今すぐできる選りすぐりのアイデア 街でみつけた商売繁盛のヒント 酒井

酒井とし夫の
街でみつけた商売繁盛のヒント
今すぐできる選りすぐりのアイデア
19回
第
こんにちは、酒井とし夫です。私は自分で商売をしながら経営戦略や戦術を学ぶにつれて、こんなことを思う
ようになりました。
「日常生活で何気なく見ているモノやコトの中にこそ、よく考えられた集客ノウハウや広告宣伝、販促、マー
ケティングのテクニックがぎっしり詰まっている。」
スーパーに置かれている買い物かごの位置にはちゃんと理由があ
ります。街の繁盛店の店頭ワゴンに並ぶ商品にはオーナーの意思と
意図が現れています。店舗のレイアウトはその企業の膨大な調査と
経験の集大成です。POP、値決め、色使いはその企業やお店の試
行錯誤とテストマーケティングの結果です。毎日、目にするチラ
シ、DM、雑誌、TV、新聞、書籍、ホームページには読み手の興
味と関心を引く効果的なコピー作成ノウハウが凝縮されています。
そんな日常生活の中で私が見つけた商売に役立つヒントやアイデ
ア、ノウハウを毎月紹介します。是非、あなたのご商売や会社経営
ファーストアドバンテージ有限会社
代表取締役
に応用するにはどうしたら良いのかを考えながらお読み下さい。
売らずに売る
全国で学習塾を展開する株式会社関塾の創業者であ
る田部井昌子さんは、結婚された当時、ご主人の家電
販売店のお手伝いをしていたそうです。
当時は昭和30年代。ご主人が経営していた家電販売
店の経営状況はかんばしくなかった。30年代半ばにカ
ラーテレビが登場しましたが、田部井さんは、お店の
経営を立て直すべく、カラーテレビを買ってくれそう
なお客様のところを営業して回ったそうです。
でも、当時のカラーテレビはとてもとても高価。庶
民がそうそう簡単に手を出せる商品ではありません。
また、すでにモノクロテレビが各世帯に普及してお
田部井さんはお客様のところを回ってこう言ったの
り、カラーテレビに買い換える需要もそれほど多くな
だそうです。
く、簡単には売れませんでした。
「3日間だけ使ってください。」
そこで、田部井さんはカラーテレビを売らずに別の
そして、3日後に取りにいくと、多くのお客様から
提案をお客様にしたそうです。
さて、お客様に何と提案したのだと思いますか?
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「そのまま置いてほしい」と言われ、結果的に多数の
カラーテレビを販売することができたのだそうです。
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当時のカラーテレビは約40万円。公務員の初任給が
売店が紹介されていました。その家電販売店は大型の
1万円台の時代だったそうですから、非常に高価な商
液晶テレビをバンバン売ることで有名なお店なのです
品です。でも、1カ月で15台以上売れたそうです。凄
が、「なぜ、地方の小さなお店が大手量販店にも負け
いですね。
ないほどに液晶テレビを販売できるのか」について密
心理学の世界に「保有効果」という考え方があり
着取材をしていたのです。
ます。それは「人は所有したものに高い価値を感じ、
「このお店はどんな販売ノウハウを持っているのだ
手放したくないと感じる心理現象」のことです。おそ
ろう?」と、私は興味を持って見ていましたが、やは
らく当時カラーテレビを置いていかれ、一旦自分のも
りそのお店も「売らない」のです。
のとして所有したお客様の心には、保有効果が有効に
広告でモニターを募集するのです。
機能したのでしょう。
「液晶テレビを見て感想を教えてくださるモニター
このような「保有効果」を活かした売り方を「試用
を募集します」ということです。
販売」といいます。
そして、液晶テレビを一定期間所有したモニターの
中から高い確率で購入者が現れるのです。モニター募
モニターを募集する
集と銘打ちながら「試用販売」を行っているわけです。
古今東西、人は一旦所有したものに高い価値を感
実は、海外にも同様の事例があります。80年前に書
じ、手放したくないと感じる心理は変わらないので
かれた広告書籍の名著『Scientific advertising』
(ク
すね。
ロード・C・ホプキンス著)にも次のような事例が紹
介されています。
「ある企業は電動ミシンモーターの広告に苦労して
所有を勧める
いた。そこで賢明な助言にしたがい、購入を迫るのを
通販で「使ってみて気に入らなければ、1週間以内
やめた。そのかわり、希望者には最寄りの販売店から
に返品してください。
」というコピーに反応して、商
モーターを送るので、1週間無料で使ってほしいと提
品を購入した経験がある方はいませんか?
案した。モーターを受け取った家庭には説明員を派遣
また、ディーラーで新車に試乗してみて、思わず購
し、操作方法を教えた。(中略)10世帯につき約9世
入欲求が高まった経験はありませんか?
帯は試用後にモーターを購入した。」
さらには、習い事教室で体験講習を受けてから俄然
つまり、高価な電動ミシンを販売するにあたり「売る」
その教室に興味が湧いたことはありませんか?
のではなく、1週間無料で「使ってほしい」と勧めたら、
ペットショップでゲージに閉じ込められていた猫を
結果としてものすごく売れた!ということです。
抱き抱えて、頭を撫でているうちに愛着が湧き、その
最初に紹介したカラーテレビの事例は日本の昭和30
ままペットとして家に連れ帰ってしまった経験はあり
年代の、電動ミシンは海外の80年前のお話です。さ
ませんか?
て、これらの事例は現在の日本には当てはまらないの
…これらが発生するのは人の心の中に、ある種の保
でしょうか?
有効果が生まれるからです。
いいえ、当てはまるのです。
お客様に「その場で、今、すぐに購入してもらう」
先日、テレビを見ていたら、東北地方のある家電販
のも、
「使ってみて3日後に購入してもらう」のも売り
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今すぐできる選りすぐりのアイデア
します。
しかも、人は所有することにより、その対象物に所
有する前よりもはるかに高い価値を感じはじめるので
す。車を下取りしてもらうときに、所有者は少しでも
下取り価格を高くしようと考えますよね。そして、下
取り価格を安く提示されると「え∼!そんなに安い
の?」と憮然とするでしょ。あの心理です。自宅を売
るときに、売主(所有者)は買主(非所有者)よりも
価格設定が高くなるでしょ。その心理です。
ある商品を一旦所有した場合、その仮の所有者は、
上げとしては同じです。ただし、どちらがより難しいか
すでにその商品に対して価値を見出しています。その
といえば「その場で、今、すぐに購入してもらう」こと
ため、セールスのクロージングに際して、その商品に
です。使ってもらい、触ってもらい、一旦所有しても
はいかに価値があるのかをこまごまと説明する必要な
らって「3日後に購入してもらう」方がより簡単です。
どないのです。
売り手側は「買ってください。
」と口に出して言う
「その場で、今、すぐに購入してもらう」のではな
ことに抵抗があり、買い手側は「買うと決めて」財布
く、3日後や1週間後の売り上げを目標にして一旦
からお金を出すことに抵抗があります。そのため、 「所有」を勧めるのも、商売のスキルのひとつです。
使ってもらい、触ってもらい、一旦所有してもらって、
人は「一旦所有する」と「所有したくなる」のです
保有効果を働かせた方がスムーズに販売・購入が実現
から。
─ プ ロ フ ィ ー ル ─ 酒井とし夫
◆1962年4月10日生まれ。新潟在住。現在、マーケティング&トレーディングカンパニー「ファーストアドバンテー
ジ有限会社」代表取締役。立教大学社会学部卒業後、中堅広告代理店勤務。その後、広告制作会社を設立。以降、広告
制作、モデル派遣事業、撮影ディレクション、アイデア商品販売、キャラクターグッズ販売、露天商、パソコン家庭教
師派遣事業、パソコン・スクール事業、トレーディング・インストラクション事業、インターネット通販、コンサルティ
ング事業等数々のビジネスを立ち上げる。◆ビジネスやトレーディングに関するE-Bookやマニュアル、CD、セミナー
DVDを5年間で1万3,900本以上販売した情報起業家として、また、小さな会社の経営者や起業志望者を応援するコンサ
ルタント、アドバイザー、講演者として大いに注目されている。◆読者数2万7千人(2010年03月現在)を超えるまぐ
まぐ殿堂入りメルマガ「1分で学ぶ!小さな会社やお店の集客・広告宣伝・販促」の作者として、月間PV1万5千人超え
のブログ「集客方法とキャッチコピーと広告宣伝の秘訣」のブロガーとしても活躍。◆出版書籍の「小さな会社が低予
算ですぐにできる広告宣伝心理術」(日本能率協会マネジメントセンター刊)はアマゾン書店でマーケティング部門1位
を獲得。そして、
「売れるキャッチコピーがスラスラ書ける本」(日本能率協会マネジメントセンター刊)も広告宣伝部
門第1位を獲得。
メルマガ「1分で学ぶ!小さな会社やお店の集客・広告宣伝・販促」
http://www.mag2.com/m/0000257876.html
運営ブログ「商売心理学」
http://ameblo.jp/admarketing/
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街でみつけた商売繁盛のヒント
今すぐできる選りすぐりのアイデア
ワンポイント
広告コラム
「街でみつけた商売繁盛のヒント
∼売れるキャッチコピーの作り方∼」
優れたキャッチコピーや広告コピーは集客増や売上アップに大きな影響を与えます。
毎月、私が雑誌、新聞、サイトや書籍タイトル等で見つけたお手本となるキャッチコ
ピーを紹介しますので、あなたの会社やお店のコピー作りの参考として下さい。
■ 今月のお手本キャッチコピー
『トップクラスの○○○がご相談を承ります。』
これはラジオCMで耳にしたコピーです。
「トップクラスの担当がご相談を承ります。
」という言葉を聞きながら、
「へ∼っ、そんな優
秀な人が相談に乗ってくれるんだ。ずいぶんと優秀な人材が揃っている会社だな。
」と思いま
した。
でも、しばらくしてから「トップクラスって何?」と思い直しました。
「トップ」ではないのです。
「トップクラス」なのです。
しかも、何と比較してのトップクラスなのか、トップがどの程度の水準なのかが分かりませ
ん。このCMでは、意図的に曖昧な言葉を使って自社の提供するサービスのイメージを向上さ
せているわけです。
広告コピーという視点から考えると、言葉の使い方が上手ですね。
「当社のスタッフがあなたのご相談に応えます。」
より
「当社のトップクラスのスタッフがあなたのご相談に応えます。」
の方が印象が良いでしょ。
もちろん、嘘や誇大表現はいけませんが、人は「トップクラス」「極上」「高品質」等の名詞
化された言葉を目にしたり、耳にしたりすると、自分の心の中で勝手に都合よく解釈を始める
のです。
(これをNLP心理学では「ミルトンモデルの名詞化」といいます。)
言葉一つで商品やサービスの印象は大きく異なりますね。
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