雇用労働関係法令のPDFファイル

国名:アラブ首長国連邦 (調査大項目 1:雇用労働関係法令)
作成年月日:2008 年 7 月 31 日
1.1
雇用労働関係法令一覧
UAE の労働関連事項は、
「連邦法第 8 号<1980 年>」
(連邦法第 24 号<1981 年>、
第 15 号<1985 年>、第 12 号<1986 年>にて修正され、以下労働関係法とする)
によって規定されている。また、「ジュベル・アリ・フリーゾーン」のような経済
特区にのみ適用される特別法もある。
労働社会省の管轄下にある UAE の労働関係法は、ILO(International Labour
Organization:国際労働機関)モデルを基本としている。労働関係法は、「連邦法
第 12 号<1986 年>(労働法)」で修正されているが、労働時間、休暇、退職、医
療保障、本国送還等、労働者と雇用者の関係に関わるほとんどの事項を定めている。
労働法は基本的に労働者保護のために設けられており、ほかの政府機関の管轄権の
下に結ばれた契約条項に対し、それが労働者にとって不利にならない限りにおいて
優先する。労働社会省は労働契約モデルをアラビア語で作成しており、広く活用さ
れている。もちろん、労働法に則っている限り、ほかの形式の契約書であっても有
効である。労働契約終了時の退職手当は、最初の 5 年間は労働期間 1 年につき 21
日相当分、その後は 1 年につき 30 日相当分の賃金で計算されるが、総額では 2 年
分の賃金が上限である。1 年以上勤務した労働者は、1 年未満の労働期間に対して
日割り計算で退職金を受け取る権利がある。
1.2
労働基準関係法令
1.2.1
労働契約
労働者が UAE に入国する時点で、雇用者との間に労働契約が締結されている必
要がある。労働契約書はアラビア語で作成され、英語が併記されることもある。
労働契約書は 3 部作成し、労働者と雇用者が各 1 部保有し、管轄労働監督局が 1
部を保管する。労働者は労働契約の期間を通じて、契約書を保管していなけれ
ばならない。労働契約書の記載には、下記の事項を含むものとし、労働監督部
局は、労働契約書の内容を検証し認証する。
・
契約開始日
・
雇用の形態
・
勤務地
・
雇用条件
・
雇用期間
・
賃金
【労働者カード】
雇用者は、労働者の UAE 到着後 60 日以内に労働者カードを取得しなければな
らない。雇用者が法定期間内に労働者カードを取得できない場合、罰金を科さ
れる。この場合、当該労働者は外国人雇用法に違反して勤務していることにな
るので、雇用者に対し必要な措置が取られるよう管轄労働監督局に報告すべき
である。労働者は雇用目的に対応できる健康状態であり、病気にかかっていて
はならない。個々の労働者の健康状態について、UAE の医療機関から発行され
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国名:アラブ首長国連邦 (調査大項目 1:雇用労働関係法令)
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る診断書によって示される。
労働者カードは 3 年間有効である。雇用者と労働者双方の合意により、有効期
限から 60 日以内に手続きをすれば、さらに 3 年間延長することができる。60
日を超過すると延長はできないが、雇用者がしかるべき遅延の理由をつけて労
働社会省に申請し、それが認められた場合は、罰金を支払うことにより労働者
カードは延長される。労働者は、労働者カードの有効期限終了後に働くことは
できない。
労働者カードの更新の遅れにより被害を受けるのは労働者であり、雇用関係が
継続されているのであれば、労働者は雇用者に対して労働者カードの更新を督
促するべきである。それでも雇用者が労働カードの更新を行わない場合は、労
働者は管轄労働監督局に報告すべきである。雇用契約及び労働者カードの場合
の罰金と同様に、労働者カード取得及び更新の遅延に関する罰金も雇用者負担
である。UAE 内では、労働者は常に労働者カードを携行しなければならない。
1.2.2
解雇規則
・
労働法
第5条
本法に基づいて労働者もしくは労働者の関係者が起こした訴訟では、すべ
ての訴訟及びその執行に関わる法廷費用は免除され、裁判は迅速に行われ
なければならない。訴訟が却下もしくは棄却された場合は、裁判所は原告
に法定費用の全額もしくは一部の支払いを命じる場合がある。
・
労働法
第 90 条
本法で定められた雇用者が労働者を事前通知又は退職金の支払いの義務を
負わずに解雇できる場合を除き、雇用者は労働者が本法に定められた休暇
期間中に、解雇もしくは解雇を通知することはできない。
・
労働法
第 102 条
労働者の規則違反に対して、雇用者もしくはその代理人が労働者に対して
行うことができる処分は、次のとおりである。
(a)
警告
(b)
罰金
(c)
10 日以内の給与の減額を伴う停職
(d)
定期的な手当がある場合は、その停止もしくは支払延期
(e)
昇進制度がある場合は、その停止
(f)
退職手当の支払いを伴う解雇
(g)
退職手当の全額もしくは一部の支払いをせずに解雇。この場合は、本
法第 120 条に明記されている事由が必要となる。
・
労働法
第 159 条
調停委員会における労働者側の代表者は、雇用契約の解消もしくは解雇さ
れても、労働者側がほかの代表者を選出しない限り、仲裁委員会でその責
務を遂行することを妨げられない。
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1.2.3
賃金、労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、時間外及び休日労働、時間外の
割増賃金
【労働時間】
通常の最大労働時間は 1 日 8 時間、週 48 時間である。ただし、小売業、ホテル、
レストラン及びそれらに類する職場で働く労働者の場合は、1 日 9 時間まで延長
可能である。また、困難又は危険な業務に従事する場合は、1 日の労働時間を短
縮することができる。
多くの企業は、勤務時間を午前 8 時から午後 1 時までと午後 4 時から午後 7 時
までのように 2 部制にしている。商業及び専門的な職業では、週 40∼45 時間勤
務が一般的で、政府の省庁では通常約 35 時間の勤務である。
金曜日はほかの多くのイスラム教国と同じく休日である。事務所等が非営業と
なる週末は、従来木曜日の午後及び金曜日(政府関係では木・金曜日)であっ
たが、金・土曜日を休日とする週 5 日勤務制を採用する企業が多くなっている。
ラマダン期間中の勤務時間は、1 日当たり 2 時間短縮される。
【休日】
毎年 10 日間の有給の公休日がある。6 カ月以上かつ 1 年未満勤務の労働者は、
1 月当たり 2 日の計算で年次休暇が取得できる。2 年目以降は年 30 日の有給年
次休暇の権利がある。この年次休暇は公休日、女性の出産休暇、疾病による休
暇以外に取得できる休暇である。時間外勤務は普通に行われており、一般の職
員、肉体労働者には追加賃金の支払いが必要である。イスラムの公休日は、太
陽暦より年間約 13 日短いイスラム暦に従って決められる。
・
労働法
第 35 条
雇用契約書は、本法第 2 条(アラビア語使用)の規定に従った上で 2 通作
成し、1 通は労働者が保有し、ほかの 1 通は雇用者が保有する。書面によ
る契約書がない場合、適切と認められる証拠があれば、契約と認められる
可能性もある。
・
労働法
第 36 条
労働契約書は、契約日、勤務開始日、職種、勤務場所、契約期間及び(決
まっている場合は)賃金の額を記載しなければならない。
・
労働法
第 37 条
6 カ月を超えない期間であれば試験雇用が認められる。試験雇用期間内で
あれば、雇用者は事前通告及び解雇手当の義務を負わずに雇用関係を終了
することができる。同じ労働者と雇用者間で試用期間が認められるのは 1
回のみである。試用期間が終了し、そのまま継続して雇用される労働者の
試用期間は勤務期間に算入される。
・
労働法
第 38 条
雇用契約書では勤務期間を定めても、定めなくてもよい。期間を定める場
合は最長で 4 年間であるが、当事者双方が合意すれば、4 年以内の延長が
できる。雇用契約が延長された場合は原契約の延長とみなされ、労働者の
累計勤務期間に加算される。
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・
労働法
第 39 条
労働契約書は、下記の場合においてのみ期間の定めがないものとみなされ
る。
(a)
記載がない場合
(b)
不特定の期間で合意された場合
(c)
原契約では期間が定められていたが、期間終了後も、書面での確認の
ないまま勤務を継続していた場合
(d)
原契約は期間の定めのない、もしくは繰り返し発生する特定の業務の
遂行を目的として締結されたが、その業務終了後も契約が継続してい
る場合
・
労働法
第 40 条
契約期間終了もしくは契約業務終了後も、契約当事者双方が明確な合意な
しに契約内容を継続している場合は、原契約条件が期間の部分を除いて継
続されているとみなされる。
・
労働法
第 41 条
雇用者が業務の一部を第三者に委託した場合、委託された第三者はその業
務に従事している労働者の権利に対し、労働契約法に定められた範囲で全
面的な責任を有する。
【賃金】
・
労働法
第 55 条
賃金は、営業日に勤務地において法定通貨で支払われなければならない。
・
労働法
第 56 条
月額報酬制もしくは年俸制の労働者には、月 1 回以上の賃金支給がなされ
る。その他の労働者は、最低 2 週間ごとに 1 回の賃金支給を受ける。
・
労働法
第 57 条
不定期労働者の日当は、契約終了前 6 カ月間の実動日の平均賃金と同等の
金額として計算する。
・
労働法
第 58 条
労働者に対する賃金支払いの証明は、金額その他には関係なく、書面によ
る証書、承認及び確認でなければならない。これに反するいかなる取り決
めも、作成時期に関わらず無効である。
・
労働法
第 59 条
労働者は、食料及びその他の商品について、特定の商店及び雇用者の製品
の購入を強制されることはない。
・
労働法
第 60 条
労働者の賃金は、次の事由によるものを除き、私的な請求に基づいて減額
されることはない。
(a)
貸付金もしくは前払い金の返済、ただし賃金の 10%以内に限る。
(b)
社会保障費、社会保険料等、法律で賃金から徴収することが定められ
ているもの。
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(c)
準備金積立の労働者の分担金及びその積み立てのための借入金の返
済。
(d)
労働監督局に承認されている雇用者による福祉厚生計画及びその他
の特典等の分担金。
(e)
違反行為に対する罰金。
(f)
裁判所の判決の執行に関わる取り立て。ただし、賃金の 4 分の 1 を
超えない範囲とする。複数の債務又は債権者がある場合には、法定賃
金の 4 分の 1 以内の生活費を差し引いて、賃金の 50%を超えない範
囲で、債権比率で債権者に分配されるものとする。
・
労働法
第 61 条
労働者が過失又は雇用者の指示に従わなかったために生じた損失、雇用者
に帰属する工具類、機械類、製品及び原材料に与えた損害に対して、雇用
者は 1 カ月に月額賃金の 5 日分を超えない範囲で、修理及び修復に必要な
金額を賃金から差し引くことができる。労働者に支払い能力がある場合に
は、管轄労働監督局を通じて裁判所の許可を得た上で、前記上限を超えて
差し引くことも可能である。
1.2.4
年少者、女性、労働安全衛生、アウトソーシング(委託業務や派遣労働)
【年少者の雇用】
・
労働法
第 20 条
15 歳未満の年少者の雇用は禁止されている。
・
労働法
第 21 条
年少者を雇用する前に雇用者は、下記の書類を取得し、個人ファイルに保
管しなければならない。
(a)
出生証明書、その抄本、あるいは医師が作成した上でしかるべき厚生
当局が証明している年齢証明書。
(b)
業務従事が可能であることを示す、医師が作成しかつ有効な健康診断
証明書。
(c)
・
保護者もしくは被信託人の書面による承諾書。
労働法
第 22 条
雇用者は年少者用の記録簿を作成し、その中にすべての年少者の名前、年
齢、住所、保護者もしくは被信託人の姓名、雇用開始日、従事する業務を
記録し、年少者が勤務する職場に保管しなければならない。
・
労働関係法
第 23 条
年少者の夜間労働は認められない。夜間とは、夜 8 時から朝 6 時までを含
む連続 12 時間以上の時間を意味する。
・
労働法
第 24 条
労働社会省が専門家の意見を聴取した上で規定する、危険あるいは健康に
悪影響を与える業務に年少者を従事させることはできない。
・
労働法
第 25 条
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年少者の労働時間は 1 日 6 時間以内とし、食事及び祈祷のために 1 回以上
合計 1 時間以上の休憩を付与しなければならない。年少者が 4 時間以上連
続して労働することがないように休憩時間を設けなければならない。年少
労働者は、勤務する職場に連続して 7 時間以上留まることはできない。
・
労働法
第 26 条
いかなる理由であろうとも、年少労働者に時間外勤務させること、定めら
れた労働時間を越えて勤務する職場に留まること、あるいは休日勤務をさ
せることはできない。
【女性の雇用】
・
労働法
第 27 条
女性の夜間労働は認められない。夜間とは、夜 10 時から朝 7 時までを含
む連続 11 時間以上の時間を意味する。
・
労働法
第 28 条
女性の夜間労働の禁止は、次の事項に該当する場合には適用されない。
(a)
不可抗力による業務の混乱時。
(b)
幹部管理者もしくは技能労働者。
(c)
労働社会省令により指定される医療従事者等の特殊な分野で、通常女
性は肉体労働には関与しない業務。
・
労働法
第 29 条
女性を危険、非常に厳しい業務、肉体的又は精神的に有害な業務、労働社
会省が専門機関に諮った上で指定する業務に従事させることはできない。
・
労働法
第 30 条
1 年以上連続して勤務している女性は、産前・産後を含め 45 日間の出産休
暇を取得する権利を有する。この期間の賃金は満額支払われる。勤務期間
が 1 年未満の場合は、支払われる賃金は半額となる。
出産休暇をすべて取得した後であっても、妊娠又は出産に起因する疾病の
ため勤務に復帰することが困難な場合は、連続、不連続を問わず最長 100
日間の無給の休暇を取得することができる。この場合、認定病院もしくは
適格医療機関による疾病の原因が妊娠もしくは出産であるという証明書が
必要となる。
上記の 2 つの休暇の取得は、ほかの休暇日数を減じるものではない。
・
労働法
第 31 条
自分の子供の育児に携わる女性労働者は、出産後 18 カ月間は、前述の休
暇に加えて、毎日 2 回(1 回につき 30 分以内)の育児のための休憩時間を
取ることができる。この 1 日 2 回の休憩時間は勤務時間とみなされ、賃金
から差し引かれるものではない。
・
労働法
第 32 条
女性労働者の賃金は、同等の業務を行う男性労働者雇用者の賃金と同等で
なければならない。
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1.2.5
就業規則、労働協約
【スポンサーの変更】
外国人労働者もしくは被雇用者は、自分の雇用者からほかの雇用者にスポンサ
ーを変更することはできない。ただし、下記の条件を満たす場合は、スポンサ
ーの変更が可能である。
(1)
下記のいずれかの職種であること
・
技術者。
・
医者、薬剤師、看護師。
・
大学卒業以上の学位を持つ専門家。
・
法律コンサルタント、経済専門家、財務専門家、経営幹部。
・
大学で専門学位を取得したコンピュータ及び情報システム・アナリス
ト、プログラマー。
(2)
・
石油・ガスの開発及び関連する専門家、技術者。
・
各種スポーツのコーチ。
・
その他労働社会省が許可するもの。
スポンサー変更許可に必要な条件
・
労働者もしくは被雇用者が、元のスポンサーの場合と同じ職種に新た
なスポンサーの下で従事すること。
・
労働者もしくは被雇用者が、有効な居住ビザを保有していること。
・
労働者もしくは被雇用者が、前雇用者の下で 2 年以上勤務している
こと。
・
労働者もしくは被雇用者が、2 年経過後スポンサーからビザ変更の許
可を得ていること。
・
UAE もしくは GCC(Gulf Cooperation Council:湾岸諸国会議)参
加国の国民が、ビザ変更対象の業務の従事希望者として、関係当局に
登録していないこと。
1.3
労使関係法令
1.3.1
労働組合
労働組合は、UAE では明示的に禁止はされていないが、現実には存在しない。
ストライキ及びロックアウトは、産業、経済に影響を与えるものとして完全に
禁止されている。ストライキ及びロックアウトだけでなく、雇用者及びストラ
イキに参加しない労働者に対する攻撃的な行為も禁止されている。雇用者と労
働者全員、もしくは一部の労働者の間に集団的な紛争がある場合は、労働者は
書面で労働社会省に申し立てる。労働社会省は、しかるべく選出された調停委
員会を通じて事態の解決を図る。調停委員会は、申し立てから 2 週間以内に委
員の多数決により裁定を下す。当事者双方が調停委員会の裁定に不服である場
合は、最高調停委員会に上訴することができる。最高調停員会は裁判所と同等
の権限を有し、委員のうち 1 人は UAE の連邦最高裁判所の裁判官でなければな
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らない。裁判所が集団的労働紛争を取り上げることは、非常にまれで特殊な場
合のみである。
1.3.2
労働争議解決システムに関する法令
労働法は連邦法であり、UAE のすべての首長国に適用され、労働社会省により
施行される。労働関係の訴訟は UAE の連邦もしくは地方裁判所で裁かれるが、
すべての労働関係の紛争は最初に労働社会省で審理される。労働社会省の裁定
に当事者である労働者及び雇用者のどちらか一方でも不満足であり、合意でき
ない場合は、労働社会省はその不服表明されてから 2 週間以内に、当該事案を
裁判所に送致する。この後は、労働者、雇用者ともに裁判所と直接に接触する
ことができる。
1.4
労働保険関係法令
1.4.1
労働者災害補償保険
【労働傷害に対する補償】
・
労働法
第 142 条
業務に関連して、労働法付表 1 及び 2 に記載されている傷害、職業病が発
生した場合、雇用者もしくはその代理人は遅滞なく警察、労働監督局もし
くは管轄の労働監督局地方事務所に報告しなければならない。報告書には
雇用者の名前、年齢、職業、住所、事故の概要、状況、治療法について記
載されなければならない。報告を受けた警察は必要な調査を行い、目撃者、
雇用者もしくはその代理人、
(可能であれば)けが人の証言及び事故が業務
に関連するものか、故意もしくは労働者の規則違反、怠慢によるものか等
についての所見を含む報告書を作成する。
・
労働法
第 143 条
警察は調査終了後、報告書を労働監督局及び雇用者にそれぞれ 1 通ずつ送
付する。労働監督局は、必要であれば警察に追加調査を依頼するか、自ら
追加調査を行うことができる。
・
労働法
第 144 条
労働者が業務に関連して傷害、職業病の被害にあった場合、雇用者はその
傷害もしくは職業病の患者が、公的もしくは民間の医療施設で完治あるい
は身体障害者と認定されるまでの治療費を負担する。治療費には入院費、
療養所の滞在費、手術費用、X 線検査及び診断費、薬及びリハビリ器具の
購入費用等が含まれる。また、身体障害者と認定された場合は、義手、義
足等の人工的な補助器具の費用も含まれる。上記に加え、雇用者は治療の
ために必要な交通費も支給する。
・
労働法
第 145 条
労働者が傷害により業務を遂行できない場合、治療期間もしくは 6 カ月間
のいずれか短い期間について、雇用者は賃金の全額相当の手当を現金で支
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払う。治療期間が 6 カ月を超える場合、次の 6 カ月経過、身体障害者認定、
もしくは本人の死亡のうちいずれかが最初に発生するまで賃金の 2 分の 1
の手当が支給される。
・
労働法
第 146 条
前項に述べられている手当は、月給、週給、日給又は時間給労働者の場合、
直前に受け取った賃金から計算され、不定期労働者の場合は、本法第 57
条に記載されている平均日給を基準に計算される。
・
労働法
第 147 条
治療の終了時に医師は報告書を 2 通作成し、1 通を労働者に、ほかの 1 通
を雇用者に配布する。報告書には、傷害の性質、原因、発生日時、業務と
の関連性、治療期間、傷害の影響が永続的もしくは身体障害者と認定され
るか、また、身体障害者と認定されるのであればその程度、全面的な障害
か一部分であるか、障害を持った労働者が職場復帰可能であるかについて
記載されなければならない。
・
労働法
第 148 条
労働者の業務に関わる肉体的な適合性、傷害の等級、その他傷害もしくは
治療に関連して意見の相違がある場合は、管轄労働監督局を通じて、保健
省の意見を求めなければならない。異議の申し立てがあった場合、保健省
は政府の医療官僚 3 名から成る医療委員会を設置し、当該労働者の医学的
見地からの雇用適合性、障害の等級等、その他傷害及び治療に関連する事
項を裁定する。医療委員会は必要と判断すれば、専門家の意見を求めるこ
とができる。医療委員会の決定は変更されることはなく、その決定は必要
な処置がとられ、労働監督局に通知される。
・
労働法
第 149 条
労働者が業務に関連した傷害もしくは職業病により死亡した場合、労働者
の家族は基本賃金の 24 カ月相当、かつ 18,000 ディルハム1以上、35,000
ディルハム以下の範囲内で補償を受けることができる。補償金の額は、そ
の労働者が死亡前の最後に受け取った賃金を基準に計算される。補償金は、
当該労働者の扶養家族に本法付表 3 の規定に従って分配される。本項でい
う“当該労働者の扶養家族”とは、労働者の死亡時にその労働者の収入に
生計の全部もしくは大部分を依存していた下記の者をいう。
(a)
配偶者(複数もある)。
(b)
次の条件に該当する子供。
(i)
息子:17 歳以下の者、24 歳以下の在学中の学生及び精神もし
くは肉体的障害があり、自分の生活費を稼ぐ能力に欠けるも
の。ここでいう“息子”とは、配偶者の義理の息子で、当該
労働者の死亡時にその労働者に生計を依存していた者も含む。
(ii)
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未婚の娘:配偶者の義理の娘で未婚、かつ当該労働者の死亡
1 ディルハム=29.18 円(2008 年 7 月 31 日現在)
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作成年月日:2008 年 7 月 31 日
時にその労働者に生計を依存していた者も含む。
・
(c)
両親
(d)
兄弟、姉妹:ただし、上記の息子及び娘と同じ条件である。
労働法
第 150 条
労働者が業務に関連して受けた傷害、職業病で、半永久的に部分的身体障
害者となった場合、前項の最初の段落で述べられている死亡時の補償金に、
本法の 2 つの付表の掛け率で計算された補償を受けることができる。
・
労働法
第 151 条
半永久的に全身障害者となった労働者は、死亡時と同等の補償を受けるこ
とができる。
・
労働法
第 152 条
労働社会省は必要であれば、保健省の同意を得た上で、職業病及び身体障
害補償査定に関する本法の付表 1 及び 2 を改定することができる。
・
労働法
第 153 条
傷害や致命的には至らなかった身体的障害を受けた労働者であっても、管
轄当局の調査で下記の事項に該当した者は、補償を受けることはできない。
また、雇用者は労働者に対して治療を受けさせる義務を負わず、いかなる
手当の支払い義務もない。
(a)
自殺、補償金の受け取り、傷病休暇の取得、その他の目的で、故意に
自分を傷つけた場合。
(b)
事故発生時に麻薬を服用もしくは飲酒していた場合。
(c)
職場に明確に掲示されている安全に関する指示に故意に従わなかっ
た場合。
(d)
傷害もしくは障害が悪質な故意の規則違反、怠業の結果であった場
合。
(e)
正当な理由なく医療検査証明を提出したり、第 148 条の医療委員会
が指示した治療を受けたりすることを拒否した場合。
1.4.2
雇用保険
外国人労働者には適用されない。
1.4.3
健康保険
【労働者の安全、保護、健康、社会保障】
・
労働法
第 91 条
すべての雇用者は、労働者に勤務中の傷害、疾病、また職場での機器の使
用による火災等の危険が及ばないように安全管理上適切な措置を施さなけ
ればならない。雇用者は、労働社会省の指示、その他すべての安全対策を
行わなければならない。すべての労働者は、安全のために支給される保護
帽、保護服を着用し、雇用者の安全対策の指示を順守し、安全対策指示が
実行されるのを妨げてはならない。
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・
労働法
第 92 条
すべての雇用者は、火災の予防措置及び勤務中に発生する可能性のある危
険から労働者を保護するための詳細な指示を職場の分かりやすい場所に表
示しなければならない。表示される指示は、アラビア語及び労働者が理解
できるほかの言語を使用するものとする。
・
労働法
第 93 条
すべての雇用者は、労働社会省が指示する包帯、消毒薬等及びほかの救急
医療品の入った救急箱を 1 つ以上設置しなければならない。救急箱は労働
者 100 人につき 1 個の割合で、分かりやすく手の届きやすい場所に置き、
救急医療担当者が管理する。
・
労働法
第 94 条
雇用者は職場を清潔で通気性の良い環境に置き、適切な照明、飲料水及び
トイレを備えたものにしなければならない。この項の規定は、ほかの法律、
省庁の指示の効力を侵害するものではない。
・
労働法
第 95 条
雇用者は 1 人以上の医師に依頼して本法の付表に記載されている職業病の
危険がある労働者の医療検査を 6 カ月以内の間隔で定期的に実施しなけれ
ばならない。医療検査の結果は、雇用者が保管すると同時に労働者の個人
ファイルにも保管される。医師は適切な検査の結果、労働者に職業病が発
生している場合、またその結果死亡したことが確認された場合、直ちに雇
用者及び労働監督局に報告しなければならない。雇用者は、それを受けて
事実関係を労働監督局に報告しなければならない。
定期医療検査を行う医師は、職業病の懸念のある職場で働く労働者の状態
に懸念があると判断した場合、本項に記載された期間よりも短い間隔で再
検査を受けることを指示することができる。
・
労働法
第 96 条
雇用者は、労働社会省が保健省と共同で定める水準の医療設備を備えなけ
ればならない。
・
労働法
第 97 条
労働社会省は、保健省と協議し、労働者を雇用しているすべての会社に適
用される安全対策、照明、換気、調理場、飲料及び洗浄水の供給、ほこり、
空気中の汚染物質の排除、火事及び電気系統の事故の予防に関する指示を
通達することができる。
・
労働法
第 98 条
雇用者もしくはその代理人は、採用時に労働者が関わる業務上の危険要素、
必要な予防措置をすべての労働者に知らせなければならない。また、同様
の詳細な指示を書面にして職場に掲示しなければならない。
・
労働法
第 99 条
雇用者とその代理人、また雇用者に対して監督権限を持つ者が、職場で飲
酒することを目的として酒類を持ち込む、もしくは持ち込むことを許可す
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ることは違法行為となる。同じく、酩酊状態で構内に入ることもしくは留
まることを許可することも違法である。
・
労働法
第 100 条
すべての労働者は、産業事故防止・安全対策に関する指示及び命令に従い、
適正な防護器具を使用し、自己が保管する防護器具を十分な注意を払って
扱わなければならない。労働者は事故防止・安全対策の指示に反する行為
をしてはならず、労働者の衛生・安全保護の目的で支給された器具を誤用、
破損、破壊してはならない。雇用者は前述の規定に違反する労働者に対し、
罰則規定を設けることができる。
・
労働法
第 101 条
都市部から離れ、通常の交通機関の利用できない地域で労働者を勤務させ
るすべての雇用者は、下記の便益を与えなければならない。
・
適正な交通手段。
・
適正な住居。
・
飲料水。
・
十分な食料。
・
救急医療設備。
・
娯楽、運動設備。
労働社会省は本項の一部もしくは全部が適用される地域を特定する。上記
の便益に関わる費用は、食料の支給を除きすべて雇用者の負担であり、労
働者に請求してはならない。
【年金】
1999 年から、民間企業で働く UAE 国民も政府機関で働く UAE 国民と同様の社
会保障及び年金制度が適用されることになった。政府は民間企業の優遇策を通
じて、国民の非政府関連での就業がより魅力的になることを期待しており、そ
れによって労働力の UAE 国民化を加速したいと考えている。1999 年 5 月に民
間企業にも適用されることになった国民年金及び社会保障計画では、この計画
に参画する国民には退職給付、障害者給付、死亡補償等の資格が与えられる。
現在の政府職員に与えられている退職時の特典は、新制度に移行される。
GAPSS(The General Authority for Pensions and Social Security:年金社会
保障庁)が雇用者及び労働者の社会保障プログラムのために設立された。政府
は 1998 年の予算から資本金として 5 億ディルハムを拠出し、GAPSS は投資会
社として 1998 年 12 月 15 日から発足した。
「連邦法 1999 年第 7 号、年金・社会保険法」は、公的部門・民間部門両方の
UAE 国籍の労働者を対象としている。同法は、ほかの条項とともに労働者及び
雇用者が負担する GAPSS の保険料についても規定している。公的部門の労働者
の場合、労働者は対象給与の 5%相当を負担し、雇用者は 15%を負担する。民間
部門の場合は、政府が雇用者負担の 15%のうち 2.5%分を負担する。
年金・社会保険法は、対象となる UAE 国民が 60 歳の停年に達したときの年金、
労働者が身体障害者となり働けなくなった場合の障害者年金の金額についても
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国名:アラブ首長国連邦 (調査大項目 1:雇用労働関係法令)
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規定している。同法は年金加入者の死亡時の補償についても規定している。
【退職手当】
・
労働法
第 132 条
1 年以上継続して勤務した労働者は、雇用の終了時に退職手当を支給され
る。無給の休暇は、勤務期間には含まれない。退職手当の計算方法は次の
とおりである。
(a)
最初の 5 年間については、1 年につき 21 日分の賃金。
(b)
6 年目以降は、1 年につき 30 日分の賃金、ただし退職手当の総額は 2
年分の賃金を超えないものとする。
・
労働法
第 133 条
1 年以上継続して勤務した労働者は、1 年に満たない勤務期間に対しても
退職手当を受け取る権利を有する。
・
労働法
第 134 条
退職手当は、月給制、週給制、また日給制の労働者については、最後に支
払われる賃金を基準として計算され、不定期労働者については本法第 57
条に記載の平均日額賃金を基準に計算される。この項の規定は、特定の組
織の労働者の年金もしくは退職時の特典を定めた法律で与えられている権
利を侵害するものではない。
1.5
職業能力開発法令
1.5.1
職業能力開発制度
UAE の青少年の能力開発及び育成は、政府の重点施策である。18 歳以下の UAE
国民の半数以上のために新しい雇用を創出することが喫緊の課題である。この
課題は、国の発展を継続するためには、質の高い教育が重要であるとの認識と
一体のものである。従来からの高等教育に加えて、企業内での教育が急速に進
んでいる。例えば、石油業界、電話通信会社のエティサラート、エミレーツ航
空、域内で最大の整備施設を保有するガルフ航空機メンテナンス会社
(GAMCO) 等が企業内教育を拡充している。アブダビの応用研究・訓練センタ
ー (CEPT) は、世界の最先端の教育機関及び企業と共同で人材育成を行い、最
新技術を UAE に導入する仕組みを作っている。内閣人材特別委員会は、自国民
の採用を最大化して、労働力の外国人依存を減少させることを目標に UAE の人
材開発を管理している。
【自国民化】
労働社会省は過去 2 年間、積極的に自国民化を推進しており、電話通信及び金
融業界では一定の成果を上げている。1999 年に、HCT(The Higher Colleges of
Technology:技術高等学校)と労働社会省の間で、公的部門・民間部門ともに、
HCT の卒業生を優先的に採用するという協定を締結した。しかしながら、労働
社会省は経済発展及び人材育成の両方を同時に追求しているため、自国民採用
枠を民間企業の反発を懸念して、自国民の強制的な採用割り当ての実施には積
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極的ではない。
1998 年には 1,000 人近い国民が求職のため労働社会省に登録しているが、その
うち約 80%が女性であり、労働社会省にとってはこれから求職者に適切な職業
を斡旋するという困難な仕事が待ち受けている。これまで UAE の新卒者は、民
間部門で働くことを好まなかった。このことは、最近の研究「民間部門に対す
る姿勢」で明らかにされている。この研究では、アブダビ女子 HCT の学生の
96.5%が卒業後就職をすることを希望しているが、そのうち 62%は石油部門で
働くことを望んでおり、48%が公的部門を希望、民間部門の希望者は 11.5%し
かいなかったと報告されている。国営もしくは半国営企業を希望する理由につ
いてほとんどの学生が、高給付加給付、安定性、短時間労働が魅力であるとし
ている。
1.5.2
職業能力評価制度
調査中
1.6
その他の雇用労働関係法令
1.6.1
職業紹介制度
政府は雇用問題に対処するために、労働社会省傘下の独立組織として、国家開
発雇用庁 (TANMIA) を設立した。1999 年半ばに設立されたこの組織は、雇用
側の需要に対し、職を求めている UAE 国民の能力を合致させることを目的とし
ている。労働市場情報システム (LMIS) は、新規の労働需要及び労働市場の傾
向について国民に無償で助言する業務を行う。
1.6.2
外国投資法により進出した企業で、海外から招聘され就労する者の労働許可条
件
調査中
1.6.3
海外から招聘され就労する者の加入義務のある制度
調査中
【参考文献】
1
United Arab Emirates Federal Law No.8, For 1980 On Regulation of labour r
elations <http://www.mol.gov.ae/pages-EN/documents-en/rule-labour.HTML> acce
ssed on 31 July 2008.
2
Labour Law in UAE, Al Tamimi & Company, Advocates and Legal Consultan
ts
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