スクロール圧縮機のバイパス漏れに関する基礎研究 EJ09A019 加川 謙

スクロール圧縮機のバイパス漏れに関する基礎研究
EJ09A019 加川 謙良
1. はじめに
近年,低振動・低騒音・高効率という特徴を持ったス
クロール圧縮機が空調用圧縮機として数多く利用され
ている.スクロール圧縮機では焼き付き防止のため,固
定スクロールと旋回スクロールの間に微小な隙間が設
けられている.本研究室では過去に軸方向隙間からの半
径方向漏れと半径方向隙間からの接線方向漏れについ
て研究が行われていた.その結果,半径方向隙間からの
接線方向漏れと比べて軸方向隙間からの半径方向漏れ
が多い事が分かっている.その対策として軸方向隙間か
らの半径方向漏れを軽減するため,ラップ面に窪みを設
けチップシールをはめ込んでいる圧縮機がある.これに
より,半径方向漏れを軽減する事が出来たが,依然とし
て図 1(a)の赤色で示すような隙間が出来る.その結果,
図 1.(b)の矢印で示している方向に継続的に冷媒が漏れ
だすという事が考えられる.本研究ではこの漏れをバイ
パス漏れと呼んでいる.このバイパス漏れもこれまでの
めにメタノールを使用した.またメタノールは透明で見
えにくいためメチレンブルーを使い青色に着色を行い
メタノールの流れを確認しやすくした.
実験装置の簡略図を図 3 に示す.高圧側にはメタノー
ルの入ったタンクを接続し,低圧側には排気用のタンク
を接続した.そして真空ポンプを使い低圧側の空気を吸
い出すことでメタノールを漏れ通路に流した.
実験装置
高圧側
メタノール
図 3. 実験装置の簡略図
旋回スクロール
3.実験結果
図 4 にメタノールが漏れ通路を流れている様子を示
す.中央の青い部分が漏れ通路に流れているメタノール,
下側の赤銅色部分がテストピースの上面に塗り付けた
液体ガスケット,上側にはチップシールの役割を果たす
プレートが漏れ通路に被さるように装着されている.
メタノールは高圧側の図 4.(a)の赤矢印で示すように
メタノールが高圧側から低圧側へラップ面に沿って流
れている事がわかる.また,実験後の装置を観察すると
図 4.(b)に示すように漏れ通路にメタノールが付着して
いた.この事からチップシールの下にメタノールが潜り
込こみ漏れ通路を流れたという事が分かる.
a
r
旋回スクロール
固定スクロール
0
(a)断面図
排気用タンク
真空ポンプ
固定スクロール
Tip Seal Plate
チップシール
低圧側
(b)平面図
図 1. バイパス漏れ簡略図
研究同様に圧縮機の効率に直接影響を与える事が考え
られる.現段階の圧縮機の最適設計シミュレーションで
は,バイパス漏れを考慮して解析を行っているが,その
結果をより信頼性の高いものにするため実験的研究を
行う必要がある.そこで本研究では,スクロール圧縮機
のバイパス漏れ隙間を模擬した実験装置を製作し,冷媒
が想定通り流れているかを可視化して確かめた.
漏れ通路
低圧側
高圧側
テストピース
2. 実験装置および実験方法
今回の実験では図 2.(a),(b)に示すようなスクロール
圧縮機のバイパス漏れ隙間を模擬した実験装置を製作
し実験を行った.
高圧気室
漏れ通路
低圧気室
実験装置を構成
する 3 枚のプレ
ートの内の中央
の部分に当たる.
漏れ通路部は隙
大気解放弁
間ゲージを使い
テストピース
10µm に設定し
た.漏れ通路以
(a). 図面
外からの流体の
漏れを防ぐた
めにねじ穴部
分とテストピ
ースが接する
面に液体ガス
ケット塗り付
けた.漏れ通路
に流す流体は
実験装置の錆
(b). 実物
を防止するた
図 2. 試験隙間モデル
(a).
バイパス漏れ風景
(b). 漏れ通路
図 4. 実験結果
4.終わりに
スクロール圧縮機のバイパス漏れ隙間を模擬した実
験装置を製作し,可視化する事によって実際に冷媒が流
れる通路を把握する事ができた.今後は冷媒 R410-a を
使い圧力降下特性,管摩擦係数等を調べ,シュミレーシ
ョンと比較し,バイパス漏れの特性を調べいく必要があ
る.
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