郵政民営化の金融市場等への影響について(中島氏提出資料)

資料2
郵政民営化の金融市場等への影響について
2007年8月2日
みずほ総合研究所
専務執行役員チーフエコノミスト 中島 厚志
1.日本経済の資金循環
Mizuho Research Institute Ltd
○ わが国の資金循環では、企業部門は90年代半ば以降資金余剰に変化しており、「金余り感」が強い状況
・ また、家計の資金余剰減少は一服しており、全体としての資金不足は公的部門と海外部門に存在
〔 経済主体別の資金過不足 〕
(対名目GDP比率:%)
14
12
資金
余剰
個人
10
8
6
4
海外
2
0
-2
-4
資金
不足
-6
-8
企業
政府
-10
-12
65年度
(注)国鉄、道路公団など民営化の影響を除いた値。
(資料)日本銀行「資金循環」
70
75
80
©
85
90
95
00
05
1
Mizuho Research Institute Ltd
○ 個人金融資産の行き先を最終運用先別に見ると、全体の44%が公的債務に向かっており、民間企業向
け(民間企業向け貸出+直接・間接株式保有)は24%に止まる
〔 個人金融資産の最終運用先(2006年) 〕
(単位:兆円)
資金循環06
<中間媒介機関>
個 人 金 融 資 産
・預金、郵貯
・株式
・年金、保険、投信
・現金、その他
1,541
736
109
466
230
民間金融機関
<最終運用先>
民間企業向け貸出
152
公的債務
国債・地方債・政府機関債:214
678 財政投融資(郵貯・簡保):274
民間借入:191
財政投融資
機関投資家
直接・間接株式保有
219
郵貯:141
その他運用先
492 現金、対外証券投資等
2
©
Mizuho Research Institute Ltd
・ もっとも、最近5年間では、個人金融資産純増分はほとんどその他運用先(個人向けローン、現金、対
外証券投資など)に向かっており、公的債務は純減
――― 企業部門に対しては、貸出は引き続き純減ながら、直接間接の株式保有が増加
〔 個人金融資産の最終運用先(最近5年間の純増減) 〕
【残高差額】(01FY-06FY)
<中間媒介機関>
個人金融資産158
個 人 金 融 資 産
・預金、郵貯
・株式
・年金、保険、投信
・現金、その他
(単位:兆円)
<最終運用先>
最終運用先158
民間金融機関
158
▲7
45
56
64
民間企業向け貸出
▲ 37
公的債務
国債・地方債・政府機関債:54
▲ 14 財政投融資(郵貯・簡保):▲54
民間借入:▲14
財政投融資
機関投資家
直接・間接株式保有
54
郵貯:84
その他運用先
156 現金、対外証券投資等
3
©
Mizuho Research Institute Ltd
○ 企業部門で見ると、有利子負債の減少幅は徐々に縮小しつつある一方、投資は概ねフリーキャッシュフ
ローの範囲内を維持
・ 営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローは、ここ2年余りの旺
盛な企業の設備投資を映じて減少しているものの、依然としてプラス。大企業でもほぼ同様の傾向
〔 企業のフリーキャッシュフローの推移 〕
80
(兆円)
【 全産業:全規模合計 】
60
40
20
0
-20
-40
有利子負債増減額
営業キャッシュフロー
投資キャッシュフロー
フリーキャッシュフロー
-60
-80
-100
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
(注)4四半期累計ベース
(資料)財務省「法人企業統計季報」
©
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
4
Mizuho Research Institute Ltd
○ 景気拡大は続くものの、企業の外部資金需要伸び悩みを映じて金融機関の貸出残高の伸びは頭打ち
・ 預貸利鞘の推移で見ても、金利上昇局面とはなっているものの、利鞘はほとんど改善しない状況が持
続しており、いままでとは異なる金融環境
○ 企業の外部資金需要の伸びが鈍い中、金融機関の預証率は高止まりしており、貸出が伸び悩む一方
で、今後とも債券投資需要は強い見込み
〔 銀行・信金の貸出残高 〕
〔 全国銀行の預貸利鞘の推移 〕 〔 全国銀行の預貸率・預証率推移 〕
4.5
(%)
3.0
銀行・信金計(前年比)
4
2.0
1.0
80%
預金債券等利回り
70%
3
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
60%
2.5
50%
1.5
30%
1
20%
0.5
10%
(資料)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」
5
©
07/3
06/3
05/3
04/3
03/3
02/3
01/3
00/3
99/3
98/3
97/3
96/3
07/3
06/3
05/3
04/3
03/3
02/3
01/3
00/3
99/3
98/3
97/3
95/3
0%
0
96/3
07/02
06/10
06/06
40%
95/3
(資料)日本銀行「貸出・資金吸収動向等」
06/02
05/06
05/10
05/02
04/10
04/06
03/10
04/02
03/06
03/02
02/10
2
02/06
▲
▲
▲
▲
▲
▲
90%
貸出金利回り
3.5
預貸率
預証率
100%
預貸金利鞘
Mizuho Research Institute Ltd
○ 一方、家計の資金余剰幅は所得回復を背景に拡大に転じており、家計金融資産は06年20兆円の純増
――― 純増内訳は従来とは様変わりしており、もっぱら現預金以外が純増、より多様な金融商品や市
場などの提供が求められる時代に
・ 内外利回り格差などから、家計の外国資産選好も強まっており、 06年には約10兆円増加
――― 近年の外国資産純増の特徴は外貨建て投資信託がもっぱら増加している点にあり、主として
アジア株式市場での運用に重点
〔 家計の外国資産残高の推移 〕
〔 家計金融資産純増減の推移 〕
(兆円)
40
45
運用増加額合計
現預金以外
30
40
(兆円)
投資信託受益証券
対外証券投資
外貨預金
35
20
30
現預金
25
10
20
0
15
10
▲ 10
5
▲ 20
0
98年 99
00
01
02
03
04
05
(資料)日本銀行「資金循環」
©
06
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
(注)投資信託受益証券は、家計が保有する投資信託受益証券の残高に、投資信託全体の
資産に占める外国資産(外貨預金・対外証券投資)の比率を乗じて算出した推計値
(資料)日本銀行「資金循環統計」
6
2.郵政民営化で生じうる資金移動とその影響
Mizuho Research Institute Ltd
○ 郵便貯金銀行が承継する運用資産195兆円は、86.4%が債券(うち76.9%が国債)と債券中心の構成
――― 一方、国内銀行の運用資産は6割が貸出
〔 郵貯銀行の運用資産は4分の3が国債 〕
貸出金
2.1%
外債等
1.6%
社債
3.7%
地方債
4.2%
〔 国内銀行の運用資産は6割が貸出 〕
現金預け金
2.9% 金銭の信託(株式)
その他
3%
1.2%
現金預け金
3.4% コールローン, 2.5%
預託金
7.2%
株式
5.3%
国債
12.6%
ゆうちょ銀行
運用資産
195兆円
(07.10.1)
国内銀行
⑨
運用資産
671兆円
(07.3.31)
貸出金
61.6%
国 債
76.9%
( 注 ) 1.預託金と借用金(24兆8,100億円)は相殺
2.郵便局株式会社預け金を除く
(資料) 日本郵政「承継会社が行う業務の運営の内容及び見通し」
地方債
1.3%
社債
4.6%
外債等
5.6%
(注)現金預け金、コールローン、買現先、債券貸借取引支払保証金、
買入金銭債権、金銭の信託、有価証券、貸出金の計
(資料) 日本銀行
©
7
Mizuho Research Institute Ltd
【試算の前提】
ゆうちょ銀行の5年後の運用資産が下記の前提の下で国内銀行と同様のポートフォリオ構成となる場合
①特別貯金の再預入が進んで預金残高が164兆円となった場合(日本郵政の試算通り)で、5年後の特別
貯金残高46兆円がすべて国債で運用され、それ以外の118兆円が国内銀行と同様のポートフォリオとな
る場合
②07年10月1日時点の旧勘定がすべて国債に振り替わり、運用資産が62兆円にとどまった場合
【金融市場への影響】
①国債残高純減は▲17.8兆円/年、貸出増加は+13.7兆円/年と巨額。なお、株式増は+0.8兆円/年。
②国債残高純減は▲1.9兆円/年と比較的マイルド。一方、貸出増加は+6.8兆円/年とかなり巨額。なお、
株式増は+0.2兆円/年と試算され、市場への影響は極めて軽微
⇒
ゆうちょ銀行の運用資産変化は金融市場への影響が大きく、国債純減、貸出増いずれの面でも市
場に配慮した漸進的な資産構成の変更が不可欠であり、当面資金の出し手としての機関投資家
的役割が大いに期待される
8
©
3.金融システムへの影響
Mizuho Research Institute Ltd
○ 郵政民営化による金融二社の発足は、金融システムにも大きな影響を与える可能性大
①国内貸出市場でのオーバーバンキングを加速させる懸念はあるも、シンジケート・ローンを通じての貸
出市場参加は、貸出競争激化による貸出利鞘圧縮を回避させるとともに、シンジケートローン市場の育
成に寄与する
②わが国金融システムにとって喫緊の課題となっている市場型間接金融モデルへの移行を加速させる
〔 市場型間接金融モデル 〕
市場型
間接金融
投資信託
証券化
融資
銀行
アレンジャー
預金
預金
銀行
シンジケートローン
組成
銀行
金融機関等
投資
投融資
投資
SPC
・
信託
投資
銀行・信託銀行
市
場
資金の受け手
シンジケー
トローン
預金
資金の出し手(預金者・投資家)
間接金融
証券会社
株式・社債
等
投資
直接金融
証券会社
9
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4.コメント
Mizuho Research Institute Ltd
○ 金融二社が漸進的に資産構成を変化させることにより、資金が公的部門から民間部門にシフトす
ることが見込まれ、わが国経済活性化への寄与が期待される。
○ しかし、最終需要者の資金需要動向から見れば、今後とも公的部門の資金需要は大きく、企業部
門の借入需要は少ないと見込まれ、株式市場への資金供給が一層進む状況にもある。
○ 急激なゆうちょ銀行の資産構成の変化は極めて大きな影響を金融市場に与えかねないことも勘案
すると、当面は緩やかに資産構成をシフトさせることが不可欠であり、貸出に参入するとしても、シ
ンジケート・ローンを通じて積み上げるとともに機関投資家的な資金供給者として市場型間接金融
モデルの発展に寄与することが望まれる。
10
©
Mizuho Research Institute Ltd
○ 一方、ゆうちょ銀行は今後わが国家計の金融資産形成に大きな役割を果たす立場にもある。個人金
融資産は安全資産のウエイトが際立って高いことからすれば、引き続き国民の安全資産の形成に寄
与するとともに、リスクには配慮しつつも、「貯蓄」から「投資」への流れを加速させ、より家計が金融
所得を得られる運用構造に持っていく役割も期待される。
ちなみに、主要先進国での家計の金融資産の内訳ではわが国の預貯金割合が著しく高い。また、
日米の賃金・俸給に対する利子配当収入の割合では、日本4.4%(2005年度)に対して米国27%
(2005年)となっている。
〔 配当・利子収入の賃金・俸給に対する割合 〕
〔個人金融資産構成比の国際比較(06年) 〕
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
(日本)
100%
(米国)
(10億ドル)
(兆円)
51%
日本
米国
13%
7%
2% 4%
12%
31%
14%
5%
26%
3%
32%
25
20
25%
配当収入額(左)
利子収入額(左)
配当収入比率(右)
利子収入比率(右)
1800
25%
1600
20%
20%
1400
1200
英国
ドイツ
26%
1% 4%
11%
34%
11%
15%
10
10%
3%
55%
12%
15
13%
1%
30%
5
5%
800
29%
現金・預金
1%
債券
9%
投資信託
20%
株式・出資金
5%
36%
保険・年金準備金
その他
0%
96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年度)
(注)比率は賃金・俸給に対する比率
(資料)内閣府よりみずほ総合研究所作成
10%
600
400
200
フランス
15%
1000
0
配当収入額(左)
利子収入額(左)
配当収入比率(右)
利子収入比率(右)
5%
0%
96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
(注)比率は賃金・俸給に対する比率
(資料)BEAよりみずほ総合研究所作成
(暦年)
(資料)日本銀行、FRB、英国国家統計局、ドイツ連邦銀行、フランス銀行
11
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Mizuho Research Institute Ltd
○ また、ゆうちょ銀行が、貸出のみならず証券市場などの市場を通じた資金供給も活発化させていくこと
は、わが国にとって望ましい資金循環を形成していくためにも不可欠である。公的部門から企業部門へ
の資金シフトも不可欠ながら、リスクマネー創出や国際的に劣後しつつある国内金融市場の拡大など
も必要である。
○ さらに、わが国から海外への証券投資資金が従来欧米を経由してアジア地域に還流してきた。アジア
経済は今後の日本経済の成長にも大きな影響を及ぼす地域であり、アジアに立地するわが国としてア
ジア地域への成長貢献を一層図るためにも、金融二社がその投資資金をよりアジアに回す方向も考え
ていくべきである。
以
上
12
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© みずほ総合研究所
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