酒石酸結晶化阻害のためのマンノタンパク質添加の有用性

酒石酸結晶化阻害のためのマンノタンパク質添加の有用性について
○渡辺 ゆか, 久本 雅嗣, 松土 俊秀, 奥田 徹
(山梨大学ワイン科学センター)
Inhibitory effect of mannoprotein on tartrate crystal formation
○
Yuka WATANABE, Masashi HISAMOTO, Toshihide MATSUDO and Tohru OKUDA
The Institute of Enology and Viticulture, University of Yamanashi
The inhibitory effect of mannoprotein on the formation of tartrate crystals in Japanese white wines
was examined. Wines were kept at –4°C for 6 days and crystallization of tartrate was observed every day. In the
absence of mannoprotein solution, all wines formed tartrate crystals within 2-3 days of cold temperature
treatment (Table 1). However, when mannoprotein solution (1-1.5 mL/L) was added, no crystals were observed
within 6 days of treatment. The result indicates that tartrate in the wines was stabilized by the addition of
mannoprotein solution, and tartrate stabilization by cold temperature was no longer required. The effects of
mannoprotein on the components of wine were examined and mannoprotein solution was found to have no effect
on the components of wines. These findings suggest that the utilization of this technique improves wine quality.
【目的】ワイン貯蔵中に析出する酒石酸の結晶は酒質を下げることから、多くのワイナリーにおいて
出荷前に酒石酸の結晶の安定化処理が行われている。安定化処理にはいくつかの方法が知られている
が、酒質の低下や設備投資の問題、効果の不安定などと問題点もあげられている。そこで、欧州です
でに実用化され、その効果が有益とされている技術であるマンノタンパク質の添加に着目し、その有
用性を確認することを本実験の目的とした。
【材料および方法】ワインは、山梨大学ワイン研究センターで醸造された甲州およびシャルドネのブ
レンドワイン(2008 年製造)を用いた。マンノタンパク質は Claristar™(DSM Food Specialties 社、20%
マンノタンパク質溶液)を使用した。ワインは使用前に孔径 0.45 µm のフィルター(ADVANTEC 社、
Cellulose acetate)でろ過した後、720 mL のボトルに充填し、ヘッドスペースを窒素で置換した後にコ
ルクで栓をし、-4℃のインキュベーター(YAMATO 社、IN803)で 6 日間暗所貯蔵を行い冷却処理と
した。各試験区の酒石酸の結晶の有無を毎日目視で観察を行った。また、各実験は独立で2回ずつ行
った。pH、滴定酸度(TA)、遊離亜硫酸は常法に従って分析した。有機酸(酒石酸、リンゴ酸)は有
機酸分析装置(Shimadzu 社、HPLC 有機酸分析装置)で分析した。金属イオン(Ca イオン、K イオン、
Na イオン)は原子吸光法(Shimadzu 社、AA-6300)で測定した。濁度は濁度計(CORONA 社、UT11)、
アルコール濃度はアルコール分析器(理研計器、アルコール分析器 AL-2 型)を用いて分析をおこなっ
た。
【結果と考察】ワインを冷却処理し、酒石酸の結晶の析出の有無を目視で観察した結果、3 種類のワイ
ン全てにおいて、マンノタンパク質無添加区においては 2~3 日で酒石酸の結晶が観察された。
(Table 1)
一方のマンノタンパク質添加区においては酒石酸の結晶の析出が全く観察されなかった。通常冷却処
理 2~3 日で酒石酸が析出する場合は、将来的にワインボトル中において酒石酸の結晶化がおこる可能
性があると考えられ、酒石酸結晶化の防止のための処理が必要となる。一方、-4℃で 6 日以上の条件
で酒石酸の析出が見られないワインは極めて安定であり、将来的にもボトル内での酒石酸の結晶化は
起こらないと考えられる。今回の結果より、マンノタンパク質は酒石酸の結晶析出阻害に極めて有効
であると考えられた。また、マンノタンパク質添加の前後における品質分析の結果の比較を行った。
pH、滴定酸度、有機酸(酒石酸、リンゴ酸)
、金属イオン(Ca イオン、K イオン)において、マンノ
タンパク質添加における大きな変化は見られなかった。以上より、酒石酸の結晶化阻害を目的とする
マンノタンパク質の使用は、有効・有益であると考察される。
Table 1. Visual observation of tartaric acid crystallization by cold temperature treatment
Sample
day1
day2
day3
day4
day5
day6
Wine 1 MP 0 mL/L ①
×
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②
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MP 1.0 mL/L ①
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MP 1.5 mL/L ①
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②
Wine 2 MP 0 mL/L ①
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MP 1.0 mL/L ①
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MP 1.5 mL/L ①
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②
Wine 3 MP 0 mL/L ①
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MP 1.0 mL/L ①
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MP 1.5 mL/L ①
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②
○: Detected, ×: Non detected