医療的ケアが必要な子どもと家族の在宅療養に向けた連携に関する文献

小児在宅療養に向けた連携
<資 料>
医療的ケアが必要な子どもと家族の在宅療養に向けた連携に関する文献検討
A review of cooperation toward home care
for children require medical care and their families
清水
裕子1)
Yuko Shimizu
永田
真弓1)
Mayumi Nagata
飯尾
美沙1)
Misa Iio
キーワード:医療的ケア、小児在宅療養、連携
機関相互の連携課題があげられている7)。加えて、子どもの
Ⅰ.はじめに
在宅療養生活は、年齢によって生活範囲が異なるため、医
療が家族と生活全般を支える生活支援医療という成人の場
近年、医療が在宅中心に大きく転換する中で、医療的ケ
アを必要とする子どもが、家族の一員として家庭で生活す
ることが可能になっている。超重症心身障害児の医療的ケ
合とは異なる新しい医療形態をとらざるを得ない点も課題
となる8)ことが指摘されている。
そこで、医療的ケアが必要な子どもと家族の在宅療養に
1)
アと問題点に関する実態調査 によると、医療的ケアを必要
向けて支援が継続できた先行事例の連携の詳細について分
とする子どものうち、その多くを占める超重症児では、新
析することによって、支援ニーズにそった連携のあり方が
生児期に疾病や障害を発症し、医療的ケアを必要としなが
検討できると考える。しかし、医療的ケアを必要とする子
ら も 、 約 7 割 が 在 宅 で 生 活 を し て い る 。 ま た 、 NICU
どもと家族の在宅療養に関する研究では、子どもと家族の
(Neonatal Intensive Care Unit:新生児集中治療室)におけ
体験や思い、障害や医療的ケア、在宅療養の受容、親の行
る在宅医療への取り組み2)では、新生児期から医療的ケアを
動と意識の変容、支援システムの現状と親の認識、看護師
必要としながらも、在宅医療への移行に成功した事例のう
による家族支援の報告はある9)ものの、在宅療養に向けた具
ち、4割は超低出生体重児であると報告されている。
体的な連携については焦点が当てられていない。本研究で
日本の低出生体重児(2,500g未満)の頻度は、OECD
は、わが国特有の新生児における医療の現状を踏まえ、国
(Organisation for Economic Cooperation and Development:
内の医療的なケアが必要な子どもと家族の在宅療養への支
経済協力開発機構)加盟国の中で最も高い。その背景に
援として、有効な連携の具体について明らかにすることを
は、妊娠前のやせ、小さく産んで大きく育てることが良い
目的に文献検討を行うこととする。
3)
4)
とする日本独自の風潮 、高齢出産 等があるといわれてい
Ⅱ.用語の定義
る。一方で、日本の新生児救命医療は進み、全新生児死亡
率は世界最低のレベルにあり、1,000g未満の超低出生体重児
の6割は生存可能となっている5)。したがって、少子化に伴
1.医療的ケア:医療行為のうち、急性期の治療目的となる
い子ども人口は減少しているものの、NICUを必要とする子
医療行為とは異なり、子どもに対して家族などが自宅で日常
どもが増えていることになる。そのNICUを退院した子ども
的な生活行為として行っている行為を医療的ケアという10)。
の特性には、軽度発達障害の発生、育てにくい等の他に、
本研究では、人工呼吸器管理、気管切開管理、吸入・吸
呼吸器や脳における障害の残存があるために、退院時には
引、経管栄養管理など、子どもの在宅療養生活において家
呼吸管理や栄養管理等の医療的ケアを必要とする子どもが
族が行う行為を「医療的ケア」と定義する。
多くいる6)。また、NICUにおいて救命された子どもの成長
2.連携:連携とは、異なる専門職や機関がよりよい課題解
発達には多くの課題があり、長い年月に渡り医療的、福祉
決のために、共通の目的を持ち情報の共有化を図り協力し
的、教育的な支援が必要とされている5)。しかしながら、医
合い活動すること11)である。本研究では、医療的ケアの必
療的ケアが必要な子どもの在宅移行の際、病院から地域へ
要な小児の在宅療養生活を目指すことを共通の目的とし、
と支援を繋いでいる場合においても、親子心中(企図を含
在宅療養に向けて異なる専門職や施設・部署が連絡を取り
む)や児童虐待、マルトリートメント(子どもに対する不
合い情報の共有化を図り、協力し合い活動することを「連
適切な関わり)等が生じる現状があり、家族に対する関係
携」と定義する。
受付:2015年 9 月14日
受領:2015年12月21日
1)関東学院大学 看護学部
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016 9
小児在宅療養に向けた連携
署(職種)
、連携の具体的な内容について整理した。
Ⅲ.研究方法
3.倫理的配慮
1.データ収集
本研究に関する文献複写は、著作権法の「著作物の複製
2003年度に全国の特定機能病院等において開始された
DPC(Diagnosis Procedure Combination:診療群分類別包括
可能な場合」に則り適切に行った。引用に関しては、著作
権法の「引用の正当な範囲」に則り適切に行った。
評価)導入によって在院日数が短縮されるようになり、医
Ⅳ.結
療機関から在宅医療への移行を推進する法整備がなされる
果
ようになってきた本邦の動向3)から、文献検索は2005~2014
年の国内の文献とした。医学中央雑誌をデータベースとし
1.文献検索の概要
て検索し、“医療的ケア”AND“小児”AND“家族”or
文献検索の結果、133件がヒットした。そのうち、前述の
“看護”or“保健”or“医療”or“福祉”or“療育”or“保
採択基準を満たす文献は12件であった。文献の著者や論文
育”or“教育”or“訪問”or“リハビリ”or“援助”or“支
題目等の概要、および12件の文献で示されていた14事例に
援”or“養育”or“退院”or“介入”を全て含む国内文献を
ついて概要を表 1 に示した。
収集した。
2.事例の概要(表 1 )
連携開始時期の子どもの年齢は 0 ~ 1 歳が 8 例、1 ~ 6 歳
2.データ分析
1)得られた文献のうち会議録と総説を除いた文献を精読
が 5 例、14歳が 1 例であった。そのうち、乳幼児期にある13
例は、NICUやGCU(Growing Care Unit:新生児回復治療
した。
2)1)の文献のうち、医療機関から在宅療養に向けた支
室)
・小児科からの連携事例であった。疾患は14疾患で、先
援として、連携の時期・内容・施設(部署)とその結
天性疾患および症候群が12例と多かった。必要な医療的ケ
果について記述があるものに加えて、子どもの属性
アは、吸引が11例、人工呼吸器管理 4 例と呼吸器管理が多
(年齢、疾患、医療的ケア、主な養育者)が明確なも
く、経管栄養管理を必要としている10例は、他の医療的ケ
のを採択した。
アも必要としていた。また、主な養育者は全事例において
3)2)の採択した文献の事例毎に、連携を行う施設や部
母親であった。
表 1.文献・事例の概要
関谷ら(2006) 家族としての意思の決定を行う父親との係わり
日本看護学会論文集
-小児看護-,36,
18-19
②
病名・疾患群注1)
児の年齢注2)
呼吸窮迫症候群
3歳
肺低形成
臍帯ヘルニア
ギランバレー症候群(再燃) 4歳
三並ら(2011) 重い病気を抱えた小児の家族が退院を決心するプロセスを
促進した看護師のかかわり
-家族側の視点から-
小児看護,34(9),
1190-1196
③
18トリソミー
0歳
在宅酸素
奥田ら(2014) 短腸症候群の子どもの在宅移行における家族支援
日本看護学会論文集
-小児看護-,44,
90-93
④
ヒルシュスプリング氏病
短腸症候群
生後~11か月
(退院:11か月)
安部ら(2014) 在宅療養における医療的ケアを必要とする児の退院調整に
向けての支援
日本看護学会論文集
-小児看護-,44,
82-85
⑤
乳児脊髄性筋萎縮症
1歳
ダブルストーマ管理
中心静脈栄養管理
経管栄養管理
人工呼吸器管理
竹内ら(2014) 医療的ケアを必要とする小児の退院支援
信州大学医学部附属
病院看護研究集録,
40(1),63-65
⑥
ネマリンミオパチー
11か月
人工呼吸器管理
経管栄養
本多ら(2011) 医療・福祉連携の一事例
ぐんま小児保健,69,
16-17
⑦
尿素サイクル異常症
3日(齢)
経管栄養(特殊ミルク)管理
松田ら(2008) 母親1人の養育者による在宅療養への取り組み
-1事例の振り返りから-
日本看護学会論文集
-小児看護-,38,
305-307
⑧
CHARGE症候群(疑い)
9か月
豊田ら(2011) 在宅で生活する先天性心疾患児の体調管理と発達支援の
ための訪問看護のケア力
小児看護,34(9),
1217-1225
⑨
先天性心疾患(重度)
2歳8か月
在宅酸素
胃管管理
吸入・吸引
経管栄養管理
ペースメーカー管理
経管栄養管理
晴城ら(2008) 重症心身障害児と生活する母親が在宅療養安定期に至る
までの体験
-医療的ケアを受けて初めて退院する事例から-
日本看護学会論文集
-小児看護-,38,
308-310
⑩
脳障害
⑪
神経障害
2か月~3歳3か月 在宅酸素
(退院:10か月)
経管栄養管理
吸引
14歳~18歳
気管切開管理
胃瘻管理
⑫
多臓器奇形
著者(発行年) 論文題目
掲載誌,巻(号),ページ
伊藤ら(2006) 高度な医療的ケアを必要とする児を持つ家族の気持ちの変化 日本看護学会論文集
-在宅療養移行への第一歩-
-小児看護-,36,
62-64
事例
①
中冨ら(2014) 気管切開を受けた患児の通常学校入学に向けての地域
との関わり
日本看護学会論文集
-地域看護-,44,
144-147
⑬
Jeune症候群
気管軟弱症
高瀬ら(2010) 医療的ケアが必要な児の保育所通所における支援態勢
構築の経緯と生活課題
-出生から卒園に至るまで-
日本看護学会論文集
-地域看護-,40,
35-37
⑭
二分脊椎症
注1) 病名が言及されていた事例は病名を記載
注2) 連携が開始された年齢~終了した年齢または連携が開始された年齢を記載
10 関東学院大学看護学会誌 Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016
医療的ケア
人工呼吸器管理
経管栄養管理
ストーマ管理
人工呼吸器管理
0歳~7歳8か月
在宅酸素
(退院:4歳4か月) 胃管管理
吸入・吸引
経管栄養管理
6歳
気管切開管理
0歳~6歳
清潔間歇的導尿管理
小児在宅療養に向けた連携
3.連携の施設・部署(表 2 )
ていた。NICU看護師も情報提供と説明を行い、自分達の手
で育てたいという在宅療養の意思決定を支援していた(事
連携した部署は、GCU・小児科病棟が10例で最も多く、
次いでNICUが 7 例で、そのうち退院後も連携を継続してい
例③)
。
たのは、GCU・小児科病棟が1例、NICUが 3 例であった。
人工呼吸器に加えて、複数の医療的ケアを要する時の在
地域の連携施設・部署として、訪問サービスのうち訪問看
宅療養に際し、NICUやGCU・小児科病棟の看護師や主治医
護ステーションが 8 例、訪問リハビリテーションが 5 例で、
は、家族と医療職との間でより良い関係を築くことが最も
そのうち入院中から連携していたのは、訪問看護ステー
重要であるために、他職種との連携を図りながら家族の意
ションが 6 例、訪問リハビリテーションが 3 例であった。
思決定を支え共に話し合う場を設けてチームとして関わっ
ていた(事例①)
。
医療的ケアとして在宅酸素や人工呼吸器管理を必要とす
る場合に、入院中から地域への連携先として、消防署や医
在宅療養への受け入れに両親の間で違いがある場合に
療機器業者があげられていた。退院後の小児特有な連携先
は、家族内の意思決定を行うキーパーソンを父親とし、父
として小学校や保育園などがあげられていた。
親中心に看護ケアを行っていくことで在宅療養を進めるこ
4.連携内容(表3)
とができていた(事例②)
。
母親が面会付き添いをしているために、子どもの姉が母
各連携内容については、代表的な事例を以下に記述する。
親との分離により泣き叫ぶなどの情緒不安に陥った際、
1)医療的ケア獲得への支援
NICUやGCU・小児科病棟の看護師や主治医は、物品準備
NICUの医師・看護師は、母方祖母の支援を受けることがで
支援(家族の負担が少ないパウチの選択)や家庭での生活
きるように、母親の思いを傾聴しながら見守っていた(事
にあったスケジュール調整、不足している資源を満たすた
例④)
。このような、サポート環境の調整や家族間の関係調
めの社会資源の調整(訪問看護の調整)を行うことで、家
整については、主な養育者となる母親への支援として、入
族のセルフア能力を向上させ、家族への医療的ケアの知
院中にすべての事例で行われていた。
識・技術の提供と不安解消につなげていた(事例③④⑤)
。
3)在宅療養環境を整える支援
人工呼吸器を装着している 4 事例のうち 2 事例では、
2)家族の意思決定・関係調整
妊娠中に先天性疾患を告知され出産し、命の継続が不確
GCU・小児科病棟の看護師や主治医が入院中から呼吸器業
かで不安を抱える両親に対しNICUの医師は、生きる可能性
者と連携して外出・外泊に同行し、家族が在宅療養に向け
を否定するような言葉は一切使わず真実を客観的に伝え、
て自信が持てるように支援していた(事例⑤⑥)
。また、緊
子どもの病気について調べることは大切であると声をかけ
急事態の備えとして消防署への連絡も行われていた。さら
表 2.連携の施設・部署
事例・連携時期
連携の施設・部署
入院中
①
NICU
GCU・小児科病棟
看護師
○
医師
○
看護師
○
医師
○
看護師
在宅療養前に入院 小児科・耳鼻科外来
医師
していた医療機関
医療相談室・母子相談室 医療ソーシャルワーカー
リハビリテーション課
○
⑤
/
③
④
⑥
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
⑦
○
○
○
○
○
○
○
○
○
薬剤部
薬剤師
○
医療機関
小児科クリニック
○
○
○
○
○
○
○
児童相談所
○
消防署
○
○
○
○
○
○
○
○
保健所・保健センター
保育園
○
○
訪問リハビリテーション
特別支援学校
小学校
○
○
○
地域療育センター
⑭
○
訪問看護ステーション
教育委員会
⑬
○
○
○
○
教育・保育機関
⑫
○
○
○
療育施設
⑪
○
理学療法士
人工呼吸器業者
退院後
⑩
○
○
言語聴覚士
医療機器業者
⑨
○
管理栄養士
行政
⑧
○
栄養課
訪問サービス
地域の連携
施設・部署
②
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
注)事例⑨は入院中および退院後の両時期について記載あり
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016 11
小児在宅療養に向けた連携
表 3.連携内容
表3.連携内容
事例・連携時期
連携内容
③
○
入院中
④
⑤
○
○
⑥
○
物品準備
○
○
○
○
生活に合わせたスケジュール調整
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
医療的ケアの手技指導
医療的ケアの獲得に
向けた支援
家族の思い・不安の傾聴・相談
家族の意思決定・調整
①
○
○
在宅療養のイメージ化への情報提供
②
○
⑩
⑪
○
○
○
○
○
○
○
○
退院後
⑫
⑬
○
○
○
⑭
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
在宅支援会議
○
○
○
○
在宅酸素の家庭見学
○
○
○
○
○
○
福祉保健調整
○
マンパワーの調整
○
成長発達に応じた文化・社会・衛生面の保障
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
遊びや離乳食の工夫
○
医療福祉サービスの紹介
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
家族会代表者との面会
○
○
○
ショートステイ(レスパイト)の紹介
経済的支援の紹介(申請)
○
○
院内勉強会
訪問看護調整
社会資源の紹介
/
⑨
○
家族間の関係調整
在宅療養生活環境を整え 外泊
る支援
外出練習
育児・成長発達支援
⑧
○
意思確認
院内外泊
専門職種間における
在宅療養生活調整
○
⑦
○
○
○
○
○
注)事例⑨は入院中および退院後の両時期について記載あり
に、在宅療養への移行をスムーズにするために、専門職が
退院前から地域の社会資源の紹介を行い、外出・外泊の練
れ、主体的に育児ができるように支援していた(事例③)
。
小児科病棟の医師・看護師は、母親が普通の子と同じよ
習を行っていた。
うな生活をさせてあげたいという希望を取り入れ、遊びや
4)専門職間における在宅療養生活調整
離乳食を工夫することや、他者との関わりが持てるように
GCU・小児科病棟の看護師は、在宅療養に向けて院内の
専門職種(リハビリテーション課、母子保健室、外来、栄
個室から大部屋に移すなどの環境調整を行っていた(事例
④)
。
養部、薬剤部)と連携しながら、外来と救急外来対応時に
GCU・小児科病棟の看護師および行政保健師は、入院中
ついての確認を目的とした院内勉強会を開催し、連携がス
の家族との面談や在宅支援会議を通じて、退院後の訪問の
ムーズとなるための「退院支援地域連携パス」を作成して
頻度、訪問時の確認事項、地域での一時預かり施設の選定
いた(事例⑦)
。同時に、これらの院内関係者と、保健所や
の他に、予防接種が受けられるよう調整していた(事例⑧)
。
訪問看護ステーションの関係者を呼び、在宅支援会議を開
外来看護師は入学前の子どもと家族の就学支援ニーズに
催することによって、地域と家族の間を取り持つ役割を
気付き、学校との調整役割を担っていた。入学直後には、
担っていた。
学校側と子ども、母親、医師、看護師が合同カンファレン
退院後の子どもと家族の就学への不安やニーズに対して
スを行っていた。クラスメイトからの質問を受け、対応に
は、耳鼻科外来看護師がコーディネート役割を担い、医療
悩むというクラス担任に対しては、患者会で作成した絵本
機関内の他部門とのカンファレンスや学校とのカンファレ
「ぼくのこと」を母親がクラスメイトに読み聞かせを行っ
ンスを継続することで、問題解決できるよう援助をしてい
た。呼吸トラブル対応については、外来看護師がリーフ
た(事例⑬)
。
レットを作成し、教員や補助指導員に情報を提供すること
退院後に社会資源の利用が始まる事例では、訪問看護師
により、学校での生活が円滑に送れるように支援していた
が相談支援専門員、訪問看護師、施設保育士とともにケア
(事例⑬)
。
会議を行い、スムーズなサービス利用につなげていた(事例
6)社会資源の紹介
⑨)
。
5)育児・成長発達支援
在宅療養への意思決定を確認した後、在宅酸素療法のイ
メージがつかめなかった家族への支援では、NICUやGCU・
NICUでは、看護師と両親で交換日記をつけ、育児に対す
小児科病棟の看護師や主治医が家族会の代表者との面会や
る親の願いを聞き「お食い初め」をするなど、両親が子ど
実際に在宅酸素療法を行っている家庭への見学の提案な
もの成長を楽しめるようなケアを行うことで、家族には何
ど、社会資源を紹介していた(事例③)
。
としてでも家に連れて帰りたいという気持ちの変化がみら
12 関東学院大学看護学会誌 Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016
訪問看護師は母親に、医療福祉サービスのうち小集団児
小児在宅療養に向けた連携
童デイサービスや親子通園施設などの社会資源の利用に関
の保障となる「育児・成長発達支援」に繋がるものであ
する手続き方法を伝え、社会資源をスムーズに利用できる
る。医療的ケアを必要とする子どもの在宅療養において
よう支援していた(事例⑨)
。
は、子どもの成長・発達とともに必要とされる支援が変化
母親の復職希望のニーズを捉えていた行政保健師は、母
する14)。子どもの成長・発達に伴う保育園入園、就学、母
親への医療福祉サービスの紹介を通じて、子どもが母親の
親の復職や妊娠といったライフイベントによる支援ニーズ
付き添いなしに保育所通所をすることや、訪問看護師によ
は、医療的ケアが必要な子どもに留まらず、そのきょうだ
る導尿の処置管理を受けることを実現可能にし、母親が就
い・保護者も含め、家族のライフステージの変化に応じた
労できる環境を整えていた(事例⑭)
。
連携の機会があることが考えられる。しかしながら、小児
においては母親や訪問看護師等がその役割を担っており、
Ⅴ.考
察
在宅療養生活をコーディネートする人材が定められていな
い15)。したがって、家族全体をコーディネートする人材例
今回、文献から抽出された医療的ケアが必要な子どもと
には、在宅療養に向けた医療的ケアを必要とする子どもと
家族の在宅療養に向けて、支援が継続できた事例から、有
家族の特性を踏まえ、地域包括支援センターの看護師・保
用な連携のあり方と課題について時期別に述べる。
健師、もしくは退院調整看護師の役割を担う小児専門看護
入院中は主にGCU・小児科病棟やNICUの医師・看護師が
師などが考えられ、その活躍が期待される。
携わっていることが示されている。その具体的な連携内容
一方で、GCU・小児科病棟やNICUのスタッフは、入院中
には、医療的ケアの担い手である母親に対する医療的ケア
に限らず、小児科外来での長期フォローアップや、GCU・
の手技指導等の「医療的ケアの獲得に向けた支援」と同時
小児科病棟におけるレスパイト等により、退院後において
に、在宅への思い・不安の傾聴・相談や在宅イメージ化へ
も医療的ケアが必要な子どもと家族との接点が続くことに
の情報提供といった「家族の意思決定・調整」が行われ、
なる。しかしながら、退院前と退院後のコーディネーター
必要に応じ外出や外泊等の「在宅療養生活環境を整える支
が分かれている小児在宅療養の現状課題を踏まえ、今後
援」が取り入れられている。本結果は、NICU等に勤務する
は、現行の介護保険制度の中で提唱されている地域包括ケ
医療従事者が子どもの在宅療養移行時と在宅療養継続時に
アシステムの概念を、成長・発達に応じた支援が必要な在
必要な支援を明らかにした谷口他12)の知見を一部支持する
宅療養中の子どもと家族に対しても照らしていく必要性が
ものであった。このように、GCU・小児科病棟やNICUのス
あると考える。医療と保健・福祉・教育(療育や保育も含
タッフは、入院中に保障されていた「子どもの生活を保障
む)を縦割りにせず、ライフサポートとして子どもと家族
するための支援」を在宅療養に向けて行っていた。
を支援することが必要であり16)、小児における包括的な在
一方、在宅医療を必要とする子どもの退院調整を行う
宅療養支援体制を確立することが望まれる。
NICU看護師が認識する課題や困難感には、他職種・他機関
の役割・制度に関する知識不足に加えて、スタッフ間や関
Ⅵ.結
論
連部門間でケアの到達目標や方法が共有化されていないと
いった状況がある13)。これらの背景として、介護保険制度
医療的ケアが必要な子どもと家族の在宅療養に向けた連
の対象とならない小児におけるケアマネージャー不在など
携に関する文献12件の14事例の分析から、次の点が明らか
の在宅医療の支援システムが整っていない現状が挙げられ
となった。
る。しかしながら、現行のシステムのなかで、GCU・小児
1.連携時期の子どもは乳幼児期が13例で、疾患は先天性疾
科病棟やNICUのスタッフは、在宅支援会議や福祉保健調整
患および症候群が12例であった。必要な医療的ケアは吸引
等、医療機関内外の「専門職種間における在宅療養生活調
が11例、人工呼吸器管理 4 例と呼吸器管理が多く、経管栄養
整」についても、コーディネーターとしての役割を担って
を必要とする10例は他の医療的ケアも必要としていた。
いた。医療的ケアが必要な子どもは、先天性疾患と症候群
2.連携した専門職種は、GCU・小児科病棟看護師が 9 例で
が多く占めていることから、出生直後から長期入院を強い
最も多く、次いでNICU看護師 7 例であった。地域の連携施
られている。したがって、NICUあるい はNICUから転棟
設・部署として、訪問サービスのうち訪問看護ステーショ
後、在宅医療に移行する前に関わった病棟スタッフが中心
ンが 8 例、訪問リハビリテーションが 5 例であった。
的存在となるのは必然といえる。
3.医療的ケアとして在宅酸素や人工呼吸器管理を必要とす
退院後の在宅療養への移行後には、訪問看護ステーショ
る場合は、入院中からの連携先に消防署や医療機器業者が
ンの看護師等の訪問サービスが、連携施設・部署として多
あがっていた。また、療育施設、保育園、小学校は退院後
くあがっており、入院していた医療機関から地域へと連携
からの連携が特徴的であった。
の中心も移行していることがうかがえる。同様に、退院後
4.連携内容は、
「医療的ケアの獲得に向けた支援」
「家族の
には教育・保育機関との連携が多くみられるが、これは、
意思決定・調整」
「在宅療養生活環境を整える支援」
「専門
小児期に特有といえる子どもの成長発達に応じた社会面で
職種間における在宅療養生活調整」
「育児・成長発達支援」
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016 13
小児在宅療養に向けた連携
「社会資源の紹介」であり、
「家族の意思決定・調整」は入
7)岡山県社会福祉審議会:児童虐待死亡事例検証報告書 平
院中から退院後の全ての時期に行われていた。
成27年,
〔2015.8.19〕
:
5.退院前と退院後のコーディネーターが分かれている小児
http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/427600_2777370
在宅療養への支援において、子どもと家族のライフステー
_misc.pdf
ジの変化に応じた連携の機会を捉え、家族全体をコーディ
8) 神奈川県HP:平成26年度小児等在宅医療連携拠点事業
ネートすることのできる人材の活用は、小児在宅療養の課
成果報告,
〔2015.8.19〕
:
題解決に繋がる可能性がある。
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/929709_2920757
6.医療と保健・福祉・教育(療育や保育も含む)と縦割り
_misc.pdf
になっているシステム上の課題については、介護保険制度
9) 高橋泉.医療的ケアを必要とする障害がある子どもと
の中で提唱された地域包括ケアシステムの概念を成長・発
家族の在宅療養に関する文献検討.日本小児看護学会
達に応じた支援が必要な子どもと家族においても照らし、
包括的な在宅療養支援体制を確立していくことが望まれ
る。
誌
2014;23(2),41-47.
10) 日本小児看護学会編.小児看護辞典.東京:へるす出
版;2007.56.
11) 筒井孝子,東野定律.全国の市町村保健師における「連
なお、本研究は、関東学院大学研究所個人研究助成、
JSPS科研費15K15868の助成を受けて実施した。
携」の実態に関する研究.日本公衆衛生雑誌
2006;
53(10),762-776.
12) 谷口惠美子,松下光子,泊祐子他.重度障がい児の在
引用文献
宅移行への支援に関するNICU等に勤務する医療従事者
の意識.岐阜県立看護大学紀要
2010;10(2),3-9.
1) 杉本健郎,河原直人,田中英高他.超重症心身障害児
13) 長田暁子,江本リナ,橋本美穂他.NICUで在宅医療を
の医療的ケアの現状と問題点-全国8府県のアンケート
必要とする子どもの退院調整を行う看護師の困難感に
2008;112(1),94−
関するアクションリサーチ.日本小児看護学会誌
2) 中島瑞恵,島義雄,矢代健太郎.NICUにおける在宅医
14) 田川紀美子,種吉啓子,鈴木真知子.医療的ケアを必
2010;
要とする子どもの在宅支援に関する文献検討.日本赤
調査-.日本小児科学会雑誌
101.
療への取り組み.日本周産期・新生児医学会
2013;22(2),48-53.
46(4),1280-1284.
十字広島看護大学紀要
2003;3,61-68.
3) 福岡秀興.胎内低栄養環境が惹起するエピゲノム変化
15) 松崎奈々子,下山京子,青柳千春他.医療的ケアを必
と早期介入による疾病リスク低下.日本衛生学雑誌
要とする小児を対象とした訪問看護に関する研究動向
2014;69,82-85.
4) 東京都福祉保健:東京都NICU退院支援モデル事業報告
書,
〔2015.8.19〕
:
と今後の課題.日本小児看護学会誌
2014;23(2),48-
56.
16) 南條浩輝,望月成隆,本田香織他.医療的ケアを要す
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kyuukyuu/sy
る子どもの在宅療養支援体制の整備に関する基礎調
usankiiryo/nicutainshien.files/NICUmodel_1.pdf
査.−NICU長期入院児が家族とともに暮らすには何が
5) 子どものからだと心・連絡会議編.子どものからだと心
白書2008.東京:株式会社ベクトル;2008.77-79.
6) 前田浩利.長期在院患者の動向と在宅支援.小児内科
2015;47(3),414-417.
14 関東学院大学看護学会誌 Vol.3, No.1, pp.9-14, 2016
必要か−.母と子のすこやか基金助成研究報告書
2009.