「デジタル観測手法を統合した里山の GIS 解析」 -背景と目的-

 「デジタル観測手法を統合した里山の GIS 解析」 空間情報科学研究センターシンポジウム
「デジタル観測手法を統合した里山の GIS 解析」
-背景と目的-
鈴木 康弘 (愛知県立大学情報科学部;地域環境 GIS 研究会事務局)
1. 環境共生の議論に資する自然環境解析の現状
さまざまな地球環境問題が深刻化する 21 世紀においては,人間活動と自然環境との「共生」のあり方が今以上に追求され,人間と自然
のインターラクションを,より高精度で予測する技術開発が早急に必要となる.しかしながら現状において,地域スケールの中で個性豊か
に展開する自然環境については,過去から現在までの変遷に関する詳細なデータは極めて乏しく,現状についての分析すら十分とは言
えない.このような身近な自然は,「見たままであり,科学的な分析の対象ではない」と誤解されてきたのであろうか.身近な自然環境につ
いての解析を重視してこなかったツケが,災害や環境問題として露呈しているといっても過言ではない.
20 世紀後半の科学技術の進歩の過程で,このような身近な自然についての観測や分析は,天気予報や地震予知などのような目的およ
び観測項目が明確なもの以外にはほとんど投資が行われず,地表の標高データのような基礎的な情報ですら,50m メッシュのデータが近
年になってやっと整備されるという遅れようであった.このような状況では,自然環境の挙動を精度良くとらえ,予測することは困難である.
精度があいまいな情報を積み重ねても,実用に足るシミュレーションはできない.そのため,基礎的なデータ取得から解析・シミュレーショ
ンまでを統合した研究が必要なのが現状である.
また,そもそも自然環境の問題は,①地点ごと,②地域規模(regional),③地球規模(global)の 3 つの観点から総合的に捉えるべきであ
り,全貌を把握することは容易ではない.地点ごとの地道な観測と,地域規模や地球規模のリモートセンシングを有機的に結びつけ,人間
生活の舞台である地域単位の自然環境を総合的に理解し,シミュレートするためのシステム開発が必要である.こうした技術開発を経て,
初めて適正な保全計画を立案することができる.20 世紀の科学技術は,上記のうちでもとくに②の地域規模の検討が弱かった.「環境共
生」に真剣に取り組むのであれば,このこと念頭に置いて,いわば「人間活動が見えるスケール」での環境解析技術の開発に取り組む必要
がある.
2. デジタル観測手法を統合した里山GIS解析の意義
「最近の 50 年間に日本列島全体では平均何メートル森林が成長したか?プラスかマイナスか?」という問題は,「里山の保全」や「地球
環境問題」を検討する上で,とくに重要な鍵を握っている.我々は,デジタル航空写真測量(DPW:Digital Photogrammetry Workstation
System),航空機マルチスペクトルスキャナー(MSS:Multi Spectral Scanner)観測,ヘリコプター・レーザレーダ観測,高解像度衛星画像解
析などのリモートセンシング技術により里山を集中的に解析し,それらのデジタル観測情報を地理情報システム(GIS:Geographical
Information System)上に統合することで,里山の最近 50 年間の推移と現状を明らかにすることを目指している.これによって上記の問題に
答えを出し,さらには将来の挙動を予測することに挑戦したい.
陸域における森林成長は,炭素固定という点で地球温暖化の議論にとって重要であることは言うまでもないが,森林単位で実測された
例はなく,広域的なエリアを対象に森林成長を測る技術開発はいまだ十分行われていない(半田,2000:本論文集).現状においては,陸
域における炭素固定量は,観測された大気中の二酸化炭素増加量と海域における吸収量とから逆算されているに過ぎないという.
一方で,森林は「里山」という言葉に代表されるように,人間生活と密接に関わり,土地利用が高度化する中で,「如何に保全すべきか」
が重要な社会問題となっている.愛知県瀬戸市および長久手町では,2005 年に地球環境をテーマにした日本国際博覧会が計画され,里
山保全と開発のバランスの問題に直面している.この地域においてその問題をどのように解決するか,国際的にも注目が集まっている.
「里山」とは人間活動とのインターラクションで形成された半人工的な森林形態を指す.単に放置しても里山の景観は維持できない.里
山景観とは何かを正しく理解するためにも,過去から現在に至る植生変化や森林成長および施業履歴(林業活動)を復元し,そのような過
-2-
去の履歴を踏まえた解析が必要となる.また,地点ごとに多様な地理的条件を持っており,それらを総合的に解析する必要がある.このた
め,本研究では,写真測量技術によって森林成長を直接計測し,その他の自然環境データを数値情報化した上で,GIS 上で統合する.そ
れによって,20 世紀後半の 50 年間の森林成長履歴と地理的特性に基づく,論理的に明快な成長シミュレーションシステムを構築すること
を,最終的に目指している.
3. 本論文集の内容
本論文集は,愛知県の近未来社会対応型情報通信産業振興事業公募研究(1998 年度~)および文部省科学研究費補助金・地域連携
推進研究費(1999 年度~)などによる産学共同研究の,2000 年 3 月時点までの成果である.2000 年 3 月 4 日に東京大学空間情報科学研
究センターで開催された公開シンポジウムの発表内容を中心にまとめた.研究主体は地域環境 GIS 研究会*(事務局:愛知県立大学情報
科学部),研究対象は 2005 年日本国際博覧会会場予定地周辺(瀬戸市~長久手町)の里山である.
里山が展開するこの地域は,起伏の細やかな丘陵地であり,このような場所の解析には 5~10m 程度の細密な数値標高モデル(DEM:
Digital Elevation Model)が不可欠である.このレベルでの DEM を独自に作成し,先端的な解析を進めている点が本研究の大きな特徴で
ある.本論文集の第一部は「細密 DEM の世界」と題し,一般に市販されている 50m-DEM とは解像度が格段に異なる 5m-DEM や 50cmDEM の意義に焦点を絞る.こうした細密 DEM の取得に関する方法論や、細密 DEM が可能にする新たな流出解析や地形分析について
の研究報告である.またこれに関連して,50m-DEM に基づく最新の地形分析研究の成果も紹介される.
第二部「森林成長を測る」では,現在および過去の複数の時点における 5m-DEM の差から森林成長量を求める方法論について議論さ
れる.これは全く新しい技術開発であり,現時点までの到達点と精度上の問題点,および今後の検討課題が整理される.
第三部「里山の多様性の研究」では,まず,5m メッシュを意識した航空写真判読に基づく植生分類図の作成法と、植生の時系列比較が
議論され,5m-DEM による補正を加えた MSS 画像分析による植生の自動判別の可能性が議論される.また,こうした植生変化に伴う水の
流出変化をとらえる試みや,ディファレンシャル GPS(D-GPS:Differential Global Positioning System )を用いた自然環境の画像情報収集と
管理法に関する検討が紹介され,自然環境情報の解析におけるGISの役割が議論される.最後に,こうした情報の公開・利用を目的とした
フィールドミュージアム構想が紹介される.
なお,本論文集は中間報告であり,補正が完了していないデータを用いた試論や,精度が確認されていない計測手法も含んでいる.現
在,精度の検証を急ピッチで進めている最中であるが,この段階でひとまず公表することによって,広く批判を仰ぎ,今後の方向性を議論
し,必要に応じて修正を加えていきたい.
謝辞:
東京大学空間情報科学研究センターの公開シンポジウムに際しては,関係各方面から多数の方々にご参集いただき貴重なご意見を賜
った.とくに愛知県工業技術センターの大野昌彦氏には「地域結集型研究」の研究内容についてのご講演を頂いた.記して謝意を表しま
す.
地域環境 GIS 研究会構成員一覧 (2000
年 7 月 1 日現在)
研究会構成員一覧 (
鈴木康弘・半田暢彦(愛知県立大学情報科学部)・小口 高・杉盛啓明(東京大学空間情報科学研究センター)・木村圭司(東京都立大学大
学院理学研究科)・山本一清・竹中千里(名古屋大学大学院生命農学研究科)・恩田裕一(筑波大学地球科学系)・若月 強(筑波大学大学
院地球科学研究科)・糸数 哲(筑波大学大学院環境科学研究科)・隈元 崇(岡山大学理学部)・中山大地(京都大学防災研究所)・青木賢
人・田中 靖・勝部圭一・林 舟(東京大学大学院理学系研究科)・喜代永さち子(名古屋大学大学院工学研究科)・川畑大作(京都大学大
学院理学研究科)・佐野滋樹・野澤竜二郎・勝野直樹・柚原正幸・野村哲朗・廣瀬昌彦・中嶋 勝(玉野総合コンサルタント株式会社)・村手
直明・宮坂 聡・徳村公昭・加藤 悟・坪井知美(中日本航空株式会社)・筒井信之・関原康成・伊藤 剛・永田圭司・上野美葉・橋本寿朗・菅
内寿幸・野村雄一(株式会社 創建)・古瀬勇一・竹島喜芳(株式会社ファルコン)
-3-