うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の

東京家政大学附属
臨床相談センター紀要 第14集
うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の実際
小松
智賀
Cognitive behavioral therapy for social anxiety disorder complicated by depression
Chika KOMATSU
要旨
本論文はうつ病を合併した社交不安障害患者に対して認知行動療法を行った面接過程について報告する。うつ症状に
ついては生活リズムを調整することによってうつ症状の改善と症状の安定を目指し、SAD 症状については Clark & Wells
(1995)の認知モデルをベースとして SAD の症状の悪循環の心理教育を行い、ビデオフィードバックや安全行動なしの
課題を実施した。その結果、うつ症状(SDS)
、不安症状(STAI)
、SAD の重症度評価(社交不安障害検査)において改
善がみられ、社会的な活動が増加し、治療効果がみられたことから、面接で行った治療の工夫について考案した。
キーワード:社交不安障害
うつ病
認知行動療法
【はじめに】1
1
ール症、摂食障害などであるが、この併存症の割
社交不安障害(social anxiety disorder :以下 SAD
合は、SAD の発症年齢によって異なり、SAD が
とする)は、他者の注視を浴びるかもしれない社
早期に発症するほど高くなるといわれている³⁾。
会的状況に対する顕著で持続的な恐怖感、不安反
Lecrubier ⁴⁾は、うつ病、アルコール症の合併は 15
応、そうした状況からの回避行動を特徴とした不
歳未満に SAD を発症した患者に多く、うつ病を
安障害であり、生活への支障度が高い障害である
合併すると SAD の重症度が増すと報告している。
(American Psychiatric Association :APA, 2000)¹⁾。
また、うつ病の合併では、SAD が先行して発症す
例えば SAD 患者は、人前でスピーチをする場面
る場合がほとんどであるとされている⁵⁾。
や他者との会話や会議、書字や公共の場での飲食
SAD の多くは小児期・思春期に発症し、慢性的な
など他者の視線を浴び、他者からの評価を受ける
経過をたどり、自然寛解しにくいのが特徴であり、
可能性のある状況において過度な不安を喚起す
平均罹病期間は 20 年といわれている。また、受
る。その際、顔面の紅潮、動悸、振戦、声の震え、
診率、診断率、治療率が低い割に SAD の QOL
発汗、胃腸の不快感、下痢といった身体症状、ま
(quality of life; 生活の質)への影響は大きく、生
たは場合によってはパニック発作のような形を
産性や昇進といった仕事面や、収入や失業率とい
とることもある。
った経済面、友人関係や恋愛に与える影響が大き
SAD の生涯有病率は 0.5~16%である(Furmark,
いといわれている⁶⁾。SAD の疫学研究からは、学
2002)²⁾。そして、生涯のうちに約 80%は精神科
業不振、中途退学、就労不振、無職、アルコール
併存症を伴うとされる³⁾。SAD に多い併存症とし
乱用などがみられ、社会経済的に低い群で多く、
て、気分障害、他の不安障害、人格障害、アルコ
SAD 患者の半数以上は独身、離婚、別居のいずれ
医療法人和楽会 心療内科・神経科赤坂クリニック
かであるとの報告がある⁷⁾。このようなことから
-19-
うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の実際
も SAD による心理社会的な負担は大きく、早期
あり 1 年ほど服薬した。手術歴はなし。
成育歴・現病歴;2 人同胞の長男として成育。
介入をすることの有効性が指摘されている⁸⁾。
SAD の治療法としては、薬物療法と心理療法が
幼少児は、外遊びより家で遊ぶことの方が好きで、
考えられるが、Heimberg(2002)⁹⁾は、薬物療法と
集団活動が苦手であった。友人は中学校の頃から
心理療法の併用が、SAD の長期的な治療効果の持
同じ音楽の趣味の友人が一人いる。高校 1 年生の
続を考慮するうえで、最も有効であると指摘して
頃より、憂うつ感が出現し他者の視線が気になっ
いる。Liebowitz et al.(1999)¹⁰⁾は、薬物療法と集
たり、自分の視線が気になるようになった。高校
団認知行動療法の効果の比較検討を行ったとこ
2 年生時では、理由もなく落ち込み学校を欠席す
ろ、薬物療法の SAD 症状への即効性と認知行動
ることが 2、3 日続いた。精神科を受診したもの
療法の長期的な効果を指摘している。
の、2、3 回の通院で中断してしまった。高校 3
SAD の認知行動療法的アプローチとしては
年生時には、月に 1 度気分の落ち込みで学校を欠
Clark & Wells(1995)11⁾と Rapee & Heimberg(1997)12⁾
席するようになった。大学受験に失敗し、予備校
のモデルを中心に発展してきた。この両者のモデ
に通い始めたものの、他者の視線が怖く、自分の
ルの共通点としては、SAD 患者はパフォーマンス
視線が他者を不快にさせているのではないかと
場面で他者に見られる自己の行動を低く見積も
いう心配から教室で授業を受けることが苦痛と
り、自己の不安が他者にどのように映るかについ
なっていった。X-2 年 10 月には予備校に通えな
て過度に見積もるという点を指摘している。
くなり、精神科を受診。薬物療法を開始するもの
そこで本論文では、うつ病を合併した社交不安
の、自己中断してしまったり、なかなか継続した
障害の症例に対して Clark & Wells の SAD の認知
通院ができず、転院を繰り返していた。X-1 年、
モデルを基に介入を行い改善がみられた面接過
調子に波があり、調子が悪いときは一日起きあが
程を通し、面接での工夫点などについて考察を加
れない日もあったものの、全体的な抑うつ気分は
えたいと思う。
改善してきたことから、コンビニのアルバイトを
始めた。しかし、接客がストレスであり、また、
【症例概要】
簡単なミスに過度な自己責任を感じてしまい 1
症例は、個人が特定できないように論文の主旨
を損なわない程度に改訂を加えた。
ヶ月ほどでやめてしまった。
X 年 5 月、
当院初診。
抗うつ薬、抗不安薬による薬物療法を開始した。
症例(以下、Cl とする)
;A さん、20 歳代前半、
男性。
薬物療法により抑うつ気分や気力減退の改善が
みられ外出する機会も増えてきた。しかし、依然
主訴;視線恐怖。自分の視線が他者を不快にし
として視線恐怖に対する不安が継続し、このこと
ているのではないかと思う。過眠。やる気が出な
が社会復帰の妨げとなっていると、主治医の判断
い。
から薬物療法と並行して、薬物療法開始から 5 ヶ
家族歴;両親(40 歳代)
、弟(高校生)
、家族 4
月後に心理療法を導入することになった。
人で同居。母が治療は受けていないものの、軽い
視線恐怖があった。
【面接過程】
既往歴・手術歴;小学校 3 年生まで小児喘息が
-20-
面接は 1 回 30 分で実施した。ただし、#4 の行
小松 智賀
あった。このような過眠の時期が 2 年前より繰り
動実験の回のみ時間を延長し 50 分とした。
第1回の面接では、インテーク面接を実施した。
返しあるとのことであった。インテーク時に話し
主訴、成育歴、現病歴、現在の生活状況、カウン
たネガティブな思考については、人が集まる場な
セリングに対する希望を聴取した。視線恐怖につ
どにおいて、「視線で人を不快にさせてしまうよ
いては、電車や映画館などでの他者の視線は気に
うな自分がこの場にいていいのだろうか」といっ
ならなくなったものの、教室や食事場面では他者
たような対人関係についての思考が多く、また将
から自分がみられているような気がして、どのよ
来に対する不安は SAD による行動制限によるも
うに見られているのかが気になり不安になると
のが大きいと考えられた。そこで、うつ症状に対
のことであった。自己視線については、自分の視
しては、就寝時刻や起床時刻を調整し、日中の活
線が他者を不快にさせているような気がすると
動を増やすようにするといった生活リズムの調
のことであった。また、対人関係については、天
整を行い、SAD に対する治療を並行して行なうこ
気の話題などあたりさわりのない会話はできる
ととした。この回の面接では、Clark & Wells の認
ものの、徐々に相手との親密さが増していくと何
知行動モデルを用いて、Cl の SAD 症状の悪循環
を話してよいのかわからなくなってしまうとの
の理解を促した。その際に、Cl と作成した SAD
ことであった。現在の生活状態は、昼寝を含めた
モデル図を図.1 に示した。
睡眠時間が 10 時間を超えており、過眠状態であ
図.1 では、SAD 症状が出やすい社会的場面と
った。就寝時刻は 12 時頃とおおよそ一定である
して「教室で授業を受けているとき」をとりあげ、
ものの、起床時刻は早くて 7 時、遅いと 10 時~
モデル図に沿って以下のような説明を行った。こ
12 時とバラバラであった。日中は、特に予定が
のような場で「(自分の)視線が相手を不快にし
なく外出は母親と買い物に行く程度であり、時々
ているんじゃないか、自分がおかしいと思われる
料理や洗濯などの家事の手伝いをしていた。予定
んじゃないか」といった自動思考が出てきて、緊
がなく暇な時間につい昼寝をしてしまうことも
張、不安といった感情が出現し、体の震え、こわ
多いとのことであった。カウンセリングに対する
ばり、動悸といった身体症状が現れる。そして、
希望は、つい考え方がネガティブになってしまう
自分が恐れるような状況、状態にならないように
ため、それをどうにかしたいということと、専門
Cl は「なるべく教室の後ろの方に座る、うつむ
学校などへの進学やアルバイトなども考えたい
いて視線を合わせないようにする」といった安全
が今の自分では恐怖心もあり具体的に考えるこ
行動をとってしまい、このような自動思考や不安
とができない、将来を前向きに考えられるように
感情、症状や安全行動が、過度な自己注目につな
なりたいとのことであった。初回の宿題として、
がり悪循環になっていくという SAD が成り立つ
質問紙の回答と睡眠時間や外出などの生活状況
のである。Cl は、この説明に納得し、この悪循
の記録をつけることとした。
環にならないように治療をしていくということ
第 2 回面接は、
初回から約 2 週間後に実施した。
で Cl の治療の方針に対する同意を得た。
まず、初回後の 2 週間の生活状況は変わらず過眠
第 3 回面接は、第 2 回面接から 1 週間後に実施
状態であり、一度は午前中に目が覚めるものの、
した。安全行動が SAD 症状を維持してしまって
眠気が強く午後 2 時や夕方まで寝てしまう日も
いるという機能を理解してもらうために安全行
-21-
うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の実際
図1
Clark & Wells(1995)に基づいた A さんの認知モデル
状況
教室で授業を受けているとき
自動思考
(自分の)視線が相手を不快にしているのではないか
他人の視線が気になる、自分がおかしいと思われているのではないか
自己注目
安全行動
不安感情・症状
教室の後ろの席に座る
緊張、不安
他人と目を合わせないように下を向く
体のふるえ、こわばり、動悸
人の多いところに行かない
動あり/なしのビデオフィードバックを行った。
に「スピーチ不安行動評定尺度」を記入してもら
ターゲットとする安全行動は「視線を下にしてう
った。なお、ビデオを見る際に「ここに映ってい
つむいてしゃべる」として 3 分程度自己紹介をし
るのは自分ではなく他人だと思ってみてくださ
てもらった。ビデオフィードバック内容としては、
い」と教示した。「スピーチ不安行動評定尺度」
1 回目は安全行動ありでよいので普段通りに話す、
の結果を その結果、1 回目の普段通りの話し方
2 回目は安全行動をあえて強調して話す、3 回目
では「自分が想像していたほどおかしくは見えな
は安全行動なしで話すという課題を設定し、ビデ
かった」とのことであり、2 回目の安全行動を強
オ撮影を行った。それから、ビデオ撮影をする前
調した話し方では「視線が下に向いていると暗く
に自分が他者からどう見られているかという予
みえる。緊張しているようにみえる」とのことで
測をしてもらいながら「スピーチ不安行動評定尺
あった。3 回目の安全行動なしでは「下を向かな
度」を記入してもらい、ビデオ撮影後、3 回目の
い方が明るく見える、緊張しているようには見え
安全行動なしでのビデオを客観的視点から同様
ない」とのことであったことから、他者から客観
-22-
小松 智賀
図2
ビデオ撮影前の評価と 3 回目安全行動なしのビデオをみての評価の比較
3回目安全行動なしのビデオをみての評価
ビデオ撮影前の評価
声
言
葉
の
流
調
さ
表
情
腕
と
手
体
の
動
き
全
般
1 非常に緊張した声
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
に
非常の落ち着いた声
2 速すぎる
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
適当な早さ
3 単調/抑揚がない
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
適度なメリハリがある
4 発音が不明瞭
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
発音が明瞭
5 余分な単語や音節が
気になる
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
余分な単語や音節が
気にならない
6 言葉がなかなか
でてこない
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
言葉がスムーズに
でてくる
7 視線の使い方がへた
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
視線の使い方がうまい
8 無表情/
こわばった表情
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
豊かな表情/
余裕のある表情
9 不適切な笑いが
気になる
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
不適切な笑いが
気にならない
10 こわばっている/
こわばている/
緊張している
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
力が抜けている
11 無関係な動きが
気になる
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
無関係な動きが
気にならない
12 ジェスチャーの量が
過剰/不足
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
ジェスチャーの量が
適度である
13 意味もなく体を揺らす
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
意味もなく体を
揺らさない
14 直立不動/
かたい姿勢
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
余裕のある姿勢
15 全般的に不安が
非常に高い
-5
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
全般的に不安が
非常に低い
的にみえる自己像について確認した。そして、安
末に短期アルバイトの説明会があるとのことか
全行動が逆に緊張を増加しているということを
ら、この説明会で「下を向かないで話を聞く」と
Cl に説明した。ビデオ撮影前と 3 回目撮影後に
いうことを課題とした。
第 4 回面接は第 3 回面接の 2 週間後に実施した。
評価してもらった「スピーチ不安行動評定尺度」
の結果を図.2 に示した。この回の宿題として、週
生活リズムは徐々に改善してきており、日中に昼
-23-
うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の実際
寝をすることがなくなり、日中の活動量も増加し
ズムは安定した状態であり、以前 1 ヶ月でやめて
てきたことに伴い、抑うつ気分も改善し落ち込む
しまったコンビニのアルバイトも始めてみたと
ことも減少した。宿題であったアルバイトの説明
のことであった。ミスをすることもあったが、過
会で下を向かないようにするということは、実行
度に自分を責めることもなく、わからないことが
することができ、電車の中などでも下を向かない
あったら先輩や上司に聞くことができていると
ようにしたところ、逆にその方が気持ちが楽にな
のことであった。第 7 回面接は第 6 回面接の 2 ヶ
り人の視線も気にならなくなったとのことであ
月後に実施した。多少調子の波はあるものの、ア
った。今回の面接では、より不安の程度が強く回
ルバイトも続けることができており、他者の視線
避している状況で安全行動をしないという課題
も気にならないとのことであった。この回に、初
を実施した。課題の内容としては、ファーストフ
回に宿題として実施した質問紙と同様の質問紙
ード店に混んでいるお昼の時間帯に行き、店の中
を実施してもらい結果のフィードバックを行い、
央にある対面になるテーブル席に座って食事を
面接を通しての改善点を確認し、今後問題となり
するという状況を設定し、
「うつむきながら食事
そうなことについて検討した。Cl 自身も自分の
をする」という安全行動をとらないようにすると
力でやっていけそうとのことからカウンセリン
いうものとした。その際に治療者はファーストフ
グ終結となった。初回時に宿題とした質問紙の結
ード店に同行し、Cl の視界に入らない場所で、
果と終結時の質問紙の結果の比較を図.3 に示し
Cl とその周囲の人を観察するようにした。課題
た。この結果をみると、うつ症状、不安症状、SAD
実施の結果、下を向いて食事をしていたときは
の重症度尺度のすべてにおいて改善が認められ
「周囲の人は自分のことを見ているのではない
た。質問紙の説明を表 4 に示した。
か、もし自分と目が合う人がいたら、露骨に目を
そらすのではないか」と思っていたが、実際に視
【考察】
線を上げて食事をしてみたところ「顔を上げてい
本症例は、幼少児に SAD を発症し、その後う
たほうが楽、周囲の人は個人個人でそれぞれ行動
つ病を合併した症例と考えられる。薬物療法によ
をしていて自分のことを気にする人はいなかっ
り、うつ症状が改善し、SAD 症状においても多少
た、自分と視線があっても、不快そうに視線をそ
の改善がみられたものの、他者と自己に関する視
らす人もいないし自分の視線が他者を不快にさ
線恐怖が持続し、社会復帰に対しても SAD によ
せているわけではなさそう」という見解が得られ
る行動制限が認められたことから心理療法の導
た。
入となった。そこで、認知行動療法による介入を
第 5 回面接は、第 4 回面接の 4 週間後に実施し
開始し、改善のみられているうつ症状については、
た。この間に短期アルバイトに欠勤することなく
生活リズムを調整しつつ行動を活性化させるこ
行くことができた。このことが自信となり、不定
とにより、より安定した状態を目指した。そして、
期なものであるが長期のアルバイトも始めるこ
SAD 症状については、Clark & Wells の認知行動モ
とも決めたとのことであった。睡眠時刻も一定と
デルを基に SAD 症状の悪循環の理解を促し、ビ
なってきており生活リズムも整ってきた。第 6 回
デオフィードバックや安全行動なしの課題を実
面接は第 5 回面接の 4 週間後に実施した。生活リ
施することにより他者からこうみられているだ
-24-
小松 智賀
図3
面接初回時と終結時の質問紙の結果
75
80
初回面接時
70
60
50
58
50
41
終結時
56
48
45
52
50
43
49
42
40
30
20
10
0
表4
質問紙の解説
質問紙の名称
質問紙の概要
Self-rating Depression Scale(SDS)
Zung により作成された抑うつ症状の評価尺度。20 項目、4 段階評価。カットオフ
は 40 点である。
State-Trait Anxiety Inventory(STAI)
Spielberger が作成した不安状態を測定する尺度。状態不安、特性不安それぞれ
20 項目で構成される。4 段階評価。
不安感受性尺度日本語版; Anxiety
Sensitivity Index (ASI)
村中らによって日本語版が作成された。不安感受性を測定するための尺度。16
項目で構成され、5 段階評価。
社交不安障害検査
貝谷らにより作成された。日常生活の状況における恐怖度と回避度、不安の身
体症状、日常生活の支障度の 4 側面から SAD の重症度を評価する。
Liebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)
Liebowitz により作成された。24 の社会的状況に対して恐怖度と回避度を評価す
る。SAD の重症度を測定できる。
ろう自己イメージが変容され、回避していた社会
ードバックにおいて介入効果を示すためには、ビ
的状況にチャレンジすることができるようにな
デオ映像の観察の前に認知的介入を併用するこ
った。安全行動をしないことによって、選択的に
とが重要であるとしている。本症例においては、
自己注目していた状態が、周囲にも注目できるよ
この点については「ビデオの中に映っているのは
うになり、周囲の客観的な情報を得ることができ
自分ではなく他人だと思って見てください」とい
るようになり、これが自己の歪んだイメージの修
う教示を行った。本症例では行わなかったが、治
正をさらに促進し、その結果、社会的状況におけ
療の工夫として低い自己評価と他者評価の差異
る緊張や恐怖が低減したと考えられる。
を検討するために、客観的な評価者を設けて、
城月ら(2011)¹³⁾によると、社交不安の高特性
者は単純にビデオ映像を観察すると、その内容や
SAD 患者のビデオを一緒に見ることを設定する
こともある。
様子をネガティブに捉え、客観的に評価すること
SAD は内気や恥ずかしがり屋といった単なる
ができないと述べている。そのため、ビデオフィ
性格的な問題として受診行動につながることが
-25-
うつ病を合併した社交不安障害に対する認知行動療法の実際
少ないという問題点も見られたが、本やインター
7) Kessler RC, Stang P, Wittchen HU, et al. 1999
ネットなどでの情報が得やすい社会になったと
Litetime co-morbidities between social phobia
いうこともあり、徐々に受診行動につながること
and
も増えていると思われる。しかし、本症例にもみ
Comorbidity Survey. Psychol Med, 29, 555-567.
mood
disorder
in
the
US
National
られるように、SAD は発症時期が早く、就学や仕
8) Chavira DA, Stein MB, Bailey K & Stein MB.
事、友人関係や恋愛などの QOL への影響は大き
2004 Comorbidity of generalized social anxiety
いという特徴がみられることから、SAD に対して
disorder and depression in a pediatric primary
適切な治療を行うことが、その後の Cl の転帰や
care sample. Journal of Affective Disorder, 80,
QOL に重要な意味をもつと考えられる。
163-171.
9) Heimberg RG. 2002 Cognitive-behavioral therapy
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-26-
小松 智賀
Abstract
In this paper, I have described the course of Cognitive behavior therapy for a case of social anxiety disorder
(SAD) complicated by depression. In the interview, by adjusting the lifestyle, we aimed at stability and
improvement of depressive symptoms for depression. We understand the symptoms of SAD from a view of the
cognitive model of Clark & Wells (1995), and carried out a speech task by videofeedback without a safety
behavior. The result, improvement was observed severity rating depressive symptoms (SDS), anxiety symptoms
(STAI), and the SAD severity (social anxiety disorder scale).
Key word:Social anxiety disorder
Depression
Cognitive behavior therapy
-27-