2012年フランス大統領選挙について(pdf版)

2012 年フランス大統領選挙について(執筆記事の一部および関連資料)
国民犠牲、欧州ノー/政権与党相次ぐ敗北/仏大統領にオランド氏
(2012 年 5 月 13 日付「しんぶん赤旗」日曜版)
フランス大統領選挙の決選投票(6日)で、社会党のオランド氏が現職のサルコジ氏(国
民運動連合)を下し、新大統領に当選しました。同日のギリシャ総選挙でも与党連合が大
敗。欧州で進められてきた国民犠牲の緊縮政策への強い反発が浮き彫りになりました。
米沢博史(党国際委員会)
「もはや緊縮政策が唯一の選択肢ではないと欧州の多くの国が安堵(あんど)したはず
だ」―当選が確定した6日夜にこう宣言したオランド氏。7 日未明、フランス革命を象徴す
るパリ・バスチーユ広場で勝利演説をし、数万の支持者の歓声に包まれました。
サルコジ氏は前回大統領選(2007 年)で、
「もっと働き、もっと稼ごう」をスローガンに、
失業率を 8%台から 5%に下げると公約。就任後は 35 時間労働制の緩和など労働者保護の
規制緩和、年金など福祉切り下げや公務員削減をしました。しかし失業者数は 5 年間で 75
万人近く増え失業率は 10%に。閉塞(へいそく)感が広がりました。
サルコジ政権はさらに、今年 10 月の付加価値税(日本の消費税に相当)増税を決定。国
民の6割が反対との世論調査も出るなか、サルコジ氏は「評判が悪くても断行」する〝責
任ある政治〟をアピール。オランド氏は「庶民増税は内需を冷え込ませて逆効果」と増税
中止を公約しました。
選挙では、大企業や富裕層にどう応分の負担を求めるかも大きな争点になりました。サ
ルコジ大統領と財界との深いつながりや大資産家や大企業の租税回避の実態などがマスコ
ミで大きく取り上げられ、批判が高まりました。
4月の世論調査では、国民の大半が「フランスは経済・金融の利益が優先されて民主主
義が機能していない」
(54%)と回答。74%が「資本への課税強化に賛成」
、80%が「大企
業はもっと社会的責任をはたすべきだ」と答えました。
原発依存低減へ
オランド氏は金融規制や解雇規制の強化とともに、年 15 万ユーロ以上の所得に 45%(現
行 41%)
、年 100 万ユーロ以上の収入に 75%という所得税の累進強化や、大企業の法人税
増税を打ち出しました。
原発問題も仏大統領選で初めて争点に。
福島原発事故後、ドイツ、イタリア、スイス、ベルギーと、原発大国フランスの隣国が
次々と脱原発を決定しています。あくまで原発推進のサルコジ氏に対してオランド氏は、
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仏最古のフェッセンハイム原発を廃止し、現在 75%の原発依存率を 25 年までに 50%まで
減らすと公約。4 月の世論調査では、国民の 8 割強が中長期的な原発の大幅削減に賛成、6
割強が原発の段階的廃止に賛成という結果が出ました。
選挙では二大政党への国民不信も明らかになりました。4 月 22 日の第 1 回投票で当初 5%
程度と思われていた「左翼戦線」
(フランス共産党や左翼党などの連合)のメランション氏
の得票は 11.1%。極右「国民戦線」のルペン氏は 17.9%に達しました。
仏国立科学研究センターのジェラール・モジェ上席研究員は、
「メランション氏は、グロ
ーバル化や欧州建設を口実に新自由主義に同調してきた社会党に代わる選択肢として、投
票から遠ざかった有権者の気を引きつけた」
(仏紙「ルモンド」ブログ)と分析します。
オランド氏は、財政均衡を厳しく義務付ける EU 新財政協定に、雇用計画や成長戦略も
盛り込むように再交渉すると公約しました。
ギリシャでも
ユーロ危機の震源地となったギリシャの総選挙でも、緊縮政策を推進してきた全ギリシ
ャ社会主義運動(PASOK)と新民主主義党の与党連合が、合計得票率を前回の 77 %から
32%に激減させ、大敗北を喫しました。
欧州ではこの間、スペイン、ポルトガル、アイルランドで緊縮政策を進めた与党が次々
と下野。イタリア、オランダ、ルーマニアでも緊縮政策反対の世論に押されて政権が崩壊
するなど、流れが大きく変化しています。
国民犠牲ノーうねり/〝金持ち側の政治〟に審判/仏
(2012 年5月 8 日付「しんぶん赤旗」)
6 日に行われたフランス大統領の決選投票で、オランド氏(社会党)が、現職のサルコジ
氏(国民運動連合)を下し新大統領に当選しました。オランド氏の得票率は 51.6%で、サ
ルコジ氏は 48.4%でした。社会党大統領の誕生は故ミッテラン大統領が退陣した 1995 年以
来、17 年ぶりです。
欧州の大国フランスで社会党政権が誕生したことは、保守政党が欧州連合(EU)各国の
政権をほぼ独占する状況の一角を突き崩すものであり、EU政治の動向にも影響を及ぼし
そうです。
サルコジ政権からの「変革」を訴えたオランド氏の勝利を決定づけたのは、「金持ち側の
大統領」と批判されてきたサルコジ政治への不満であり、国民犠牲の緊縮策への反発です。
サルコジ氏は大統領就任(2007 年)以降、週 35 時間労働制や日曜休業制の緩和など労
働分野での規制緩和を進めましたが、
「下げる」と公約していた失業率は逆に 10%まで上昇
し、失業者数は 5 年間で 75 万人近く増えました。また退職年齢・年金満額受給年齢の引き
上げや教員削減など緊縮策を実施してきました。
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フランス国民が長年のたたかいによって勝ち取ってきた手厚い労働者保護や社会保障が
保守政権によって切り下げられるなか、国民のなかに社会の閉塞(へいそく)感や反 EU
感情が広がりました。この現状を打開する期待こそがオランド氏を押し上げる力となりま
した。
オランド氏は「新雇用契約の創設で 50 万人」
「若者雇用策で 15 万人」といった雇用計画
や「17 年までに財政均衡化」など具体的な目標数値を明らかにし、就任後 1 年間の公約実
現の行程表を発表。財政規律問題では、すでに各国で批准手続きが始まっている欧州連合
の新財政協定の再交渉を公約し、原発依存率を 25 年までに現在 75%から 50%に下げるこ
とも掲げました。
これら一つひとつの公約をどう実行するのか、オランド氏の政治手腕が試されます。
(米沢博史)
仏大統領選目前世論調査/投機規制強化求める
「大企業は社会責任果たせ」80%
(2012 年 4 月 20 日付「しんぶん赤旗」
)
仏大統領選第1回投票(22 日)を目前に控えた 18 日、過半数の国民が、金融の利益が優
先されすぎていると考え、投機規制や資本課税の強化を求めるとの世論調査が発表されま
した。仏世論調査機関 IFOP が市民団体から委託を受けて実施したもの。
それによると質問を受けた人の 56%が「経済・金融の利益が優先されて、民主主義は機
能していない」と回答しました。
また経済・企業活動では「投機とたたかい実体経済を重視」の方向への変革を望むとの
回答は 75%、「大企業はもっと社会と環境への責任を果たすべきだ」が 80%。「資本への課税
強化」賛成も 74%の高率にのぼりました。
エネルギー政策については、
「石油やガスなどの化石エネルギーと原発の段階的廃止」が
64%に達し、原発推進・容認の 30%を大きく引き離しました。
仏大統領選挙の最終盤では、第 1 回投票での上位 2 者による決選投票に残ることが有力
視される社会党のオランド候補と現職の国民運動連合のサルコジ候補の間で、金融規制を
めぐる議論が熱を帯びています。
オランド氏はテレビ番組で、保守陣営による〝社会党政権成立は投機の標的になる〟と
の宣伝にたいし、
「民主主義は市場より強い」
「市場の心配を許さない金融への支配能力こ
そ大事」と強調。
「経済を失墜させた現政権の政策存続こそ危険」と訴えます。これにたい
しサルコジ氏は、
「市場を考慮しないのはナンセンスだ」と応酬しています。
(米沢博史)
▲以上、結果報道 2 本(若干修正)
、世論調査紹介 1 本を抜粋▲ ▼次ページに資料▼
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≪世論調査≫フランス国民は投機規制・資本課税強化に賛成、利潤優先に反対
【IFOP 世論調査(4 月 16 日付、4 月 17 日発表)
】
▼民主主義の機能にかんする意識
質問:わが国の民主主義についてどう思うか?
12%
現在の課題に応える最良のシステムである。
よいシステムだが、市民がもっと決定と結びつけられるべきだ(国民投票、地域的参加型民主
主義など)。
56%
経済・金融の利益が優先されているため、実際にはもはや機能していない。
▼エネルギー分野で望む変革
質問:エネルギーに関して、どのような変革を望むか?
再生エネルギーを開発し、化石エネルギーと原発を段階的に廃止する。
64%
化石エネルギーを削減し、原発と再生エネルギーの割合を高める。
30%
化石エネルギーに依存し続ける(石油、石炭、ガス、ウランなど)。
6%
▼経済モデルの分野で望む変革
質問:経済について、どのような変革を望むか?
投機と果敢にたたかい、実体経済を重視する。
75%
政権〔政府〕と立法権〔国会〕が市場と経済をもっと制御する。
21%
4%
市場の自己調節に任せる。
▼企業活動に関する要望について
質問:あなたの考えでは、大企業は利潤を確保しながら、企業活動を何に優先的に奉仕さ
せなくてはならないか?
社会的環境的責任をもっと果たす(環境保全、社会問題解決への参加など)。 80%
16%
さらに発展を遂げ、成長を優先する。
4%
利潤を拡大し、株主に還元する。
▼税制改革の賛否
質問:次の税制改革に賛成か、反対か?
資本への課税強化
74%
労働への課税強化
24%
※この世論調査は、世論調査機関 IFOP が市民団体の委託を受けて、18 歳以上のフランス国民 1001 人(ク
オータ・サンプリング方式で抽出)にたいし 2012 年 3 月 28 日~4 月 4 日、電話で実施されたものです。
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