#33a 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介①アールスメア花市場 桂川

#33a 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介①アールスメア花市場 アールスメア(「アールスメール」とも表記されます)の花市場は「世界の花きの都(the Flower Capital of the World)」とも言われ、総床面積99万平方メートルの世界最大の花き卸売市場です。建物としても
すべての建築物のなかで世界4番目の大きさのようです。 EU域内の生花流通の拠点であることはもちろん、EU外の国からの生花も取り扱うため、ここアールスメ
アで世界の花の価格が決まる、とも言われています。オランダのハブ空港・スキポールへは車で20分と
国際流通にも至便で、季節の異なる世界の各地から花きが集まってきます。ここで価格をつけられた生
花の8割は24時間以内に世界各地で販売されるそうです。 《オークション》 市場のオークションは月曜から金曜の朝7時から11時まで行われます。オークションはコンピュータ化
されており、非常に速いスピードで大量に取引が行われていきます。ここの生花取扱量は、毎日生花1700
万本以上、鉢物200万鉢以上ととても多く、世界中の美しい、珍しい花々が、巨大ワゴンに乗せられ次々
と運ばれて行く様は圧巻で、世界中でもここでしか見ることができない光景です。 《アールスメアの歴史》 アールスメアの地名はAal(ウナギ)とMeer(湖)からなります。小氷河期があった頃にはヤナギとハン
ノキが茂る荒れ野でしたが、泥炭採掘後の穴に水が溜まり、池や湖の多い湿地帯となりました。 17 18世紀にこれらの湖沼が干拓されました。干拓地ではイチゴなどの園芸作物が栽培され、13km離れ
たアムステルダムなどの都市に運ばれました。アールスメアの旗は赤、緑、黒の三色からなりますが、
これはそれぞれイチゴの果肉、葉、用土の色を表しています。後にアールスメアの作物は市内のカフェ
でオークション(競り)にかけるようになりました。これが花市場の前身です。19世紀末からバラなど
の花き温室栽培がさかんになり、現在でも市場周辺では苗の栽培が盛んです。1968年にアールスメア中
央市場と東部ブルーメンストの二つの市場が合併し、アールスメア花市場となりました。 《チューリップとオランダ人》 オランダと言えばチューリップと風車ですが、トルコ原産のチューリップがオランダに伝わったのは16
世紀末のことで、長い歴史がある訳ではありません。しかし世界で最もチューリップに熱狂したのはオ
ランダ人です。 オランダでは17世紀中頃にチューリップ・バブルと呼ばれる史上初の経済バブル事件が起こりました。
一球のチューリップが職人の年収の4倍となり、珍しいものになると一球が邸宅一軒と取引されたという
記録もあります。高値をつけるチューリップの球根にオランダの厳しい冬を越えさせるため、手持ちの
毛布をすべて使ってしまい自身が凍死する者まで現れたといいます。 オランダバロック絵画の静物画には、よくチューリップが他の生花とともに花瓶に生けられたところが
描かれていますが、これは非常に高価で現実にはあり得ない(実際、開花期が異なる花が一つの絵に描
かれていることが多い)光景だそうです。当時のかなり裕福な市民でも花瓶に生ける花は一度に一輪が
精一杯といわれています。 近年オランダではハウス栽培の技術が発展してきました。小国でありながらこの分野では世界のリーダ
ーです。ハウス栽培では温度を上げることは容易ですが、下げることが難しくなります。冷涼であり、
かつ花を愛するオランダだからこそ、ハウス栽培の技術が発展してきたのでしょう。 現代のオランダでは4 6月には花屋の店頭に美しくも安価なチューリップが溢れます。この北国の歴
史に、オランダ人がいかに花を愛してきたかに思いが馳せる光景です。オランダには農業の知識やノウ
ハウが蓄積されています。また国土の大部分が干拓地であるため、大きな水害と戦い続けてきました。
今回の東北の被災地にも花を植えたり農業復興の手助けをしたりなど、数々の支援事業を行っています。 このような歴史があるからこそ今も各国の生花・球根生産農家や取引業者はオランダ、このアールスメ
アに魅せられ、取引を行っているのです。 (紹介文:荒瀬千秋)
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#33b 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介② de Hortus(ホルタス);Hortus Botanicus Amsterdam (ラテン語で、「Hortus は庭、Botanicus は植物の、Hortus Botanicus で植物園という意味です」 ホルタスは世界最古の植物園のひとつです。16 17世紀はオランダの黄金時代と呼ばれ、オランダが当
時のヨーロッパで最も裕福であり、貿易、学問、芸術のどの分野でも最先端でした。そのオランダを代
表する存在がオランダ東インド会社(Verenigde Oost-Indische Companie; VOC)という世界初の株式会
社でした。VOCは南アフリカ喜望峰経由で東南アジアや日本まで航路を伸ばし、それらの国々で珍しいも
のを故国オランダへと運びました。それらの中には植物も多く、特に薬用になる植物は貴重な研究材料
でした。後にプラントハンターとも呼ばれる博物学者たちによって多くの植物が採取され、本国でその
栽培や利用法が研究されましたが、このホルタスはそのような研究機関の一つとして発展しました。 アムステルダム市内にあるため敷地面積は1.2ヘクタールと広くはありませんが、収容植物数は本数で
6,000本以上、4,000種以上になります。これは地球上に存在する全植物種数の2%に当たります。また、
温室は7つあり、それぞれが異なる気候に合わせて調節されています。園全体では6つの異なる気候を
見ることが出来ます。 《見どころ① ハーブガーデン(Snippendaal Garden)》 ホルタスは1638年にHortus Medicus、薬用植物園として創設されました。当時、医療に用いるためにハ
ーブは非常に重要な存在で、このHortus Medicusで医者や薬剤師たちが薬用植物に関する研究を行いま
した。薬剤師試験もここで行われていました。 1646年、園長のスニッペンダール(Johannnes Snippendaal)がホルタスの全植物のカタログを初めて作
り、このカタログで彼は796の植物(その大部分が薬用植物)について述べています。 2007年にこのスニッペンダールのカタログを元に、1646年当時のハーブガーデンを蘇らせました。庭の
レイアウトの記述は残っていないので再現できませんでしたが、当時オランダで用いられていたハーブ
のコレクションを目にして、17世紀のオランダ医学・薬学を偲ぶことができるでしょう。 《見どころ② 南アフリカの植物コレクション》 VOCは南アフリカの喜望峰をまわって遥かインドや日本と商取引を行っていました。オランダに初めて南
アフリカの植物を運んできたのもVOCです。それらの植物にはセンティッド・ゼラニウム(ペルゴニウム)、
君子蘭、アガパンサス、ガーベラなど、今は日本のガーデニングでもすっかりお馴染みとなった植物が
あります。 《見どころ③ 半円庭園》 ツゲ(黄楊、柘植)の生け垣に囲まれた区画が美しい扇型を描いています。夏は花々が咲き乱れて花の
波紋となり、冬には生け垣の緑が冴えます。この半円庭園が設計されたのは1863年で、17世紀に流行し
た整形式庭園(formal garden)の形式を採用しています。 2002年、この庭園は新しいコンセプトの下、生まれ変わりました。90年代に進んだDNA解析とそれに基づ
く分子系統学の発展を踏まえ、DNA配列の類似によって植物を配列・分類しています。物理的に近い距離
には近縁の植物が、遠くなるほど分子系統学的に異なる植物が配置されています。これにより半円庭園
はオランダで初の分子系統学による分類学的庭園となりました。 《見どころ④ オランジュリー》 オランジュリーという言葉はオレンジを栽培する畑、もしくは温室、という意味です。この建物のある
場所に1715年、熱帯植物を育てるための温室が作られました。現在の建物は1875年に講堂として建てら
れたものです。この、アムステルダム市内でも指折りに美しいテラスをもつカフェでは、香り高いコー
ヒーやサンドイッチ、パティセリーHoltkampのペイストリーも美味です。使用するすべての原材料はオ
ーガニックとのことです。 (紹介文:荒瀬千秋)
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#33c 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介③フロリアード
海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介③フロリアード 4月5日から10月7日までオランダのフェンローで10年に一度行われる世界最大の園芸博
覧会、フロリアードが開催されます。博覧会国際事務局(BIE)では、2010年上海万博や2
005年愛知万博と同じエキスポ(EXPO)のカテゴリとして扱われています。 今回のフロリアードは66ヘクタールの広さに及び、2004年の浜名湖花博(56ヘクター
ル)と比べてやや広いとお考えいただくと良いでしょう。 第6回目の今回のテーマは「自然と現代の人々の生活の共存」です。このメインテーマの下、
会場は5つのテーマワールドに分かれていて、それぞれ異なったプログラムが組まれています。
みなさまが訪問する予定の5月24日午後にはワイン・ウイークのワークショップがあり、さ
まざまなオランダ産ワインのテースティングをしつつ、その製造過程を学ぶこともできます。 以下5つのテーマワールドについて解説いたします。 異なるコンセプトの庭園を組合せ、全体として自然との調
和を重視する東洋の文化を意識しているようです。Feel Good Garden、Relax in the Cityなどのハーブに関係の深
そうなものもあります。Japanese Gardenもあり、どのよう
に受け取られているのか知る機会にもなりますね。
このテーマワールドの目玉は世界最新鋭のグリーンハウス
「Villa Flora」でしょうか。奇抜なデザインとエネルギー
効率の高い環境技術が生み出すオランダの傑作といって良
いでしょう。その他チューリップの球根に関するパビリオ
ンなどもあります。 革新的な技術を用いたパビリオン、さまざまなアイデアが
詰まったテーマワールドです。旧約聖書の世界と最新技術
が交錯するイスラエルの「隠された庭園」や、オランダ政
府が運営する巨大な種の形のパビリオンでは驚きの体験
が! さまざまなレクチャー等も開催されています。 自宅で、オフィスで、また建物の中で、外で。植物を用い
る場はどこにでもあり、これを上手に取り入れることで
日々の暮らしの満足度は大いに高まることでしょう。この
テーマワールドを訪れた方々が、街に緑を増やしたくなる
クリエイティブな工夫がされています。 世界各国の、自然と生活の関わり方、庭園文化を味わうこ
とができます。オリジナリティー溢れるエンターテインメ
ントもあるようです。喧噪を離れ、満開のバラ園でひとと
きを過ごすのも良いかもしれません。 (紹介文:桂川直樹) 1
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#33d 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介④Martin Bauer
海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介④Martin Bauer ドイツ・ニュルンベルグから車で40分ほどのVestenbergsgreuth(フェステンベルクトグロイ
トと発音されます)という小さな街にマーチンバウアー社の本社および主力工場があります。
マーチンバウアー社は世界最大のハーブティ・メーカーで、毎年4万トンのハーブティを生産
しています。生産ラインは10ライン程度(殺菌、選別、粉砕、ブレンド、包装など)あり、
保管倉庫は1年間分の収容能力(つまり4万トン分!)があります。各種分析機器(GCMS18
基、LCMS30基、LCMSMS5基)を擁する研究所が併設され、サンプル消費量だけで年間10ト
ンになるとのことです。 今回の訪問(5月25日午前)では生産ラインや研究所を視察することはできませんが、保管
倉庫やハーブ農場を視察し、同社プレゼンテーションルームで欧州のハーブ事情についてのセ
ミナーを受講することができます。 現在予定しているプログラムは以下の通りです。 09:00 Welcome at Martin Bauer ハーブティを飲みながら同社の概要やドイツ・ハーブティ事情を説明いたします。 09:45 Presentation of EHIA(European Herbal Infusions Association) by Chairman of EHIA's Scientific and Technical Committee: Dr. Adolf Kler ヨーロッパ・ハーブティ協会(EHIA)の科学技術委員長であるクラー博士に「ヨーロッ
パのハーブティ事情について」(予定)のプレゼンテーションをしていただきます。 10:30 Visit of the Herbal Garden at Martin Bauer マーチンバウアー社のハーブガーデンを視察いたします。 11:00 Field Inspection / Warehouse Tour 商業生産をしているハーブ農場を訪問します。世界中からハーブが集められている、壮
大な保管倉庫群を視察いたします。 通常マーチンバウアー社がこのような企画をすることはなく、日本メディカルハーブ協会が監
修する今回の海外薬草園見学会ツアーのために特別に用意していただいたプログラムです。 ヨーロッパのハーブティ事情について概要を知ることのできる貴重な機会ですので、みなさま
のご参加をお待ちしています。 (紹介文:桂川直樹) 1
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#33f 海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介⑥クナイプ
海外薬用植物園見学会 訪問場所紹介⑥クナイプ
<バートウェーリスホーヘン>
バートウェーリスホーヘンはドイツに60数ヶ所あるクナイプ保養地の「中心保養地」です!
この地にはクナイプ療法の創始者であるクナイプ神父が所属していた教会があり、クナイプ療法のま
さに中心地となっています。この街全体がクナイプ保養地として整備されています。ミュンヘンからほ
ど近いこの小さな街には、クナイプ療法を実践・体験できるすべてが揃っているといっても過言ではあ
りません。他の観光地とはまったく違った素晴らしい植物療法、および癒しの体験をすることができる
でしょう。
<見学会の内容>
①クナイプ治療院(セバスチャニウム)
クナイプ療法の大学病院的な位置づけの施設です。治療院の名前はクナイプ神父の名前(セバスチャ
ン)にちなんでつけられていています。入所して療養ができ、クナイプ療法士の育成もしています。珍
しい水療法の設備のほか、ゆったりとした中庭も見事です。
②クナイプ博物館
クナイプ療法を開発したクナイプ神父の足跡がわかるほか、当時の治療風景の写真や、使っていた器
具や衣服なども展示され、発展期に協働した医師との出会いなども詳しく紹介されています。
③クアパーク(保養公園)
ドイツの保養地には必ず保養のための散策用の公園(クアパーク)があります。バートウェーリスホ
ーヘンのクアパークには、森林療法的な気分を味わえる散策路とクナイプ療法のハーブティーに用いら
れるハーブ園も見学することができます。
<その他の見どころ>
○クアハウス
日本では、温泉施設の代名詞になっている言葉ですが、本場ドイツでは「保養地案内センター」とい
う意味であり、マップなどを始め、保養地全体の情報を得ることができます。大きな保養地のクアハウ
スには劇場も併設されています。
○ホテルでのクナイプ療法体験
バートウェーリスホーヘンのホテルには、クナイプ療法を体験できるホテルもあります。もっとも特
徴的なものは「水療法」ですので、水着と着替えを持参するといいでしょう。また、クナイプ療法には
「完全食」と呼ばれる健康を目的とした食事療法があり、こちらも体験できるでしょう。
○森林療法散策路
ドイツの保養地の多くは、森林をウォーキングできるようになっています。中心のクアパークから繋
がっていますので、余裕のある方は前日のクアパーク見学時に調べておき、翌日の早朝に森林散策にお
出かけになるとよいでしょう。
○街の薬局
ドイツは街中の薬局がとても充実しています。ここバートウェーリスホーヘンにもクナイプ治療院(セ
バスチャニウム)のすぐ横に薬局があり、この薬局はクナイプ製品がとても充実しています。ぜひ立ち
寄ってみて下さい。
この街のたたずまいそのものが保養・癒しにつながっています。繰り返しますが、朝早く起きてクア
パークから続いている森林療法用の小道を森へ向かって散策されることをお勧めします。クナイプ神父
は、朝もやのついた芝生の上を裸足で歩くことを「秩序療法」として勧めていました。
(紹介文:降矢英成)
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