第1章 中小企業経営と情報技術の役割

第1章 中小企業経営と情報技術の役割
中小企業の情報技術の活用は,間接業務における事務処理を中心に発達した。ただ,そ
れらの業務では具体的に数値化できる収益という効果を発揮することは難しかった。中小
企業が収益効果を生むためには,生産や販売という直接部門での活用が必要である。それ
に加えて,情報技術を活用して業務プロセスの変革を行い,また新しい業務プロセスを創
造していくことが不可欠になっている。そして,情報技術を活用して新しい事業の仕組み
を創造することがより大きな効果を生む。
1.1 情報技術の活用動向と効果
1 支援的業務での活用
大企業のメインフレームに対して,オフィスコンピュータと呼ばれるより小型のコンピ
ュータで,1970 年代にわが国中小企業のコンピュータ活用は幕を開けた。その時代,コン
ピュータの担う業務は受発注処理や給与計算,財務会計処理,顧客管理,そして在庫管理
を中心としたものであった。これらは事務処理の合理化には役立ったものの,コスト削減
効果や省力化効果という点では,必ずしも有効ではなかった。
つまり,投資運営コストに見合った収益的な効果となると,多くの企業では具体的な成
果がほとんど得られなかったといってよい。それは,中小企業ではこれらの業務量が少な
いために,そこにコンピュータを導入しても,具体的な収益的効果にまでは至らないとい
う要因があった。
そうした状況は,オフコンからパソコンへと低価格なコンピュータに移行しても変わら
なかった。確かに,初期投資額が減少し,小規模な企業でもコンピュータを導入すること
ができるようになった。それに低価格で購入できるアプリケーションソフトも増えた。受
発注処理や給与計算,顧客管理,財務会計処理,在庫管理などの業務での活用が,電算室
を離れて現場部門で進展した。
それでも,収益的効果が得られなかったのは,前述の業務量の少なさという理由と同時
に,本来的に利益と結びつかない領域での活用であったからである。売上の拡大や生産量
の増加に結びつく活用であれば,収益効果と直結する。しかし,間接的な業務支援業務で
は,省力化による人員削減が実現できなければ,収益向上という具体的な効果が望めない
ことは当然といってよいだろう。そして,コンピュータ活用といえば,これらの支援的業
務での事務処理を中心にして語られてきたのである。ところが,次にみるような直接業務
での活用も次第に進展していた。
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2 直接業務での活用
収益効果に直接結びつく業務であり,また中小企業で業務量が多いのは,当然,製造業
ならば生産業務,
小売や卸売業ならば販売業務,
物流業ならば輸送や保管管理業務である。
この業務量が多い領域に情報技術を活用しなくては,収益に貢献するような効果は得られ
ない。そして,前述の間接部門での活用の一方で,このような直接業務での活用も着実に
進展しはじめた。
中小機械関連製造業では,生産活動領域にまず NC 工作機械が登場した。これは,熟練
技能者の加工技能でさえ代替してしまうものであり,また一人の作業者が数台の工作機械
を担当することも可能にして,労働生産性を向上させた。そして,NC 機械は関連する工
作機械やワークの搬送機と合わせて,それらをシステムとして統合的に制御することによ
って自動操業も可能にし,無人工場まで出現させる。ただ,それはロットサイズが中量な
生産に適しているものの,設備投資額が大きく,一品ものの生産には必ずしも適さないと
いった課題があった。
一方で,機械設備メーカーが標準的な製品として販売している NC 工作機械のような汎
用的な機械ではなく,ユーザーが自己の仕様に基づいて設備メーカーやソフト企業に依頼
して,あるいは自社で内作してコンピュータ制御による生産システムを活用する例も増え
てくる。また,計測作業のような付随的分野でも情報機器が活用される。標準的な機械加
工から始まった情報機器の活用は,製造業のさまざまな分野に及んでいる。
図-1 情報技術活用の推移図1
情報技術活
用の範囲
支援的業務
直接的業務
NC工作機械
情報技術活用の推移
業務プロセスの変革
新しいビジネスシステム
Webビジネス
無人工場
FMS
CAD/CAM
各種専用機器
POS EOS 無人店舗 トレーサビリティ
支援的業務
伝票発行 受発注処理 給与計算 顧客管理 在庫管理 利益管理
情報システム
スタンドアロン
企業内LAN
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企業間ネットワーク
インターネット
これら製造部門での機械や装置の自動化は,その制御装置にコンピュータが用いられる
など,現実には情報化であったが,企業経営の視点からは情報化ととらえられることは少
ない。それは,経営では情報化は情報システムと一体であり,マシニングセンターや NC
工作機械を情報システムの範疇でとらえてこなかったことも理由としてあげられるだろう。
しかし,次第に生産システムにおける情報技術の活用は,事務部門の情報技術と統合化さ
れて扱われるようになっていく。
3 流通業界での単品管理と業界変革
必ずしも販売活動そのものではないが,小売業や卸売業では POS による売上管理,そ
して EOS による仕入れ業務への活用によって,情報技術活用の本格的な効果があらわれ
るようになった。これらは,商品に印刷されたバーコードを読み込むことによって,商品
の販売状況を 1 個ずつ管理することを可能にした。そして,バーコードのソースマーキン
グが発達したため,スキャナーとコンピュータさえあれば,ほとんどの商品の販売状況を
日常的に管理できるようになったのである。このため,売れる商品に絞り込んで仕入るこ
とが可能になり,計画的な品揃えによって効率的に販売できるようになった。店舗の有効
活用や商品の品揃えに効果を発揮したのである。
それだけではない。商品を 1 個ずつ管理することが出来るようになったために,業界の
商慣習であったダースや箱詰め単位ではなく,1 個単位で受発注することが可能になる。
コンビニエンスチェーン業界では,単品バラ発注によって業界慣習を変えていく。そうし
た,単品管理の思想は他の業界にも影響を及ぼし,わが国の商取引慣習や取引構造を変革
しつつある。そこでは,単に1個単位で商品を扱うだけでなく,商品を迅速にしかも多頻
度で納入して,店頭状況に迅速に対応することが求められるようになる。流通チャネルに
おけるパワーの変化とともに,単品管理は業界構造を変革する大きな要素になったのであ
る。そして,それは新しい事業の仕組みの創造さえも誘因していく。
4 インターネットの活用による電子商取引
1995 年以降,わが国にインターネットブームが押し寄せた。そして,個人や中小企業の
ような小さな組織でも,通信回線を活用したビジネスの創造が容易であると喧伝された。
その後,パソコンをインターネットに接続すれば,誰でもが少ない資金で事業が出来ると
の幻想は消え去ったものの,インターネットによる企業間取引や企業と消費者との取引で
あるEC(Electronics Commerce 電子商取引)が期待されるようになる。われわれがインタ
ーネットの時代に突入しているのは間違いない。そして,その新しいインフラを活用した
事業が登場してくることも間違いない。今,中小企業の創業はインターネット分野を抜き
にしては語れなくなっている。
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インターネットではコンピュータの種類や通信回線の規格が異なっても,1990 年代中期
に登場したコンピュータ間の通信の約束事であるプロトコルを,TCP/IP
(transmisson control protocol/internet protocol)にすれば,データの送受信が可能に
なる。さらに,WWW(World Wide Web)といわれるインターネットの情報検索ソフトの
登場によって,異なるコンピュータ内のデータを簡単に取込み組み合せることができるよ
うになった。
このため,従来の専用システムに代わって,普及して標準化されているインターネット
の仕組みを社内の情報システムに活用するようになる。低コストで構築でき運用が容易な
ためである。それはイントラネットと呼ばれる。さらにこの社内のイントラネットと他の
企業のイントラネットをインターネットで結ぶことにより,従来の組織間のネットワーク
にあったさまざまな制約を超えて,直接情報交換ができるようになる。これは,エクスト
ラネットとも呼ばれるが,機器や通信手段を同一のものにしなくても,インターネットの
仕組みで情報システムを構築すれば,自由に情報交換ができる。
こうして企業は Web を活用して,未知の企業や顧客ともコンピュータと通信回線で情報
の流通が可能になり,それを用いて電子商取引が行える時代を迎えたのである。従来,多
額の設備をかけて共同で構築しなければできなかったコンピュータ・ネットワークが,中
小企業でも個人でも可能になった。企業は世界中に自己の製品や主張を伝達し,反対に情
報を入手できるようになったのである。それは,企業と企業,企業と一般顧客との取引関
係や企業間連携の新しい可能性をもたらしている。
企業が一般消費者に Web 上のバーチャルな店舗を通じて商品を販売することも行なわ
れている。企業の販売関係や連携関係がより多様になろうとしている。それは同時に,新
しい事業方法を可能にするものであり,コスト削減といった企業内の効果ではなく,情報
技術が新しいビジネスの仕組み,新しい事業の登場をもたらしはじめている。
1.2 業務プロセスの変革とビジネスシステムの創造
企業の情報技術の活用は,企業内部の間接的業務の事務処理の合理化から,情報技術を
活用した新しい業務の方法,外部企業との連携,世界中の企業や個人とのコミュニケーシ
ョンの実現へと進んできている。それは,企業が情報技術を活用して,新しいビジネスの
方法を多様に創出できる可能性が登場していることを示している。中小企業は積極的に,
情報技術を活用して新しい事業の仕組みを創造しなくてはならない。
製品や技術を保有していることだけでは,競争力のある事業は成立しない。特に,それ
らが他社と同様な企業では製品を効率的に生産して,低価格やスピーディに提供するとい
った何らかの特色を持たなくては顧客を獲得できない。それには業務の方法を他社とは異
なったものに改革しなくてはならない。このとき,情報技術を中核にして変革すれば,斬
新な業務プロセスが構築できる可能性が高まる。
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特に今日では,顧客の多様なニーズにスピーディに応えることのできる業務プロセスが
求められている。遠隔地の顧客に対して製品を販売するには,製品仕様やオプションの内
容を明確にして標準化を行い,製品価格や配送費用,配送期間なども規格化して,品揃え
をして提供しなくてはならない。
それには,
部品をモジュール化してユニットの組合せや,
用意したオプションの付加によって多様化していくことが不可欠で,製品設計の段階から
仕組みをつくって行くことが必要になる。これには,情報技術を中心としたシステムの構
築が不可欠である。
機械設計の分野で登場した CAD/CAM は,生産業務の設計段階からの斬新な改革に大き
な役割を果たしている。設計の標準化や,データベースを活用した設計業務の合理化を進
めることができる。とりわけ,3次元 CAD/CAM は業務の迅速化を図るだけではない。設
計データを活用したシミュレーションによって,設計内容の信頼性を高めたり,実物モデ
ル作成の工程を省いたり,最も利用者に適した形状や構造を事前に把握できるなど設計方
法を変革できる。それは,製品の企画方法まで改革してしまう情報技術である。
CAD は生産業務と一体で運用すると,その効果はさらに大きくなる。加工データを設計
から直接,現場の設備に光ケーブルや無線 LAN で伝送する。CAD データを CAM データ
に変換して,それで加工機械を稼動させる。
また,受注データで生産計画から工程管理をパソコンで行ない,工程ごとに終了時間を
現場のスキャナーで読み込ませれば,コンピュータで生産計画と実際の進行状況を把握し
て進捗管理が行われる。その結果,社内の生産状況を把握して業務横断の管理を行うこと
ができるだけでなく,顧客に対しても迅速な対応ができることになる。スピードが求めら
れる状況では効果的である。また,従来業務を効率的に短時間で処理するという側面だけ
でなく,さらに進んで,業務全体を新しい方法に変革する情報技術の活用が求められてい
る。
このように,
従来は不可能であった高水準な業務を,
情報技術を活用してスピーディに,
柔軟に処理する。そして,遠隔地の顧客とも通信回線だけで取引情報を処理できるような
仕組みづくりが,中小企業に求められているのである。それなくしては,後述するような
新しいビジネスシステムは機能しない。情報技術の活用をビジネスシステム全体の変革に
結びつけなくては,顧客を本格的に把握できない。また,そうしないと収益効果も低くな
ってしまうことを,もう一度考慮したい。
1.3 情報技術によるビジネスシステムの構築
業務プロセスだけで競争優位のある仕組が形成できないときは,コンピュータを活用し
た業務の仕組み全体で,収益に結びつけなければならない。情報技術がなくては実現でき
ない新しい事業の仕組みを構築して,従来は対応できなかった顧客ニーズを満足させる仕
組みを構築するのである。つまり,情報技術を中核にしたビジネスシステムで収益を獲得
するのである。
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図2 ビジネスシステムと情報技術
図-2 ビジネスシステムと情報技術
ビジネスシステム
業務プロセス
市 場
(業務の仕組み)
資金
人材
どのような顧客に
サービ
ス
どのような機能を
情報技術
どのような方法で
設備
経営資源
製品
企画−開発−製造−販売
事業概念
技術
いかに差異化するか
情報
いかに人のエネル
ギーを活用するか
情報
内外組織の有効化
組
織
ターゲットとする市場
その方法を考えてみよう。企業のビジネスシステムは図 2 のように概念化できる。狙い
にする市場に対して,
具体的な顧客層に対して,
どのような機能をもつ製品やサービスを,
どのような技術を活用して顧客に提供していくかというのが,事業概念である。競争企業
がすでに存在するときは,
競争企業との差別化を盛り込んだ事業概念が必要になる。
また,
不足する資源を補う方法などもふくめて事業を構想化し,事業の基本的なあり方を規定す
るのが事業概念である。
その事業概念に基づいて,具体的に業務を実行する方法が業務プロセスである。その業
務プロセスを実行する人間の役割体系が組織であり,効果的にそして効率的に事業を推進
する。それには人間のもつエネルギーの発揮が必要になる。そして,ビジネスシステムに
は,これらの要素を支える経営資源が必要になる。ここでシステムとう言葉を活用するの
は,これらの要素は密接に相互関連し,全体としてフィットしていなくてはならないとい
うことである。それぞれがバラバラではなく,システム全体で整合性をもって顧客ニーズ
に対応するのである。
このとき,事業のターゲットにしている顧客層の求める顧客ニーズに,情報技術を活用
することで対応し易くなる仕組みを構築する。あるいは活用することで,他の企業よりも
顧客を獲得出来るときに,利益獲得に結びつくビジネスシステムができる。
今回の事例調査には,
そのような例がみられる。
酒類の小売店を展開する㈱もりもとは,
御用聞きの町の酒屋さん経営の時代に,請求書作成や代金決済にオフコンを活用して合理
化した。そうした間接業務を簡素化することで,営業担当者の訪問企業数を増大させて売
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上を拡大していく。その仕組みを店舗の運営や管理全体に拡大させて,商品管理や受発注
管理,利益管理などを向上させていく。それは次第に店舗販売に事業の重点を転換させ,
さらに多店舗化チェーン化と進んできた。
初期には,多数の顧客の掛売りで収益を確保するというビジネスシステムのための情報
技術の活用がある。次で,住宅化の中で増大する顧客への対応のために,業務プロセスの
面から情報技術を活用して従来のビジネスシステムを変革する。情報技術を活用した業務
プロセスは,事業全体に及び,町の酒屋さんという事業概念を変革していく。それが,店
舗販売,チェーン形成と進化していくのである。
㈱もりもとは情報技術がビジネスシステムを変革し,企業を変革した例である。それに
対して,㈱トータル・ライフサービスコミュニティーは,情報技術を事業手段として事業
概念を形成している企業である。建物施設の管理を 24 時間行うために,単純に人手では
なく情報技術と通信技術を活用する。それは,技術進歩によって施設というハード的なも
のの管理だけでなく,人の入出や侵入,そして防犯を管理する技術へと進歩していく。
そこでは,情報技術が直接的な事業手段となり,業務プロセスそのものとなっている。
このため,収益的効果は最も高い。そして,その情報技術を開発しさらに活用する場で,
著名な大企業との共同開発が行われる。それは,この企業の技術力を高めるだけでなく,
歴史の浅い中小企業に社会的な信用を付与してきた。それが売上の拡大となっていく。
このように,情報技術を収益と結びつけるためには,ビジネスシステムの重要な要素と
して,業務プロセスの核として活用していくことが望ましい。それは収益に直結する。生
産現場における NC 化された工作機械や,CAD/CAM のような設計や制作方法を根底から
変革してしまう情報技術の活用と同様である。ただ,情報技術の技術革新は目覚しい。急
速に進歩してしまうと同時に,それが低コストで可能になってしまう。このため,単なる
情報技術の活用ではなく,業務プロセスに組み込み,それを顧客ニーズに対応できる仕組
みにしないと,一時的な効果に終わってしまう。
業務プロセスだけでなく,組織や事業概念とも一体化して事業の仕組み全体にまとめあ
げることによって,顧客の求めるニーズに的確に対応する。そうすれば,より顧客ニーズ
に対応したビジネスシステムが可能になり,
情報技術活用の効果が高まるのである。
また,
反対にコアとなるプロセスで情報技術を直接活用できないのであれば,ビジネスシステム
の仕組み全体で,効果を発揮できるようにしないと,コンピュータ活用の収益効果が得ら
れにくい。
顧客ニーズに対応したビジネスシステムを構築するということは,新しい価値をつくる
事業の仕組みを構築するということである。このとき,製造だけでなく,配送やアフター
サービスなども含めた事業のバリューチェーン全体で,
顧客を獲得することが大切である。
生産活動のグローバル化が進展している今日,生産業務の効率化を図るだけでは,顧客ニ
ーズには十分に対応できない。資材の調達や販売,アフターサービスまで含めたバリュー
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チェーン全体で,顧客のニーズに応えていくことが求められている。
1.4 ビジネスシステムの構築と変革
1 ビジネスシステムの原点は顧客ニーズ
ビジネスシステムを構築するとき,また業務プロセスを計画するとき,情報技術がある
からそれを活用するという姿勢では顧客の獲得は難しい。図 3 にみるように,顧客ニーズ
に業務プロセスを適合させるために,情報技術を採用するという視点が重要である。個々
の顧客が求める個別の仕様に対応した製品の提供や,納期の短縮や価格の低下など,顧客
の求める価値への対応が,ビジネスシステムにおける情報技術活用の出発でなければなら
ない。顧客満足度向上の実現方法としての情報技術,という発想が基本である。顧客に価
値を提供するために情報技術を活用して,新しい方法を創造するのである。
図3 情報技術による事業革新
図−3 情報技術による事業革新
顧客ニーズの発見
顧客ニーズ対応への模索
業務プロセスによる適応
情報技術活用の検討
情報技術による業務プロセスの改革
新しいビジネスシステムの概念化
事業概念,業務プロセス,組織,資源の組合せ
新しいビジネスシステム
新しい顧客ニーズの発見
こうして,業務プロセスが改革されて,顧客を把握できた要因が意識できると,それを
さらに新しい事業概念に構成して,事業の再編成を行っていく。同時に,事業をさらに有
効に行うために組織の変革や経営資源を補充して,新しいビジネスシステムを創造してい
くのである。そうした事業が顧客に支持されて有効ならば,他社の事業と差異化され,競
争企業に対する競争優位も獲得できる。それが,顧客をさらに掘り起こしてビジネスシス
テムをより効果的なものにしていく。このようなプロセスの繰り返しが,ビジネスシステ
ムを洗練させて,事業を革新していくのである。
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情報技術による業務プロセスの革新を,生産性の向上や特定の顧客ニーズの満足度向上
だけに終わらせず,それを新しいビジネスシステムとして概念化していく。その概念のも
とに事業の仕組みをさらに具体化していく。その特徴を外部にアピールしながら,新しい
需要を確保できるように,さらに情報技術を軸に事業を再編成していく。このように情報
技術をインパクトにして,企業は事業を改革することができし,それが新しいビジネスシ
ステムに結びつくのである。
情報技術によって,他社にはない何かの強さを持つ経営を構築する。このとき,情報技
術を核としながらビジネスシステムを革新し,また創造していくことが,変革期の今日,
中小企業の課題なのである。過去の技術,過去のビジネスシステムに拘泥していると,顧
客には新しい価値を提供できない。新しい価値を創出するには,顧客が満足していないニ
ーズを把握する。そして,顧客が求めている価値を創出できるビジネスシステムを,バリ
ューチェーン全体で構築することが必要なのである。
2 絶えざる事業の革新
最新の情報技術を活用したとしても,それだけでは事業は成立しない。事業としての強
み,競争優位性,そして製品や技術の優位性がなくてはならない。話題となった Web ビジ
ネスの多くはこの視点が欠けて,技術の活用ばかりに目を向けたために失敗したことを教
訓としなくてはならない。優れた業務ノウハウ,業務方法を情報技術で補強し強化するこ
とによって,新しい事業が成立するのである。
業務方法の強みを原点に,情報技術でさらに業務方法を強化し,事業の仕組み全体で新
しい事業を構築する。そして,その優れた点を絶えず外部に,顧客に訴えていく。それは,
顧客の求めているニーズで事業を創造して行くことでもある。ところが,顧客の求める視
点でビジネスシステムを構築すると,それが優れたものであるほど,模倣の対象となって
しまう。情報技術の発達は,あらゆるものの命脈を短くしてしまうのである。
このため,絶えず新しい情報技術活用の仕組みを創造することが不可欠になる。顧客の
求めるニーズを把握し,それを情報創造の基盤としていく。顧客の求める要求に対応ため
に,顧客の要求と生産現場や販売部門との軋轢を解決することで新しいノウハウが生まれ
てくる。その繰り返しの中で新しい仕組みを創造しながら模倣を振り切っていく力がない
と,安定的な事業を継続できない。事業内容の絶えざる革新を行っていくことが,情報技
術の発達する今日,企業に求められているのである。
1.5 本報告書の内容
今年度の調査研究プロジェクトは,過去 4 年間実施してきた中小企業の情報活用の実態
をさらに掘り下げ,
より効果的な情報技術活用のあり方を探ることを目的に活動してきた。
このため,今回のアンケート調査は,今まで調査を実施してきた企業の中から成果をあげ
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ている企業を選定し,より優れたサンプルの中から中小企業としての情報技術活用のあり
方を探ろうとした。
そうした情報技術活用に優れた企業 400 社弱のアンケートデータの解析を行なったのが,
第 2 章である。さらに,調査回答企業のなかから 18 社を選び,ヒアリング調査を行った
結果を,同じく第 2 章において掲載した。それは,わが国中小企業の情報活用の先進的な
事例である。第 2 章を通じて,情報活用に優れた企業の一般的な特性と,特徴のある企業
の情報化への取り組み姿勢や活用方法,その成功要因などを理解することができる。
第 3 章は,そのような実態を踏まえながら,それではどのようにして情報技術の活用を
成功させるかを考察したものである。第 1 節では,情報化の成功要因を述べた。情報技術
活用のための企画,経営者のリーダーシップ,そして推進体制を明確にして,評価検証し
ながら進めるべきことが述べられる。何よりも業務プロセス変革の道具とすべきであり,
その情報技術によって実現できる業務プロセスで,新しい顧客ニーズを発掘することが必
要である。また,情報化を成功させ企業の収益に結び付けるには,知識や企業文化という
視点からの取り組みが必要であることが述べられる。
第 2 節では,当財団で行った過去の事例調査も含めて,事例企業を分析した。成功した
企業の情報技術導入・検討プロセスについて,事例ごとに分析している。そこにみられる
共通項についてもまとめている。第 3 節は,IT 活用のための診断チェックリストである。
前節までの中小企業の情報技術活用の実態と成果を踏まえて,情報技術で成果をあげるた
めにはどのようにすべきかをチェックリストにまとめた。読者は,このチェックリストを
活用することで,支援対象企業のあるいは自社の情報技術活用の進め方について,情報技
術の活用方法について検討することができる。
第 4 章は,本報告書のまとめである。第 1 節では,過去の 4 年度分の調査結果について
まとめた。第 2 節では,情報技術を成果あるものにするには,戦略,組織と情報技術とを
一体的に組み合わせて取組まなければならないことを述べる。
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