雇用労働関係法令のPDFファイル

国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
1.1
雇用労働関係法令
ブラジルの労働法は、
「1943 年 5 月 1 日付大統領令 (Decreto Lei) 第 5452 号」に
より、現行の CLT (Consolidação das Leis do Trabalho:統一労働法) の原型が定
められた。労働者の影響を強く受けていた当時の大統領により、
“労働者保護”の色
彩が強い労働法が定められた。ブラジルの労働法の特徴は、労働賃金以外の税負担
金が重く、雇用者側にとって過重な労働コストになる等の問題がある。ブラジルの
労働関係法令にはヒエラルキーがあり、それを段階的に示すと次のようになる。
【労働関係法令のヒエラルキー】
(1) 憲法 (Constituicao)
憲法は労働関係法令の最高位にあり、労使関係のいろいろな規則が憲法第 7
条において 34 項目にわたり示されている。この憲法は 1988 年 10 月 5 日付
で発布されたものであるが、その中には本来労働法で定められるべき細則まで
盛り込まれている。
(2) CLT
「大統領令第 5452 号」により、現行の CLT が定められた。これがブラジル
の労働規定の根幹をなしており、922 条に及ぶ膨大な法律である。
(3)
労使協約 (Convencao Coletiva 及び Acordo Coletiva)
・
Convencao Coletiva
企業代表組合 (Sindicato Empresarial)、労働者組合 (Sindicato dos
Trabalhadores) 間の団体交渉で制約されたもの。法律と同じ拘束力を
持つ。
・
Acordo Coletiva
労働者組合が特定の企業と団体交渉を行い成約したもの。当事者間にお
いて法律と同等の効力を持つ。
(4) 判例 (Jurisprudencia) 又は確定判決(Sumula)
労働裁判所又は最高裁判所の労働問題に関するいろいろな判例の中で、特に司
法権の観点から確立している判例。
(5)
労使契約 (Contrato Individual de Trabalho)
個人との労働契約であり、労使契約は当事者間の同意でもって成立するが、個
人契約書も当事者間では法令と同じ拘束力を持つ。例えば、労働者を採用する
にあたり、特別条件として何年間か勤務した場合のボーナス支給、特定期間以
上勤務した場合、会社の株式を保有する権利を持つ等がある。そのような条文
が個人契約の中に記載されている場合、当事者間には法律と同等の効力が発生
する。
(6)
社内規定 (Regulamento Interno)
特に就業あるいは就労に関する社内規定であり、労使関係に影響する。
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1.2
労働基準関係法令
1.2.1
労働契約
【正規雇用のための労働者登録】
会社を設立した場合、「CLT41∼48 条」により、労働者登録を行うための帳簿
(Registro de Empregado) に登録しなければならない。その登録は、企業が労働
者を正式に雇用登録するために必要な帳簿であり、労働局に報告される。従業員
登録を怠った場合、第 47 条に罰金を科すことが定められている。
ブラジルでは労働に従事する場合、労働手帳の取得が義務付けられており、一般
労働契約の場合、
「労働法第 29 条」に基づき、労働手帳に会社名、採用年月日、
給与、役職等の項目が記載される。一方、企業側の労働者登録帳簿にも同様の事
項が記載され、それによって労使関係が立証されることになる。労働者が保有す
る“労働手帳”は、正規雇用を証明する重要な書類であり、厚生年金、社会福祉
関係、医療サービス、年金を受ける際にも重要な記録となる。現在は社会福祉手
帳と一緒になり、
“労働及び社会福祉手帳”となっている。
ブラジルの統計によると、労働者として正規登録がなされているのは全国 8 千
万人の労働人口の約 4 割にしか満たない。つまり、ブラジルの労働者の 6 割が
アンダーグランドで労働に従事しており、本来の労働者としての保護を受けてお
らず、社会福祉制度上の義務も果たしていないことも意味する。
労働手帳への必要記入事項が欠落した場合の罰則については、
「CLT 第 36∼39
条」に規定されている。労働局の監査によって、問題が発見された場合、労働局
から事務手続きについての指摘を受け、罰金を科される場合もある。実際には、
労働者登録をしていない場合も多く、未登録で就労している。
【ブラジルの労使関係の定義】
ここで注意しなければならないのは、労働契約がない場合でも労使関係成立とみ
なされる場合があるということである。ブラジルの労働契約については、
「CLT
第 2 及び 3 条」に次のように定められている。
・
労働法上の雇用関係
[第 2 条:雇用者とは]
個人又は法人が事業のリスクを負い、人的労働を使用し、報酬を支払い、
指導する者。
[第 2 条第 1 項:雇用者に準じる者]
雇用関係の発生は、自由職業、社会福祉団体、文化スポーツ団体又はそ
の他の営利を目的としない団体において、労働者として雇用する場合も
雇用者とみなす。
・
労働者
[第 3 条]
雇用者に従属し、賃金を受領し、継続的な労務を提供する自然人は被雇
用者とみなす。
[単項]
雇用の種類及び労働条件に関して、精神的、技能的及び身体的労働に差
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別をしてはならない。
上記のとおり、労使関係は雇用者に対して個人が労働力を提供する場合、労働契
約の有無に関わらず、労使関係が成立する。これを具体的に示すと次のようにな
る。
表 1-1 労使関係が成立する要因(労使契約の有無に関わらず発生)
雇用者側
被雇用者側
1. 雇用者は事業のリスクを負って仕事 1. 継続性のある労働力の提供。
する。
2. 特定個人を評価しての雇用。
2. 事業を実施するに当たり社員を採用 3. 雇用者の指示及び指導に従属する。
する。
3. 被雇用者に指示及び指導する。
4. 労働の対価として報酬を支払う。
以上のような条件がそろうと、労使契約の有無に関わらず雇用関係は成立する。
また、雇用者は法人もしくは自然人だが、被雇用者側は常に自然人である。アウ
トソーシングの形態で下請け業者に仕事を依頼するにあたり、労働者派遣組合
(Cooperativa) 、専門サービスを提供する企業と契約した場合は、
“法人と法人”
の契約になる。その場合、労使契約は発生しないが、内容によってはサービスを
受ける側が連帯責任を負う問題が発生する。
“法人と法人”間のサービス契約に
ついても仲介業者、派遣会社を通り越し、サービスを受ける法人と実際に役務を
提供した個人とが直接労使関係があるとみなされる場合もある。
【労働契約上の時効】
「CLT 第 11 条」には労働契約上の時効に関する規定がある。労働法の時効は農
村労働者及び都市労働者に分けて規定し、労使関係から生じた債権に対する訴訟
について、次のような時効期間を設けている。
・
都市労働者に対し 5 年。ただし、契約消滅後 2 年を限度とする。
・
農村労働者に対し契約消滅後 2 年。
すなわち、都市労働者の場合、労使契約が継続している場合、その労働者が労働
裁判に訴える場合は過去 5 年間にわたって権利を主張できる。また、労働契約
が既に解消又は消滅している場合、2 年経過すると労働契約に関する事項が発生
し、権利がすべて消滅する。しかし、2 年以内であれば過去にさかのぼって不服
を申し立てることができる。会社を辞める時点では当事者が納得の上で清算した
つもりでも、その後不景気でなかなか再就職できず、2 年間のうちに金銭的にも
余裕がなくなった場合、知人、友人、親戚からの助言等によって 1 年後に訴訟
を起こすというケースが多い。したがって、雇用契約を解消してから 2 年間は
訴訟の可能性があることを認識する必要がある。
1.2.2
解雇規則
労使契約は、期限付き契約及び期限のない契約に分かれている。一般の労働契約
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は無期限である。これは「CLT 第 477 条以降」に記載されているが、被雇用者
を解雇する場合、30 日前の事前通告を行う必要がある。さらに第 478 条には、
会社都合で被雇用者を解雇する場合、1 年働くことによって補償金として 1 カ月
分の給与を支払うことが記載されている。ただし、これは現在 FGTS(Fundo de
Garantia por Tempo de Serviço:勤続年限保証基金)の退職積立金の 40%を企
業が支払うことで清算される。FGTS は、企業が毎月、被雇用者の給与の 8%相
当を被雇用者の FGTS 口座に積み立てている。したがって 1 年間で 13 カ月分の
給与を含め 13 回支払うと給与の 104%になり、1 年働いて 1 カ月相当の退職金
が積み立てられる計算になる。会社側が解雇する場合は、この FGTS の積立残
高の 40%のペナルティを支払わなければならない。
また、労働契約を解消する場合、会社都合、本人の申出であっても休暇及び 13
カ月給与に対する清算をしなければならない。その場合は、年間の比例計算にな
る。1 年以上就業した労働者が辞める場合、所属の労働組合で労働契約の解約手
続きを行うことが第 477 条に定められている。労働組合の管理の下で清算手続
きの完了及び契約解消が確認されるが、後になって労働裁判を起こすケースが
多々見られる。
1.2.3
賃金、労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、時間外及び休日労働、時間外の割
増賃金
【賃金】
CLT に定められる規定は次のとおりである。
[第 457 条]
・賃金は、契約の固定額にとどまらず、雇用者が支払う手数料、歩合、取り決
めた賞与、旅行の日当、特別手当を含む。
・補助費用、被雇用者が受給する賃金の 50%を超えない旅行手当は、賃金に
含まれないものとする。
[第 458 条]
法律のすべての効力に関して、現金での支払のほかに、食料、住居、衣服、そ
の他の現物支給で、企業が契約に従い、あるいは習慣として通常、被雇用者に
支給するものも賃金に含まれる。ただし、いかなる場合でもアルコール飲料又
は有害な薬品による支給は許されない。
[第 459 条]
労働の形態にかかわらず、賃金の支払いは 1 カ月を超える期間で取り決めて
はならない。ただし、手数料、歩合及び賞与の場合は、この限りではない。
[単項]
月給で支払う場合は、最も遅い時でも支払日翌月の 5 営業日までに支払わな
ければならない。
[第 460 条]
賃金の取り決めがない場合、又は取り決めた額の証拠がない場合は、労働者は
同一企業で同じ労務を行っているものと等しい賃金を受給する権利を有する。
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[第 461 条]
本条の目的に関して、同一価値の労働とは、同一生産性で、同一の技能的完成
度で、勤務期間の差が 2 年を超えないものをいう。
[第 462 条]
雇用者は、被雇用者の賃金におけるいかなる減額も行ってはならない。ただし、
減額が前払い、法律の規定又は団体協定から生じたときは上記の限りではない。
[第 463 条]
現金による賃金給付は国の現行通貨によって支払われる。
[第 464 条]
賃金の支払は、被雇用者が署名した受領証と引き換えに行われなくてはならな
い。被雇用者が非識字者の場合は拇印押捺で行い、それが不可能な場合は第三
者への依頼により行われる。
[第 465 条]
賃金の支払は、職場で業務期間中又は業務後に行われる。
[第 466 条]
手数料、歩合の支払は、関連の取引が終了した後に要求しなければならない。
[第 467 条]
雇用者又は被雇用者側の理由による労働契約の解除の場合で、賃金の金額の一
部についての争いのある場合は、雇用者は被雇用者に対して争いのない賃金の
部分を労働裁判所に出頭の日に支払わなければならない。これを怠る時は、争
いのない部分について倍額を支払わなければならない。
【最低賃金】
現行の国家賃金政策により労働者は法律に定める全国一律の最低賃金を受給す
る権利を有する。この他に自由職業に対する最低賃金、労使協約に基づく職種別
最低給料が制定されている。
【労働報酬の定義】
労働報酬の定義について確認しておく必要がある。報酬が仕事に対する対価であ
れば賃金の一部をなすが、仕事を行うための便宜であれば賃金を構成するとは言
えなくなる。例えば、従業員のアパートの管理費用を会社が一部補填している場
合、これは従業員に仕事をさせるための間接的報酬であり、仕事に対する待遇の
一部とみなされる。
よく問題になるのは報酬又はボーナスの支払である。その場合の見分けるポイン
トは、それが継続的、習慣的なものであるか否かである。例えば、銀行員は労使
契約の中に年 2 回のボーナスの支払をする規定が含まれている。その場合、労
使契約に明記されていれば、賃金に相当する。また、決算ごとに純利益の何%か
を労働者に支給し、それが 3 回以上続く場合、完全に賃金の一部とみなされ、
支払は義務となる。
ただし、法令化された労働者に対する企業利益の分配(法律第 10101)では、
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この制度に即しての利益分配は特別扱いになっており、労働法及び税務上、報酬
として該当しないという特別条文があり、その法律に基づいた“報酬”の支払で
あれば問題はなくなる。しかし、例えば企業が労働者の意識向上のため、年間売
り上げ 1 億レアルを目標とし達成した場合、報酬として 1%支払う。また、同じ
ようにセールスマンに歩合として売上成果に対する報酬を労働報酬の形で支払
うとなると、完全に賃金の一部になる。したがって、労働法上に定められる負担
金納付の義務も生じてくる。また、歩合の場合、週休に対しても相当分の追加支
払が必要となる。
【労働時間】
労働時間に関しては、
「CLT 第 58∼59 条」及び憲法においても 1 週間当たりの
労働時間が 44 時間と規定されている。この週 44 時間の規定に加え、第 58 条に
は原則として 1 日の労働時間は 8 時間を超えてはならないという規定がある。
つまり 1 日当たり 8 時間(昼食時間及び休憩を含まない実働時間)
、1 週間の労
働時間数は 44 時間までと定められている。ただし、労使協定の中には週最高 40
時間という規定もあるため、CLT だけでなく、労使協約も考慮しておかなけれ
ばならない。
週 25 時間以下の労働時間の場合は、パートタイムの取扱いが適用される(CLT
第 58 条)
。原則は 1 日 8 時間の労働時間だが、CLT 上は第 59 条に超過勤務が
認められており、1 日最高 2 時間と規定している。企業によっては土曜日に出勤
している場合があるが、20 年前まではブラジルでも土曜日は通常午前 8∼12 時
まで仕事していたが、現在土曜日を休日にしているところが多くなった。
【時間外労働及び割増賃金】
超過勤務に対する報酬は通常時間の 50%増しで、日曜勤務の場合は 100%増し
と定められている。さらに労使契約の中で、業種によっては 50%増しではなく、
80%増しの場合もある。また、裁判所の判決で特定業種について 70∼80%増を
認めた判決もある。
【深夜就業】
深夜就業については、第 73 条では夜 10 時∼翌朝午前 5 時までを“深夜就業”
と定め、1 時間を 52 分 30 秒として計算され、最低 20%の割増賃金が設定され
ている。
【残業】
管理職にある者は、残業手当を受ける資格がない。それは “Cargo de Confian
ça”という管理職の立場にあるためである。例えば、
“Gerente”は、会社の役員
や経営者を代表する管理職に相当し、社員に対して給与の差が 4 割以上ある。
また、従業員を解雇できる等強い権限を持った役職である。しかし、名目だけの
管理職であれば、残業手当はすべて支払われる。
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一方、上級の役職には就いていないが実際には役員と同じような権限を持ち、社
員の人事決定、罰則の適用、給与も役員並という場合は “Cargo de Confiança”
とみなされ、残業の支払いが認められない場合もある。
【休日】
ブラジルの法定休日は年間で 12 日ある。このうち 4 日は州、都市、地域ごとの
休日で、8 日は連邦政府が定めた休日である。州、都市、地域ごとの休日のうち
1 日は地方自治体の創立記念日、サンパウロの場合は 1 月 25 日、残りは宗教祭
日である。現在問題となっているのは“カーニバル”である。カーニバルの週の
月及び火曜日は法律上は平日であり、水曜日は半日休み、地方によっては 1 日
休みとなっているが、これらは単なる慣習であり、労働法上の休日にカーニバル
は入っていない。この 3 日間の扱いをどうするかという問題が出てくる。ブラ
ジル人労働者をカーニバル中に出勤させることは現実には不可能である。したが
って年末に翌年度の就業カレンダーを作り、この日数分の労働時間を通常の就業
時間に加算して相殺するスケジュールを作り、労働組合の事前承認を取っておく
ことが望ましい。実現可能な方法として、11 月頃までに翌年度の年間就業プロ
グラムを作成し、事前に従業員に発表し、同意を得た上で労働組合に提出するこ
とである。
【週末出勤の場合の相殺】
労働法上は、週末出勤の場合は翌週の 1 日に代替休日を与えれば問題はない。
しかし、実際にはそれが行われるケースは少ない。企業利益の従業員の参加に関
する暫定措置令が法律化された際、法律には小売店の日曜営業を認める規定があ
る。ただし、1 カ月のうち、最低 1 度の週休は必ず日曜日にとるよう定められて
いる。それ以外の場合は、翌週に与えてもよい。つまり、労働法上は翌週に代休
を与えることで問題は解消される。
【休憩時間】
休憩時間については「CLT 第 66 条」に規定されている。1 日の就業時間は 8 時
間、さらに 2 時間を追加して最高 10 時間と規定されている。この場合、翌日の
労働開始時間まで最低与えなければならない休憩時間は、11 時間と規定されて
いる。しかし、実際には必ずしもこのルールは守られていない。例えば本来就業
時間が午後 5 時までであるが、夜 10 時まで就業したとする。翌日は、平常通り
朝 8 時から始業した場合、休憩時間は 10 時間でこれは規定に違反していること
になる。この場合、被雇用者に対して支払うべき残業手当を支給していれば、従
業員からのクレームは発生しない。しかし、労働局からの監査があった場合、規
定上の最低 11 時間の休息を与えていないため、罰金を科される場合もある。
「CLT 第 67 条」には週休についての規定があり、1 週間のうち継続して 24 時
間の休息を与え、また昼食休憩には最低 1 時間の休憩を与える必要がある。た
だし、社内食堂、作業現場に食堂がある場合は、労働局に申請して許可を得ると
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最低 40 分に認められる。
労働時間が連続 6 時間を超える場合は最低 1 時間の休息時間を与え、6 時間未満
でも 4 時間を超える場合は 15 分間の休憩を与える必要がある。さらに「CLT 第
72 条」に記載されていることは、キーパンチャー、事務計算、帳簿記入等の仕
事をした後は 10 分間の休憩を与える必要がある。労働裁判の判例には、コンピ
ュータ、電話マーケティング等の仕事をする人はイヤホン、コンピュータを使用
して仕事している場合、90 分ごとに 10 分間の休息を与えなければならないとの
判決が出ている。
【年次有給休暇】
年次有給休暇については「CLT 第 129 条」以降に記載されており、すべての被
雇用者は毎年、報酬の損失なく一定の年次有給休暇を享受する権利を有する。1
年間就業することによって、5 日以内の欠勤の場合は 30 日、6∼14 日の欠勤の
場合 24 日、さらに 15∼23 日の場合は 18 日、24∼32 日の場合は 12 日間の有
給休暇の権利が発生する。
「CLT 第 130 条」にはパ−トタイム労働の場合の休暇
について記載されている。
休暇は、12 カ月間働いて初めて休暇の権利が発生することになる。規定上は翌
12 カ月間中に雇用者は、被雇用者に都合のつく時期に休暇を与える。この 12
カ月が過ぎると、被雇用者の希望で休暇が取得できる。通常は、被雇用者側から
休暇の要求時期が打診され、それを尊重して手続きをとることになる。この際、
企業側が不当解雇をする場合は、年次休暇及び第 2 休暇の権利が発生する。
労働者が 1 年未満で辞める場合、2 つの事例が考えられる。1 つは労働者の都合
で辞める場合で、休暇に対する権利は全くない。もう 1 つは企業側が解雇する
場合である。労働者側から見て不当解雇の場合は按分計算で休暇の権利が出る。
例えば、6 カ月の就労後に解雇する場合、1 年間で 30 日の休暇の権利があるた
め、その半分の 15 日間の休暇の権利が発生する。
・
休暇の取り方について
年次有給休暇を取るのは原則年 1 回で、例外的に 2 回とされている。労働
者が家族の休みに合わせて休暇を与える、学生の場合は学校休暇に合わせ
る等細かい規定がある。
集団休暇については「CLT 第 139 条」に規定されている。集団休暇はクリ
スマスから正月にかけて行う。その時期を利用して会社の整備、レイアウ
ト変更を行うこともある。しかし、集団休暇を取る場合、組合の同意を必
要とするため、組合との関係によっては集団休暇が取りにくいこともある。
そのため、法律上の集団休暇方式ではなく、あくまでも労働者本人たちの
任意で休暇を取ることが多い。
1.2.4
年少者、女性、労働安全衛生、アウトソーシング(委託業務や派遣労働)
【女性労働者の保護】
労働法上、女性に対してさまざまな保護がある。
「CLT 第 372∼401 条」では女
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性の不衛生環境での就業及び残業も認めない等がある。ただし、憲法第 5 条で
は男女同権の原則があるため、厳密にはこの条文も憲法の平等の原則に反してい
るという意見もある。しかし、行政令その他では女性、男性の扱いに違いが存在
する。
女性に対する保護の中で重要な点は、妊婦に対する保護である。憲法でも規定さ
れているが、妊婦に対する保護が「CLT 第 391∼393 条」に規定されている。
妊婦に対する保護での留意点は、期限付き及び無期限労働契約においての対応で
ある。
通常、企業での試用期間は CLT では 90 日が最高となっている。業種によって
は 90 日が労使協定で 45 日に短縮されている場合もある。3 カ月間の試用期間
を結び、最後の 1 カ月の時点で妊娠していることが証明された場合、妊婦に対
する職場保証が発生する。この場合、職場保証及び期限付きの試用期間の契約と
の関係は、裁判所の判例によると、たとえ妊婦に対しても職場保証されていない。
これは、採用された時点で 90 日の期限付き契約であるため、
“期限付き契約”
が優先されるからである。無期限の契約の場合、妊婦は出産後 120 日までの職
場保証が発生する。
【年少労働者の保護】
年少労働者について CLT の規定により次のような条件で認められている。
[第 402 条]
14∼18 歳までの労働者を年少労働者という。
[単項]
年少者労働は、専ら家族の者が労働する職場、父母又は後見人の指揮の下にあ
る作業場で、
「CLT 第 404∼405 条」に従うものの労働を除き、本章の規定に
よって規制する。
[第 404 条]
18 歳未満の者に対しては、夜間労働を禁止する。
“夜間労働”とは、夜 22 時
∼翌朝 5 時の間の労働である。
[第 405 条]
次のような労働は年少者が行ってはならない。
・危険又は不衛生な場所での労働。
・年少者にとって有害な場所での労働。
[第 408 条]
年少労働者の法的責任者は、労働が当該年少者の心身両面に有害であることを
条件に、労働契約の消滅を申請することができる。
[第 411 条]
年少労働者の労働時間は、一般労働時間に関する法規定によって規定される。
[第 424 条]
年少労働者の学習時間を著しく削減し、健康、
身体形成に必要な休息を短縮し、
教育を妨げる職から年少者を離職せしめるのは法的責任者、父母又は後見人の
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義務である。
[第 425 条]
18 歳未満の年少労働者の雇用者は、事業所又は企業において善良な習慣及び
公の秩序、並びに労働安全衛生の規則を遵守し、留意しなければならない。
[第 427 条]
企業又は事業所で年少労働者を雇用している雇用者は、通学に必要な時間を年
少労働者に与えなくてはならない。
【労働安全衛生】
労働環境の安全、衛生及び医療に関する問題は、
「CLT 第 162∼164 条」に規定
されている。ここでは企業の業務によって、労働安全に関する専門家又は労働関
係の専門医を雇う必要が規定されている。
企業と最も関係が深いのは「CLT 第 164 条」の CIPA(Comissão Interna de
Prevenção de Acidente do Trabalho:安全委員会)に関する規定である。CIPA
の場合は、被雇用者代表と雇用者代表とで構成される安全委員会であるが、被雇
用者代表は任期が 1 年で、その後 1 年間は一時的職場保証が発生する。組合運
動が激しい時は、労働者には 1 年間の職場保証があるため、CIPA のメンバーを
通じて組合側が企業に圧力をかけることがよくあった。
また、安全医療に関して災害防止のための防具の提供について「CLT 第 166 条」
に規定されている。この防具の問題、
「CLT 第 168 条」で規定されている採用時
の健康診断書の提出、さらに職種によっては 6 カ月ごとの難聴に関する検査等
の細則もある。
防具の問題、入社時の健康診断書の提出の案件は労働裁判、特に労働災害、職業
病に関わる労働裁判に大きな影響を持つため、注意を払う必要がある。労災を防
ぐための防具については、単に防具を従業員に提供するのみではなく、企業がそ
の使用を徹底させなければならない。事故が発生した場合、管理不十分として雇
用者側が責任を問われるケースがある。また、入社時の健康診断書の提出の重要
性は、入社時点で既にあった病気か、又は入社後、就業によって発病したものな
のかを裏付けるデータとして非常に重要である。
1.2.5
就業規則、労働協約
【団体労使協定】
毎年 1 回、ブラジルでは賃金基準を引き上げる時期がある。そこでの交渉の結
果、協約ができ、 “Sindicato Patronal” 、 “Sindicato Profissional”という組合
同士の協定書を作成する。団体交渉を行う時期は業種によって異なる。例えば化
学工業関係、繊維は毎年 11 月で、銀行は 9 月である。またこれと同じように 1
企業、複数の企業、労働者組合が直接交渉を行い成立すると、Acordo Coletivo
という名称で法律的には団体協約と同じ効力のある書類が作成される。団体労使
協約については、CLT において次のとおりに規定されている。
・
団体労使協約
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[第 611 条]
団体労働協約は、規範的性格の合意であって、これにより、2 又は 3 以
上の産業、職業の部門代表組合が当該代表範囲において労働の個人的関
係に関して、適用されるべき労働条件を定めるものである。
・職業部門代表組合は、1 又は 2 以上の対応する経済的職種の企業と団
体協定を結ぶことができる。この協定は、協定企業の範囲でその労働
関係に適用されるべき労働条件を定めるものである。
・産業別又は職業別代表組合の連合若しくは総連合(連合を欠く場合)、
組合組織化はされていないが、これら団体に拘束された部門の関係を
規制するため、その代表の範囲で、団体労働協約を締結することがで
きる。
[第 624 条]
公共機関又は政府官庁の決定に従う料金、価格の引き上げを決定する賃
金の増額又は調整の条項の効力は、これら公共機関は官庁の事前審査、
料金又は価格の高騰の可能性及びその高騰の価額に関する明白な宣言に
依存するものとする。
・
特定企業と労組の協約
[第 611 条第 1 項]
職業部門代表組合は、1 又は 2 以上の対応する経済的職種の企業と団体
協定を結ぶことができる。この協定は、協定企業の範囲で、その労働関
係に適用されるべき労働条件を定めるものである。
1.2.6
その他
【労働条件の変更】
1988 年の憲法制定以降、組合の重要性が注目され、ほとんどの CLT 上の変更及
び規定は、団体交渉、特に組合の参加が必要条件になっている。組合との関係は
“対立”ということではなく、
“対等な立場で”話し合える雰囲気を作る必要が
ある。その理由は、いろいろな意味で組合の同意を得なければ就業規定の変更が
できないためである。また、原則として給料は、一旦規定すると下げることがで
きない。しかし、就業時間、その他の変更は憲法上、給料も含めて労使協約があ
る場合は減給も可能である。つまり、現行の労働法の一部、特に就業時間、就業
条件の変更について、原則として労働者にとって不利な変更は、労働法上は無効
とみなされている。しかし、1988 年憲法以降は、労働者と労働組合の同意の下
に行われた変更であれば、変更を認めるということになっている。したがって、
労働組合との関係は非常に重要である。
【労働者の国内化規定】
CLT に被雇用者の 3 分の 2(給与面から規定)はブラジル人で構成されていな
ければならない規定が「CLT 第 352 条及び第 359 条」にある。しかし、これは
憲法第 5 条及び第 5 条第 13 項に規定されるブラジル人及びブラジルに居住する
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国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
外国人に対する平等の原則に反するとの理由から無効であるとの法廷論争があ
る。労働管理局は、本法律、政令に基づき行政管理を行っているが、反対意見が
あるにも関わらず、管理局からはいろいろな指摘がある。ブラジルでは、ブラジ
ルに在住する外国人もブラジル人も全く同じ権利が憲法 5 条の中で保証されて
いる。例えば、ブラジルでは外国人が社会保険院(INSS:Instituto. Nacional de
Seguro Social)に年金を支払っている場合、事故で死亡した場合でも遺族に対
して額面の 50%が支給される。
・
CLT に定められる規定
[第 352 条]
特許による公共事業を行うもの、工業又は商業活動を行う個人又は団体
の企業で 3 人以上の被雇用者で構成されるものは、
その人事においては、
本章に規定する以上のブラジル人の割合を保持しなくてはならない。工
業又は商業活動の一般的名称には、労働省令に定める活動のほか、下記
において行われるものが含まれる。
・一般工業事業所。
・通信、陸上、海上、河川、湖沼及び航空輸送の業務。
・ガレージ、修理工場、自動車給油所及び馬屋。
・水産業。
・商業事業所。
・一般事務所。
・銀行事業所又は団体経済、保険業及び投資業の事業所。
・ジャーナリズム、広告及び放送事業所。
・薬店、薬局。
・理髪店、美容院。
・大衆娯楽施設(演劇参加者を除く)及びスポーツ・クラブ
・ホテル、レストラン、バール及び同種のもの。
・病院及び理学療法施設で有料のもの。ただし、宗教的誓願によって労
働する者を除く。
・鉱業。
・独立団体、公社、官民混合会社及びその他の直接又は間接行政機関で
その人事に CLT の規制する労働者を有するもの。
[第 359 条]
いかなる企業も外国人が正規に記入している身分証明書を呈示しない限
り、業務に外国人を雇用してはならない。
[単項]
企業は、労働者登録帳簿に関連の資料及び当該身分証明書の番号を記録
しなくてはならない。
【個別労働契約(Contrato Individual)
】
「CLT 第 442∼456 条」には個別労働契約に関する規定があり、成文化された
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国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
書類の有無に関わらず、
「CLT 第 2 条及び第 3 条」の条件が整えば雇用関係が成
立したものと見なされることが「CLT 第 442 条」に規定されている。従って、
成文化された労働契約書がなくても証人あるいは就労していた事実関係を立証
できれば、雇用関係に関わるいろいろな権利の申し出が可能である。労働者登録
帳簿に記載がなく、労働契約書がない場合でも雇用関係の事実を基に意義を申し
出ることが多々ある。
この個別労働契約の中で、特記される点がいくつかある。1 つは期限付き労働契
約書についてで、
「CLT 第 445 条」の中に最長 2 年間を超えてはならないという
条文がある。外国人労働者が仕事のためにブラジルに入国する場合、入国ビザを
取得しなければならない。ビザには永住を目的とした“永住ビザ”
、その他に就
労を目的とした“一時滞在ビザ”がある。後者の就労ビザの基になるのが労働契
約で、その労働契約書の期限が 2 年となっているため一時滞在ビザの期限は 2
年間で、1 回の延長によって計 4 年間のブラジル滞在というのが一般的である。
したがって、期限付き労働契約は最長 4 年が可能である。期限付きの労働契約
は 1 回のみの延長が可能であって、それ以外は無期限の労働契約に切り替えな
ければならない。
期限付きの労働契約に関して、試用期間の労働契約は原則として 90 日を超えて
はならない。ただし、労使協定で 90 日が 45 日又は 30 日に短縮されている場合
があるため、業界によっては労使協定の内容を核にする必要がある。
【下請け制度:労働者組合制度“Cooperativa”
】
「CLT 第 442 条」の中の労働者組合制度について、いかなる業界の組合でも組
合員と組合との関係には雇用関係は有り得ない、さらに組合を経由してサービス
を受ける側との関係においても雇用関係は成立し得ないという条文が 1994 年の
法令 8949 号で追加されている。
労働組合を通じてのコストは保証負担金 (INSS) 、その他の付帯金が 20%かか
る。その場合、従業員として雇った場合の間接コストが 100%に対して 20%程
度で済む。したがって、金銭面では非常に安いコストになるとの観点からこの労
働組合を利用して仕事を行っている企業も多い。サービスを受ける企業に対して
サービスを供給するのが労働組合、それを構成するのが組合員だが、「CLT 第
442 条単項」では労働組合と組合員の間には雇用関係がないことが明記されてい
る。注意が必要なのは、内容によっては直接、組合員とサービスを受ける側との
雇用関係が成立するリスクがあることである。
【労働契約の変更について】
労働契約の条件変更は原則として労働者の同意がなければ有り得ない、また同意
が得られた場合でも労働者の利益を損なうような変更は無効であることが「CLT
第 468 条」に規定されている。これはブラジル CLT の労働者保護の象徴的な条
項で、全く融通性がない。条件変更する場合の手段として考えられることは、労
組を中に入れて問題解決する方法しかない。
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国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
【労働者の利益参加】
労働者の企業利益又は成果に対する参加権については、
「2000 年 12 月 19 日付
法律 10101 号」によって法制化された。1946 年の憲法においても定めはあった
が、1994 年までは具体的な細則や法令化が行われていなかった。1994 年末にな
って当時の政権の末期に暫定令として国会に上程され、その後 6 年半にわたり
同暫定令の再公示が繰り返されて、2000 年の 12 月に法律化された。
この法律の内容は、企業の当期利益に対して、労働者の利益参加を認めるもので
ある。配分については、労使双方が話し合い、いろいろな規定が設定される形に
なっている。
その話し合いには 2 つあり、第 1 は被雇用者代表、企業代表及び組合代表の三
者会談で決める形式である。第 2 は企業組合と労働者組合の協約に利益参加の
規定を盛り込むという方式がある。禁止条項としては、利益参加の対象期間は、
6 カ月間を下回ることは認めらない。さらに同法律の 3 条に記載されている重要
な点は、利益参加の名目での支払いに対しては、給与に対して付随する負担金の
納入義務、休暇、13 カ月給与の計算対象にはならないことである。
また、利益分配を 3 回以上継続した場合、一種の既得権になるという問題があ
ったが、この利益参加による法令に基づいた支払いであることを明らかにしてお
けば、その問題は解消できる。したがって、この方式を適用することにより給料
で最低水準を保証した上、利益参加で企業利益を従業員に還元補充することが可
能になってくる。給与に付随する納入金、労働法上の権利に波及する問題が避け
られる意味でも企業は検討する価値はある。
【労働法上の名誉毀損】
最近の労働訴訟の中で非常に増えてきている問題が名誉棄損である。1988 年憲
法以前、名誉棄損は物質的、有形の損害が中心であり、精神的被害に関する問題
は数字的に把握できないという理由からほとんど顧みられなかった。ところが、
1988 年憲法制定以降、従来の判例に基づき、労働裁判でも雇用者側に過失があ
った場合、単なる物質的損失のほかに、精神的被害を償う意味で賠償金を請求で
きる条文がある。これは、1988 年憲法に謳われ、労働者差別、名誉毀損等の問
題が労働裁判でも取り上げられるようになってきた。代表的なものがマスコミ等
で注目されるセクシュアル・ハラスメントだが、それだけでなく、会社都合で解
雇した場合の名誉毀損、精神的被害、苦痛を与えた等の理由により損害賠償の対
象になる。当初この問題は民事裁判所で取り扱われていたが、最高裁の判断によ
り労働関係の名誉毀損は労働裁判所の管轄となった。ブラジルの労働裁判は労働
者保護が強い傾向があり、この問題について雇用主側は十分気を付ける必要があ
る。
14
国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
1.3
労使関係法令
1.3.1
労働組合
労働組合に関する規定は「CLT 第 511∼569 条」に定められており、労働者組
合及び雇用者組合(企業組合)があり、それぞれが経済的条件を擁護するため組
織化している。労働者側の組合が職種別に作られているのに対し、企業組合は産
業別に組織されている。例えば、機械金属労働組合は機械工場の労働者組合であ
り、同様に銀行員組合も組織されている。組合の制度として憲法上、同一地域に
複数の組合を作ることは禁止されている。したがって、日本のような企業内組合
はブラジルでは認められていない。例えば、サンパウロ市に特定職種の組合は 1
つしか認められていないが、同じ金属機械分野でも工作機械、自動車関係、農業
機械、精密機械等範囲が非常に広く、内容は大きく異なる。
組合は、労働者組合と企業組合が存在するが、これらの上部団体は、州単位とし
ては連盟、全国レベルでは連合である。FIESP(Federação das Indústrias:サ
ンパウロ州工業連盟)は、サンパウロ州の企業組合である。国レベルとしてはリ
オにある CNI(Confederação Nacional de Indústrias:全国工業連盟)である。
労働組合の資金源として、
組合に対する納入金があるが、
これは憲法第 146∼149
条に基づく税金である。企業の場合は資本金に比例した組合納入金が定められて
おり、従業員の場合は 3 月の給与から 1 日相当分の納入金を差し引き、4 月にそ
れぞれが所属する組合に納める。
1.3.2
労働争議解決システムに関する法令
【労働裁判所】
ブラジルの司法権は、STF(Supremo Tribunal Federal:最高裁判所)があり、
その下に TST(Tribunal Superior do Trabalho:高等労働裁判所)がある。高
等裁判所には、案件に応じて労働裁判所、選挙裁判所、軍事裁判所がある。
労働裁判所については、TST の下に地方労働裁判所がある。サンパウロ市の場
合は、第二管轄裁判所があり、さらにこの下に 100 カ所程の第一審が持ち込ま
れる裁判所がある。労働者側から訴訟を受けると、それに対して企業側が反論を
申し出る。第一審の判決が出ても、両者のいずれかは第二審へ上訴できる。ブラ
ジルの制度は “Dupla Grau” と言い、第一審、第二審と 2 回にわたって審理さ
れる。第一審の判決が上訴され、第二審で確定して始めて、判決が執行される。
したがって、ある意味、第一審判決は仮処分的性格がある。第二審の判決で、地
方労働裁判所の判例に相反するようなものがある場合、高等労働裁判所へ上訴す
ることができる。しかし、上訴した場合でも第二審の判決に基づき、有利な判決
を受けた方がそれを行使することができる。第三審への上訴は、あくまで内容の
再審査という意味で、判決文の仮執行は、第二審判決によって行われる。
TST まで行く事例は、連邦法令の条文に反するような判決文になっている場合、
上訴できる。さらに高等裁の判決が憲法に反する場合、最高裁に上訴できる。し
かし、大半が第一審、第二審で終わる。サンパウロの場合、第一審の結論が出る
まで 2∼3 年、第二審が約 1 年であり、結論が出るまで約 3∼4 年かかる計算に
15
国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
なる。この第二審で確定判決が出ると、判決執行に関して “Liquidação” という
清算手続きに入る。これもすぐに支払いが始まるわけではなく、プロセスが長引
き、案件によっては 5∼6 年かかる場合もある。そのため、弁護士費用、その他
の費用で第一審の結論が出た時点で和解し、請求額の 60%程度の和解に持ち込
むこと、分割払いにする等で早めに決着をつけることになる。企業は弁護士に任
せる場合が多いが、内容によっては直接相手と話し合って解決したほうがコスト
を抑えられ、相手も交渉に応じることが少なくない。
順序としては、原告が訴えると裁判所から被告に通告が来る。通告書には原告の
申請書のコピーが添付されてあり、申請書を受け取ってから会社側は具体的に事
実関係の把握及び申し出の正当性を確認して、弁護士とともにに反論書を作成す
るのが一般的である。
また、特定人物が過去に労働裁判を起こしているか確認する方法としては、労働
裁判所の “Cartório de Distribuição” 、又は “Secretária” という事務局で、証
明書の申請をすれば確認できる。ただし、地域ごとに裁判管轄区域が違うため、
一カ所でブラジル全土における過去の労働訴訟が確認できるというわけではな
い。また、労働者採用時に人材会社を通じる場合は、無犯罪証明書、過去の訴訟
の前歴証明書を添付させることもできる。また税金についても租税完納証明書、
INSS への納入金の滞納についても申請すれば証明書がもらえる。
【社内事前調停委員会】
ブラジルでは年間 200 万件に上る労働裁判があるが、その大半は訴訟金額が小
額のものである。そこで労働裁判所の効率化を図るため、社内事前調停委員会
(Comissão de Conciliação Prévia) というものを法制化した。この法律は 2000
年 1 月 12 日付 9958 号であり、裁判所に持ち込む前に労働者代表と雇用者代表
で構成される委員会で事前に調停を行い、問題の解決を図るものである。このメ
ンバーは最低 2 名、最高 10 名で構成されている。これは企業ごとに委員会を設
立してもよいし、組合を基にした委員会を設立してもよい。調停が成立した場合、
その調停内容は司法裁判の判決と同じ拘束力を持つ。反対に調停が合意に至らな
かった場合は、その事実関係を書類でまとめ、それに基づき労働裁判を申請する
ことができる。さらにこの委員会について組合も企業もまだ本当に真剣に考えて
いないことも指摘できる。労働法に関わるトラブルは当事者同士が話し合って解
決するということを優先しているのがこの法律だが、その具体的処置を進める企
業も組合もまだ動きが鈍い。
【簡易裁判制度】
Procedimento Sumaríssimo という簡易裁判制度が 2000 年 1 月 12 日付法律第
9957 号で制定され、訴訟金額が最低給与の 40 倍(6,000 レアル程度)までの案
件は、簡易裁判制度に申請できる。この裁判制度のメリットは、裁判が迅速で普
通は判決文の執行まで 5∼6 年かかるのが、15 日以内に第一審判決が出るという
ものである。ただし、規定上は 15 日だが、実際には数カ月間を要している。
16
国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
【労働裁判における手続き】
労働裁判の具体的手続きについては、
「CLT 第 763∼909 条」に訴訟手続法が定
められている。本条文は、弁護士、法学者の専門家が研究する内容だが、企業側
が実際に訴訟の当事者である場合、また、手続き上に疑問がある場合、第 763
条以降を参照することが必要となる。
1.4
労働保険関係
【労働者災害補償保険、雇用保険、健康保険、年金に関連する社会保険制度】
ブラジルには INSS が管理する社会保険制度があり、国民健康保険、雇用保険、労
災保険及び老齢年金、家族手当等が統合した形で制度化されている。社会保険は法
人及び個人の負担により、NISS に納入される。負担額は被雇用者の場合は、給与
に応じて 8∼11%、雇用者側は支給給与額の総額に対して 20.0∼22.5%。自営業者
は政府が設定する基礎給与額に対して 20%の負担率で納入する。
老齢年金の支給は、保険料の納付期間が男性の場合 35 年間、女性の場合は 30 年間
と定められている。年齢による規定では、男性 65 歳、女性 60 歳に達することを条
件として支給される。公務員の退職年金は、最後に受領した賃金額が保証されてい
るため、年金財政を圧迫する原因となっている。
そのほかに障害、疾病によって労働が継続不能になった場合も支給対象となる。疾
病及び労災の場合、社会保障制度上、支給される手当は離職の後 16 日目から開始
される。失業保険は、3∼5 回の分割払いにより、労働省が定める補償額が支払われ
る。妊婦に対しては、企業から出産休暇中(120 日間)出産給与が支払われ、企業
は社会保障財源から償還を受ける。妊婦は出産後 5 カ月まで雇用保障があり、この
雇用保障期間はさらに団体協約により 3 カ月間延長される。
【勤続年限保証基金(FGTS)
】
FGTS は、憲法第 7 条第 3 項に労働者の権利として、社会保障及び CLT 上、労働
者の権利を保護するために定められている。本制度は、雇用者側である企業に労働
者のため退職手当を積み立てることを義務付けている。基本的には労働者が退職す
る場合、退職金として支給する制度であるが、退職金のほかにも住宅購入、失業等、
規定に基づいた名義人の必要資金と認められる場合、支給することができる。
企業は FGTS として、被雇用者の月給の 8.5%に当たる金額を FGTS 口座に積み立
てなければならない。また、被雇用者が正当な事由なく、解雇された場合、雇用者
は当該積立金に加えて 40%上乗せして支払わなければならない。
1.5 職業能力開発法令
1.5.1
職業能力開発制度
労働法上、雇用者は被雇用者の一定比率の人数を企業見習生として雇用し、彼ら
を SENAI(工業実習訓練サービス)又は SENAC(商業実習訓練サービス)に
17
国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
おいて職業教育を受けさせるという教育訓練制度がある。本制度は若年労働者の
職業訓練制度の一環として定められているが、組織及び設備が整備されていない
場合が多く、監督の不行き届きもあり、本来の目的を果たしていないのが現状で
ある。雇用者は、被雇用者の教育、訓練を普及するため、次のような名目で、全
被雇用者の給与総額から一定割合で支払う義務がある。
・
SESI(工業社会サービス)及び SESC(商業社会サービス)
商工業に関する種々の講習を開催し、教育指導、文化、スポーツ、娯楽等
の活動を行う。企業は被雇用者の給与総額の 1.5%相当を負担する。
・
SENAI 及び SENAC
工業商業の教育機関であり、雇用者は被雇用者の給与総額の 1%相当を負
担する。
・
教育給
教育を普及する目的で雇用者は被雇用者の給与総額の 2.5%相当を負担す
る。
上記とは別に、企業研修制度がある。研修生は中等及び高等教育、その他の職業
養成機関に通学している学生を企業が研修生として受け入れる制度である。学生
及び企業は約束の文書を取り交わし、教育機関が仲裁する。本制度には雇用関係
はないが、一般に研修が同企業に就職するための見習い期間としての役割を果た
しており、研修終了後、雇用契約を成立させる場合も多い。
1.5.2
職業能力評価制度
調査中
1.6
その他の雇用労働関係法令
1.6.1
職業紹介制度
調査中
1.6.2
外国投資法により進出した企業で、海外から招聘され就労するものの労働許可条
件
【外国人の就労ビザの取得】
ブラジル現地法人を設立した後、日本人が出向する形をとることが一般的である。
その場合、ブラジル政府から労働ビザを取得しなければならない。労働を目的と
したブラジルの入国ビザを取得するためには原則として以下の 3 種類がある。
(1) 商用ビザ
商取引及び交渉のために短期滞在をする場合に利用する(期間は最長 90
日間で、1 回のみの延長可能である)
。
(2) 業務ビザ
業務ビザは、技術者等がブラジルの受入れ工場等で技術指導を行う場合の
短期の労働ビザ(期間は最長 2 年間で、1 回のみの延長可能である)であ
18
国名:ブラジル(調査大項目 1:雇用労働関係法令)
2008 年 10 月 30 日
る。なお、日本からブラジル現地法人へ指導者が赴く場合、最近は“業務
ビザ”に加えて、
“技術支援ビザ”と呼ばれる 90 日間と 1 年間のビザが認
められている。
(3) 永住ビザ
永住ビザ取得には、以下の 2 種類の方法がある。
(a)
個人の資本でブラジルに会社を設立し、1 人につき 5 万ドルの投資が
行われれば、永住ビザ(労働許可証)を取得することができる。この
ビザは個人に対してブラジル当局が発給するビザであり、法人に対し
て発行される永住ビザ証枠とは異なる。
(b)
外国の法人がブラジルで現地企業を設立し、その経営に外国人を赴任
させる場合、1 名につき 20 万米ドルの投資金によって永住ビザが発
給される。ただし、5 年後に更新手続が必要である。なお、会社経営
管理者として永住ビザを申請する場合、出資者会の議事録を作成の上、
候補者を事前に指名する必要がある。
一連の手続開始から会社設立及びビザ取得までの期間は、書類上に不備が
なければ、通常 3∼6 カ月間である。査証手続に関しては、当事者として
要点、手続のプロセスを理解しておくことは重要ではあるが、査証代行業
者、旅行代理店、弁護士事務所等、日本とブラジルにそれぞれ連絡事務所
を構えている経験豊富な業者がいくつかあるので、実際の作業については
業者を利用することが一般的である。
1.6.3
海外から招聘され就労するものの加入義務ある制度
調査中
19