21 世紀のカシミヤ文化を守る 好ましいビジネスモデル策定の探求 ZERI

21 世紀のカシミヤ文化を守る
好ましいビジネスモデル策定の探求
ZERI 創設者・The Blue Economy 考案者 グンター・パウリ教授の小論文
2016 年 7 月
カシミヤの新世界
良質の柔らかいカシミヤセーターを着ることは、モンゴルの砂漠化に加担する恐れがある。ゴビ砂漠
の片隅に立った時、私はその考えが好きではなかったが、良質の服を着ることが引き起こす意図しない
結果について我々は時に気づいていない、ということが厳しい現実である。例えそのオーガニックセー
ターにオーガニックラベルが付いていたとしても、それは化学薬品を使用していないことでヤギの毛で
できた衣類を持続可能なものにしているということを意味する訳ではない。需要の増加は生産に対して
過度な圧力をかける。乾燥地と接しているこの脆いサバンナで草食であるヤギの数が増えれば、砂漠が
広がることになる。したがって、尋ねるべき疑問は、
「多くの NGO が試みている砂漠化防止のための植樹
が最良の対応であるのか、あるいはその代わりに家畜所有者の暮らしを向上させる経済体制の設計に焦
点を当てるべきか?」である。
インターネットで売られているカシミヤセーターのバリューチェーンを分析すると、セーターの販売
で支払のセキュリティーを確保することで PayPal®が、家畜所有者と同等の収入を得ていることに気づ
き、我々は落胆する。家畜の健康と、家畜所有者と共に野外で厳しい冬を生き抜いた、最も柔らかい種
のヤギにだけ育つ毛を注意深く刈り取る事に、家畜所有者は自分と家族の生活を捧げている。経済学者
の視点から見た、家畜所有者が生き残るただ1つの方法は、「サプライチェーンマネジメント」と呼ば
れるこの現代の市場メカニズムを受け入れることである。全ての資金の厳しい管理は、コストを節約す
るためであり、法的に自由に公共の土地で牧草を食べるより多くのヤギを所有し、専門業者にそれぞれ
の機能を委託することにより、洗浄・紡糸・染色・製織・縫製・販売の負担を減らす下地を作るもので
ある。この専門的に特化した業者は主に中国を拠点としており、カシミヤ製品の 40%を担っているが、過
半数はモンゴルで生産されている。
洋服のデザイナーは製品の最終販売価格の 10%を手にしていることは、我々は自然だと考えています。
また、工業デザインの提供者が、こうした創作から生み出される製品やサービスにおいて使用料の報酬
を受け取っていることも自然であると考えます。それ故に、誰もが(特に経済学者が)農夫や家畜所有者
が「世界市場価格」に縛られ、1kg 当たりの価値を受け入れるよう期待していることは驚きである。バ
リューチェーンに位置する他の皆は基本コストに彼らの手数料を上乗せしています。残念なことに、サ
ービス提供者の大半が、家畜所有者に支払われる1kg 当たりの金額で彼らが家族を養えるかに対してあ
まり配慮していない。
最終価格が下がれば、需要増加の保証は「地球の管理者たち」がより多く生産するための刺激となる。
環境・社会的コストがどれほどのものであっても、これが規模の経済を調査するきっかけとなる。ヤギ
が増えればより砂漠化が進むことは誰もが知っている。災害の原因となることが予測可能だ。しかし、
同時に 5000 年もの間モンゴルやその周辺で繁栄してきたカシミヤのような伝統的産業の終焉の原因にも
なるのが、専門化である。生産量が増えることで、標準化を強いる専門業者からの圧力が増大する。こ
れが質の高い労働者の有意義な登用を減少させ、人を機械へと変え常に低水準の利益を強要する。これ
が多くの需要を促す末端の消費者価格の更なる低下を求めることになる。なぜならカシミヤのような需
要の高い製品は、価格の弾力性が強いからである。価格を下げれば、比例して需要は高まるようになる
のだ。大量生産の保証は利益以上のものであり、大量生産と低利益の学習曲線に乗ることで素材のコス
トに付加されるプロフェッショナルなサービスへの道を開くのである。
経営学学位や金融専門知識を持つ外国の専門家が提示するほんの短い期間の現実だけを、何千年もヤ
ギを飼い続けてきた伝統的遊牧民が見ると、できるだけ安く外部委託をし、家畜を飼って毛を刈ること
に役割を限定される中で、あえて彼らは過放牧をしようとしている。悪い点は、利益も収入さえも提供
しない生産と配分のモデルを、今では家畜所有者が受け入れるようになったことだ。それに続く困難は
実証され、彼らの子供たちにヤギ飼いになる夢を諦めさせる。次の世代の人達は、自分達の未来は都市
への移住にあると信じている。生態系は崩壊し、家畜所有者は生活のために仕事を変え、やがて販売で
きるカシミヤはなくなってしまうだろう。
この点において重要なのは、ポジティブであり続け、罪人探しを止め、グローバル化の恩恵の盲信を
責めず、中間業者や反対の役割を担う海外の専門業者に金銭的な不満を訴え続けることである。企業家
や社会活動家にとって鍵となるのは、ポジティブであり続け、より良いシステムを構築する機会を探す
こと、そして子供たちがヤギや大草原に囲まれる未来を信じられるように、最終的に家畜所有者に幸せ
をもたらす、誰もこれまでに挑み想像したことのないビジネスモデルのあり方を見出すことである。こ
れには貿易のルールにおいて3つの変革が必要だ。
貿易のルールを変える3つのステップ
変革が必要な最初の貿易ルールはカシミヤの価格設定であり、末端のクライアントへの最終的な販売
を通して発生する付加価値の分配は、デザイナーと同じ報酬モデル(販売価格の 10%)であるべきだとい
う事です。結局カシミヤがなければ、誰にも手数料は発生しない。そうすることで農民は群れの規模や
年間のウールの生産量を想像するようになる。農民は未加工の毛皮を届ける際に「市場価格」を受け取
り、最終販売が終わった時に彼は手数料を手にすることができる。
これは役割と責任、工芸と芸術、デザインとコストを決める自由を与える。実際に、家畜所有者とそ
の家族は彼らのライフスタイルを決めることができるようになる。例えカシミヤセーターが半額で直接
販売されたとしても、家畜所有者の収入はファクター10 により増加するだろう。これが今までよりも高
い生産性を生み出す圧力を和らげる。半数のヒツジでも倍の収入を得ることができ、より質の高い生活
と子供たちの未来を保証することにより、すぐにゴビ砂漠の進行を逆回転させるだろう。
いずれのビジネスモデルも自由市場に基づいている。グローバル化のモデル(この記事の表紙に記載)
は更なる砂漠化につながり、最終的には 5000 年も続くカシミヤ貿易と生態系の完全な崩壊につながる。
コミッションモデル(この記事の最後に表記)は供給を減らすことによりカシミヤ貿易を永久に守り、言
い換えれば、市場における価格の上昇が生産量の減少と生活の質を向上につながることであろう。これ
は最終的に生態系の強化と砂漠化の逆転につながるだろう。このビジネスモデルはビジネスモデルだけ
ではなく、適切な政府の規制が必要であることを強調したい。
貿易案件における2つ目の変更点は、衣類用ウールの加工過程である。世界のカシミヤ生産量は、綿
が 1 億トンに対してわずか 2 万 1 千トンであり、モンゴルが 40%にあたる 9 千トンを生産している。何故
人は、急速に変化するファッションに全てを適応させている綿と同じ生産性論理にカシミヤを適応させ
ようとするのだろうか?大量生産は外部委託によって繁栄し、これがいくつかの部分で専門化を余儀な
くする。あらゆる中間製品は輸送されることで追加のコストや資金調達が発生し、全てと言わないまで
もほとんどの付加価値の共有分を失う家畜所有者の資力を超えてしまう。
カシミヤ文化と伝統の保全に対する答えは、それぞれの過程の専門化ではなく、衣料用ウールへの垂
直的統合である。これは十分な認識を得られていないが、質の良い毛と色を選ぶことから、独特の効果
とヤギの自然な「肌の色」を使った驚きのパターンを生み出すために望ましい長さと厚さに糸を紡ぐこ
とまでを生み出す差別化や職人の技術は認識されている。
このことは職人たちが独創的なスキルによって貢献し、収入の大部分を稼ぐための幅広い機会を提供
する。彼らが得た収入は地域経済において循環し始め、従来の市場経済学者が実現可能だと考える範囲
を超えた成長を促進していく。かつて子供の教育のために銀行から借金をしていた家畜所有者が、借金
しなくても返済ができるようになる。家畜所有者の子供たちは、未来があることを信じ、彼らの技術的・
芸術的両方のスキルにも需要があることを現実的に知ることができるようになる。
3つ目に、非常に快適で柔らかい自然の驚異をデザインすることにより 1000 年歴史がある工芸品と調
和した撥水加工のカバーで身体を守る際に、物としてではなく、脆い生態学の中で長い冬の間の凍える
ような風に対してプロテイン・ベースの毛で身体を覆うためのヤギのニーズとの注目すべき共生として、
高価な衣類を購入するよう、我々はクライアントを啓発する必要がある。
今こそカシミヤを、Zara や H&M で購入する綿のシャツのような消費の対象としてではなく、かつて
そうであったように買い手に次の世代に残したいと思わせる製品として見る時である。うまくいけば、
この資料で想像できるように、砂漠化と戦うためにこれ以上木を植える必要がなくなるだろう。大草原
は中国とヨーロッパの間でチンギス・ハンが支配していた前、何千年もの間謳歌していた発展の道筋を
取り戻すだろう。
エピローグ
ブルーエコノミーの創設者である EU ZERI は、ベルリンの Tuvd Agency、生態系を守る家畜所有者
からのサプライ・チェーンを設立したウランバートルにある地域のカシミヤ生産会社 Goyo、東京、マド
リード、そしてニューヨークにある遺憾限定の店舗で独占的に販売される特別なカシミヤラインを生み
出したスペイン出身のデザイナー、シビーリャ・ソロンドとチームを結成した。ヤギの飼い主は、買い
手が支払った最終販売価格の 10%を受け取ることになる。最新の情報は Twitter の@MyBlueEconomy
や Facebook で確認していただきたい。
皆に補足と継続性を保証してくれた Mrs. Boldgerel Tuvd。また生活を優雅に、そして美しくする桁
違いの天然素材を提供してくれた人々、特に農民や女性たちに尽くすことに人生を捧げた Sybilla
Sorondo。グラフィックから写真に至るまで生活の詳細に違いをもたらす無条件にサポートしてくれ
た Katherina Bach。そして私に科学的・論理的に感銘を与え、今、世界を変えるために時として私
の突飛な提案を寛大に取り扱ってくれた方々に深く感謝申し上げたい。
詳しい情報は
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