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565,1979年
日消外会議 12(8):562∼
症
例
上 行結腸平滑筋腫 の 1例 と文献的考察
千葉大学医学 部第 1 外 科
藤本
茂
織田 良 雄
橘 川 征 夫
赤 尾 建 夫
伊 藤健 次郎
A CASE OF LEIOMYOMA OF THE ASCENDING COLON AND
REVIEW OF THE LITERATURE
Shtteru FUJIMOTO,Yukio KITSUKAWA,Talec AKAO,
Yoshio ODA and KenJlrO ITOH
The First Departlnent of Surgery,School of Medidnc,Chiba Universiy
消化管 の良性非上皮性腫瘍 の中,平 滑筋腫 は きわ めてまれな疾患 であるが,63歳 ,女 性 の上行結陽平滑
筋腫 の 1治 験例を報告す る。昭和54年 1月 ,便 秘を主訴 として来院,注 腸検査 と内視鏡検査 によ り上行結
腸 の単発 の巨大なポ リー プ と診断 した。摘出標本では上行結陽 の 6x7cmの 脂肪腫 と考えられたが,組 織
学的診断 は平滑筋腫 であった。本症例は結陽平滑筋腫 として本邦で 8例 目である。上行結腸 よ り発生 した
平滑筋腫 としては本邦で 2例 目の報告 にな り,ま た,欧 米で の報告例 も含 めて 4例 目である.
索引用語 :平 滑筋瞳,結 腸
は じめに
消化管 の 良性非上皮性腫瘍 は, 比 較的 にまれである
が,そ の頻度は胃に最 も多 く次 いで小腸 であ り,大 腸 に
),大 腸 の良性非上皮性腫瘍 で
発生す る頻度は最 も低 ド
最 も頻度 の高 い脂肪腫 の 場合 で も消化管良性腫場 の 4
科を訪れ,昭 和54年 1月 中旬当科 に入院 した。
現症 :入 院時体重35kg(身 長 143cm),栄 養中等度,軽
度 の貧血 はあるが黄疸はな く,体 温36.4℃,血 圧 116/68
mmHg,脈 拍78/分,表 在 リンパ節は触れない。下腹部に
軽度 の圧痛 を認めたが,抵 抗 ・腫瘤 ・波動 は触知 せず,
%2)に 過 ぎず,平 滑筋腫 は さらに頻度の低 い もの と報告
されて いる。著者 らは今回,大 腸平滑筋腫の中で も頻度
肝は 1横 指触知 したが表面辺縁は正常であ り眸 は触知 し
の さらに低 い上行結腸 に発生 した超鵞卵大の平滑筋腫を
臨床検査成績 :血 液ならびに肝機能検査―一RBC 374
x104,Ht ll.6g/dl,WBC 4,500,COT 29mU/ml,CPT
経験 したので,文 献的考察を加えて報告する.
症
患者 :KM,63歳
主訴 :便 秘
例
, 安性,
家族歴 :特 記すべ きものな し
既往歴 :36歳 の時胸膜炎,47歳 の時 子官筋腫 にて聴 L
子宮切除術を受け, 3年 前 よ り左脚 ブロック に て 治療
な い.
30mu/ml,LDH 188mU/ml,Alk‐ P65mU/ml,ZTT 5U,
TTr lu,MG 5,総
O。
蜜白7.Og/dl,Creat 6mg/dl,BUN
Eg/1,K4.OmEq71,Cl 105mEg/1で あ
15mg′
dl,Na 14硫■
り,血 や CEAは
0.5ng/ml(Dainabot sandwich法
)で
正常値 を示 した。
尿検査一PH 6,鎮 由 (―),糖 (一),アセ トン体 (一),
現病歴 ,昭 和53年 10月頃 よ り便秘 ぎみ とな り,浣 腸 ・
下剤 に よ リタール様 の排便 を見ていた。腹部膨満感が持
潜血 (―),沈澄正常.
糞便検査一一 潜血 (十)∼(土),虫卵 (一),消化良.
注陽X線 検査 :直 腸 よ り横行結腸迄 は異常所 見を認 め
続 したが食欲は良好であ り,昭 和53年12月中旬 当大学内
な いが,図 1の ように横行結腸右結陽曲付近 に超鵞卵大
中.
1979年 8月
93(563)
図 1 注 腸 X線 検査
図 2
腫層 の組織像 ( H & E , x 2 5 )
の卵形 の陰影を認め,上 行結腸 のほぼ中央 よ り4∼ 6条
の腸管 の走行 と平行 して走 る陰影が卵形陰影 にまで達 し
ている.
大腸 内視鏡 :上行結腸 に直径 5∼6cmの 表面平滑 で完
全 に粘膜 で被 われている腫瘤 があ り,茎 は認 め られず,
矢 印 は腫瘍組織 を示 す
図 3 腫 瘍組織 の強拡大像 ( H & E , ×
また腫瘤表面 に出血壊死を認めない.腫 瘤 より採取 した
生検組織ではポ リー プ と診断 された。
上部消化管X線 検査 :上 部消化管 には 異常 を 認 めな
もヽ
.
ing
肝 スキ ャンエング :肝 転移を思わせ るSpace occupγ
lesiOnは認めない.
圧門内指診 :右 前壁 と後壁に小豆大 の 内時核 を 認 め
た.
心電図 :左 脚 ブロ ックを認め る.
以 上のことよ り,上 行結腸 に発生 した巨大 ポ リー プを
疑 い,昭 和54年 2月 13日,開 腹手術を行 った。
手術所見 :右 腹直筋芳切開にて開腹,腹 水はな く上行
結腸 ・横行結腸以外 の腹降内諸臓器 に異常を認めない。
X線 と内視鏡検査で指摘 された腫瘤 は L行 結腸 よ り右結
腸曲を越え横行結腸迄移動する。腫瘤を肛門側 に移動 さ
せ ることに よ り陥凹を生 じた回腸末端上縁 よ り,約 8cm
肛門側 の上行結腸前壁 の結腸間膜付着部付近をや心 とし
て,約 10Cmの _L行結腸切除術を行い,端 々吻合を行 っ
た.術 後経過は良好 で あ り,第 18病 日に退院 した.
易J出標本所見 :肉 眼所見―一 腫瘤 は 6x7cmの 卵球形
状 であ り,表 面は平滑 で淡黄色を呈 していたが,潰 瘍形
成は認め られず脂防腫 と考え られた.
組織所見―― 図 2の ように平滑筋細胞 より成 る腫瘤 が
筋層 の中間に位置 してお り,そ れを覆 う粘膜層 には潰瘍
上行結腸平滑筋腫 の 1 例 と文献的考察
94(564)
日消 外会 誌 12巻
8号
表 1 結 腸平滑筋腫の本邦報告例*
報告者
告代
報年
症例
年輪
発 生
部 位
主症状
性
1
近藤
女
慢性 イ レウ 横行結暢
ス 症 状
2
中山
男
反復性腹痛
便
秘
3
松尾 ら
4
7)
大津 ら
女
5
岡田 ら
男
6
古瀬 ら
男
上腹部腫瘤 横行結腸
7
矢毛 石 ら
女
回盲部腫瘤 盲
藤本 ら
女
便
8
1953
S状 結腸
腫瘤 の大きさ
鶏卵大
外向性
横行結暢
外向性
便秘 ・下rll 横行結陽
下血 ・
上行結楊
腹部腫溜
鷲卵大
外向性
鶏卵大 ・クルミ大 ・
内向性
大豆大各 1 個
女
秘
楊
上行結陽
な どは認め られない。 図 3は 強拡大 であるが,有 糸分裂
像 は認め られず,lCiOmyOmaと 考えられた。
察
1.頻 度 と発生部位
消化管 の平滑筋腫は胃に最 も多 く,大 腸 に発生す るも
のは少ないが,Golden&Stoutめ は1913∼1940年にわた
潰瘍
内向性
15× 12×9cm
外向性
9 ×7 ×5 C m
外向性
6x7cm
内向性
を
5ょ
ヽ
の
ら
り
引
用
ガ
平・
例3,5,6は
,症
雲鋒ほテ
甘
1額な
考
発育
方向
(―
)
( 一
)
( 一
)
(―
)
( 一
)
と,そ れぞれ 5例 ,13例 であ り,横 行結腸 が 6711と報告
している。1977年,長 廻 らの が大腸平滑筋腫 2例 を報告
しているが,直 腸内発生 の ものであ るので,著 者 らの上
行結腸 の ものは本邦で 2例 目にな り,欧 米を合 めても4
例 目とい うきわめてまれな症例である。
2.発 生年齢 と男女比
る27年間に手術 と剖検 に よ り30例の消化管平滑筋腫を報
本症例を合めて本邦 の結腸平滑筋腫 8例 の年齢は表 1
告 しているが, この うち大腸の平滑筋腫は 3例 である。
MacKenzieら つは初 めて 結腸 の 平滑筋腫 を詳細に報
のようであ り,そ の平均年齢は54.5歳である。男女比 に
っぃて MacKenzieら つは男 :女 =9:16,本
邦 8例 は
告 し,自 験例 8例 の他,1918∼ 1953年の間に報告 された
計 19例について検討 している。
あ り, これを合計す ると男 :女 =12:
男 :女 =3:5で
21とな り女性 に多 い といえ よ う.
本邦 における大腸平滑筋腫 の報告は少な く,散 見 され
る程度であったが,矢 毛石 らゆ が1912年よ り1961年迄 の
3.発 育形式 と腫瘤 の性状
ゆ
発育形式 について MaCKenガ eら は intracolt tyPe,
exocolic type,前
bell type,
記 の中間型 のいわ ゆる dumb‐
一
4型 に 分け, そ
陽管壁 を 周す る Conttrictive typeの
本邦の腸管 に発生 した平滑筋腫を詳述 してお り,そ の総
数45例の内大腸平滑筋腫 は11例である。 このH例 中直腸
に発生 した ものが 8例 (73%)を 占め, 他 の 3例 は 盲
腸,横 行結腸, S状 結腸 が 1例 づつで あ り, 大 腸全体
よ り見 た場 合は直腸内発生 が最 も多い.さ らに小平 。東
°
泉 は一部矢毛石 らの報告例 と重複 しているが,1923年
よ り1972年迄 の49年間の本邦 における大腸平滑筋腫 の う
ち,直 腸内に発生 したもの32例に対 し,結 腸内発生は盲
腸 1例 ,上 行結腸 1例 ,横 行結腸 3例 の僅 かに 5例 (矢
毛石 らの報告 3例 中の 1例 が重複)で あ り大陽全体 の平
滑筋腫 の13.5%と 報告 している。以上 よ り,1914年 よ り
1979年迄 の65年間 に本邦 で見 られた結腸平滑筋腫 は表 1
のように本例を含めて 8例 である。
MacKenzieら かの結腸平滑筋腫27例の
うち,充 分検索
されている24例の発生部位を右側 と左側結陽別 に 見 る
の頻度をそれぞれ 10, 4, 1, 4, と 腸管腔内に発育す
る型が約半数を占めると 報告 している.本 邦 の 8例 は
MacKenzieの 前 2型 の みであ り,表 1の ように intra‐
C01iCが 3例 ,CXOCOliCが 5例 であ る.
腫嬉表面 は本邦 8例 中記載 の明 らかな 5例 全てに潰瘍
を認めていないのに対 し,恵 美奈 らめ は平滑筋肉腫 では
45例中26例 (58%)に 潰瘍形成を報告 しているので,腫
嬉 が大 きいに もかかわ らず潰瘍形成 のない場合は良性 で
ある可能性 が多 い といえ よう。
4.症 状 と診断
結陽平滑筋腫 は良性疾患 であるので,そ の疾患 として
特有な症状はな く,右 側 ・左側結腸内容 の性状 と腫磨 の
大 きさ ・性状 との関係 よ り,便 秘,出 血 などが起 こると
1979年8月
95(565)
考え られる.
H.L.),ChaptCr 68,Smau bowcl tumOrs,Third
本疾患 の発生頻度 の低 いことと,好 発年齢力も0歳台 で
ある ことよ り,先 ず悪性腫場 を疑われ,検 査成績 より考
cd.,1976,W.B.Saunders C。
London,PP.459-472.
えて良性疾患 と診断 され る。 しか し,術 前 に平滑筋腫 の
診断を下す こ とは,本 例のように生検を行 って も粘膜の
みの採取 の場合が多 いので確定診断 は全 く不可能 であろ
う.
2)Mayo,CoW・
.,Philadelphia&
,Pagtalunan,R.J.G.and Brown,
D.J.:LiPoma ofthc alimcntary tracte Surgery,
53:598--603)1963.
3)Golden,T.and StOut,A.P.: Smooth muscle
tumors of thc gastrointcstinal tract and rc‐
tropcritoneal tissucs, Surg. Gync. & Obst.,
5, 治 療お よび予後
前述 のよ うに悪性腫瘍を疑われ ることが多 いことと,
腸内容 の通過障害,出 血などの症状 のある ことが多 いの
で,積 極的 に手術を行 うべ きであ る.術 中,悪 性を疑わ
れ る場合は積極的 に処置すべ きである.
本例は図 2,3の
ように悪性化 の全 く疑われない平滑
lden&stoutの
で
あるが
筋腫
はその鑑別 として有糸
,ф
分裂数 が比較的 そ の 指標 となるとしてお り, 同 様 のこ
とを Ackerman10)ャ
ま “The microsccPic difFerentiation
between the benign and malignant smooth muscie tumor
may be extremely difncult. cenerally sPeaking, tumors
with many mitotic ngures are malignant''。
と述べ てい
る。
おわ りに
63歳,女 性 の上行結腸平滑筋腫 を経験 した。結腸 にお
け る平滑筋腫は本邦において 8例 目とい う稀れ であるた
め,そ の概略 と内外 の文献的考察を報告 した。
73:784--810, 1941.
4)MacKenzic, D.N., McDOnald, J.R.and
WVaugh,J,M.: LciomyOma and leiomyosar‐
cOma OF thc c010n. A■
■. Surg., 139:67--75,
1954.
5 ) 失 毛石 陽 = , 吉 本 忠 , 加 藤 逸 夫 , 北 岡 暉朗 :
盲腸 滑 平 筋 腫 の 1 例 な らび に 本 邦 に お け る腸 管
滑 平 筋腫 の文 献 的 考 察 . 外 科 , 2 5 : 6 4 1 ∼ 6 4 7 ,
1963.
6 ) 小 平 進 , 東 泉東 一 : 結 腸 ・直 腸 の 平滑 筋腫 瘍
の 3 例 及 び 本 邦例 の 統 計 的観 察 . 大 腸 肛 門 誌,
26: 12-20, 1973.
7 ) 大 津 章 , 間鳴 正徳 : 横 行 結 腸 滑 平筋 腫 の 1
例 。日 外宝 函 , 23:119, 1954.
8 ) 長 廻 紘 , 河 野秀 親 , 佐 々木 宏 晃 , 三 輪 洋 子 ,
他 : 大 腸 非 上 皮性 良性 腫 瘍 . 大 腸 肛 門 誌 , 3 0 :
487-497, 1977.
9 ) 恵 美 奈実 , 宇 佐 美 詞 津夫 , 岩 井 昭 彦 , 他 : 直 腸
平 滑 筋 肉腫 につ い て- 1 症 例 報 告 と本 邦 報 告 例
の検 討一 。大 腸 肛 門 誌 , 3 0 : 5 2 0 ∼ 5 2 5 , 1 9 7 7 .
10)Ackerman,L.V`: Surgical PathO10gy,Chapter
9, Castrointcstinal tract, Second cd,, 1959,
文 献
1)Kclscy,」。
R.Jr.: Gastrocntcrology(BockuS,
Thc C.V.Mosby Co.,St.Louis,pp.311--424.