みんなの知らない「声優」の世界 ~ネット声優・こえ部

みんなの知らない「声優」の世界
~ネット声優・こえ部~
1.緒言
どうも、ホリィ・センです。「ネット声優」と聞いて皆さんはどういうイメージを持つだろうか。
ネット声優をマネジメントするちゃんとした組織があるのかないのか?
るだろうか?
どうやって仕事を得
そもそも「仕事」と呼べるほどにネット声優をする彼女ら彼らは、お金をもらって
いるのだろうか?
そんな疑問が湧いているかどうかも分からないし、需要があるのかも分から
ないが、声優ファンでもおそらく多くの人がカバーしていない「ネット声優」とは何か?というこ
とを語りたいと思う。また同時に、近年勢力を伸ばしているサービスである「こえ部」についでも
語りたいと思う。
2.ネットにおける音声
ネット声優について述べる前に、ネット上にはびこる音声の全体像を示しておきたい。
2.1.メッセンジャー
Yahoo や Windows Live(MSN)でも音声通話は可能だが、
真っ先に挙がるのは Skype だろう。
無料で同時に複数人が通話できる上に、音質も良く、映像通話もできる。音声通話以外にも、チ
ャットの発言を編集したり削除したりできること、大きなサイズのファイルを送信できることな
ど、機能性に優れている。
2.2.配信
私はあまり詳しくはないが、代表的なものを挙げるならば、ニコニコ生放送(以下ニコ生)と
Ustream だろう。ニコ生は配信するためにプレミアム会員である必要があったり、配信できる
時間が限られていたりするデメリットはあるが、視聴者の人数は――放送枠が限られているのも
あり――基本的に多く、いろんな人に観てもらえる(ただし、おそらく年齢層が低い。この問題
は後に詳しく述べる)。Ustream は制限が少ないものの、人気の配信者でない限りはそう簡単に
は人が集まらない。双方に一長一短あると言えるだろう。
2.3.動画共有サイト
これも山のようにあるが、代表的なものはニコニコ動画(以下ニコ動)と youtube だろう。音声
を利用したものとしては、まず”歌ってみた”や”演奏してみた”があり、後に詳しく述べるボイス
ドラマや、数は少ないがアニメーションもある。
2.4.こえ部
個々人がこえ部の「部員」となり、声の録音ができて、録音するためのお題も投稿できる(お題
なしでは投稿できない)。録音ソフトを使わなくてもブラウザで録音できる(個人的な意見として
は、音質が悪いため、フリーの録音ソフトでは Sound Engine や Audacity を使うべき)。また、
音声の再生は「部員」でなくてもできる。歌の投稿も多いが、セリフなどの演技の投稿が多いのが
特徴的である。また、こえ部 LIVE!という機能があり、個々人が「部員」としてアイデンティフ
ァイされた(匿名ではない)状態で音声通話ができるという機能であり、「LIVE 部屋」なる枠を作
るという点ではニコ生とも似ている。ただし、部屋は「部員」なら誰でも自由に作ることができる
上に、最初から個々人がアイデンティファイされているという点はニコ生とは違う。また、「部
員」であれば気軽に不特定多数の人間と会話できるという点は Skype と違うところであろう。少
しオーバーラップして語ったが、こえ部については後に詳しく述べる。
2.5.ネット声優
音声によってドラマを作るボイスドラマや、キャラクターの音声が入っているゲーム、また、
同人には珍しいがアニメーションを、制作してネット上で公開している人たちがいる。それらの
音声を担当するのが基本的にはネット声優である。中にはプロに依頼する人もいるが、お金がか
かるのと、18 禁には出演してもらえない場合が多いというのがネックである。これも後に詳し
く述べる。
2.6.相互作用
ニコ生や Ustream、こえ部には自分の SkypeID を公開している人が多い。また、こえ部をや
っている人がネット声優もやっていることや、ニコ動で”歌ってみた”を投稿していることなども
しばしばある。それらの相互作用が、特にこえ部においては問題になっている部分がある。これ
も後に詳しく述べる。
3.こえ部徹底分析
2.4.で述べたこえ部は表向きには面白い、魅力的なサービスに見えるかもしれないが、様々な
面において裏の顔がある。それを逐一紹介していきたい。
3.1.「部員」
部員登録の敷居は高くないので登録者は多い。年齢層は若い人が中心で、”こえ部本”(後に紹
介する)によると、10 代が 82.2%で、職業も中学生 35.4%、高校生 32.7%ということである。
そこには書いてはいないが、おそらく女性が多いのも特徴だろう。しかし、調べたわけではない
が、どうやら副アカウントを作っている人は相当数いる。中には自作自演で自分の評判を操作し
ている人もいるという。そして、ここからはかなり主観になるが、こえ部に部員登録しようとす
る人間に、世間で言う真っ当な人間は少ない。人より自己顕示欲が強かったり、コミュニケーシ
ョン依存(構ってちゃん)だったり、いわゆる空気が読めない人間だったり、といったところの人
が多い印象である。ちなみに、”こえ部本”によると、部員の「やりがい、目標としていること」
は、1 位「ランキングに載ること」、2 位「声優や歌い手になること」、3 位「他人とコミュニケーシ
ョンをとること」とある。余談だが、部員のプロフィールを見ているとすごく似たり寄ったりな
ことがある。皆がボーカロイドを好きで、皆が BLEACH、リボーン、銀魂を好きで、皆が神谷、
杉田を好きで、皆が将来声優になりたい気がしてくる。
3.2.音声投稿
こえ部のメインのサービスと言える、音声投稿について紹介する。時にこえ部が「声優のタマ
ゴたちが活躍している」と言われる所以でもあるのだが……
3.2.1.お題投稿
セリフや歌が指定されていたり、シチュエーションや設定だけ書かれたりと様々なお題がある。
これらはこえ部の「部員」が自由に投稿することができる。しかし、個人的な意見を述べると、あ
まりにお題の傾向に偏りが強い。例えば、若い人間が多いからか、ギャグの要素が入っているお
題は相当に多い。私も人のことは言えないが、セリフとして成り立っているのか?と疑うものも
少なくないし、別に悪いとは思わないが、BL モノや 18 禁モノも多い。また、人気お題なるお
題や、事務局オススメのお題なるものがトップページに表示されるが、一言だけなど、非常に投
稿しやすいモノが多い印象を受ける。
3.2.2.録音
2.4.でフリーの録音ソフトを使った方が良いと述べたが、音質の悪い人は相当多い。慣れてな
い人にはよくあるが、マイクに空気が入ってしまうポップノイズが目立つ人もかなりいる。改善
しようと思えばすぐ改善できるレベルで改善していない人が本当に数多くいる。
3.2.3.音声
お題を通して録音された音声は、「部員」じゃなくても再生できる。ただ、問題点として、盗作
などもあり得る。ニコ動等で人気の歌い手の音声ファイルをそのまま取ってきてアップロードす
る人もたまにいる。バレると炎上するのは言うまでもない。余談だが、ニコ動とこえ部の両方を
やっている人も数多く存在する。
3.2.4.再生数・スマイル・コメント
音声に対しては再生数、スマイル、コメントが表示される。スマイルとは、その音声を聴いた
人が良いと思ったら投票できるもので、スマイルを入れないという選択肢ももちろんあるが、一
つの音声につき、一人 3 票まで入れられる。人気部員となってくると 3 ケタ以上のスマイルは
ザラである(別アカウントによる自作自演もあるかもしれない)。実はこれらが非常に大きな問題
の一つである。スマイルとコメントは部員にしかできないのだが、スマイル数に関しては、誰が
投票したのか分からないので自作自演が容易である。次に、コメントだが、コメントする人自身
もアイデンティファイされているのである。例えばニコ動のコメントなどならば、コメントする
側は匿名なので、下手なら下手と正直に言うことも多い(これはこれで一種の問題、上手くても
下手と言うこともあるだろう)。しかし、こえ部で批判的なコメントをしたらそれこそ村八分で
ある。私のように批判的なコメントを歓迎している人もこえ部内にはそれなりにいるだろうが、
自分が誰かということが他人に分かる状態で批判的なコメントをするのには抵抗がある、という
ものである。結果としてこえ部のスマイル・コメントは「馴れ合い」、もっと言うと、「音声」が一
種の「表現」なだけに「駄サイクル」(※1)と化しているのである。そしてこの流れは個々人の部員
ページの掲示板や、こえ部 LIVE!にもある。
3.3.こえ部 LIVE!
駄サイクルだけでなく、
様々な問題が複合的に起きている諸悪の根源がこえ部 LIVE!である。
2.4.で述べたが、「LIVE 部屋」で歌ったり、雑談したり、声劇をしたりである。
3.3.1.ジャーゴンやよくある現象
LIVE 内には様々なジャーゴン(そこでしか通じない専門用語)が存在したり、特有の現象が起
こったりする。一つ一つ紹介していく。
上がる:音声通話もテキストチャットもできる「スピーカー」になること。
下がる:テキストチャットのみできる「リスナー」になること。
例文「この部屋は上がり下がり自由ですよー」
チャック:特定の人の音声を聞こえなくする+テキストチャットを見えなくする。LIVE 部屋の
マスターがする、全体に影響するチャックをマスターチャック(マスチャ)と言う。
混雑先輩:一時的にアクセスが多くなるなどで、LIVE 部屋から落ちてしまう現象。
「F5 行ってきまーす」:ブラウザの更新をすること。
親フラ:「親がフラッと現れる」もしくは「親フラグ」の略だと思われる。通話中に親に呼ばれて本
名がバレることも多い。他にも兄フラ、姉フラ、犬フラなどもある。
「○○さんの~~まで、3・2・1・キュー」:誰かに対していわゆる「ムチャ振り」をする際の定型
句。ムチャ振りに対応できなかったら微妙な空気になる(ように「ムチャ振り」した人が仕向ける)。
「ド S・ド M」:やたらと S か M かの話題になる。上記の「ムチャ振り」をする人は「ド S」らしい。
イケボ:イケメンボイスの略。社交辞令。自分を卑下して自分のことを「駄声」とも言う。
声真似:誰も頼んでないのに声真似する人もいる。神谷浩史、小野大輔、杉田智和、子安武人、
緑川光などは女の子に大人気である。その他、大塚明夫や若本規夫の声真似は多い。女性で声真
似をする人はあまりいない。一昔前は平野綾の声真似が人気だったようにも思う。
メンタルヘルス:大学生はなぜか心理学専攻が多い気がする。3.1.に書いた部員像に加え、躁鬱
気味の人やいわゆるメンヘラも多いようだ。診療内科を自称する LIVE があったり、自称精神科
医のおじさんが現れたりする。
顔文字:年齢層が低いからか、テキストチャットが顔文字で埋め尽くされることはよくある。
性別:一人称が俺の女の子(腐女子も多いだろう)や、自分の性別を言わない人がいる。元々なの
か作ってなのか、中性的な声の人も多い。
両声類:LIVE だけでなく音声投稿でも大人気だが、男女両方の声が出せることは一つのステイ
タスとなっている。これが意外にもちゃんとできている人がいてビビる。
身内部屋:身内しか入ってはいけないという決まりの LIVE 部屋。これを嫌う人もいて、「Skype
でやれ」と言われる。閉鎖的なこえ部の更に閉鎖的な空間。
3.3.2.出会いの場
こえ部は『裏モノ JAPAN』という雑誌(※2)の、「割り切ってすぐに遊べる入れ食いサイト 50」
というコーナーで紹介されたこともある。低年齢の女性が多くいる中、いわゆる「出会い厨」も少
なくない。ニコ生でも同様の現象は起きているだろうが、ニコ生よりも「低年齢の」「女性が」多い
という点、1 対多数のニコ生と違い、個々人がアイデンティファイされているという点ではこえ
部の方が出会い厨にとって有利かもしれない。しかし、2011 年の 1 月、「音声専門投稿サイト」
によって知り合った男女の間で起こった殺人事件(※3)は記憶に新しい。この事件がこえ部が原
因で起こったかどうかはともかくとして、「出会い系サイト」同様に、犯罪の温床となる可能性が
あることは指摘しておきたい。
3.3.3.歌部屋・セリフ部屋
もちろん、単に楽しむために LIVE 部屋を開いているのだろうが、歌やセリフの性質上、自己
顕示欲や構ってちゃん精神が見え隠れする。
3.3.4.声劇
私もそこまで詳しくはないが、古くは Yahoo!チャットで盛んに行われていた、声による劇。
声劇部屋はいつも多くの人が入っている印象を受ける。馴れ合い・駄サイクルの感は否めないが、
他の種の LIVE 部屋とは一線を画すようで、声劇部屋にしか行かない部員もいる。割愛するが、
台本の決め方や役の取り方などには様々なマナー・ルールがある。
3.4.こえ部事務局
こえ部は面白法人カヤックが運営するサービスである。カヤックがどういう企業であるかなど
も面白いが、そのあたりは割愛する。興味のある方は検索していただきたい。ここでは事務局側
のこえ部の運営について述べる。
3.4.1.ランキング
事務局が「独自のアルゴリズムで」ランキングを集計している。ランキングの上の方にある投稿
は確かに良いものは多いが、大体スマイル数が多いので、馴れ合いの身内票という面はある。
3.4.2.イベント
アニメやゲーム(オンラインゲームも多い)や、時には進研ゼミやローソンとタイアップしてま
でイベントを開くことがある。宣伝はできているとはいえ、その金出てるんだといつも思う。し
かし、イベントによっては声優募集がなされるが、それに選ばれた人は一定の実力を備えている
ように思う。タイアップなしでも大会を開いたり、ニコ動出身の歌手や声優を起用してラジオを
制作したり、科学的なアプローチで声の研究をする「声総研」を設立したり(そこからできた「モテ
声診断 VQ チェッカー」は大人気で、iphone アプリとしても好評のようである)、すごく真っ当
に頑張っている面もある。
3.4.3.こえ部本
アニメディア 8 月号別冊として、
『こえ部であそぶ! 今から人気声優の本』(※4)が発売した。
しかし、こえ部自体を説明するというよりも、約 9 割が部員の紹介である。50 人の「人気部員」
にインタビューしており、中には同人で活躍している人もいる。しかしこれでは、本のターゲッ
トはこえ部を既にやっている人間でしかないように思える。こえ部内で人気になった人を推すこ
とで「ああ、自分も頑張ればこんな風になれるんだ」と思わせることが狙いだと思うのだが、さす
がに内輪すぎると言わざるを得ない。中にはこえ部 LIVE!に常駐しているような人もインタビ
ューを受けている。ついでに言えば、本の全体的なノリがニコ動などに近く、受け付けない人に
は受け付けないだろう。
3.5.こえ部まとめ
問題点:
・そもそも集まる「部員」に社会不適合者が多いのではないか
・身内の中で馴れ合いと駄サイクルを繰り返す、狭い空間になっているのではないか
・部員の中には「本気で声優を目指す」人も多いが、逆に阻害していないだろうか
・「出会い系サイト」同様に、犯罪の温床になるのではないか
興味深い点:
・「部員」は良く言えば個性的であり、現実社会とは違う独自のコミュニティを作り上げている
・現実社会ではなかなかない、世代間も超えた、いい意味での「出会い」がある
・事務局側の頑張りにより、少しずつこえ部から声優界へのアプローチがなされている(最近で
は、こえ部本でも紹介されていた部員の炭酸水?さんが「らむね」さんとしてメジャーデビューし
た例がある)
4.ネット声優
ネット声優とは、インターネット上でボイスドラマ、同人ソフト、音系同人などに声を提供す
る人のことを言う。多くは趣味として行っている。「ボイスコーポレーター(ボイスコ)」「声の
活動者」「ボイスドナー」「声の協力者」など、さまざまな呼び方がある。(Wikipedia)
私も中学生の頃から、少しばかり趣味としてネット声優をやってきた。自らの経験と、これまで
見てきたネット声優の方々を元にネット声優について紹介する。ちなみにネット声優はプロ声優
同様に女性が多い。8 割ぐらい女性だとか。今は閉鎖したが「せん子の部屋」というサイトはネッ
ト声優にとってのバイブル的なサイトだった。
4.1.活躍する場
「インターネット上でのボイスドラマ、同人ソフト、音系同人など」を具体的に言おう。そうい
った企画者が音声を必要としたときに利用するサイトの代表的なものが「助っ人さんを募集して
いますっ☆」(以下すけぼ)というサイトである。このサイトは 2001 年 11 月から始まったサイト
で、当初のことは私は知らないが、私が知った頃には多くの企画者が声優を募集していた。その
多くはボイスドラマであり、ゲームや音楽もぽつぽつあるというところである。
4.1.1.ボイスドラマ
企画者が台本を作り、ネット声優に録音してもらって公開するという形式である。豪華に主題
歌や絵をつけるところも多い。
4.1.2.ゲーム
「FREEJIA」というツクール作品をご存知だろうか?自身もネット声優を務める KAZ さんが
制作した、”フルボイスの”RPG である。
「FREEJIA」公式サイトが開設されたのが 2003 年だと
いうので、ネット上のフルボイスのゲームではかなり古い部類に入るだろう。そこで演じている
声優は全員ネット声優で、中にはプロとも引けを取らないのではないかというぐらい上手い人も
いた。当事中学生だった自分は感銘を受け、やっぱ時代はフルボイスだなと幼いながらに思った
ものである。ネット上の評判は微妙かもしれないが、KAZ さんは今も FREEJIA を作り続けて
おり、固定ファンも多数いるのは事実である。FREEJIA の説明が長くなったが、無料・有料問
わず、ボイスのある同人ゲームが存在しているということである。
4.1.3.その他
これまでもさんざ言ってきたこえ部やニコ動などもれっきとした活躍の場である。広義では歌
い手もネット声優に数えられるだろうし、役を演じるだけでなく、自身の書いた小説に音声をつ
けてもらうという人もいるし、ナレーションのみの募集や、ネットラジオのリスナー募集などと
いうことも多く、どこまでネット声優と数えていいのかは分からないが、活躍の場は広範にわた
る。
4.2.参加の方法
プロの声優がアニメに出演するなどするとき、オーディションを受けることになる場合が多い。
ネット声優でも同様である。また、これもプロの声優同様、声優側に依頼して出演する、という
こともある。それらを詳しく述べる。
4.2.1.オーディション
先ほど述べた「すけぼ」や、こえ部や、個人サイトなどを通じて募集がなされる。一般的なボイ
スドラマでは、企画者がキャラクターやナレーションのセリフを指定し、それを録音した mp3
ファイルをネット声優が企画者に送る。こえ部のところでも述べたが、音声録音には便利なフリ
ーソフトもある。周波数が 44100Hz だとか、添付ファイルとして送るのかサーバーにアップす
るのかだとか、優先順位は「キャラに合ってるかのイメージ>やる気>演技力>音質 です」だと
か、作品への意気込みだとか、多くは細かい指定がなされ、オーディションが行われる。人気の
ボイスドラマなどでは 1 キャラに 100 人単位で応募が殺到することもあるが、それでも「該当者
なし」などとする企画者もいる。
4.2.2.依頼
「すけぼ」で募集が出る度に応募しているような活動的なネット声優はいつの間にかこなした
仕事が 100 を超えるレベルになっており、ネット声優界ではちょっとした有名人になるなどと
いうこともある。そんなネット声優には企画者の方から「この役をやってくれないか」などといっ
た依頼がくるのである。逆に言えばネット声優はそれを心待ちにして、自分のサイトに音声のサ
ンプルを載せるのである。どういうキャラを演じられるだとか、声の高さがどのレベルまでいけ
るだとかを細かくアピールする人も多い。企画者が声優を募集するサイトは「すけぼ」以外にもい
くつかできたが、声優側が登録して、企画者を募集するサイトもある。代表的かは知らないが、
「萌えボイス」というサイトは有名である。しかし「萌えボイス」は「すけぼ」とは体質が違い、18
禁の募集や有料の募集がすごく多い。しかし、上手い人が一目瞭然なので、依頼する分には便利
であろう。
4.3.ネット声優の問題点
ボイスドラマの企画や、ネット声優は趣味として価値のあるものだとは思うが、これもこえ部
同様、社会的に不適合な人や、精神的に不安定な人がやる傾向にあるようだ。それゆえに生じる
問題点などを紹介しようと思う。もちろんしっかりしている人もいるのだが……
4.3.1.企画倒れ
ボイスドラマなどに限らず、創作全般に言える話だが、企画が途中で止まってしまったり、サ
イトが更新されなくなったり、サイトが急に消えたり、音信不通になったりする場合は多々ある。
これを防ぐために、台本を完成させてから募集する企画者も増えたが、それでも何故か音信不通
になることはよくある話である。そこで使われる言い訳は「PC がクラッシュしていた」、「事情
でパソコンが使えなくなった」、「データが消失した」といったもので、本当のこともあるだろう
が、自分が企画を続ける意欲がなくなったことを暗に示している場合が多いだろう。
4.3.2.声優側の音信不通
プロの声優が仕事をやり遂げるのは、きちんとお金をもらっていることと、声優の多くは事務
所に所属しているため、何か声優が問題を起こしても事務所側に訴えることができることが理由
だろう。しかし、ネット声優は無償がほとんどで、事務所所属などもない。そうなってくると、
声優側の気分で音信不通になったり、途中で勝手に降板したり、ということは多々あるのである。
こうなると企画者はもう一度募集し直したり、他のネット声優に依頼するなどせざるを得なくな
る。結果的に企画完成までの時間が延びて、他のネット声優も音信不通になる、などといったこ
とすらある。
4.3.3.クオリティ
これもボイスドラマなどに限らず、同人全般に言える話だが、企画の内容や声優の録音したフ
ァイルの音質や演技など様々な面でクオリティを高めるのは難しい。企画者は BGM や SE や主
題歌を入れたり、有償の企画ではスタジオ録音にするなど、工夫はするのだが、どうしてもクオ
リティの高い作品を作るのは難しいものである。
4.3.4.需要のなさ
ボイスドラマを作る人はいるが、聴こうと思う人はとても少ない。ニコ動の「歌ってみた」なん
かはまだ聴く人も多いのだが、ボイスドラマはそのジャンルのニッチさ、知名度の低さなどから、
聴く人は本当に少ない。クオリティ以前の問題も存在するのである。ボイスドラマ自体に需要が
なければ、ネット声優が評価されないのも仕方がないのである。
4.3.5.オーディションがゴール
ではネット声優を評価するものは何か、となるとオーディションで役に選ばれることとなって
しまうのである。オーディションにだけ躍起になって、企画自体はないがしろなんてこともある
と言われている。
4.3.6.プロ声優との対立
声優養成所に通うなんてことになれば、ネット声優を続けることを認めてくれない事務所も当
然多い。ネット声優として上手い人が養成所に通うからネット声優を辞める、なんてこともある
のである。
4.4.注目すべきネット声優
ネット声優の中にはプロに引けを取らないほど上手い人も少数だがいる。自宅録音で音質は多
少悪いかもしれないが、意識の高い人は高いマイクを買ったり、防音室を作ったりもするそうだ。
私個人として注目すべきネット声優だと言える基準は 4 つほどある。興味があれば皆さんも注
目してほしい。
・出演数が多い
さっきも言ったように基本的にオーディションなので、出演している数が多い人は、その分複
数の企画者に評価されているという証拠になる。意欲も高いということになるだろう。
・有償の企画に出演している
なんと言ってもクオリティが高くて需要もある作品は有償が多い。企画者が本気で作ろうとし
ている作品に出演しているネット声優はハクがつくというものである。
・有名な企画に出演している
例えば、東方シリーズで、「いえろ~ぜぶら」というサークルによる「東方 M-1 ぐらんぷり」は
ニコ動に一部転載され、絶大な人気を生んだ。有名がゆえに注目する人も多い。「パチェの声誰
だろう」とかなる人もいるんじゃないだろうか。
・18 禁の企画に出演している
私個人としてはこれが一番言いたい。プロ声優に対しての唯一と言っていいほどのネット声優
の優位性ではないだろうか。事務所の関係などもあり、プロ声優が 18 禁モノに出演するのには
敷居が高い。それに対し、ネット声優はそのハードルがない。「萌えボイス」というサイトでは
18 禁のものが多いと言ったが、スティグマ化された(ネガティヴなレッテルの貼られた)分野な
だけに、そのほとんどは有償である。有償な分、ネット声優の中でも上手い人が 18 禁には多い
ような印象が私にはある。逆にプロ声優では、アニメ声優などよりもエロゲ声優の方が下手な人
が多い印象が私にはある。私は、エロ音声ドラマや催眠音声(多くは 18 禁)などを愛聴している
が、その分野ではプロに引けを取らない能力を持った”ネット”声優が高いクオリティで商品を成
り立たせている。
5.結局何が言いたいかとか自分のこととか
前回も言ったけど、インディーズとメジャーの枠組みは取り去られつつある。こえ部やネット
声優が声優界を揺るがす勢力として昇華されることを心待ちにしている。ちなみに俺は最近全然
ネット声優はやってないんだけど、こえ部のイベントとして「アニメディアボイス甲子園」とかい
うのにエントリーしちゃったりして。言っても、こえ部とか出会い厨の巣窟ですよ。JCJK 入れ
食いですよ。ネット声優なんて誰も見てませんよ。本当にクソみたいなソレで、玉石混交でほと
んど石なんだけど、まあ昇華してほしいねぇホント。そういえば、「株式会社インディーボイス」
っていうベンチャー企業が「ネット声優エボリューションプロジェクト」っていうのをやってて、
ネット声優の活躍の場を増やそうと言ってたりする。俺が求めてたのってこういうことなんだ
よ!という感じ。注目してるけど、まだ具体的な動きがないからどうなることやら。今回のホリ
ィ・センはこえ部の話がメチャクチャ長くなって、構成とか明らかに失敗しました!すいませ
ん!
※1 駄サイクルとは、自己顕示欲を満たすための完成された空間の輪の中で需要と供給が
成立し、自称ア~チストが何人か集まって、見る→ホメる→作る→ホメられる→見る→ホ
メる(以下略)を繰り返すことなどを指す。ニコニコ大百科を参照。
原典は『ネムルバカ』
、石黒正数、徳間書店、2008 年 5 月
※2 『裏モノ JAPAN』
、鉄人社、2010 年 5 月号
※3 「同居の姉ら 3 人、殺人容疑で逮捕=女子大生衰弱死―茨城県警」、時事通信 、1 月 22
日 19 時 24 分配信、その他新聞など。
※4 『こえ部であそぶ! 今から人気声優の本』、学研パブリッシング、2011 年 7 月 7 日
※5 その他、「Sound Engine」、「Audacity」、「面白法人カヤック」、「声総研」、「モテ声診
断 VQ チェッカー」、「せん子の部屋」、「助っ人さんを募集していますっ☆」、「萌えボイス」、
「FREEJIA」、「アニメディアボイス甲子園」、「株式会社インディーボイス」など、あまり知
られてないものをポンポン出しましたが大体ググれば出てきます。
(終)