計算結果報告書 - Biglobe

平成5年(行ウ)第4号再処理事業指定処分取消請求事件
原
告
大下由宮子
被
告
経済産業大臣
外157名
計算結果報告書
航空機落下時のエンジンによる局部破壊について
青森地方裁判所民事部御中
2012年11月20日
原告ら訴訟代理人
弁
第1
護
士
伊
東
良
徳
はじめに
本件再処理工場の安全審査、設計及び工事方法認可では、本件再処理工場の
天井スラブないし壁が航空機落下時のエンジン衝突による局部破壊に耐えられ
るよう防護設計を行うため、F16 のエンジン1基の衝突と F4EJ 改のエンジン
2基の衝突について、貫通限界厚さについては Degen 式を、裏面剥離限界厚
さについては Chang 式を用いて計算して評価している。
この計算式、特に Degen 式については貫通限界厚さを過小評価するものと
して原告らは従前から批判しているが、本報告書では、仮に本件安全審査・設
計及び工事方法認可で採用された計算方法により衝突速度のみを変化させて計
算した場合にどの速度で裏面剥離、貫通を生じるかを明らかにするものである。
-1-
第2
1
Degen 式による貫通限界厚さの計算
計算方法
本件再処理工場の設計及び工事方法認可申請書の「航空機に対する防護設計
に関する説明書」では、エンジンの衝突による貫通限界厚さの計算方法を次の
ように説明している。
ここでは、Degen 式の飛来物形状係数を無前提に0.72としている。0.
72は飛来物の衝突面が「平坦」である場合の係数であり、エンジンが完全に
水平か完全に垂直に衝突する場合であれば平坦と評価できるかもしれないが、
ほとんどの衝突では斜めに衝突するはずであるからこれは明らかに過小評価に
つながる計算方法である。しかし、本計算報告書では、そういった過小評価も
-2-
含めて本件安全審査で用いられた計算方法を用いて計算する。
もっとも、ここで Degen 式で求められた貫通限界厚さに対して最終的に乗
じられている0.65の柔飛来物低減係数は、Degen 式自体に含まれるもので
はなく、本件再処理工場等(ウラン濃縮工場でも同様)の設計に用いられた独
自の係数である。そして、この係数について、ウラン濃縮工場の安全審査の際
の資料(被告は「メモ」と称してウラン濃縮工場の裁判で長きにわたりその存
在を隠し続け開示を拒み続けていた)では、以下のように説明されていた。
ここでは、柔飛来物低減係数は「速度が小さくなると低減効果が大きくなる
傾向がある」とされ、衝突速度が150m/sのときの実験値の中央値が0.
65、215m/sのときの実験値の中央値は0.75とされ、かつその中央
値はグラフ上直線で表現されている。
そうすると、本件安全審査や設工認では衝突速度が F16 につき150m/
s、F4EJ 改につき155m/sとされたが故に、柔飛来物低減係数が0.6
5とされたに過ぎず、衝突速度がそれより大きくなれば上記ウラン濃縮工場の
-3-
安全審査資料の図にそった柔飛来物低減係数が採用されるべきと考えられる。
そこで、本計算報告書では、Degen 式による貫通限界厚さの計算後の柔飛来
物低減係数については、安全審査の立場として、0.65に固定したものと、
衝突速度が上がるにつれて漸増する(150m/sで0.65、215m/s
で0.75の2点を結んだ直線上の数値を採用する)ものの2つの計算を示す
ことにする(ウラン濃縮工場の安全審査資料を前提とすれば、安全審査の考え
方としても、後者の方がより正しいはずである)。
なお、本計算結果報告書においては、単位の換算では1 in(インチ)=2.
54 cm、1 ft(フィート)=30.48 cm(0.3048 m)、1 lb(ポン
ド)=0.453592 kg を用い、計算途中での端数処理(切り捨て・四捨
五入等)は一切行わない(Degen 式では計算途上の飛来物密度及び x/d を便宜
上示すが、ここでもエクセルのセルの幅で表示上は最終桁の下の桁で四捨五入
して表示されるが、計算上は端数処理していない)。
2
貫通限界厚さの計算結果
1で述べた通りの式をエクセルに入れ、衝突速度を安全審査で用いた150
m/sから5m/s刻みで大きくして行くと、柔飛来物低減係数を0.65に
固定した場合の F16 のエンジン1基の評価は別紙1-1、F4EJ 改のエンジン
2基の評価は別紙1-2の通りとなる。
本件再処理工場の設計及び工事方法の認可申請書の計算結果は F16 のエン
ジン1基の評価で74.8cm、F4EJ 改エンジン2基の評価で91.6cm
となっており、前者は別紙1-1の計算結果(衝突速度150m/s)74.
75cm、後者は別紙1-2の計算結果(衝突速度155m/s)91.59
cmと一致している。
F16 のエンジン1基の評価では、260m/sで115cmを超え、275
m/sで120cmを超え、290m/sで125cmを超え、305m/s
-4-
で130cmを超え、335m/sで140cmを超える。
F4EJ 改のエンジン2基の評価では、205m/sで115cmを超え、2
20m/sで120cmを超え、230m/sで125cmを超え、240m
/sで130cmを超え、265m/sで140cmを超え、285m/sで
150cmを超え、310m/sで160cmを超え、335m/sで170
cmを超える。
柔飛来物係数をウラン濃縮工場安全審査資料に従い漸増した場合の計算結果
は、F16 のエンジン1基の評価が別紙2-1、F4EJ 改のエンジン2基の評価
が別紙2-2の通りとなる。
F16 のエンジン1基の評価では、215m/sで115cmを超え、225
m/sで120cmを超え、230m/sで125cmを超え、240m/s
で130cmを超え、255m/sで140cmを超え、270m/sで15
0cmを超え、280m/sで160cmを超え、295m/sで170cm
を超え、310m/sで180cmを超え、335m/sでは200cmをも
超える。
F4EJ 改のエンジン2基の評価では、190m/sで115cmを超え、1
95m/sで120cmを超え、200m/sで125cmを超え、205m
/sで130cmを超え、220m/sで140cmを超え、230m/sで
150cmを超え、245m/sで160cmを超え、255m/sで170
cmを超え、265m/sで180cmを超え、290m/sでは200cm
をも超える。
第3
1
Chang 式による裏面剥離限界厚さの計算
計算方法
本件再処理工場の設計及び工事方法認可申請書の「航空機に対する防護設計
に関する説明書」では、エンジンの衝突による裏面剥離限界厚さの計算方法を
-5-
次のように説明している。
高レベル廃棄物貯蔵施設の安全審査資料には、次の通りこれをメートル法換
算した式もあるので、本計算報告書では、これを用いることにしたい。
-6-
本件再処理工場の設工認において Chang 式に独自に付け加えられている「飛
来物係数」については十分な説明がなく、とりわけ、F4EJ 改についてはなぜ
0.55を採用するのかについては何ら説明がなく、結果を操作する(F4EJ
改のエンジン2基の評価でも基準をクリアする結果を出す)目的と疑われるが、
本計算報告書では、それでもなお、本件安全審査・設工認で行われたように、
Chang 式による裏面剥離限界厚さにあえて F16 のエンジン1基では0.6、F4EJ
改のエンジン2基の評価では0.55を乗じた数値を算出することにする。
2
計算結果
1で述べた Chang 式による計算方法のメートル法換算式をエクセルに入れ、
衝突速度を安全審査で用いた150m/sから5m/s刻みで大きくして行く
と、F16 のエンジン1基の評価は別紙3-1、F4EJ 改のエンジン2基の評価
は別紙3-2の通りとなる。
本件再処理工場の設計及び工事方法の認可申請書の計算結果は F16 のエン
ジン1基の評価で114.6cm、F4EJ 改エンジン2基の評価で127.4
cmとなっており、前者は別紙3-1の計算結果(衝突速度150m/s)1
14.53cm、後者は別紙3-2の計算結果(衝突速度155m/s)12
7.39cmと一致している(前者は小数点以下で若干の違いがあるが、端数
処理レベルの問題と考えられる)。
F16 のエンジン1基の評価では、155m/sで115cmを超え、165
m/sで120cmを超え、175m/sで125cmを超え、185m/s
で130cmを超え、205m/sで140cmを超え、225m/sで15
0cmを超え、250m/sで160cmを超え、275m/sで170cm
を超え、295m/sで180cmを超え、345m/sでは200cmをも
超える。
-7-
F4EJ 改のエンジン2基の評価では、150m/sですでに120cmを超
え、155m/sで125cmを超え、160m/sで130cmを超え、1
80m/sで140cmを超え、200m/sで150cmを超え、220m
/sで160cmを超え、240m/sで170cmを超え、260m/sで
180cmを超え、305m/sでは200cmをも超える。
第4
1
計算結果のまとめ
柔飛来物低減係数0.65固定、F16 のエンジン1基の評価(最小)
壁・天井厚115cm(例えば分析建屋外壁の一部、非常用電源建屋防護扉)
:155m/sで裏面剥離、260m/sで貫通
壁・天井厚120cm(例えばガラス固化建屋、使用済み燃料受入・貯蔵建
屋の外壁及び天井スラブの大部分、高レベル廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁
及び天井スラブの一部):165m/sで裏面剥離、275m/sで貫通
壁・天井厚125cm(例えば分離建屋・精製建屋の防護ハッチ、高レベル
廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁及び天井スラブの一部、非常用電源建屋の天
井スラブ):175m/sで裏面剥離、290m/sで貫通
壁・天井厚130cm(例えば分析建屋天井スラブの一部、第1ガラス固化
体貯蔵建屋東棟の外壁):185m/sで裏面剥離、305m/sで貫通
壁・天井厚140cm(例えばガラス固化建屋の天井スラブの一部):20
5m/sで裏面剥離、335m/sで貫通
2
柔飛来物低減係数0.65固定、F4EJ 改のエンジン2基の評価
壁・天井厚115cm(例えば分析建屋外壁の一部、非常用電源建屋防護扉)
:150m/sですでに裏面剥離、205m/sで貫通
壁・天井厚120cm(例えばガラス固化建屋、使用済み燃料受入・貯蔵建
屋の外壁及び天井スラブの大部分、高レベル廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁
-8-
及び天井スラブの一部):150m/sですでに裏面剥離、220m/sで貫
通
壁・天井厚125cm(例えば分離建屋・精製建屋の防護ハッチ、高レベル
廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁及び天井スラブの一部、非常用電源建屋の天
井スラブ):155m/sで裏面剥離、230m/sで貫通
壁・天井厚130cm(例えば分析建屋天井スラブの一部、第1ガラス固化
体貯蔵建屋東棟の外壁):160m/sで裏面剥離、240m/sで貫通
壁・天井厚140cm(例えばガラス固化建屋の天井スラブの一部):18
0m/sで裏面剥離、265m/sで貫通
壁・天井厚150cm(例えば建屋間洞道の一部):200m/sで裏面剥
離、285m/sで貫通
壁・天井厚165cm(例えば建屋間洞道の一部):230m/sで裏面剥
離、325m/sで貫通
壁・天井厚170cm(例えば第1ガラス固化体貯蔵建屋東棟の天井スラブ
の一部、建屋間洞道の一部):240m/sで裏面剥離、335m/sで貫通
3
柔飛来物低減係数漸増、F16 のエンジン1基の評価
壁・天井厚115cm(例えば分析建屋外壁の一部、非常用電源建屋防護扉)
:155m/sで裏面剥離、215m/sで貫通
壁・天井厚120cm(例えばガラス固化建屋、使用済み燃料受入・貯蔵建
屋の外壁及び天井スラブの大部分、高レベル廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁
及び天井スラブの一部):165m/sで裏面剥離、225m/sで貫通
壁・天井厚125cm(例えば分離建屋・精製建屋の防護ハッチ、高レベル
廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁及び天井スラブの一部、非常用電源建屋の天
井スラブ):175m/sで裏面剥離、230m/sで貫通
壁・天井厚130cm(例えば分析建屋天井スラブの一部、第1ガラス固化
-9-
体貯蔵建屋東棟の外壁):185m/sで裏面剥離、240m/sで貫通
壁・天井厚140cm(例えばガラス固化建屋の天井スラブの一部):20
5m/sで裏面剥離、255m/sで貫通
壁・天井厚150cm(例えば建屋間洞道の一部):225m/sで裏面剥
離、270m/sで貫通
壁・天井厚165cm(例えば建屋間洞道の一部)260m/sで裏面剥離、
280m/sで貫通
壁・天井厚170cm(例えば第1ガラス固化体貯蔵建屋東棟の天井スラブ
の一部、建屋間洞道の一部):275m/sで裏面剥離、295m/sで貫通
壁・天井厚180cm(建屋間洞道の最も厚い部分):295m/sで裏面
剥離、310m/sで貫通
4
柔飛来物低減係数漸増、F4EJ 改のエンジン2基の評価(最大)
壁・天井厚115cm(例えば分析建屋外壁の一部、非常用電源建屋防護扉)
:150m/sですでに裏面剥離、190m/sで貫通
壁・天井厚120cm(例えばガラス固化建屋、使用済み燃料受入・貯蔵建
屋の外壁及び天井スラブの大部分、高レベル廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁
及び天井スラブの一部):150m/sですでに裏面剥離、195m/sで貫
通
壁・天井厚125cm(例えば分離建屋・精製建屋の防護ハッチ、高レベル
廃液貯蔵建屋、前処理建屋の外壁及び天井スラブの一部、非常用電源建屋の天
井スラブ):155m/sで裏面剥離、200m/sで貫通
壁・天井厚130cm(例えば分析建屋天井スラブの一部、第1ガラス固化
体貯蔵建屋東棟の外壁):160m/sで裏面剥離、205m/sで貫通
壁・天井厚140cm(例えばガラス固化建屋の天井スラブの一部):18
0m/sで裏面剥離、220m/sで貫通
- 10 -
壁・天井厚150cm(例えば建屋間洞道の一部):200m/sで裏面剥
離、230m/sで貫通
壁・天井厚165cm(例えば建屋間洞道の一部):230m/sで裏面剥
離、250m/sで貫通
壁・天井厚170cm(例えば第1ガラス固化体貯蔵建屋東棟の天井スラブ
の一部、建屋間洞道の一部):240m/sで裏面剥離、255m/sで貫通
壁・天井厚180cm(建屋間洞道の最も厚い部分):260m/sで裏面
剥離、265m/sで貫通
5
まとめ
本件再処理工場の事故想定において重要な意味を持つ主要建屋の多くにおい
ては、航空機防護にあたって検討すべき壁・天井厚は125cmまでである。
この版厚125cmの壁・天井は、柔飛来物低減係数をウラン濃縮工場の安全
審査参考資料のデータによって漸増させた場合の F4EJ 改エンジン2基の評価
では200m/sで、同様の場合の F16 のエンジン1基の評価及び柔飛来物
低減係数を0.65に固定した場合の F4EJ 改エンジン2基の評価ではいずれ
も230m/sで、最も評価が小さくなる柔飛来物低減係数を0.65に固定
した場合の F16 のエンジン1基の評価では290m/sでエンジンが貫通す
るに至る。(裏面剥離については、F4EJ 改エンジン2基の評価では155m/
sで、F16 のエンジン1基の評価では175m/sで裏面剥離に至る)
- 11 -