新たなミツバチの敵スモール・ハイブ・ビートル(SHB)

新たなミツバチの敵スモール・ハイブ・ビートル(SHB)
俵養蜂場参考資料ライブラリーよりトピックスⅠ
1998 年 脱 稿 2011 年 改 稿
スモールハイブビートルとは?
1998 年 、ア メ リ カ 南 部 フ ロ リ ダ 州 の 多 く の 養 蜂 場 の 巣 箱 の 内 に 体 長 約 1cm の 奇 妙 な
幼虫らしい生物が大量に見つかったが、後にサハラ以南のアフリカ大陸を原産地とす
る ス カ ヴ ェ ン ジ ャ ー (scavenger beetle=が む し 類 )と 呼 ば れ る 甲 虫 類 の 1 種 ス モ ー ル ハ
イ ブ ビ ー ト ル( Small hive beetle=学 名 Aethina tumida )の 幼 虫 で あ る こ と が 判 っ た 。
成 虫 は 約 5mm の 黒 い 甲 虫 で 無 害 で あ る 。し か し 巣 箱 に 入 り 込 み 巣 房 に 多 数 の 卵 を 産 む 。
1 匹 の 平 均 産 卵 数 は 約 2000 に 達 し 、 24〜 48 時 間 で 幼 虫 に 孵 化 す る 。 幼 虫 は 巣 脾 に
トンネルを穿ちながら貯蜜・花粉・ミツバチの幼虫や蛹まで食い荒らし、排泄物で蜜
を発酵させて人にも蜂にも利用を不可能にし、遂には蜂群全体の逃去を引き起こす。
空になった巣箱の巣門から、発酵して薄まった蜜が流れ出す光景が見られる。
ス モ ー ル ハ イ ブ ビ ー ト ル ( 以 下 SHB) は 、 フ ロ リ ダ 州 だ け で 最 初 の 発 見 か ら 2 年 間
で約 2 万群の消失を招くと同時に、アメリカ南部・東部各州に拡がりを見せた。
SHB が 原 産 地 ア フ リ カ か ら ど の よ う に ア メ リ カ 大 陸 に 到 達 し た か は 判 っ て い な い が 、
アメリカ国内での急速な生息域の拡大は、移動養蜂に原因があると考えられている。
し か し SHB の 成 虫 に は 翅 が あ り 、 15km 程 は 移 動 す る と み ら れ て い る 。 ま た 幼 虫 は 蜂
蜜だけではなく熟した果実なども食料にする。つまり、ミツバチの巣箱の外でも繁殖
するので、ミツバチの移動とは無関係に生息域を拡げてゆくことも可能である。
ア メ リ カ 以 外 で は 、 オ ー ス ト ラ リ ア で 2002 年 、 ハ ワ イ 州 で 2010 年 に 確 認 さ れ た 。
た だ し 、オ ー ス ト ラ リ ア の 専 門 家 達 は 2002 年 よ り 以 前 に 侵 入 し て い た が 、大 き く 生 息
域 を 拡 げ た 2002 年 ま で は 発 見 で き な か っ た 可 能 性 が 高 い と 考 え て い る 。
サハラ砂漠は越えないと考えられていたが、現在ではエジプトでも定着している。
EU を 始 め SHB の 侵 入 を 許 し て い な い 各 国 は 、 東 南 ア ジ ア の 寄 生 ダ ニ Tropilaelaps
clare と 共 に 、こ の 害 虫 の 侵 入 を 強 く 警 戒 し 厳 し い 検 疫 体 制 を 敷 い て い る 。オ ー ス ト ラ
リ ア は パ ッ ケ ー ジ ビ ー (量 り 蜂 )を チ ャ ー タ ー 航 空 便 で 世 界 中 に 輸 出 し て い た が 、 2002
年以降は条件付きでの女王蜂以外の輸出を断念する結果になった。
不思議なことに原産地アフリカでは深刻な被害は無い。何らかの他の原因で弱体化
し た 群 に 侵 入 し て 崩 壊 さ せ る こ と は あ る が 、健 康 群 へ は SHB は 侵 入 し な い と 言 わ れ る 。
アフリカミツバチが侵入者に対する強い警戒心と攻撃性を持っていることが関係し
ていると思われるが、同じ西洋ミツバチを飼うオーストラリアでもアメリカのような
大きな被害はなく、むしろ量り蜂や女王蜂の輸出が制約を受けるようになったことに
よる経済的損失の方が大きいと言う。
原 産 地 ・ 侵 入 地 域 共 通 に 、「 強 群 が 被 害 を 受 け る こ と は 稀 で あ る 」 と 言 わ れ る 。
両国の家畜衛生当局は、群を常に強勢に保つことを勧めている。
周囲の環境も影響する。アメリカでは南部の亜熱帯地域で被害が大きく、オースト
ラ リ ア で は シ ド ニ ー 以 南 で は 被 害 報 告 が 無 い 。成 虫・ 幼 虫 共 に 気 温 15℃ 、湿 度 50% 以
上で活動が活発になる。しかしそれ以下の冷涼な地域でも、死に絶えることはない。
活動は停止するが、冬眠状態に入り、環境が良くなるまで待つ能力を持っている。
越冬中の蜂球のなかにさえ潜り込むと言われる。原産地の気候では形成されない蜂球
を利用する習性は、新しい侵入地で獲得されたものと考えられている。
生態とライフサイクル
成 虫 は 体 長 約 5mm の 黒 褐 色 で 、 6 ヶ 月 以 上 生 存 す る 。
巣 箱 内 ど こ で も か な り の 早 さ で 自 由 に 動 き 回 る が 、巣 箱 の 底 で 後 方 隅 に 好 ん で 集 ま る 。
雌は巣箱の割れ目・裂け目に産卵する。
卵 は 24〜 72 時 間 ( 温 度 で 変 わ る ) で 孵 化 し 、 白 い 蛆 の 幼 虫 に な る 。
幼虫は花粉とはちみつで栄養を摂りつつ、巣脾にぬるぬるした粘稠性の汚物を残す。
( こ の 排 泄 物 に よ っ て 貯 蜜 は 発 酵 し 、 食 用 に も ミ ツ バ チ の 飼 料 に も 使 え な く な る 。)
幼 虫 は 10〜 16 日 後 、 蛹 化 直 前 に 巣 門 か ら 這 い 出 し て 近 く の 土 の 中 に 潜 っ て 繭 を 作 る 。
潜 り 込 む の に 適 し た 土 壌 が 見 つ か る ま で 、 100m 以 上 這 い 回 る こ と も あ る 。
蛹 の 期 間 は 3〜 4 週 間 で 、 羽 化 後 は す ぐ に 交 尾 し て 再 び 巣 箱 内 へ 侵 入 す る 。
交 尾 後 約 1 週 間 で 産 卵 を 始 め る 。 一 匹 の 雌 は 約 2000 個 の 卵 を 生 む こ と が で き る 。
こ う し て 温 暖 な 季 節 の 間 に 4〜 5 回 の 世 代 交 代 を 果 た し 、冬 の 間 は 冬 眠 状 態 で 過 ご す こ
と も で き る 。( 本 来 は 亜 熱 帯 の 昆 虫 で あ る が 、 温 帯 で の 生 存 能 力 も あ る 。)
我が国への侵入・定着の可能性
量 り 蜂 の 国 際 取 引 は 、す で に 両 方 で SHB が 定 着 し て い る オ ー ス ト ラ リ ア → ア メ リ カ
間 以 外 で は 現 在 行 わ れ て い な い 。 蜂 が 振 る い 込 ま れ る パ ッ ケ ー ジ に 、 SHB 混 入 の 危 険
性があるためであるが、女王蜂の輸出入は新たな条件付きで引き続き行われている。
女 王 蜂 輸 入 国 の 多 い EU の 示 す 衛 生 条 件 は 次 の よ う に な っ て い る 。
1.
EU 域 内 へ の 輸 入 は 指 定 第 3 国 か ら の み 認 め る 。
( 我 が 国 の 場 合 は 、ミ ツ バ チ の 輸 入 に 関 す る 衛 生 条 件 を 取 り 決 め た 国 か ら の み 可 能 )
2.
指 定 さ れ た 第 3 国 で あ っ て も 、輸 出 用 女 王 蜂 生 産 養 蜂 場 の 周 囲 100km 以 内 に SHB
が存在しないことの政府機関の証明書を付ける。
3.
新しい輸送王かごが使用され、かつ一定数以内のエスコートビー(付き添い働き
蜂が 1 匹ずつ人の指でつまんでカゴに入れられること、その後王かごは出荷まで
蜂群との接触が一切無いような輸送法を採用することが条件になっている。
(幼虫や成虫の混入を避けるともに、王かごへの産卵を未然に防ぐための処置)
SHB に 関 し て は 、 我 が 国 の 輸 入 条 件 も EU と 大 き な 違 い は な い 。 た だ 、 EU 委 員 会
が警戒レベルの高い未知の有害昆虫として「届け出伝染病」に指定しているのに対し
て 、 我 が 国 農 水 省 は 、 SHB を 「 家 畜 伝 染 病 予 防 法 」 に も 、 各 国 と の 間 に 結 ば れ た 「 日
本向けに輸出されるみつばちの家畜衛生条件」にも触れていない。
ミツバチに関する農水省の検疫指針は、世界の疫病事情とかけ離れたままになって
いてトゲダニのようなその他の未知の危険害虫にも特に対策が採られていない。
(ミツバチ検疫の問題点はトピックス「女王蜂の輸入はなぜ止まったか」に記述)
SHB が 沖 縄 や 南 西 諸 島 な ど に 侵 入 す れ ば 大 き な 被 害 を 出 す 恐 れ が あ る が 、 輸 入 女 王 蜂
だけを検疫対象にしても対策が万全とは言えない。巣蜜やその他の養蜂生産物・資材
あるいは養蜂とは無関係の農産物や材木などもキャリアーになる可能性がある。
カナダへはミツロウの輸出によって侵入したと考えられている。
少なくとも届け出伝染病に指定した上で、この害虫の存在を一般に知らしめること
が防疫対策のまず第一歩であろう。
SHB 対 策
幸いにも我が国はまだ侵入を許していないが、一度定着すれば根絶させることは不
可能であり、被害を最小限に納める対策を講じる外にない。
参考までに、アメリカで実施されている各種の被害防止対策・駆除法を紹介する。
1.
採蜜用蜜巣・空巣脾などの管理
方法
持ち帰りの蜜巣は 2 日以内に分離する。
蜜蓋もすぐに溶解処理する。
巣 脾 を 24 時 間 − 12℃ 以 下 に 冷 凍
巣 脾 の 保 管 は 湿 度 50% 以 下 の 風 通 し の
よいところで行う。
採蜜場は毎日清掃して常に清潔に保つ。
採蜜場床近くに蛍光灯を設置すること
で幼虫をトラップすることができる。
2.
理由
ミツバチがいないために自由に行動できる。
増殖が早い。
卵・幼虫・成虫のすべてのステージを殺す。
孵化率が下がり幼虫の発育も遅れる。
SHB の 成 虫 を 誘 い 込 ま な い よ う に す る 。
採 蜜 用 に 集 め ら れ た 巣 脾 か ら 、幼 虫 が 蛹 化 場 所
を求めて夜間集まる。
蜂場での対策
方法
SHB に 侵 さ れ た 巣 脾 を 健 康 群 に 戻 さ な い 。
巣脾の差し替えも最小限度とする。
各 蜂 群 の 衛 生 行 動 ( SHB の 成 虫 ・ 幼 虫 を
撃退する能力)をモニターする。
巣箱はできるだけ岩の上か固い粘土質の上
に設置する。
SHB に 侵 さ れ た 蜂 群 の 周 囲 土 壌 に ペ ル メ
トリン(殺虫剤)を散布する。
蜂群に他の病害虫によるストレスを与えな
いような管理を心がける。
抜け節や割れ目の無い巣箱を使用する。
古い箱は早めに処分する。
市販の各種トラップを利用する。※①
チェックマイトの緊急使用登録※②がなさ
れている州は使用しても良い。
理由
SHB の 伝 播 が 拡 が る 原 因 の ひ と つ 。幼 虫 や
成虫がいなくても卵がある可能性あり。
SHB 抵 抗 性 の あ る 系 統 の 蜂 群 を 拡 げ る 。
(例=アフリカミツバチ)
蛹化しやすい場所を避ける。
ライフサイクルを遮断する方法。
蜂群に幼虫がいる時が最も効果的
弱 群 は SHB 侵 入 の 標 的 に な り や す い 。
このような巣箱は成虫の隠れ場所になる。
巣箱に侵入する成虫の数を減らす。
ミ ツ バ チ に は 安 全 で SHB に 唯 一 有 効 な 化
学合成の薬剤。使用を誤ると人体にも急性
毒性のある有機リン系クマホス
※①
SHB が ミ ツ バ チ よ り 小 さ い こ と を 利 用 し て 、 ミ ツ バ チ は 入 れ な い が 彼 ら を 迷 い
込ませて出られなくする各種のもんどり式トラップがある。
スモールハイブビートル幼虫
スモールハイブビートル成虫