「定期借地権の設定時に一時金を授受した場合の課税の取扱い(1)-(2)」

「定期借地権の設定時に一時金を授受した場合の課税の取扱い(1)-(2)」
文責 : 金子 章
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定期借地権の設定時に一時金を授受した場合の課税の取扱い(1)
【2005.1.11】
定期借地権を設定する際には、借地人から地主に権利金や保証金を支払うことが通例ですが、今般、地代の
前払いとしての一時金を支払った場合の取扱いが、国税庁より公表されましたので、紹介いたします。
1.権利金・保証金を授受した場合の課税上の取扱い及び実務上のデメリット
借地人
権利金を授受した場合
保証金を授受した場合
返還されないにもかかわらず、借地権が存続する
契約満了時には返還されるため、資産として計
限り資産として計上し続ける必要ある。
上する。
時の経過に応じて減価していくものであるにもかか
長期間にわたり金銭を預託しておくことになるた
わらず、償却が認められない。
め、資金を効率的に活用できない。
契約満了時に、一括して償却することになるた
め、多額の損失が生じてしまう。
また、地主の財産の状況によっては、最悪の場
合、回収不能になってしまうおそれもあり。
返還を要しないため、課税対象となる(個人地主
契約満了時には返還を要するため、課税対象と
については、権利金の額が土地の更地価額の
はならず、負債として計上する。
50%を超える場合には譲渡所得として、50%以
下の場合には不動産所得として課税される。後
地主
者の場合、超過累進税率により最高50%の所
得税・住民税が課税されるため、税負担が非常
長期間にわたり多額の債務を負う必要があり、ま
た、契約満了時には多額の資金を準備する必要
あり。
個人地主について相続が発生した場合、相続税
に重くなる)。
譲渡所得となる場合の各種譲渡の特例、不動
産取得となる場合の平均課税の特例等が手当
てされているが、必ずしも有効ではない。
の計算上債務となる金額は、保証金の全額では
なく、一部だけ(保証金の現在価値)になってしま
う。
2.地代の前払い・前受けとしての一時金を授受した場合の課税上の取扱い及び実務上のメリット
一時金を授受した場合
前払い地代であるため、いったん資産計上することになるが、期間の経過に応じて毎年(毎期)一定の
借地人
金額が必要経費(損金)として計上される。このため、契約満了時に多額の損失が生じることはなく、
損益を平準化することができ、建物から生ずる収益との対応が明確になる。
借地期間の中途解約があった場合には、未経過地代(解約にともなうペナルティーが「あるのならばそ
れを控除した額」が返還されることになる。
地主
前受け地代であるため、多額の金銭を受領しても一時に課税されず、毎年(毎期)一定の金額が収
益(益金)として計上され、損益を平準化することができる。
契約満了時には前受け地代はゼロになっているため、保証金のように返還を要する債務はない。
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3.留意点
①
借地権設定時に授受される金銭が、権利金や保証金ではなく、地代の前払い・前受けで
あることを明らかにする契約書を締結しておく必要があります。
②
契約に、「中途解約時には、解約時以降の前払い地代に相当する金額を、借地人から地主に違約
金として支払う」旨の条項がある場合には、従来の権利金と何ら効果が変わらないため、地主が前受
け地代ではなく権利金を受領したものとして、地主に対する課税があります。
③
個人の借地人が借入をして一時金を支払っても、住宅取得等特別控除の適用はありません。
(続く)
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定期借地権の設定時に一時金を授受した場合の課税の取扱い(2)
【2005.8.15】
定期借地権の賃料を前払いした場合の税務上の取扱いは、今年1月7日に国税庁より公表されていました
が、その後、追加の回答がありましたので、紹介いたします。
1.契約途中で相続が発生した場合、相続税計算上の評価はどうなりますか?
定期借地権(底地)の評価
借地人
地主
前払(前受)賃料の期間未到来分の評価
定期借地権の評価
評価しない(預けている前払賃料を、別の財
=下記の算式で求めた金額
産として加算する必要はない)。
定期借地権の目的となっている土地の評価
評価しない(預かっている前受賃料を、債務と
=自用地としての価額
して他の財産から控除することはできない)。
−下記の算式で求めた金額
(算式)
定期借地権等の設定の時における
課税時期におけるその定期借地権等の
借地権者に帰属する経済的利益の総額
残存期間年数に応ずる
(前払賃料の額を含む)
定期借地権等の設定の時における
×
その宅地の通常の取引価額
基準年利率による複利年金現価率
定期借地権等の設定期間年数に応ずる
基準年利率による複利年金現価率
【コメント】
定期借地権の評価は、従来の権利金方式によった場合と変わりません。これは、権利金も前払賃料も、いず
れも 契約終了の時に返還を要しない金銭 であるということから、このような判断になったようです。
また、期間未到来の賃料については、債権・債務としての評価はしないこととなりました。そのため、地主が、預
かった前払賃料をそのまま預貯金等に預け入れていた場合には、その預貯金等が財産となる一方で、預かった
前払賃料は債務として認識することはできませんので、注意が必要です。
2.個人地主は、前受賃料を預かっていることで、毎年の所得税の申告上、何か影響はありますか?
影響はありません。
【コメント】
従来の保証金方式による定期借地権では、保証金を預かった地主は、一定の場合にその経済的利益が所
得税の課税対象となっています。
今回、前払賃料方式による定期借地権では、地主が前払賃料を預かっても、いずれは賃料として課税対象
となるものであるため、保証金のように経済的利益を所得に合算する必要はないことが明らかになりました。
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3.自宅とするために、親からの贈与や銀行借入により定期借地権付住宅を取得して前払賃料を支払う場合、
特例はありますか?
特例はありません。
【コメント】
従来の権利金方式の定期借地権では、権利金を支払うために親からの贈与や銀行借入により資金調達し
た場合、相続時精算課税による贈与税の計算にあたって住宅取得資金贈与の特例や、所得税の計算にあた
って住宅借入金等特別控除の特例の適用があります。また、保証金を支払う場合でも、保証金のうち一定の
金額については、これらの特例の適用があります。
一方、前払賃料方式による定期借地権では、一時金を支払っても、その一時金は 賃料 であり、 土地等
の取得の対価ではない という理由で、これらの特例の適用はないことが明らかになりました。
4.その他
前払賃料方式による定期借地権では、上記3のとおり、支払った一時金は 土地等の取得の対価ではない
という理由で、前払賃料を支払うために借入等をし、その利子を必要経費にした結果不動産所得が赤字にな
っても、他の所得の黒字との差引は可能であることが明らかになりました。
(注)個人が借入金等により土地等を取得した場合には、その借入金等の利子を必要経費にしたことにより不動
産所得が赤字になっても、それにより生じた赤字は他の所得の黒字から差し引けないことになっています。
(完了)
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