コンドームだけにうすうす感づいていました。あなたが説得 したいことを…。

コンドームだけにうすうす感づいていました。あなたが説得
したいことを…。
目次
①――――はじめに
②――――現状分析
③――――まとめ
④――――先行研究
⑤――――モデル構築
⑥――――仮説
⑦――――分析結果
⑧――――考察
⑨――――終わりに
⑩――――インプリケーション
⑪――――参考文献
大倉竜一
大槻由紀子
加藤恵里佳
永野響
濱崎健正
森谷友一
早稲田大学 久保ゼミナール 永野班
① ――はじめに
問題となっている。性的接触が HIV 感染や STD
本論の目的はコンドームの非常時使用群を常時
の主な原因となっていることを踏まえると、現実
使用群へと変容させることにより、コンドーム全
的かつ効果的な予防法はコンドームの利用である
体の売上を伸ばすことである。さらに、非常時使
と言えよう。しかし、実際にはコンドームの年間
用群へアプローチすることにより、現在社会問題
出荷数は年々減尐し続けているのである。
となっている性感染症患者の減尐を目指す。本論
これらのことから、コンドームの非常時使用群
における「コンドーム非常時使用群」とは、性交渉を
を常時使用群へと変容させることは低迷している
する際に、コンドームを毎回は使用しない人であ
コンドーム業界を活性化するだけではなく、HIV感
り、この研究で行ったアンケートにおいては、コ
染やSTDの患者の減尐につながるという社会的意
ンドームを「たまに使う」
、
「あまり使わない」
、
「使わ
義をも持つのである。
ない」
、の 3 項目中 1 つを選択した者とした。
日本において、HIV 感染や STD の問題は深刻な
ところで、コンドームという財は非常に特殊な
財である。コンドームはその製品の特性上、消費
者が性交渉をする際にコンドームを使用するとい
う意思を持って初めて購買意思を持つ財であり、
一般的な購買プロセスや販売促進が通用する財と
(
5000000
4500000
4000000
3500000
グ3000000
ロ
ス2500000
2000000
1500000
1000000
500000
0
は別に考えなければならない。この購買プロセス
また、今回我々は、ある特定の企業のコンドー
ムを取り上げ、他企業の商品との差別化を図る戦
略をたてるといったマーケティングではなく、コ
)
のモデルについては後ほど詳しく述べる。
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
(
ンドームという財自体に焦点を当て、研究を進め
た。その理由としては、今回の研究のテーマが「日
出典:薬事工業生産動態統計
年
度
)
本活性化」であり、同一市場内でシェアを奪い合う
ことは日本の経済成長にはつながりにくいと考え
一年間のコンドーム年間出荷数は表 1 を見るとわ
たためである。よって、本研究では、コンドーム
かるように、最近 15 年間でもっとも売れていた
購入率の低いコンドーム非常時使用者に対して、
1993 年の 4,747,293 グロス(1 グロス=144 個)に
その財自体の購入意欲を湧かせ、コンドーム業界
比べて、2004 年は 2,931,042 グロスとなっている。
全体の売上を伸ばすことを目標とした。
コンドームの売上が下がった原因は三つの問題
が考えられる。一つ目は若者の性行動の逸脱化で
ある。その一種として性行動の若年化があげられ
②―――現状分析
る。1984 年から実施された東京都性教育協会の性
意識・性行動調査によると、1984 年に男子 22%、
1.コンドームの現状分析
女子 12%であった高校 3 年生の性交渉経験率は、
2002 年以降それぞれ 37%、46%に達している。
今回の研究を行うにあたり、まずコンドームを
木原(2009)は「こうした性行動の若年化は、私たち
取り巻く現状分析を行った。ここでは大きく分け
が 1999 年に実施したわが国最初の国民性行動調査でも
て 2 つの問題がある。第一に、日本におけるコン
世代間格差として捉えられており、10 代で性交を経験し
ドームの売上が減尐傾向にあることである。
た人の割合は、55 歳以上では男性 30%、女性 11%に過
ぎなかったのに対し、18~24 歳では、男女とも 79%に
■表―――1
達していた。」
と指摘する。二つ目の理由として人口、
コンドームの年間出荷数の推移
とりわけ性交渉を行う確率が高いであろう生産年
齢人口が減尐したことがあげられる。それに伴っ
てコンドームの使用量も減尐したと言われている。
三つ目の理由は、草食系男子などと近年言われる
ように、性交渉を行う回数が尐ないということだ。
以上あげた3つの理由がコンドームの売上が下が
っている一般的に言われている原因である。
2.性感染症の現状分析
ところで、コンドームという財は非常に特殊な
二つ目の問題は HIV 感染者や STD の増加であ
財である。①購買意志が発生してから、実際に購
る。HIV 感染や STD の問題は深刻な問題となって
入するまでのプロセス・時間が短い。②ブランド
いる。
による差異があまりない。③機能的な差異が商品
によってあまりない。以上の 3 点から、特殊な財
■表―――2
と言うことができる。また、コンドームはその製
HIV 感染者数の推移
品の特性上、消費者が性交渉をする際にコンドー
(
ムを使用するという意思を持って初めて購買意志
人
を持つ財であり、一般的な購買プロセスや販売促
800
進が通用する財とは別に考えなければならない。
)
1000
600
また、コンドームの市場規模拡大のためには二つ
400
の方法がある。一つは常時使用群の性交渉の回数
200
を増やすこと、もう一つは非常時使用群を常時使
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
出典:平成16年度エイズ発生動向年報
)
用群に変容させることである。前者は性交渉を促
(
1988
0
年
度
進する必要があるが、それは性病の改善という社
会的意義に繋がらないが、後者ではそこに強い意
味を持たせることができる。つまり今まで日常的
厚生労働省エイズ動向委員会によると、2009 年
12月末の HIV 感染者及びエイズ患者の累計は
にコンドームを使っていなかった非常時使用群を
今回ターゲットとする。
16,903 人に上り、2009 年1年間の新規 HIV 感染
一般的にコンドーム常時使用群に対してはコン
者および新規エイズ患者は合計 1,452 人である。
ドームが日用品と同じ性質を持つ財となり得る。
HIV 感染者および AIDS 患者の累計のうち、性的接
すなわち性交渉を行う際の必需品であるため、ブ
触が感染経路となったのは 13,413 人であり、全体
ランドの問題はあるにせよ、コンドームという商
の 73.1%を占めている。World Contraceptive Use
品自体は購入される。それに対して非常時使用群
2009 によれば、世界と日本のコンドームの使用率
に対して販売促進を考える際には、上記のコンド
を比較してみると、ヨーロッパ諸国が 56.3%、ア
ームの商品特性を考え、一般的なマーケティング
メリカ諸国が 68.1%なのに対し日本は 44.4%と低
のセオリーを採用するのではなく、コンドームの
いことがわかる。これが意味するのはセックスを
使用意思態度の変容を考える。これが意味するこ
行う際に必ずコンドームを使用する人と時々使用
とは今までコンドームを使用しようと思っていな
する人を合わせての使用率である。この様な数値
かった人間に使用する気を持たせるということで
である理由としては、コンドームは避妊のための
ある。青木(1995)は「広告は唯一、消費者に向けて、
道具という認識が強く HIV 感染や STD から守ると
モノそのものとモノのイメージが提示される場であると
いう危機意識が薄いことが挙げられる。
いえる。」と述べていて、これから広告は有効であ
るといえる。しかし、コンドームの広告は現存す
3.コンドームという財の特殊性
るにも関わらず非常時使用群は存在する。そこで
我々は既存の広告に代わる新しいコンドームの広
告を提案する。
以上の流れをふまえて、次章以降からは、コン
ドーム非常時使用群、常時使用群に対する効果的
既存の広告の特徴としてセックスに対しネガテ
な訴求を導き出すための先行研究のまとめや、そ
ィブな態度を取っており、またコンドームに対し
こから彼らにうまく影響を与える訴求方法を述べ
ては「使用しないと妊娠や性病にかかるリスクが高くな
る。
る」
という恐怖訴求を行っていることがあげられる。
この背景に日本では性に関して直接的な表現が規
制されているということがある。私たちはこの訴
④――――先行研究
求法に着目し、心理学的観点から、コンドーム非
常時使用群に対しての恐怖訴求は逆効果を与える
のではないかという考え、
「コンドームやセックスに
非常時使用群の使用意志に対し、効果的な訴求
対して肯定的な表現」と、
「既存の恐怖訴求」の効果の
方法を検討するため、コンドームの使用意志に関
差を調査することにする。またそれと同時に恐怖
する研究を調査してみると、その研究の大部分は
と対の存在である「安心感を与える訴求」について
性教育に関する研究であった。そのほとんどの論
も調査する。
文が、日本の性教育は、セックスに対しネガティ
ブな態度を取っているという内容で、事実、学校
4.現状分析のまとめと展望
でのコンドームの教育は「使用しないと妊娠や性病に
かかるリスクが高くなる」という生徒の恐怖心をあお
コンドームの出荷量は年々減尐している一方で、
HIVを含めた性感染症の患者数は増加している。ま
るものだった。
我々はこの訴求法に着目し、心理学的視点から、
た、若者の性行動の逸脱化も増加しており、若者
コンドーム非常時使用群に対しての恐怖訴求はコ
の性感染症患者の増加も懸念される。これらのこ
ンドーム使用に対し、マイナスの作用を与えるの
とから、コンドームの非常時使用群を常時使用群
ではないかという考えに至った。また、アプロー
へと変容させることはHIV感染やSTDの現状を改善
チの媒体としては、一般消費者にとって身近な存
するために重要といえる。つまり、コンドームの
在であり、かつ宣伝効果が高い広告を用いること
非常時使用群を常時使用群へと変容させることは
にした。
低迷しているコンドーム業界を活性化するだけで
アプローチについては、先にも述べたようにコ
はなく、HIV感染やSTDの患者の減尐につながると
ンドームは非常に特殊な財であるため、購入意欲
いう社会的意義をも持つのである。
を促進させるような一般的なマーケティングを採
コンドームは特殊な消耗品であるため、コンド
ームの販売促進のための一般的な購買プロセスを
用するのではなく、購入意思態度を変容すること
を目的として行う。
経た戦略を立てるのではなく、コンドーム非常時
藤井(2003)によると、ある行動を推奨したり、
使用群の使用意志に対して働きかけるような訴求
ある行動を抑制したりするコミュニケーションに
方法をすべきであり、本論では、それを一般消費
接触した場合、そのコミュニケーションに対し反
者にとって身近であり、宣伝効果の高い広告を使
発する傾向がある。それは、人々が各々の自由の
用する。
感覚を守ろうとする動機を持つためである。自身
の自由が侵害されたと感じたとき、人は自由を取
非常時使用群はコンドームを使用しない行動自
り戻すために、それとは逆の行為を行う。特に、
体に自由を感じており、それを侵害されるような
受け手が一般的に推奨されない行動を行っている
強制訴求を受けた場合、抵抗を感じ、自由を再び
場合、その者は自らの行動を束縛されている感覚
手に入れようと逆の行動を行ってしまう。心理的
を覚える傾向にあると述べている。このことを社
リアクタンスが生じてしまう可能性があるのであ
会心理学用語で心理的リアクタンスと呼ぶ。つま
る。また、コンドームを使用する行動は社会的に
り、受け手の態度を送り手の意図する方向に形成
は推奨されている行動であり、これは藤井(2003)
したり、変化させたりする目的で行う、説得的コ
が述べるように、非常時使用群は推奨される行動
ミュニケーションの効果は、習慣的に推奨されて
を行っていないので、使用を促すような説得的コ
いない行為を行っている者には逆効果であると言
ミュニケーションを自らの行為を禁止するものだ
える。本論文では、このような効果を引き起こし
と考え、こちらの視点からも逆効果ということが
てしまう可能性がある訴求方法を、強制訴求とす
できる
る。
また、Brehm& Brehm(1981)のリアクタンス
理論によれば、説得の圧力が大きいほど態度の自
⑤――――モデル構築
由は脅かされ、その自由を回復するために、人は
唱導方向とは逆へと態度を変化させる傾向がある。
ここでは、先行研究と、広告、マーケティング、
今城(2003)によると、説得場面で、自分を説得
コンドームの商品特性を考慮した新たな、マーケ
しようとする意図を認知すると、それが自由を侵
ティング理論を構築することを目標とする。これ
害していると感じ、人は抵抗を感じかねないとい
はコンドームという個別の財を扱い、消費者の商
う。これらも、情報の受け手に強制を感じさせる
品使用意思に対するアプローチを考える個別的事
ことができる方法として、強制訴求といえる。
象から抽象化し、一般的な消費者の意思に対する
これを本研究に置き換えると、コンドームを普
アプローチモデルを作るためである。
段使用しない非常時使用群に対して、コンドーム
の使用を訴えるコミュニケーションを取った場合、
1.一般的マーケティングアプローチ
彼らのコンドーム使用意識をさらに低下させる恐
れがある。これら、非常時使用群は、コンドーム
■表―――3
の知識が不足しているためにコンドームを使用し
消費者意思決定プロセス
ないのではない。本田・小澤・鈴木・湯本(2007)
によれば、男子大学生の93,4%、女子大学生
95,5%が何らかの避妊教育を学校や家庭で受
けているという。行為の際にコンドームを使用し
ないことは、性感染のリスクや妊娠の危険性が高
めると認知をしてはいるものの、コンドームを使
用しない行動そのものに自由を感じており、自ら
の意思で使用を拒否しているのである。
そもそも消費者のうちにコンドーム常時使用群
表 3 はニコシアが提唱した伝統的なマーケティン
と非常時使用群が存在するため、基本的動機を持
グにおける消費者意思決定プロセスである。基本
っている消費者とそうでない消費者が存在する。
的動機とは購買動機のうち製品あるいはサービス
そのため、基本的動機に対して、
「承諾」と「拒否」
によって提供される基本的機能を求める心理のこ
という項目を置いた。そして基本的動機に承諾し
とである。消費者は一般的にある刺激により基本
たものは即購買活動を行い常時使用群となる。拒
的動機が発生した後にその商品を購買するかどう
否の態度を示したものが初めて刺激に対するマー
かを探索し始める。しかし、コンドームという財
ケティング的な反応を示し、そこからその刺激に
は上記のとおり特殊な財であり、購買の際に消費
対する反応を示し、基本的動機をもったものが購
者が一般的な購買プロセスを採用しない。ここで
買をする。一度非常時使用群になったものは一回
表 4 のコンドームの特性を考えた購買プロセスを
の購買経験で常時使用群になる可能性があるが、
構築する。
再び非常時使用群となるかもしれない。そのため、
このよう購買活動のサイクルが構築される。消費
■表―――4
者の購買プロセスが図の形になると、マーケティ
コンドームの特性を踏まえた購買プロセス
ング的アプローチができるものは刺激のみとなる。
刺激には外部的要因と内部的要因が存在し、今回
取り上げるのは外部的の要因の中でも広告である。
広告による刺激についてより詳しく掘り下げてい
く。
2.コトラーのソーシャルマーケティング理論
ここで、フィリップ・コトラーが提唱している受
け手の態度変容を意識したソーシャルマーケティ
ングに着目し話を進めていく。フィリップ・コト
くする要因である。
ラー(Philip Kotler、1931 年 - )は、アメリカ合
衆国の経営学者。シカゴ大学で修士号を、マサチ
■表―――6
ューセッツ工科大学で博士号を取得。ノースウェ
社会的プロダクトの概念図
スタン大学ケロッグ・スクール教授。現代マーケ
ティングの第一人者として知られ、日本でも数多
くの著書が翻訳されるとともに、解説本なども出
版されている。コトラーはソーシャルマーケティ
ングを人々の行動を変えるための戦略であると定
義し、統合的な計画・行動枠組みの中で、社会変
革のための伝統的な手法の中から最良の要素を組
ここでプロダクトとは何かを定義する。一般的な
み合わせ、最新のコミュニケーション技術とマー
マーケティングにおいては、プロダクトはその名
ケティング技法の成果を活用するものであると定
の通り、製造物、商品を意味する。そのためソー
義している。今回の研究ではこのソーシャルマー
シャルマーケティングでは一般的なマーケティン
ケティングの技法を採用する。ソーシャルマーケ
グでいうプロダクトの「商品」の部分が価値観や
ティングにおいて人々の態度や行動の変容を達成
行動を示す「社会的プロダクト」となる。なぜな
するためのプロセスとしては、社会的プロダクト
らソーシャルマーケティングの目標は反対の考え
を設定した後(1)メッセージの対象者を分析し、受
を持つ人々や反対の行動をとる人々を変えること、
け手の認識していない問題や、ニーズを抽出する。
あるいは、新しいアイディアや行動を採用させる
そしてそれに合わせた、プロダクトの理想状態を
ことであるからである。例えば、
「禁煙」や「予防
生成し、(2)そのプロダクトを装飾し発信する、と
接種を受けること」、「人種差別をなくすこと」が
なっている。このプロセスを図示すると以下の表 5
それにあたる。
「社会的プロダクト」には様々なタ
のようになる。
イプがあるが代表的なものは2つで、一つ目のタ
イプはアイディアであり、人種差別をしないなど
の信念、態度、価値観の形を取る。2つ目のタイ
■表―――5
プは習慣であり、予防接種を受けるなどの単一行
ソーシャルマーケティングの訴求法
動と禁煙などの行動パターンに分けられる。これ
を図に示すと表 6 のようになる。ここでコンドー
ム広告における社会的プロダクトのタイプを設定
する。コンドームの習慣的使用は一般的には行動
プロダクトの理想状態とは受け手が問題を認知
パターンに分類されるが、本研究ではコンドーム
したり、ニーズが満たされたりした状態である。
使用の意識に焦点を当てているため、信念、また
プロダクトの装飾とは比喩表現など、社会プロダ
は態度と設定する。
クトをメッセージ化した時のそのメッセージを強
■表―――7
社会的プロダクトに「性交渉をする際にはコンドームを使用するべき」をあてはめた場合
■表―――8
表7のモデルに受け手が自ら社会的プロダクトを拒否する原因となる因子を入れた場合
本研究においては「性交渉をする際にはコンド
の社会的プロダクトを拒否する可能性がある存在
ームを使用するべき」が社会的プロダクトとなる。
としてとらえる。そして、この修正した前提条件
また、同様に本研究に即しての他の要素も図に当
をモデルに対して組み入れるため、モデルに、受
てはめると上の表7のようになる。
け手が自ら社会的プロダクトを拒否する原因とな
ソーシャルマーケティングにおいては、すべて
る因子を入れる。最終的には表 8 となる。
の人は健康で生産的な人生を送りたいと願ってい
る、という前提を立てている。社会的プロダクト
3.説得心理学的アプローチ
に反する行動をとる人間はその行動の問題や、健
康的な人生を送るニーズを認知していないために
ここでさらに、受け手がプロダクトに対して拒
そのような行動を取ると認識される。この前提が
否をしめす原因となる因子について心理学的観点
あるため、プロダクトの理想状態は「すべての人
から考察する。心理学の分野では態度変容のコミ
がコンドームを使用しないで性交渉をした際のリ
ュニケーションは一般的に説得と呼ばれる。
「一般
スクを認識する」となる。また、プロダクトの装
的な説得メカニズムの多くは、メッセージに対す
飾は比喩表現となる。そして受け手は、非常時使
る直接の影響を想定するもの、情報源の評価の仲
用群となる。
介を考えるもの、および議論内容の処理過程に関
しかし、本研究においてこのモデル採用すると、
ソーシャルマーケティングの前提条件が成り立た
するものに分けられる。」(説得心理学109)こ
の理論を図示すると以下の表9のようになる。
ないという欠陥が発生する。コンドーム非常時使
用群は一般的にコンドームを使用しないで性交渉
■表―――9
をした際のリスクをある程度認識しており、その
一般的な説得アプローチモデル
中で、自らコンドームを使用しないという態度を
取っているのである。この前提条件を修正するた
め、受け手は行動の問題を認知した場合でも、そ
持つ広告での態度変容を試みているため、情報
源への評価があまり意味を持たないため情報源へ
の評価を排除する。また、注視と同意・反論に関
しては広告において受け手がメッセージの発信者
と議論する余地がないため排除する。また、恐怖
メッセージとはその名の通り、態度変容を意図し
訴求とリアクタンスに重点を置いているため、独
たコミュニケーションのメッセージそのものであ
立した変数に受け手の恐怖感情と、リアクタンス
る。印象とはそのメッセージに対する受け手の率
を置く。そして、最後の態度変容の部分に拒否項
直な感想のようなものである。受け手がポジティ
目を置く。
ブな印象を受けた場合は態度変容の可能性が高く
なるが、逆にネガティブな印象を受けた場合は態
■表―――10
度変容の可能性が低くなる。情報源の評価とは、
コンドーム使用への態度変容のプロセスモデル
例えば情報の発信者がその情報の専門家であれば、
受け手の態度を変容させる力が増すというもので
ある。注視とはメッセージへの注目度これは、対
話を想定した話であるが、たとえば話し手が身振
り手振りを使ったり、大きな声を出したりすると
メッセージへの注目度が上がる。また、理解とは
メッセージへの理解度である。当然理解不能なメ
ッセージは受け手の態度変容に効果を持たない。
よって新たに表 10 のようなコンドームの使用に対
メッセージがより分かりやすくなるほど理解度も
する態度変容のプロセスモデルを構築する。
高まり、受け手が態度を変容する可能性が高くな
さらに、これと上記のソーシャルマーケティング
る。同意・反論とは議論を想定したものだが、メ
のアプローチをミックスすると以下の図のような
ッセージに対する直接的な態度と、受け手の態度
新たな態度変容を意図した広告の心理学的観点を
の表現として規定する。ここで図をみると印象を
含んだマーケティングモデルが構築される。
受けた後に、態度変容へのプロセスがあるように
みえるが実は印象と態度変容へのプロセスは深い
関係性を持っていることにも注意しなければなら
ない。
しかしながら、これは対話的コミュニケーショ
ンを想定したものであり、そのまま広告によるコ
ンドームの使用に対する意識の変容に当てはめる
のは問題である。ここで今回のコンドーム広告の
性質を考え、その性質に適した新たな態度変容メ
カニズムを構築する。まず公共広告的意味合いを
⑥――――仮説
心理的リアクタンスとコンドームの特性を考えた
新マーケティング技法を考慮し、以下の仮説を立
てる。
仮説1
コンドーム非常時使用群に対して、恐怖訴求は心
理的リアクタンスが発生するため有効ではない。
仮説2
コンドーム非常時使用群に対して、ポジティブな
訴求は有効。
先行研究にもあるようにコンドーム非常時使用群
に対して、恐怖訴求は心理的リアクタンスが発生
するため有効ではないと考えた。また、コンドー
ムの恐怖訴求をネガティブととらえ、その反対の
ポジティブな訴えは有効ではないかという考えに
至った。
■事前調査「Q3
コンドームの購入頻度はどのく
らいですか?(回/年)
」に対し、下記の表 12 の結
⑦――――分析結果
果が得られた。
アンケート分析結果
■表―――12
コンドームの購入頻度
1、 アンケート用紙を用いたコンドームと性に関
するアンケートについて
パーセ
表11のように有効回答数113人、内男59
度数
人、女54人のデータが得られた。
有効 0回
ント
有効パー 累積パー
セント
セント
38
36.5
36.5
36.5
■表―――11
1~6回
46
44.2
44.2
80.8
有効回答者の内訳
7~12
13
12.5
12.5
93.3
7
6.7
6.7
100.0
104
100.0
100.0
回
13回
以上
合計
男
59
54
女
50
45
40
35
30
25
20
■事前調査「Q1 あなたは性交渉をする際に実際に
15
コンドームを使用しますか?」に対し、1、必ず
10
使用する76人 2、たまに使用する14人
あまり使用しない8人
無効回答9人
3、
4、全く使用しない6人
5
0
の回答が得られた。このうち1、
必ず使用する76人をコンドーム常時使用群、2、
たまに使用する14人
人
3、あまり使用しない8
4、全く使用しない6人の計28人をコンド
ーム非常時使用群と定義する。
0回と回答したのは女性、現在特定のパートナー
のいない者、コンドーム非常時使用群などが主で
ある。
際にコンドームを使用しようと思いますか?」
■表―――13
■表―――14
コンドームを購入する際の一回の購入量
性交渉時のコンドームの使用意識
パーセ
■事前調査「Q4コンドームを購入する際に一回で
度数
どれくらい購入しますか?(個/回)」に対し以下の
表 13 の結果が得られた。
度数
有効 0個
有効 そう
購入個数
思う
パーセ
やや
ント
有効パー 累積パー
セント
セント
35.6
35.6
35.6
あま
1~6個
48
46.2
46.2
81.7
り思
7~12
15
14.4
14.4
96.2
セント
85
77.9
77.9
77.9
19
17.5
17.5
95.4
1
0.9
0.9
96.3
4
3.7
3.7
100.0
109
100.0
100.0
わな
い
個
4
3.8
3.8
100.0
思わ
ない
以上
合計
セント
思う
37
13個
ント
有効パー 累積パー
104
100.0
100.0
60
合計
表 14 の通り「そう思う」と回答した割合がコン
ドーム常時使用群の割合より高くなっている。こ
50
れはコンドーム非常時使用群のうちで自分の意思
40
に反してコンドームを使用しないで性交渉を行う
30
20
ものが存在していることを表している。
■コンドームの広告に対する質問群「Q1 あなたは
10
コンドームの使用を訴える広告を見たことがあり
0
ますか?」において「ある」と回答した80人の
うち「Q3 あなたはその広告をみた際に、性交渉を
するときにコンドームを使用する意欲が涌きまし
たか?」に対し以下の表 15 が得られた。
0個は購入頻度が0回の者と同様である。購入頻
度・購入個数ともに高い数値の割合はかなり低く
なっている。
■性に関する意識調査「Q1 あなたは性交渉をする
■表―――15
広告を見たことによる意識の変化
パーセ 有効パー 累積パー
度数
有
効
ント
セント
セント
ほとんどの調査対象者が学校等の機関から性教育
をうけたことがあったが、その他の質問項目では
回答が分散されたため有意なデータが得られなか
そう思う
28
35.0
35.0
35.0
やや思う
18
22.5
22.5
57.5
割合は高くないため教育の見直しは必要と思われ
あまり思
24
30.0
30.0
87.5
る。
思わない
10
12.5
12.5
100.0
合計
80
100.0
100.0
った。しかし、現時点での性教育に満足している
わない
■サンプル広告の客観性に関する検証
本論文の仮説では非常時使用群を常時使用群へと
変容させることに焦点をあてている。意識変化を
また、コンドーム非常時使用群のうちで Q1 で「あ
はかる方法としては広告を媒介とし、既存の恐怖
る」と回答した19人に限ると以下の表 16 が得ら
訴求と新たに肯定的訴求方法を比べ、後者の有意
れる。
性を検証する。その前提として、本グループのサ
ンプル広告に客観性が存在するかを検証した結果、
■表―――16
以下の表 17 が得られた。
広告を見たことによる意識の変化 2
■表―――17
パーセ 有効パー 累積パー
度数
有
効
ント
セント
セント
そう思う
4
21.1
21.1
21.1
やや思う
4
21.1
21.1
42.2
あまり思
8
42.1
42.1
83.3
わない
思わない
合計
3
15.7
15.7
19
100.0
100.0
100.0
データ数が尐ないが、コンドーム非常時使用群の
「そう思う」
「やや思う」の累積パーセントは42.
2%で全体の57.5%より15.3%低い。ま
た、コンドーム常時使用群の割合は62.2%で
あるため、コンドーム非常時使用群との差はさら
に大きく、既存の広告表現がコンドーム非常時使
用群にコンドームの使用を訴える力は弱いと考え
られる。
サンプル広告の客観性に関する検証
相関係数
P3
P3
P3
P3
P3
P3
P3
P3
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
Q6
Q7
Q8
1
.7
.8
.6
.5
.1
.4
.1
32
50
17
08
06
88
40
**
**
*
*
有
.0
.0
.0
.0
.6
.0
.6
意
01
00
11
45
96
55
05
P
Pea
3
rso
Q
n
1
の
相
関
係
数
確
率
(両
■コンドームと性教育に関する質問
側)
N
16
16
16
16
16
16
16
16
関
P
Pea
.7
1
.6
.8
.2
.4
.1
.4
係
3
rso
32
83
39
14
40
90
55
数
Q
n
**
**
**
2
有
.0
.0
.0
.6
.1
.3
.0
の
意
11
00
35
39
15
78
65
相
確
関
率
係
(両
数
側)
N
16
16
16
16
16
16
16
16
P
Pea
.5
.2
.3
.1
1
.3
.7
.0
確
3
rso
08
14
23
27
74
55
97
率
Q
n
(両
5
の
有
.0
.0
.0
.4
.0
.4
.0
意
01
04
00
26
88
80
77
側)
*
**
相
N
16
16
16
16
16
16
16
16
関
P
Pea
.8
.6
1
.5
.3
.2
.5
.2
係
3
rso
50
83
29
23
12
37
80
数
Q
n
**
**
*
3
*
有
.0
.4
.2
.6
.1
.0
.7
の
意
45
26
22
39
54
01
21
相
確
関
率
係
(両
数
側)
N
16
16
16
16
16
16
16
16
P
Pea
.1
.4
.2
.4
.3
1
.3
.8
確
3
rso
06
40
12
09
74
88
66
率
Q
n
(両
6
の
有
.0
.0
.0
.2
.4
.0
.2
意
00
04
35
22
30
32
94
側)
**
相
N
16
16
16
16
16
16
16
16
関
P
Pea
.6
.8
.5
1
.1
.4
.2
.4
係
3
rso
17
39
29
27
09
37
73
数
Q
n
*
**
*
4
有
.6
.0
.4
.1
.1
.1
.0
の
意
96
88
30
15
54
37
00
相
確
率
**. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側)
(両
*. 相関係数は 5% 水準で有意 (両側)
側)
Q1からQ4までは「それぞれの広告をみた際に、性
N
16
16
16
16
16
16
16
16
P
Pea
.4
.1
.5
.2
.7
.3
1
.3
3
rso
88
90
37
37
55
88
Q
n
7
の
ジティブな表現、ネガティブな画像とネガティブ
相
な表現同士が強い相関関係を持っていることがわ
関
かる。
*
64
交渉をするときにコンドームを使用する意欲がわ
きましたか?」という質問であり、表からそれぞ
れが相関関係を持ち、特にポジティブな画像とポ
**
係
Q5からQ8までは「それぞれの広告の画像は、性病
数
や妊娠に対して恐怖心を煽るような表現だと思い
有
.0
.4
.0
.3
.0
.1
.1
意
55
80
32
78
01
37
66
ますか?」という質問であり、ポジティブな画像
とポジティブな表現、ネガティブな画像とネガテ
確
ィブな表現同士が強い相関関係を持っていること
率
(両
がわかった。
側)
以上のことから、サンプル広告には客観性が存在
N
16
16
16
16
16
16
16
16
P
Pea
.1
.4
.2
.4
.0
.8
.3
1
3
rso
40
55
80
73
97
66
64
Q
n
8
の
**
し、アンケートをおこなう上で適切な広告である
ことが認められた。
■新広告に対する意識調査
以下の分析では、「恐怖訴求広告」と「肯定的広
相
告」に対し、非常時使用群がどのような意識を持
関
ちうるかを検証した結果、以下の表18.19が得られ
係
た。
数
有
.6
.0
.2
.0
.7
.0
.1
意
05
77
94
65
21
00
66
■表―――18
肯定的広告による意識変化
確
P3Q2
率
パーセ 有効パー 累積パー
(両
度数
側)
N
16
16
16
16
16
16
**. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側)
16
16
ント
セント
セント
有効 そう思う
9
16.1
28.1
28.1
やや思う
3
5.4
9.4
37.5
あまり思
9
16.1
28.1
65.6
れた。
わない
思わない
11
19.6
34.4
合計
32
57.1
100.0
24
42.9
欠損 0
ではないことが示された。よって仮説1は採択さ
100.0
⑧――――考察
今回のアンケートではまず、最初の質問で、コン
値
ドーム常時使用群か非常時使用群かに場合分けを
合計
56
行い、おもにコンドーム非常時使用群に対して調
100.0
査を行った。事前調査において、コンドーム非常
時使用群は既存の広告表現や性教育にに対してあ
■表―――19
まり満足していないという結果が得られた。また、
恐怖訴求広告による意識変化
有効な広告表現を探すという観点に立った場合、
P3Q1
本アンケートにより、恐怖訴求は非常時使用群に
パーセ 有効パー 累積パー
度数
ント
セント
セント
有効 そう思う
6
10.7
18.8
18.8
やや思う
2
3.6
6.3
25.0
あまり思
10
17.9
31.3
56.3
対してあまり効果的な訴求法ではないということ
が証明された。しかしながら、ポジティブな表現
が有効というわけではないため、今後は非常時使
用群のニーズをより深く追求し、また、リアクタ
ンスに配慮した新たな訴求法を模索することが求
わない
本アンケートは、受け手に対してポジティブな
思わない
14
25.0
43.8
合計
32
57.1
100.0
24
42.9
欠損 0
100.0
訴え方、ネガティブな訴え方という尺度で調査を
行った。受け手ポジティブやネガティブのとらえ
方に関しては、問題はなかったが、別の問題点が
浮かび上がった。アンケートで行ったサンプル広
値
合計
められる。
告では画像や逸脱したコミュニケーションなどの
56
100.0
その他の要素が含まれていたため、純粋に恐怖訴
求かどうかのみで受け手が判断したとは言い切れ
データ数は尐ないが、コンドーム非常時使用群の
ないと考えられる点である。また、ポジティブ表
ポジティブな広告による意識変化は、コンドーム
現というものをより具体性のあるものにする必要
の使用意識が上昇したか、という問いに対し「そ
性があるという問題もあった。そのため仮説を立
う思う」
「やや思う」の累積パーセントは25%で
て直し、認知科学的側面に配慮した新たなアンケ
あった。これは明らかに効果を持たないとみなす
ートを行った。
ことができ、仮説2は棄却された。
一方、恐怖訴求広告による意識変化は、
「そう思う」
「やや思う」の累積パーセントは 37.5%であり、
恐怖訴求もコンドーム非常時使用群に対して有効
仮説の設定
仮説1
有
たまに
コンドーム非常時使用群に対して、恐怖訴求は心
効
使用す
理的リアクタンスが発生するため有効ではない
る
仮説2
あまり
コンドーム非常時使用群に対して、強制訴求は心
使用し
理的リアクタンスが発生するため有効ではない
ない
仮説3
合計
12
50.0
50.0
50.0
12
50.0
50.0
100.0
24
100.0
100.0
コンドーム非常時使用群に対して、恐怖の反対で
ある安心感を訴える訴求は有効である
■表―――21
仮説4
『コンドームを使用してSEXしよう!』 この表現
コンドーム非常時使用群に対して、セックスやコ
を見て、あなたは性交渉をする際にコンドームを
ンドームを肯定的にとらえた訴求は有効である
使用する意欲がわきましたか?
Q2
第二のアンケートでは、同意の表現に、言葉尻
のみの変化を与えるとした。また、リアクタンス
の効果を測りやすくするため新たな要素として強
制訴求も導入することとした。先にも述べたが、
強制訴求は、対象者に対し心理的リアクタンスを
もたらすといわれている。本アンケートでは、そ
の理論が「コンドーム」に対する使用意思であっ
ても適応されるかを検証する。
度数
有
そう思
効
う
あまり
有効パ
累積パ
パーセ
ーセン
ーセン
ント
ト
ト
3
12.5
12.5
12.5
9
37.5
37.5
50.0
12
50.0
50.0
100.0
24
100.0
100.0
思わな
い
思わな
い
以下がアンケートの内容とその結果である。
合計
表 20 は被験者のコンドーム使用状況であり、初め
のアンケートと同様非常時使用群のみ結果を分析
している。表 21 は肯定的な訴求、表 22 は禁止訴
そう思う」を選択したのが全体の12.5%だったのに
対して、
「あまり思わない」
、
「思わない」を選択し
求、表 23 は恐怖訴求、表 24 は安心訴求である。
たのが87.5%であった。
■表―――20
あなたは性交渉する際に実際にコンドームを使い
ますか?
■表―――22
『コンドームを使用しないでSEXするな!』 この
Q1
表現を見て、あなたは性交渉をする際にコンドー
度数
有効パ
累積パ
パーセ
ーセン
ーセン
ント
ト
ト
ムを使用する意欲がわきましたか?
Q3
度数
有
やや思
効
う
有効パ
累積パ
しかった。よって有効な表現ではないことが分か
パーセ
ーセン
ーセン
る。
ント
ト
ト
33.3
33.3
8
33.3
■表―――24
『コンドームを使用してSEXすると安心です。
』
あまり
8
33.3
33.3
66.7
この表現を見て、あなたは性交渉をする際にコン
ドームを使用する意欲がわきましたか?
思わな
Q5
い
思わな
8
33.3
33.3
い
合計
24
100.0
度数
100.0
あまり思わない。思わないの合計が66.7%であり、
有
そう思
この表現が効果的でないことがわかる。
効
う
やや思
■表―――23
う
『コンドームを使用しないSEXは、病気(妊娠)し
あまり
やすい。
』 この表現を見て、あなたは性交渉をす
思わな
る際にコンドームを使用する意欲がわきました
い
か?
思わな
有
そう思
効
う
やや思
有効パ
累積パ
パーセ
ーセン
ーセン
ント
ト
ト
2
8.3
8.3
8.3
10
41.7
41.7
50.0
パーセ
ーセン
ーセン
ント
ト
ト
3
12.5
12.5
12.5
16
66.7
66.7
79.2
3
12.5
12.5
91.7
2
8.3
8.3
100.0
合計
24
100.0
100.0
安心を訴える訴求では、
「そう思う」と「思う」を
選択したのが全体の 79.2%であった。
分析結果からもわかるように、第一のアンケート
う
あまり
累積パ
い
Q4
度数
有効パ
100.0
2
8.3
8.3
58.3
同様、恐怖訴求をあおるフレーズは、コンドーム
思わな
の使用意識を高めることにはならなかった。また、
い
第二のアンケートにより強制訴求も効果的ではな
思わな
10
41.7
41.7
100.0
非常時使用群に対して、強制訴求は心理的リアク
い
合計
いという結果が出た。よって、仮説「コンドーム
24
100.0
100.0
「そう思う」
「やや思う」を選択した人数と「あま
り思わない」と「思わない」を選択した人数が等
タンスが発生するため有効ではない」は有意とみ
なすことができる。一方、安心感やセックスに対
して肯定的な印象を与えるフレーズでは、若干の
有意性はあるものの説得性の高い分析結果とはな
らなかった。すなわち、
「コンドーム非常時使用群
⑩――――インプリケーション
に対して、恐怖の反対である安心を訴える訴求は
有効」は棄却された。
今回の研究ではコンドームという個別の財をテ
ーマに調査を進めたが、その際に、新モデル構築
ということを意識した。そのため、コンドーム以
⑨――――終わりに
外の財、さらに社会的プロダクトにも応用できる
研究となった。具体的には公共広告や意見広告に
以上の結果を踏まえると、恐怖訴求及び強制訴
応用が可能である。従来の公共広告研究は受け手
求をあおるプロモーション活動は、コンドーム非
の拒否因子について具体的に言及しているものは
常時使用群に対し、有効な方法ではないことが証
尐ない。しかし、メッセージ受け拒否反応を示す
明された。しかし、その他の肯定的訴求、安心感
人が一番のターゲットであり、その人が態度を変
の享受を中心としたプロモーション効果の有用性
容する必要性がある人なのである。今後、公共広
は実証されておらず、明確なアプローチ方法はま
告などは受け手の心理、特にネガティブな態度に
だ不明である。本研究から非常時使用群に対し、
配慮すべきであり、そのネガティブな態度の因子
どのような広告活動が有意に働くかを検証するこ
を分解し考慮した広告戦略が望まれる。本研究は
とは困難であり、有効なアプローチ方法を模索し
その因子の一つを明らかにし、広告戦略の足がけ
ていくことが今後の課題とも言える。また、今回
となるモデルを構築したことに意義があると感じ
のアンケートではメッセージの受け手の条件付け
ている。
をコンドームを常時使用しているかどうかに設定
したが、コンドームを使用していない理由など、
その他の要素で条件付けを行えば、より受け手の
⑪――――参考文献
ニーズと問題意識を的確にとらえることができた
かもしれない。本研究の意義は既存のソーシャル
厚生労働省医生局『薬事工業生産動態年報』
マーケティングの欠陥を補うため、独立変数とし
『平成 16 年度エイズ発生動向年報』 厚生労働省
て、メッセージの受け手の拒否要因をマーケティ
エイズ動向委員会
ングプロセスの中に入れたモデルを構築したこと
『現代社会と若者の性行動』 木原雅子[2009]母子
であり、本アンケートによりモデルの有効性もあ
保健情報
る程度示された。さらに受け手の拒否要因の中に
東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究会『児
心理学的アプローチをしたことも重要である。し
童・生徒の性 2005 年調査』学校図書、[2005]
かし、心理的リアクタンスも受け手の拒否要因の
『日本における HIV 感染症/エイズ現況』
一つでしかなく、また、恐怖訴求に関しても数あ
眞
る説得的コミュニケーションの手法一つにすぎな
『情報文化における広告の役割』 青木智子[1995]
い。今後はそれぞれの独立変数の因子を分解し、
情報文化学会論文誌
メッセージの受け手の心理的特性に配慮しながら
樋口匡貴
さらに詳しく追及していくことが必要となる。
に及ぼす羞恥感情およびその発生因の影響』
第 60 号
日本農村医学会雑誌
内海
第 54 巻第 5 号
中村菜々子[2009]『コンドーム購入行動
会心理学研究 25(1)
社
深田博己・高本雪子・深田成[2007]AIDS『教育用
印刷教材の効果(2)
』 広島大学心理学研究
第7
号
藤井聡[2003] 『自動車利用抑制コミュニケーショ
ンに対する心理的リアクタンスについての理論実
証研究』 土木計画学研究・論文集
Vol.20 no.3
今城周造[2003]『自分または他社への圧力が説得に
及ぼす効果(2):リアクタンスと承諾』
東北文
化学園大学 医療福祉学部
Brehm,S.S.,&Brehm,J.W.
[1981]
『Psychological reactance: A theory of freedom
and control.』 New York: Academic Press
本多正尚・小澤真希・鈴木涼子・湯本敦子[2007]
『小・中・高校生に対する性教育の実態とその評
価』 琉球大学教育学部紀要(71)159-163
清水公一[1989] 『広告の理論と戦略』
創成社
フィリップ・コトラー、エデュアルド・L・ロベル
ト著 井関利明監訳[1995]『ソーシャル・マーケテ
ィング
行動変革のための戦略』
ダイヤモンド
社
深田博己[2002]『説得心理学ハンドブック
ミュニケーション研究の最前線』
説得コ
北大路書房
補碌
コンドームと性に関するアンケート
1.この調査は、コンドームに対する意識、使用状況、性に関するものです。
2.この調査用紙にご記入いただいた内容は全て統計的に処理され、回答が他に漏れるこ
とはありませんので、ありのまま記入してください。
3.ご回答は、あてはまる番号に○印を付けていただきます
4.ご回答の内容によって、次の設問が飛ぶ場合があります。当てはまる番号に○印を付
けてから指示に従ってお進みください。
5.調査結果は12月5日より久保ゼミナールホームページにて公開します。ご興味のあ
る方はご覧ください。
6.この調査に対して何か、意見ご質問等がございましたら下記の連絡先までお問い合わ
せください。
早稲田大学 久保克行ゼミ 永野班
代表者名:永野響
連絡先 [email protected]
ホームページ http://www.waseda.jp/sem-kubo01/seminfo.html
ご協力をお願い致します。
■事前調査
性別 (男・女)
現在の年齢 ( )才
経験人数(任意回答) ( 人)
現在特定のパートナーがいますか(任意回答) (いる・いない)
Q1 あなたは性交渉をする際に実際にコンドームを使用しますか?
(1.必ず使用する 2.たまに使用する 3.あまり使用しない 4.全く使用しない)
Q2 Q1で(3,4)と回答した方にお聞きします。その理由はなんですか?(2個選択)
(1. 妊娠してもいいから 2.妊娠しないだろうから 3.性病にかからないと思ってい
るから 4.面倒だから 5.そのほうがかっこいいから 6.恥ずかしいから 7.ムード
を壊したくないから 8.その他)
Q3 コンドームの購入頻度はどのくらいですか?(回/年)
(1.0回 2.1~6回 3.7~12回 4.13回以上)
Q4 コンドームを購入する際に一回でどのくらい購入しますか(個/回)
(1.0個 2.1~6個 3.7~12個 4 13個以上)
Q5 性交渉をする際、どのくらいの頻度でコンドームを使用しますか?
(1.毎回 2.2~6回に一度 3.7~12回に一度 4.それ以上もしくは使用しない)
■性に関する意識調査
Q1 あなたは性交渉をする際にコンドームを使用しようと思いますか?
(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
Q2 あなたはコンドームを使用する際に恥じらいを感じますか?
(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
Q3 コンドームを使用する際、男性側から使用しますか?
(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
■コンドームの広告に関する質問群
Q1 あなたはコンドームの使用を訴える広告を見たことがありますか?
(ある・ない)
Q2 コンドームの広告をどこで見ましたか?
(1.テレビ 2.雑誌 3.インターネット 4.その他)
Q3 あなたはその広告を見た際に、性交渉をする時にコンドームを使用する意欲がわきま
したか?
(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
■コンドームと性教育に関する質問
Q1 あなたはこれまでに学校等の機関から性教育をうけたことがありますか?
(ある・ない)
以下の質問より、(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
Q2 あなたはその教育によって性に関する基本的な知識を得たと思いますか?
( 1 2 3 4 )
Q3 あなたは学校等での性教育に対して満足していますか?
( 1 2 3 4 )
Q4 あなたは学校等の性教育を受けて性交渉の際にコンドームを使用しようという意識
を持ちましたか?
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Q5 あなたは学校等の性教育を受けて、その訴え方が性やコンドームに対してネガティブ
だと感じましたか
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■ 新広告に対する意識調査
(1.そう思う 2.やや思う 3.あまり思わない 4.思わない)
Q1 1の広告を見た際に、性交渉をする時にコンドームを使用する意欲がわきましたか?
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Q2 2の広告を見た際に、性交渉をする時にコンドームを使用する意欲がわきましたか?
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Q3 3の広告を見た際に、性交渉をする時にコンドームを使用する意欲がわきましたか?
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Q4 4の広告を見た際に、性交渉をする時にコンドームを使用する意欲がわきましたか?
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Q5 1の広告の画像はネガティブだと思いますか?
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Q6 2の広告の文字はネガティブだと思いますか?
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Q7 3の広告の画像はポジティブだと思いますか?
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Q8 4の広告の文字はポジティブだと思いますか?
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アンケートにご協力ありがとうございました。
早稲田大学商学部 久保ゼミナール 永野班