小児用肺炎球菌ワクチン(プレビナー)の接種を始めます 1.肺炎球菌とは

小児用肺炎球菌ワクチン(プレビナー)の接種を始めます
小児の細菌性髄膜炎の原因菌は下記のとおりで、肺炎球菌はインフルエンザ桿菌(H1b 菌)についで2位を占めてい
ます。
1.肺炎球菌とは?
肺炎球菌は、子どもの細菌感染症の二大原因菌の一つ
肺炎球菌はまわりを莢膜(きょうまく)という固い殻に覆われた菌で、人間の免疫が攻撃しにくい構造をしています。とくに小さ
い子ども、とくに赤ちゃんのうちは、まだこの細菌に対する抵抗力がありません。このため、細菌性髄膜炎など症状の重い病
気を起こしたりします。風邪やインフルエンザにかかった後に、肺炎を起こしたり、中耳炎を起こすのはこの菌であることが多
いのです。肺炎球菌の写真
2.かかりやすい年齢は?
肺炎球菌の感染症は、とくに子どもと高齢者が要注意
縦軸に肺炎球菌による重い感染症の頻度を、そして横軸に年齢をとったグラフを書くと、U 字型のカーブになります。
つまり、肺炎球菌による感染症にかかりやすいのは、特に免疫力の弱い小さな子どもやお年寄りです。この傾向は世
界で共通してみられるもので、このため世界的には子どもやお年寄りに肺炎球菌のワクチンを接種して、肺炎球菌に
よる感染症の予防をしています。
■ 日本の発症分布
生方公子: 日医雑誌 138(4): 715, 2009 より引用改変
■ アメリカの発症分布
Robinson KA, et al. JAMA. 2001;285:1729-1735 より引用改変
3.肺炎球菌による子どもの病気は
肺炎球菌は細菌性髄膜炎、菌血症、肺炎、中耳炎などを起こします
肺炎球菌は文字通り、肺炎の原因になる細菌です。でもそれだけではありません。ほかにも、細菌性髄膜炎、菌血症、中耳
炎といった病気を起こします。
肺炎球菌というのは実はそこら中にいる菌で、子どもの多くが鼻の奥や気道に保菌しています。保菌しているだけでは問題
ありませんが、残念ながら小さな子どもは肺炎球菌に対する抵抗力をもっていませんので、比較的簡単に肺炎球菌に感染し
てしまいます。カゼをひくと中耳炎になることがありませんか?これはカゼによって粘膜の抵抗力が落ちると、耳で感染症を
起こすためです。このように、肺炎球菌は、耳で感染症を起こすと「中耳炎」に、肺に入り込んで「肺炎」に、血の中に入り込ん
で「菌血症」に、脳や脊髄を覆っている髄膜の中に入り込んで「細菌性髄膜炎」を発症します。
■ 肺炎球菌によるおもな子どもの病気
これらの病気は、もちろん他の細菌やウイルスが原因で起こることもありますが、肺炎球菌が主要原因であることがほとんど
で、菌血症では 80%(1 番目)、肺炎の場合は 30%(1 番目)、細菌性髄膜炎では 20-30%(2 番目)、細菌性の中耳炎の場
合は 30%(2 番目)が肺炎球菌が原因となっています。
4.肺炎球菌感染症
どうしたらよいの?
肺炎球菌による病気は抗生物質で治療しますが、現在抗生物質が効きにくい耐性肺炎球菌が増加し、治療が困難にな
ってきています。ですから子どもの肺炎球菌感染症は予防が大切です。その予防ワクチンが子どもの肺炎球菌ワクチ
ンなのです。子どもの肺炎球菌感染症は、小児用の肺炎球菌ワクチンで予防できます。小児用の肺炎球菌ワクチンは
2009 年現在 100 カ国近くで使われていて、定期接種をしている国では細菌性髄膜炎などの重い感染症の発症率が 9
8%下がりました※。子どもの肺炎球菌感染症は、小児用の肺炎球菌ワクチンで予防できます。小児用の肺炎球菌ワ
クチンは 2009 年現在 100 カ国近くで使われていて、定期接種をしている国では細菌性髄膜炎などの重い感染症の発
症率が 98%下がりました※。
■ 定期接種開始前と開始後の発症率※の比較(アメリカ)
MMWR 2008; 57(06):144-148 より作図
※ワクチンに含まれている肺炎球菌の 7 つの型による感染症の発症率
2007 年に、WHO(世界保健機関)は小児用の肺炎球菌ワクチンを世界中で定期接種とするように推奨を出しました。それだ
け先進国・発展途上国を問わず各国で肺炎球菌による病気の被害が多いためです。
小さな子どもは肺炎球菌に対して抵抗力をもっていませんが、小児用の肺炎球菌ワクチンを接種すると抵抗力ができるよう
になるので、一番この病気にかかりやすい年齢の間、肺炎球菌からお子さんを守ってあげることができます。
神谷斉先生の説明
小児用肺炎球菌ワクチンと Hib ワクチンの導入効果は明白である。しかしいくら良いワクチンでも、接種率が高くならなけれ
ば意味がない。わが国でワクチン接種率を高め、その接種率を維持するためには大きな課題がある。
■
罹る前に予防するのが今後の感染症対策のあり方
現在、感染症の治療においては薬剤耐性化が大きな問題となっている。かつては肺炎球菌による肺炎や菌血症、髄膜炎に
罹ったとしても、ペニシリンを投与することで、高い治癒率が期待できた。しかし最近では、抗菌薬に対する細菌の耐性化が
進み、抗菌薬を投与しても感染が遷延化して、なかなか治癒しないことも多い。そうした状況を鑑みると、感染症は罹ってか
ら抗菌薬で治すのではなく、罹る前にワクチンで予防するのが今後の医療に求められる方向性だと考えられる。
このたび、日本でも小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー®)が承認された。プレベナーは、約 90 種類ある肺炎球菌の血清型
のうち、小児の侵襲性肺炎球菌感染症に高頻度で認められる 7 種類の血清型をカバーする(図 1)。日本で一足先に承認さ
れ接種開始されている Hib ワクチンと同様、海外では既にその導入効果が認められているワクチンである。
■米国ではプレベナーの定期接種後に侵襲性肺炎球菌感染症が激減
プレベナー®は、これまでに世界 100 カ国近くで発売されている。このうち北米や欧州諸国を含む世界 43 ヵ国ではいわゆる定
期接種が行われている(2009 年 12 月現在)。米国では 2000 年以降、プレベナーの定期接種が行われてきたが、その結果、
5 歳未満の小児における侵襲性肺炎球菌感染症の発症率は著しく減少し(図 2)、プレベナーがカバーする 7 種類の血清型
による発症率は 2004 年には 97%にまで減少した。
また米国では同時期に、65 歳以上の高齢者においても侵襲性肺炎球菌感染症の発症率が 65%低下している(図 3)。65 歳
以上の高齢者はプレベナーの接種対象ではないが、これは小児での肺炎球菌感染例が減ったために、小児を感染源とした
家族内・集団内感染が減ったことに起因する間接的な効果(herd immunity)の影響だといわれている。このデータはつまり、
乳幼児にプレベナーの接種をすることで、社会全体の肺炎球菌感染症の発症率を抑制できることを示唆している。
■“髄膜炎セット”という考えの下、Hib ワクチンと肺炎球菌ワクチンの同時接種を
プレベナーの接種スケジュールは、生後 2~3 ヵ月から 6 ヵ月にかけて 3 回、その後、12~15 ヵ月に 4 回目(追加接種)を接
種するスケジュールである(図 4)。細菌性髄膜炎の発症を効率的に予防するためには、Hib ワクチンとプレベナーを同時に
接種することも考慮したい。現在、保護者の中には情報不足のため、Hib ワクチンさえ接種していれば細菌性髄膜炎が防げ
ると思っている方も多いと聞くが、細菌性髄膜炎対策を考えれば、両方のワクチンを“細菌性髄膜炎セット”としてとらえ、両ワ
クチンの必要性を保護者にも伝える必要がある、また、生後 3~6 ヵ月の期間には定期接種である DPT ワクチンの接種が 3
回あるため、ワクチンの接種率を高めるためには、Hib、肺炎球菌、DPT の 3 本のワクチンを同時接種するのがよい方法だと
考える。
なお、プレベナーも Hib ワクチンも接種回数については、生後 2-3 ヵ月から開始した場合には 4 回接種するが、年齢が上が
れば接種回数を減らしても、十分な免疫が獲得できることが分かっている(プレベナーの接種回数は図 4 を参照)。しかし、回
数を減らせるからという理由だけで接種時期を遅らせて、その間に重篤な感染症に罹ってしまったら意味がない。成長してか
らの接種は、病気などの理由で生後 3 ヵ月から接種できなかった場合を想定したものだと考えたい。
日本における接種スケジュール
標準:2~7ヶ月から始めて4回接種
1.初回接種
①2~7 ヵ月で接種開始:4週間間隔で3回接種
②7~12 ヵ月で接種開始:4週間間隔で2回接種
③12~24ヶ月で接種開始:60日以上の間隔で2回接種
④24ヶ月以上9歳まで:1回接種
2.追加接種
①2~7 ヵ月で接種開始:生後12~15ヶ月に1回接種
②7~12 ヵ月で接種開始:初回の2回目から60日以上あけて、1歳前後で追加接種
③12~24ヶ月で接種開始:なし
④24ヶ月以上:なし
通常、生ワクチンの接種をした場合 27 日以上、不活化ワクチンの接種を受けた場合 6 日以上間隔をおいて本剤を接種しま
すが、医師が必要と認めた場合には、同時に接種することができます。
■国民の疾患教育の充実がワクチン接種への理解を深める
わが国でも、Hib ワクチンとプレベナーの接種率が高まれば、小児期の重篤な細菌感染症の発症率は著しく低下すると考え
られる。しかし、接種率を高めそれを維持していくことは、今後に残された大きな課題である。一般の治療薬と違い、ワクチン
は健康な児に接種するため、発熱や副反応に対する懸念が大きく、それが予防接種を普及させる上で大きな障害となってい
る。
日本での予防接種の普及をさまたげる背景の一つには、国民に対する疾患教育の欠如がある。日本は国際的にみて、啓発
活動の必要性に関する認識も活動レベルも非常に遅れている。マスコミの報道の姿勢にも問題があり、かつては死者が 1 例
でると大きく取り上げるが、その裏で 99 例の命が救われていることは報道してこなかった。しかし、最も変わらなくてはならな
いのは学校教育である。一般の方が学校教育を通じて病気に対する知識を身に付けることができれば、ワクチン接種に対
する理解も深まると考えられる。厚生労働省と文部科学省が協力して国民に対する疾患教育の推進にあたることを強く期待
する。
現時点で考えられることとして一つの効果的なアプローチは、母親たちのコミュニケーションを盛り上げることである。Hib ワク
チンの例などをみると、じつは小児科医が母親にワクチン接種の重要性について時間をかけて説明するよりも、母親どうし
の会話の中で、「ワクチンを接種したら病気に罹らなかった」「少し発熱したけど、髄膜炎に罹ることを考えたら、ワクチン接種
はお勧めよ」と話題になり、お互いに伝えあってもらう方が影響力は大きいのではないかと考えられる。
しかし最終的には、国レベルにおいて、ワクチン接種によって予防できる疾患があることを社会に広く認知させる啓発活動を
行うことが大変重要である。
■ワクチン接種に要する費用を支援する制度が必要
Hib ワクチンとプレベナーは、どちらも複数回の接種が必要であり、任意接種では家庭の負担額はかなりのものになる。どち
らのワクチンも海外では多くの国で接種費用を国が補助しており、わが国でもワクチン接種率を高めるように何らかの制度を
整えることが必要である。
ワクチン接種に要する費用については、ワクチンを無料化する方法もあるが、医療財源を考慮すると、個人的には保険適応
にして一定の負担を国民に求めることも選択肢になりうると考えている。自分の体は自分で守るという発想は重要であり、将
来的に感染症に罹らないで済むことを考えると、自分や子供たちへの投資と考えることもできるだろう。
有効性の高いワクチンが利用可能となっても、それを普及させなければ宝の持ち腐れである。ワクチン接種率を高め、小児
の細菌性髄膜炎を効率的に予防するためには、国民の意識や国の制度を変えていくことが非常に重要である。