私のすすめる本 - 広島修道大学

「私のすすめる本」
広島修道大学法学部国際政治学科
2014年度版
このリストは、読書を始める手がかりにしてもらうために作成し、買いやすさを考え主に新書・文
庫から選びました。何を読んだらいいのか、何から読んだらいいのか、わからないという人はまず
このリストを参考にしてください。
国際政治学科の教員が推薦する本の一覧です。
<推薦した教員名>
市川太一
井上実佳
笹岡伸矢
佐渡紀子
名波彰子
矢田部順二
矢野秀徳
王 偉彬
広本政幸
大島 寛
三上貴教
Ⅰ 読書論・言語・話し方を学び、将来を考えるために
児玉聡『功利主義入門:はじめての倫理学』ちくま新書、2012年、798円
(佐渡)
国際社会で起きる出来事に対して、あるひとは肯定的に評価し、ある人は否定的に評価をします。この評価は、その人が何を
大切に思うのかに影響を受けています。この本を通じて、人々がどのような判断基準をもって、出来事や政策を評価している
のかを考え機会が得られるでしょう。功利主義の考え方は、政治学や国際政治学を深く学ぶ上では理解しておくべき考え方で
す。功利主義とはどのような考え方なのかを大まかに理解するためにも、本書は助けになります。
吉本隆明『ひとり 15歳の寺子屋』講談社、2010年、1050円
(大島)
「戦後思想界の巨人」と呼ばれる著者が4人の中学生の質問に答える。恋愛、進路、文学・・・と、この寺子屋の間口は広
い。自分は孤独だ、と思っている君。この本を読めば、一人でも強く生きていけるという自信がつくぞ。
江川紹子『勇気ってなんだろう』岩波ジュニア新書、2009年、819円
(大島)
「自分にもう少し勇気があったなら」と思うことは多い。そんなとき、自分に正直に前に進んだ人たちをドキュメントしたこ
の本を読むと、きっと小さな勇気がわいてくるだろう。世間からいわれのないバッシングを受けてもボランティアを続ける高
遠菜穂子さん、信念を貫いた警察官の仙波敏郎さん、兵役を拒否するイスラエルの若者・・・。著者の江川さんは気骨のある
ジャーナリスト。
筑紫哲也『若き友人たちへー筑紫哲也ラストメッセージ』集英社新書、2009年、756円
(矢田部)
2008年に惜しまれながら世を去ったジャーナリストがその晩年に、早稲田大学と立命館大学で学生たちに語った講義録を編集
したもの。非常に分かりやすい語り口の中に、われわれは自分自身で考えることの大切さに気づかされる。
白井恭弘『外国語学習の科学ー第二言語習得論とは何か』岩波新書、2008年、735円
(矢田部)
語学は暗記と考えていないか。母語でない言語を身につけるにはどんなことに気をつけるべきなのか。語学学習に壁を感じた
ら、こんな本を読んでみるといい。効率的な外国語学習法を知ってから外国語学習に臨むのも無駄なことではない。
大久保幸夫『キャリアデザイン入門書<1>基礎力編』日経文庫、2006年、872円
(市川)
国際政治学科に入学して、将来の進路について悩んでいる人も多いはずです。社会で必要とされている主な能力、つまり課題
設定や課題解決の方法、コミュニケーション能力などは大学で学ぶことができる。年齢段階別キャリアデザインの方法、基礎
力を身につけるなどから構成されている。手元に置き、進路選択に迷ったら、関心のあるところを読んでもいい。
竹内薫『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』光文社新書、2006年、735円
(笹岡)
理論や常識はあまたあれど、科学の基準からすれば100%正しいものは存在しない。政治学・国際政治学にもさまざまな理論
が存在している。それが本当に正しいかを疑い、自分の手で検証することが大事だと痛感させられる。
伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』ちくま新書、2005年、882円
(笹岡)
批判とは人の意見をうのみにせず吟味してみること。批判的思考がクリティカルシンキングであり、これを用いることの意義
を述べている。何が論理的・科学的に正しいかという問題だけでなく、価値観の問題でも批判的思考を用いる可能性を説く。
黒田龍之助『はじめての言語学』講談社現代新書、2004年、777円
(矢田部)
言葉は国際理解の「窓」と言われる。だからみんな外国語を囓る。でも闇雲に学習するより、言語学的基本知識を少しもって
いたら、より効果的に勉強できる。あなたの日本語までもが洗練できる、言語学とはいったい何か、新進気鋭の言語学者が易
しく易しく手ほどきする。
池上彰『相手に「伝わる」話し方』講談社現代新書、2003年、756円
1 ページ
(市川)
NHK週刊こどもニュースのお父さん役であるだけに、この種の本の中でもっとも薦めたい1冊。テレビに出ている人でも最
初はカメラの前で気が遠くなったと言う。リポートの前に必ず声に出してみる、分かりやすく説明する5箇条など、役に立つ
情報が満載。
斎藤孝『読書力』岩波新書、2002年、756円
(市川)
3色ボールペンで使う本の読み方や自分たちで本を読む読書会の方法など、参考になる点が多いはずだ。線を引きながら本を
読む方法は学生に好評である。巻末には文庫100冊のリストがあげられている。
千野栄一『外国語上達法』岩波新書、1986年、777円
(矢田部)
十数カ国語を操った言語学者が、外国語を学びたい人たちに贈った言語習得のためのヒント集。こういう秘訣を知っていたら
外国語習得は楽しくなる。20年あまり前の著作だが、その価値は今も失われていない。
Ⅱ 世界や日本の歴史を学ぶために
田中優子『グローバリゼーションの中の江戸』岩波ジュニア新書、2012年、820円
(大島)
江戸時代と言えば鎖国。でも、実は江戸時代こそグローバリゼーションのただ中にあったのです。この本は、ファッションや
絵画などの歴史をたどりながら、私たちの常識を見事に覆します。そして「本当にグローバルであることとは」を考えさせて
くれます。
小和田哲男『日本の歴史がわかる本<全3巻>』新装版、三笠書房、2011年、各620円
(三上)
高校で日本史をとっていなかったなら、本書で手軽に日本史を概観してみよう。日本がアメリカと戦争をしていたなんて知ら
なかったとは言わせない。これも歴史の表面をなぞる安直なアプローチではあるが、全体の流れを知ったうえで、もしあるこ
とがらに興味をもったなら、それを深く掘り下げてみよう。日本史は本当は面白い。
綿引弘『世界の歴史がわかる本<全3巻>』新装版、三笠書房、2011年、各620円
(三上)
歴史を安直に眺めるのは良い方法ではない。本書3巻でも歴史の重みを知ることは決して出来ない。それでも高校世界史の教
科書が嫌いだった人、あるいは世界史を全然学習していない人は、是非読んで欲しい。断片ではあるが、歴史の面白さを知る
ことが出来る。
石川真澄、山口二郎『戦後政治史(第3版)』岩波新書、2010年、945円
(笹岡)
日本の敗戦から2009年の政権交代までの政治史が網羅された一冊。日本の政治の展開をまず知っておきたい人は読んでおくと
よい。巻末の国会議員選挙のデータも有用。
岡義武『国際政治史』岩波現代文庫、2009年、1300円
(矢田部)
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』朝日出版社、2009年、1785円
(大島)
初版は1955年。しかし日本における国際政治学の古典的名著として、2009年に文庫化された。易しい本ではない。しかし、国
際政治の構造的歴史変化とはどういうことなのか、著者の分析は今も輝きを失っていない。卒業までにはぜひ一読したい一
冊。
自分が戦争立案者だったら、どう考えますか? 日清戦争から太平洋戦争まで、私たち日本人が行った戦争について歴史学者
と高校生が一緒に考える。講義形式で分かりやすいが、内容は深い。歴史を問う鍵は「適切な設問と史料」と著者は言う。
入江昭『歴史を学ぶということ』講談社現代新書、2005年、756円
(矢田部)
長年ハーバード大学の教授を務めた著者が、自伝的に歴史学との出会いや留学生活を語り、自身の歴史研究を回顧して、歴史
認識のあるべき形を考える。平易な語り口の中に、学問と向き合うことの意味と楽しさを発見してほしい。歴史嫌いに薦めた
い一冊。
E・H・カー『歴史とは何か』岩波新書、1962年、860円
(矢田部)
「歴史とは現在と過去の対話である」との著者の主張は今なお深い示唆をもつ。国際政治学の発展にも寄与したE・H・カーの
初学者向け著作。国際政治学科の学生ならせひ一度は触れたい一冊である。
Ⅲ 現代世界の諸問題を考えるために
長有紀枝『入門 人間の安全保障-恐怖と欠乏からの自由を求めて』中公新書、2012年、840円
(井上)
本書は、国連開発計画(UNDP)を中心に1990年代から国際機関や様々なアクターが検討してきた「人間の安全保障」(Human
Security)について包括的かつコンパクトに論じている。特に、著者が、長年にわたって人道支援活動に携わってきた経験
と、研究者としての知見の双方を活かしている点に注目してほしい。
五野井郁夫『「デモ」とは何か 変貌する直接民主主義』NHK出版、2012年、950円
2 ページ
(名波)
自分たちの声を直接政治に届けようと、「デモ」がいま世界各地で起こっている。ウォールストリートを占拠した若者や「ア
ラブの春」のカイロ、そして東日本大震災後に脱原発を求め、多くの人々がアルタ広場に集まった。この本ではそれら現代の
「デモ」と過去のデモを対比させて時代ごとの特徴を語り、「わたしたちの政治」とのつながりを探る。民主主義において民
意を政治に反映させる手段のひとつとして、デモは有用かを考えるきっかけとなる。
船橋洋一『新世界 国々の興亡』朝日新書、2010年、819円
(王)
「新世界」における「国々の興亡」が繰り返されている今日、世界がどう再構築され、私たちはどこから出直すべきか。世界
のエリートたちが提示した有益な示唆を富む一冊です。
カント『永遠平和のために』岩波文庫、2009年、525円
(三上)
理想主義的国際政治観の基盤となる名作。最近の理論である民主主義平和論にも大きな影響を与えている。永遠平和は可能な
のか、また果たしてカント自身は永遠平和が可能であると考えていたのか、しっかりと読み進めて欲しい。
東大作『平和構築-アフガン、東ティモールの現場から』岩波新書、2009年、780円
(井上)
平和を構築するとはいったいどのような作業を誰がすることなのか。そこにはいかなる課題があり、それらを打ち破るにはな
にが障害となるのか。本書では、これら「平和構築」を考える上で誰もが直面する問いを、著者自らが現場や当事者の声とと
もに検討している。平和構築とはなにかを、具体的事例や日本との関わりを通して学ぶことのできる1冊。
塩川伸明『民族とネイション—ナショナリズムという難問』岩波新書、2008年、798円。
(矢田部)
世界には民族間の紛争が絶えない。自分たち意識はなぜ国と結びつくのか?本書はこの概念と用法を整理した上で、国民国家
の登場から冷戦後までの時間軸の中でナショナリズムにわれわれはどう向き合うべきかを考える。民族やエスニシティ問題を
知るための手頃な 入門書である。
世界地図探求会『世界の奇妙な国境線』角川SSC新書、2008年、798円
(笹岡)
世界地図を見ていると変な国境線だったり、帰属が未確定の地域があったり、飛び地があったり、不思議に思うことが多い。
そんな疑問に答えてくれるのがこの本。世界情勢を知る取り掛かりとしても内容も平易で、わかりやすい。
ファルク・ピンゲル、近藤孝弘『和解のための歴史教科書』NHK出版、2008年、950円
(矢田部)
NHKのドキュメンタリー、「未来への提言」の1回をまとめたテキスト。第二次大戦時に生じたドイツと近隣国の間の「歴
史のトゲ」をどう取り除くか、若者への教育の重要性を説く。民族問題に興味があるならぜひ読みたい。
佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み』ちくまプリマー新書 64、2007年、798円
(矢田部)
民主主義とは何か、改めて問われると、答えに窮するのではないか。民主主義は空気のようなものではけしてない。そのしく
みを分かりやすく解説している。同時に政治とは何かを考えるための優れた入門書となっている。
明石康『国際連合-軌跡と展望』岩波新書、2006年、735円
(井上)
誰もがその名をニュースや新聞で見聞きする国連。本書は、その生い立ちや特徴、可能性と課題をコンパクトにまとめた1冊
である。また、著者は「日本人の国連職員第1号」としてまさに国連の生き様を目の当たりにしながら日々の国際問題に対峙
してきた人物である。本書を通して国連という「窓」からみた国際政治を紐解くことができるだろう。
21世紀研究会『民族の世界地図』新版、文春新書、2006年、840円
(王)
民族とは何か、アイデンティティとは何か、現代世界各地の民族紛争の若干の要因を知ることができる。
多谷千香子『民族浄化を裁く』岩波新書、2005年、735円
(佐渡)
1990年代に発生した旧ユーゴスラビア地域での民族間紛争に対し、国際社会は、旧ユーゴ国際刑事裁判所という国際機関
を設置し、人道に対する罪や戦争犯罪などの国際法に基づいた法の裁きにゆだねることを決定した。だが、国際機構がこのよ
うな裁判所を設置するのは初めてである。果たして公平な裁判は可能なのか、どのようにして捜査をするのか、何に基づいて
判決を下すのか。そしてこのような裁判所の設置が戦争を抑止できるのか、平和に貢献できるのか。日本人として初めて旧
ユーゴスラビア国際刑事裁判所の裁判官となった著者が、その活動を振り返る。
最上敏樹『国連とアメリカ』岩波新書、2005年、861円
(佐渡)
国連について考えるとき誰しもが直面する疑問である、「アメリカにとって国連は何なのか」「国連にとってアメリカとは何
なのか」を正面から捉え、今後の世界秩序を見通そうとした国際機構研究者による書。筆者は、いわゆる五大国に大きな権限
があたえられた安全保障理事会を中心とした国連の中で、超大国となったアメリカが、自らを例外的に取り扱われることを追
求してきたとする。その姿勢が国連という多国間枠組みに与える否定的な影響を示す。
伊勢崎賢治『武装解除』講談社現代新書、2004年、777円
3 ページ
(佐渡)
国際社会は、内戦を経験して疲弊した国家に対し、再び国内が不安定化しないよう、統治制度や治安制度の再構築を支援する
ようになっている。しかしそのような国家での支援活動は時として武力攻撃にさらされる。また治安の悪化は市民生活を脅か
し、復興の足かせともなる。本書は平和構築と呼ばれる紛争後国家への支援策の中でも、武装集団から武器を回収し、市民と
して復帰させる取り組みを、現場での経験に基づいて紹介している。
レイチェル・カーソン『沈黙の春』新潮文庫、2004年、703円
(三上)
今や『沈黙の春』は環境問題の基本書となっている。化学物質、薬剤に依存して自然を破壊し続けたらどうなってしまうの
か。鳥のさえずりさえ聞こえない世界の恐ろしさを考えて欲しい。
青木保『多文化世界』岩波新書、2003年、798円
(王)
グローバル化、一元化が進められている現在、異なる民族・宗教・文化の間に真の相互理解や協調は可能なのか。カギとなる
「文化」をめぐって、理念・現状・課題などの面から説く一冊である。
川崎哲『核拡散』岩波新書、2003年、777円
(佐渡)
核兵器の脅威とは、かつて、その使用による世界の破滅にあった。しかし現在では、核が世界のあちこちに存在するようにな
る「核拡散」が問題視されている。核兵器国と呼ばれるアメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国以外に、核兵器の保有
を秘密裏にまたは公然と求める国が出現し、さらにはテロリストが核を入手する可能性が指摘されているためだ。本書は、核
拡散に焦点が当てられる現在の国際社会において、核拡散防止と核軍縮をともに進めるために、どのような努力が誰によって
なされているのかを示す。
ジョン・ハーシー、石川他訳『ヒロシマ・増補版』法政大学出版局、2003年、1575円
(市川)
被爆後の1946年に取材した「ヒロシマ」、次に40年して1985年、広島を再訪して書かれた「ヒロシマその後」の2つの部分か
ら成る。被爆後の広島の惨状を、生き残った事務員、神父、2名の医者、仕立て屋の未亡人、牧師6人を通じて描いている。被
爆によって、これらの人たちがどのような人生を過ごしたのか、淡々と描写されているのが本書に惹かれた理由である。著者
はピュリッツア賞の受賞者。
東野真『緒方貞子-難民支援の現場から』集英社新書、2003年、693円
(井上)
国際社会が内戦や民族紛争に翻弄された10年を、緒方貞子氏は難民支援をとおして見続けた。本書は、難民支援の現場を緒方
氏の目を通して描き出している。そこにはリアリティがあるだけでなく、難民問題を国際社会がどのように捉えてきたのか、
そこにはいかなる課題があるのか読者に問う内容となっている。
最上敏樹『人道的介入』岩波新書、2001年、777円
(佐渡)
大規模な人権侵害のような事態に対し、国際社会は何ができるか、もしその事態が武力介入によるものでしか解決できないと
したらどうすればよいのか。この点に対する解答はどの研究者よりも明確に与えられているとは言えないが、本書は、様々な
事例を追いながら、最終的には「和解」をキーワードに論理を発展させていく。
高坂正尭『国際政治ー恐怖と希望』中公新書、初版1966年、693円
(矢田部)
国際政治を国際秩序を指向する権力闘争と見、そこから平和の問題として、軍備や経済交流、国際機構、平和国家などについ
て、著者の考えを著わした本。少し前に書かれた本であり、また最上敏樹「いま平和とは」とはかなり論調の異なる平和への
考え方だが、「絶望と希望」の間で国際社会がどうあるべきか考えており、一つの考え方として読むのもよいと感じられる。
Ⅳ 多様な世界の国々を知るために
小川仁志『アメリカを動かす思想』講談社現代新書、2012年、740円
(三上)
プラグマティズムがアメリカを動かしてきたとする主張の本である。デューイは問題解決に役立つ知識を重視し、ミードは他
者との接触による共通の意味世界をデモクラシーと捉え、ローティは会話の継続こそが大事だと見た。可謬主義、多元主義、
会話の継続、熟議がプラグマティズムの特徴であり、民主主義を考える上で有用である。
田口理穂ほか『「お手本の国」のウソ』新潮社、2011年、740円
(名波)
本書では、日本で「お手本の国」として誉めそやされる国の政策について批判的に書いている。例えば教育分野におけるフィ
ンランド、フランスの少子化対策や自然保護におけるニュージーランドである。日本でつくりあげられた評判をう呑みにする
ことが多い事柄について、別の視点で見るとまったく違う面が見える、という当たり前かつおもしろいことに気付かせてくれ
る本である。
橋爪大三郎、大澤真幸『ふしぎなキリスト教』講談社現代新書、2011年、882円
(佐渡)
キリスト教とはどのような宗教なのかを、著者二人が対談を通じて読者に伝えようとしています。2011年に幅広い読者を獲得
した書物です。一神教において神とははどのように捉えられているのか、どのような発展過程を経たのかが示されます。キリ
スト教以外の一神教(ユダヤ教やイスラム教)についても言及があります。キリスト教とは、一神教徒はどのような宗教なの
かのイメージを形成したり、自分自身とは異なる宗教的背景をもつ人々への理解を深めるために本書は有用です。
4 ページ
眞淳平『世界の国1位と最下位―国際情勢の基礎を知ろう』岩波ジュニア新書、2010年、903円
(三上、王)
面積や人口の基礎的データから、資源、食料自給率、進学率に及ぶ世界の1位と最下位を解説するユニークな書である。大き
な柱は9つで、紹介者(三上)などはもっと面白い切り口があると感じたが、着眼点は良い。気楽に読めるので、是非手に
取ってみることを勧めたい
世界の最上位と最下位の国の政治・経済・軍事・貧困率・進学率等の紹介を通じて、その歴史的背景や社会情勢等の事情を分
かりやすく解説する。今の世界を理解するユニークな国際政治・経済への入門書。(王)
竹内実『中国という世界』岩波新書、2009年、819円
(王)
国土は広く、人も多く、古い歴史の中国。「チュウゴク」とは何か、そしてこれからどこへ行くのだろうか。「一つの世界」
を形成する独特の風土に生きてきた人びとの人間観・家族観を描き出す。新たなる中国論の誕生。
堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』岩波新書、2008年、735円
(大島)
「市場原理主義」の下、教育、医療、戦争に至るまで極端な民営化を進める米国社会の実相をたんねんに取材したルポ。米国
の流れに追随する日本に警鐘を鳴らす。9・11テロを目撃したことを契機に駐在員からジャーナリストに転身した著者の熱
い思いがこもる。
林壮一『アメリカ下層教育現場』光文社新書、2008年、777円
(広本)
著者がアメリカの高校で授業をしたときの様子が紹介されています。日本でも問題になっている学力、少年犯罪、いじめにも
ふれられています。アメリカと日本の問題を比較することを通して、日本の文部科学省や教育委員会の施策について考えるこ
とのできる本です。
松本仁一『アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々―』岩波新書、2008年、756円
(佐渡)
アフリカ地域の課題と言えば、スーダンのような内戦の頻発・長期化がすぐに思い出されます。しかし内戦は起きておらず一
見して安定している国も、この地域では様々な課題を抱えています。それは貧困であり、政治の腐敗です。本書からは、「ア
フリカ地域は植民地支配を受けたために貧困なのだ」との分析は単純すぎであり、さらに複雑な要素が、現在のこの地域の困
難を形成していることが伝わります。
進藤榮一『東アジア共同体をどう作るか』ちくま新書、2007年、819円
(佐渡)
欧州と比較してアジア地域では地域機構も少なく、長い間統合が進んでこなかった。しかし近年では東アジア地域の政治的な
結びつきを求める動きが、徐々に強まってきている。その象徴的なものが「東アジア共同体」構想である。本書は東アジア共
同体がなぜ求められ、どのような課題があるのかを分析している。
ワン ガンウー(加藤幹雄 訳)『中華文明と中国のゆくえ』岩波書店、2007年、1785円
(王)
経済成長による台頭の中国は、その文明と伝承を如何に再構築するか。華人歴史学者が、東アジアの共存をみすえて呼びかけ
る明快なメッセージ。
脇坂紀行『大欧州の時代ーブリュッセルからの報告』岩波新書、2006年、777円
(矢田部)
酒井啓子『イラク——戦争と占領』岩波新書、2004年、777円
(矢野)
通貨を統合し、国境の垣根をなくそうとし、国家を超えて、EU (European Union)として一つになろうとしているヨーロッ
パ。新規加盟10カ国を加えて25カ国となったEUは、拡大する一方で、既存の国家とどう併存して行くのか、これからどの
ような方向に向かうべきか、選択を迫られている。特に近年のヨーロッパの状況を踏まえて、EUという壮大なる実験を紹介し
ている。
アメリカのイラク占領は明らかに泥沼化しつつあるが、その一因はしばしば一貫性を欠き矛盾したアメリカの占領政策にあ
る。イラク政治社会の実情を明快平易に解説しながら、アメリカ占領政策との「ボタンの掛け違え」を明らかにしている。
下斗米伸夫『アジア冷戦史』中公新書、2004年、798円
(矢田部)
冷戦終結後もアジアでは韓国・北朝鮮が分断国家として残る。この背景を考えるにはアジア地域独自の冷戦構造を知る必要が
ある。新たな証言などをもとに書かれた本書は日本を取り巻く地域の歴史変動を知るきっかけになる。
羽場久み子『拡大ヨーロッパの挑戦 アメリカに並ぶ多元的パワーとなるか』中公新書、2004年、819円
(矢田部)
冷戦時代に相対立した地域の国家も取り込みながら拡大を続けるEU(欧州連合)。欧州の実験ともいわれる国家統合の歴史
的背景、その問題点、統合の行方と世界、といった極めて現代的課題を平易に解説する。
白石隆『海の帝国——アジアをどう考えるか』中公新書、2000年、777円
(矢野)
我々が目にするアジアは、西欧によって発見され、様々な「プロジェクト」によって形成された世界である。西欧とアジアは
どのように向かい合ってきたのか。植民地主義と帝国主義のインパクトを改めて再認識させられる一冊。
藤村信『中東現代史』岩波新書、1997年、819円
(矢田部)
2003年はイラク戦争の年として歴史に記憶されるだろう。攻める側の論理が正義という観念なら、攻められる側にはいかなる
来歴があるのか。アラブ世界・中東問題の背景を知る入門書。
5 ページ
村井吉敬『エビと日本人』岩波新書、1988年、798円。
(名波)
エビフライや天ぷらなどで世界で一番エビを消費する日本人。本書は、日本人が愛するエビがどこからやってくるのかを、詳
細な実地調査に基づいて描き出しており、その裏に潜む南北問題、貧困や労働問題、そして日本とアジアの隠された関係など
をあぶりだしている。日ごろ私たちが何気なく食べている食物の中にも、さまざまな世界の問題が存在し、日本が関わってい
ることを考えてほしい。
Ⅴ 日本の今を考えるために
今野晴貴『ブラック企業:日本を食いつぶす妖怪』文春新書、2013年、809円
(矢野)
本来、「働く」ことは、我々の生活を支える重要な「柱」の一つなのだが、近年、「働く」ことで逆に心身が蝕まれ、人間的
に「潰される」ケースが増えている。その要因の一つがいわゆる「ブラック企業」の増加である。本書は、「ブラック企業」
問題を労働者個人ではなく社会的な問題として位置づけ、同時によくある「若者批判論」をブッタ斬りながら、ブラック企業
と対峙するための戦略的思考の重要性を説く。
佐藤良子『命を守る東京都立川市の自治会』廣済堂新書、2012年、840円
(広本)
立川市にある大山団地の自治会の取り組みが紹介されています。昔から住んでいる人が多い地域にみられる自然発生的なつな
がりというよりは、人為的につくられたつながりをとおして、住民の問題を緩和する活動が行われています。行政サービスに
頼りきることなく、自分たちで地域をよくしていくための工夫を知ることができます。
外岡秀俊『3・11 複合被災』岩波新書、2012年、903円
(大島)
東日本大震災で何が起きたのか。優れたジャーナリストの筆者が現地のルポと資料に基づいた分析で、その全体像をコンパク
トに伝えている。
山下祐介『限界集落の真実―過疎の村は消えるか?―』ちくま新書、2012年、924円
(広本)
ある地域を知るためには、断片的な情報からイメージを描くだけで終わることなく、実態を理解することが大切だということ
を教えてくれる本です。また、過疎が進行している地域で行われている努力を知ることで、自分の毎日の生活を見直しことも
できます。
大山礼子『日本の国会 審議する立法府へ』岩波新書、2011年、840円
(笹岡)
国会という制度ほど日本の政治のあり方を規定しているものはないと思う。日本の国会の仕組みを知り、それがどのような政
治的帰結を生み出したのかを理解するのに最適な書である。「ねじれ国会」の弊害を目の当たりにした現在、今後の国会のあ
り方を考えるうえで参考になる。
渡辺靖『文化と外交』中公新書、2011年、819円
(三上)
この本はパブリック・ディプロマシーに関する体系的かつコンパクトなすぐれた紹介である。パブリック・ディプロマシーに
は政府の関与が欠かせないが、一方でそれが強すぎると逆にソフトパワーを低減してしまう。透明力や対話力が重要になると
の指摘など、説得力のある議論が展開する。
寺島実郎著『世界を知る力』PHP研究所(PHP新書)2010年、756円
(王)
日本と世界は今どこへ向かっているのか?米中二極体制をどう考えるか?極東ロシア、シンガポールの地政学的な意味とは?
本書が“時空を超える視座”“相関という知”を踏まえて、“分散型ネットワーク時代”の新たな展望、日本の針路及び「全
体知」のあり方を提示する一冊である。
長山靖生『子供をふつうに育てたい』ちくま新書、2010年、777円
(広本)
子どもに関する社会問題が生じる理由が親にあることを説明しようとする本です。子どもに関する問題を緩和するために国や
地方自治体が実施している政策の有効性を考える際に役立つ本です。
五十嵐幸子『秘訣は官民一体 ひと皿200円の町おこし―宇都宮餃子はなぜ日本一になったか
―』小学館101新書、2009年、735円
(広本)
宇都宮市のまちおこしがどのようにして行われたのかが説明されています。市職員だけではなく、地域の住民が参加すること
によって成功した地域振興の様子が紹介されています。
矢作弘『「都市縮小」の時代』角川oneテーマ21、2009年、740円
(広本)
人口が少なくなった都市で起こっている問題に、どう対処すればよいかが説明されています。空き家が多くなった地域を公園
にする、古い建物を観光資源に変えるという取り組みを行っているアメリカやドイツの都市が紹介されています。日本の都市
と比較することで、行政の仕組みの違いがわかってきます。
山森亮『ベーシック・インカム入門:無条件給付の基本所得を考える』光文社新書、2009年、882円
6 ページ
(矢野)
ベーシック・インカム(基礎的所得)とは、「全ての国民に、無条件で(=働かなくとも)、平等一律に(=老若男女、貧富
の差を問わず同じ金額を)、定期的に(=例えば月ごとに)、生活に必要な額を支給する」という構想である。これは貧困撲
滅の決定打なのか、財源を無視した夢物語なのか、はたまた「働かざる者、食うべからず」という社会規範をブチ壊しにする
反社会的なアイデアなのか?この挑戦的な思考実験に少し足を踏み入れてみよう。
坂東眞理子ほか『ワークライフバランス』朝日新書、2008年、777円
(市川)
2008年の金融危機以降、90年代の失われた10年以来再び失業率が高くなりつつある。時代状況に惑わされることなく、自分の
働き方を考えていかなければならない。本書の執筆者は全員女性である。1年生の皆さんにはまだ先のことですが、心や体に
ついての章もあるので、自分がこういう問題に直面したときには参考になるはずです。
山口二郎『若者のための政治マニュアル』講談社現代新書、2008年、756円
(矢田部)
民主主義とは何か、大上段に構えるのではなく、身近な疑問から政治を読み解くスキルを10のルールにまとめて解説してい
る。「当たり前のことを疑え」という章など、国際政治学科の学生ならこれくらいスラスラっと読みたいところ。
湯浅誠『反貧困:「すべり台社会」からの脱出』岩波新書、2008年、796円
(矢野)
2006年時点でのあるデータによれば、日本は相対的貧困率の高さでは先進国中アメリカに次いで第2位の、世界的な「貧困大
国」である。「年越し派遣村」の記憶も生々しい。「もうどうしようもない」という諦念と「このままではヤバい」という危
機感の間をつなぐ「ではどうすればいいのか」という解決策を、ともに考えてほしい。
麻生太郎『とてつもない日本』新潮新書、2007年、714円
(三上)
外相をつとめた政治家、麻生太郎の著書。世界の中での存在感を低下させつつある日本にあって、まだまだ日本の底力は凄
い、と力説している。筆者がソフトパワーとしての日本のマンガに注目したことは有名である。麻生が提唱する「自由と繁栄
の弧」について、自分なりに考えて欲しい。
草野厚『日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか』朝日新聞社、2007年、777円
(名波)
日本の国際発言力が低下しているとも評される現在、日本の国際貢献の大きな柱であるODAの予算も大幅に減額されている。
この本では、なぜ日本が援助をするのか、ということについて概説しており、著者の唱える説や現在のODA自体への議論を行
う入り口となる。
吉見俊哉『親米と反米』岩波新書、2007年、840円
(矢野)
日本人にとってアメリカは、自由と繁栄の象徴であると同時に、占領や米軍基地、戦争という形で現れる権力・暴力の象徴で
もあった。こうした二面性を持つアメリカに、私たちはどのように向かい合ってきたのかを、社会や生活、文化や風俗などの
観点から考察している。
苅部直『丸山真男--リベラリストの肖像』岩波新書、2006年、798円
(三上)
政治学を勉強する以上、一度は丸山真男の本を読んでみたいものです。でも、難しそう、本が分厚すぎる、いろいろ批判され
ている等々、伸ばした手を引っ込めてしまう人も多いでしょう。この本はそんな人にお薦めです。まず丸山真男という人物に
ついて知れば、彼の思想も身近に感じられることでしょう。
河辺一郎『日本の外交は国民に何を隠しているのか』集英社新書、2006年、693円
(三上)
政府の国民に対する説明が疑わしいこと、またその点を国民が問題視しないことを根拠に日本の民主主義にも疑問を投げかけ
ている。厳しい日本政治・外交への非難はその改善につながる建設的なものかどうかも考えながら読み進めてみよう。
樋口陽一『「日本国憲法」まっとうに議論するために』みすず書房、2006年、1575円
(矢田部)
改憲論がふくらむ昨今、わたしたちは本当に日本国憲法をよく知っているのか。本書は憲法の理念を再確認する入門書だが、
そこで語られる「国家」「国民」「個人」「人権」「主権」は、国際政治を語るときにも不可欠の重要なキーワードだ。法と
政治の関係を改めて考えながら読みたい。
本田由紀・内藤朝雄・後藤和智『「ニート」って言うな!』光文社新書 、2006年、840円
(矢野)
私たちは言葉や概念を通じて世界や社会を理解しているが、その定義次第で、問題の核心が隠蔽されたり歪曲されたりするこ
とがある。「ニート」をめぐる言説を通じて、「言葉・概念」と「社会」の関係を考えてみよう。ちなみに、筆者の一人であ
る後藤氏は現役の大学生です。
毛里和子『日中関係 戦後から新時代へ』岩波新書、2006年、840円
(王)
靖国問題や「反日デモ」にきしむ日中関係。冷戦期から国交正常化を経て、現在に至るまでの半世紀の歩みをたどりながら両
国関係に大きな構造変化が表れている。相互信頼に基づく「新時代」の幕開けを展望してゆく日中関係論。
菅沼栄一郎『村が消えた―平成大合併とは何だったのか―』祥伝社新書、2005年、777円
(広本)
平成の大合併で市町村がどうなったのかが説明されています。人口が20万人を超えているのに過疎だという市、命名に苦労し
た市、本庁舎を一つにすることができず四つ設けてしまった市などが紹介されています。
7 ページ
高橋哲哉『靖国問題』ちくま新書、2005年、756円
(王)
『日本の論点』編集部編『10年後の日本』文春新書、2005年、766円
(市川)
靖国問題は、いろいろ議論されてきたが、21世紀の今もなお、日本の外交・内政に絡む大きな問題である。本書は、感情
的、歴史的、宗教的および文化的な面から多角的に靖国問題を論考する一冊で、靖国問題を理解するための助けになるであろ
う。
失われた10年はようやく終わりを告げようとしているが、本格的に解決しなければならない問題は数多く残っている。格差、
年金、治安、フリーター、子どもの虐待、出生率の低下、地球温暖化、日中・日韓関係、財政問題など。本書はどのような問
題を解決していかなければならないのか、整理するのに最適である。
藤原正彦『国家の品格』新潮新書、2005年、714円
(三上)
「『地球市民』なんて世界中に誰一人いない。そんなフィクションを教えるのは百害あって一利なし」と筆者は述べていま
す。民主主義よりも武士道精神が大事だとも言っています。国際的に活躍する数学者の日本論を読んで、世界の中の日本につ
いて考えてみよう。
吉岡忍『奇跡を起こした村のはなし』ちくまプリマー新書、2005年、798円
(市川)
本書は、2005年、中条町と合併して胎内市となった新潟県黒川村の村長、役場の職員が村を暮らしやすくするために奮闘した
記録である。青年のための寮・住宅、スキー場やホテル、畜産団地、ビール園など、その時期に応じたさまざまな施設の建
設。戦後の日本の村が今日までどのように歩んできたか、それを知るためにもよい本である。
田中伸尚『靖国の戦後史』岩波新書、2002年、819円
(矢田部)
繰り返される首相の靖国参拝に、近隣諸国からの怒号の悪循環。我々は本当に靖国問題を知っているのか。過去に向き合うこ
との大切さを学びたい一冊。
佐瀬昌盛『集団的自衛権:論争のために』PHP新書、2001年、756円
(佐渡)
日本の安全を確保し、また国際社会の平和と安全を維持するために,日本は自衛隊を使ってどこまでのことが出来るのかが、
あらためて政治の場で議論されるながれが生まれています。その議論の中心は「集団的自衛権」を日本は行使し得るのか否か
にあります。本書はこの問いに肯定的に答えようとするものです。問いに否定的に答えようとする浅井基文『集団的自衛権と
日本国憲法』集英社新書(2002年、735円)を併読し、それぞれの考え方の意義と問題点を考えてみましょう。
佐藤俊樹『不平等社会日本——さよなら総中流』中公新書、2000年、693円
(矢野)
「一億総中流」はもはや幻想で、現実の日本社会はすでに階級社会化しつつあることを統計的手法によって明らかにしてい
る。「総中流」の名のもとに階級社会的な人的再生産が行われるとき「自覚なきエリート」が登場するという指摘は鋭いし一
考の価値がある。
金子郁容『ボランティアーもうひとつの情報社会』岩波新書、1992年、840円
(市川)
ボランティアを個人がひっそりとする小さな美しさことと考えず、ボランティアを個人が社会とのつながりのつけ方と捉え、
社会を多様で豊かなものにするとしている。本書を読んで、ボランティア活動について再考して欲しい。
佐々木芳隆『海を渡る自衛隊:PKO立法と政治権力』岩波新書、1992年、819円
(佐渡)
1990年代に自衛隊を派遣することに反対した人々は何を理由に反対し、賛成した人々はなぜ賛成したのかを感じてほしい。そ
してそのとき提起された問題点は現在、解決しているのかを考えてみよう。本書は自衛隊が PKOに初めて参加してから10年以
上たった2006年の現在の国際環境の下、自衛隊の PKO参加は当時と異なった評価ができるのか、またそれはなぜかについて、
考えるきっかけを提供してくれるだろう。
中根千枝『タテ社会の人間関係:単一社会の理論』講談社現代新書、1992年、735円
(矢野)
本書は、「場」をキーワードに、個人と(家族や企業など)集団との関係や組織の構造・作動原理を考察した日本社会論の古
典である。日本で「個人主義」は成立するか、家族や企業はどう変化していくのかという古くて新しい問題を考える上での出
発点となるだろう。自分自身の価値観や「皮膚感覚」と照らし合わせながら読んでほしい。
中江兆民『三酔人経綸問答』岩波文庫、1991年、756円
(三上)
紳士君、豪傑君、南海先生の国家の針路を巡る大論争は今もその重要性を失っていない。いや今だからこそ、しっかりと読み
直して、現在の日本の外交政策を考える土台として欲しい。
宮本常一『忘れられた日本人』岩波文庫、1984年、735円
(市川)
競争や効率が優先される現在、もう一度、日本社会のあり方を考える必要性に迫られています。日本各地をくまなく歩いた宮
本の書いた本は、日本社会の現状を考え直すヒントに富んでいます。どこでも読める章を読んでください。宮本は山口県大島
の出身の民俗学者です。
8 ページ