説 明 ・ 同 意 書 甲状腺片葉摘出術 または 甲状腺全摘術

患者様保管用
甲状腺癌
説
明
・
同
意
疑い
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2004 年 7 月版
書
私は、患者
殿に対する下記の病状、手術の必要性、
危険性及び合併症・後遺症などについて(御本人・御家族・理解補助者)に説明いた
しました。
手術の名称
甲状腺片葉摘出術 または
甲状腺全摘術、両側頚部リンパ節郭清術
〔説明の内容〕
病名と病気の現状:
病名: 甲状腺癌の疑い
病状: 甲状腺内に悪性を疑う病変がある。しかし、術前の(細胞診などの)検
査では癌を確定診断できていない。
この手術を行わなかった場合にはどのような予後となるか:
病変が甲状腺癌であった場合、原発巣(甲状腺の癌そのもの)が増大して、隣接
する気管、食道に浸潤して、喀血、呼吸困難、嚥下困難に至ることがあります。ま
た、肺、骨、脳などに転移を来し、最終的には生命の危険を生じます。
この手術の内容:
この手術は全身麻酔で行います。
麻酔の詳細
は麻酔医よりお話しします。頸部に鎖骨より
1cm ほど上に 5 ないし 10cm 程度の皮膚を切
開し(図1)
、病変がある甲状腺片葉を切除し
ます。迅速病理検査に提出し、組織学的に良
性病変であれば、傷を閉じて手術は終了しま
す。組織学的に癌と診断された場合は反対側
の甲状腺を切除(甲状腺全摘)し、甲状腺周
辺のリンパ節を切除します。
(頸部リンパ節郭
清といいます。
)皮膚を切開した傷は糸が表面
に出ないような縫い方をして閉じます。使う
糸は原則として溶ける糸を使用します。手術
時間は通常 3‐4 時間前後です。予想される出
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血量は 400ml 以下です。入院期間は術後 1 週間程度です。輸血は予定していませ
んが、突発的な大出血が起こった場合には輸血をせざるを得ない場合も生じます。
危険性:
思いがけない理由で手術中に大量出血することがあり輸血が必要になる場合が
あります。手術を終える際には止血は確実にしますが、そのときは出血していなか
ったものの傷を閉じて病室に帰ったあとから出血する場合もあります
(後出血と呼
びます)
。後出血の程度がひどければ再度全身麻酔をかけ傷をもう一度開き止血術
をおこなわなければいけないことがあります。
手術した部位に感染がおこり排膿な
どの処置を要することがあります。これらはすべてをあわせても数%以下のきわめ
て可能性の低いものです。
この手術は充分準備して取りかかればきわめて安全に行え、
命に関わるような危
険性は無いと言っていいと思われます。万が一、重大な問題が生じた場合は適切な
対応を取ります。
他の方法との比較(利点、欠点)
:
甲状腺癌に対して有効な抗癌剤は現在のところありません。
放射線治療には外か
ら放射線を当てる外照射と、放射性ヨードを服用する内照射があります。外照射は
手術に比較して効果は劣るので、
通常は手術で切除しきれなかった場合などに限定
されます。内照射は甲状腺全摘後に癌の遺残のおそれがある場合や、遠隔転移があ
る場合に限られます。手術法にはここで示してある甲状腺全摘の他に、癌を含む甲
状腺の片側と反対側の甲状腺の半分程度を切除する亜全摘があります。
亜全摘法の
利点としては、後で述べる合併症の頻度が下がる可能性があること、甲状腺を残す
ので甲状腺ホルモンを術後補充しなくてもよい場合があることです。
しかし欠点と
しては、局所再発の頻度が高くなること、内照射治療が必要となったときは残した
甲状腺を再度切除しなければいけないことなどがあげられます。
甲状腺全摘をした
場合、終生にわたり甲状腺ホルモンの補充が必要となります。甲状腺ホルモンは安
価な内服薬で必要量は比較的一定しており、
いったん服用量が決まればそれほど頻
繁な検査は必要ありません。
その他:
手術後しばらくは水を飲むときにむせやすいことがあります。
水を飲むときには
のどぼとけが上へ動いて気管の入り口がうまく閉じるような仕組みになっていま
すが、手術の影響でのどぼとけが動きにくくなります。座ってあごを少しひくよう
な前かがみの姿勢が水をむせずに飲むコツです。
あわてないでゆっくりと飲み込む
ことも大切です。
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2004 年 7 月版
合併症に関して
反回神経麻痺:
甲状腺は気管に貼り付くように接していま
す(図 2)
。気管の両側壁には反回神経という
神経が1本ずつ上下に走っています。これは
声帯という気管の入口に左右1枚ずつある膜
を動かしている神経です。反回神経の麻痺が
発生すると声帯が気管の入り口を塞ぐかたち
で動かなくなり、声がかすれる「嗄声(させ
い)
」や食べ物が気管に入る「誤嚥(ごえん)
」
を起こします。神経麻痺の原因としては、甲
状腺を切除する際に神経を圧迫や牽引するこ
とによる障害(神経は切れていないが一時的
に麻痺する)と、切断によるものがあります。
また癌が神経まで浸潤していて一緒に切除が
必要な場合もあります。両側の反回神経を損
傷した場合は声が出なくなり、かつ気管の入
り口が完全に閉じてしまうので息の出入りができず窒息といった重大な合併症を
きたします。
この場合気管切開術といって喉に穴をあけてチューブを挿入し空気の
通り道をつくらなければなりません。
われわれこの領域を扱う外科医はこの神経が
どのあたりを走行しているかきちんと把握しておりますが腫大した甲状腺がこの
神経と癒着していてそこをはがす際にダメージを与える可能性はまったくゼロで
はありません。
手術操作による一時的な神経麻痺は数週間から数ヶ月をかけゆっく
り回復することが多いです。
しかし手術中に切断または切除した場合は神経そのも
のの再生は不可能です。永久麻痺の場合でも片方だけの反回神経麻痺の場合は、反
対側が次第に代償的に働くようになりあまり後遺症は残りません。
永久性の反回神
経麻痺の発生頻度は、
甲状腺の手術に習熟した外科医の場合では数%以下でしかお
こらないと報告されています。当科では最近 5 年間に行った甲状腺癌の手術で、
術前から反回神経麻痺のない患者さんの手術で手術により永久性反回神経麻痺を
きたした患者さんはありません。
副甲状腺機能低下症:
甲状腺の上下左右には合計 4 個の副甲状腺(上皮小体)
(図 2)があり、体内の
カルシウムを調節しています。副甲状腺機能は温存するよう工夫しますが、手術の
あとで一時的に機能低下となり、手足・唇のまわりなどがしびれる症状が出てくる
ことがあります。
この場合カルシウム補充のため数日から数週間カルシウムの点滴
やカルシウム剤とビタミン D 剤の服用を行います。まれに永久的な副甲状腺機能
低下症になることがありますが、その場合はカルシウム剤かビタミン D 剤、また
はそれら両方の内服が必要です。当科での最近 5 年間に行った甲状腺癌の手術で
永久性副甲状腺機能低下症の頻度は 1.6%でした。
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2004 年 7 月版
術後に関して
甲状腺ホルモン製剤の内服について
甲状腺全摘をした場合は術後1週目より甲状腺ホルモン製剤(チラージンS)の
服用を開始していただきます。必要量は体格、年齢などで変化します。血液検査の
結果により内服量を増減します。
甲状腺を半分残せた場合はくすりの服用は必要な
いことが多いですが、
ときに半分では甲状腺ホルモンが不足することもありますの
で、検査結果をみて必要なら甲状腺ホルモン製剤を処方します。
痛みに関して
この手術では術後数回程度鎮痛剤を使用することが多いです。長期にわたって痛
みに悩まされることは無いと思われます。
退院後の経過観察について
退院後は日常生活になるべく早く復帰していただきます。
食事制限は特にありま
せん。外来での経過観察は退院後2週目ぐらいに1回目の外来、その後1ヶ月後ぐ
らいに来院していただく事になります。
その後は3ヶ月毎程度の来院間隔となりま
す。外来では再発徴候をチェックするとともに、甲状腺ホルモンのチェックをおこ
ないます。紹介していただいた医療機関に戻ってもらうことも可能です。
説明にあたった医師
名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科
医師
印
年
月
日
患者様保管用
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疑い
2004 年 7 月版
名古屋大学医学部附属病院 病院長殿
私は、
医師から、甲状腺の手術方法など について、記載
されたいずれの事項についても説明を受けるとともに、質問する機会をえました。こ
の説明により、自分の病状、手術が必要な理由、予定されている方法とこれに伴う危
険、おこりうる合併症および後遺症などを、十分に考慮、相談の上、以下の方法を選
択することにしました。
1 よく理解できましたので、手術を受けることに同意します。また、術中に必要が
生じた場合、それに対する処置についても併せて同意します。
2 今回は手術を見合わせます。
3 セカンドオピニオンなど他の施設の紹介を希望します。
年
患者氏名
月
日
印
親族又は理解補助者(配偶者、子、親、兄弟、姉妹、その他の親族、保護義務者、法
定代理人が記入捺印する)
氏名
印
続柄(
)
氏名
印
続柄(
)
名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科
説明にあたった医師
診療科長
印
今井 常夫
印
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