vol.11 - 京都ノートルダム女子大学

第11号
2016年3月発行
ISSN 1880-165X
京 都ノートルダム女 子 大 学
司書・司書教諭課程
ニューズレター
目 次
巻頭言
私と図書館建築/中村久美
1
司書課程から
情報サービス演習Ⅱ/岩崎れい
図書館制度・経営論/鎌田均
2
2
卒業研究から
電子書籍普及時代における出版流通制度の在り方/田中藍子
図書館の利用が困難な子どもへの支援∼発達障害を事例として∼/山田友香
3
3
現場の先輩、
先輩の現場
大学図書館のトレーナーという仕事/木下泰子
書架から書庫から/赤尾紗耶 守谷静華
4
5
実践報告
図書館実習
(大阪府立中央図書館)
/舌間倫香
平成27年度障害者サービス担当職員向け講座/山田友香
日々往来
私と図書館建築
6
7
8
て親切。時代の流れと自己の加齢を感じた。
その後、海外でも魅力的な図書館と出会った。まず
何と言ってもストックホルム市立図書館。北欧モダ
ニズム建築の巨匠、アプスルンドの設計による。円筒
中村 久美
形部分を頂きに持つオレンジ色のどちらかというと
キュートな外観であるが、館内に一歩踏み入れた時に
私にとって図書館といえば、大阪府立中之島図書館
開ける本のパノラマは、圧倒的迫力で来館者に迫る。
である。高校時代に初めて足を踏み入れて以来、進学
当時小学校 1 年生であった娘に夏休みの宿題をさせに
した大学の図書館が今一つ好きになれなかった私は、
行ったのであるが、彼女が入り口でぽかんと口をあけ
レポートの課題が出るたびに、奈良の大学を早々に退
てしばらく立ち尽くしていた姿が今も目に残る。それ
出して中之島に通った。隣接する中央公会堂ともども、
からもうひとつ、ニューヨーク公共図書館。大学生に
明治から大正にかけての大阪商人の気概と財力を原動
成長した娘が、好んで見ていたアメリカのドラマ「セッ
力にして建てられた。
クスアンドザシティ」の舞台にもなったからというこ
中之島図書館入口は、コリント式円柱で支えられた
とでニューヨーク旅行の間に家族で訪ねた。緑豊かな
神殿風のデザインであるが、実際には正面階段両脇の
マンハッタン地区の一角、古典様式の堂々たる外観と
通用口からしか入れず、一度でよいからペディメント
ゆるやかな正面階段のそこかしこに座って語らう若者
を見据えて正面入り口から入ってみたいというのが私
の姿、中に入ると宮殿のように重厚な閲覧室におびた
の念願である。通用口から低い天井を気にしながら入
だしい数の長机。「やっぱりドラマの舞台になるだけ
ると事務服を着たおばちゃんが待ち構え、私物を入れ
あっておしゃれね」過去の図書館経験にもよらずご本
るロッカーのキーをくれる。支度をして中央ホールに
とは特に親しくなれなかった娘の感想である。
すすみ、まずドームを見上げその厳かな意匠を確かめ
翻って本学の図書館である。時代の要請に応じてグ
てから手すりの黒光りする階段を上り、目的の閲覧室
ループ学習や学生の交流、相互啓発をねらった新たな
へとすすむのであるが、一歩室内にはいった途端、古
スペースが組み込まれている。私のように他の図書館
書のインクとカビ臭さを感じることで、これから勉強
に逃げ出すことなく、マイスペースを見つける学生が
するんだという気持ちがわいてくるのである。学生時
ひとりでも多くいることを願うばかりである。
代は司書のおじさん、おねえさんがとても怖く感じた
ものだが、6 年前にしばらくぶりに行ってみると極め
(本学教授 生活福祉文化学部長)
1
司書課程から
司書課程から
情報サービス演習Ⅱ
図書館制度・経営論
情報サービス演習Ⅱでは、レファレンス問題の演習を重点的
司書課程を履修している学生にとっては、図書館のサ
におこない、さらにレポート執筆のプロセスに沿って、事前調
ービス、業務、その他様々な活動には関心があっても、
「経
査の仕方、文献の探し方、書誌事項の書き方を学んだり、パ
営」ということにはあまり関心がないかもしれません。図
スファインダーや参考図書の紹介文を作成したりしています。
書館で働くことを目指している学生にとっても、図書館を
レファレンス問題については、受講生全員がそれぞれ違う
経営するということは自分には当面関係ないことのように
問題を計8回事前に解いてきて、授業中に発表します。受講
見えると思います。このことを踏まえて、なるべく「経営」
生が 40 人なら、320 題の問題に触れてもらえます。国語辞典、
というものを身近に感じてもらえるようにこの授業を計画
英和辞典、百科事典などは使い慣れていると思いますが、授
しています。この授業では、この科目に求められている
業の中では、名称のわからない植物を図鑑で調べる方法、隠
図書館に関連する諸制度と図書館の運営に関する実際に
語辞書やコンコーダンスの活用法、人物書誌や主題書誌など
ついて、テキストを利用しつつ学ぶ上で、図書館という組
書誌の種類と利用法、雑誌の総目次と総索引の違いなど、司
織を経営する、ということはどのようなことなのかを考え
書課程では必ず身につけてほしい基本的なことを、演習を通し
てもらうことを主眼としています。このことについて、折に
て学びます。初めての参考図書や調べ方も数多くあるようで、
触れて民間の企業などの組織との相似点、違い、そして
たいへんだと感じる学生がいる一方で、とても楽しいと目をき
公的機関としての図書館という組織の特徴などを取り上
らきらさせて取り組む学生もいます。 例えば、こんな質問が
げて授業を進めています。その中で、図書館を経営する
あったら、どの参考図書を使って、どうやって調べればよいで
ためには、図書館という組織はなにをするところなのかを
しょうか? 「現在、都立大塚病院がある所には、安政3年頃
考えることが重要だという大きなテーマを設定しています。
誰の屋敷があったか。」「『リンゴをかじると血が出ませんか』
授業ではグループワークなどをとりいれ、図書館経営
というCMで売り出された商品は、どの企業の何という商品か。
における具体的問題について考えるケーススタディーや、
また、このCMが最初に放映されたのはいつか。」「『出島にお
実際になにかを計画したりする課題、といった活動を通し
ける気象観測』は、幕末にオランダ政府直営の印刷所が刊行
て実践的に学ぶ機会を作っています。授業で課すレポー
したらしい。著者名、原題、出版年、印刷所のあった場所を
トでも、あるシナリオに基づいた実際的課題について授
知りたい。」「葉が複葉、花冠は離生で横向き、2~5の小葉
業で扱った内容をもとにして取り組む内容とし、実際の
がつき、淡紅色の花が咲く植物の名称を知りたい。また、そ
場面で活かせる形でこの科目を学んでもらうことを目指し
れはどんな植物か。絵か写真があれば見たい。」 興味があれ
ています。また、もちろん日本の事を中心に学ぶのですが、
ば、調べてみてください。
海外、特にアメリカの事例などもとりあげ、比較検討する
今年度は、授業の最後に大学の新入生向けに参考図書の
ことで多角的視点を持って学んでもらえるような内容にし
紹介をA4サイズ1枚で受講生に作ってもらいました。受講生
ています。このように、様々なアプローチからこの科目に
が新入生のために選んだ参考図書のタイトルを一部ご紹介し
ついて学んでもらうことで、図書館を経営すること、図書
ます。
館に関連する諸制度を、ただ覚えておくべきことではなく、
『図説 世界シンボル事典』『地方別方言語源辞典』
考えるべきこととして理解もらおうと意図しています。授
『京ことば辞典』『企業博物館事典』
業でも触れていることなのですが、経営について学ぶこ
『外国新聞に見る日本:国際ニュース事典』
とで、組織というものの全体がみえてきます。この授業で
『苗字8万よみかた辞典』『辞書・事典全情報』
学ぶことは図書館という組織についてですが、他の組織
にも当てはまることが多くあります。学生にとって、自分
調べる作業は一見地味に見えますが、実は奥が深くて、や
たちが経営する立場には近い将来なることは少ないにせ
ればやるほど楽しくなるので、「調べる」力をぜひ身につけて
よ、組織とはどういうものか、組織で働くとはどういう事
ほしいと思っています。
かということを考えてもらうきっかけにもなればと思ってい
(岩崎 れい 本学人間文化学科教授)
ます。
(鎌田 均 本学人間文化学科講師)
2
卒業研究から
電子書籍普及時代における
出版流通制度の在り方
卒業研究から
図書館の利用が困難な子どもへの支援
~発達障害を事例として~
本研究は、公共図書館の利用に対し
“特別なニー
ために紙の本と電子書籍がどのように共存してゆけ
ズ”があるとされる「発達障害」の子どもに焦点を
るのかを考察することを目的とした。そして、日本の
当て、彼らが求める環境と資料のニーズを明らかに
電子書籍市場の普及の遅れは電子書籍をこれまで
することを目的としている。
の書籍の概念に当てはめて紙の本と同じように扱っ
研究の背景として、現代の日本における公共図書
たためであり、電子書籍と紙の本は別のメディアとし
館では行動面や学習面に困難を抱えるハンディキャ
て、それぞれの長所を生かし、短所を補うことで共
ップの子どもたちが十分なサービスを受けられてい
存していけるという仮説をたてた。その仮説に対し、
ないことが挙げられ、その支援を可能にするために
それぞれの長所・短所を分析しそれらの長所が最
本研究では「特別支援教育等で用いられている療育
大限生かされるためにどのような形が適しているの
のプログラムを図書館でも導入することによって、発
か、日本の出版流通の今後の可能性を考察した。
達障害の子どもたちが環境と資料を有効に利用する
その結果、電子書籍と紙の本はそれぞれ弱点が
ことができるのではないか」という仮説を立てた。
あり、それは相互に補うことができることが分かっ
研究方法としては、①特別支援教育や療育の分野
た。そして、電子書籍は音声や動画の利用など紙の
で成果を上げている神奈川県、②日本の首都である
本では実現できなかった機能があり、紙の本の延長
東京都、③そして筆者の居住地である京都府におけ
ではなく、また別のメディアとして存在することが分
る図書館サービスとその他行政の取り組みを調査した
かった。電子書籍と紙の本の流通形態を比較してみ
(第 1 章)
。またバリアフリー図書の普及で世界的に
ると、流通のプロセスにおいて取次等の機関が果た
知られている北欧の実践報告や研究成果を、日本と
している役割が、両者間で異なることがわかった。
の比較対象に用いた(第 2 章)
。そして実践的な調
日本の電子書籍流通は今後も変動し続けていく中
査としては、学童保育と一般家庭を対象に行なった
で、紙の本の流通での役割にとらわれずに柔軟にそ
観察事例とそれを分析した幾つかの事項を提示し、
れぞれの役割を模索する必要があると考えた。これ
図書館においても療育の導入が可能かどうかを検証
は再販制など出版の制度でも言えることであり、物
した(第 3 章)
。研究の最終段階では、図書館の中
流がないことにより制度の在り方も電子書籍の流通
で発達障害の子どもが主体的により良く活用すること
では異なるので、出版制度も今後変化してゆく必要
ができる療育的モデルを提示している(第 4 章)
。
があるだろう。
結論としては、発達障害の子どもは環境と資料に
今後も変動してゆくと考えられる電子書籍市場に
対し、独自のニーズを持っているということ、療育
おいて、紙の本とは別のメディアであるものの、今
が図書館における第一の読書支援に繋がるとは必ず
後の出版文化の発展を考えると、双方がそれぞれ
しも限らないことが明らかになった。そして療育は
の短所を補いあえるような流通制度を整え、人々が
資料提供面ではなく環境支援面のサービスに導入し
場合によって取捨選択できるような環境を作ってゆ
た方が、より良い支援に繋がると結論付けた。なぜ
く必要があるという結論に達した。
なら療育は、発達障害に対して需要のある支援では
本の扉
本論文では電子書籍が日本の出版文化の発展の
あるが、LD(学習障害)やディスレクシア等の知能
(田中 藍子 人間文化学科卒業生)
や精神的な遅れが見られない子どもに対しては人的
な支援よりも、資料不足の改善がより優先的と言え
るからである。以上のことにより、本研究は仮説に
対し療育の導入が図書館サービスに有効であるとは
言い切れないという結論に達した。
(山田 友香 人間文化学科卒業生)
3
大学図書館のトレーナーという仕事
株式会社キャリアパワー 関東学術事業部学術サポートセンター 木下泰子
■大学図書館の司書として
2010 年 4 月から大学図書館で業務委託のスタッフとし
て勤務をスタートしました。業務は、貸出、返却、書架
整理、蔵書点検、装備、修理、レファレンス、ILL 受
付・引渡、展示、POP・掲示物作成、PC サポート等で
す。大学の方針で、利用者目線の対応が重視されており、
私たちスタッフには質の高いサービスが求められていまし
た。特に、入館時の挨拶や笑顔での対応をカウンター業
務にプラスすること、これが業務の基本姿勢でした。ス
タッフ全員がこれをクリアし、丁寧で親切、迅速かつ正
確な対応を常に心掛けていました。その結果、CS(学
生満足度)調査では高い評価をいただき、学生からは
利用しやすいという声をいただいたのが嬉しかったです。
また、これらの業務に加えて、新人研修、定例会の
準備や出席、シフト管理等のリーダー業務も行っていま
した。委託現場の責任者であるリーダーという仕事は初
めての経験で不安でしたが、当面はトレーナーのサポー
トがあったため、お引き受けしてから 4 年間務めること
ができました。
■リーダーからトレーナーへ
2014 年 4 月からトレーナーとして勤務をスタートしまし
た。大学図書館のトレーナーという職種は聞き慣れない
かもしれませんが、トレーナーは司書であり、司書をサ
ポートする人です。今までは、自分自身が司書のキャリア
を積んできましたが、今後は誰かのキャリアをサポートす
る道へ進むことになりました。
■トレーナーの役割
委託現場の課題を改善することが主な役割です。担当
している各委託現場の課題をそれぞれ認識し、改善方
法を考えます。それに合わせて、マナー研修、レファレ
ンス研修、製本・修理研修、新人研修、面談、OJT、マニュ
アル作成、企画の提案等を実施します。また、現場の責
任者と情報共有を行い、実際に現場に入って課題を発見
し、早めに対処することもトレーナーの役割です。更に、
現場に求められているニーズを把握し、取り組みを考え
たりもします。
■トレーナーの1日
現場に到着したら、まずは責任者と打合せをします。
イレギュラー対応やトラブル等があれば報告してもらい、
対応は適切か、漏れはないか確認します。そして、再発
防止に努めるべく、対策を一緒に考えます。また、業務
の現状を把握し、円滑に業務が遂行できているか、改
善点はないか確認をしていきます。スタッフには、積極的
に話しかけてコミュニケーションを図ります。仕事ぶりを
モニタリングし、良い点も悪い点もフィードバックしていき
4
ます。研修や面談
をする場合は、研
修1回につき約1時
間、面談1人につ
き約30分実施す
ることもあります。
■大切にしている
こと
一人でも多くのス
タッフが、 様々な
スタッフへの業務説明をしている著者 業務を習得できる
よう、 引出し・気
づかせ・伸ばすことを大切にしています。性格はもちろん、
スキルや経験も十人十色ですので、それぞれスタッフに合
わせて接するようにしています。研修では、説明するだけ・
教えるだけで終わらず、スタッフができるようになるまで
サポートすることを心掛けています。
■トレーナーの魅力
スタッフの成長を感じられることが魅力です。スタッフ
から「できるようになりました」「新しい発見がありまし
た」等の声が返ってくると嬉しいです。仕事ぶりを見てい
て、以前と比べて成長していたり、周囲が成長に気付い
てそのスタッフ自身の評価が上がることも大変嬉しいもの
です。
■これからの司書の姿
図書館の世界も日進月歩ですので、検索ツールや情
報提供、情報管理といったことが進化しています。これ
からは、この進化に合わせて対応できるスキルが求めら
れると思います。また、それと同じくらい重要視されるこ
とは、質の高いサービスです。2013 年9月に行われた、
2020 年夏季オリンピック招致のスピーチで「おもてなし」
という言葉が注目されましたが、司書にもこの精神が必
要だと思っています。
■トレーナーとして目指すこと
話しかけやすい雰囲気のあるカウンターを目指したい
と考えています。そのためには、スタッフ一人ひとりが接
遇のスキルを高めなければなりません。明るい挨拶、笑
顔で対応、正確な聞き取り、丁寧な説明と言葉遣いといっ
たコミュニケーションが重要となります。利用者の中には、
カウンターは取っ付きにくいという印象をお持ちの方がお
られます。このような印象を払拭できるように努め、利用
者にとって利用しやすく、スタッフにとって働きやすい図
書館にしたいと思っています。
(人間文化研究科人間文化専攻 修了生)
『精神分析入門:
(正・続)』
フロイト著作集 1 巻
フロイト著;懸田克躬,高橋義孝訳
人文書院 1971 年
授業中に、先生に向かって「お母さん」と呼んでし
まったり、知っているはずの物事がどうしても思い出せ
なかったりするということは、皆さんも一度は体験した
ことがあると思います。心理学ではこのような「言い間
違い」「読み間違い」「聞き間違い」「度忘れ」などの
現象を錯誤行為と呼んでいます。日常生活を送る上で、
どうしてこのような錯誤行為が起こってしまうのか。そ
のことについて、心理学の基礎であるフロイトは考えま
した。
本書は、フロイトが自身の理論に対する反論をあら
かじめ想定し、それに答える討論形式で行われた講
義をまとめたものです。疑問や反論に対して、答えるよ
うに説明しているので、フロイトが何故そのような考え
に至ったか、その過程まで詳しく知ることができます。
錯誤行為とは、意図した行為とは異なる行為を行っ
てしまうことです。普通に私達に見られ、偶然に起こ
るものではないと言われています。このことを説明する
ために、フロイトは心理における葛藤のモデルを用い
アニー・トレメル・ウィルコックス著
白水社 2010 年
この本は著者が 1817 年に発行された一冊の本と
対峙するところからはじまります。著者は書籍修復家
(Book Conservator)で、この本は彼女の回想録です。
アイオワ大学の中央図書館内の書籍修復部で、一流
の書籍修復家に弟子入りした彼女が修業を経て成長し
ていく過程が、まるで彼女の日記を読み返しているよ
うに、出会った本の質感や手にとった道具ひとつ、一
冊の修復が終わった達成感や弟子入りして初めての一
週間をなんとか乗り切ったあとにひどい味のブラック・
コーヒーを飲んで「妙にハイな気分!」
(本書より抜粋)
にならざるを得なかった様まで、細やかに綴られてい
ます。書籍修復家という聞きなれない職業ですが、与
えられた仕事に著者が悩みながらも取り組んでいく様
子は、アルバイトに励んでいる方には共感できる部分
があると思いますし、これから社会人となるみなさんに
“働く”ということをよりイメージし易くするのではない
でしょうか。
この本の中では、実際に著者が行った修復の事例
がいくつも出てきます。第一章では「始まりと終わり」
と題して、著者が修復家として一冊の本を修復してい
く細やかな過程と、師匠との出会いとが、現在と過去
本の扉
『古書修復の愉しみ』
て、錯誤の原因を明らかにしようとして
います。つまり、錯誤行為を心的な行
為として把握し、何かを言おうとする意
図があるのに、それを抑えつけるという
二つの相違な意向の干渉から生じるものと説明してい
ます。例えば、
「何かをしようと思っていたことを度忘
れする」場合、行動を実行したくないという妨げる意
向が存在していて、その行動には、
「不快な感情と結
びついているため、それを思い出すと不快感が再びよ
みがえってくるので、記憶がこれを思い出すことを好ま
ない」のです。フロイトは、想起や他の心的行為に伴
う不快を回避しようとする意図こそ、多くの錯誤行為
の究極的な動機であると述べています。
錯誤行為以外にも
「どうして人は夢を見るのか。」
「何
故楽しい夢だけではなく不安な夢も見るのか。」「神経
症を患うほどの不安とは何か」など、夢や不安につい
ても語られています。
私達が日常生活を送る上で良く体験する現象を偶然
に起こる現象とするのではなく、そこには何かしらの
意味があることを示しているのです。皆さんも、日常
生活を送る中で起こる出来事や、日頃感じている疑問
についてどのような意味があるのか、心理学の視点か
らじっくり覗いてみませんか。
(赤尾 紗耶 臨床心理学専攻博士前期課程)
を行き来しながら交互に語られています。貴重な本を
手にとる様子は、ページを捲る指の震えまで想像に難
くありません。ナイフやプレス機、製本用のヘラなど様々
な道具を用いて次々に手当てを進めていく様子も目に
浮かびますが、より具体性を求めるならば、本学図書
館所蔵の DVD『デボラエベッツ・クロスリバッキング』
をご覧いただくと、映像として実際の修復を見ること
ができますので、お薦めです。
書籍の修復は特に日本ではまったくと言っていいほ
ど注目を集めることのない仕事です。しかし、この本
の中でひとりの日本人の建具師が登場します。彼の著
作を読んで著者は日本での“職人”の在り方、つまり
技術的にも精神的にも熟練し、仕事に魂をこめ、自ら
の技巧に誇りを持つべきだという考えに感銘を受けた
と語っています。著者以外の弟子は、全員が男性でし
た。初めての女性弟子という立場もあったのだと思い
ますが、仕事に対する彼女の真摯さが伝わってきます。
「書籍修復家という職業があるのをご存知だろう
か。」
訳者あとがきはこの一文から始まります。この本を
読んで、書籍修復家という仕事の一端を紐解いてみて
はどうでしょうか。きっと、書籍との向き合い方が変わ
ることと思います。
(守谷 静華 本学図書館情報センター図書館司書)
5
実践報告
図書館実習(大阪府立中央図書館)
8 月 26 日から 9 月 2 日までのうち 6 日間、大阪府立中央図書
識が問われるのだなと感じました。
館で実習をさせていただきました。実習生は私を含めて 5 名、イ
3 日目は大阪市立北図書館で実習をおこないました。建物のワ
ンターンシップが 1 名の計 6 名でおこないました。
ンフロアだけの小さい図書館でしたが、様々な年代の利用者さん
1 日目は午前にオリエンテーション、午後に業務説明を受けま
がいました。予約本を繰り込んだり、書架の整理をおこなったり
した。オリエンテーションでは中央図書館での実習内容の確認の
しました。そのほかにも、小学校の図書館ボランティアのお母さ
ほか市立図書館での実習、こども室でのお話会の説明を受けま
ま方の講習に参加させていただき、段ボールで本を展示する台を
した。午後からは中央図書館の概要から協力振興課、閲覧調整
作成したりしました。府立図書館に比べ、1人の職員さんが行う
業務、資料情報業務、国際児童文学館業務、障がい者支援室
仕事の量が多く、また地域とのつながりを実感した実習でした。
業務について 30 分ずつ説明を受けました。特に印象に残ったの
4 日目は午前に子ども室でのおはなし会の準備、午後からおは
が障がい者支援室業務についてのお話です。障がい者支援室業
なし会と子ども室での実習をおこないました。子ども室の職員さ
務では、様々な障がいに対してのサービスについて実際の資料を
んに本の持ち方や話し方などを教えていただきました。おはなし
見せながら教えてくださいました。点字はもちろん、筆談や手話
会では、私は『お月さまってどんなあじ?』という本を読みました。
だけでなく、ピクトグラムを使った案内や説明の方法について学
はじめは「月は不味いと思う」といっていた男の子に本を読み終
ぶことができました。
わった後「なんの味だと思う?」ときくと「桃!!」と答えていたの
2 日目は午前に書庫出納業務と国際児童文学館での作業、午
が印象的でした。
後から各室業務の実習をおこないました。書庫出納業務は地下
5 日目は午前にネットワーク業務、午後から各室業務の実習を
1 階にある地下書庫に利用者からリクエストが来た本を探し出し
おこないました。ネットワーク作業は、府立図書館から市立図書
て各階に送る作業と、予約本を各階に取りに行く作業をおこない
館への本の配送、返却の業務のことです。書籍だけでなく、CD
ました。地下書庫は 100 m×100 mの書庫で、職員さんは効率よ
や DVD などの貸出もありました。配送する本や返却されてきた
く本を回収、返却するために後ろにかごのついている自転車で書
本を一冊一冊確認し、汚れや破損がないかの確認、返却された
庫内を移動していました。私たちも自転車に乗せてもらいました
本の返却処理やエリアごとに分けて本を詰める作業などを行いま
が普通の自転車と違って重心が低かったので、普段自転車に乗
した。各室業務の実習では、30 分だけカウンターに座って利用
りなれていない私はとても乗りづらかったです。書庫出納業務を
者さんが書庫にある本を利用したいと申し出てこられた際の受付
行っている職員さんは「利用者から書庫の本を利用したいとリク
をおこないました。私がカウンターにいる間には書庫へのリクエス
エストがあった際、冊数に関わらず 10 分以内に本を届けなけれ
トだけでなく、本のコピーの申し込みに来たり、カウンターにある
ばならない」と仰っていました。利用者へは本用のエレベータを
雑誌を借りに来たりする利用者さんがいました。
使って本を届けます。私が今まで利用したことのある図書館では
6 日目は午前に各室業務、午後から報告会と反省会をおこない
司書の方が書庫に取りに行っていたので業務が分担されているこ
ました。各室業務では、演習問題と答え合わせを行いました。演
とに驚きました。実際に書架に行って予約本を見つける作業では、
習問題の答えには本だけではなくデジタルアーカイブの資料を使
ハードカバーの本や文庫だけでなく辞書のような分厚い本を何冊
用したりもすることがありました。午後からの報告会では私たち
も持って移動することもありました。国際児童文学館では、資料
は人文系の資料室の説明を行い、実習を行っていない自然科学
の保管方法が普通の図書館と違うということを教えていただきま
分野の資料室と子ども室の資料や工夫点について他の実習生か
した。現装保存といって、資料の帯や間に入っているチラシ、雑
ら報告を受けました。反省会では 6 日間の反省を行ったり、各室
誌の付録などもそのまま保存する方法をとっていました。国際児
業務でお世話になった職員さんから評価をいただいたりしました。
童文学館は基本的に貸し出しをしておらず、研究目的での閲覧が
たった 6 日間という短い期間でしたが、普段利用者の立場から
主な対象となっています。実際 30 年以上前の雑誌を閲覧してい
だと見えない様々なことを実習の中で体験させていただきました。
る利用者さんがおり、とても興味深かったです。各室業務では人
授業では知りえなかったことをたくさん学ぶことができとても充実
文資料室に配属され、資料の説明を受けた後に演習問題を行い
した 6 日間でした。
ました。大学の授業で行われている問題とは難易度が全く違い、
絵を見たいというレファレンスに対しても作品の年代や作者の出
身地まで調べないとわからない時もあり、改めて司書は様々な知
6
(舌間 倫香 人間文化学科)
実践報告
平成27年度障害者サービス担当職員向け講座
2015 年 11 月 16 日~ 18 日の 3 日間、国立国会図
布絵本の閲覧だけでなく録音図書も実際に触って操
書館関西館と外部の図書館機関で行われた「平成 27
作することができました。
年度 障害者サービス担当職員向け講座」に参加し、
3 日目は希望者(※ 事前申込制)による東京・大
修了することができました。この講座は、毎年 1 度、
阪・京都にある実習機関での実践講義で、私は大阪
国立国会図書館と日本図書館協会の共催によって提
府立中央図書館への希望が通り、そちらでの実習に
供されるもので、全国の公共図書館職員と大学図書
参加させて頂きました。以前履修したインターンシッ
館職員を受講の対象としています。私はまだ学生で
プでは利用者と実際に接する機会が無かったのです
すが、現在障害者サービスに従事する司書職員とな
が、今回は実際に利用者の方にサービスも行なうプ
れるよう勉強中のため、インターンシップでお世話に
ログラムとなっており、当日、視覚障害のある利用者
なった大阪府立中央図書館の方からご紹介いただき
の方お二人に対面朗読や音声録音、CD 資料の説明
ました。
などをさせていただき、緊張もしましたが貴重な時間
でした。また、聴覚障害の利用者へのサービスを学
義では、障害者サー
び、子ども向けの「手話のおはなし会」についてもお
ビスと障害者差別解
聞きしました。そして実習の最後には、各受講生の所
消法/図書館に来ら
属機関の公式 HP を閲覧し、視覚障害のある利用者
れ ない人や 来 にくい
向けの音声読み上げソフトを使って情報を音で聞く演
人への訪問サービス
習が行なわれました。私や他の大学図書館の司書の
/著作権法と障害者
方は、視覚障害のある学生にこれが情報として提供
サービス/大学図書
されるにはアクセシビリティとしての課題が残ることを
館の障害者サービス:
感じました。今後、すべての大学図書館が障害のあ
テキストデータの提供
るなしにかかわらず、学生に向けて分かりやすい情
を中心に/ディスレク
報提供を行なうことが重要だと思われます。
シアの人へ の図 書 館
今回の講座自体は定員が 30 名とのことでしたが、
サービス/視覚障碍者へのサービス:事例を中心に
私も含め数多くの受講希望の問い合わせがあり、全
/障害者向け資料・機器の紹介/聴覚障害者への
体の参加者は 50 名を超える大盛況でした。3 日目の
サービス:事例を中心に/障害者用音声・点字等デー
実習(8 名)でも、埼玉県や山口県、沖縄県の県立
タと全国の所蔵資料 共同利用のためのオンライン
図書館から受講に参加した司書の方々とお話しさせ
サービス「サピエ」の紹介/障害者サービスに使える
ていただき、これから障害者サービスが発展してい
国立国会図書館のサービス/障害者サービスの始め
くことにかなり力を割いておられることが感じられま
方:PR の方法・具体的なサービス事例・アクセシビ
した。私も研究
リティを中心に・・・ の 11 講義を受けました。講師は
の内容が障害者
公共図書館や大学図書館、福祉センターや特別支援
サービスにあた
学校など所属が様々で、実践的な事例を数多く学ぶ
るため、今後さ
ことができたのが大きな利点でした。特に、2016 年
らに精進してい
4 月に施行される「障害者差別解消法」によって行政
くことを決 意 す
の下にある公立図書館は、障害のある利用者に対す
る 機 会となる 3
る合理的配慮を今後さらに検討していく必要性があ
日間でした。
り、それについても講義の中で問われる貴重な講座
でした。また情報機器が発展したことにより、電子
本の扉
点字用郵便袋と音声 DAISY、
手紙(活字・点字)
1 日目と 2 日目の講
音声読み上げソフトを使用して
大学の HP の内容を聴いている
的な読書資料(録音図書など)に関するサービスの
内容も多く含まれており、休憩時間には点字図書や
(人間文化専攻修士課程 山田 友香)
7
4 月 5 日 新規履修予定者オリエンテーション
新入生を中心に参加者は 44 名であった
4 月 24 日 京都府立総合資料館訪問
「図書館情報資源特論」の授業で、京都府立総
合資料館を訪問。
5 月 30 日 日本図書館情報学会春季研究集会
本学を会場として開催された。司書課程を受講
している学生・院生もスタッフとして手伝い、各々
の勉強に役立てたようであった。
6 月~ 7 月 「児童サービス論」読書プログラム実習
ペープサート、紙芝居、ブックトーク、読み聞か
せ、パネルシアターの実習。
6 月 15 日~ 7 月 14 日
「図書館サービス概論」展示実習
テーマ:
「大学生にとってなつかしい絵本」
大学生になって、違う視点からもう一度絵本を
読んでみることを提案した。図書館 1 階にて展示。
7 月 19 日 人間文化学科公開講座「図書館を
学びの場所として使いこなす」
本学司書課程教員(岩崎・鎌田)が、学習デザ
インの専門家である上田信行先生と共に、ラーニ
ングコモンズという空間をどのように活用できるか、
をテーマにワークショップを開催した。
8 月 26 日~ 9 月 2 日 図書館実習
「図書館実習」受講生が大阪府立中央図書館で
6 日間の実習を行った。
9 月 16 日 京都ライトハウス見学
夏期集中講義「図書館サービス特論」の授業で
は、視覚障がい者の情報提 供支援について学ん
だ。情報支援機器を実際に操作したり、点字の読
み書きの基礎を実習し、最終日に視覚障がい者情
報提供施設「京都ライトハウス」を見学した。
10 月 16 日~ 22 日 インターンシップ
大学院生 1 名が「大阪府立中央図書館」でのイ
ンターンシップに参加した。
11 月 14 日 製本技術講習会(初級)
「図書館情報資源概論」受講者対象の講習会で
は上製本(洋綴じ)
・和綴じ(四つ目綴じ)
・帖装本(朱
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印帳)の製本方法を学んだ。実際に自分で作成す
ることで、本の構造や特質を理解することができた。
11 月~ 12 月
「読書と豊かな人間性」読書プログラム実習
読み聞かせ、紙芝居、ペープサート、ストーリー
テリング、エプロンシアター、アニマシオン、ビブ
リオバトルの実習。
「読書へのアニマシオン」
キャラクターを使って
2 月 13 日 製本技術講習会(中級)
「初級」修了者を対象に開催。かがり綴じによ
る上製本、和綴じ(麻の葉綴じ)
、文庫・辞書の修
理等の技法を習得した。
編集後記
今年度は盛りだくさんの年であった。学会も本学
で初めて開催し、院生や学生の有志もお手伝いに入
り、よい経験をさせていただいた。自分の聞きたい
発表のある会場のマイク係に志願したり、1円の間
違いもないように会計係として専心したり。後日、
ある学会員の方に、「学生アルバイトが全員きびき
び働いていて、とてもよかった」とおっしゃってい
ただいたのもありがたく、また嬉しかった。(零)
今年は、日本図書館情報学会春季研究集会の会場
校となり、図書館、ラーニング コモンズをテーマ
にした大学の公開講座を開催するなど、図書館関係
の行事の多い年でした。図書館実習も本年度から始
まりました。私個人としては、製本講習会の中級に
も初めて参加し、製本技術も少し勉強できました。
来年度も、自分担当の授業を含めて、司書課程のさ
らなる充実を考えていきたいと思います。(H)
司書課程では隔週で採用試験勉強会を開いていま
す。今年度は 16 回開催。過去問を解いたり、図書
館に関する話題について話し合ったり。熱心に参加
する学生が将来司書として活躍できるよう、来年度
も全力サポート!(あ)
京都ノートルダム女子大学司書・司書教諭課程
ニューズレター 「本の扉」
第11号 2016年3月31日
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京都ノートルダム女子大学
司書・司書教諭課程
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