
2) 譲渡と非独占ライセンスには基本的に適用されない。
3) トレードマークには適用されない。
28
4) 業界標準・規格を決める場合は独禁法に注意が必要である。
5) 複数の企業などが特定技術についてクロスライセンスなどを行う場合(パテントプー
リング)にも独禁法に注意が必要である。
8.2 不正使用防止法(Misuse law)
- 特許法の一部
8.2.1 不正使用の防止
1) 影響力に対する懸念
① 特許が経済的なパワー(影響力)をもつか
② 特許の権利範囲外か
2) 特許法 35 USC§271(d)で特許の不正使用に対する免除事項の規定がある
8.2.2 特許の不正使用防止法の留意事項
1) 侵害に対して不公正な行為として防御ができる
2) 特許が行使不可能となる
3) 第三者の損害に対する主張もできる
4) 判事が不正使用かどうかを判断する
8.3 技術輸出に関する米国法
8.3.1 米国輸出管理法(Export Administration Regulation: EAR, 15 CFR §730)
1)対象品
① 米国から国外への技術データ、ソフト、ソースコード、製品の伝達や発送
② 米国からの技術データ、ソフト、ソースコードに基づいて生産された製品の再輸出
③ 外国人への技術データ、ソフト、ソースコード等の発表
④ 米国内であっても外国人との技術情報交換は輸出となる
2) 制約される事項
① 開発技術の PR
② 技術データの提供や支援
③ サンプルやプロトタイプ、装置などの提供
④ 販売地域国(テロ支援国家)
⑤ 第 3 者へのサブライセンス
8.3.2 米国特許庁外国特許出願ライセンス- 35 USC §184
米国内でなされた発明は、外国に出願する前に米国特許庁から外国出願ライセンス
(foreign filing license)を取得しなければならない。取得しないで外国出願すると米国特許
は無効となる。ただし、米国出願から 6 ヶ月以後に出願する場合、外国特許出願ライセン
スは不要である。一般的には米国特許出願は外国出願ライセンスの請求とみなされ、出願
29
受領書は、外国出願ライセンスの許可を含んでいる。
8.3.3 その他
武器や原子力に関連する技術の輸出については別途法律があるので注意が必要となる。
30
9.知的財産を管理するための手段と体制
9.1 大学の産学連携と技術移転
大学の使命は、従来の教育、研究、社会貢献であるが、将来は第 4 の使命として経済的
基盤強化が求められている。大学は社会貢献および経済的基盤強化のために適正な技術移
転を推進する必要がある。このために大学および産学連携担当部門は、規則に縛られ、受
動的で、リスクを避けることを優先するような従来のやり方から、洗練された知的財産管
理運営業務を行えるような組織・体制に移行していかなければならない。また、産学連携
担当者には科学技術、ビジネス、財務、知的財産管理、技術評価、ビジネスプラン開発、
国際関係などの各専門的トレーニングを受けた専門人材が必要である。
大学の所有する研究成果などの技術的資産を、発明の商品化や開発を熱心に追及する企
業にライセンスすることが産学連携と技術移転の基本方針である。技術移転を通じてライ
センス料収入を得るほかに、研究資金確保、ベンチャー設立、教員採用と確保、企業文化
導入、投資家の勧誘などが産学連携活動の目的となる。
9.2 知的財産の管理
9.2.1 大学の知的財産戦略
知的財産を適切に保護するためには知的財産の目利き(技術評価または査定)が必要で、
特許法、特許保護の専門家、発明を研究開発や商品化に最大限有効活用するための人材を
確保し、知的財産戦略を構築する必要がある。大学は研究成果としての発明を広く普及す
ることや重要な発明を商品化することに関心があるので、知的財産管理の戦略、方針や手
法は企業のものとは異なる点に注意が必要である。
9.2.2 法令や規則の遵守
大学が政府の補助金などの公的資金を使って研究開発した知的財産を管理する場合は、
特に Bayh-Dole 法や CREATE 法の条項を遵守しているかを確認する義務が有る。報告、
特許所有権者の選択、特許申請の決定、ライセンス実施などは法律や規則に従って実施し
なければならない。産学連携および知的財産の担当者は Bayh-Dole 法、CREATE 法などを
熟知して、学内の教員や企業の共同研究者に内容を正確に説明や指導ができることが求め
られる。
9.2.3 技術評価
産学連携と知的財産の担当者は、保有技術を多面的に評価する手段を持っている必要が
ある。金額的評価においては、開発の段階、製品に使用される複数の特許の一部分として
の相対価値、評価テストや規格認定を取得するために今後必要となる資金などを反映する
べきである。また、ライセンス契約において金銭的な交渉をする場合、特許を実施するも
のができるだけ早く製品を市場に出せるように協力すべきで、発明の過大評価やライセン
31
ス料などに対して過度に頑な対応をとるべきではない。
9.2.4 デューデリジェンス
産学連携担当者は、契約交渉において金銭的な項目を交渉すると同時にビジネス、ファ
イナンス、リーガルに関するデューデリジェンスを実施する必要がある。
9.2.5 分野または地域を限定したライセンス
大学の保有する基盤技術的な発明を、特定の技術分野に限定してライセンスをすること
が増えている。特許を実施する場合、特定の技術分野への利用となるのが通常で、全ての
技術分野に渡って独占的ライセンスを与えると、基盤的な発明を広範な分野に利用するこ
とが困難となる。分野を特定したライセンスは、広範な技術開発や応用の可能性を最大限
に確保するための有効な手段である。また、発明のライセンスを地域的に限定することも
一つの手段である。これらは、大学にとって発明を可能な限り広い分野で応用し、研究開
発または商品化を進めるための優れた方法でと考えられる。
9.2.6 研究成果の公表
研究成果の公表は大学の教員や研究者にとって重要である。特許を実施する側が大学の
研究者(発明者)によって書かれた論文の発表を禁止したり、編集したりすることは大学
にとって受け入れられない。ただし、特許を実施する側が発表前に、秘密情報や発明内容
の詳細が開示されていないかを確認するために原稿を検閲することは通常行われている。
9.2.7 発明の研究目的利用
大学が知的財産を管理する上で、大学の研究者が研究用として利用できる機器や材料な
どに関する発明および基礎研究を促進する可能性がある発明については、無償で利用でき
るように積極的に対処することが義務である。
9.2.8 先発明主義へ対策
(1) 研究ノート(Lab notebooks)
① 製本されたノートを使用すること。ルーズリーフノートは不適と考えられる。
② 記載は明確で、第三者がその手順を繰り返せるのに十分な情報を含んでいること。
③ できれば各ページに日付を入れる。
④ ページ番号を連番で付ける。
⑤ 研究者と証明者の署名が必要である。
⑥ 訂正する場合は、線を引いて消す。
⑦ 紙や資料を貼り付ける場合は、永久接着する。
⑧ 空白の箇所を残さない。
32
⑨ 特許庁に書き方のマニュアルがある。
⑩ 電子データによる研究ノートについては参考文献リストを参照すると良い。
(2) 研究ミーティング
① 互いの研究ノートを確認する機会である。
② 議事録を取る。
③ 出席者の登録をする。
9.2.9 ネゴシエーション(交渉)
日米間で共同研究やライセンスなどを実施するには契約などのネゴシエーションが重要
である。日米では言語はもちろんですが、文化、商習慣が異なるので、そのことをよく認
識してネゴシエーションに望む必要がある。交渉の初期段階から、実施内容、金額、期間、
権利関係などの具体的なプロポーザル(またはカウンタープロポーザル)を用意して提示
できるようにするべきである。また、交渉担当者に一定の決裁権を委譲することも必要で
ある。
交渉の主体はあくまでも大学であるが、知識やスキルがなければ交渉は困難である。大
学は産学連携担当職員を教育し専門家を育成することが必要となる。弁護士、通訳、コー
ディネーター、ファシリテーターなど外部の専門家を利用することも必要となる。
(1) 弁護士
書類や契約書の作成と確認に関与をしてもらうことは、法的なトラブルを未然に防ぐこ
とに有効である。米国の弁護士などは代理人として積極的に交渉に参加する。
(2) 通訳
ビジネスや契約書の国際的な公用語は英語である。契約やビジネスの話をするには相当
の英語力が必要で、専門分野の通訳を起用することが望ましい。
(3) コーディネーター
交渉のスケジュール管理や、弁護士および通訳の手配など交渉全体の管理をする役目を
負う。
(4) ファシリテーター
会議がスムーズに運ぶように、進行役をする役割を果たす。
9.3 契約書(JRA)
米国企業と共同研究や技術移転を行うには、しっかりとした契約書を作成して契約を締
結することが重要である。参考用として米国法律事務所(Masuda, Funai, Eifert & Mitchell,
Ltd.)が作成したライセンス契約書と共同研究契約書のドラフトを紹介する。これらの契約
書は汎用目的の定型書式であり、特定取引のために作成されたものではない。特定取引に
おける契約当事者間の利害関係又は交渉により、追加条項や異なる条項が必要となる。特
33
定取引で本契約書を使用する場合は、その都度米国の法律および特許の専門家に相談が必
要である。
9.3.1 非独占的ライセンス契約書(Non-Exclusive License Agreement)
資料 1 に、基本的な非独占的ライセンス契約書を示す。特許をライセンスする側から必
要と思われる標準的な条項は含まれていると考えられる。しかし、特許の中身や大学の意
図するライセンスは個々に異なるので、実際に使用するにあったてはそれぞれのケースに
応じて内容を見直し、編集、削除、追加などが必要であることを理解しなければならない。
また最近、連邦裁判所から重要な判例が出されて、ライセンス契約書の記載条項につい
ての議論が特許弁護士など専門家の仲で進められている。特許のライセンスを受けている
側が、例え契約書に禁止する条項を記載してあったとしても、特許の有効性や非侵害を審
査請求できるという判決である。また、ロイヤルティーを払い続けていて、他のライセン
ス契約条項を遵守していれば、ライセンスを受ける権利は失効しないというものである。
この判決は、特許をライセンスするものに、契約当初には想定外の莫大な訴訟経費のリス
クを与えることになる。したがって、ライセンス料の前払金額を上げるとか、このような
請求をした場合にはロイヤルティーを上げるというような条項を追加することが有効との
指摘がある。
9.3.2 独占的ライセンス契約書(Exclusive License Agreement)
資料 2 に基本的な独占的ライセンス契約書を示す。使用に際しては、上記の非独占的ラ
イセンス契約書の注意事項に同じである。
9.3.3 共同研究契約書
資料 3 に基本的な共同研究契約書を示す。契約書の条項や内容は、共同研究を実施する
双方の貢献内容や義務によって、また研究開発の成果や権利をどちらが所有するかによっ
て大きく異なってくる。本契約書は、本学の利益という観点から必要と思われる条項を作
成している。実際に使用するに際しては、個々のプロジェクトの実情に応じて見直しが必
要である。
10 特許制度の参考資料とリンク先
資料 4 に、今回調査をした米国特許制度に関して参考となる資料や情報源のリンク先の
一覧表を示す。本資料は米国法律事務所(Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd.)が本調査
のために作成したものである。
34
11 まとめ
日米間の国際的な産学連携と技術移転を目的として、米国の特許制度についての調査を
実施した。米国特許制度を理解するには、特許法、特許庁規則、マニュアル、独禁法や輸
出管理法などの関連法案、特許訴訟と判例など極めて広範で膨大な調査が必要となる。今
回は、主に米国特許制度、産学連携および技術移転に関連する法案、日米の特許制度の違
いについての概要と基本的事項の調査を実施した。
米国企業などとの共同研究や技術移転(ライセンス)においては、しっかりとした契約
書を締結することが将来のリスクを軽減する最良の方法であると考えられる。国際的な契
約書では、必要な契約条項を具体的および詳細に記載する必要がある。大学と企業(相手
側)がそれぞれの契約書や契約内容を提示し、提示された互いの条項を協議して、合意で
きる契約書に纏め上げるのが契約交渉となる。今回、米国法律事務所に委託して、大学側
に必要と思われる契約条項を盛り込んだ、非独占的および独占的ライセンス契約書、共同
研究契約書の定型文を作成した。実際の契約においては、ライセンスや共同研究の内容、
当事者の交渉、当事者間の権利関係などに応じて追加条項、異なる条項の適用など本定型
契約書の修正が必要であり、特許弁護士などの専門家に相談することを推奨する。
また、米国特許法は法的な根拠が判例法(Case law)に基づいている。従って、最高裁によ
る判例や米国特許法や規則の改正について常に注目しておく必要がある。また、特許法や
特許制度に関連する記事、文献などの様々な情報がインターネットで検索できる。本調査
に関連してリストアップした既存に資料のリンク先を掲載しているので、参照が可能であ
る。
今後、特許法、特許庁規則およびその他の関連法を専門的に深く掘り下げて調査し、そ
の結果をもとに産学連携および技術移転担当者をさらに教育をして特許法の専門家を育成
すると同時に、学内の知的財産ポリシーと具体的な管理体制を再構築していくことが必要
と思われる。
35
【参考資料等一覧】
本調査および報告において下記 1)∼9)の会議、セミナーでの発表と配布資料、10)∼13)
の図書を参考にした。
1) "AUTM Technology Transfer Practice Manual 3rd Edition, Volume2, Chapter1,
Section1", Mark Crowell, January 2006
2) "Beginning and Advanced Topics of Current Interest in Patent Law/ 2007 AUTM
Annual Meeting" Nabeela R Macmillian, Trevor Mee, David L Parker, March 2007
3) "The CREATE Act- A Double-Edged Swords / 2007 AUTM Annual Meeting"
Elizabeth B Carlson, March 2007
4) "Patent Reform / 2007 AUTM Annual Meeting" Margaret J. Sampson, March 2007
5) "米国特許訴訟セミナー" 早稲田大学& Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett &
Dunner, LLP, October 2005
6) "知財ビジネスアカデミー/米国における知財活用戦略(第 3 回、第 4 回)" 日本弁理士
会& Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP, March 2007
7) "JSPS-SF 特許セミナー/米国特許制度の概要について" Tomotaka Homma, February
2007
8) " JSPS-SF 特許セミナー/日米特許制度の比較(1)" Tomotaka Homma, February 2007
9) " JSPS-SF 特許セミナー/日米特許制度の比較(2)" Tomotaka Homma, February 2007
10) "米国特許実務マニュアル" 小西
11) "米国特許入門" 木梨
恵、(株)日本工業調査会, December 2004
貞男、(株)日本工業調査会, June 2006
12) "基礎アメリカ特許法" 川口
博也、
(社)発明協会, June 2005
13) "米国特許実務ガイド" John G Smith, 藤村
元彦
他、東洋法規出版, February 2006
******************************************************************************
報告者
南澤
俊孝
信州大学地域共同研究センター助教授
福田
修一
信州大学地域共同研究センター産学官連携コーディネーター
土屋
雅紀
信州大学研究推進部産学官地域連携課主査
調査協力者
契約書調査業務委託先
Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd.
Chicago, Illinois 60601-1262, USA
http://www.masudafunai.com
36