PDFダウンロード - Accenture

顧客を知らずして成長なし
~保険業界におけるソーシャルメディアの活用
日本の保険業界は経済の停滞、人口の減少、東日本大震災による
支払保険金の増加など非常に厳しい事業環境におかれている。
そのような状況下において、
「 顧客接点の強化による顧客満足度、
リテンションの向上」を主要な課題として取り上げている保険会社
が多くみられる。
一方で、近年、
ソーシャルメディアが新たなWeb上でのインフラと
して台頭してきていることは前号でもご紹介させていただいた。
しかしながら、特に金融業界において、
このような新しいチャネルに
対しての取り組みは海外や他業界と比較して遅れがちであることは
否めない。今回は、
ソーシャルメディアの活用目的と海外でのソー
石井 教介
1998年 安田火災海上保険(株)
シャルメディアの活用事例を中心にご紹介したい。
(現 (株)損害保険ジャパン)
入社
2005年 アクセンチュア(株)入社
金融サービス本部 シニア・マネジャー 保険グループ担当
何のためにソーシャルメディアを
活用するのか
ソーシャルメディアの位置付け
ご存知のように、Web1.0 の時代は、書
き手が企業やプロのライター、編集者
であった。この時代におけるマーケティ
ングは既存のマス媒体と同様に一方的
に広告をプッシュするモデルである。
現在、Web2.0と呼ばれる時代におい
ては、検索エンジンが台頭し、ユーザが
様々なサイトにアクセス可能となり、
SNSやブログ、ユーザコミュニティなど
また最近は、SNSがプラットフォーム化 と市場シェアの拡大、②商品・サービス
し、①オープンアプリ規格、②データ の開発、改善、差別化、③顧客ロイヤリ
ポータビリティ規格の普及により、SNS
ティの向上とコスト削減の3つに分類し
がWebサービス利用の OS( Operating
ている。
System)の役割を担うようになってき
ている。これにより、
ソーシャルマーケ
ティングやオープンアプリマーケティン
グなどのマーケティング手法が出始め
ている。
このような流れの中で、
保険ビジネスに
おいてソーシャルメディアをどのように
活用していくか考察したい。
ユーザが発信する情報量が飛躍的に ソーシャルメディア活用の目的
増 加した 。これらのメディアは C GM
ソーシャルメディア活用の目的として
( Consumer Generated Media)
とも 何が考えられるであろうか。まず、大き
呼ばれるが、
CGMが拡大した結果、検索 く「対社内」と「対顧客」の2 種類に分け
これらは、
どれか1つだけを目的とする
ものではなく、複数の目的を達成する
ためにソーシャルメディアを活用する
ことができる。
以 下 、いくつ か の 事 例 でどのように
これらの目的が達成されたのかみて
いきたい。
海外・他業界におけるソーシャル
メディアの活用事例
事例1: 新たな顧客グループの構築
フランスやドイツでは、ソーシャルメ
したキーワードやレビューしたサイト ることができる。
「対社内」としては、情 ディア内で集団扱や相互扶助的なグ
などをキーとして広告を打ち出してい 報 共 有や有 能な人 材 の 維 持・獲 得 の ループを構築してロイヤリティの向上、
く検索連動型 SEO( Search Engine 目的を設定することが可能であるが、 新規顧客の獲得を実現している事例が
Optimization)やブログマーケティング 今回は「対顧客」としてどのような目的 ある。
などの Webマーケティング手法が確立 があるかを注目する。図表 1のとおり、
されている。
弊社ではソーシャルメディアの活用に
よってもたらされるメリットを、①収益
9
フランスの保険会社では、顧客が保険
加入した場合に、契約者のグループ
(通
図表 1 ソーシャルメディアの活用がもたらすメリット
1. 顧客の新規獲得
収益と市場シェアの拡大
ブランド構築/認知度/広報
口コミ/バイラルマーケティング
検索エンジンの最適化
レビュー/ランキング/コメント
ダイレクト
(主にチャリティ)
リッチメディア広告
バズモニタリング
顧客センチメント
(心情)
分析
プライベート/オープンコミュニティ
クラウドソーシング
新しい保険商品
市場研究/競合他社に関する情報
2. 顧客の声(インサイト)と革新
商品・サービスの開発、改善、差別化
3. カスタマーエクスペリエンス(顧客経験価値)と顧客サービス
顧客ロイヤリティの向上とコスト削減
セルフサービス
セルフヘルプコミュニティ
モニタリングと交流
© 2013 Accenture  All rights reserved.
称 Tribe )に所属することができ、その やいて」
くれたりすることで口コミ効果
製薬業界では、MRチャネルの影響力
グループに対しては、自動車保険の加
が強く、効果も高いが、その他のチャネ
入件数毎にポイントを付与・蓄積できる
仕組みを構築している。
グループに所属したメンバは事故が少
なければ保険料が安くなり、
事故が生じ
た場合は、保険金額の超過分にポイン
トを補てんすることが可能となる。
また、
ドイツの保険会社でも、
ソーシャ
が期待できる。
事例2: ゲーム等の活用による顧客
ロイヤリティ、ブランドイメージの向上
ル、例えば同僚の医師や学会なども影
響力があるチャネルである。
次はソーシャルメディア上にゲームの
そのようなチャネルを活用するために、
要素を織り込み、顧客とのコミュニケー
既 存 の 自社 サイトやアンケート等に
ション、
ブランド力向上につなげている
加えて、SNS を活用して顧客データを
事例を紹介する。
獲得し、顧客情報データベースとして
米国の保険会社では、小さな子供がい
一元管理している。さらに、顧客情報
データベースを元に分析を行い、顧客
る若い家庭向けに、ゲームをしながら のプロファイルに応じた製品情報やネッ
で保険料( 30€~ 50€ )を拠出し、その 生命保険について学ぶことができる
トワーク情報をマルチチャネルにより
中で損 害 額がカバーできる場 合は、
アプリを提供している。ユーザはこの中
フィードバックしている事例がある。
保険会社は関与せず、保険会社は損害 で、いくつかの団体に寄付することもで
図表2に示すとおり、
額が拠出分を超過した場合のみ、その きるようになっている。
ソーシャルメディア
ルメディア上にグループを構築した上
保 険 金 を 支 払う仕 組 み を 構 築して
いる。
これらの仕組みを日本で実現しようと
の活用の段階としては①傾聴(情報収
また、健康管理をしながらその経過や 集・分析・発信)
、
②
(顧客との)
関係構築、
結果をFacebookや Twitterでシェアで ③最適化に整理できるが、
この事例は
きるアプリを提供し、
ブランドイメージ
した場合、当然認可の問題がでてくる
の向上、顧客の行動様式の理解を狙っ
が、重要なのは、
これらのコミュニティ
ている保険会社もある。
を構築することにより、
グループのメン
バのロイヤリティを高め、既存顧客の 事例3: ソーシャルメディアの活用の最
終フェーズ“最適化”
維持を実現している点である。
また、これらの仕組みをソーシャルメ
ディア上で構築することにより、
そのメン
バが保険についてシェアしたり、
「 つぶ
より顧客ニーズを踏まえて販売増加に
つなげている事例として製薬業界の事
例を紹介したい。
まさに、
CRM(Customer Relationship
Management)統合、顧客プロファイル
毎の最適化の観点から活用の最適化・
高度化まで進んでいる事例と言える。
ソーシャルメディアの活用・
アナリティクスを成功させるために
これまで見てきたように、ソーシャル
メディアを活用することで今まで以上
10
図表 2 ソーシャルメディア活用の 3 フェーズ
Serve
IT、マルチチャネル
マルチチャネル統合
Drive
エンゲージメント・
マネージメント
マーケティング活動、
営業、
採用
Support
カスタマーケア
React
広報、IT、
コミュニケーション
Learn
マーケティング
顧客の声
(インサイト)
ソーシャルメディアの
モニタリングと警戒
ソーシャルメディアの
分析
1. Listen(傾聴)
「一般」
ソーシャル
メディア
「公式」
ソーシャル
メディア
2. Engage(関係構築)
シードトラッキングと
ROI
顧客プロファイルごとの
最適化
CRM統合
3. Optimize(最適化)
ソーシャルCRM変革プログラム
© 2013 Accenture  All rights reserved.
に顧客データを蓄積することが可能な
さらに、これらの活動を真に価値ある ソーシャルメディアアプリケーション
環境が整いつつある。
ものにするためには、前回、前々回と 自体は、多くの保険会社で導入されて
ソーシャルメディアにより獲得できる
情報は、よりダイレクトに(代理店を通
じてではなく)かつすぐにデータとして
活用できるものとなっている。それらに
加えて、従来の調査やインタビュー、顧
客からの問い合わせ、苦情などの各々
の単一な情報を組み合わせ、テキスト
取り上げた Customer E xperience
Management Cycle、つまり、顧客セグ たアプリケーションではなく、比較的、
メンテーション⇒マーケティング施策・ 簡易に作れるものである。図表 2に示
セールス施策の立案⇒セールス活動・ したソーシャルメディア活用のフェーズ
サービス提供のサイクルを着実に実行
次第であるが、小さな取組から始め、
していく必要がある。
Customer Experience Management
Cycleに沿って高度化・最適化していく
これらの概念自体は新しいものでは
アナリティクスや顧客のプロファイリン なく、海 外 の 保 険 会 社では既に実 行
グ、購買・行動分析により、どのような されているものであり、ソーシャルメ
セールス活動・サービス提供を実行して
ディアはそのための顧客データを収集
いくのかを決定する必要がある。
し、サービス提供する際の1つの強力な
これまで、保険業界は顧客の分析につ
いて、非常に遅れをとってきた。もっと
言えば一部の Webマーケティングを除
けばマスマーケティングがほとんどで
あった。今後、顧客を分析し、顧客を知
ることで効率的にマーケティングを行
うことが必要であることは、現在の事業
環境に鑑みると明白だ。
11
いるようなメインフレームを基盤とし
ツールなのである。
最後に
我 々がソーシャルメディアの 活 用を
する際に提案したいのは、
このような新
しいツールを導入する際に、利益実感
を得やすい小さな取組から開始する
ことである。
ことが重要である。