論 文 ひび割れから塩分浸透した繊維補強セメント系

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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第170号(2016):河野 他
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◇論 文◇
ひび割れから塩分浸透した繊維補強セメント系材料の
曲げ挙動と組成の変化
Change in Flexure Behavior and Composition
of Fiber Reinforced Cementitious Material
with Cracks by Chloride Penetration
河 野
克 哉*, 森 香 奈 子*,
橋
勝
本
文**, 横 田
KONO, Katsuya*;
MORI, Kanako*;
HASHIMOTO, Katsufumi**;
要
弘***
YOKOTA, Hiroshi***
旨
超高強度繊維補強コンクリート(UFC)は, 高靭性および高耐久性を有するものの, ひび割れを
生じた場合には鋼繊維の腐食によって力学性能が低下する懸念がある. 本研究では, 初期ひび
割れ幅が異なるUFCを人工海水に浸漬した後の曲げ特性ならびに組成変化について検討した.
その結果, 水結合材比がきわめて低い UFC の場合は, 内部で複数の微細な初期ひび割れを生じ
ているが, 3年間ほど人工海水に浸漬した後でも曲げ耐荷性能が低下しないこと, UFC 内部に
豊富に含まれる未水和セメントが海水と遅れて反応することでひび割れを自己閉塞する効果が
あることなどがわかった.
キーワード:超高強度繊維補強コンクリート, ひび割れ, 鋼繊維、海水, 腐食, 曲げ特性,
未水和セメント
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* 中央研究所 第2研究部 高機能コンクリートチーム Multi-Function Concrete Team, Central Research Laboratory
** 京都大学 Kyoto University
*** 北海道大学 Hokkaido University
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ABSTRACT
Ultra high strength fiber reinforced concrete (UFC) has high ductility and high durability.
However, these high performances may be affected when steel fibers in UFC are damaged
by corrosion. In this study, flexural properties and chemical composition were investigated
after immersing UFC with initial cracks in artificial seawater. The results showed that:
1) there was practically no reduction in flexural performance in about three years of
sweater immersion; and 2) delayed reaction of unhydrated cement grains richly contained
in UFC with seawater allowed the initial cracks to close gradually.
Keywords:Ultra high strength fiber reinforced concrete, Crack, Steel fiber, Seawater,
Corrosion, Flexural property, Unhydrated cement
1.は じ め に
腐食しない. しかし, ひび割れを有するUFCでは,
ひび割れ面で架橋した鋼繊維が容易に腐食すること
で伝達応力の低下を引き起こすことが懸念されて
いる1).
このような背景の下, 本研究では, 初期ひび割れ
を有する UFC の耐久性を, 結合材比が異なる繊維補
強セメント系材料と比較する形で評価した. 具体的
には, 初期ひび割れ幅ならびに水結合材比が異なる
UFC 供試体を人工海水に浸漬した後, 曲げ試験に
よる力学特性ならびに機器分析による塩化物イオン
浸透状況や組成変化を検討した.
2
圧縮強度 200 N/mm 程度となる超高強度繊維補強
コンクリート(以下, UFC)は, 鋼繊維の混入で引張
特性を改善し, さらに高流動性と高耐久性を備えた
セメント系材料である. このような UFC の特長は,
きわめて低い水結合材比と高温の熱養生で早期に
達成されるものであるが, 自己収縮が増大しやすく,
初期にひび割れを生じやすいといった課題もある.
一般にひび割れがない UFC 中の鋼繊維は, ごく表面
に存在するもののみが腐食を生じて点錆となるもの
の, 緻密なマトリクスに保護された内部の鋼繊維は
Table 1
Material
Binder (B)
Fine aggregate
Reinforcement
Chemical admixture
Materials
(材料)
Type
Low heat Portland cement
Silica fume
Silica sand
Steel fiber
Superplasticizer
Symbol
C
SF
S
F
SP
Viscosity agent
VI
Deforming agent
DF
Characteristics
Specific surface area: 3330cm2/g, Density: 3.22g/cm3
Specific surface area: 10m2/g, Density: 2.40g/cm3
Maximum particle size: 0.6mm, Density: 2.61g/cm3
Diameter: 0.2mm, Length: 15mm, Density: 7.84g/cm3
Polycarboxylic type
Two-pack (Drug A: Alkylarylsulfonic acid salt, Drug B:
Alkylammonium salt)
Polyalklene glycol type
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Mix proportion of UFC and FRC
(UFC ならびに FRC の配合)
W/B *1
SF/B
Vf
Unit contents (kg/m3)
(vol.%) (wt.%) (vol.%) (vol.%) W
C
SF
S
F SP *2 VI-A *2
VI-B *3
DF *2
40
13.2
180 1146 214
24
−
−
−
100
32.7
20
2.0 313 805 150 927 157
3
−
−
−
160
52.4
385 619 115
− W×0.5% W×0.5% C×0.005%
*1 B=C+SF
*2 Replacement as a part of unit water content, and addition to mixing water.
*3 Replacement as a part of unit water content, and addition to mixture after mixing.
2.実 験 方 法
2.1 使用材料, 配合および練混ぜ
(1) 使用材料ならびに配合
Table 1 に示すように, 結合材(以下,B )は, 低熱
ポルトランドセメント(以下,C )ならびにシリカフ
ューム(以下,SF)の2種類とし, ヘンシェルミキサ
(容量 100 L)にて事前に混合してプレミックス粉体
で用いた. また, 細骨材には珪砂(以下,S)を, 混和
剤には高性能減水剤(以下,SP),増粘剤(以下,VI)
および消泡剤(以下,DF)を,補強用短繊維には鋼繊維
(以下,F)を使用した.
Table 2 は配合を示したものである. プレミック
ス粉体(B)は, Furnace の最密充填理論 2)3) による
粒子の平均径(Cの場合20μm, SFの場合1.3μm)と
空隙率(いずれの場合も0.5)を用いた簡易計算にて,
体積比で C:SF=8:2とした. 水結合材比は, 体積
比で 40, 100, 160 %(それぞれ質量比で13.2, 32.7 ,
52.4%)とし, 繊維混入率(以下,Vf )は, コンクリート
体積に対して内割で2.0%とした. なお, W/B= 52.4%
とした配合では, 水の分離ならびにエントラップト
エアの混入を抑制するため, 増粘剤と消泡剤を添加
した. Table 2に示すように, W/B=13.2%の配合は圧
縮強度(以下,fc’ )210 N/mm2 を有するほか, ヤング係
数59.5kN/mm2, ひび割れ発生強度10.5 N/mm2 および
破 壊 エ ネ ル ギ ー 14.40N/mm と な る UFC に 該 当 し ,
W/B=32.7% ならびに 52.4% の配合は, 一般的な繊維
補強セメント系材料(以下,FRC)に該当する.
(2) 練混ぜならびに養生
パン型強制ミキサ(容量100 L)にB,水,SP,Sを投入
して, SPを加えた水(以下,W)とともに7分間の練混
ぜを行い(練混ぜ量 80L),Fを投入してさらに2分間
5cm
0.5cm
Notch
3cm
Clip gauge
30cm
40cm
Flow
f’c
(mm) (N/mm2)
277
210
110
68
104
52
Ligament
7cm
10cm
Table 2
5cm
10cm
Fig. 1 Method of three-points bending test of
notched beam
(切欠きはりの 3 点曲げ試験の方法)
の練混ぜを行った. なお, W/B=52.4% の配合では,
SP,VI-A,DF を加えた水とともに6分間の練混ぜを
行い,練り上がったモルタルにVI-B を添加して1分
間の練混ぜ, さらに F を投入して2分間の練混ぜを
行った.
いずれの配合も所定の型枠内に打ち込んでから,
1次養生(封緘養生:20℃, 24h)の後で脱型し,2次
養生(蒸気養生:昇温速度15 ℃/h, 最高温度 90 ℃,
最高温度保持時間 48h, 降温速度 15℃/h)を行った.
2.2 人工海水浸漬試験
(1) 供試体ならびに初期ひび割れの導入
供試体は, Fig.1 に示すような切欠きはり(寸法
10×10×40 cm)とし, 熱養生後にカッターにて切断
して切欠きを導入した. コンクリート工学会規準
JCI-S-002-2003「切欠きはりを用いた繊維補強コン
クリートの荷重−変位曲線試験方法」に準じて切欠
きはりの3点曲げ試験を行い, 初期ひび割れを導入
した. 除荷後における初期ひび割れ幅(以下,wi )の
目標値を, 0.1, 0.5および 1.0 mmの3水準とし, そ
の実測値はそれぞれ0.082∼0.123 mm, 0.413∼
0.582 mm および 1.031∼1.182 mm の範囲となった.
また, 比較用として初期ひび割れを導入しない供試
体も準備した. なお, wi は,切欠きはりの3点曲げ
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試験におけるひび割れ肩口開口変位(以下,CMOD )と
して測定された値である.
Fig.2 は UFC 指針(案)1) で規定された引張軟化曲
線を示したものであり, 初期導入したひび割れの幅
であるⅰ)0.1mm, ⅱ)0.5mm, ⅲ)1.0mm は, UFC(本
実験では W/B=13.2% の配合に相当)のひび割れ発生
後において, それぞれ ⅰ)一定の引張応力を保持で
きる領域, ⅱ)引張応力の低下が開始される点(軟化
開始点), ⅲ)引張応力が徐々に低下する領域, に対
応した変位となっている.
(3) 荷重−CMOD 曲線の測定
Fig.1 に示したように, 人工海水への浸漬前後に
おける切欠きはりの3点曲げ試験をJCI-S-002-2003
に準じて実施し,荷重−CMOD 曲線を測定した. なお,
鋼繊維を混入した供試体は, 最終的に破断はしない
ため, ひび割れ発生後の最大荷重とその下降域が
十分に確認できた時点( CMOD =5mm)で曲げ試験を
終了した.
(4) 塩化物イオン(以下, Cl-)浸透状況の観察
人工海水浸漬後の供試体からひび割れを含む形で
試料(断面 70×70 mm, 厚さ10mm)を切り出し, 電子
線マイクロアナライザー(以下, EPMA)による塩素
(Cl) の 面 分 析 を , 土 木 学 会 規 準 JSCE-G574-2005
「EPMA 法によるコンクリート中の元素の面分析方
法(案)」に準じて行った.
(5) 反射電子像の観察ならびに画像解析
EPMA分析後の各試料から, SEM観察用の試料(断面
20×40mm, 厚さ10mm)を中央部にひび割れを含む形
で切り出し, それぞれ10 視野の反射電子像(以下,
BSE 像)を観察した. BSE 像のグレイレベルは観察対
15.0
2
Tensile stress (N/mm )
(2) 切欠きはり供試体の人工海水浸漬
初期ひび割れを導入した供試体は, Fig.3 に示す
ように試験研究用として処方開示がある市販の人工
海水に浸漬した. 切欠きの肩口部から5mmの深さと
なるように供試体を浸漬することで, ひび割れ部分
へ海水成分が毛管現象によって確実に浸透するよう
にした. すべての供試体は, 温度20℃, 相対湿度
95%の環境にて人工海水へ 12ヵ月浸漬し, 浸漬期間
中は1ヵ月に1度の頻度にて人工海水を全量交換し
た. なお, W/B=13.2%の UFCの場合には, 温度 30℃,
相対湿度 95% の環境にて人工海水へ 36ヵ月浸漬す
る水準も実施した.
象物の平均原子番号に依存するため, このグレイレ
ベルの差を利用して, 未水和セメントと空隙が占め
る面積領域を抽出・2値化し, それぞれの体積率(含
有率)を算出した. この計算が成り立つ前提として,
硬化体中に未水和セメント, 骨材, 水和物および空
隙は均一に分散していること, ステレオロジー理論4)5)
では2次元断面内に分布した未水和セメント粒子や
空隙の面積率は硬化体中の体積率に等しいこと, の
二つを条件としている. また, 画像からの空隙部分
の抽出では, H.S.Wongらの手法6)を参考にした. な
お, 比較して評価するため, 脱型直後に吸水処理を
行っていない供試体についても, 同様に BSE 像観察
と画像解析を実施した.
i) ii)
iii)
Idealized curve derived
from inverse analysis
on 3 points bending tests
with notched beams
(average)
11.3
10.0
5.0
Initial crack width
0.1 0.5 1.0 (mm)
0.0
0.0 0.5 1.0
2.0
3.0
4.0 4.3 5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
Fig. 2 Tension softening diagram by the
JSCE recommendations for design
of UFC
(UFC 設計に対する土木学会指針(案)
に示された引張軟化曲線)
20℃ or 30℃, 95%.R.H.
Notched beam
Fig. 3
Synthetic seawater
Initial crack
5 mm
Notch
30mm
Method for immersing the cracked UFC
and FRC specimens in seawater
(ひび割れた UFC ならびに FRC 供試体の
人工海水浸漬方法)
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3.実 験 結 果
40
40
30
30
Load (kN)
Load (kN)
3.1 初期ひび割れを有する UFCの荷重−CMOD 曲線
Fig.4(a),(b)および(c)は, 初期ひび割れ幅が
異なる UFC (W/B = 13.2 % )において, 環境温度 20 ℃
の下で海水への浸漬前, 浸漬3ヵ月後および浸漬
12ヵ月後の荷重− CMOD 曲線をそれぞれ示したもの
である. 初期ひび割れがない UFC の場合(wi = 0.0 mm),
海水に3ヵ月あるいは 12ヵ月浸漬してもピーク荷重
は浸漬前とほとんど変わらず, 海水が UFCの力学特性
に与える影響は小さい. これに対して, 初期ひび割れ
を有する UFCの場合(w i = 0.1, 0.5 および 1.0 mm)には,
海水に3ヵ月ならびに 12ヵ月浸漬することでピーク
荷重が向上し, とくに初期ひび割れ幅が小さい場合
( w i = 0.1mm)には, ピーク荷重の大幅な増加が認め
られた. またピーク以降の挙動に着目すると, 海水
浸漬前の UFC では初期ひび割れ幅が異なってもほぼ
一致しているものの, 海水浸漬後の UFC では初期ひ
び割れがない場合(wi = 0.0mm)よりも初期ひび割れ
がある場合(wi =0.1, 0.5および1.0 mm)のほうが, 同
じCMOD に対して高い荷重を維持している.
Fig.4(d) は , 初 期 ひ び 割 れ 幅 が 異 な る UFC
(W/B=13.2 %)において, 環境温度 30 ℃ の下で海水
への浸漬 36ヵ月後の荷重− CMOD 曲線を示したもの
である. いずれの初期ひび割れ幅の場合(wi =0.1,
0.5 および 1.0mm)でも,初期ひび割れがない場合
(wi = 0.0 mm)にくらべてピーク荷重ならびにピーク
以降の荷重とも高くなった.
Fig.5(a)ならびに(b)は, 初期ひび割れ幅が異な
る FRC (W/B = 32.7 % )において, 環境温度 20 ℃ の下
で海水への浸漬前ならびに浸漬 12ヵ月後の荷重−
CMOD 曲線をそれぞれ示したものである. 海水浸漬
20
10
0
wi (mm)
0.0
0.1
20
10
0.5
1.0
40
30
30
Load (kN)
Load (kN)
(b) Duration of 3 months in seawater (20℃)
40
20
0
0.5
1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
(a) Duration of 0 month in air (20℃)
wi (mm)
0.0
0.1
0.0
0.1
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Cack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
10
wi (mm)
20
10
0.5
1.0
wi (mm)
0.0
0.1
0
0.5
1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
(c) Duration of 12 months in seawater (20℃)
(d) Duration of 36 months in seawater (30℃)
Fig. 4 Load-CMOD curve of UFC (W/B=13.2%) with initial crack
(初期ひび割れを有する UFC(W/B=13.2%)の荷重-CMOD 曲線)
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前の FRC の場合, 前述の UFC にくらべて荷重レベル
が低く, 初期ひび割れの有無ならびに幅がピーク
荷重やポストピーク挙動に与える影響はほぼない.
一方, 海水浸漬後の FRC では, 初期ひび割れがない
場合(wi =0.0mm)よりも初期ひび割れを有する場合
(wi = 0.1, 0.5 および 1.0 mm) のほうがピーク荷重は
やや高くなる傾向があるものの, 前述の UFC の場合
にくらべて初期ひび割れ幅がピーク荷重やポストピ
ーク挙動に与える影響は小さいといえる.
Load (kN)
30
40
wi (mm)
0.0
0.1
0.5
1.0
30
Load (kN)
40
Fig.6(a)ならびに(b)は, 初期ひび割れ幅が異な
る FRC (W/B = 52.4 % )において, 海水への浸漬前なら
びに浸漬 12ヵ月後の荷重−CMOD 曲線をそれぞれ示
したものである. W/B = 52.4 % の FRC の海水浸漬前後
におけるピーク荷重ならびにポストピーク挙動は,
前述した W/ B = 32.7 % の FRC の場合と同様の傾向を
示しており, W/B= 13.2% の UFC の場合のみで特異な
現象を示している.
20
10
0
0
(a) Duration of 0 month in air (20℃)
(b) Duration of 12 months in seawater (20℃)
Load-CMOD curve of FRC (W/B=32.7%) with initial crack
(初期ひび割れを有する FRC(W/B=32.7%)の荷重-CMOD 曲線)
40
40
wi (mm)
wi (mm)
0.0
0.1
0.5
1.0
30
Load (kN)
Load (kN)
0.5
1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
30
0.0
0.1
20
10
Fig. 5
wi (mm)
20
10
0
0
(a) Duration of 0 month in air (20℃)
Fig. 6
0.5
1.0
20
10
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
0.0
0.1
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Crack-mouth opening displacement (CMOD) (mm)
(b) Duration of 12 months in seawater (20℃)
Load-CMOD curve of FRC (W/B=52.4%) with initial crack
(初期ひび割れを有する FRC(W/B=52.4%)の荷重-CMOD 曲線)
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これらの結果から, UFC は海洋環境下でひび割れ
を生じても, 直ちに曲げ耐荷性能の低下を引き起こ
すことはないものと考える. また, 曲げ試験後の供
試体は, いずれの場合もひび割れ面で架橋した鋼繊
維が引き抜けを生じており, 腐食による断面欠損で
の鋼繊維の破断はほぼなかった. 初期ひび割れを有
する UFC が海水浸漬で生じる荷重増加の原因には,
ⅰ)ひび割れ面のごく近傍に埋め込まれた鋼繊維の
マトリクスからの引き抜け抵抗が体積膨張した腐食
生成物によって増加した結果, 載荷初期におけるひ
び割れ間の結合応力を向上させたこと, ⅱ)鋼繊維
とマトリクスの界面では鋼繊維の腐食生成物だけで
なく海水との反応で生成した新しい水和物が付着を
向上させたこと, などの関与が考えられる.
3.2 初期ひび割れを有する UFCの Cl-浸透状況
Fig.7(a)ならびに(b)は, 初期ひび割れ幅が異な
る UFC(W/B=13.2 % )を海水に3ヵ月ならびに 12ヵ月
wi=0.0mm
wi=0.1mm
浸漬した後の Clマッピング画像をそれぞれ示した
ものである. 初期ひび割れがない UFC は, 海水浸漬
3ヵ月ならびに 12ヵ月のいずれの場合も切欠き先
端部のごく表面に Cl が存在するのみで, マトリク
ス内部には Cl- が侵入していない. 一方, 初期ひび
割れを有する UFC の場合では, ひび割れを通じて
Cl-が内部に浸入しており, 海水浸漬が3ヵ月から
12ヵ月と長くなるほど Cl が広く分布している. ま
た, UFC の初期ひび割れ幅が増加するほど, 切欠き
先端部から内部に生じたひび割れ数が増加しており,
初期ひび割れ幅が小さいとき( wi = 0.1 mm)は1∼3
本の少数のひび割れから Cl- が浸入し, 初期ひび割
れ幅が大きくなったとき( w i = 0.5 ならびに1.0 mm)
には, 多数の微細なひび割れを通じて Cl- が内部に
浸入している. このような Cl- 浸透は, ひび割れを毛
管として海水を吸い込んだものであり, W/B がきわめ
て低いためにひび割れ近傍以外の緻密なマトリクス
部分に Cl- の拡散が進行していないといえる.
wi=0.5mm
wi=1.0mm
wt.%
1.0
0.8
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
wi=1.0mm
wt.%
1.0
0.8
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
(a) Duration of 3 months in seawater (20℃)
wi=0.0mm
wi=0.1mm
wi=0.5mm
(b) Duration of 12 months in seawater (20℃)
Fig. 7
Cl distribution in UFC (W/B=13.2%) with initial crack
(初期ひび割れを有する UFC(W/B=13.2 %)中の Cl 分布)
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Fig.8(a)は, 初期ひび割れ幅が異なるFRC(W/B=
32.7 % )を海水に12ヵ月浸漬した後の Cl マッピング
画像を示したものである. 初期ひび割れを有する
FRC(wi = 0.1 mm)は, 初期ひび割れがない UFC にくら
べて切欠き先端部から内部に Cl- が浸透している.
また,初期ひび割れを有するFRC( w i = 0.5 ならびに
1.0 mm)では, 初期ひび割れ幅にかかわらず内部に
生じたひび割れ数は1本のみであり, 初期ひび割れ
幅が大きいほど深い位置まで Cl- が到達している.
この1本のひび割れから浸入した海水がひび割れ
側面方向のマトリクスに対して拡散することで,
Cl が高濃度で分布する領域が広がっている. また
Fig.8(b) は , 初 期 ひ び 割 れ 幅 が 異 な る FRC(W/B=
52.4% )を海水に 12ヵ月浸漬した後の Cl マッピング
画像を示したものである. この場合も, 内部に生じ
たひび割れ数は1本のみであり, W/B=32.7% の FRC
の場合にくらべて W/B が増加したことで, さらに広
い範囲に Cl- が拡散していることがわかる.
UFC は, 切欠き肩口で計測されるひび割れが大き
く開いても内部に生じたひび割れは複数かつ微細で
wi=0.0mm
wi=0.1mm
あり, その微細なひび割れ部分以外では Cl- 浸透を
生じていないことから, W/B が高い FRC にくらべて
マトリクス内部で鋼繊維の腐食が進行しにくくなっ
ているものと推察される. このような UFC 独自の
ひび割れの発生状況が, 海水浸漬後の曲げ特性に
影響したものと考える.
3.3 初期ひび割れを有する UFCの組成変化
Fig.9 は , 初 期 ひ び 割 れ 幅 wi = 1.0mm の UFC(W/B=
13.2% )を海水に 12ヵ月浸漬した後のBSE像を一例と
して示したものである. BSE 像では, 鉄(Fe)やカル
シウム(Ca)のような重元素を含む部分は明るく, 炭
素(C)のような軽元素を含む部分は暗く表示される.
すなわち, 鋼繊維は白く, 次いで未水和セメント
(凡例:C), セメント水和物(凡例:H), 骨材(凡例:
A)の順で暗くなり, 空隙(ひび割れを含む)(凡例:P)
はもっとも黒く表示される. そのため, 撮影され
た BSE 像を画像解析することで, マトリクス組成の
判別や定量が可能となる.
wi=0.5mm
wi=1.0mm
wt.%
1.0
0.8
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
wi=1.0mm
wt.%
1.0
0.8
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
(a) W/B=32.7%, Duration of 12 months in seawater (20℃)
wi=0.0mm
wi=0.1mm
wi=0.5mm
(b) W/B=52.4%, Duration of 12 months in seawater (20℃)
Fig. 8
Cl distribution in FRC with initial crack
(初期ひび割れを有する FRC 中の Cl 分布)
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第170号(2016):河野 他
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C
H
P
A
50m
Fig. 9
Backscattered electron images of UFC (W/B=13.7%, wi =1.0mm)
immersed in seawater (12 mouth, 20℃)
(海水(12 ヵ月,20℃)に浸漬した UFC(W/B=13.7%,wi = 1.0mm)の反射電子像)
Table 3
Calculated unhydrated cement content and pore content obtained
by backscattered electron image analysis
(反射電子像解析にて算出した未水和セメント量ならびに空隙量)
wi (mm)
13.2
(UFC)
32.7
(FRC)
52.4
(FRC)
W/B
(%)
Composition C
Composition P
Composition C
Composition P
Composition C
Composition P
O Mg
EDS-1
Si
EDS-2
Ca
O
C
0
Ca
1
Fig. 10
2
3
4
5
6
(ke V)
7
8
9
10
Results of qualitative analysis by EDS
(EDS による定性分析結果)
0.0
0.1
0.5
1.0
41.1
37.9
37.6
36.4
6.5
23.4
9.8
13.8
12.5
7.7
23.1
10.5
12.5
12.8
8.8
22.9
11.6
12.1
11.7
8.3
22.1
12.4
11.8
13.2
Table 3 は, BSE像の画像解析から算出された
UFC(W/B = 13.2 % )ならびにFRC(W/B = 32.7 %および
52.4 % )中の未水和セメントと空隙の体積含有率を
示したものである. 初期ひび割れがない UFCの場合
(wi = 0.0 mm), UFC 体積の41.1 % が未水和セメントで
構成されており, UFCの初期ひび割れ幅が増加する
と, wi = 0.1mmの場合37.9%, wi =0.5 mmの場合37.6%,
w i = 1.0 mmの場合 36.4 % というように未水和セメン
トが減少している. これは, ひび割れを通じて浸入
した海水が UFC 中の豊富な未水和セメントと遅れて
反応することを示唆している. 一方, UFCよりも
W/B が大きい FRCでは, 初期ひび割れがない場合
( w i = 0.0 mm )における未水和セメントの含有率は
23.4 % となっており, UFC にくらべて残存する未
水和セメント量は少ないことがわかる. また
W/B= 32.7% の FRC の初期ひび割れ幅が増加しても,
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第170号(2016):河野 他
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wi =0.1mm の 場 合 23.1%, wi =0.5mm の 場 合 22.9% ,
wi =1.0mmの場合 22.1% というように未水和セメン
ト含有率はほとんど変化しない. この傾向は,
W/B=52.4% の FRCで初期ひび割れ幅が増加した場合
も同様である.
Fig.9 に示した BSE 像から, ひび割れ部分(試料の
中央部切欠き先端から深さ10 mm 程度のひび割れ近
傍部, 図中の凡例 P はひび割れ)には周囲のマトリ
クスとは異なる析出物の存在が観察できる. Fig.10
は, この析出物に焦点を合わせて, Fig.9 中に示し
た点 EDS-1 ならびに点 EDS-2 の各ポイント位置にお
いて, EDS による定性分析で簡便な形で推定した結
果を示したものである. 点 EDS-1の位置では, マグ
ネシウム(Mg), 珪素(Si)および酸素(O)が検出され
ており, 海水に浸漬せず気中で保管した供試体では
検出されていないことから, 海水由来の Mg とセメ
ン ト の水 和で 生 成し た珪 酸 マグ ネシ ウ ム水 和物
(M-S-H)と推察される. また, 点 EDS-2 の位置では,
カルシウム(Ca), 炭素(C)および酸素(O)が検出され
たことから, 海水中の炭酸イオンと反応して析出し
た炭酸カルシウムと推察される. この分析試料は
カーボン蒸着処理をしているものの, ごく薄い均一
な膜として試料全体に存在しており, 海水浸漬して
いない供試体では検出されないことから海水作用に
よる生成物と判断できる.
このように, 初期ひび割れを有する UFC は, ひび
割れ部の近傍に含まれる豊富な未水和セメントがひ
び割れから浸入した海水と徐々に反応することで,
ひび割れを自己閉塞しているものと考える. 実際に
既往の実験において, 海水浸漬前後の初期ひび割れ
深さを弾性波法(直角回折法)にて計測したところ,
海水に浸漬することで UFC のひび割れ深さが減少す
ることを確認している7). したがって, ひび割れ部
に水和物が析出する現象も, 初期ひび割れを有する
UFC が海水にさらされた場合でも1∼3年間に渡っ
て曲げ耐荷性能が低下しないことの一因になってい
るものと推察する.
4.ま と め
本研究では, 初期ひび割れ幅が異なる UFC を FRC
と比較する形で海水に1∼3年間浸漬し, 曲げ試験
による力学特性, EPMAによる Cl- 浸透状況, BSE像の
画像解析と SEM−EDS 定性分析による組成変化を検
討した. 本研究で得られた成果をまとめると, 以下
のとおりである.
(1) 初期ひび割れを有する UFC は, 海水浸漬によっ
て荷重− CMOD 曲線のピーク荷重ならびにピー
ク以降に保持できる荷重が増加し, 初期ひび割
れ幅が小さいほどピーク荷重やポストピーク挙
動が向上した.
(2) W/B = 13.2 % の UFC では, 初期ひび割れ幅が
0.1 mmの場合は1∼3本の少数のひび割れから
Cl- が浸入し,初期ひび割れ幅が 0.5 ならびに
1.0 mmの場合では多数の微細なひび割れを通じ
て Cl- が浸入するものの, いずれの場合もひび
割れ部分以外の内部に Cl- は拡散していない.
(3) 初期ひび割れがない UFCは, UFC体積の 40%以上
が未水和セメントで構成されており, 初期ひび
割れを有する UFC ではひび割れを通じて浸入し
た海水との反応によって未水和セメント含有率
が低下する.
(4) 初期ひび割れを有する UFC は, ひび割れ部で珪
酸マグネシウム水和物や炭酸カルシウムが析出
しており, 豊富な未水和セメントと海水の反応
でひび割れを自己閉塞するような現象が観察さ
れる.
謝
辞
本研究の実施にあたっては, 当時の北海道大学大
学院工学研究科の豊田昴史氏, 北海道大学工学部の
高橋和宏氏ならびに上松瀬慈氏にご協力をいただき
ました. ここに記して感謝致します.
参 考 文 献
1) 土木学会. コンクリートライブラリー113 超高
強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案).
2004.
2) 三輪茂雄. 粉粒体工学. 朝倉書店,1972,
p.140-145.
3) C.C.Furnas. Grading aggregate I‒Mathematical
relations for beds of broken solids of maximum
density. Industrial and Engineering Chemistry,
1931,23(9),p.1052-1058.
4) Ewald R.Weibel. Stereological Methods, Vol.1,
Practical Methods for Biological Morphometry.
Academic Press,1979.
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第170号(2016):河野 他
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5) Ewald R.Weibel. Stereological Methods, Vol.2,
Theoretical Foundations. Academic Press, 1980.
6) H.S.Wong, M.K.Head, N.R.Buenfeld. Pore
segmentation of cement-based materials from
backscattered electron images. Cement &
Concrete Research,2006,36(6),p.1083-1090.
7) 橋本勝文,横田 弘,豊田昴史,河野克哉. ひび
割れを有する超高強度繊維補強コンクリートの
海水浸漬後の引張軟化特性およびひび割れ性状.
コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集 , 2 0 1 2 , 3 4 ( 1),
p.220-225.