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ビジネスアナリシスを考える
-あらゆる課題や問題解決を実現する効果的なアプローチ-
(第67回)
11 人とビジネスとビジネスアナリシス
11.1
ビジネスの主役は人-すべては人で決まる
・これまでビジネスアナリシスについていろいろと考えてきましたが、最後にビジネスにおける主役
は人であると言うことをもう一度認識したいと思います。 ビジネスのいろいろな場面で、問題に直
面し、それらにどう対応するか、課題をどう解決するかを考え、それらを実行するのはすべて人で
す。 経営の改革を考えるのも、社会の新しいシステムを作りだすのも、新技術や新製品を生み
出すのも、総て人なのです。 人には個性があり、それぞれ異なった能力をもち、異なった価値を
持っています。 ビジネスにおいてはそれらの人々の特徴を組み合わせて、事業を推進し、課題を
解決してゆきます。 そのような能力の組み合わせによって最も効果的な実行計画や課題解決の
方策を構築することがビジネスアナリシスです。 ビジネスアナリシスの方法の中には多くの優れ
た考え方や技術がありますので、それらを使って効果的な実行策を組み立てることができますが、
そのためには意識をもって構築する人がいなければ何も生まれません。 ビジネスアナリシス実
行の成否はすべて人に依存しています。
■ ビジネスの主役は人
・日々何事もなく流れているように見えるビジネスの殆どは、常に変化し、何かの課題を内在し、
対応しなければならない問題を含んでいます。 それらに対応できなければ存続することができな
くなる危険性をも含んでいます。 このような現実においてビジネスを日々運営し、問題を発見し、
その対策を考え、それらを実行することはすべて人に依存しています。 ビジネスの主役は人であ
ることは誰も疑うことはできません。 ビジネスアナリシスは日々発生するこのようなビジネスの問
題を捉え、考え、解決していく支援をする重要な役割を持っていますが、どのように利用し、効果
的に活用するかを決め、目標に向かって実行するかを判断するのもまた人なのです。 言い換え
るならば、ビジネスとその変化に新しい価値を与えるビジネスアナリシスの実行は人の能力に深く
依存しているのです。 ビジネスをリードし、変革を追究する人の意識と能力によってビジネスアナ
リシスは大きな成果を生むことができるのです。
■ 人には最も効果的に実行しようとする本能があり能力がある
・ビジネスに限らずに人は何かを実行するときには最も効果的に目標を達成しようとする本能的
能力があると思われます。 例えば、現在地から目的地へ行く場合に、最も効果的な方法を瞬時
に考えます。 二つの地点間を歩く場合には、広場ならば直線上を歩くでしょうし、道があれば最も
近い道を選ぶでしょうし、道の状況を観察して迂回することもあります。そこでは、状況や環境に応
じた最適解を求めています。 間に山があれば、越えていくか距離はあっても平地を迂回するか
の選択も考えます。 交通機関が利用可能な場合には、早さ、利便性、コストのバランスを考えて
さらに選択肢が増えます。このような判断は教えられることはなくても本能的に人の能力の中にあ
ります。 このような単純な行動の中でも多くの認識、観察、比較、評価、判断などが本能的に実
行されているのです。
・ビジネスにおける行動では、対象とする課題は多様、複雑になり、取り巻く環境も多様であり、
人の本能的観察や判断の領域を越えてきます。 そこで役立つのがビジネスアナリシスにみられ
るような思考や判断を支援する概念です。 複雑な問題になりますと必要な知識も多くなり、未知
の領域の知見も少なくありません。 知っていても見落とすこともあります。 それらをさまざまな視
点から効果的に支援するのがビジネスアナリシスです。 ビジネスアナリシスを活用しようとする
人は、直接自分で観察し、評価し、判断するほかに、ビジネスアナリシスの概念と手法を通して考
え、実行することになります。 人の本能的能力に、どのように解決すればよいかの構造と手法を
考える能力を加えることが大きな効果を生みます。 多様な視点からの様々な条件の中で、状態
を分析し、判断し、最適な解答を引きだす能力に変えることであるとも言えます。 そこでも主役は
やはり人です。
■ トップマネジメントとしての人
・ビジネス上のマネジメントにおいて最も影響が大きいのはトップマネジメントであることは当然
のことですが、その意思決定の内容によりその後の組織の運営は大きく左右されます。 トップマ
ネジメントは組織のリーダーとしてあらゆる状況を理解し、評価、判断しなければなりません。その
ような場面でビジネスアナリシスを理解している経営者ならば必要な状況や情報の収集や分析、
評価、妥当性の判断などの行動を遅滞なく進めたり、必要な意思決定による具体的な対応の指
示を出したりすることが容易に可能です。 マネジメントとして当然と思われることを迅速に判断し
て意思表示し、行動することを常に意識として備えているかどうかは人に依存しています。 迅速
な判断が必要な場面で、自らの意志を明示できずその判断や行動を他人に依存している組織の
責任者を見かけることは少なくありません。自分の判断の限界を超える現象においては、それを
得意とする第三者に明確な意識をもってアドバイスを受けることは重要な選択肢です。 そのよう
な場合においても、最終判断の責任は組織のトップマネジメントにあることを忘れてはなりません。
意思決定の影響する範囲と重要性によっては、トップマネジメントとは、組織の事業部門や機能部
門の責任者であってもかまいません。 実務では責任範囲においてその推進方針を明確にするこ
とが求められます。 但し、関係部門への影響がある場合にはそれらの調整、合意が必要である
ことは原則です。 このように、それぞれの組織の構成階層にいる責任者である人それぞれがトッ
プマネジメントの認識をもって、相互に連携を持ちながら活発に行動することにより、組織の活動
を活性化し続けることが可能です。そこでもビジネスアナリシスの活用による判断と行動の基盤が
有効に効果を生みます。
■ 「人」の3つの視点
・人には様々な性格や特徴や能力がありますが、ビジネスとビジネスアナリシスへの適応性は、
意識、能力、人間性の三つの視点から評価しますと良く判断できます。 これらの総てを理想的な
レベルで持ち合わせている人はまずありませんから、理想に近い人材を育成していくことが重要
になりますし、場合によっては複数の人たちによってチームとして補完しあっていくことも必要です。
この三つのどれが最も重要かはビジネスの場面によって異なります。
・ビジネスの現場においてまず大切なのは、明確な目標をもって、自分のビジネスが今どのよう
な状況にあるかを常に監視し、分析し、どのような問題があるかを発見し、あるいは何をしなけれ
ばならないか、次には何が起こるであろうか、などを認識する意識と態度です。対応しなければな
らない課題に対してどのような方法で計画し実行するかをビジネスアナリシスの概念をもって判断
し実行する意識が大切です。新しい戦略を計画したり、業務革新をしたりすることは、明確な意識
がないと着想できませんが、さらにそれを効果的に実現するためにビジネスアナリシスの概念を
徹底して活用する事においても意識が大切です。 意識にも多様な要素が含まれますが、業務革
新の意識、問題発見の意識、問題解決の意識、実行の意識、などのほか、マネジメント層におい
てはトップマネジメントとしての実行の意思表示、推進のリーダーシップ、実行に必要なリソースの
認可、実行におけるリスクの予測と障害の排除などすべての具体的な意識が必要です。 これら
の処理が意識をもって迅速に実行されるならば推進を加速し、良い結果に到達する大きな効果と
なります。
・二番目の能力に関しては推進の基盤となる重要な要素となります。大きく分けるならば、判断
力、行動力、知識、の三つに分けることができます。 判断力は現在の状態と環境の判断と共に、
計画過程における諸計画の構築に関わる諸事情や条件の理解、判断、分析、理解、想像、など
の複合的能力としての柔軟な判断による意思決定が、実行の迅速性と共に重要な要素となりま
す。 行動力においては、積極性を伴う諸事項の実行、推進する牽引力や指導力などは推進力と
共に迅速な行動を実現する上で欠かせません。知識は広い分野にわたりますが、ビジネスの一
般業務処理知識、事業運営や業界に関する知識、マーケティング、購買、生産管理、品質管理、
プロジェクト管理、財務、人事、法務、情報管理、などの業務知識やそれらのシステムメカニズム
から多くの機能の運営方法に至るまで広範囲にわたります。 これらの知識の多くは、必要に応じ
てその分野の専門家に協力を依頼することができますが、基本的概念はマネジメントとして理解し
ていることが基本といえます。
・三番目の人間性については、本人の性格や態度に関連する部分もありますが、公平性、倫理
性、などは基本的であり、柔軟性や思考の明確さなども大切な要素です。 これらの総合されたも
のが人の信頼性に結びつきます。 これら人間性に関する事項は特に組織内部の意思統一や相
互信頼による合意などに大きく寄与することがありますが、困難な交渉などの多い外部との調整
などにおいても、個人の信頼性などは柔軟性や思考や発言の明確性などと共に効果の大きい要
素となります。論理的、技術的議論を越えて、人間性に関する問題は複雑なビジネス環境におい
てはその重要さを増していて、とくに人と人との信頼関係とコミュニケーションは技術的には解決
できない環境を乗り越えて問題解決に結び付くことも少なくありません。いわゆる人格があると評
価される人は理論や技術を越えた説得力をもっています。
・いかに優れた環境にあってもそれを利用する意志がなければその効果の実現は不可能であり、
また、高度なシステムを構築しても、その実用の意志がなければ実務での効果を生むことができ
ません。これらの判断は総て人の意識や行動に依存する問題です。 このように、ビジネスアナリ
シスの実現に向けて、「人」 が最も基本であることを認識することが大切です。
図 11-1 すべては「人」で決まる
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