「厄介な近代」を繙くための 53冊

 【自己形成】
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未来派 2009]
坂本龍一、細川周平 本本堂、1986 年
『イタリア・ファシズムの芸術政治』の道標 鯖江秀樹
群衆 モンスターの誕生]
53
「厄介な近代」
を繙くための
今村仁司 ちくま新書、1996 年
日本の思想]
丸山眞男 岩波新書、1961 年
冊
都市のドラマトゥルギー 東京・盛り場の社会史]
吉見俊哉 河出文庫、2008 年
越境する想像力 モダニズムの越境 1]
モダニズム研究会編 人文書院、2002 年
権力/記憶 モダニズムの越境 2]
モダニズム研究会編 人文書院、2002 年
表象からの越境 モダニズムの越境 3]
モダニズム研究会編 人文書院、2002 年
フリッカー、あるいは映画の魔(上下巻)]
セオドア・ローザック 田中靖訳、文春文庫、1999 年
トリエステの坂道]
008
001
須賀敦子 新潮文庫、1998 年
本リストの作成は、これまで自分が何を読
み、それをいかに糧として生きてきたかを振
り返る作業となった。『芸術政治』に反映し
ているかは定かではないものの、著者自身
を形成してくれた本たちも一部紹介。45 は、
未来派との最初の出会いとなった本。鷗外訳
『イタリア・ファシズムの芸術政治』
(以下『芸術政治』
)を書くために役立っ
た本、あるいは読者の理解に役立ててもらいたい本を、
リストアップしました。
の「未来派宣言」、ガチャガチャした絵やト
ゲトゲした機械たちが青年の眼に焼きつい
た。46 は近代という時代に漠然とした興味
を抱かせた(であろう)本。逆に、47 の第
2 章「近代日本の思想と文学」には恥ずかし
いくらい書き込みがびっしり。48 は都市、
テクスト、権力といった問題を強く意識さ
せた本。それに勢いを得て、49 ∼ 51 の論
文集を片端から読み、「近代」という厄介な
問題へ切り込んでいくことを決意した。ひ
とつの道を選ぶことは、別の道を絶つこと。
とはいえ、選ばれなかった映画や文学(52、
53)もまた、わたしのどこかに息づいてい
るにちがいない。 ■
鯖江秀樹
さばえ ひでき
1977 年生まれ。神戸市外国語大学外国語学部卒業、イタリア政府給費生とし
てローマ第二大学への留学、日本学術振興会特別研究員を経て、京都大学大
学院人間・環境学研究科博士課程修了(人間・環境学博士)
。現在は立命館大
学および関西大学非常勤講師。専攻は近代芸術論、イタリア文化史。初の著
書『イタリア・ファシズムの芸術』
(水声社、2011 年)にて、第 3 回表象文
化論学会奨励賞を受賞。現在、ファシズム期イタリアの美術・建築批評のア
ンソロジーを準備中。訳書に『ジョルジョ・モランディの手紙』
(ジョルジョ・
モランディ著、共訳、みすず書房、2011 年)
。
『無機的なもののセックス・ア
ピール』
(マリオ・ペルニオーラ著、共訳、平凡社、近刊予定)がある。
【論点 II——かたち】
【視点 II——イタリアから】 27 ..........................................................[メディア 表象のポリティクス(表象のディスクール5)]
06 ................................[アメリカ講義 新たな千年紀のための六つのメモ]
28 .................................................................[ジュゼッペ・テラーニ 時代を駆けぬけた建築]
07 ..............................................[水に流して カルヴィーノ文学・社会評論集]
小林康夫+松浦寿輝編 東京大学出版会、2000 年
イタロ・カルヴィーノ 米川良夫+和田忠彦訳、岩波文庫、2011 年
鵜沢隆監修 INAX 出版、1998 年
29
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イタロ・カルヴィーノ 和田忠彦+大辻康子+橋本勝雄訳、朝日新聞社、2000 年
08
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ゴシック・リヴァイヴァル]
09
........................................................................................[
ルドゥーからル・コルビュジエまで 自律的建築の起源と展開]
10
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全体主義芸術]
11
...[
アール・デコの時代]
12
...................................................................................................................[
イタリア合理主義 ファシズム/アンチファシズムの思想・人・運動]
北川佳子 鹿島出版会、2009 年
ケネス・クラーク 近藤存志訳、白水社、2005 年
エミール・カウフマン 白井秀和訳、中央公論美術出版、1992 年
イーゴリ・ゴロムシトク 貝澤哉訳、水声社、2007 年
海野弘 中公文庫、2005 年
ピノッキオの眼 距離についての九つの省察]
カルロ・ギンズブルグ 竹山博英訳、せりか書房、2001 年
ジョルジョ・モランディの手紙]
ジョルジョ・モランディ 岡田温司編訳、みすず書房、2003 年
シチリアでの会話]
エリオ・ヴィットリーニ 鷲平京子訳、岩波文庫、2005 年
エステティカ イタリアの美学 クローチェ&パレイゾン]
山田忠彰編訳 ナカニシヤ出版、2005 年
アール・デコの建築]
吉田鋼市 中公新書、2005 年
「もの」の詩学 家具・建築・都市のレトリック]
多木浩二 ちくま学芸文庫、2008 年
..........................................................................................................................[
目の隠喩 視線の現象学]
多木浩二 岩波現代文庫、2006 年
27 に所収の飛嶋隆信氏の論文は、貴重なマリオ・シローニ論。シローニはファシズムの「かたち」
を方向づけた画家。28 は、シローニも活躍した「ファシズム革命展」や《カーサ・デル・ファッ
ショ》で名高い建築家、テラーニをめぐる論文集。収録された論文から示唆を得つつも、
『芸術政治』
ではむしろ、建築を「かたち」ではなく「ことば」から理解しようと試みた。そのとき急浮上して
くるのが、『芸術政治』の第 4 章に登場する夭折の建築批評家、エドアルド・ペルシコ。 29 にもペ
ルシコ論が含まれているが、解釈はわたしものとかなり異なっている。切り口によって見え方がが
006
003
(そ
06 は、軽さ、速さ、正確さ、視覚性、多様性、
して書かれなかった)一貫性をめぐる、絶筆と
なった講義ノート。なかでもペルセウスの「軽さ」
は表象にとっての至言。
「風と雲の上に身を支え、
鏡が捉えた映像=イメージのなかでのみ正体を
現すものに目を向ける」。そのカルヴィーノは、
たとえばグラムシやクローチェをどう捉えてい
たのか。07 に収録されたエッセイたちを「本来
あるべき時空間のなかにいったん遠ざけて」読
まなくてはならない。
距離と様式。08 は、ここからファシズム時代の
イタリアを考えられはしないかと思いつかせた
本。様式をめぐる新旧の言説を横断していく第
らりと変わるのが、イタリア・ファシズム。30 と 31 は、ペルシコを理解する助けとなった建築書。
6 章「様式̶̶包含と排除」は圧巻。
ルシコの批評活動。
の編纂が、今後のわたしの仕事。09 は、手本と
あれほど他国の建築事情に精通しながらも、
「趣味」概念を多用するなど、一筋縄ではいかないペ
建築がファシズム芸術を牽引したのは紛れもない事実で、実現された建物は「畸形のモダニズム」
と呼ばれもする。だが、同時代の「かたち」のありようを総覧すると、それらはむしろアール・デ
コの世界像に近いのではないか。たとえば、32 ∼ 34 の図版を眺め、さらにシローニの壁画やイタ
リアの建築雑誌を見直すとなおさらそう思えてくる。ファシズム時代のイタリア建築は、いわばハ
近代イタリアの芸術や文学にまつわる一次資料
なる着実な成果のひとつ。10 のヴィットリーニ
は、戦前美術批評も多く手がけていた。11 は、
イタリア現代美学の礎となった両雄を抱き合わ
せた画期的論集。だが、ここにジョヴァンニ・ジェ
イ・モダニズムの観点から論じられることが多かったが、この時代に一世を風靡したアール・デコ
ンティーレの名をあえて付け加えておく。ファ
「あ
術政治』のペルシコ論
(第 4 章)
だとも言える。35 と 36 でも多木浩二氏が繰り返し述べるように、
る時代の抱くまなざしやその崩壊は、芸術史や思想史の主題になりにくいものにこそ刻まれている
検討がはじまったばかり。ただし、12 のネグリ
は例外的に、ジェンティーレを意識的に継承し
という風俗現象から切り込んでいくことも決して不可能ではないだろう。そのささやかな試論が『芸
のではないか」
。ここでもさらなる課題が浮かび上がってくる。
シズムを奉じたこの哲学者については本格的な
てきた。
スピノザとわたしたち]
アントニオ・ネグリ 信友建志訳、水声社、2011 年