家畜と文明の進展 : 家畜育種の背景 A. 人類の発展

動物生産学 家畜育種の基礎
4. 穀物の生産力が低かったため、大面積を耕す必要: 家畜と文明の進展
: 家畜育種の背景
畜力が不可欠
A. 人類の発展 - 「食」が基本
西ヨーロッパにおける農業
1. 涼・寡雨の乾燥地・半乾燥地 - 穀物生産力が極めて低い
5. ベルギーの19世紀の諺:
「飼料がなければ家畜がない。家畜がなければ肥料
がない。肥料がなければ収穫がない」ー19C 半
2. 穀物の収量と播種量との比率
1) 小麦の場合 ばに化学肥料は開発されるまでは、畑作土壌の地
10世紀 2.5 倍, 13世紀 4 倍, 18世紀 6 倍
力維持のためには家畜の糞尿に頼るしかなかった。
2) 日本の稲作 18-19世紀 20-40 倍
3. ヨーロッパにおいては穀物生産よりも草をはやして家畜に
与えて生産を挙げる牧畜にならざるを得なかった。
030-010 育種1
目的にあった家畜の育成の必要性
1
030-010 育種1
B.日本における畜産の地位の変遷
4. 水田の特徴:
1. 地理的に亜熱帯から温帯:夏の 高温多湿 は 深根性 の植物
1) 潅漑によって肥料分が運び込まれる
2
2) 連作に耐える
(樹木、蔓、 竹、笹)の生育に好適。
3) 労働集約的であったため大規模化が困難
2. しかし稲 (紀元前300年に渡来)を除く穀類、並びに
5. 動物性蛋白質:狩猟、魚
浅根性の牧草には適さない。
植物性蛋白質、脂質:大豆、菜種
3. 労働集約的な人力による水田の家族経営が中心。
6. 以上のことから畜産が農業と結びつく必要性が薄かった。
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3
030-010 育種1
4
1
北海道乳牛検定組合(305日成績)
1986
1987
1988
1989
乳量 対前年 f at f at pr ot pr ot SNF SNF 乳飼比 BW
( Kg) 増加量 ( Kg) ( %) ( Kg) ( %) ( Kg) ( %)
( %) ( Kg)
7, 076
176 259 3. 67 617 8. 6
20. 5 651
7, 278
202 268 3. 68 630 8. 66
19 650
7, 378
100 271 3. 68 638 8. 65
17. 2 632
7. 561
183 279 3. 69 233 3. 07 656 8. 68
17 622
1990
1991
1992
1993
1994
1995
7, 757
7, 840
7, 841
8, 085
8, 201
8, 218
C. 採集・狩猟生活から
植物の栽培生産・動物の家畜化 へ
生産力の増加
D. 労働の分業化→技術の発展→人類の文明の進展
196
83
1
244
116
17
288
291
291
306
314
315
3. 71
3. 71
3. 71
3. 79
3. 83
3. 84
242
245
245
257
259
259
3. 12
3. 12
3. 13
3. 18
3. 16
3. 15
673
677
678
705
713
712
8. 67
8. 64
8. 65
8. 71
8. 69
8. 67
17. 4
18. 1
19. 1
19. 1
18. 5
18. 1
621
618
614
616
617
617
fat: 脂肪, prot::蛋白質, SNF(solid not fat):無脂固形分, 乳飼比:(購入した飼料の価格)÷(出荷した牛乳の価格)×100
, BW(body weight):体重
注)1992 と 1995 年は乳量の前年度比が低かった。これは、夏季の猛暑が原因
030-010 育種1
5
030-010 育種1
6
育種と育種学
300
140
Egg production / hen / year
(Left Axis)
120
200
100
80
150
60
Cent per dozen
# of Eggs per hen
250
100
Egg Price per dozen
(Right Axis)
40
50
A.育種の定義:
a. 有用な動物や植物の遺伝的な形質(character,trait)を
改良して 人類生活に対する貢献を一層増大させる事
b. 新しい品種や種の造成のみでなく、現存する種、品種の遺
伝的素質を改 善する事を含む。”
20
0
B.育種の目的:
生産者の所得向上と消費者に対し良質で安い農畜作物を供
給する事
0
1925
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
2000
Year
Egg production and Price in USA (1925-2000)
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7
030-010 育種1
8
2
C.家畜育種の目標:
3) 特定形質の遺伝的固定(ホモ化)
a. 家畜の遺伝質を改良するための技術の改善と体系化
特定形質を付与あるいは除去した場合、さらに現在その形
質を持ってはいるが遺伝が不確実な場合、それを子孫に確
1) 特定形質の付与
実に保持させたい場合。
現に飼っている家畜が持っていない特定形質を次代にお
いて与えたい場合。(例:悪い環境や病気に 対する抵抗性、 その他好ましい生産性に関する形質特定の毛色)
5) 表現型の斉一化 複雑な遺伝形質を持ち、環境の影響が表型に出易い形質
現在飼っている家畜の持っている好ましくない形質を次代
で、表型の変異を小さくしたい場合。(例:生産能力や実験
において除きたい場合。 (例:奇形、間性、致死性あるいは
動物のホルモンや薬剤、細菌に対する感受性等)。
特定の病気にかかり易い体質等)
9
D.人類にとっての家畜育種とは:
030-010 育種1
10
E. 育種はある意味では、極めて残酷:
a. 生物進化の方向を人間の必要とする方向に変更し、促進
人間が自己の保存・増殖のために動物・植物を改造するため
の技術
するための学問 体系
c. 家畜の場合は同一遺伝子型の個体を得難い(近交退化)
例1)乳牛: 年間産乳量 7,000 - 8,000 kg
一日当たり最大 40-50 kg
2) 一般に家畜においては
これは、 乳牛が自分の産んだ小牛を育てるのに必要な
(1) 世代間隔が長い → 改良の速度が遅い
量の何倍もの量
(2) 単価が高い → 淘汰しにくい
例2)卵用鶏: 年間産卵数 300個近い (産卵率90%前後)
3) マウスの場合: 世代間隔が短い
ニワトリにとっては、種の保存に必要な卵数はせいぜい
兄妹交配を20代繰り返す- 近交系と呼び “純系”とみなす
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生産能力などの形質の場合、できる限りあるいは特定のレ
ベルまで高めていこうとする場合。
2) 特定形質の除去
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4) 性能の向上
11
年間数個
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12
3
野生動物の家畜化
B. 野生動物が家畜になり得る条件 (Francis
1. 家畜化と家畜
Galton,1865)
A. 家畜が持つべき性質
a. 頑健であること
a. 性質がおとなしい
b. 生得的に、人間の側からみて好ましいこと
c. 生活環境に対する要求が高すぎないこと
b. 人間の飼養管理の下で繁殖が可能である。
d. 古代人にとっての有用性の高さ
c. 人間によって遺伝的に人間の利用目的に適するような
e. 自由な繁殖が可能であること
形質・能力をもつものに変化させられた。
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f. 管理がたやすいこと
13
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14
質的形質と量的形質
1 質的形質(qualitative trait)
メンデルの法則に従って遺伝する。
1 優性の法則
2 分離の法則
3 独立の法則
C.狭義の家畜
a. 人の改良に応じて、人の生活、特に農業上の生活に
役立つ動物。
b. 特に哺乳類と鳥類
2 量的形質(quantitative trait):
1) 例:ある種のコムギの交配にみられる種子の色の遺伝
遺伝子型
表現型
AABB
濃い暗赤色 (c1)
AABb AaBB
暗 赤 色 (c2)
AAbb AaBb aaBB
中間の赤色 (c3)
Aabb aaBb
淡 赤 色 (c4)
aabb
白 色 (c5)
D.広義の家畜
a. 人の生活、特に農業上の生活に役立たない動物。 b. ネコ、実験動物等
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15
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16
4
2) A, B: 同義でかつ相加的
5) これは、量的形質の遺伝子支配が、多数の遺伝子、言い替
3) AaBb x AaBb の分離比
1
4
6
4
え る と ポ リ ジ ー ン ( polygene)
1
または、多くの微動遺伝子
(minor gene) によっている事を示している。
6
50
4
3
6
21
44
46
48
40
20
8
2
52
54
56
40
30
2
20
10
0
1
2
3
4
c5
c4
c4
c2
c1
(AorB)遺伝
表現型
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0
17
ハーディー・ワインバーグの法則 (Hardy-Weinberg principle)
ある世代から次の世代にかけて遺伝子頻度や遺伝子型頻度がどの様に変化するかを
支配している法則。
「無作為交配の行われている十分大きな集団では、移住、突然変異、淘汰(選抜)が無
ければ遺伝子頻度および遺伝子型頻度は共に世代から世代へ一定であり、遺伝子型
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遺伝子頻度
.
遺伝子
. 頻度
.
A1
A2
p
q
18
雄 側
雌側配偶子とその頻度
配偶子 頻度
A1
A2
p
q
A1
p
A1A1
p2
A1A2
pq
A2
q
A1A2
pq
A2A2
q2
.
.
従って A1A1 : A1A2 : A2A2 = p2 : 2pq : q2 となる
3. 子世代における A1 A2 遺伝子の遺伝子型頻度 (p' q')
∵ 1) より
p' = p2 + 1/2(2pq) = p
. q' = 1/2(2pq) + q2 = q
ただし、p + q = 1
030-010 育種1
x100 Kg
2. 無作為交配では、雄側と雌側の配偶子が無作為に結合される。
従って、これら配偶子の無作為結合によって生ずる接合体
(すなわち子世代の遺伝子型)及びそれらの遺伝子型頻度は
頻度は遺伝子頻度のみによって決定される」
1. 親世代の遺伝子および遺伝子型頻度が次のとおりであった場合:
50
100 頭のホルスタイン牛の初産の 305 日間の
乳量ヒストグラム (→正規分布に近い)
4. 従って、子世代における遺伝子頻度は親世代の遺伝子頻度に等しい。
孫世代における遺伝子頻度も同様になる。
19
030-010 育種1
20
5
例) P = 0.7, q = 0.3 と仮定した場合
遺伝率 (heritability = h2)
p' = p2 + 1/2(2pq)
=
(0.7)2
表現型値(P: Phenotype)にみられる変異の内、後代に遺伝
+ 1/2 ( 2 x 0.7 x 0.3 )
するのは遺伝的変異(G: Genotype)であり、
= 0.7 = p
q' =
q2
環境変異(E: Environment) ではない。 + 1/2(2pq)
遺伝率とは、 表現型値の変異に対する遺伝的変異の割合。
= (0.3)2 + 1/2 ( 2 x 0.7 x 0.3 )
P=G+E
= 0.3 = q
030-010 育種1
21
今、ある形質に関する表現型 P の分散を求めると
(1) σP2= Σ ( Pi - P )2 となる。
N-1
・・・・・ 1)
ところで ( Pi - P )2 = Pi2 – 2Pi P
+P2
。
・・・・・ 2)
P
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である
P
P
2
23
(極めて重要)
030-010 育種1
22
家畜の例:
a. 世界的に飼われている家畜: 牛、馬、めん羊、豚、鶏、犬、猫、水牛、山羊、ロバ、
ウサギ、アヒル
b. 地域的に飼われている: ラクダ、ヤク、トナカイ、アルパカ、ラマ、シチメンチョウ、
ガチョウ、ホロホロチョウ
c. 特殊な地域で飼育されている:
ミンク、ハト、ウズラ
d. 実験動物として(家畜的な性格):
マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ
e. 結論:家畜の原種である野生動物に関する一般的法則:
1.群で棲息する性質を持つ草食動物が多い。
2.肉食性の鳥獣は一般的に家畜化されていない
(例外:犬、猫、ミンク)。
030-010 育種1
24
6
家畜化の要因
A.家畜化 (domestication)
a.ある動物が家畜になる現象 (domesticate, vi 自動詞)
1. 人との共生関係
2. 野生動物が自発的に人の生活環境に入り込んだ場合 人は無意識
b.人間がある動物を家畜にする行為
(domesticate, vt 他動詞)
人間による意識的、計画的行為
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B. 家畜化の経緯
数千年前に野生動物が家畜化された
経緯を明らかにする事は不可能。
25
B.仮説1:経済目的説ー肉や卵の利用が目的
030-010 育種1
26
D.仮説3:娯楽動機説
反論 1) 野生動物は生産性が低い。
2) 野生牛の様に凶暴な動物、ウマの様に臆病な動物
を馴化す事は困難。
事例:鶏
1) 鶏の雄は会うと必ず闘う性質を持つ為闘鶏をさせ、勝敗
を競い、ひいては吉凶を占うために飼育された。
C.仮説2:宗教動機説
2) 卵の利用は後から気づいたとする。
事例: Hahn による牛の家畜化宗教説
農耕生活に入った人類は月を豊饒(ほうじょう)の神としてお
り、原牛の角が三日月に似ている事から原牛を犠牲にして捧
げた。ただし、全く経済的メリットが無かったとは言えない。
E.仮説4:共生関係説
事例:羊、ヤギ、トナカイ
1) 動物の群れと人間が接近し、動物を天敵(オオカミ等)か
ら保護する代わりに若干づつ間引きをし人が利用する
関係を築いたとする説。
F. いずれの説にしても人間と野生動物の密接な接近が必要:
動物の習性に対する鋭い観察と知識が必要
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27
030-010 育種1
28
7
Robert Bakewell 以前
A. 経験的に遺伝の概念はあったと想像される。
望ましい性質、能力を持ったものを経験的に大切にして交配させた
B.多くの誤説
誤説1. 先夫遺伝 (telegony):
雌が最初に交配した雄の影響をいつまでも受け、その後別の雄との
交配によって生まれた子にも先夫の影響が認められるとする説。
誤説2. 妊畜の感応 (imagination, maternal impression):
交配直前、あるいは妊娠後に母畜が受ける精神的な感応が子宮内
の胎児に影響して形質に変化を起こさせるとする説。
http://www.sabong.net.ph/news/?module=displaystory&story_id=633&format=html
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29
乳用牛の改良は18世紀から開始
030-010 育種1
30
Robert Bakewell (UK, 1725~1794)の改良技術
a.合理的な家畜育種方法の樹立者
乳用牛における品種の分化:
1) 家畜品種改良の先進国イギリスでも18世紀に入ってから
2) それまでは、肉用の品種(例えばロングホーン種)の中で
乳量の多い個体から搾乳(乳量1700kg/年程度)
3) ロバート・ベイクウェル(1726-95):独特な鑑定眼で優れた
Robert Bakewell
1. 改良目標の設定
2. 改良目標を達成するために家畜の外貌 (exterior)から個体
の生産能力 を推定し選抜した動物を繁殖群とした
3. 優秀な種畜を導入する事により繁殖群を改良(雑種化)
4. 交雑種の中から望ましい種畜(breeding stock)を選抜
(selection)
5. 優れた家系内での近親交配(inbreeding)と淘汰(culling)を
繰り返す
6. 種畜として販売した個体の追跡調査を行い良いものは買
い戻した (後代検定)
繁殖用の個体を選抜して交配し改良を進めた
030-010 育種1
誤説3 獲得形質の遺伝 (inheritance of acquired character) も
信じられていた。
31
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32
http://www.npg.org.uk/live/search/portrait.asp?LinkID=mp05047&rNo=0&role=sit
8
コリンズ兄弟の功績
b.Bakewell による改良成果
ベイクウェルの弟子
1. 牛 ロングホーン(Longhorn)の作出
ロバート・コリンズ(1749-1820) ショートホーンの改良
チャールズ・コリンズ(1750-1836)
2. 緬羊→ レスター(Leicester)の作出
形質を固定するために、当時、避けるべきこととされていた
3. 馬 → シャイヤー (Shire)作出
近親交配を、積極的に取り入れ、ショートホーン種の改良
に大きな成果
コメット号(Comet,1804 産) の作出
(極めて近親交配の程度が高い)
今日からみても方法論的には間違っていない。
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Border Leicester
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34
http://www.hayssheepcompany.com/larry_004.htm
トーマス・ベイツ(1775-1849):
乳用牛の高能力化:
ショートホーン種の産乳能力をさらに向上させ、
19世紀末から組織的に行われた登録事業や能力検定の成果。
特に後代検定によるオスの改良が大きな要因。
登録制度と能力検定
デイリー・ショートホーン種を作出
A.18 - 19 C にかけて多くの品種が作出された
a.同じ品種の飼養者が協会を作った
乳量は19世紀末には年間4500kgに達した。
b.協会は理想的な体型を目標として血統と体型の純化をはかった
c.そのために登録制度を始め、登録簿を発刊した。
d.最古の登録簿は 1791 年 サラブレッド種(馬)
1822 年 ショートホーン(牛)
e.理想体型が輓馬、肉用牛、緬羊、豚などで作られた。
f.共進会の開催により改良効果が上がった。
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18-19世紀に作出されたデイリー・ショートホーン種
35
030-010 育種1
36
9
C.科学的技術としての家畜育種
a.集団遺伝学に基づく家畜育種 - 登録制度と能力検定が必須
1.メンデルの法則(1865)の提起とその再発見(1900)
2.1930 年代の半ばから遺伝学の成果が家畜育種に実用的指針
を与え始めた
b.各種家畜の優良品種作出において英国が他国をリード
1. 19-20 世紀に亘る数十年間は英国が種畜の供給国
2. 遺伝学、生理学、飼養学、統計学の進歩に伴って、アメリカ等
にも合理的育種が広がった。
3. 1920年代 - Fisher, Wright による推計学に関する基礎研究
030-010 育種1
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030-010 育種1
38
B.検定の種類
4.1937 年 - アイオワ大学(アメリカ)の Lush による
a. 絶対能力検定
理想的な飼養管理のもとで最高の記録を発揮させる
“Animal Breeding Plan”により
b. 相対能力検定(経済能力検定)
一般の飼養管理条件下で記録を取り、経済的な収支まで検
量的形質 に関する 遺伝理論 と 統計理論 が統合
定する
5.1940年代以降 - Lerner(USA),
c. 集合検定
Falconer(UK),
同一環境に被検個体を集めて行う
Robertson(UK)
d. 現場検定
異なる個々の現場で行う
により一層発展
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40
10
G. 産業革命以後
H. 家畜の祖先種の同定:
1. 育種目標 が明確になった
1. 祖先種と家畜との比較解剖学的分析
2. 育種方法 が組織化された
工・鉱業の発達→都市化→人口の増加→畜産物の商品化
2. 動物地理学、考古学、文化史等とのすり合わせ
3. 農業→耕地の囲い込みによる富農の登場
3. 分析手法:染色体、免疫学的特性の比較、タンパク質等
4. 植民地の形成→種畜の供給→貿易品としての価値
の比較生化学、 DNA 鑑定
家畜の育種を促した(経験的技術)
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41
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42
I.家畜化の年代と場所
a.家畜化の歴史
b.日本における野生動物の家畜化
家畜化が行われた最古の年代と場所 (野沢)
最古の年代
場 所
犬 BC 10, 000前後 ユーラシア大陸
羊 〃 7, 000前後 西南アジ ア
山羊 〃 7, 000前後 西南アジ ア
牛 〃 6, 000前後 西アジ ア 豚 〃 6, 000前後 西南アジ ア 馬 〃 3, 000前後 南東ヨーロッハ
鶏 〃 3, 000前後 東南アジ ア 水牛 〃 2, 500前後 インド 030-010 育種1
人間と の関係 当初の用途
掃除係的性格 猟犬/肉用
人と の共生
肉用
人と の共生
肉用
肉用
掃除係的性格
肉用
肉用
掃除係的性格
肉用
肉用
1. 犬の家畜化の形跡
畜化民
狩猟民
遊牧民
遊牧民
農耕民
農耕民
農耕民
農耕民
農耕民
43
2. ウズラの家畜化:日本で唯一
1) 徳川時代に家禽化
2) "なきウズラ"として声を競う
3) 卵巣を薬餌用として利用
4) 卵の利用は明治中期以降
3. 他はいずれも海外から導入
030-010 育種1
44
11
家畜化による変化
体格、体型、毛色の変化
品種の分化と多様化
A. 体の大きさ
a. 家畜化の初期は原牛より小型化 - 当時は飼料給与が
不十分で小型なものが適応?
b. 意図的に大きさや体型が異なるものが作られた。
A.「家畜は土地が作る」
a. 長い年月をかけてそれぞれの地方の風土に最も適した
家畜が作られる。 →
土産種 (native breed)
B. 家畜化に伴う体型の変化
a.頭骨の短縮 : 牛、豚
例) ヨーロッパ種、山岳種等原産地名や地形によって
呼ばれる。
b.毛色の変化:野生動物には見られない毛色が保存
b.用途に応じた改良に伴う品種の成立
030-010 育種1
例)白色: (牛)シャロレー、ショートホーン
白いベルト: ハンプシャー(豚)
45
46
強健性の変化
A. 外敵に対する自己防衛能力の欠如
繁殖の変化
A. 繁殖性の変化
a. 外敵から保護されている
b. 飼料は常に十分給与されている
a. 早熟: 野生種より成長が早いため。
B. 人間の管理下にいる限り強い
b. 季節繁殖性の喪失 (牛、豚、鶏)→生産量の増加
a.密飼い等の厳しい条件下で高い成長、繁殖能力を発揮
例1) 鶏:赤色野鶏(原種)卵数年間 12~ 20 個
牛
野生牛(原牛)を飼い馴らしたもの
紀元前8,000年頃:メソポタミアやエジプトで牛の飼養
乳や乳製品を利用
日本:
縄文後期から弥生文化期
ユーラシア大陸から朝鮮半島を経てもたらされた。
白色レグホーン 260~300 個
例2) 牛:原牛ー自分の子を育てるだけの泌乳量
乳牛ー体重の10~20倍 (6,000 ~ 15,000 Kg)
030-010 育種1
030-010 育種1
47
030-010 育種1
48
12
牛の乳の利用: 「酥」・「酪」・「醍醐」
世界における乳酪の起源
1) 奈良時代になってから
2) 仏教では乳、乳製品の味を5段階(五味)に分けた
中石器時代
トルキスタンの草原地帯で家畜山羊の乳利用
(1) 牛乳 (2)生酥(蘇) (3)熟酥 (5) 醍醐 (4)酪
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後ろ足の間から搾乳
酥(そ)
: 牛乳を静置し、クリーム層を煮つめたもの
五臓の働き、血行を改善
醍醐(醒): 良質の酥を加熱してよく練り、貯蔵し表面の凝固したもの
美味かつ薬効が高く、特に肺病の特効薬とされた
酪
: 酥の残余からつくったどろどろのチーズ
乾酪 : 酪を天日乾燥したもの
乳は神聖なものとして神に捧げた
王や貴族は乳を飲む特権
後ろ足の間から搾乳(山羊の搾乳法を踏襲)
紀元前2,000年エジプト
牛の体の脇から搾乳
乳の利用法
インド → 中国 → 高麗 → 貢物として日本へ
日本での製造技術:帰化人によりもたらされたと思われる。
030-010 育種1
紀元前3,000年メソポタミア
紀元前2,000年中央ヨーロッパ
古代ゲルマン人が牛乳を飲料とする
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日本における牛乳と蘇・酪
030-010 育種1
(加茂1976)
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豚
中国・朝鮮:
野生のいのししから家畜化
飲乳の習慣無し
紀元前6,000年頃の西南アジアの農耕遺跡に豚の遺骨それ以
乳は専ら「薬」 前あるいは同時期に豚の家畜化が始まったと考えられる。
古代日本
1) 牛は専ら役用
日本における養豚:
2) 古代神道
弥生期・古墳期に「猪養部(いかいべ)」と称する専業者集団
「総ての動物の生理的排泄物や血は穢れ」
(加茂1976)
030-010 育種1
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鶏
伊勢湾台風と豚の関係
1) 東南アジアに野生している赤色野鶏を家畜化したもの
昭和35年伊勢湾台風の見舞
1) アメリカのアイオワ州から山梨県に、ランドレース種、
ハンプシャー種、ミネソタ2号が送られた
↓
わが国の養豚が大きな変貌をとげるきっかけ
2) 紀元前3,000年頃インド、ビルマ、マレー地方に起源
日本の養鶏
従来から日本で飼養されていた中ヨークシャー種、バークシャー
種に比べ:
1) 発育が早い
2) 赤肉量が多い
3) 脂肪が少ない
遅くとも4~5世紀以前、弥生時代の前期頃に中国から朝鮮を
経て伝えられたもの
4) 飼料要求率が優れている。
030-010 育種1
埴輪や日本神話に鶏がとりいれられている
↓
我が国在来鶏の主流:
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「天の石屋戸(いはやと)」(古事記上巻)の神話
暗闇を鶏鳴によって救った
太陽の出現を促す呪術 (倉野1996)
「須佐之男命(天照大神の弟)の乱暴な諸行を怒って、天の石
(類似の説話は世界的にも多い)
屋戸におかくれになった天照大神の出御を仰ぐために、神楽
を行ない、天宇受売命(あめのうずめのみこと)が舞踊り、常世の
古代における鶏の飼養目的
国から来た長鳴鳥を集め、鳴かせてたところ、天照大神が出て
きて世の中が再び明くるくなった。」
1) 時を告げる (闇からの解放)
2) 吉凶を占うための闘鶏
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3) 娯楽としての闘鶏
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ここで「長鳴鳥」は鶏と考えられ、神話時代にはすでに鶏がい
たことになる。
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馬
馬に関する行政
縄文時代以前から日本に野生馬 → 狩猟の対象
北海道から沖縄にかけて貝塚等:
日本で縄文時代以降に属する古代の馬の遺骨や歯
1)
2)
3)
4)
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6)
7)
天武天皇(673~686):騎兵の制を採用
日本本土がアジア大陸と陸続きであった時代に、大陸から渡来
本土が大陸と離れてしまった後でも野生馬として残留
新しく大陸渡来した民族に連れられてきた家馬も相当数存在
家畜化された馬:雄略天皇の時代(5世紀)
馬の埴輪:日本の各地で報告 → 馬具をつけている。
輸入馬:応神天皇の時代(4世紀)に百済から良馬2頭
持統天皇の時代(686~697)や、文武天皇の時代(697~707)
にも新羅から馬が贈られている。
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1)
2)
3)
4)
天智天皇(在位661~671):軍馬育成を奨励
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朱雀天皇(930~946):時代に競馬が開始
白河天皇(1072~1086)の時代: 京都の賀茂の競馬が開始
鎌倉時代:馬に乗っての武技が発達
室町時代以来、外国種の馬の導入→蒙古馬やアラビア馬を輸入
戦国時代:馬は軍用として重要
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鉄砲の伝来から騎馬戦は減少
江戸時代に馬産は低迷
明治維新後は西洋の大型馬の輸入が増加
日清、日露の戦争で日本の馬の体格が劣ることが明確化
・政府は馬政第一次および第二次計画:
・在来馬を外国種との交配により雑種化の促進
・体格の増大と体型の整備 → 短期間に馬の体格は著しく増大
第二次世界大戦後:
軍用としての馬は不用となって、農馬としての利用に変更
昭和30年前後から、農業機械化の進展に伴い、漸次牛に代替
一部に肉用馬
現在:
競争馬、乗馬としての利用が一般的
農馬としての利用は北海道の一部のみ。
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