職員健診の結果からみた脂質項目の現状 Friedewald の式 血液一般検査

2011.10.18 発行
第 39 号
職員健診の結果からみた脂質項目の現状
生化学検査室 佐々木宏典
2008 年より、当院においても生活習慣病予防健診が
始まりました。これは、メタボリックシンドローム(内
臓脂肪症候群)に着目し、糖尿病や高脂血症、高尿酸血
検査項目
保健指導
受診勧奨
中性脂肪
150 mg/dL≦
300 mg/dL≦
≦39 mg/dL
≦34 mg/dL
120 mg/dL≦
140 mg/dL≦
症などの生活習慣病の発症や重症化を予防することを目
HDL
的としたものです。今年度実施した健診結果の中から、
コレステロール
特に脂質項目に着目し、以下のような健診判定値を参考
LDL
コレステロール
に集計を行いましたので、ご報告いたします。
4
中性脂肪は約 13%の方が 150mg/dL 以上という結果になりましたが、中性脂肪は運動や食事、アルコール等の影
響を受けやすいことが知られております。特に、検査前の食事については、健診前 10 時間以上飲食物の摂取をしな
いことが望ましいです。HDLコレステロールは大部分の方が 40mg/dL 以上という結果になりました。LDLコレ
ステロールは約 40%の方が 120mg/dL 以上という結果になりましたが、職員健診のLDLは直接法ではなく、
Friedewald の式(LDL コレステロール=総コレステロール-HDLコレステロール-(中性脂肪÷5))を用いて
計算法にて算出しておりますので、他の脂質項目の影響を考慮する必要があります。皆さんの結果はいかがでしたか?
気になる方は生活習慣を改善し、メタボリックシンドロームを予防しましょう。
血液一般検査
血液検査室 西岡桂子
健診での血液一般検査で出現頻度の高い異常は貧血です。今回の健診で貧血だった方は、MCV・MCHCに注目
してください。貧血の種類がおおよそわかります。
*MCV:個々の赤血球の大きさをあらわし、貧血を小球性・正球性・大球性に分類
*MCHC:個々の赤血球の平均のHb濃度をあらわし、貧血を低色素性・正色素性・高色素性に分類
1)小球性低色素性貧血 MCV≦80 MCHC≦30
・鉄欠乏性貧血・サラセミアなどのグロビン合成異常・鉄芽球性貧血(特に遺伝性)
・無トランスフェリン血症・感染、炎症、腫瘍に伴う貧血等
2) 正球性正色素性貧血 MCV=80~100 MCHC=31~35
・急性出血・溶血性貧血・骨髄の低形成(再生丌良性貧血、赤芽球ろう、腎性貧血、
内分泌疾患、骨髄への腫瘍浸潤)等
3) 大球性正色素性貧血 MCV≧101 MCHC=31~35
・ビタミンB12 欠乏症・葉酸欠乏及び代謝異常・DNA合成の先天的あるいは薬物による
異常・肝障害に伴う貧血・網状赤血球増加(急性出血、溶血性貧血、貧血からの回復期)等
末梢血液像
プロカルシトニンと血液培養
細菌検査室 小林万里子
プロカルシトニン(PCT)は重症感染症および敗血症の診断マーカーであり、当センターでは定量測定を実施してい
ます。PCT には、2つの大きな特徴があります。
(医学検査 Vol.57 No.3 2008 p260-265)
① 他の炎症マーカー(CRP や白血球)に比べ、
②PCT 値は敗血症の重症度と相関します。
敗血症に対してのみ高値を示します。
PCT
ng/mL
250
n=16
y=-49.468+13.93x
r=0.531
200
150
100
50
0
0
A 群:細菌性敗血症
B 群:非細菌性敗血症
C 群:非感染性 SIRS
D 群:非 SIRS 感染症
2
4
6
8
SOFAscore*
10
12
14
*多臓器機能障害(MODS)の評価法
一方、血液培養検査は敗血症の診断と治療に欠かせない重要な検査の一つです。そこで、PCT と血液培養検査の関
連について検討した当センターのデータをお示しします。
【その 1】PCT 値と血倍陽性率
【その 2】PCT 値と血培検出菌種
血培陰性
血培陽性
100.0
7%
80.0
3%
13%
5%
42.6
27%
59.0
%
60.0
90.4
9%
80.1
22%
グラム陽性桿菌
40.0
グラム陽性球菌
57.4
41.0
20.0
0.0
9.6
~0.49
グラム陰性桿菌
嫌気性菌
63%
真菌
19.9
0.5~1.99
2.0~9.99
PCT<0.5ng/mL
10.0~
グラム陽性桿菌
グラム陽性球菌
グラム陰性桿菌
嫌気性菌
真菌
その他
51%
PCT>10.0ng/mL
PCTng/mL
今回の検討で PCT の値が高くなるほど、血液培養の陽性率も上昇し、カットオフ値 0.5ng/mL 以下の場合、血液培養
から検出される菌は、グラム陽性菌、特に表皮ブドウ球菌が多いことが分かりました。これは一過性の菌血症状態や、
採血時の皮膚常在菌による汚染と考えられます。一方、10.0ng/mL 以上の高値の場合、グラム陰性桿菌や、インフルエ
ンザ菌、肺炎球菌など、重症感染症の原因となる菌が検出される割合が高くなっています。以上より、PCT 値は血培
からの検出菌が敗血症起因菌かコンタミかの判断の一助になることが分かりました。
PCT 高値は一刻を争う重症敗血症の早期診断を可能にします。詳しい検討データは感染症システムのトップ画面よ
り閲覧可能ですので、興味のある方はご参照ください。
推算 GFR 値(eGFR;estimated glomerular filtration rate)について
生化学検査室 野口悦伸
以前より臨床からの要望がありました、eGFR 値が 9/1 よりオーダリング上に結果表示できるようになりました。
eGFR = 194×Cr-1.094×Age-0.287×(女性は 0.739)
(
(日本腎臓学会 2008 年;日本人のイヌリンクリアランスの測定から求めた推算式より)
上記式を用い、年齢・性別が入力されていることを条件として、血清クレアチニンの測定を行うと自動的に推算値
が算出されます。この式はスクリーニングを主眼に作成されているため、個別の患者の腎機能評価あるいは薬剤投不
量の腎機能補正にはイヌリンクリアランスまたはクレアチニンクリアランス(Ccr)を用いることが推奨されています。
編集委員:渋田・西岡・中尾・為平・小林・野口・菊元