河川を活かした環境教育・冒険教育プログラムが 小中学生の自然

河川 を活 か した環境教育・ 冒険教育 プログラムが
小 中学生 の 自然 に対 する態度 に及 ぼす効果
Ъ e Effects of Environmental and Adventure Education Program Using River Envlronment
toward Envlronmental Attitude of Early Adolescence
岡村 泰 斗 (奈 良教 育 大学 教 育 実践 開発 講座 )。 荒木 恵理 。中川 も も (奈 良教 育 大学 大学 院 )
Taito Okamura(Educational Research and Development,Nara University of Education)・
E三 Arakio Momo Nakagawa(Graduate School of Education,Nara Un市 ersity of Education)
Abstract:■ le purpose of this study was to determine the effects of envlronmental education
(EE) and adVenture education cAE) prograrn using river environment on participants'
10… 13 years)enrolled in flve― day
envlronmental attitude toward water.Thin― fOur students(Cた
resident camp including EE and AE progralln using river env『 onment.ney participated in l‐ day
trip walking along a mountain stream and 2‐ day canoe expedidon through the middle and lower
area of the river as AE program.Otherwise,they investigated a difference of aquatic ecosystem
comparing among upper, Iniddle and lower area of the river as EE programo Wilderness
Cognit市e and Affect市 e Attitude Test developed by Okamura c000 and Free Association
ⅣIethod were adIIllnistered by pre― and
post― test design and one llnonth after the camp as follow―
up
test.‐ e result showed sign五 cantincrease in arective attitude and image toward water after the
camp and the latter llnaintained one inonth after the camp.′
「
he result suggested that AE program
was more powerLll experience to develop the enⅥ ronmental attitude rather than EE program.
Implication to design the EE prograFn Separating iom AE program was obtained.
は じめに
環境教育 の フ イー ル ドと して、河 川が注 目されて い る。 中央環境審議会 (1999)が これ ま
での 環境基本計画 の見直 しや、体験 を重 視 した環境教育 の推進 を提言 した答 申「 これか らの環
境教育 ・環境学習 ―持続可能 な社 会 を目指 して」 を受 け、国土交通省 は河川 を活 か した環境教
育 を推進す るため に、子 どもた ちの水辺遊 び を支 える仕組 み作 りや、 自然環境 あ ふ れ る安全 な
水辺 づ くりを目指 し、「水辺 の学校 プ ロ ジ ェ ク ト」 を実施 した。 さ らに、 環境省 と文部科学省
が連 携 し、子 どもたちの体験教育 の場 として河川 の利用 を促進す る「子 ども水辺 プ ロ ジェク ト」
を開始 した。
これ ら一連 の河川 を活 用 した環境教育 に関す る文教政策 は 、「生 きる力」 の 育成方策 と して
自然体験 と生活体験 の重要性 を うたった「21世 紀 を展望 した我 が 国 の教育 のあ り方 につい て (中
央教育審議会、 1996)」 に呼応 した ものである。 自然環境 を活用 した野 外教育 は、伝統的 に環
境教育 の実践 の場 と して活用 されて きた。 岡村 ・飯 田 (1998)は 、 1960年 代 以 降 の環境 リテ
ラシ ー を評価す るアメ リカの 野外教 育研 究 29編 を レビュ ー した結果、 80.8%が 環境 に対 す る
態度 を測定 してお り、次 い で 、生態学的知識 と環境 問題 に関す る知 識 を含 む 、知識 に関す る評
価 が 55.2%で あ った こ とを明 らか に して い る。 一 方 、我 が 国 にお い て も環境 リテ ラシ ー の 中
で も、 自然 に対 す るイメ ー ジ (橘 ら、 1991; 井村 ら、 1991)、 自然意識 (川 村 ら、 1994)、
自然 に対 す る感性 (渋 谷 、 1995;針 ケ谷 、 1995)な ど、非科学 的な 自然認識 に及 ぼす野外教
育 の効果 が検証 されて い る。 Sia et」 (1986)に よれば、 この よ うな環境 に対す る感受性 は 、
環境 に対 す る責任 ある行動 に関す る知識 や技 能 に加 え、環境 リテ ラシー の育成 に最 も重要 な能
39
力 で あ ることが指摘 されてお り、今後 も環 境教育 にお け る 自然体験 、野外教育 の重要性 が示唆
され る。
岡本
す (2000)は 、野外教育 が 環境教 育 と冒険教 育 の融合体 であ る とす る Priest(1986)の
理論 を採用 し、野夕ヽ
教育 が 自然 に対す る態度 に及 ぼす効果 のメカニズ ム を以下の モ デル (図 1)
に示す通 りに実証 した。
冒険教育 的要 素
環境教育 的要葬
自然 に対する態度
図 1.野 外教育が自然に対する態度 に及ぼす効果のメカニズム
(岡 村、2000)
野タト教育 の実践 の場 で あ る「キ ャ ンプ」 にお け る環境教育 的要素 は、 自然 に対 す る善 し悪 し
の判断基準 となる認知 的態度 にポジテ イブな効果 を及 ぼ し、 冒険教育 的要素 は、 自然 に対す る
好 き嫌 いの心 的状態 を表す感情 的態度 にポジテ イブな効果 を及 ぼ して い る。丹羽 (1989)、 岩
立
(1993)に よれば、 態度 にお け る認 知 的要素 と感情 的要素 の一貫性 が、 実際 的 な行動 を引
き起 こす行動 的要素 を強化す るこ とが指摘 され て い る。す なわち、野外教育 にお い て、環境教
育 の 目標 の ひ とつ で もあ る 自然 に対す る態度 の総合 的な育成 を目指す ので あれば、環境教育的
要素 と冒険教育 的要素 の融合 が必要である と考 え られる。
そ こで 、本研 究 で は、短期 間 の野タト教育 プ ロ グラム に、河 川 を利用 した環境教育 プ ロ グラム
と冒険教 育 プ ロ グラム を融合 し、 参加者 の 自然 に対 す る態度 の うち、活動 フ イー ル ドにお け る
共通 した 自然教材 であ る「水」 に対す る態度 に焦点 を絞 り、そ の効果 を検証す るこ とを 目的 と
した。本研 究 お け る環境教育 プ ロ ラ ム とは 、野外教 育 にお け る環境教 育 の 定義 を行 つた 岡村
(2000)に 基づ き、「 自然 との直接体験 を通 じ、生態学的概念 の理解 を教育 目標 とした教育活動」
であ る。 一 方 、 冒険教 育 とは、 同研 究 に準 じ、「 自然環境 の 中で行 われ る 冒険活動 にお け るス
トレス を教育手段 と した教育活動」 である。 また、本研 究 は、 これ らの教 育活動 を融 合す るこ
とによつて得 られる、総合的な自然 に対す る態度 に及 ぼす効果 を検証す る もので あるが、統制群、
お よび環境教育 プ ロ グラムか 冒険教育 プ ロ グラムの どち らか一 方 のプ ロ グラム を含 む対照群 と
の比較検証 を行 わな い点 に研究 の 限界 を持 つ 。
研究方法
1.被 験者
本研 究 にお け る被験 者 は、 2002年 8月 19日 か ら23日 に 4泊 5日 の 日程 で 実施 された、奈 良
40
教育大学 フレン ドシップ事業 「木津川 リバー ツー リングキャンプ」 に参加 した、小学 5年 生か
ら中学 2年 生 までの計34名 であった。
2.キ ャンプの概要
(1)班 編成 と指導者
キャンパーは生活班 として、 5人 構成が 2班 、 6人 構成が 4班 の計 6班 に分け られた。編成
にあたっては、性別、学校、学年 を考慮 し、 どの班 もで きるだけ均等 になるように配慮 した。
キャンプの指導 は、奈良教育大学 の野外運動 を専門とする教官 1名 、同大学 の野外運動 を専攻
する大学院生 ほか、保健体育 を専攻す る学生計 11名 があたった。 キャ ンパーの直接的指導 は、
各班 に 1名 ずつ配置 したキヤンプカウ ンセ ラーが行 った。 また、カヌーの実技指導及び安全管
理 は、民間のカメー クラブである奈良自然塾会員が各班 に 1名 ずつ指導 にあた り、全体 の安全
管理 として 日本 カヌー普及協会 よ り指導員 2名 の協力 を得 た。
(2)キ ャンププログラム
キャンプは、奈良教育大学 をベース として行 われ、一般的なキャンププログラムであるテ ン
ト設営、環境整備、野外炊飯 のほか、能登川源流探検、木津川 リバーツー リング、生還パーテ
イー、 キャン ドルファイヤー、お よびおみや げ作 りが行 われた (表 1)。 これ らの活動全体 を
通 して、「水」 をテーマ にした環境教育、冒険教育 プログラムが行 われた。
表 1.キ ャ ンププログ ラ ム
8月 19日 (月
)
6:00
9:00
8月 20日 (火 )
8月 21日 OК )
8月 22日
起床
朝 の集い
朝食
起床
朝 の集 い
朝食
起 床・朝 の 集 い
朝食
テント撤収
出桑塗借
移動
木津川
リバーツーリング
("く
)
8月 23日 G鐘 )
起床
朝食
テント撤 収
能登川源流探検
弁当
12:00
15:00
大学 集合
開校 式
テント設営
環境整備
18:00
プール
シャワー
タ食
ナイトハ イク
テント設営
弁当
昼食
尽合
環境 プログラム
調査まとめ・発表
大学 到着
シャワー
温泉
タ食
夕食
リバデンーリングの話
班別 自由時間
21:00
大学 到着
シャワー
パ ーティー準備
生還 パ ーティー
閉校 式
キャンドル
サービス
就寝
就寝
就寝
就寝
(3)冒 険教育 プ ロ グラム にお け る冒険活動 の概 要
本研 究 では、能登川源流探検 と木津川 リバ ー ツー リ ングを冒険教育 プ ロ グラム と位置 づ けた。
能登川源流探検 は、ベ ース キャ ンプであ る奈 良教育大学近 くを流 れて い る能登 川 の源流 を求 め 、
登 りは、春 日山原生春 日山遊歩道 を利用 し、 班 内 の仲間作 りをね らい と した野外 ゲ ー ム を行 い
41
なが ら源流付近 で あ る地獄 谷 園地 まで登 った。下 りは地獄谷 園地 か ら民家が現 れ るまで を能登
川 の 中 を歩 く沢下 りを行 った。木津川 リバ ー ツ ー リ ングは、 3日 目に リバ ー ツ ー リ ングの出発
地点 で京都府相楽郡笠置 町 の木津 川河川敷 にあ るキ ャ ンプ場 に移 動 し、そ の 日はキ ヤ ンプ場周
辺 の 川幅が広 く流 れの緩 やか な場所 で カメ ー の練習 を行 った。 4日 目に笠置 町か ら木津 町 まで
の約 15kmの 行程 を休憩 や昼食 をは さみ なが ら一 人乗 リカヤ ックで下 る リバ ー ツー リ ングを行
った。
(4)環 境教育 プロ グラム
上述 した冒険活動 を通 し、「水」 に 関 わ る「水 質」、「水辺 生 物」、「水辺 鳥類」、「水 辺植物」
の 4つ のテ ーマ か ら、班 ご とにテ ーマ を選択 し、環境測定 を行 つた。 2日 目の能登 川源流探検
で は、河川 の源流付近 と生 活 圏内 の環境測定、 3、 4日 目の木津 川 リバ ー ツ ー リ ングで は、河
川 の 中流 である笠置町付近、下流 と位置 づ けた木津町付近 の環境測定 を行 つた。 これ らを比較 し、
。
参加者 全体 で結果 を共有す るため に、最終 日に環境教育 プ ロ グラムの まとめ 発表 の 時 間 を設
け た。
3.調 査及 び手続 き
(1)水 に対 す る態度 の測定
岡村 (2000)が 作 成 した 「 自然 に対 す る認知 的態度 テ ス ト」、「 自然 に対 す る感情 的態度 テ
ス ト」 の 中 か ら「水」 に関す る項 目 を採用 した。「認知 的態度 テ ス ト」 は、 6項 目の水 に関す
る意見 に対 して、 7段 階 で 回答 を求 めるリッカー ト尺度 であつた。「感情的態度 テス ト」 は、「水」
を刺激語 と して、10対 の形容詞対 を用 い 、 5件 法 で 回答 を求 め るSD法 であ った。
(2)水 に対す るイメー ジの測 定
「水」 を刺激語 と して、そ こか ら連想 す る言葉 を、制 限時 間 3分 以 内 で思 いつ く限 り多 くの
回答 を求 め る 自由連想法 を、 A4版 大 の用紙 を用 い て行 つた。
(3)キ
ヤ ンプの思 い 出調査
キ ャ ンプにお け る参加者 の体験 の 内容 とその意 味 を抽 出す るため に「キ ヤ ンプの思 い 出調査」
を行 つた。 キ ヤ ンプで思 い 出 に残 った 出来事 を上位 5つ まで 自由記述 によ り回答 を求 め 、 さら
。
にそれぞれ の項 目 につ い て、 よい 。どち らで もな い ・ わる い (認 知的態度成分 )、 す き どち
らで もな い 。きらい (感 情 的態度成分 )、 また した い 、 どち らで もな い 、 もう した くな い (行
動傾 向成分 )の それぞれ につい てあては まる もの に回答 も求めた。
(4)調 査 の手続 き
態度 のイメ ー ジの測定 につい ては、 キ ャ ンプ前 と して開校式直後 、キ ヤ ンプ後 と して閉校式
直前 に集 団調査法 にて行 った。 さらに、効果 の持続性 を検証す るため に、 キ ヤ ンプの思 い 出調
査 を合 わせ た 3種 類 の調査 をキ ャ ンプ終了 1か 月後 に郵送法 にて行 った。
4.統 計 的処理
キ ャ ンプ前 の認知的態度得 点、感情 的的態度得点 、連想語 の頻度 と、 キ ヤ ンプ後 、 キ ヤ ンプ
1か 月後 の得点 の変化 につい て t検 定 に よつて有意差検定 を行 つた。 さらに、 自由連想法 に よ
って得 られた連想語、お よびキ ャ ンプの思 い 出調査 によって得 られた体験 に関す る意見項 目は、
類似す る内容 を集 め度数 を集計 した。 デ ー タの分 析 には SPSS for Macintoshを 用 い た。
42
結果及び考察
1.自 然 に対 する態度 の変化
3回 の調査時期 の認知 的態度得 点 と感情 的態度得点 の平均 点及 び標準偏差 と t検 定 の結果 を
表 2に 示 した。
表 2.調 査 時期 にお け る水 に対 す る態度得点 の平均 及 び標準偏差 と分析結果
post
pre
SD
認知的態度得点 32.35
感情的態度得点 36.21
t値
post2
4.69
33.47
4.49
3.50
38.00
4.31
SD
32.58
36.91
4.90
5.42
pre-post
pre-postz
1.64
0.17
2.72*
0.89
*p<.05
感情 的態度得点 は、 キ ャ ン プ後有 意 に 向 上 したが (t(34)=2.72,p<.05)、 キ ヤ ンプ 1か 月
後 まで維 持 されなか った。 一 方 、水 に対 す る認 知 的態度 得 点 に有 意 な変化 は認 め られ なか った
(図 2)。
‐
認知的態度得点 ―E― 感情的態度得点
40
39
水 に対す る 態 度 得 点
38
37
36
35
34
33
32
31
30
キャンプ前
キャンプ後
キャンプlヶ 月後
* p〈 .05
図 2.水 に対する態度得点の変化
岡村 (2000)の モ デル に よれ ば 、 キ ャ ン プにお け る環境教 育 的要素 は認 知的態度 に強 く影
響 を及 ぼ し、 冒険教育 的要素 は感情的態度 によ り強 く影響 を与 える。 つ ま り、本研究 では、沢
下 りや カヌ ー ツ ー リ ングな どの 冒険活動 を含 んだ 冒険教育 プ ロ グラムが、参加 の水 に対す る態
度 に よ り強 い影響 を及 ぼ した と推 察 される。 フ ローの概 念 に よ り楽 しさを説 明す るチ クセ ン ト
ミハ イ (2000)は 、 冒険活動 の ひ とつ であ る ロ ッククライ ミングが 、行 為 へ の挑 戦 の機 会 、
限定 された刺激 の場 へ の集 中力、有 能 さと支配 の感覚、明瞭 で直接 的 なフイー ドバ ック、行 為
43
と意識 の融合 な ど、 フ ロー を生起す る構造 的要 因 を持 ってい る こ とを指摘 して い る。 つ ま り、
本研 究 にお い て も沢下 りや カヌ ー ツ ー リ ングな どの 冒険活動 が 、参加者 を楽 しい と感 じさせ 、
内発 的動機 づ け た結果、 冒険教育 的要素 の学習効果 が期待 され る 自然 に対す る感情的態度 が よ
り向上 した と考 え られ る。
一 方 、 自然 に対す る認知的態度 に変化 が認 め られなか った原 因 の ひ とつ と して、環境教育 プ
ロ グラ ム と冒険教育 プ ロ グラ ム を統合 して行 った ことが挙 げ られ る。本研 究 で は、冒険活動 を
行 う水辺環境 の特性 を活 か して環境教育 プ ロ グラム を開発 したが、冒険教育 の特性 で もあ るス
トレス経験下 にお い て 、生 態系 に関す る環境学習 を行 う ことは、参加者 に とって負担 の大 きい
もので あ った と推察 され る。 岡村 ら (2000)は 、環境教育 プ ロ グラム と冒険教 育 プ ロ グラム
に交互 に参加 す るク ロス オ ーバ ー実験計画 によ つて 、 上述 した モ デ ル を検証 して い る。 一 方 、
環境教育 と冒険教育 を統合 した プ ロ グラムの効果 を検証 した結果 、冒険教育 プ ロ グラムの み を
行 った方が、 自然 に対 す る感情 的態度 に効 果 があ る こ とを明 らか に して い る (岡 村 ,2000)。
この こ とよ り、参加者 の 自然 に対す る総合 的な態度育成 をね らい とす る場合 、 キ ャ ンプには環
境教 育 的要素 、冒険教 育 的要素 が必 要 であ るが 、 これ らを短期 間 に うち に 同時 に行 う ことは、
それぞれ の効果 を低減 させ る可能性 があ ることが示唆 され る。
2.水 に対 するイ メー ジの変化
自由連想法 に よつて得 られ た連想語 の頻度 のキ ヤ ンプ前、 キ ヤ ンプ後 、 キ ヤ ンプ 1か 月後 に
つ い ての平均 及 び標準 偏差 を算 出 し (表 3)、 t検 定 に よつて比 較 した ところ、 水 に対す るイ
メ ー ジはキ ャ ンプ後有意 に向上 し (t(34)=7.94,p<.001)、 1か 月後 まで維持 された (t(32)
=5.88, p<.001)。
表 3.調 査 時期 にお け る連想語数 の平均 及 び標準偏 差 と分析結果
pre
M
連想語数
7.88
post
SD
5.24
M
14.09
post2
SD
M
14.03
6.14
t値
SD
6.95
Pre-Post
Pre-Post2
7.94***
5.88***
***p〈 .001
また、 自由連想法 に よつて得 られた連想語 の 中で 2語 以上 の頻度 で得 られた もの を、 自然 に
関す る連想語、感情 に関す る連想語、活動 に関す る連想語、生活 に関す る連想語、そ の他 の連
想 語 の 5つ に分類 した (図 3)。 そ の結果、小 中学 生 の水 に対 す るイメ ー ジの構 成概念 は 、 い
ず れの 時期 にお い て も、 自然 に関す る事象 が最 も多 か った。
調査 時期 に よつて比 較す る と、 自然 に関す る連想語 の頻度 はキ ヤ ンプ前 は87語 、 キ ヤ ン プ
後 は 151語 、1か 月後 は 131語 で あ り、 キ ヤ ンプ後 に64語 増加 し 1か 月後 に20語 減少 した。 こ
の結果 か ら、キ ャ ンプ によ り自然 に関す る連想語 が増加 し 1か 月後 まで維持 された と言 え よ う。
連想語 の 内容 は、 キ ャ ンプ前 に得 られた 「川」「海」「雨」 な どの水 に関す る 自然事象 を表す 一
般 的な言葉 に加 え、キ ヤ ンプ後 は「沢」「 中州」「 カニ」 な ど、具体 的 な水性地形や水生生物 を
表 す言葉が見 られた。 また、命 、人間 な ど、水 と人 との つ なが りを表す連想語 が見 られた。 こ
の とは 、沢下 り、 リバ ー ツー リ ングを通 して獲得 した地形 に関す る知識 や、河 川 の環境 の変化
と人 間生活 の 関係 を考 える機会 となった環境教育 プ ロ グラムが影 響 した と考 え られる。
感情 に関す る連想語 の頻度 は、 キ ヤ ンプ前 39語 、 キ ヤ ンプ後 65語 、1か 月後 45語 であつた。
連想語 の 内容 は 、「 きれ い」、「冷 たい」 は、 いず れの調査 時期 にお い て も頻 度 が 高 か った。今
回 の沢下 り、 リバ ー ツ ー リ ングの場 であ つた能登川、木津 川 は、 きれ い 、冷 た い と感 じる環境
ではなかったが、 これ らの形容詞 は、水 を構成す る基本的 なイ メー ジであると考 え られる。 一方、
「怖 い」 な どの感情 を表 す言葉が見 られた。
キ ャ ンプ後、1か 月後 では「楽 しい」、「気持 ちいい」、
44
これ らは、水辺環境 における冒険活動が影響 したと考 えられる。
500
計479語
□ その他
口 生活
口 活動
450
400
□
計 449語
感情
□ 自然
囲 1語
350
連 想 語 数
カヌー 、プール 、船 、
泳ぐ 、沈 、浮き輪 、=
―グル、ポートなど
300
、飲み水、トイ レ、シ
ワー 、お茶、ジュー
ス、下水 、溝、水簡など
浮き輸、ボー ト、ヨ
計 268語
250
200
150
100
れい、冷たtt、 おい、大
、危秩、おιヽ
しい、強い
川 、海 、魚 、
雨、湖 、池、
滝 、雪 、洪水
川 、海 、雨 、池、
魚、湖 、石 、沼、生
き物 、滝 、水たま
り、雲 、沢 、波、 自
然 、木、鳥、かに、
命 、人間 、中州など
川、海 、雨 、池 、
魚 、湖 、生き物 、
石、雲 、滝 、水た
ま り、海水 、貝 、
雪 、沼、植物など
50
0
キヤンプ前 (n=34)
キヤ ンプ 後 (n=34)
lヶ 月後 (n=32)
図 3.水 に対す るイメー ジの変化
活動 に関す る連想語 の頻度 は、 キ ャ ンプ前 14語 、 キ ヤ ンプ語 61語 、1か 月後 52語 であ り、
自然 に関す る連想語 と同様 にキ ャ ンプ後 に増加 し、1か 月後 まで維 持 された とい え よ う。連想
語 の内容 は、キ ヤンプ前 に頻度が高 かった「プール」 に加 え、キヤ ンプ後、1か 月後 は「カヌー」、
「船」、「沈」 な どの カヌ ー ツ ー リ ングに関す る言葉 が見 られた。 この こ とか らも、 カメ ー ツ ー
リ ン グはキ ャ ンプ活動 の 中 で も水 に対す る活動 に関 したイメ ー ジに最 も影響 を及 ぼす もので あ
った と考 え られ る。
生 活 に関す る連想 語 の頻度 は、 キ ヤ ンプ前 25語 、 キ ヤ ンプ後 45語 、1か 月後 68語 であ り、
他 の連想語群 とは異 な り、 キ ャ ンプ 1か 月後 の 日常場面 にお い て さらに増加 した。連想 語 の 内
容 は、 キ ヤ ンプ後 か ら 1か 月後 にか け て「下水」、「溝」 な どのキ ャ ンプ前 とは異 な った 日常生
活 での イメ ー ジが加 え られて い た。 これ らは、生活 圏内 を流 れ る能登 川 の環境調査 に関連 した
用語 であ る と推察 され る。 つ ま り、河川 と人 間生活 との 関連 を考 える機会 となった環境教育 プ
ロ グラムの体験 は、 キ ヤ ンプ直後 は抽象 的 であ つた ものの 、 日常生活場面 で改 めて水 と関 わる
機会 を通 じ、 キ ヤ ンプでの体験 を想起 させ 、 よ り具体的 になった もの と考 え られ る。
そ の他 の連想語 の頻度 はキ ャ ン プ前 41語 、 キ ヤ ンプ後 66語 、1か 月後 49語 であ つた。連想
語 の種類 もキ ャ ンプ前 が 16種 類 であ つたの に対 し、 キ ヤ ンプ後 で は24語 と増 加 して い た 。 こ
の ことか ら、 キ ャ ンプ直後 は 、水辺野クト活動 を通 して、水 に対す るイメ ー ジが顕著 に拡 大 した
と言 える。
全体 を通 して、水 に対す るイメー ジの 中で も、 自然 に関す るイメ ー ジ と、活動 に関す るイメ
ー ジは、 キ ャ ンプ後 に拡 大 し、1か 月後 まで維持 された。そ の原 因 と して、 冒険活動 に よって
遭遇 した 自然事象や、そ の活動 自体 の影響 があげ られた。 また、環境教育 プ ロ グラムの効果 は、
キ ャ ンプ直後 よ りも日常 の生 活場面 で見 られ る ことが推察 された。
45
3.キ ャンプの思 い出調査
キャンプ 1か 月後郵送法 によ リア ンケー トを実施 し、32人 (94.1%)か ら回答 を得 た。 キ
ャンプの思 い出について得 られた160項 目の回答 を、活動内容 によ り11種 類 に分類 した。それ
「 きらい」、認知的態度
「 どちらで もない」、
ぞれの体験 について、感情的態度 を示す 「す き」、
を示す 「よい」、「 どちらで もない」、「わるい」、行動的態度 を示す「 また したい」、「 どちらで
もない」、「 もうした くない」 のそれぞれいずれかの回答 が得 られた集計結果 を図 4に 示 した。
件
冒険教育
プ ログラム
環境教育
プ ログラム
生活場面
炊事
生還 パー ティー
友達ができた
おみやげづくり
環境整備
キヤンドル
サー ビス
J-tv
ナイトハ イク
図4.キ ヤンプの思い出集計結果
(27.5%)の カメ ー に関す る記述 と22件 (13.75%)の 沢下 りに関す る記述 を合 わせ
た66件 (41.25%)の 回答 が 冒険教育 プ ロ グラ ム に 関す る記 述 であ り、 キ ャ ンプの 思 い 出 の
44件
中で顕著 に頻度 の高 い もので あ ったのに対 し、環境教育 プ ロ グラム に関す る記述 は 9件 (5.6%)
と少 なか った。 これは、絶対 的な活動時間数 の違 い による こ とが原 因 として考 え られ るが、 同
46
時 に、上述 した とお り、冒険活動 は参加者 にとつて、印象 に残 るキ ャンプ体験 となった と考 え
られ る。 この こ とか らも冒険 活動 を積極 的 に活用 した野タト教 育 プ ロ グラムの 開発 の必要性が示
唆 される。
しか しなが ら、 冒険教 育 プ ロ グラ ム に関す る記述 には、「悪 い 」「 嫌 い」「 もう した くな い」
など、ネガティブな態度 を示す回答が見 られた。 この内容 としては「山登 り」 で「 しん どかった」、
「沢 下 り」 で「滑 つて少 しこわか った」、「カヌ ー」 の とき「流 れで 岩 に張 り付 い た (た め 身動
きが とれな くな った)」 な どが挙 げ られ る。 岡村 (2000)は 、 冒険活動 を環境教育 の場 として
利用す るため には、予期せ ぬ 自然条件 に柔軟 に対応 で き、強度 のス トレス体験 を至 高体験 へ と
導 く指導力が必 要 で あ る と述 べ て い る。 自然環境 の影響 を直接 的 に受 け る 冒険活動 では、 ス ト
レスヘ の積極 的な対処 を失敗す る と否定 的な態度 を形成す る可 能性 が あ る こ とも考 え られ る。
また、認知 ・感情 の一 貫性理論 に よれば、感情 的態度が ネ ガテ ィブ な場合 、態度体系 を一 貫 し
て安定 した状 態 にす るため に、認知 的態度 もネ ガテ ィブな態度 を形成 しよ う とす る傾 向 があ る
ことが明 らか となってい る (原 岡、 1974)。 つ ま り、冒険活動 に よる ネガテ ィブな感情 的態度
の形成 は、認知的態度 の形成 に もマ イナスの影響 を及 ぼ し、 最終 的 には実際行動 へ 発展 しない
危 険性 をは らんで い る。 この ことか ら、 冒険活動 に よるネガテ ィブな感情体験 を、適切 に コー
ビン グで きるようにす る指導法 の確 立 や、そ の よ うな体験 を認知 的価値 に意 味 づ け る支援 が重
要 となろ う。
また、本研究 で は 、沢 下 りや カヌ ー ツ ー リ ン グの最 中 に環境調査 が 導入 された こ とによ り、
参加者 に とっては 冒険教育 によるス トレスヘ の対処 に集 中 で きな い状況 であ った こと も推 察 さ
れる。 この点 か らも、 ス トレス を伴 う冒険活動場面 に、 環境調査等 の 環境教育 的要素 を導入す
るこ とは、環境学習 として も適切 でな い上 に、 冒険活動 の教育過程 の妨 げにな る可能性 が示唆
され る。上述 した とお り、 冒険活動 で接 した 自然環境 を認知 的 に理 解す る過程 は、 自然 に対す
るポジテ ィブな態度形成 のため に極 めて重 要 であ る。 ただ し、環境学習 といっ た 冒険活動 の遂
行 とは直接 的 に関連 しない活動 は避 け、冒険活動 の一 環 と して、 冒険活動 を行 う上 で必要不可
欠 な生態学 的概念 の理解、そ れ らの活動 を通 して体験す る 自然 と人間活動 との つ なが り、環境
に対 す る適切 な行動技 能 な どの指導 を適宜 導入す る ことが望 ま しい と考 え られ る。
ま とめ
本研 究 で は、参加者 の 自然 に対す る態度育成 をね らい と して、 河川 を活用 した環境教育 と冒
険教育 の統合型 プ ロ グラム を開発 し、参加者 の水 に対す る態度 、 イメ ー ジに及 ぼす効果 を検証
した結果、以下 の結論 が得 られた 。
1.環 境教育 と冒険教育 の統合型 プ ロ グラム を導入 したキ ャ ンプによ り参加者 の水 に対す る感
情 的態度 は、 キ ヤ ンプ直後 に向 上 した。 一 方 、水 に対す る認知 的態度 の変容 は認 め られなか
った。
2.環 境教育 と冒険教育 の統合型 プ ロ グラム を導入 したキ ャ ンプに よ り参加者 の水 に対す るイ
メ ー ジはキ ャ ンプ直後 に向上 し、キ ャ ンプー ヶ月後 まで維 持 された 。特 に、 自然 と活動 に関
す るイメ ー ジが拡大 した。
3.環 境教育 と冒険教育 の統合型 プ ロ グラム を導 入 したキ ャ ンプに よ り参加者 のキ ャ ンプの思
い 出 の うち、 冒険活動 に関す る記述 が顕著 に多 か った。
以上 の結果 よ り、環境教育 と冒険教育 の統合 した場合 、 冒険教育要 素 が 参加者 の体験 に強 い
影響 を及 ぼ し、主たる教育効果 も冒険教育的要素が影響 を及 ぼ した もので ある ことが考察 された。
このため 、環境教育 的要素が十分 に機能 せ ず、低 い教育 的効果 に とど ま った と推察 され る。 こ
の こ とよ り、 自然 に対す る総合 的 な態度育成 をね らい と したキ ャ ンプには、環境教育的要素 と
冒険教育的要素 のい ず れ も必 要 であるが 、そ れ らを同時 に行 った り、短期 間 に うち に詰 め込 ん
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だ りす る と、そ れぞれ の教 育 的効果 を減少 させ る と予測 され る。今後 、環境教育 プ ロ グラムの
効果的 な導 入時期 の検討 、 冒険教 育 プ ロ グラム との 共通 した 自然教材 、連続性 の ある学習内容
の有効性 の検証 が課題 であ る。
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