FUMI の式の導出

FUMI の式の導出
FUMI 理論の測定モデルでは,面積測定値または高さ測定値の誤差は,ベースラインノ
イズが作る面積または高さ(偽りの面積または高さ)であると仮定している。FUMI の式
は,ノイズが作る偽りの面積(または高さ)の標準偏差を計算する式である。FUMI の式
の導出は,次の手順で行う:
1.
時間 i におけるノイズの強度を記述する;
2.
ある時間区間におけるノイズの強度の和(偽りの面積 R)を記述する;
3.
偽りの面積の分散(標準偏差の 2 乗)を求める。
現実のノイズは 1/f ゆらぎに近いことがある。1/f ゆらぎとは,ノイズのパワースペクト
ル P が周波数に反比例する確率過程である。つまり,P ∝ f−1 である。FUMI 理論では,ノ
イズはホワイトノイズとマルコフ過程の和と定義している。つまり,ホワイトノイズ(P ∝
f0)とマルコフ過程(P ∝ f−2)の和で,1/f ゆらぎを近似する。
ホワイトノイズの時間 i での観測値は
(1)
wi
と表せる。ただし,時間 i は離散とする(i = 0, 1, 2,…)。wi は確率変数である。つまり,
wi は i の関数ではなく,時間 i である値 wi を取る「変数」である。ニュートン力学の物体
の自由落下は時間 t の関数で表される。物体を時間 t = 0 にある決まった位置から落とせば,
時間 t には位置 Y に物体はある。同じ思考実験を t = 0 から何度始めても,時間 t には必ず
位置 Y に物体はある。しかし,wi は同じ時間 i でも観測するごとには異なった値を取る。
そのため,
「ある時間 i で wi がある特定の値を取る」は意味を成さないが,wi の性質として
時間 i での平均と標準偏差は定義できる。
ノイズのくり返し測定においても,どの測定も時間 0 から始まると仮定する。すると,
時間 i におけるノイズ強度 wi は,くり返し測定毎に異なるが,無限にくり返した測定にお
ける wi をすべて集計すると,これらは平均 0,標準偏差 の正規分布を示す(ホワイトノイ
ズの定義)
。wi の平均と標準偏差は,時間 i を変化させて計算するのではなく,i は固定し
てくり返し測定について定義されている。wi はアンサンブル平均と言われている。ホワイ
トノイズの定義では,wi の平均と標準偏差は時間によらず一定である。
時間 i でのマルコフ過程の観測値は,次の式で表される:
Mi = ρMi−1 + mi
(2)
マルコフ過程は,1 ステップ前の時間 i−1 の強度 Mi−1 に定数ρをかけた位置ρMi−1 から出発
し,mi だけ移動する。mi は平均 0 で標準偏差 のホワイトノイズであり,マルコフ過程の
駆動力である。ρは 1 未満 0 以上の値を取る。ρ = 0 の場合は,ホワイトノイズである。
1
ホワイトノイズは自己相関がなく,マルコフ過程は自己相関がある。時間 i でのホワイト
ノイズの値 wi は,他の時間 j での値 wj とは独立である。しかし,定義より,マルコフ過程
では,時間 i の値 Mi は,前の時間 i−1 の値 Mi−1 に依存している(式(2)参照)。この依存
性を自己相関という。例えると,ホワイトノイズの軌跡は,サイコロの出た目をプロット
したものであり,マルコフ過程は,すごろくの位置をプロットしたものである。
FUMI 理論のモデルノイズでは,時間 i におけるベースラインノイズの観測値は
Yi = Mi + wi
(3)
である。時間 1 から k までの区間でのノイズの強度の和は
R= ∑
Y
(4)
であり,ノイズが作る偽りの面積を表す。FUMI の式は偽りの面積 R の標準偏差(または
相対標準偏差)である。
E[Z]で確率変数 Z のアンサンブル平均を表す。偽りの面積(式 4)の平均は 0 である:
E[R] = 0
(5)
なぜならば,R に含まれる Yi は,ホワイトのノイズ wi と mi の和であり,ホワイトノイズ
の平均は 0 だからである。一方,偽りの面積の分散
Var(R) = E[R 2]
(6)
は 0 とはならない。式 6 の左辺をホワイトノイズの標準偏差 ,マルコフ過程の駆動力であ
るホワイトノイズの標準偏差 ,定数ρの関数として記述することが,最後の問題(上記手
順 3)である。
式(3)と(4)より,偽りの面積の 2 乗は次のように表せる:
R2 = ∑
+∑
w
(7)
マルコフ過程は時間(i = 0, 1,…, k)ごとに次のように記述できる:
M0 = 0 (仮定)
M1 = m1
M2 = ρm1 + m2
2
M3 = ρ2m1 + ρm2 + m3
…
Mk = ρk−1m1 + ρ k−2m2 + … + ρmk−1 + mk
(8)
ここで,マルコフ過程は時間 0 で,常に原点(M0 = 0)から出発すると仮定している。マ
ルコフ過程の和(式 7 右辺の括弧の中の第 1 項)は次のように整理される:
∑
= (1 + ρ + ρ2 +…+ ρk−1)m1
+ (1 + ρ + ρ2 +…+ ρk−2)m2
…
+ (1 + ρ)mk−1
+ mk−1
(9)
式(9)を式(7)に代入すると,A2 には確率変数の 3 つの項 mimj, miwj,wiwj が現れる。
ρは定数なので,平均の計算(式(6))には重要ではない。mimj, miwj,wiwj の平均は次
の性質がある:
E[wi] = 0
E[mi] = 0
E[wiwj] = 0, if i ≠ j
=
2,
if i = j
E[mimj] = 0, if i ≠ j
=
2,
if i = j
E[wimj] = 0
式 E[wiwj] = 0 と E[mimj] = 0 は,異なった時間の確率変数は互いに独立であることを示し
ている。たとえば,1 回目に振ったサイコロの目と 2 回目に振ったサイコロの目が無関係で
あることと同じ意味である。上記の式を使えば,式(6)は次の形をとる:
Var(R) = (1 + ρ + ρ2 +…+ ρk−1)
+ (1 + ρ + ρ2 +…+ ρk−2)
2
2
…
+ (1 + ρ)
+
+k
2
2
(10)
2
3
この式を整理すれば,FUMI の式(Anal. Chem., 66 (1994) 2874)の式(19)を導出でき
る。
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