アイルランド National University of Ireland

自主研修レポート
垣内 伸之(0600-13-0173)
e-m ail:nonn@ m am bo.kuhp.kyoto-u.ac.jp
研修先:D epartm ent ofBiochem istry, N ationalU niversity ofIreland,G alw ay
H P:http://w w w.nuigalw ay.ie/
ホスト:C iaran M orrison, Ph.D .
Science Foundation Ireland Investigator,
D epartm entofBiochem istry,
N ationalU niversity ofIreland G alw ay,
U niversity R oad,
G alw ay,
Ireland.
Phone:+353 91 512334
Fax:+353 91 512 504
E-m ail:ciaran.m orrison@ nuigalw ay.ie
期間:3/31〜5/30
研修先の選択:耳鼻咽喉科の新年会で諸先生方と話をする機会があり、学生時代に自主研でイギリス
に行った先生と話をして海外での研修を勧められ、放射線遺伝学の武田教授に相談したところ、翌日
にはこの研究室を紹介していただいた。
出発まで:英語能力に自身がなかった。N H K のビジネス英会話を友人から紹介され、毎日 20 分から 30
分聴いた。ホストとのやり取りはすべて e-m ail で、全部で 4 往復。内容はアイルランドへの入国方法
や現地での宿泊施設、研究内容などに関してで、特に宿泊施設のことについて詳しく話をきいた。準
備はパスポートの取得や航空券の予約、海外旅行生命保険への加入などで、航空券はルネ一階のチケ
ットセンターで取った。アイルランドの首都ダブリンまでの直行便は日本からは無く、どこかで乗り
継ぐことになる。安いものは往復 7 万円からだったが、日程の関係上エールフランスの 14 万円のチケ
ットを購入した。生命保険は損保ジャパンの、H P から手続きが出来るものに加入した。お金は現金で
持っていくのは危ないと思い、シティバンクのワールドキャッシュカードというものに加入した。生
協で航空券を購入するとこのカードの加入料が無料になる。四条烏丸にある ATM で日本円を預け、現
地の ATM でユーロを引き出せる仕組み。残金は帰国後引き出せる。宿泊施設はホストの人に用意して
もらった。ダブリンには夜に到着するので、インターネットでユースホステルを予約した
(http://w w w.hostelireland.com /)。予約はクレジットカードでデポジットを支払い、残りを宿で払う仕組
み。宿やバスなどで国際学生証を提示すると割引を受けられることがあるので、国際学生証をとって
おくと良い。
出発:関空からパリ経由でダブリンへ。パリまで 11 時間、パリから 2 時間、乗り継ぎ時間と空港から
市街地までの移動などをあわせると 15,6 時間くらい。関空を午前 11 時に出てダブリンに午後 7 時に
着き、ユースホステルへはバスで最寄りのバス停まで移動してから歩いた。次の日、バスでゴールウ
ェイに行き、宿泊施設を訪れてから大学の研究室を訪れた。
研究:研究内容はレポートの最後に書く。毎朝 9 時ごろに徒歩で研究室に行き、昼食は大学内の食堂
もしくは売店で済ませ、帰りは 5、6 時のこともあれば 8、9 時になることもあった。プロジェクトに
参加して実験をしたが、一通りの技術を学び終えるのに 1 ヶ月ほどかかり、その後の 1 ヶ月は自分で
予定を立てて実験をすることが出来た。後半の 1 ヶ月のほうが忙しかったように思う。周りの人たち
はとても親切で、休日でも常に研究室に一人はいるのでわからないことがあれば気軽に尋ねることが
出来たし、丁寧に教えていただいた。実験はチームリーダーとディスカッションしながら進んでいく。
実験の手技や概念、実験とは関係の無いことなど何でも相談できた。チームリーダーの部屋がすぐそ
ばにあり、ドアが常に半開きになっているのでとても接しやすく感じた。また、チーム内のメンバー
の方々にもお世話になった。僕が参加させていただいたチームにはポスドクが 3 人、PhD コースの人
が 1 人いたが、チームリーダーが忙しい時やいない時などは彼らが相談役になってくれた。
生活:宿泊施設は大学が 1 回生に対して斡旋しているところで、4 人での共有部屋だった。自分専用の
寝室があり、居間と台所は他の 3 人と共有する。僕が行った頃はちょうど年度末の試験の季節でルー
ムメイトは実家に帰っていることが多く、一人で過ごすことが多かった。朝食は買い置きのパンと牛
乳、夕食は米を炊いて適当なおかずを作って食べた。物価は日本と変わらないように思う。自炊する
と食費が安く済むのはアイルランドでも同じだった。週末はバスツアーに参加して近くの大自然を見
ることが出来た。遠くまで行く際はバスで行ってからユースホステルで一泊し、次の日にバスツアー
に参加する、と言うのが良かった。アイルランドは自然の美しいところで、先住民族のケルト文化の
遺跡なども興味深い。観光の他に、研究室の人のホームパーティーに 2 回行った。庭でバーベキュー
をするのだが、研究室の人だけでなく近所からも人が集まってにぎやかだった。金曜日の夜は大学内
の Pub に行く人が多いが、僕は Pub に行ったのは合計 4 回。黒ビールの G U IN ESS は大変おいしい。
帰国:最終日が金曜日だったこともあって、お別れの食事会を昼にして夜は Pub を渡り歩いた。土曜
日に G alw ay を 10 時半に出発してバスで D ublin 空港まで行き、飛行機に乗った。国際便は 2 時間前ま
でにチェックインしないといけないらしい。街で酒を買ったのだが、空港内の免税店のほうが安かっ
た。その日のうちに EU 圏外に出る飛行機に乗る人のみ免税価格で購入できる。パリの空港の一部が出
発の 1 週間ほど前に倒壊していたのだが影響は無かった。関西空港に着いたのは午後 4 時ごろで、空
港からは京都駅までバスで移動し、タクシーを利用した。
アドバイス:ヨーロッパの中で移動する際は航空券が非常に安く手に入る。http://w w w.ryanair.com /は
有名で、たまに無料の航空券も出ている。1 週間単位で休みを取れば隣国へ簡単に行くことが出来る。
ただし数週間前から予約しないといけないので、早めに計画を立てる必要がある。
買い物などすべて徒歩だったが、自転車があると非常に便利だと思う。後半は研究室の人に貸しても
らったりしたのだが、事前にホストに人にお願いして自転車の都合をつけてもらえるようにお願いし
てみるのはいいかもしれない。
宿泊施設について、僕が滞在したところは 24 時間セキュリティーの人がいたし、何か問題があれば平
日はレセプションが開いているのですぐに対応してもらえた。しかし値段が高く、1 週間 99 ユーロで
2 ヶ月分の電気代として 50 ユーロ支払った。研究室内の人の話では、最初の 1 週間くらいはホストの
家に泊めてもらい、その間に賃貸アパートを探すといいらしい。一ヶ月 250 ユーロで借りられる。安
全面などで不安があるものの、アイルランドは治安がいいので問題にならないと思う。しかし海外が
初めての人には勧めない。
セミナーについて、研究室では毎週 1 度研究室内の人の研究内容に関するセミナーがあり、その他に
も外部から招いた人のセミナーや大学内の他の研究室の人のセミナーなどもあり、非常にたくさんの
セミナーが開かれている。セミナーの情報は掲示板に貼りだされており、実験で忙しくない限りは参
加すると良い。
国際電話について、シティバンクのワールドキャッシュカードには国際電話を後払いでかけられるサ
ービスもついているけれど、1 分 250 円くらいとめちゃくちゃ高い。街にはプリペイドのカードが売
っていて、それを使うと公衆電話からでは 1 分 32 セント、固定電話からでは 1 分 4 セントでかけられ
る。カードによっては携帯電話にかけられないものもあるので注意が必要。IP 電話の仕組みを使って
いるらしく、非常に安いので電話はプリペイドカードを使うと良い。
費用:
航空券代(手数料含む):157910 円
旅行保険:16840 円
パスポート:15000 円
宿泊施設代:842 ユーロ
生活費・交通費・現地での旅行費:570.51 ユーロ
土産代:275.54 ユーロ
為替レート
135 円/ユーロ
実験内容:
中心体蛋白の精製と D N A-PK によるリン酸化
中心体は動物細胞において主要な m icrotubule-organizing center である。従って細胞小器官の輸送や細
胞の形態、極性、運動性などに深く関わるとともに、細胞分裂時の紡錘体形成や細胞質分裂にも関与
している。このように、中心体は細胞にとって非常に重要なものであるにも関わらず、その構成分子
や分子レベルでのメカニズムにはまだ不明な点が多い。
D N A 損傷と中心体の複製という関係から、D N A 損傷に関わる phosphatidylinositol 3-kinases fam ily の
酵素である D N A-PK による、中心体蛋白の直接的もしくは間接的関与を調べるために中心体蛋白を精
製し、それらの酵素によるリン酸化の有無を見る。
N ature の論文(Jens S. Andersen, Erich A. N igg & M atthias M ann. Proteom ic characterization of the
hum an centrosom e by protein correlation profiling. N ature 426, 2003)で新たに見つかった中心体タンパ
ク質のうち、9 つのタンパク質の精製に挑戦した。大まかな流れとしては、
・遺伝子をプラスミドに組み込んで E.coliにより増幅させる
・増幅したプラスミドを D T40 に Transfectする
・抗生物質による選択の後、Im m unoblotによりタンパク質の発現を調べる
・タンパク質を Im m unoPrecipitation により精製する
精製されたタンパク質は次の流れで解析される。
・D N A-PK もしくは ATR によるリン酸化反応の有無を調べる
・リン酸化反応が存在すれば、リン酸化されるサイトを特定し変異体で表現型を観察する。
プロジェクトに参加した時点で遺伝子が組み込まれたプラスミドは用意されていた。プラスミドを使
って E.coliを形質転換させ、プレートにまいた後から実験を始めた。
中心体のタンパク質とプラスミドの関係を以下に示す。
protein size
plasm id nam e
size of
size ofinserts(kb)
Protein nam e(clone)
(kD a) (vector :pC JW 206)
C ep192(KIAA1569)
191.6
pC JW 223
vector(kb)
5.2
4.1
6
4.1
R ootletin(KIAA0445)
228
pFL6
C ep164(KIAA1052)
164
pC SM 10.6
4.4
4.1
C ep63(FLJ13386)
63.4
pC SM 15.6
1.5
4.1
C ep41(FLJ22445)
41.3
pC SM 19.6
1.1
4.1
C ep68(KIAA0582)
67.8
pC SM 31.6
2.3
4.1
C ep72(KIAA1519)
71.8
pC SM 32.6
1.9
4.1
C ep78(FLJ12643)
78.3
pC SM 39.6
2.0
4.1
C ep27(FLJ10460)
27.1
pC SM 47.6
0.7
4.1
ベクターの pC JW 206 は kanam ycin/neom ycin 耐性遺伝子を持つ。中心体蛋白は m yc-tag されてプラス
ミドに組み込まれている。これは im m unoblotting、im m unoprecipitation の際に標識として使うためで
ある。
1、プラスミドの増幅
プレートに生えた E.coliのコロニーの一つを Kanam ycine 入りの LBM edium に植え継ぎ 37℃で一晩培
養した後、Q iagen Plasm id M idiKitを用いてプラスミドを精製する。
キットの原理…プラスミド D N A は低塩・低 pH な状況では陽イオン交換樹脂にくっつき、高塩・高 pH
な状況では樹脂から離れるという特性を利用する。
精製したプラスミドは制限酵素処理のあと電気泳動で長さを確認するとともに、photom eter を使って
濃度を測定した。
ApaL Iによる処理。
左から 1kbLadderマーカー・pC JW 223(9.3kb)・pFL6(10.1kb)・
pC SM 10.6(8.5kb) ・ pC SM 15.6(5.6kb) ・ pC SM 19.6(5.5kb) ・
pC SM 31.6(6.4kb) ・ pC SM 32.6(6kb) ・ pC SM 39.6(6.1kb) ・
pC SM 47.6(4.8kb)
2、プラスミドを Linearize するための酵素を探す
D T40 はニワトリの B 細胞株で、m am m alian cellであることや generation tim e が 8 時間と短いこと、
遺伝子を染色体に取り込みやすいことなどを特徴とする。D T40 に遺伝子を組み込む際にプラスミドを
直線化する必要があり、遺伝子配列、プラスミドの配列ともにわかっているので制限酵素サイトを検
索して酵素処理させた。
pFL6・pC SM 10.6・pC SM 15.6・pC SM 19.6・pC SM 31.6・pC SM 47.6 は ApaL Iを、pC SM 32.6 は Ssp I
を使って直線化できる。
Ssp Iによる処理。
並びは ApaL Iによる処理と同じ。5kb あたりに見える band は
プラスミドの断片だが、中心体蛋白と薬剤耐性の発現には関
与しない部分である。
pC JW 223 と pC SM 39.6 に関しては適切な酵素が見つからなかったため partial digestion によって直線
化することになり、低濃度の酵素・短時間の反応・反応後の熱による酵素の不活化という状況で何度
かテストを繰り返し、適切な条件を求めた。
左からマーカー・pC JW 223(Afl II)・pC SM 39.6(Ssp I)。
もっとも強いシグナルの band が直線化されたプラスミド。partial digestion では制限
酵素サイトが複数あるが、理想的には中心体タンパク質遺伝子以外の場所に制限酵素
サイトが位置するのが良い。これは薬剤による選択の際に薬剤耐性遺伝子だけ組み込
まれた細胞の頻度を低くするためである。しかしそのような制限酵素がストックにな
かったため、中心体タンパク質遺伝子内にサイトがある制限酵素を使った。
3、D T40 への Transfection と Selection
D T40 へ2で得た直線化されたプラスミドを electroporation(
cells/500μlPBS に直線化した D N A25
μg を加え、550V 25μF の条件で行った。)によって transfectし、neom ycine による selection を行う。
事前にどれくらいの濃度の neom ycine で細胞が死滅するかをテストした(3m g/m l)。およそ一週間後に
クローンが得られた。
4、抗体の精製
Im m unoblotや Im m unoprecipitation に使うための m yc-tag を認識する IgG 抗体を精製する。9E10 とい
うマウスのハイブリドーマ株を培養し、Staphylococcus Aureus の ProteinA を使って培養液から IgG
を精製した。ProteinA は IgG の Fc 部分を認識してくっつく。精製後、SD S-PAG E による IgG の確認
をし、BSA を用いて standard carve を求め、IgG の濃度を測定した。
左は SD S-PAG E の結果。左からマーカー・低濃度のサンプル・高濃度のサンプル。
IgG は heavy chain と light chain の 2 種類からなる。それぞれの大きさは約 45kD a
と 16kD a である。
y
=
3
6
.7
3
4
x+
3
0
5
.9
4
タ
ン
パ
ク
質
濃
度
(m
g
/m
l)
右 は BSA を 使 っ た standard
carve。線形近似から IgG の濃度
を求めた。(O .D .595 = 368, x =
1.685377 従 っ て 、 IgG 濃 度 は 約
1.69mg/ml)
5、Im m unoblotによる蛋白発現の確認
選択したクローンを凍結保存すると同時に、SD S-PAG E のためのサンプルも作る。サンプルを SD SPAG E 電気泳動し、ニトロセルロース膜に transfer し、最後に抗体を使って blotする。9 つのタンパク
質のうち、3 つのタンパク質について positive が得られた(C ep41、68、72)。
6、transienttransfection
Im m unoblot による確認で、transfection の efficiency が極端に低いことがわかったので、ヒトの中心体
タンパク質が D T40 にとって毒性を持つ可能性を検討するために、プラスミドを electroporation で
transfectし、12 時間後と 24 時間後に解析する transient transfection を行なった。ポジティブコントロ
ールを入れたものの、サンプルを含めてすべて negative だったので、用いた D N A 量が少なく efficiency
が低いということしか言えなかった。
7、Im m unofluorescent m icroscopy
タンパク質の発現量が極端の低い場合、Im m unoblot では発現を検出できないことがある。そのため、
Im m unofluorescent m icroscopy を用いて m yc-tagged されたタンパク質を染めた。positive controlとし
て Im m unoblotで positive な細胞を凍結から起こし、使った。結果は Im m unoblotで negative だったク
ローンは Im m unofluorescent m icroscopy でも negative だった。
positive controlの写真
青は D APIで核を染めたもの。
緑は FITC で m yc-tag を認識するマウス
抗体を染めたもの。
分裂中の細胞には m yc-tagged タンパク
質の発現は見られず、それ以外の細胞
には発現が見られた。
8、Im m unoprecipitation
Im m unoblotで positive だった細胞を培養し、タンパク質を精製した。
Im m unoblot、Im m unoprecipitation のフィルムは省略する。
タンパク質のリン酸化は放射性同位元素を用いる実験なので、行うことが出来なかった。
以上。