家族 で 考 え た お 通 夜 ﹁ど う ぞ 父 に 逢 っ て 下 さ い 。 そし て 私 た

理想の葬儀のかたち①
体験者が語る主張ある葬儀
柴田典子
エンディング・プランナー
最愛の家族を、
自分たちらしく見送りたい。
その葬儀の基本の思いに立ち返っ
て、次々とアイディアを打ち出して、参列者にも遺族にも納得のいく葬儀を
しく︿家族を送る﹀方法はいくら
﹁その年の夏、父は熱中症にかか
よる事故で亡くした。
実践した人たちがいる。彼らの体験談から〝理想の葬儀のカタチ〟を考える。
でもあるはず﹂と語った。
鯛焼きを買ってこい。浅草のあの
﹁食べること﹂でした。
﹁ 根津の
状態の望月さんの唯一の楽しみは
きだし高度救急救命センターに運
止から十数分後には再び心臓が動
﹁迅速な救急救命のお蔭で心肺停
おこし、意識を失って倒れた。
ような意見が出たという。
を挙げたところ、左上の一覧表の
族それぞれが、父の葬儀に望む事
たのです﹂と柴田さんは言う。家
合うだけの十分な時間が与えられ
り ヵ月半入院、それまで元気に
持ち続けていた。
じっくり考えられた 日間
理想の葬儀の形を
﹁葬儀は無駄だとか、周りに迷惑
人数で葬儀を済ませようとする方
エンディングデザインコンサル
タントの肩書を持つ柴田典子さん
エンディングコンサルタントとして理想の葬儀のための
提言に奔走している。
をかけたくないからできるだけ少
しばたのりこさん◉東京生まれ。主婦として働きながら、
葬儀社に就職。 後に、電鉄グループが葬儀業界に
参入した際、葬儀会館の支配人を任され現場で手腕
をふるう。 05 年に独立して、オフィス・シバタを設立。
は、かつて遺族や会葬者に寄り添
う葬儀のプロデュースを手掛けた
が増えています。でも、本当にそ
店の炒飯を土産に買ってこい⋮⋮
ばれましたが、心臓が止まるのは
ていただく。その後に、父の写真や思い出の品を見なが
週間後に決定し、その間、望月
2
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故人らしい式にする
ちょっとした工夫の数々
つれた顔だちも復元された。
なり、長期の救命医療によってや
食事とトイレ以外はほぼ寝たきり
っている状態で帰ってきました﹂
。
おむつになり、少し認知症も始ま
散歩していた父は、やっと歩行し、
1
思いを形にしてくれるであろう葬
葬儀業界のコンサルタントをし
そこで、日程は僧侶と喪主であ ていた柴田さんには、自分たちの
る弟の仕事の都合を考慮して死後
と父のワガママは次から次へと続
家族だけで済ます葬儀に違和感を
柴田さんは 年前の冬、当時
を差出し、焼香をして帰る葬儀や、 うでしょうか? 華美にせずとも
歳の父親、望月福男さんを誤嚥に
お金をかけなくても、自分たちら
経験から、訃報に接した人が香典
25
時間の問題と告げられました﹂
3
き、家族総出で希望を叶えていま
そう言われながらも望月さんは
驚異的な生命力で 日間生き続け
25
した﹂
葬儀に参加して、自分たちの手で父を送りたい。会葬者
の方たちには、父と対面し私達と父の事を語り合って一
・家族全員の意見の一致は「父が喜ぶ葬儀で送りだそう」
緒に送り出して欲しい」
(父と対面し語り合っていただく為に)
通夜の形
・僧侶の読経時間を通夜開式の 1 時間前に開始して親族だ
けで先に終了
・通常の通夜に時間には式場の中央に父の棺を安置し蓋を
あけ、父と対面していただき、焼香をして折鶴を手向け
ら、家族全員と会葬者との語り合いの場を設ける
・好物の鯛焼きや黒飴を食べていただく
・通夜の振る舞いにご案内する
・帰りにお好みの会葬品を選んでいただく
2
期間、保存が可能に
4
セスの良い立
野というアク
も来やすく、
上
住む地元から
た望月さんの
備えている。
ま
い宿泊施設も
の居心地の良
な、
ホテル並み
妊婦にも安心
取得し、
乳児や
館業の許可を
場だ。また、
旅
を持ち、祭壇を必要としない葬儀
お通夜は”感謝式”として、故人とつながりのある方たちに
遺族から感謝の思いを伝える場となった。
って、 週間もの長
スペースアデューは、規模やス
処理を行う事によ
タイルの異なる フロアーの式場
である。
儀社の目星は付いていた。上野駅
さんのご遺体を維持するためにエ
娠中の嫁が気軽に休める場所が欲しい」
最後は静かに息を引き取った。
・そして私は「遺族がお客様然として座っているのでなく、
その日も昼食を食べ終わった直
後、﹃どうしても味噌田楽が食べた
・京都に住む妹の希望は「出産したばかりの子供夫婦や妊
ンバーミングを行うことになった。 近くにある﹁スペースアデュー﹂
したい。年末の繁忙期なので土日の葬儀にして欲しい」
﹁その間、私たち家族は、自分た
・弟の希望は「父の会社の後継者として、それなりの式を
い﹄と言いだし、出前で届いた味
会葬者に直接お礼を言って欲しい」
エンバーミングという施術で防腐
・母の希望は「父の好きなカサブランカの花で送りたい。
ちが望む〝父の葬儀の形〟を語り
家族の希望
噌田楽を食べ始めた途端に誤嚥を
理想の葬儀とは
第一章
6
7
自分の価値観で創る
家族で考えたお通夜
﹁どうぞ父に逢って下さい。
そして私たちからお礼を
言わせて下さい﹂
理想の葬儀のかたち
理想の葬儀のかたち
考えるといくらでもアイデアが出
︵笑︶
、父がどうすれば喜ぶか、と
孫や兄弟たちが担当した。
祭壇は作らず、正面に大きく引
き伸ばした故人の写真を 枚貼り
付け、その前に、供花をカサブラ
宅に戻って来た父は、遺影写真の
が、エンバーミングが施されて自
体全体に壊死を起こしていました
ました。 日間の仮死状態は父の
は移送され、エンバーミングをし
﹁病院からスペースアデューに父
ミング施設があったのである。
ッセージをお願いに廻ったり、望
た看護師さんやヘルパーさんにメ
る折鶴を折ったり、お世話になっ
通夜の日にスペースアデューに
到着した家族は、式場内に望月さ
う。家族は、その横で、棺に入れ
も起きだしそうな様子だったとい
用のカツラも装って、まるで今に
いた。紬の死装束を身に付け、愛
たが、その安らかな姿に誰もが驚
人にとってもアクセスの便が良い。
その間、仲の良かった友人やご
近所の方が望月さんをお参りに来
り、頂いたメッセージを展示して、 にしました。私たち遺族は会葬者
んの写真を貼り付け、愛用品を飾
さんは言う。
面して欲しかったのです﹂と柴田
顔でなく、いつもの元気な父と対
ました。会葬者の方にはやつれた
月さんのおじさん〟と慕われてい
ドが高く、母の友人のからも〝望
に気兼ねなく、読経に没頭できま
遺族のみで読経を終えてしまう事
から、そのうちの 時間を使って
親族が一丸となって葬儀の演出を
演出に。この係は孫が引き受けた。
どちらか好きな方を選べるような
ンカの花かごにして飾りつけた。
そのままに、少し若返って綺麗な
月さんの好物の鯛焼きや黒飴を用
鯛焼きや黒飴を並べた。このコー
した﹂
。
ル﹂の 種を用意して、会葬者が
かな事が好き、おしゃれでプライ
会葬者が持ち帰る会葬品も﹁ブ
ランデーケーキ﹂と﹁今治のタオ
顔になっていました。そしてその
意し、葬儀に備えた。
ナーの説明や接待は、望月さんの
そして何よりも、館内にエンバー
後の数日間、家族はあの日以前の
﹁とにかく我儘な人でしたから
担ったのである。
﹁親族は 時間前には集合します
﹁父を知らない私の友人にも、父
式をして出棺した。
れも大掛かりなものではなく、ほ
の人となりを知ってもらい﹃こう
たそれまでの時間を尊重して、故
柴田さんの口から次々に飛び出
すオリジナルなアイディアは、ど
んのちょっとした工夫や発想の転
いうお父さんがいて今のあなたが
人は、葬儀という現実に直面した
ち込んでいいのかどうか、多くの
まったく違ったお通夜に感動した、 かな一面を実感している。
めてよ、と驚く人たちも。でも、
て言ってもらえて。こんな儀式初
﹁葬儀に呼ぶと迷惑になるから、
葬儀であれば、家族葬であれ、規
る事であり、その事を共有できる
人を送る。自分たちらしく故人と
来る別れの日。生きて関わって来
換で実現できるものばかり。しか
関われる最後で最大のチャンスで
時には思い当たらないものばかり
会葬者全員でお見送りした気分に
手っ取り早く済ませたい。本当に
模の大きな葬儀であれ、理想の葬
儀の形なのだ。
らなかった故人の
なれば、家族が知
事ができる。言う
た父の姿と出会う
たちの知らなかっ
ちと出会い、自分
も、故人の友人た
しまう。遺族の側
言葉につい涙して
としても、遺族の
く葬儀に参列した
たる深い思いもな
思うんです。さし
そうでしょうか?
人間の気持ち
は、そんなにシンプルではないと
性こそが、最も葬儀社に求められ
である。
﹁決まった方法なんて、
な
なれた、
といった声もありました﹂
だと思うのは会葬者が戸惑っ
たり、
困ったりしない事。多く
の会葬者は普通の式だと思っ
て来るでしょう。だから、あ
れ、普通と違う⋮⋮と混乱し
ないように、受付時に、わかり
やすく式の流れを説明した紙
を会葬者に配布したんです﹂
儀式的な部分をシンプルに
した分、斎場内に設けたギャ
ラリーに展示された、故人の
思い出の写真や家族やヘルパ
ーさんらが故人に向けて書い
た手紙の展示を眺め、故人が
いんですよ。でも、私が最も大切
自分らしく故人と関わる
最後で最大のチャンス
し儀式にそのイレギュラーさを持
徹底して、自分たちのイメージ
いるんだって、納得したわ﹄なん
にこだわった葬儀をプロデュース
ある。儀礼ではなく心を。その感
誰のための葬儀なのか。そのシ
ンプルな問いに立ち返る。いずれ
1
し尽くした柴田さんは、葬儀の豊
う。
父と一緒に過ごす事ができたので
てくるのです。人に囲まれて賑や
7
のチャンスが葬儀なんです﹂
す﹂
故人の好物の鯛焼きと黒飴を用意。会葬者に振
る舞うのは孫たち。
翌日の葬儀告別式は、ごく普通の
故人と家族や友人たちの思い出の写真やゆかりの品々
を展示したスペースで、話が弾む。
合う時間がゆっくり過ごせたとい
地にあることから、遠方から来る
居心地よい家族用の控えスペース。宿泊用の和室が隣
接し、檜風呂なども備えている。
好きだった鯛焼きや黒飴を味
一面を知る、最後
好きだったカサブランカに囲まれた故人の写真。チェロの生演奏
が会葬者の気持ちに寄り添う。
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家族やヘルパーさんたちが、故人への言葉を思い思
いに綴った手紙には、様ざまなエピソードが。
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わい、遺族や知人同士と語り
祭壇がないため、会葬者は開いた棺の中の故人の顔をしっかりと見つめ
てお別れができる。
自分の価値観で創る
理想の葬儀とは
第一章