メキシコ進出が続く日本企業への期待と課題(ラテンアメリカ時報2016 春

メキ シ ヨ進出が続 く日本企業への期待 と課題
一Aリ ス コ州の投資誘致 と貿易促進策 を事例 に 一
八 リス コ州貿易投資 日本事務所 オープン
(メ キ シ コシテ イに次 ぐ第 二の規模 を誇 る美 しい グア
瀧澤 寿美雄
を締結 して同行 の取引先 が ハ リス コ州 に進 出す る際 の
支援 を行 うことを約束 した。
ダラハ ラを州都 に持 つハ リス コ州 は、 メキ シ コ音楽 を
代 表す るマ リア ッチ とリュ ウゼ ツラ ンか ら作 られる蒸
留酒 のテキ ー ラの発祥 の地 として知 られて いる。産業
八 リス コ州 へ の 日系進出企業 の業種 と数
面 では、 メキ シ コの シリコンバ レー と言 われ電子産業
が発達 した州 で 同州 の輸 出額 の 55%を 占める。豚 肉、
ものの、 日系企業 で は食品や 日用品関連 に加 えて幅広
い業種 の進出が 目立ち、最近 では自動車部品産業 が増
テキ ー ラ、卵、 アボ カ ドな ど農畜産業 も盛 んで、観光
業 も重要 な産業 になって いる。2014年 には同州へ の外
えて いる。 自動車関連 の 日系企業が集中す るバ ヒオ (中
央高原 )地 域 では、2014年 ではグアナフア ト州、 アグ
資系 企業 の進 出数 は 2,600社 以上 を数 え、国内第 3位
アスカリエ ンテ ス州 に次 いで進出件数 が多 い州であ る。
の海外直接投 資誘致 の実績 を誇 る。
(表
ハ リス コ州へ の直接投 資 の業種 は、電子産業 が多 い
1参 照)
自動車産業 の進出が相次 ぐ
日本 企業 による メキ シ コ進 出 ブームの火付 け役 とな
ったのは、2011年 6月 に広 島の 自動車 メー カーのマ ツ
ダが新 規投 資 を発 表 した ことに よる。 これ を契機 に、
同年 8月 にはホ ンダの 第二工 場 が グアナフア ト州 セ ラ
ヤ に、翌年 1月 にはニ ッサ ンの城下町 と言 われ るアグ
提供 :Aリ スコ州政府
ハ リス コ州政府 は、2015年 2月 東京 にハ リス コ州貿
易投 資 日本事務所 を開設 し、 日系企業 の投 資誘致 と対
日輸 出促進 の強化 に乗 り出 した。 日本企業 の 自動車産
業分野 の投 資誘致 で先行す るアグア スカリエ ンテス州
や グアナ フア ト州 に後れを とって いるため、前年 に続
いて 2015年 11月 にア リス トテ レス・ サ ン ドバ ル州知
事 が来 日し、東京、名古 屋、京都 でハ リス コ州投 資 セ
ミナ ー を開催 した。各都市 でメキ シ コ進 出を計画 中 の
企業 と個別面談 し、ハ リス コの持 つ優位性 や イ ンセ ン
テ ィブを説 明 して同州へ の投 資誘致 を促進す る トップ
セールスを展 開 した。
さらに、サ ン ドバ ル州知事 は国際協力銀行 と覚書 を
交換 し、全 国地方銀行協 会 の メ ンバ ー である地銀 42
行 と協力 して、中小企業 がハ リス コ州 に進 出す る際の
支援 を地元 の地銀 を通 じて投 資家 に提供す ることに し
た。大手都市銀行 であるみず ほ銀行 とも同様 の MOU
16ラ テンアメリカ晴軒
2016年 春号 NO.1414
メキンコを代表する蒸留酒テキTラ の原料となるリュウゼツラン (竜 舌蘭)
の収穫。(写 真提供 :八 リスコ州政府)
(前 年比増減数)
表 ヽ 日系企業進出件数 2014年
州名
企業数
グアナフア ト
アグアスカリエンテス
ハ リス コ
ケ レタロ
サンルイスポ トシ
サ カテ カス
ヌエボ レオン
バハ カ リフォルニア
メキシヨシテ ィ
(出 所 )」
ETRO海 外進 出 日系企業動向
150
72
45
42
34
5
74
20打 年以降
前年比
公表計画数
+58
+20
■11
+14
+13
38
13
25
29
3
+3
‐
2
64
-9
177
■5
(統 計資料 ・調査 レポー
91
2
16
ト)資 料 より筆者作成
特集
アスカ リエ ンテス州 に第 三工 場建設 とい う追加大型投
資が次々 と発表 された。
これ をきっかけに、系 列 企業や独立系 を問 わず、大
メキ シヨのいま
変貌著 ししヽ
る乗軟性 が州政 府 には求 め られる。
・ イ ンフラの整備 と治安対策 の強化
バ ヒオ地域 に急 に進 出企業 が増 えたため、 ホテ ル、
手か ら中小 の 自動車部品 メー カー に いたるまでメキシ
レス トラ ン、英語が通 じる病院、安全 な住居 な ど駐 在
コ進出に拍 車 がかか り、今 日の 同国へ の進 出ブームが
員が暮 らす上でのイ ンフ ラ整備が不充分 の ままである。
続 いて い る。 この過熱 ぶ りに拍車 をかけた のは、2015
麻薬関連 の組織犯罪が局所的に多発す る同国で治安維
年 4月 に トヨタが グアナフア ト州で乗用車 を生産す る
持 の強化 は、海外 直接投 資 を今後 も安定的に誘致す る
工 場 を建設す ると発表 した ことで ある。 この結果、 日
うえで 最重要課題 で ある。す り、置 き引 き、強盗、空
本 の完成車 メー カー 3社 が同 じ州 に主 力 工 場 を持 つ こ
き巣な どの被 害 がバ ヒオ地域 に増 えて い る現状 を考 え
とにな り、2016年 1月 か らは レオ ンで 日本総領事館が
ると、地元 州警察 と治安対策 を具体 的に相談す るのが
業務 を開始 した。
現実的である。
日本企業が地元州政府 に期待するもの
州政府 が 日本企業 と駐在員 に期待すること
製造業 による海外直接投 資は、工 場建設 による投 資
額や雇用人数 の規模 を考 えると、 どこの州政 府 も歓迎
・投資業種 の多角化 を
自動車 関連 産業 の投 資 ばか りが注 目されが ちだが、
す る。特 に、 メキ シ ヨ政府が力 を入れて い る自動車産
他 の製造業や流通、サ ー ビス分野な ど幅広 い業種 か ら
業 による直接投 資は、裾野産業 も広 く経済効果 が期 待
の投 資を期待 して い る。電 子産業、 日用品、食品加工
で きるため、各州政府 は投 資家向け に魅 力あ るイ ンセ
ンテ ィブを準備 して熱心 に誘致活動 を展 開 して い るの
な どの投 資 もあるハ リスコ州では 日本 ハ ムやヤ クル ト
な どがすでに進出 して い る。衣料品、流通 サ エ ビス な
が実情である。 日本語 による投 資 ガイ ドブ ックの作成、
どは今後 の有望な投資分野 である。
州知事 の訪 日に合わせて投 資誘致 セ ミナーの 開催 な ど
積極的な PR活 動が最近 目立つ 。
・ メキ シコ製品の対 日輸出促進支援 者 に
バ ヒオ地 区 には 3,000人 ほ どの 日本 人駐 在員が暮 ら
しか しなが ら、 ここ数年多数 の 企業が 一 斉 に メキ シ
して い て い るが、彼 らは毎 日メキ シヨ人 と接 して現地
コ進出をしている うえ、最近 では進 出企業 の 中心が大
の 文化 に触 れて いる。例 えば、 ハ リス コの有望輸 出産
手 自動車部品 メー カーか ら中小 の 自動車部品製造企業
品であるテキー ラを好 きになって帰 回す るもの も多 い。
へ と移 って きて い るため、 さまざまな問題が発生 して
彼 らは い わばメキ シコ製品 の対 日輸 出促進支援者 であ
お り進 出企業 は十 分 な準備 をしてお く必要があ る。進
る。 当事務所 では、 メキ シコに関心 ある ビジ ネ スFll係
出す る 日系 企業 の思惑 と投 資を受 け入れる地元 メキ シ
者 の 交流 の場 として Tequlla Business Clubを 定期 的
コの州政府や 自治体が持 つ 期待 のギ ャップを事前 に把
に開催 して い るが、 この交流 の輪 を一 層広 げ て い きた
握 しなければな らな い。以下 に問題点 とその解 決 のヒ
い。
ン トになる考 えを列挙する。
・ 日本語で対応で きるジャパ ンデスクの設置
一 部 の有力州 では 日本語 による投 資誘致 のサ イ トや
貿易、投 資、観光 の三部 門の相乗効 果 をめ ざす八 リ
スコ州
印刷物 を作成 して い る。 しか し、 日本語 を話す メキ シ
日本企業 の投 資誘致強化 はもちろんだが、今後 はハ
コ人 ス タッフを配置 した り、 日本 人を常設 して い る州
リス コ州製 品 の対 日輸 出促進 と日本人観光客 の誘致 に
政府 は少 ない。東京 に 日本人 の代表 を置 い て い るのは
も力 を注 ぐ。投 資誘致面 では、 日本企業向けの大型工
ハ リス コ州政府 のみで ある。 日本語 で対応 で きる ジャ
業 団地計画 が予定 されて いる。貿易面 では、3月 に開
パ ンデ スクの設置が望 まれる。
催 された F00DEX
・州政府 のインセ ンティブ
展 にハ リス コ州は 25社 出展 し、テキー ラ、アガベ シロ
2016と い うアジア最大 の国際食品
大量 に水 を使 う、電気 の使用量が非常 に多 い などの
ップ、チア、 アボ カ ドな ど高 い 品質 を誇 る製品を展示
企業 は、州政府 に優遇策 を求めるが、 各投 資家が満足
し熱心 に販売 先 を求 めて い た。展示会後 のフォロー ア
で きるような水 準 に達 して い な い。従業員 の給与、税
ップが 当事務所 の役割 である。
の減免措置や教育訓1練 費 の助成 などはいずれ の州 もほ
観光面 に目を転 じれば、全 日空が今年度中に メキ シ
ぼ 同 じ内容 である。投 資家 の個別 の エー ズに対応 で き
コヘ の直行便 を就航 させ ると発 表 したが、 これ を機 に
ラテンアメリカ貯軒 2016年 春号
NO.1414 17
さらにメキシコと日本 との貿易 と観光促進はさらに深
まることは間違 いない。現在 の ところ、成田とメキシ
生 まれるようプ ロモー ション活動 を継続 す ることが 当
コシティを結ぶ直行便 はアエ ロメヒコのみで あるが、
事務所 の役 割 と認識 している。結 びに、 ハ リス コ州
日本の航空会社が新たに加 われば、両国民の利便性 は
政府観光省 スローガンで締め くくりたい。 “
JaliSCo
大 いに増 して競争関係 も働 き、サービス向上 も期待で
きる。メキシコの新 たな魅力的な観光地 としてハ リス
MIexico"
コ州を日本人に知 らせる絶好 の機会である。
18ラ テンアメリカ晴報
2016年 春号 No.1414
貿易・ 投 資・ 観光が 三位 一体 とな り、相乗効 果 が
(た
es
きざわ すみお (株 )メ ヒココンサルティング 代表取締役、
ハ リスコ州貿易投資日本事務所長)