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第 79 回
東海総合画像医学研究会講演論文集
と き : 平成 28 年 1 月 9 日(土)13:00 〜
ところ : ホテルサンルートプラザ名古屋
名古屋市中村区名駅 2-35-24
TEL 052(571)2221
共 催 : 東海総合画像医学研究会
第一三共株式会社 東海支店
映像情報 Medical
世話人 : 藤田保健衛生大学医学部 放射線医学
外山 宏
事務局 : 藤田保健衛生大学医学部 放射線医学教室
映像情報
Vol.48 No.6 通巻594号
MEDICAL
2016 年 6 月号別刷
第 79 回
東海総合画像医学研究会講演論文集
と き:平成28 年1 月9 日(土)
13:00〜
ところ:ホテルサンルートプラザ名古屋
名古屋市中村区名駅2-35-24
T E L:052-571-2221
共 催:東海総合画像医学研究会
第一三共株式会社 東海支店
映像情報 Medical
世話人:藤田保健衛生大学医学部 放射線医学 外山 宏
事務局:藤田保健衛生大学医学部 放射線医学教室
■ひとこと■ 今年も日本医学放射線学会総会が開催された(2016 年 4 月 14 ~ 17 日、横浜、北大 玉木長良会長)
。
海外演者の Keynote Lecture と合わせたシンポジウム、海外で活躍する日本人研究者のお話を聞く特別企画など
新しい試みがあり、充実した会であった。Image Interpretation Session、シンポジウム「主治医を唸らせる画像
診断:攻めと守り」は立ち見がでるぐらい盛況であった。診療現場での画像診断医に対する期待と責任が増して
いることがうかがい知れた。
日本核医学会総会は43 年ぶりに名古屋で開催される(2016 年 11 月 3 ~5 日、国立長寿研 伊藤健吾会長)
。テー
マは、
「健康長寿社会をめざして―核医学の挑戦―」である。国立長寿研、藤田保衛大、名大が共同で開催準備を
行っている。初日が祝日であり、非会員の方にも多くご参加いただけるようなプログラムを企画している。
「研修
医・医学生のための放射線・核医学セミナー」では、全国の診断・治療・核医学の教授の先生方にご講演をご快
諾いただいた。研修医・医学生の参加費は 1,000 円と安く設定したので多くのご参加をお待ちしています。
藤田保健衛生大学医学部 放射線医学 教授 外山 宏
プログラム(■囲みは本誌掲載論文)
製品紹介(13:00~13:10)
挨拶(13:10 ~13:15)
藤田保健衛生大学医学部 放射線医学 教授
外山 宏
セッションA(13:15~14:15)
座長 名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野 講師
小澤良之
1.「成人期に診断された左室心筋緻密化障害の2例」
名古屋大学 放射線科
馬越弘泰 駒田智大 長縄慎二
2.「Vascular plugによる卵巣静脈塞栓術が奏功した骨盤うっ血症候群の
1 例」
愛知医科大学病院 放射線科
阿部壮一郎 岡田浩章 大島幸彦 泉 雄一郎 勝田英介
木村純子 石口恒男
3.「Oncology領域におけるAVP(バスキュラープラグ)の使用経験」
愛知県がんセンター中央病院 放射線診断・IVR 部
佐藤洋造 村田慎一 山浦秀和 小野田 結 加藤弥菜
長谷川貴章 守永広征 金原佑樹 山口久志 稲葉吉隆
4.「EOB造影MRI肝細胞相における胆道系濃染と肝機能に関する検討」
岐阜大学医学部附属病院 放射線科
野田佳史 五島 聡 川田紘資 河合信行 大野裕美 松尾政之
セッションB(14:45~16:00)
座長 藤田保健衛生大学医学部 放射線医学 講師
村山和宏
1.「興味ある経過を示した水頭症の 2例」
刈谷豊田総合病院 脳神経外科
石川晃司郎 山本太樹 加藤恭三 後藤峻作 今井 資
大島共貴 島戸真司 西澤俊久
2.「VP Shunt後に第 4脳室拡大から脊髄空洞症を呈した 1例」
春日井市民病院 脳神経外科
大塚崇史 林 重正 真宮 崇 内藤丈裕 桑山直人
3.「頸髄上衣下腫の 1例」
三重大学医学部 放射線科
山添峰加 海野真記 佐久間 肇
同 先進画像診断学講座 前田正幸
同 脳神経外科 倉石慶太 水野正喜 鈴木秀謙
4.「空間分解能が磁気共鳴流体解析に与える影響
―脳動脈瘤発生部位における検討―」
名古屋大学 医学部保健学科 放射線技術科学専攻
瀧口和也 礒田治夫 水野 崇
名古屋大学 脳とこころの研究センター 礒田治夫
名古屋大大学院 医学系研究科 医療技術学専攻 医用量子科学講座 渡辺智哉 石黒健太 福山篤司
株式会社アールテック 小杉崇文
シーメンスジャパン株式会社 小森芳秋
5.「総胆管結石診断におけるSingle-shot Balanced Turbo Field-echo
Sequence の有用性に関する検討」
岐阜大学医学部附属病院 放射線科
5.「斜台から頭蓋内への進展を来した脳腫瘍の 1例」
名古屋医療センター 脳神経外科
6.「脳室腹腔シャントを介して腹腔内に転移した脳腫瘍の1例」
藤田保健衛生大学医学部 放射線医学
特別講演(16:10~ 17:10)
座長 名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻
高次医用科学講座 量子医学 教授 長縄慎二
河合信行 野田佳史 五島 聡 川田紘資 大野裕美 松尾政之
渡邉あゆみ 小森雅子 服部秀計 村山和宏 赤松北斗
竹中章倫 外山 宏
同 総合消化器外科
香川 幹 棚橋義直 加藤悠太郎 杉岡 篤
同 病理診断科
中川 満 浦野 誠 安倍雅人 黒田 誠
49
映像情報メディカル 2016年6月
雄山隆弘 高橋立夫 須崎法幸 大野真佐輔 浅井琢美
宮澤卓真 池澤瑞香
「拡散画像でわかること:これまでとこれから」
名古屋大学医学部附属病院 放射線科 病院准教授
田岡俊昭
第79回
東 海 総 合 画 像 医 学 研 究 会 講 演 論 文 集
成人期に診断された左室心筋緻密化障害の
○○○○○○○
2例
○○○○○ ○○○○/○○○○○ ○○○○/
○○○○○ ○○○○/○○○○○
○○○○
名古屋大学 ○○○○/○○○○○
放射線科
○○○○/○○○○/○○ ○/○○○○/○○○○/○○○○/
馬越弘泰/駒田智大/長縄慎二
○○○○/○○○○/○○○○/○○○○
はじめに
左室心筋緻密化障害
(Left Ventricular Noncompaction:
以下、LVNC)は左室壁の過剰な網目状の肉柱形成と
深い間隙を特徴とする心筋症の一種である 1)。最初の
報告は 1926 年と古くから知られている疾患であるが、
近 年 に お け る 原 因 遺 伝 子 の 同 定 や、2006 年 の
American Heart Association(AHA)の心筋症分類
への収載を通じて疾患の理解が深まっており、診断の
機会も増加している。今回、成人期に診断された
LVNC の症例を 2 例経験したので、画像的考察を含め
報告する。
症例 1(図 1)
【患者】30 歳代男性
【主訴】遷延する咳嗽
【現病歴】咳嗽にて近医を受診。肺炎・心不全の診
断を受け治療を開始するも通院を自己中断した。6ヵ
月後に咳嗽の遷延があり、近医を再診したところ心不
全が疑われ、当院へ紹介。
【既往歴】糖尿病(治療は drop out)
【家族歴】父:心不全・糖尿病、祖母:心不全、伯父:
急性心筋梗塞
【経過】
胸部写真では心拡大やうっ血性肺水腫、US では左
室腔の拡大とdiffuse severe hypokinesis を認め、左
室駆出率 18 .6%の高度心不全状態であった。さらに
US では心室側壁を主体に網目状の深い間隙構造や肥
大肉柱と思われる構造が認められ、収縮後期の非緻密
化層(NC)の厚さは 13 .7 mm、緻密化層(C)は 6 .2 mm
で NC:C 比は 2 .2 であった。これらの所見よりLVNC
が疑われた。心尖部には可動性のある類円形構造が見
られたが、USでは肉柱なのか血栓か判別できなかった。
心臓 MRI の cine 画像では緻密化障害様心筋が明瞭
に同定可能であり、拡張後期相でのNC:C比は 2.6(NC
= 18 mm、C = 7 mm)であった。US で見られた心尖
部の結節については、周囲の発達した肉柱と同様の信
号を呈しており、cine画像の多方向からの評価を併せ、
肉柱を斜めに切った断面を見ていた可能性が高いと考
えられた。
心不全や併存疾患に対して治療を行い、現在は通
院・内服治療継続中である。
症例 2(図 2)
【患者】60 歳代女性
【主訴】呼吸苦
【現病歴】10 日前からの呼吸苦症状にて近医を受診。
心不全が疑われ、当院紹介。
【既往歴・家族歴】特記事項はなし
【経過】
US で心拡大や壁運動低下が認められ、左室側壁に
緻密化障害様心筋が確認された。心尖部にはカラード
ップラ像で筋層の深い間隙内に迷入する血流が捉えら
れた。
心臓 MRI の cine 画像における拡張後期相の NC:C
比 は 2 . 5(NC = 20 mm、C = 8 mm)で、Dark-blood
STIR像では心筋内膜側の浮腫様の信号上昇を認めた。
以上の所見より、LVNC が疑われた。また、遅延造
影 MRI を撮像したところ、心室中隔に異常造影効果
を認めた。LVNC による心不全として治療が行われ、
症状は改善した。
Vol.48 No.6
50
a
b
a
b
c
d
c
d
図 1 図 2 心臓 MRIのcine 画像(a)
では厚い非緻密化心筋(*)
が明瞭
US の短軸像(a)、MRI の cine 画像(b)ともに緻密化障
に同定可能である。US にて認めた心尖部の結節構造(b)
害様の心筋(*)が同定でき、US のカラードップラ(c)で
は dark-blood STIR 像で周囲の肉柱と同様の信号を呈し
は心筋の間隙内に迷入する血流が捉えられた。遅延造影
(c)
、長軸像(d)での形態からも、肉柱の断面を見ている
MRI(d)では心室中隔に異常造影効果を認めた。
可能性が高いと考えられた。
考察
まとめ
LVNCは成人の心エコー施行例で 0 .014~1 .3%で見
られたとの報告があるが、正確な有病率は不明である 2)。
症状としては胸痛や心不全徴候、不整脈等が挙げられ
るが、非特異的かつ初期では無症状のことも多いとされ
ている 1)。予後を規定するのは心不全、塞栓症、致死性
進行性心不全を生じうる LVNC の診断には画像検
査による形態評価が重要であり、特に心臓 MRI は肉
柱と血栓の鑑別や、遅延造影による心筋障害の評価に
有用である。
不整脈とされ、心保護・抗凝固薬や植込み型除細動器
(ICD)等の管理や重篤な症例では心移植が考慮される 1)。
心電図所見は非特異的であることから、本疾患の
診断には左室壁の厚い非緻密化層とこれに随伴する筋
層内の深い間隙や肉柱構造を形態的に同定する画像検
査が重要である 2)。
US の診断基準の 1 例として、収縮期の短軸像にお
ける非緻密化層(NC):緻密化層(C)の比が 2 倍以上
などが提唱されている 3)。一方、近年普及している心
臓 MRI の cine 画像では緻密化障害心筋が明瞭に同定
でき、拡張後期での NC:C 比を 2 . 3 以上とした場合、
LVNC 診断の感度 86%、特異度 99%であったと報告
されている 4)。また、MRI は多方向からの客観的な形
態評価、所見が最も顕著な心尖部・後期拡張相の描出、
血栓と線維性組織(肉柱)の判別について US よりも優
れているとされる。また、遅延造影を呈する領域は
線維化を反映しており、心筋障害の程度の推定にも有
用との報告がある 5)。
51
映像情報メディカル 2016年6月
参考文献
1) Towbin JA et al: Left ventricular non-compaction
cardiomyopathy. Lancet 386(9995): 813-825, 2015
2) Zuccarino F et al: Left ventricular noncompaction:
imaging findings and diagnostic criteria. Am J
Roentgenol 204(5): 519-530, 2015
3) J e n n i R e t a l : E c h o c a r d i o g r a p h i c a n d
pathoanatomical characteristics of isolated left
ventricular non-compaction: a step towards
classification as a distinct cardiomyopathy. Heart
86(6): 666-671, 2001
4) Petersen SE et al: Left ventricular non-compaction:
insights from cardiovascular magnetic resonance
imaging. J Am Coll Cardiol 46(1): 101-105, 2005
5) Dodd JD et al: Quantification of left ventricular
noncompaction and trabecular delayed
hyperenhancement with cardiac MRI: correlation
with clinical severity. Am J Roentgenol 189 ( 4 ): 974 980, 2007
第79回
東 海 総 合 画 像 医 学 研 究 会 講 演 論 文 集
VP shunt 後に第 4 脳室拡大から
○○○○○○○
脊髄空洞症を呈した 1 例
○○○○○ ○○○○/○○○○○ ○○○○/
○○○○○ ○○○○/○○○○○
○○○○
春日井市民病院○○○○/○○○○○
脳神経外科
○○○○/○○○○/○○ ○/○○○○/○○○○/○○○○/
大塚崇史/林 重正/真宮 崇/内藤丈裕/桑山直人
○○○○/○○○○/○○○○/○○○○
11 歳女児。1 歳時に結核性髄膜炎による水頭症に対
し右脳室腹腔短絡術(中圧式)、6 歳児に成長に伴い、
腹腔側のシャント延長を受けている。10 歳時に頭痛
と易疲労感、頭部 MRI では軽度の第 4 脳室拡大と脊
髄空洞症を認めていた。腰痛と、左足関節背屈障害
に伴う歩行障害が急速に悪化し当科紹介、頭部 MRI
で中脳水道から第 4 脳室の高度拡大、脊髄 MRI で脊
髄空洞症は脊髄腰膨大にまで及んでいた(図 1、2)。
シャント造影でシャント開存を確認、IFVと診断し
た。側弯症の合併を認めたが、脊髄空洞症は IFV に
伴う一元的病態と判断した。
準緊急で神経内視鏡下に側脳室中脳水道経由の第 4
脳室腹腔短絡術を施行した。ナビゲーションシステム
を用い、モンロー孔、中脳水道が直線上に並ぶ位置
を穿頭部位とした。術前 MRI で中脳水道の膜様閉塞
を予測して中脳水道開窓術を準備したが、右側脳室前
角からビデオスコープを挿入し観察したところ、中脳
水道に明らかな閉塞は認めなかった(図 3 a)。マジェ
ンディ孔、ルシェカ孔周囲は血管新生を伴う膜が癒着
し、これらを閉塞していた(図 3 b)
。右側から内視鏡
で観察しつつ左側脳室前角より脳室側シャントチュー
図1
図2
はじめに
Isolated Fourth Ventricle(IFV):孤立性第 4 脳室
は、水頭症に対する VP shunt 後に発症する稀な病態
である。脊髄空洞症を合併した IFV 症例に対し神経
内視鏡下に側脳室前角から第 4 脳室腹腔内シャントを
施行し、良好な結果を得たので考察を交えて報告する。
症例
Vol.48 No.6
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図3
a:中脳水道、明らかな閉塞起点認めず。
b:マジェンディ、ルシェカ周囲は強く癒着
c:シャントチューブを中脳水道入口より 4cm進めて留置
ブを進め、中脳水道入口から第 4 脳室に 4 cm 挿入(図
3 c)し、圧可変式シャントバルブを介して腹腔側にシ
ャントを行った。術後 24 時間挿管下に管理した。術
直後より第 4 脳室が縮小することで、脳幹が後方へシ
フトし動眼神経が牽引されて両側瞳孔散瞳を認めた
が、翌日には消失した。術後 MRI で第 4 脳室は著明
に縮小し、脊髄空洞症も著明改善を得た(図 1、2)が、
同時に脊髄円錐が上方にシフトし神経が牽引されるこ
とにより、下肢の筋緊張亢進症状を呈した。術翌月
にはこれらの症状も改善傾向となり退院となった。
考察
IFV は水頭症シャント術後 2~3%に生じる稀な病
態である。脊髄空洞症の合併は過去に 2 例の報告があ
り、いずれも第 4 脳室シャント術により一元的に良好
な結果を得ている。
IFV の機序については、古典的に第 4 脳室出口部閉
塞に中脳水道の物理的閉塞(膜様閉塞など)あるいは
機能的閉塞(チェックバルブ機構など)が伴って生じ
ると説明されることが多いが、近年の画像技術や内視
鏡技術の発達により、今回の症例のように中脳水道が
53
映像情報メディカル 2016年6月
開存している IFV 症例の報告もあり、病態の解明が
期待される。
治療として、通常の側脳室へのシャント術や第 3 脳
室開窓術は無効で、脳室側シャントチューブを第 4 脳
室内に入れることが必要である。過去には小脳表面か
ら第 4 脳室にチューブを穿刺して行われることが多か
ったが、重篤な合併症としてチューブによる脳幹損
傷が報告されている。近年では、今回報告した神経
内視鏡による側脳室経由の治療報告が増えている。治
療成績は概ね良好で、今のところ重篤な合併症の報告
はない。この方法では中脳水道開通性の術前画像評価
がより重要となるが、これについては Cine MRI や
Time SLIP 法といった撮像法による、中脳水道にお
ける髄液動態評価の有効性が高いと考える。
まとめ
IFVは稀な病態であるが、シャント術を受けた患者
では、脊髄空洞症の合併も含めて念頭に置くべき疾患
である。IFV の画像評価においては、病態解明と治
療計画に中脳水道開通性の評価がより重要になると考
えられる。
第79回
東 海 総 合 画 像 医 学 研 究 会 講 演 論 文 集
拡散画像でわかること:これまでとこれから
○○○○○○○
○○○○○ ○○○○/○○○○○ ○○○○/
○○○○○ ○○○○/○○○○○
○○○○/○○○○○
○○○○
名古屋大学附属病院
放射線科
○○○○/○○○○/○○ ○/○○○○/○○○○/○○○○/
田岡俊昭
○○○○/○○○○/○○○○/○○○○
拡散画像の進歩
「自由水での拡散現象は個々の水分子の不規則な運
動(ランダムウォーク)によってもたらされている」と
いう知見は今日の拡散画像の基礎といえるが、これは
1905 年のアインシュタインの論文で記述された 1)。こ
の論文では、分子の位置の二乗平均が拡散時間に比例
するとしている。生体内の拡散現象を磁気共鳴の手法
を 用 い て 観 察 す る 手 法 は、1965 年 にStajskalと
Tanner によって報告された 2)。これを臨床での MR
画像に応用したのは LeBihan らであり 3)、拡散強調の
た め の 傾 斜 磁 場 で あ る 一 対 のMotion proving
gradient(MPG)を加えることで、拡散の状態を評価
するこの手法は、今日の拡散画像の基礎となっている。
拡散強調像
拡散強調像は、元画像に MPG を印加することで、
拡散の成分を描出する。拡散強調像の臨床応用として、
急性期脳梗塞での高信号が広く用いられている 4)。高
信号は梗塞を来した組織で初期にみられる細胞の膨化
により細胞外の拡散運動が制限されることが原因とさ
れている。Stajskal と Tanner の手法によって得られ
る拡散係数は組織の真の拡散係数とは異なり、生体で
の測定では、灌流などの要因の影響を受けていることか
ら、みかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:
ADC)といわれ、その画像はADC画像と呼ばれる。
拡散テンソル画像
生体内では水分子の拡散はすべての方向に均等なの
ではなく、細胞膜などの構造により、方向による拡
散の速さの違いが生じ、異方性拡散と呼ばれる状態と
なる。これを解析するにはテンソルという概念が必要
となる。拡散テンソル画像でえられる拡散楕円体の性
状を評価する指標として、上述の ADC と拡散異方性
(Fractional anisotropy:FA)が用いられることが多
い。拡散テンソルから神経線維の走行を推定しようと
する方法が拡散テンソルトラクトグラフィである。上
記の固有ベクトルの主軸の方向は、白質内の神経線維
の走向の方向と合致すると仮定して、ボクセルごとに
算出された主軸の方向をトレースすることで、仮想の
線維の走向を描出しようとする手法である。
非正規分布拡散画像
拡散テンソル法は、
「拡散は正規分布に従う」という
前提に基づく。だが、生体内には複雑な壁構造があり、
複数のコンパートメントが存在するため、正規分布モ
デルによる近似には限界がある。これを克服するため
には、正規分布で近似できない水分子の詳細な確率分
布を評価する手法が必要である。そのような手法は非
正規分布拡散画像と呼ばれ、その 1 つに QSI(q-space
imaging)がある。QSI では、さまざまな MPG の強さ
で速い拡散から遅い拡散までの情報を収集し、拡散の
状 態 を 確 率 分 布 関 数(PDF:Probability density
function)の形で表現する。QSI の問題点として、撮
像時間が長いという点があり、それ解決する手法とし
て、拡散尖度画像がある。尖度は正規分布からの逸
脱をみる統計量であり、尖度が高い、つまり正規分
布からのずれが大きいほど、組織の構造や細胞内の構
造などにより拡散分布の多様性が増していることが示
される。ただ、その意味するものは具体的には明ら
かになっていない。このことに対する解決法の1つが
Neurite orientation dispersion and density imaging
(NODDI)と呼ばれる画像法である 5)。この手法はワ
トソン分布という数理モデルを用いて、脳内の微細構
Vol.48 No.6
54
図 1 良性神経膠腫の拡散尖度画像
図 2 悪性神経膠腫の拡散尖度画像
30 代女性:びまん性星細胞腫。
70 代男性:多形膠芽腫。
T2 強調像、造影MRI、ADC画像と拡散尖度画像を示す。Krad(線
T2 強調像、造影 MRI、ADC 画像と拡散尖度画像を示す。腫瘍
維の走行方向と直交する方向の拡散尖度画像)
、Kax(線維の走行
のサイズは比較的小さいが、Krad、Kax ともに周囲の正常脳組
方向の拡散尖度画像)
ともに周囲の正常脳組織と比較して低い拡散
織と比較して高い拡散尖度を示し、組織の拡散の状態が不均一、
尖度を示し、組織の拡散の状態が比較的均一となっていることが
かつ多様になっていることが示唆される。
示唆される。
おわりに
拡散画像は早期梗塞の検出など今日の神経系の臨床
にとってなくてはならないツールであるとともに、脳
の微細形態を探求するためのツールとしても強力であ
る。撮像時間の短縮に関する技術が進歩しており、
現在最先端とされている技術が、比較的近い将来に臨
床の場でも用いることができるようになるものと思わ
れる。
参考文献
1) Einstein A: Über die von der molekularkinetischen
Theorie der Wärme geforderte Bewegung von in
図3 良性神経膠腫の拡散尖度画像
ruhenden Flüssigkeiten suspendierten Teilchen.
20代女性:Dysembryoplastic neuroepithelial tumour(DNT)
。
Annalen der Physik(Germany) 17: 549-560, 1905
FLAIR 画 像 と NODDI で 得 ら れ る Orientation dispersion
2) Stejskal EO et al: Spin Diffusion Measurements: Spin
index(ODI)画像(神経突起すなわち軸索と樹状突起の方向のば
Echoes in the Presence of a Time-Dependent Field
らつきの程度を示す)、intra-cellular volume fraction(ficvf)
画 像(神 経 突 起 の 密 度 を 示 す )お よ び isotropic volume
fraction(fiso)画像(自由拡散する水の分画を示す)の 3 種類の
画像を示す。FLAIR で見られる異常信号の範囲よりも ficvf 画像
での神経突起密度の低下を示す領域の範囲が広いことに注目さ
れたい。
造を多コンパートメントモデルで解析しようとする非
正規分布拡散画像の後処理の手法である。NODDI で
は脳内の各ボクセルの拡散を、細胞内の制限拡散、
細胞間の束縛拡散、そして脳脊髄液成分の自由拡散の
3 つのコンパートメントに分けて、それらの各成分に
よる拡散画像の信号への寄与の比率を算出する(図 1
~3)
。
55
映像情報メディカル 2016年6月
Gradient. The Journal of Chemical Physics 42 : 288 292, 1965
3) Le Bihan D et al: MR imaging of intravoxel
incoherent motions: application to diffusion and
perfusion in neurologic disorders. Radiology 161 ( 2 ):
401-407, 1986
4) Moseley ME et al: Diffusion-weighted MR imaging
of acute stroke: correlation with T 2 -weighted and
magnetic susceptibility-enhanced MR imaging in
cats. AJNR Am J Neuroradiol. 11(3): 423-429, 1990
5) Zhang H et al: NODDI: practical in vivo neurite
orientation dispersion and density imaging of the
human brain. NeuroImage 61(4): 1000-1016, 2012