BRICs生みの親 ~ジム・オニールの視点

情報提供資料 2013年4月
GSAM 会長
ジム・オニールの視点
世界
最後のViewpointsをお届けするに際し、世界について考えることにしました。最終ページに添付したのは、木曜
日にニューヨークで開催したGSAMグロース・マーケッツ・サミットで、開会にあたって私が行ったプレゼンテー
ション資料です。サミットは大変な成功を納めました。講演者、パネリスト、そして特にゲストとしてお越しい
ただいたお客さま一人ひとりに感謝申し上げます。
主要テーマは、発展中の国々で進行する経済成長と、それに伴う課題です。プレゼンテーション資料の2ページ
目には、世界の人口ランキング上位20ヵ国を示しています。人口の規模だけが経済成長を牽引するわけではあり
ませんが、大国になるにはなくてはならない条件です。このリストにある20ヵ国のうち、いわゆる先進国に属す
るのは、米国、日本、ドイツのわずか3ヵ国です。これらはもちろん、世界の先進国中、最も人口の多い3つの国
です。これら以外では、4つのBRIC諸国とN-11(ネクスト・イレブン)のうち、10ヵ国が入っています。人口だ
けに着目すれば、韓国はこのリストに含まれていないので、N-11の仲間入りをしていることに満足しているので
はないでしょうか。この他エチオピア、コンゴおよびタイの3ヵ国は、N-11に組み入れられていないことに最も
不満を感じているでしょう。サッカーに例えれば、控えのベンチに座っているようなものだからです。今回のサ
ミットでは、多くのゲストの方々から、リストにある20ヵ国の多くで、注目すべき事象が起きているという話を
うかがいました。個人的に最も興味を引かれたのは、消費者に注目して投資しているという投資家の方からうか
がった、運用するファンドの44%を最近格付が引上げられたメキシコとフィリピンに振り向けているという話で
した。また、ナイジェリア随一の都市ラゴスの市長とのお話で、彼もマンチェスター・ユナイテッドのファンで
あることが分かったことが、私にとっての、もうひとつのハイライトでした。
プレゼンテーション資料の3ページ目は、2012年末現在での、米ドルベースでの名目GDP上位20ヵ国リストです。
このリストには、最初のリストに入っていなかった7つの国が入っています。カナダ、オーストラリア、スペイ
ン、韓国、オランダ、サウジアラビア、そしてスイスです。すでに申し上げた通り、これら7ヵ国に投資する方
が、他の13ヵ国に投資するよりもパフォーマンスが高かったかどうかを立証できたら興味深いことになるのでは
ないかと思います。人口の大きい国に投資する方がより高い投資パフォーマンスを上げられるのかどうかを単純
に測ることができると思われるからです。当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを
指します)が実際に計測したところでは、過去15年では、この人口の少ない7ヵ国に投資した方が、他の13ヵ国
に投資するよりもパフォーマンスが良かったという結果になりました。但し、その差はさほどではありませんで
した。以前からしばしばご紹介してきた通り、この表に韓国が含まれていることには理由があり、この国は間違
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いなく、他の新興国にとって模範となっているのです。
この日のイベントを通して、中国の重要性について何回も言及されましたし、人口規模が大きければ将来の経済
成長率が高くなるのか、そして(あるいは)投資リターンも高くなるのか等の質問が投げかけられました。それ
に対してかなり疑問有りとする参加者もあり、その中には、ユーラシア・グループのブレナー社長や、チュー
ダー・インベストメント・コーポレーションのポール・チューダー・ジョーンズ2世などもいらっしゃいました。
他の参加者からは、中国が彼らの売上や収益に与えている影響や、それがもたらす期待感を直接うかがうことが
できました。
もちろん規模イコール富ではありませんが、そのことを忘れてしまいがちです。資料4ページ目を使って私が説
明した通り、現在人口の最も多い国で、一人当たりGDPトップ20にランク入りしているのは、米国、日本、ドイ
ツの3ヵ国だけです。この他米ドルベースのGDPトップ20に入っている国でランクインしているのは、カナダと
オランダだけです。総合してみると、世界の経済大国のうち、一人当たりGDPトップ20にランク入りしているの
は、5ヵ国だけなのです。したがって、大きいことイコール豊かということではなく、規模が小さくても豊かに
なれるということです。他の国々の経済規模が大きくなっているからと言って、それを恐れる必要はありません。
自らも、豊かであり続けることが可能であるからです。事実、プレゼンテーションでは国々が貿易パートナーを
変えていく様子を示す図表が続いていますが、それらを見ると、BRICsやN-11の経済規模が拡大することで、す
べての国の富が拡大していることが見て取れます。このことに会議では触れなかったのですが、韓国は一人当た
りGDPランキングで27番目です。これを見ると、韓国が人口の多い新興国にとって、素晴らしい手本となること
が分かります。また、シンガポールも事例としては取り上げなかったのですが、この小さな島国は、多くの西欧
先進諸国にとってよりも、中国のような国にとっての手本になるのではと思います。
成長率の変化で見れば、資料5から7ページ目より分かる様に、劇的な変化が起こっています。2001年から2010
年の10年間の名目GDP成長に対する「グロース8」(BRIC4ヵ国といわゆるMIST(メキシコ、インドネシア、韓
国、トルコ)各国で、各々が世界GDPの少なくとも1%規模を有す)全体の貢献度は、2010年の米ドルベースで
見たG7の貢献度を上回っています。この10年間(2011年から2020年)では、「グロース8」の貢献は、G7の3
倍近くなりそうです。BRIC諸国だけで見ると、その貢献度は、G7の2倍を超え、N-11全体の貢献度は、米国を
上回ると考えられます。「グロース8」各国の世界GDPへの貢献度は、すべてトップ10に入りそうです。中国の
貢献度は、他の「グロース8」諸国の合計と同程度となりそうですが、7ページ目でご覧いただける通り、中国の
成長率は、「わずか」7.5%なのです。実際、私はこのページを、おそらく最も重要なページであるとGSAMグロー
ス・マーケッツ・サミットで述べました。中国が7.5%、そして先進国が潜在成長率に近い成長を示せば、世界
GDPの成長は約4%となります。重要なのは、もしこの通りになれば、中国と「グロース8」諸国が引き続き成長
することによって、世界経済は、より強い成長を遂げるということです。また、N-11の成長が加速するのと対照
的に、中国経済が原因でBRICグループの成長が減速しているとすれば、そのことがN-11の株式市場のパフォー
マンスがBRIC市場を上回ることを示すデータが増加傾向にあることの理由なのでしょう。この点も指摘しませ
んでしたが、ブラジルとロシアは、前10年と今10年を比べると、当社が予測したペースでは成長していません。
これは、2001年からの10年間の成長が高かったためと思われます。こうしたデータにも関わらず、ある消費関連
のパネルディスカッションの中で、ある投資家は、ロシアに対しての期待を示していました。
8 ページ目について、私はあまり説明をしなかったのですが、最もインパクトの強いスライドではなかったかと
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思います。中国とインド、および世界 GDP の 1%を超える規模の新興諸国が、2050 年の世界 GDP において極
めて大きいシェアを占めることを示したものだったからです。N-11 のうち 9 ヵ国がこの中に入っており、現在
N-11 中、世界 GDP の 1%を超える国は 4 つなので、これにさらに 5 つが加わることになります。これらの国々
は、その人口構成ゆえに、今後の成長可能性が高いと思われます。ただし、このうち何ヵ国かは、現在非常に大
きな課題を抱えています。
9 から 14 ページ目までは、現在、世界貿易において実際に起こりつつある変化と、2020 年における貿易の傾向
予測を示しています。私は、特に 14 ページが重要であると思います。これは、国連統計部による 2013 年報告書
から引用したものですが、いわゆる「南南」諸国間での貿易量が、すでに「北北」諸国間での貿易量に匹敵する
ものになっています。9 ページ目と 10 ページ目を見ると、2 つのシナリオにおいて、2020 年に輸出市場として
トップ 3 にランクされるのがどの国であるかが分かります。2 つのシナリオとは、
(1)2000 年から 2012 年にか
けてのトレンドが続く(2)すべての国の中国向け輸出が、中国の複雑な状況を勘案して 2000 年から 2012 年の
ペースのわずか 2 分の 1 になってしまう、というものです。
すでに申し上げた通り、人口が多いからと言って、経済的な成功が約束されるわけではありません。15 ページ
目には持続可能な経済成長、あるいは生産性を測るものさしとして利用されている GS 成長環境スコア(GES)
が示されています。各変数ならびに 18 の変数を総合した指数(
「グロース 8」に関しては、16 ページ目に掲載)
が 0 から 10 までのスケールで表されています。冗談で申し上げましたが、10 はマンチェスター・ユナイテッド、
0 はリヴァプールです。ただし、先週のサッカーの結果を見ると、「10 はボルシア・ドルトムントだ」と申し上
げるべきかもしれません。面白いことに、その日の午後、プレミアリーグならびにリヴァプール FC の元最高経
営責任者リック・パリー氏と、米国サッカー協会会長のサニル・グラティ氏とのディスカッションの司会をつと
めました。2 人は、ドイツサッカーのしくみから学ぶものが多いと考えているようでした。パリー氏は、2014
年にブラジルで開催されるワールドカップでは、スペインよりもドイツが優勝する可能性が高いのではと発言し
ていました。
GES に話を戻します。ゲストとしていらしていた各国大使に対して、私は韓国の成功を引き合いに出し、それ
ぞれの国で影響力を持っている人々に韓国訪問を促し、それぞれの経済運営に対して参考になることを取り入
れ、実行するように勧めて下さいと提案させていただきました。
プレゼンテーションの最後に、米国の話をしました。そこでは、最近の状況の変化によって、おそらく多くの人々
が考えている以上に、米国が世界の状況変化の恩恵を享ける立場になっていると述べました。これは、米ドルと
エネルギーの国際競争力の上昇が、ビジネスにとって有利に働いているためです。13 ページ目を見ると、米国
の中国、BRIC および N-11 向け輸出が極めて好調であることが分かります。興味深いのは、同じデータから、ド
イツ向けの輸出の勢いが減速気味であることです。米国の貿易収支を見ると、18 ページ目にある通り、好調と
はとても言えないものの、世界情勢の変化が経常収支と広義の貿易収支の改善をもたらしていることが分かりま
す。
19 から 22 ページ目については、重点的にお話しする時間がありませんでしたが、この 4 ページのうち 3 ページ
に示されていることは、中国の発展状況と、その米国への影響です。21 ページ目は、私がよく使っている鉱工
業生産に対する個人消費の推移ですが、これは非常に重要です。また、このところは、良い傾向を示しています。
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23 ページ目が私の最後に説明したページとなりました。そこでは、世界経済の成長を見てどの国に投資すべき
か結論づけることはできないが、もし 2011 年から 2020 年までの状況がほぼ私の予測した通りに推移するとす
れば、株式リスクプレミアム(ERP)が、今の高い水準を維持することはないだろうと示しています。現在の
ERP の水準から判断すると、株式市場が、世界の多くの地域で未だに魅力的であるという事実は変わっていませ
ん。
私の開会プレゼンテーションに続いて行われた多くのセッションや、私が司会をつとめたサルコジ元フランス大
統領(2007 年〜2012 年在任)への興味深くかつ示唆に富んだインタビューについては、コメントを差し控えま
す。講演者やパネリストとしておいでいただいた皆様にお詫び申し上げなければならないのは、スケジュールの
関係で、いくつかのパネルディスカッションを拝聴することができなかったことです。申し訳ございませんでし
た。同僚のケイティ・コッチから聞いたところでは、全部で 47 名の方にお話いただいたようです。その中で、
お話を拝聴できなかった方々、コメントできなかった方々に対し、いくつかコメントさせていただいて、
Viewpoints を終わろうと思います。
今回は、中東、食料と水資源、教育、新中国、世界の新たな地政学的秩序、女性(新興国における最大の資産で
す)、N-11、新デジタル時代、そして元米陸軍大将のスタンリー・マクリスタル氏へのインタビューといったセッ
ションを設けました。マクリスタル元大将のお話は、何とか半分程お聴きしましたが、極めて興味深いものでし
た。パネルディスカッションも、すべて同じくらい素晴らしいものであったと聞いています。私からは、すでに
来年の GSAM グロース・マーケッツ・サミットの日程が、4 月 8 日と 9 日に予定されていることをお伝えしま
した。
ゼネラル・エナジー社の最高経営責任者であり、元ブリティッシュ・ペトロリアム最高経営責任者であるトニー・
ヘイワード氏からは、世界の諸勢力と石油市場の動きについて素晴らしいご案内をいただきました。その世界で
のヘイワード氏の豊かな経験を、存分にご披露いただきました。
個人的に強い印象を受けたもののひとつが、発明者であり、浄水装置メーカーであるライフセーバー社の創設者
マイケル・プリチャード氏の素晴らしいプレゼンテーションでした。多くの人が私の 2050 年代に対して抱いて
いるビジョンを実現するための資源が十分に備わっていないと思う中、プリチャード氏は、安心して飲める水を
創り出すために彼が取り組んだ素晴らしい挑戦について語ってくれました。彼の素晴らしい発明は、2004 年の
スマトラ沖地震による津波がきっかけとなったものです。そこでの成功を語るため、プリチャード氏は、ハドソ
ン川の水で満タンにした水タンクをステージに持ち込み、その中にさまざまなものを入れてかき混ぜました。中
には、とっておきのニューヨークの馬糞もありました。彼がステージを去るにあたって、実験台となっていた私
は、ギフトとして、ボトル型浄水器をほんの 10 秒ばかり通り抜けた水を飲むよう勧められました。びっくりし
ました。このような技術を広げて行くことができれば、世界は、今とはまったく違う、幸せな場所になることで
しょう。
もうひとつ、私にとって思い出深いものとなったのが、ポール・チューダー・ジョーンズ 2 世へのインタビュー
でした。今や絶好調といった様子でした。冒頭のコメントの中で、彼が述べたのは、欧州株式に対する極めて強
気の見方でした。論拠は、先週私がご紹介したロゴフ—ラインハート問題と、欧州中央銀行(ECB)による追加
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的刺激策が見込まれる点でした。エンリコ・レッタ氏が、おそらくイタリアの新首相として指名を受けることも、
先週のその発言内容から見て、明らかにジョーンズ氏の強気の見方の根拠となっているようです。
もうひとつ、私にとってのハイライトは、サッカーに関するパネルディスカッションでした。このディスカッショ
ンを聴いていて、ドイツから学ぶべきは、製造業だけではないということを確信しました。
今回のイベントについては、ケイティ・コッチ、ジェシカ・ドゥイエブ、ステファニー・ロバーツ、ルーク・バー
ス、リジー・マックスウェル、ザカリー・チャン、カイリー・ラレンに感謝します。素晴らしいイベントでした。
ゴールドマン・サックスや GSAM での現在、そしてかつての素晴らしい同僚たちの成功を祈ります。世界中の
顧客の皆様、ありがとうございました。最後に、70 億を超える世界中に住む人々に、中でもマンチェスター・
ユナイテッドファンの皆さんに、幸運がありますように。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:4 月 29 日)
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GMSummit
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、GSグローバル・イ
ンベストメント・リサーチ、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・部門の視点を
反映するものではありません。本資料はGSグローバル・インベストメント・リサーチが発行したものではあり
ません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
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