出血性疾患の診断アプローチ

−臨
床
血
液−
第 75 回日本血液学会学術集会
EL-40
血栓/止血/血管
ガイドライン(標準治療)
出血性疾患の診断アプローチ
大 森
司
Key words : Blood coagulation, Platelets, Fibrinolysis, Bleeding
はじめに
的に区別されるが,互いに相互作用をしながら,出血部
位に限局して止血栓を効率よく形成する4)。形成された
日常臨床において血液内科医が診察したり,他科より
止血栓は線溶反応により,血栓が適切な大きさとなるよ
コンサルテーションを受ける疾患は多岐に渡る。白血病
うに調節される(Fig. 1)
。これらの止血反応の破綻によ
や悪性リンパ腫,多発性骨髄腫を始めとした腫瘍性疾患
り出血傾向を呈する。日常診療で遭遇する一次止血の異
だけでなく,非腫瘍性疾患も多い。その中でも,多くの
常は血小板数減少によることが主である。抗血小板薬な
血液内科医から敬遠されがちな分野として止血血栓分野
ど薬剤性のものを除いては血小板機能異常症に遭遇する
があげられる。軽度の外傷に伴う出血傾向,原因不明の
機会は少ない。二次止血異常は,肝疾患による凝固因子
紫斑・出血斑,術前の凝固検査異常値等,血液内科医が
産生障害や播種性血管内凝固症候群(DIC)による消費
出血性疾患や血栓性疾患の診察・治療を行う機会は多
性低下が多い。血友病や von Willebrand 病(VWD)
,等
く,その診断へのアプローチ手法を熟知しておく必要が
の先天性出血性疾患,および後天性凝固因子インヒビ
ある。本教育講演では,止血機構の生理学をまとめ,検
ターが鑑別として重要である。
査値の解釈,および診断手法について簡潔に概説し,苦
手意識を持つ学会員の一助となることを目標としたい。
2.出血傾向の診断アプローチの概要
1)診察:出血傾向は自然,または軽微の外傷・打撲に
1.止血機構オーバービュー
より血液が血管外へ漏出することで認識される。出
血液は血管内腔の閉鎖回路の中で,各臓器・細胞に酸
血傾向の主訴としては鼻出血,皮膚出血斑が多い。
素や必要な栄養分,シグナル伝達物質を運搬する。血管
まず,出血の性状とその部位を観察することから,
が血液と接する内壁には血管内皮細胞が存在する。この
一次止血と二次止血の異常を大まかに判断する。一
血管内皮細胞は血管内腔での血液の流動性を保つため
次止血の異常では皮膚・粘膜出血をきたすことが多
に,様々な血小板活性化抑制物質や凝固調節因子,線溶
く,二次止血の異常では筋肉内や関節内などの深部
活性因子を発現する(Fig. 1)1, 2)。一度,血管壁が損傷
出血が特徴である5)。皮膚の出血斑は,一次止血異
すると,生体はこれに鋭敏に反応し,出血局所でのベク
常では点状出血が主であるのに対して,二次止血異
トルが,一気に向血栓性に傾き一連の止血反応の進行に
常によるものは大きい6)。点状出血は下肢に多い。
より血管からの血液漏出(出血)を最小限にする。血管
アレルギー性紫斑病の紫斑は隆起し,若干赤いこと
損傷部位での初期の止血反応を担うのが血液細胞の血小
が特徴である。診察で貧血の合併を必ず検索し,特
板である。この血小板の関与する止血反応を一次止血と
に消化管出血,また造血器悪性腫瘍,等の緊急性を
呼ぶ。血小板活性化に引き続く,凝固因子による止血反
要する疾患の合併に注意する。また,脾腫の有無,
応を二次止血と呼ぶ。一次止血は,決壊した堤防の土嚢
ならびに黄疸(溶血,または肝疾患)についても確
の役割をはたし,二次止血はこれを埋めるセメントのよ
うな役割をもつ(Fig. 1)3)。一次止血と二次止血は便宜
認を行う。
2)問診:成人の場合には過去の出血歴(特に抜歯時な
ど観血的処置時の止血)
,また家族歴の聴取が重要で
自治医科大学分子病態治療研究センター分子病態研究部
(1888)342
ある。これらは先天性か後天性かを鑑別するのに役
臨
Fig. 1
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液 54:10
Overview of hemostasis. (A) Intact endothelial cells prevent thrombosis by different
anticoagulant and antiplatelet mechanisms. Endothelial cells release a fibrinolytic
mediator, tissue-type plasminogen activator (tPA), and potent inhibitors of platelet
aggregation and vasoconstriction, nitric oxide (NO) and prostacyclin (PGI2).
Thrombin binds to thrombomodulin (TM) on the endothelial cells, and the resulting
complex activates protein C. Activated protein C (APC), in association with protein S,
proteolytically inactivates factor V and factor VIII. Antithrombin (AT) neutralizes
most of the enzymes in the coagulation cascade, especially thrombin and activated
factor X. (B) When endothelial damage occurs, platelets adhere and aggregate with
one another to form a platelet plug at the site of vascular injury (primary
hemostasis). (C) The coagulation cascade is activated on the surface phospholipids
of the activated platelets (secondary hemostasis). (D) Finally, the fibrinolytic
system lyses the fibrin clot to prevent intravascular thrombosis.
立つ。女性では月経過多の有無について聴取する。
子が減少する疾患を除外した後に,特定の凝固因子
また薬剤内服歴,特に非ステロイド性抗炎症薬を含
の欠乏があるかどうか,また阻害物質が存在するか
めた抗血小板作用のある薬剤やワルファリンも出血
否かについて,凝固因子活性測定,並びに交差混合
傾向の原因として重要である。
試験クロス(ミキシングテスト)を行う(後述)。血
3)スクリーニング検査の進め方 5, 7):出血傾向を客観的
小板数正常,PT,APTT 正常の出血傾向に遭遇した
に評価するために臨床検査を用いる。スクリーニン
際は血小板機能検査,血液凝固第 XIII 因子測定を行
グとしては,血算(血小板数)
,PT,APTT,フィブ
う。
リノーゲン,FDP(または D-dimer)が一般的であ
る(Fig. 2)8)。一次止血異常はとしては血小板減少症
3.一次止血機構とその異常
が最も多い。薬剤性以外の血小板機能異常症に遭遇
この血管壁と血小板血栓の形成不全による出血傾向の
する機会は少ない。PT,APTT はそれぞれ外因系,
原因として,1)血小板減少症,2)血小板機能の異常,3)
内因系凝固反応を評価する検査である。これらの異
血漿蛋白質の異常,4)血管壁の異常がある。
常を見た時には,まず肝臓での凝固因子産生能が十
1)血小板減少症の鑑別診断
分か(肝予備能,ワルファリン内服,低栄養の有無)
血小板減少症は遭遇する出血傾向の原因として頻度が
評価し,FDP,D-dimer により DIC などの消費性の
高い(Table 1)
。実臨床では一般に血小板数が 10 万/ml
凝固因子低下を除外する。これらの全体的に凝固因
以下で精査を考慮する。症状のない血小板減少症に遭遇
343(1889)
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Fig. 2
Approach to patients with a bleeding diathesis. Careful assessment of the presenting
complaint, medication, and bleeding history can provide important clues for whether
the defect is inherited or acquired. General screening laboratory tests for a bleeding
diathesis include complete blood count (CBC), PT, APTT, FDP (D-dimer), and
fibrinogen. In thrombocytopenic patients, it is especially important to use the CBC
and a blood smear to diagnose leukemia, TTP, and pseudothrombocytopenia. An
increase in FDP (or D-dimer) helps to diagnose DIC in thrombocytopenic patients.
A bone marrow aspiration is indicated for patients with unexplained thrombocytopenia. Liver disease, vitamin K deficiency, and DIC should be primarily ruled out in patients with prolonged PT and APTT. The precise diagnosis may be obtained by
measurements of specific coagulation factors, a cross-mixing test, and lupus
anticoagulant (LA). FXIII and a platelet function test should be considered in patients
with a bleeding diathesis and normal values for the platelet count, PT, and APTT.
した際には,まず偽性血小板減少症を除外する。これは
ある。一般に 1 万/ml 以下となると自然出血のリスクが
抗凝固剤として用いられるエチレンジアミン四酢酸
高くなるため血小板輸血を含む緊急な対応が必要であ
(EDTA)(試験管内の白い粉)が存在すると免疫グロブ
る。
リンにより血小板同士,または血小板と白血球が結合
診断では,血小板減少症の原因を 1)血小板産生の低
し,自動血算計で血小板数が低く見積もられる現象であ
下,2)破壊亢進・消費性の減少,3)分布異常・希釈,4)
る9)。実際の血小板減少はないために治療の必要性はな
先天性,に分けて考える(Table 1)6)。実臨床では,まず,
い。末梢血塗抹標本で血小板凝集塊の存在を確認するこ
肝疾患(特に HCV),HIV 感染症,脾腫の存在,膠原病
とが重要である。また,巨大血小板を呈する先天性疾患
の合併,薬剤性の血小板減少症を除外する。FDP,D-
(May-Hegglin 異常症など)では,巨大血小板が自動分
dimer により血栓形成による消費性低下を評価する。ま
析器で血小板と認識されず,血小板数を低く見積もる危
た他の血球異常の有無,末梢血塗抹標本の観察も,骨髄
険性がある10)。この場合も末梢血塗抹標本の観察が重要
占拠性病変や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などの
である。血小板数が 2∼5 万/ml 以下では外傷時などに
診断に有用である(Fig. 2)
。最近では,幼若血小板比率
易出血性が認められるために早急に精査を進める必要が
(網血小板比率)を測定することで間接的に骨髄での血
(1890)344
臨
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液 54:10
Table 1 Classification of thrombocytopenia
【Congenital thrombocytopenia】
May-Hegglin anomaly,Bernard-Soulier syndrome
amegakaryocytic thrombocytopenia,Wiskott-Aldrich syndrome, etc
【Acquired thrombocytopenia】
1)Decreased platelet production
Hematological malignancies(leukemia,myelodysplastic syndrome)
, viral
infection, chemotherapy, vitamin B12 and folic acid deficiency, paroxysmal
nocturnal hemoglobiuria, aplastic anemia
2)Increased platelet destruction
a)Immune thrombocytopenia
Primary immune thrombocytopenia
Secondary immune thrombocytopenia
(collagen disease, gestation, lymphoproliferative disease, drug, neonatal)
b)Consumption due to thrombosis
Thrombotic thrombocytopenic purpura, hemolytic uremic syndrome,
disseminated intravascular coagulation, hemophagocytic syndrome, heparininduced thrombocytopenia
3)Distributional thrombocytopenia
Splenomegary
Massive blood loss and transfusion
4)Others
Pseudothrombocytopenia,blood coagulation by inappropriate blood drainage
小板造血を評価することもある11)。また,血小板減少症
血小板機能検査は一般に馴染みの深い検査ではない
が悪性リンパ腫の初発症状であることがあるため,筆者
が,その原理はさほど難しくない。血小板多血漿を遠心
は可溶性インターロイキン-2(IL-2)受容体を測定して
操作で得た後に,血小板刺激物質を添加して血小板凝集
いる。まずはこれらの非侵襲性検査により血小板減少症
に伴う透過度の亢進を定量化する(Fig. 3)13)。用いる血
の鑑別診断を行い,その後,必要に応じて骨髄検査によ
小板刺激物質としては,リストセチン,コラーゲン,
る精査を行う(Fig. 2)
。欧米のガイドラインでは特発性
ADP が一般的である。リストセチン凝集能は血小板粘
血小板減少性紫斑病(ITP)の診断には骨髄検査は必ず
着反応の評価に用いられる。この反応には血漿蛋白質で
しも必須でないとされているが12),高齢者で,原因が明
ある von Willebrand 因子(VWF)と血小板上の GPIb/
らかでないときには,骨髄異形成症候群等,他疾患の除
IX/V 複合体が重要である15)。VWF が低下・欠損する
外のために骨髄検査の施行が望ましい。
von Willebrand 病 や GPIb/IX/V 複 合 体 欠 損 に よ る
2)血小板機能検査と血小板機能異常症
Bernard-Soulier 症候群で,この反応が阻害される16)。コ
PT と APTT が正常で,血小板数減少を認めない出血
ラーゲン,ADP はそれぞれ,特異的な受容体を介して,
傾向に遭遇した時に血小板機能異常症をうたがう。血小
血小板内に活性化シグナルを伝達し,最終的に血小板膜
板機能検査として出血時間が普及しているが,その再現
上の GPIIb/IIIa(インテグリン aIIbb3)を活性化させ
性の低さから正常だからといって必ずしも一次止血異常
る15)。 GPIIb/IIIa は通常では静止状態であるが,刺激に
を否定出来ない13)。原因不明の明らかな出血傾向がある
より血小板が活性化されると活性型となり,フィブリ
際には,血小板機能検査を施行する。日常臨床で遭遇す
ノーゲンや VWF と結合し,血小板同士を凝集させる15)。
る血小板機能異常症は NSAIDs や抗血小板薬による薬
GPIIb/IIIa が欠損する血小板無力症でこの反応が阻害さ
剤性が大部分を占める。M 蛋白など異常蛋白質の存在
れ る(Fig. 3)16)。血 小 板 の 放 出 反 応 の 異 常(Storage-
により血小板機能異常をきたすことがある。また,真性
pool deficiency など)
,抗血小板薬内服では,高濃度刺
多血症や本態性血小板血症などでは,一般に血栓傾向が
激物の存在下でも一過性の凝集しか得られない(二次凝
予後を左右するが,血小板数が 100 万/ml を超えた場合,
集の欠如)を認める(Fig. 3)
。
VWF 活性の低下が出血傾向に結びつくことがある14)。
3)血漿蛋白の異常・血管壁の異常
345(1891)
−臨
床
血
液−
Fig. 3
Principle of platelet function testing and representation of the study results. (A)
Platelet-rich plasma is obtained from whole blood by centrifugation. Platelet
activation is induced by addition of an agonist (collagen, ADP, or ristocetin), and the
increase in optical density is monitored as the progression of platelet aggregation.
(B) Platelet aggregation was induced by 5 mM ADP or 1 mg/ml of collagen. A
complete defect of platelet aggregation was observed in Glanzmann3s thrombasthenia. A defect of the secondary wave of platelet aggregation by ADP, and a defect of
collagen-elicited platelet aggregation were seen in platelets from a patient with
storage pool deficiency (Hermansky‒Pudlak syndrome).
一次止血異常を呈する血漿蛋白質の異常として VWF
ビンが活性化血液凝固第 X 因子(FXa;活性化凝固因子
の機能的低下をきたす VWD,およびフィブリノーゲン
には a を付ける)で生成されることを理解する。血液凝
低下が挙げられる。それぞれ,血小板粘着と血小板凝集
固第 V 因子(FV)には酵素活性はなく,補酵素として
に重要な蛋白質である。血管壁の異常では遺伝性出血性
働く。この共通系を活性化させる経路として外因系と内
血 管 拡 張 症(Osler 病)や 結 合 組 織 の 異 常 を き た す
因系がある。外因系は FVIIa と補酵素的に働く組織因子
Ehlers-Danlos 症候群などがある。
のみである。内因系は FXII 因子から始まるが,FXII 欠
4.二次止血機構とその異常
凝固因子は血中では不活性体で循環しているが,出
血・血栓形成により凝固因子カスケードの引き金が引か
損症は APTT が著明に延長するが出血傾向を来さず,
生体内の止血反応には関与しない。止血反応には,FXI
からの経路から,その下流の FIX と FVIII による反応が
加わる(血友病の原因部位)
。
れると上流の凝固因子により活性化され,一気にドミノ
PT,APTT の異常を見た時には,肝臓での予備能と
倒しのように反応が増幅し,最終的にフィブリン血栓の
してアルブミンなどの他の臨床データを参考に凝固因子
形成をきたす。
の産生能を評価する。また FDP,D-dimer 値を測定し,
1)凝固因子カスケードと臨床検査
DIC による消費性の凝固因子低下症を除外する。また,
まず,大まかに内因系,外因系,共通系の反応が存在
特異的な凝固因子欠乏症,またはインヒビターの存在に
することを理解する(Fig. 4)17)。生体内の反応は内因系
ついて検索するために凝固因子活性を測定する。PT の
と外因系は完全に区別が出来ないが(後述)
,初めは検
み が 異 常 と な る 時 は FVII,APTT の み が 異 常 の 時 は
査の解釈のために分けて覚えた方がよい。また,上流の
FVIII,FIX,FXI,FXII,VWF,両者ともに延長してい
凝固因子よりも下流から覚える方が理解しやすい。ま
るときはプロトロンビン,FX,FV を測定する(Fig. 2)8)。
ず,共通系の最終段階であるフィブリノーゲンからフィ
先天性の凝固因子欠乏症は血友病である FVIII または
ブリン血栓の形成がトロンビンでなされること,トロン
FIX の欠損がほとんどをしめ,他の凝固因子欠損症は稀
(1892)346
臨
Fig. 4
床
血
液 54:10
Schematic representation of coagulation pathways. Both the extrinsic
pathway and intrinsic pathway activate the final common pathway of FXa,
thrombin, and fibrin for secondary hemostasis. In the clinical laboratory, the
intrinsic pathway assessed by APTT can be distinguished from the extrinsic
pathway measured by PT. Although FVIIa is the initiator of blood
coagulation, direct FXa production by FVIIa in the absence of the intrinsic
pathway is weak. Amplification of the coagulation by the intrinsic pathway is
important for efficient blood coagulation in vivo (dashed arrow). FXIIa:
activated coagulation factor XII; FXIa: activated coagulation factor XI;
FVIIIa: activated coagulation factor VIII; FIXa: activated coagulation factor
IX; FX: coagulation factor X; FXa: activated coagulation factor X; FVa:
activated coagulation factor V.
Table 2 Prevalence of congenital coagulation factor deficiency
Coagulation factor
Prevalence of
deficiency
Heredidary
Molecular
Concentration
Weight(kDa)
g/ml
Half time
Fibrinogen
1/1,000,000
Autosomal recessive
330
30,000
3 days
Prothrombin
1/2,000,000
Autosomal recessive
72
90
3 days
FV
1/1,000,000
Autosomal recessive
330
10
36 hours
FVII
1/500,000
Autosomal recessive
50
0.5
5 hours
FVIII
1/10,000
X-linked recessive
320
0.1
12 hours
FIX
1/50,000
X-linked recessive
56
5
24 hours
FX
1/1,000,000
Autosomal recessive
59
8
2 days
FXI
1/1,000,000*
Autosomal recessive
160
5
2 days
FXIII
1/1,000,000
Autosomal recessive
300
10
11 days
*
Common among Jews of Ashkenazi.
347(1893)
−臨
床
血
液−
である。頻度は血友病 A が 5,000 から 10,000 人に 1 人,
いる。
血友病 B はその 1/5,他のものでは FVII 欠損が多い(1/
混合試験でインヒビターパターンを呈した時に最も問
50 万)(Table 2) 。日本では,あまり登録はされていな
題となるのがループスアンチコアグラント(LA)の存
いが,女性での先天性出血性疾患としては VWD が多
在である22)。APTT や PT が延長しても LA 陽性で出血
い19)。後天性の凝固因子インヒビターは FVIII に対する
傾向がなく,特異的な凝固因子活性の低下がない場合に
ものが大部分であり,他は極めて稀である20)。臨床上,
は,LA による凝固延長であり出血傾向には結びつかな
比較的頻度が高く鑑別が重要となる病態として出血傾向
いと判断する。ただし,LA 活性が凝固因子測定に影響
と APTT 単独延長が挙げられる。この鑑別診断として,
をおよぼす場合がある(特異的な凝固因子単独よりも複
血友病,VWD(VWF は FVIII を安定化しているため)
,
数の凝固因子活性が軽度低下することが多い)
。この場
後天性血友病が重要である。全ての疾患で APTT 延長
合は混合直後と 2 時間後の混合試験の結果を比較し,直
と FVIII の低下を認めるが,VWD では VWF 活性の低
後から APTT 延長が認められるものは LA の可能性が高
下,後天性血友病では混合試験でインヒビターパター
い。凝固因子の抗原量を測定することも有用である。い
ン,並びに FVIII インヒビター陽性を呈する。
ずれも,検査値のみでの確定診断は不可能なので,臨床
2)クロスミキシングテスト(交差混合試験)と凝固因
的な出血傾向の存在を加味して判断する。
18)
3)FXIII とフィブリン血栓形成
子インヒビター
APTT や PT の延長と凝固因子活性の低下を見た時
トロンビンにより出来たフィブリン血栓は脆弱であ
に,それが凝固因子欠損によるものか,またはインヒビ
り,これが FXIII により強固なものになる。FXIII は他
ターの存在によるかを判断するときにクロスミキシング
の凝固因子とは異なり,トランスグルタミナーゼ活性を
テスト(交差混合試験)を行う21)。クロスミキシングテ
もつ酵素であり,異なるフィブリン間でのイソペプチド
ストとは患者血漿と正常血漿を一定の割合で混合し,一
結合を促進する23)。FXIII 因子活性は PT や APTT に反
定時間後(通常 2 時間)に PT や APTT を測定する。典
映されないために,PT と APTT が正常の出血傾向に遭
型的な単一の凝固因子欠乏症の場合,25%程度の活性が
遇した時には FXIII 活性を測定する。
存在すれば,これらの検査は正常値に近くなる(Fig. 5)
。
4)実際の生体内における凝固因子カスケードの進行と
一方,凝固因子のインヒビターが存在する場合には補正
制御
されない(Fig. 5)
。日常臨床では,非典型的パターンを
生体内の凝固因子の血中モル濃度は,上流に行くほど
取ることも多く確実な診断は困難な場合もあるが,筆者
少なく,また,FVIII や FV は極わずかしか存在しない。
は 50%混合で補正されないときには非欠乏と判断して
酵素反応により下流の凝固因子活性をドミノ倒しのよう
Fig. 5
(1894)348
Representative patterns of the cross-mixing test. (A) FV-deficient
plasma was mixed with normal pooled plasma at the indicated ratio.
APTT is almost normalized in the presence of 25% normal plasma.
(B) Plasma obtained from acquired hemophilia A (FVIII inhibitor)
was incubated with normal plasma. Prolonged APTT can still be
observed in the presence of 75% normal plasma (cited and modified
from reference 8).
臨
に増幅していくことで,効率のよい止血栓の形成につな
血
液 54:10
損により出血傾向をきたす場合がある30, 31)。
がる。また,FVIIa を介した外因系による FXa の生成効
おわりに
率は内因系による活性化と比較して効率が悪い(Fig.
4)。実際の生体内では FVIIa は FIXa を活性化させるこ
床
日常診療で遭遇する出血性疾患の診断手順について,
と で 内 因 系 凝 固 反 応 を 介 し て FXa を 生 成 す る(Fig.
一次止血と二次止血,線溶にわけて概説した。生体は出
4)17)。FVIIa から FIX の活性化は,直接 FX を活性化さ
血を最小限とするために,理にかなった生理機構を備え
せるよりも 10 倍程度効率がよい。これが,インヒビ
ている。一見複雑に思える止血反応も一度理解すれば,
ターの生じた血友病患者(FIX や FVIII 欠損)に対して,
診断へのアプローチも容易となる。本総説が,会員の知
バイパス療法で大量の FVIIa 投与が必要な理由でもあ
識の整理・理解につながれば幸いである。紙面の都合
る。
上,診断と生理機構のみに焦点をあてたため,個々の疾
大部分の凝固因子は酵素活性をもつセリンプロテアー
ゼであるが,FV と FVIII は類似した構造をとり,補酵
患の治療については,他の教科書を参照していただきた
い。
素として働く大きな分子である。これらの分子は活性化
血小板膜のリン脂質で立体的に FXa とプロトロンビン,
または FIXa と FX を配置させることで凝固因子の活性
著者の COI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連
して特に申告なし
化が効率よく起こるようにする。この両者が活性化プロ
テイン C(APC)により分解されることが,凝固因子カ
スケードの重要な制御機構であること,後天性凝固因子
インヒビターの頻度が多い部位であること(FVIII]FV)
を覚えておくとよい。
凝固因子カスケードの制御機構として 1)アンチトロ
ンビン系,2)トロンボモジュリン(TM)-APC 経路,3)
組織因子経路インヒビター(TFPZ)がある(Fig. 1)24, 25)。
アンチトロンビンはトロンビン,FXa などと直接結合し
て酵素活性を阻害する。ヘパリンは,このアンチトロン
ビンによる凝固因子活性阻害をブーストして抗凝固作用
を発揮する薬剤である。TM-APC 系はトロンビンが生
じた際にネガティブフィードバック的に働く機構であ
る。プロテイン S は APC の補酵素として働く。日本人
における先天性血栓性素因としてプロテイン S 異常症・
欠損症,プロテイン C 欠損症,アンチトロンビン異常
症が多い26)。TFPI は外因系凝固反応を制御する。
5.線溶とその異常
線溶系の異常により出血傾向をきたす場合もある。最
も遭遇する機会の多い疾患は前骨髄球性白血病(APL)
に伴う DIC である。APL に伴う DIC は凝固系の亢進に
合わせて,APL 細胞上のアネキシン II により細胞上の
文
献
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と比較して出血傾向が強くなる27)。同様に線溶活性が亢
frequently diagnosed in adults. J Thromb Haemost. Prepub-
進する DIC をきたす疾患として前立腺癌や腎盂癌など
が知られている28, 29)。この場合,検査値で FDP(特に
血清 FDP)と D-dimer を比較した時に FDP と D-dimer
の解離(FDP]D-dimer)を認め,アンチトロンビンは
比較的保たれる。また,極めて稀ではあるが線溶調節因
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