江口至洋(2008.12.4)

2008年12月4日 先端ゲノム医科学特論I
於: 医科学研究所2号館2階大講義室
システム生物学と創薬
九州大学バイオアーキテクチャーセンター 客員教授
システム薬学研究機構 副会長
江口至洋
1
1. はじめに: 医薬品の研究開発の現状
2. システム生物学とは
3. システム生物学と創薬
2
1.はじめに
-医薬品の研究開発の現状
3
医薬品の研究開発の現状(まとめ)
1995年以来、新薬の研究開発効率(生産性)は低下
してきている。
新薬の市販後、重篤な副作用が大きな問題となって
きている。

有効でかつ安全な新薬生産のための新たな研究開発方法が求めら
れている。
創薬ターゲットの効果的探索技術の開発が必要とさ
れる。


physiology-basedからmolecular target-basedへ、そしてnetwork targetbasedへ
ターゲットからリードへ
4
医薬品の研究開発効率
40
Dollars in billions
a) 米国医薬品企業
のR&D 費用
30
20
10
0
93
94
95
96
97
98 99
Year
00
b) Total NDA,
and NDA for NME
submission
(米国FDAに認可さ
れた新薬の推移)
No. of NDA/NME
150
01
02
03
04
NDA
(New Drug Application)
NME
100
(New Medical Entity)
NME
50
(New Medical Entity)
35
30
25
20
0
15
93
94
95
96
97
98 99
Year
00
01
02
03
04
10
5
0
2002
2003
2004
2005
US Gov. Accountability Office (2006)
“New Drug Development: Science, Business, Regulatory, and Intellectual Property Issues Cited as Hampering Drug Development Efforts”
Hughes,B.(2008) 2007 FDA drug approvals, Nat.Rev.Drug Discov., 7, 107
2006
2007
5
NDAの中でも新薬の比率は極めて低い
ピカ新は12%で、かつ’93年以
降年間15件を越えたことはない。
Priority NME,
12 %
Standard
NME, 20%
Standard
non-NME, 60 %
NMEのうち、
新規ターゲッ
トを対象にし
た薬剤は6%
ほどだろう。
(21%はター
ゲット不明)
Priority nonNME, 8%
NDAの68%は既存薬の修飾である。
Fig. Proportion of 1,264 NDAs Submitted by Innovative Potential, 1993-2004
Overington,J.P. et al.(2006) How many drug targets are there?, Nat. Rev. Drug Discov., 5, 993
6
医薬品の安全性問題
(市場から撤収した医薬品)
2000年 胸やけ治療薬Propulsid (Cisapride )
1993年承認を受ける。致死性不整脈(QT間隔延長)により、市場から撤収。売上10億ドル 規模。
2000年 糖尿病薬Rezulin (Troglitazone)
三共が1997年から販売(売上5億ドル規模) 。肝障害への副作用から販売中止。
2001年 高脂血症薬Baycol (Cerivastatin)
Bayerが1997年から販売(スタチン系の10%の市場を占有)。重篤な筋肉障害。
2004年 非ステロイド性抗炎症薬Vioxx (Rofecoxib)
1999年Merck社が販売開始。心血管リスクの増加のため市場から撤収。売上25億ドル/年規模。
⇒ NCEs(New Chemical Entities)の10%ほどが、市販後重篤な
副作用を示している。⇒ 有効性と共に安全性が重要課題!
注) QT間隔: 心室筋の活動電位の持続期間
Schuster D, et al.(2005) Why drugs fail--a study on side effects in new chemical entities.Curr Pharm Des. 11:3545-59.
7
製薬企業からみた創薬の課題
基礎研究
非臨床試験
第1相試験
第2相試験
第3相試験
承認審査
(2~3年)
(3~5年)
(1~3年)
(1~2年)
(2~3年)
(2~3年)
市販後調査
成功確率17% 成功確率56% 成功確率65% 成功確率43% 成功確率73% 成功確率91%
1
66.4%
0 .8
0 .6
0 .4
0 .2
1.8%
10.4%
18.9%
91.0%
28.6%
0
1. 開発期間(15年)を短くし、かつ成功確率(0.17*0.56*0.65*0.43*0.73*0.91=1.8%)を高める。
2. ターゲット候補ではなく、「確証されたターゲット、そしてリード」が求められている。
3. 非臨床試験の早い段階からヒトの毒性予測(ヒトへの外挿)を確実に行いたい。
4. 薬概念を拡大したい。⇒ビジネスモデルの革新(例:抗体医薬、RNA医薬、再生医療、・・・)
8
成功確率の出典:2005年10月18日、Bristol-Myers Squibb社T.Herpin氏のボストンでの講演資料
創薬ターゲット?
細胞内反応ネットワー
クのどの位置に?
Drewsらが、Goodman & Gilmanの「薬理書」(1996年)から抽出した483個のターゲッ
トを調べた結果
7
5
45 %
2 2
Re c e pt o r s
11
En zyme s
Ho r mo n s & fac t o r s
DNA
Nu c le ar r e c e pt o r s
I o n c h an e ls
Un kn o wn
28 %
D.Hanahan, et al.(2000) Cell, 100, 57
Ro do psin - like GP CRs
Overingtonらが、FDAに承認された1,357のunique drugsのターゲット、
324個を調べた結果
I o n c h an n e ls
Nu c le ar r e c e pt o r s
26.8 %
P e n ic illin - bin din g pr o t e in
Mye lo pe r o xidase - like
13.4
ターゲット候補の数は?
Drews
5,000~10,000
Hopkinsら
3,051
Russら
2,261~ 3,051
%
3
4.1
Drews, J (2000) Drug Discovery: A Historical perspective, Science, 287, pp1960-196
Hopkins, A.L. et al.(2002) The druggable genome, Nat Rev Drug Discovery 1, 727
Overington,J.P. et al.(2006) How many drug targets are there?, Nat. Rev. Drug Discov., 5, 993
Russ, A.P. et al.(2005) The druggable genome: am update, DDT, 10, 1607
S o diu m: n e u r o t r an smit t e r
sympo r t e r family
Type I I DNA t o po iso me r ase
Fibr o n e c t in t h pe I I I
13 %
Cyt o c h r o me P 4 5 0
Oth e rs
9
アポトーシスパスウェイと創薬ターゲット
細胞死シグナル(TNF, TRAIL, FASL,...)
抗がん剤(TRAILアゴニスト)
FADD
リウマチ
抗がん剤
CARP
FLIP
pro8
tBid
CARP
casp8
casp8
ハンチントン病、
敗血症ショック
Bid
p53
Bax
抗がん剤
Bcl-2
細胞死
の実行
抗がん剤
casp3
抗がん剤
ミトコンドリア
cyt cm
IAP
pro3
casp9
ALS
cyt c
cyt c
抗がん剤 (ミトコンドリア外
膜の透過性亢進)
Apaf-1
apoptosome
apoptosome
Apaf-1
Fischer, U. et al.(2005) New approaches and therapeutics targeting apoptosis in disease, Pharmacol. Rev., 57, 187
pro9
casp9 casp9
10
アラキドン酸代謝ネットワークと創薬ターゲット
抗がん剤
PHGPx
12-HETE
鎮痛、抗炎症薬
(cPLA2選択的)
12-LOX
12-HPETE
PLA2
15-HPETE
PHGPx
LXA4, LXB4
PGES
COX
15-LOX
抗がん剤
(masoprocol)
TXAS
5-LOX
5-HPETE
PGH2
鎮痛、抗炎症薬
Licofelone
PGF2α
PGFS
PGD2
PGDS
抗アレルギー薬
PGIS
PGI2
TXA2
PHGPx
5-LOXパスウェイ
5-LOX
喘息治療薬
(zileuton)
LTC4S
CysLT
気管支収縮
LTA4H
LTB4
血管拡張、血小板凝集抑制
TXB2
LTA4
LTC4
GGT
LTD4
アラキドン酸
5-HETE
LTD4
鎮痛、抗炎症薬
(mPGES-1選択的)
PGE2
発熱、痛覚感受性増幅
リン脂質
15/12-LOXパスウェイ
15-HETE
鎮痛、抗炎症薬
(aspirin,
rofecoxib )
COXパスウェイ
血管収縮、血小板凝集促進
好中球と好酸球の
強力な走化因子
喘息治療薬
(zafirlukast, montelukast)
CysLT1受容体
COX: cyclooxygenase, CysLT: cysteinyl LT, HPETE: hydroperoxyeicosatetraenoic acid, LOX: lipoxygenase, LT: leukotriene, LX: lipoxin, PG: prostaglandin, PLA2: phospholipase A2
Chen, F.L. et al. (2008) 12-lipoxygenase induces apoptosis of human gastric cancer AGS cells via the ERK1/2 signal pathway, Dig. Dis. Sci., 53, 181
11
2. システム生物学とは
12
システム生物学とは(まとめ)
生命現象を理解するための一般的な研究ス
タイルで、特に「数理モデルによる理解」に重
点があります。
情報を軸にした生命理解と生化学反応として
の生命理解を源流としています。
研究が、ゲノムの塩基配列に代表される構造
理解から、その機能理解へと進んできたこと
により注目されている一つの研究方法です。
13
ほとんどの場合、
実験は理論と融合している
研究目的: 薬物Dとターゲット
Tとの解離定数Kd(結合定数)
や速度定数ka,kdの計測
反応モデル:
D+T
kd
表面プラズモン実験:
Resonance signal
バッファー
サンプル
ka
DT
Kd=kd/ka
バッファー
base line
time
理論式を用いた回帰分析:
ka=3.1×106M-1s-1
kd=6.7×10-2s-1
Kd=2.2×10-8M
ほとんどの実験は数理モデルに裏打ちされている。
例:酵素反応におけるKm値の計算。NMRによる分子構造の推計。質量分析による分子の推計。
14
一般的な研究スタイルとしての
システム生物学
予測と操作性の獲得
推論
研究対象
形式システム
(細胞、組織、器官、・・・)
(数理モデル: ・・・・・・)
w
x
v
モデルM:
z
y
F
データの計測
dx/dt=mx(x,y)
dy/dt=my(x,y)
f=f(x,y)
モデル化
You could almost write a dictionary of the different uses of ‘systems biology’.
A.Henny, Director of Global Discovery Enabling Capabilities & Sciences at AstraZeneca
Jones,D.(2008) All systems go, Nat.Rev.Drug Discov., 7, 278
15
システム生物学の時代背景/源流
生物学における「情報」の時代
1943年 Schrödinger「生命とは何か」
1953年 DNAの二重らせんモデル
1958年 セントラルドグマ
1961年 Wiener「サイバネティックス」
生物学における「計測技術」の時代
1977年 DNA塩基配列決定法(Sanger法)
1988年 MALDI - Really big proteins fly! (Tanaka & Karas)
1991年 DNAチップの開発
化学反応の数理モデル化
1850年 L.F.Willhelmyの研究
1913年 Michaelis-Mentenの研究
1965年 アロステリック酵素モデル
1970年代 酵素反応の数理モデル化
化学反応システムの研究
1980年代 化学反応システムの
動的挙動と制御機構の解析
1989年 赤血球の代謝モデル
1990年代 シグナル伝達系のモデル化
2003年 ヒトゲノムの塩基配列解読 ⇒
生物学における”-OME”の時代
システム生物学の再発見
Rosen,R.著、山口昌哉他訳(1974)生物学におけるダイナミカルシステムの理論、産業図書
Segel,I.H.(1975) Enzyme Kinetics, John Willy & Sons
林勝哉他(1981)酵素反応のダイナミクス、学会出版センター
16
ゲノムの時代=“-ome”の時代
細胞内化学反応ネットワーク
L6
L5
代謝パスウェイ
L2
L1
L7
L4
L3
代謝産物
シグナル伝達系
P5
P2
P6
P1
メタボローム
P4
P7 P3 タンパク質 プロテオーム
転写制御
ネットワーク
R3
R1
R2
r1
r2 RNA トランスクリプトーム
G1
G3
G2
ncR1
ncR2
1.細胞がこの階層性を意識しているわけではない。
2.”-ome”情報から機能情報をいかに生み出すのか?
遺伝子
ゲノム
17
システム生物学の源流としての
化学反応機構解析
1850年
L.F.Wilhelmy
ショ糖の加水分解反応
k
ショ糖 → グルコース + フルクトース
でショ糖のモル濃度[A]の時間変化が微分方程式
d [ A]
 k[ A]
dt
で記述されることを示す。
1913年 L.MichaelisとM.L.Menten
酵素反応の基本的な機構、Michaelis-Menten機構を提示する。
S+E
ES → E + P
1965年 Monod-Wyman-Changeux
代謝調節の鍵酵素としてのアロステリック酵素の反応機構モデル
(フィードバック阻害やフィードフォワード活性化の分子実体が明らかになる)
1975年 I.H.Segel “Enzyme Kinetics”
酵素反応機構の百科事典をまとめる。
1980年代以降
解糖系、赤血球の代謝系、シグナル伝達系・・・・・のモデル解析
18
なぜ今、システム生物学!?
生物学における「情報」の時代
1943年 Schrödinger「生命とは何か」
1953年 DNAの二重らせんモデル
1958年 セントラルドグマ
1961年 Wiener「サイバネティックス」
生物学における「計測技術」の時代
1977年 DNA塩基配列決定法(Sanger法)
1988年 MALDI - Really big proteins fly! (Tanaka & Karas)
1991年 DNAチップの開発
化学反応の数理モデル化
1850年 L.F.Willhelmyの研究
1913年 Michaelis-Mentenの研究
1965年 アロステリック酵素モデル
1970年代 酵素反応の数理モデル化
化学反応システムの研究
1980年代 化学反応システムの
動的挙動と制御機構の解析
1989年 赤血球の代謝モデル
1990年代 シグナル伝達系のモデル化
2003年 ヒトゲノムの塩基配列解読 ⇒
生物学における「-OME」の時代
システム生物学の再発見
Rosen,R.著、山口昌哉他訳(1974)生物学におけるダイナミカルシステムの理論、産業図書
Segel,I.H.(1975) Enzyme Kinetics, John Willy & Sons
林勝哉他(1981)酵素反応のダイナミクス、学会出版センター
・構造から機能へ/構造とともに機能も
・「情報」を化学反応ネットワークの機能
発現としてみよう!
19
遺伝子の機能?
例:MAPKK(Mek1)
>1CDK:A
GNAAAAKKGSEQESVKEFLAKAKEDFLKKWENPAQNTAHLDQFERIKTLGTGSFGRVMLV
KHKETGNHFAMKILDKQKVVKLKQIEHTLNEKRILQAVNFPFLVKLEYSFKDNSNLYMVM
EYVPGGEMFSHLRRIGRFSEPHARFYAAQIVLTFEYLHSLDLIYRDLKPENLLIDQQGYI
QVTDFGFAKRVKGRTWTLCGTPEYLAPEIILSKGYNKAVDWWALGVLIYEMAAGYPPFFA
DQPIQIYEKIVSGKVRFPSHFSSDLKDLLRNLLQVDLTKRFGNLKDGVNDIKNHKWFATT
DWIAIYQRKVEAPFIPKFKGPGDTSNFDDYEEEEIRVSINEKCGKEFSEF
>1CDK:B
GNAAAAKKGSEQESVKEFLAKAKEDFLKKWENPAQNTAHLDQFERIKTLGTGSFGRVMLV
KHKETGNHFAMKILDKQKVVKLKQIEHTLNEKRILQAVNFPFLVKLEYSFKDNSNLYMVM
EYVPGGEMFSHLRRIGRFSEPHARFYAAQIVLTFEYLHSLDLIYRDLKPENLLIDQQGYI
QVTDFGFAKRVKGRTWTLCGTPEYLAPEIILSKGYNKAVDWWALGVLIYEMAAGYPPFFA
DQPIQIYEKIVSGKVRFPSHFSSDLKDLLRNLLQVDLTKRFGNLKDGVNDIKNHKWFATT
DWIAIYQRKVEAPFIPKFKGPGDTSNFDDYEEEEIRVSINEKCGKEFSEF
PDB:1CDK
cAMP-dependent Protein Kinase Catalytic Subunit (E.C. 2.7.1.37) (Protein Kinase A)
MEK1 is a tyrosine/threonine protein kinase
found in the Ras/Raf/MEK/ERK
MAPK signaling pathway.
MAPKKK
MAPKK
MAPK
20
「遺伝子の機能」はシステムに繋がる
MEK1 is a tyrosine/threonine protein kinase
found in the Ras/Raf/MEK/ERK
MAPK signaling pathway.
MAPKKK
MAPK
入力
OUTPUT
INPUT
↓
MAPKKK⇔MAPKKK*
↑
↓
↓
MAPKK⇔MAPKK-P⇔MAPKK-PP
↑
↑
↓
↓
MAPKK P’ase MAPK⇔MAPK-P⇔MAPK-PP→OUTPUT
↑
↑
MAPK P’ase
遺伝子の機能 ⇒ システムの機能
SOS
↓
RAS
MOS
Jun
↓
↓
↑
MAPKKK→MAPKK→MAPK
↑
↓
PKC
MEKK
↑
PLC
MAPKK
ultrasensitivity/
bistable(all-ornone) switch
INPUT
遺伝子の機能とは、生物学
的な時間、空間(細胞)の中
でだれと相互作用しているの
かを示しているネットワーク
の機能
⇒システム的理解の必要性
21
細胞の機能解析とシステム生物学
-がん治療を例として
癌細胞の機能
1:自律的増殖促進機能
2:増殖抑制シグナルへ
の低感受性
3:アポトーシス抵抗性
4:永続的細胞分裂能
5:血管新生能
6:組織浸潤性と転移能
完全な「細胞集積回路」の把握/数理モデルの作成と検証
特異的な遺伝傷害による集積回路の変化、組織の細胞機能の変化、そして癌が誕生する
仕組みを解析する。
癌の予防と治療は合理的な科学となる(2020年)
現在、がん生物学およびがん治療は、細胞生物学や遺伝学、組織病理学、生化学、免疫
学、薬理学からなる継ぎはぎ細工である。
22
D.Hanahan & R.A.Weinberg (2000) The hallmarks of cancer,Cell, 100, 57
システム生物学は越境する?
生物学の研究対象
集団
システム生物学
個体
数理生態学/集団遺伝学
捕食者と被食者との間の
Lotka-Volterra方程式
組織/器官(神経系、循環器系、・・・)
数理神経生物学
細胞(内皮細胞、赤血球、神経細胞、・・・)
細胞の
システム生物学
神経興奮に関する
Hodgkin-Huxleyの式
反応(複製、転写、翻訳、代謝、・・・)
分子(核酸、タンパク質、・・・)
23
細胞のシステム生物学
1.細胞の機能は、10-15から10-11リットルという小さな空間で数千から数万種類の分子により繰り広げ
られている化学反応に担われている。
2.細胞内では自己複製、転写、翻訳、代謝、シグナル伝達といわれる特徴的な化学反応ネットワーク
が形成されているが、それらは相互に連結し、単一の化学反応ネットワークとして「生きている」機能、
すなわち細胞機能を維持している。
3.細胞は物理化学の法則に従って生きている。(古典力学と熱統計力学との違いのように異なった
レベルでの法則性が存在する点が重要ではあるが)
4.システム生物学は細胞の特性に照応した数理モデルを構築し、その構造と機能を解析する試みで
ある。
5.システム生物学は、数理モデルの妥当性を、実験的検証および予測能力の検証によって明らかに
する。
細胞の数
大きさ
細胞内1個の分子の濃度
遺伝子の数
mRNAの半減期
(中央値)
タンパク質の半減期
(中央値)
細胞周期の長さ
大腸菌
出芽酵母
ヒト
1
~10-15L
~1nM
~4,500
3~8分
(5分)
~20分
1
~10-12L
~1pM
~6,600
3~45分
(20分)
16~128分
(43分)
~90分
~1014
~10-11L
~0.1pM
~25,000
2~20時間
(10時間)
~24時間
24
システム生物学の方法
化学反応ネットワークの構造解析
化学反応の確率過程論
数理モデル
反応速度論
dX
 f ( X , p, t )
dt
力学系としての化学反応系
X: 濃度、分子数、確率分布
化学量論解析
例:
Vmax [G 6 P] VP [ F 6 P]

Km
KP
d [ F 6 P]

[G 6 P] [ F 6 P]
dt
1

Km
KP
生化学システム理論
化学反応ネットワークの感度解析
ネットワークの構造推定
化学量論的ネットワーク解析
熱力学/非可逆過程の熱力学
25
D.Hanahan & R.A.Weinberg (2000) The hallmarks of cancer,Cell, 100, 57
3. システム生物学の方法
26
3.1.1
化学反応ネットワークの構造解析
個々の化学反応を明らかにし、それらの間
の関係をネットワークとして図示化します。
個々の反応の詳細をミクロに解析するので
はなく、ネットワーク構造全体をマクロに解
析します。
27
化学反応ネットワークの知識DB化
グルコース6--リン酸
ホスホグルコ
イソメラーゼ
フルクトース6-リン酸
E+S ES EP E+P
Vmax [G 6 P] VP [ F 6 P]

Km
KP
d [ F 6 P]
v
[G 6 P] [ F 6 P]
dt
1

Km
KP
ゲノム情報からの代謝ネットワーク構築
遺伝子数: 2,322
反応数: 2,823
代謝物数: 2,671
(EHMN)
http://www.genome.ad.jp/kegg/pathway/map/
Ma,H. et al.(2008) Human metabolic network reconstruction and its impact on drug discovery and development, Drug Discov.Today, 13, 402
28
化学反応ネットワークのグラフモデル
glucose 6-phosphate
NADP+
代
謝
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
1
グラフ表現1(基質グラフ)
glucose-6-phosphate dehydrogenase
EC1.1.1.49
NADPH
G6P
NADPH
NADP+
6PGL
6-phosphoglucono δ-lactone
H2O
6-phosphogluconolactonase
EC3.1.1.31
H2O
6-phosphogluconate
NADP+
6-phosphogluconate dehydrogenase
EC1.1.1.43
NADPH
R5P
6PG
ribulose 5-phosphate
ribulose-phosphate 3-epimerase
EC5.1.3.1
X5P
xylulose 5-phosphate
代
謝
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
2
E1
G6P + NADP+ ⇔ 6PGL + NADPH
E2
ノードの次数
k(G6P)=3
k(NADP+)=5
k(6PGL)=5
k(NADPH)=5
k(H2O)=2
k(6PG)=5
k(R5P)=4
k(X5P)=1
グラフ表現2(反応グラフ)
E1
E2
E4
E3
6PGL + H2O ⇔ 6PG
E3
6PG +
NADP+
⇔ R5P + NADPH
E4
R5P ⇔ X5P
Wagner,A., Fell,D.A.(2001)The small world inside large metabolic networks, Proc.R.Soc.Lond.B, 268, 1803
阿久津達也他(2005)生物情報ネットワークの構造およびダイナミクス、蛋白質核酸酵素、vol.50、No16、p2288
29
化学反応ネットワークのグラフ構造
random network 次数分布P(k)=e-rrk/k!
1.多くはスケールフリーのようだ。
例:大腸菌の代謝ネットワーク(r=2.2)
P(k)
ポアソン分布
P(k)=e-rrk/k!
2.スケールフリーの性質
1)ほとんどの頂点の次数は小さい
2)ハブ空港のような分子が存在する
k
例:L-グルタミン酸、ピルビン酸
scale-free network 次数分布P(k)=Ck-r
3)平均経路長が短い
例:大腸菌の代謝ネットワークでは3.2
1
べき乗分布
P(k)=Ck-r
P(k)
0.1
0.01
4)つまり、スモールワールドである
0.001
3.スケールフリーの機能
0.0001
0.00001
1
10
k
100
1)ハブのエラー(削除)には弱い
2)しかし、ランダムエラーには強い
Jeong,H. et al.(2000)The large-scale organization of metabolic network, Nature, 407, 651
Barabasi,A.-L., Oltvai,Z.N.(2004)Network Biology: Understanding the Cell’s Functional Organization, Nature Rev.Genet., 5, 101
Arita,M.(2004)The metabolic world of Escherichia coli in not small, Proc.Natl.Acad.Sci.,101, 1543
30
炎症に関与する遺伝子ネットワークの同定
実験: Calvano,S.E. et al. (2005)
ヒト白血球に細菌毒素を投与後、0(投与
前)、2、4、6、9、24時間後の発現プロファ
イルを計測。
FOXL1
AML1
解析: Chen,B.S. et al. (2008)
炎症に関連する遺伝子群とその転写制
御因子候補群について、時間ラグを考慮
NR3C1 した回帰分析などで、炎症に特異的な遺
伝子ネットワーク(70遺伝子)を構成し、
結合度の高い遺伝子が抗炎症薬のター
ゲット遺伝子であるとしている。
TFAP2A
GATA2
SOX9
FOXL1(23): 肝星細胞の活性化に伴い発現が
亢進する。
TFAP2A/AP-2α(19): 炎症性サイトカインにより
発現が亢進する。
SOX9(16): 炎症性サイトカインはSOX9の発現
を抑制する。
GATA2(12): AP-1と結合し、抗炎症性サイトカ
インIL-13の発現を亢進する。
AML1(11): マクロファージ由来炎症性タンパク
質1(MIP-1)の発現を制御する。
NR3C1(8): グルココルチコイド受容体を介した
シグナルは抗炎症作用を示す。
注:()内はリンクの数
Calvano, S.E. et al.(2005) A network-based analysis of systemic inflammation in humans, Nature, 437, 1032
Chen, B. S. et al.(2008) A systems biology approach to construct the gene regulatory network of systemic inflammation via microarray and databases mining,
BMC Med. Genomics, 1:46.
31
3.1.2
化学反応ネットワークの構造解析と創薬
細胞内の化学反応ネットワークの静的な構造のみか
らも、創薬ターゲットとなるパスウェイが探索されます。
どの遺伝子/タンパク質をターゲットとすべきかは、
(細胞や組織も考慮した、)ネットワークの動的な機能
に依拠します。
32
ネットワーク比較によるターゲット探索
ピルビン酸+D-グリセルアルデヒド3-リン酸
DXP合成酵素
DXP
非
DXPレダクトイソメラーゼ(dxr)
メ
メ
MEP
バ
バ
MEPシチジリル転移酵素(mect)
ロ
ロ
CDP-ME
ン
ン
CDP-MEキナーゼ(cmek)
酸
酸
CDP-ME2P
経
経
MECDP合成酵素(mecs)
路
路
MECDP
アセチルCoA
アセトアセチルCoA
HMG-CoA合成酵素
HMG-CoA
HMG-CoA還元酵素
MVA
MVAキナーゼ
PMVAキナーゼ
DPMVA
DPMVA脱炭酸酵素
タイプ2イソメラーゼ
タイプ1イソメラーゼ
IPP
DMAPP
X
縮合
メバロン酸経路のみ
:ヒト、酵母、
黄色ブドウ球菌
イソプレノイド化合物
非メバロン酸経路のみ
:H.pylori、大腸菌、マラリア原虫
コレステロール
高木基樹他(2002) 見逃されていた薬剤開発のターゲットー多様なイソプレンユニット生合成系、蛋白質 核酸 酵素、47、pp58-65
IPP: isopentenyl pyrophosphate, DMAPP: dimethylallyl pyrophosphate
33
抗菌剤のターゲットとしての
脂肪酸合成経路(トリクロサンを例に)
・triclosanは1972年以来、広く抗菌剤として使用されていた。
・手指消毒用の石鹸やローションから歯磨き粉などのヘルスケア用品をはじめ、 子供用玩具、 台所用
品や手術用ドレープなどのプラスチックや布地など、 幅広く使用されている。
Malonyl-CoA
FabD
ACP
FabH
Malonyl-ACP
Acetyl-CoA
β-ketoacyl-ACP
FabG
FabB
FabF
Acyl-ACP
β-hydroxy-acyl-ACP
FabA
FabZ
FabI
FabK
FabL
Enoyl-ACP
・triclosanはbroad-spectrumな抗菌剤である。
・triclosanのターゲットはenoyl-ACP reductase (FabI) である。
L.M.McMurry, et al.(1998) Triclosan targets lipid synthesis, Nature, 394, 531-532
・FabIはessential enzymeである。(?)
34
Enoyl-ACP reductaseのisoformと抗菌剤
Escherichia Staphylococcus Bacillus Enterococcus Streptococcus
coli
aureus
subtilis faecalis
pneumoniae
-
FabI
FabK
FabL
-
51%
-
-
・B.subtilisはtriclosanに対し尐し抵抗性
を示す。
25%
・GSKは、FabIの阻害剤であるとともに、
FabKの阻害剤compound4を開発した。
Compound4はE.faecalisとS.pneumoniae
に対する抗菌作用を示す。
R.J.Heath, et al.(2000) The Enoyl-[acyl-carrier-proein] reductases FabI and FabL from Bacillus subtilis, J.Biol.Chem. 275,40128-40133
D.J.Payne, et al.(2002) Discovery of a Novel and Potent Class of FabI-Directed Antibacterial Agents, Antimicrob.Agents Chenother. 43, 35-40
35
有効で安全な薬の開発のために
-鎮痛、抗炎症薬を例に伝承の時代
BC400年 ヤナギの樹皮の抽出エキスは鎮痛・解熱のために用い
られていた。
創薬の時代(アスピリンの時代)
1763年
ヤナギ樹皮からの抽出物(サリチル酸類)を解熱薬とし
て使用する。
1899年
アスピリン( 非ステロイド性抗炎症薬 ) がBayer社に
よって発売される。
ターゲット探索の時代
1971年
アスピリンがプロスタグランジンの生合成を抑制すると
の研究結果がでる。
(アスピリンはCOX-2とともに、COX-1をも阻害するため、胃粘膜な
どの障害が避けられないとされた。)
ibuprofen
COX-2の時代
1990年代
1999年
通説「COX-1=生理的、COX-2=病態」
→COX-2選択的阻害剤の開発
FDAが、Merck社のVioxx(rofecoxib)を承認。
ポストCOX-2の時代
2004.9.30 FDAはMerck社Vioxxの自主回収を了承した。2000年
に始められた臨床試験において、重篤な血栓性事象の発現率が、
プラセボに比べ2倍程度であった。発現率の差は18ヶ月の治療期
間後に始めて観察された。
Grosser T, Fries S, FitzGerald GA.(2006) Biological basis for the cardiovascular consequences of COX-2 inhibition: therapeutic challenges and opportunities.,J Clin Invest. 116, 4
36
プロスタグランジン生合成カスケード
Membrane phospholipids
Diverse physical,
chemical,
inflammatory and
mitogenic stimuli
COX-1
Phospholipase A2
Arachidonic acid
Prostagrandin G2
Prostagrandin G2
COX-2
炎症時に誘導される
血管、胃、腎で恒常的
にみられる
Prostagrandin H2
Prostagrandin H2
Prostanoid synthase (tissue specific)
Prostanoids Prostacyclin Thromboxane A2 Prostagrandin D2 Prostagrandin E2 Prostagrandin F2α
COX-2選択的阻害剤(Rofecoxib)による抗炎症作用は、主に PGE2産生の阻害による。心血管系有害事象は主に血小板でCOX-1を介して産生さ
れるトロンボキサンA2(血小板凝集促進作用)と血管内皮細胞でCOX-2を介して産生されるプロスタサイクリン(PGI2:抗血小板凝集作用)とのア
ンバランスと考えられている。
FitzGerald,G.A.(2003) COX-2 AND BEYOND: APPROACHES TO PROSTAGRANDIN INHIBITION IN HUMAN DISEASE, Nat.Rev.Drug Med., 2, 879
37
アラキドン酸代謝ネットワークにおける
鎮痛、抗炎症薬の最適ターゲットは?
鎮痛、抗炎症薬
(cPLA2選択的)
PHGPx
12-HETE
COX-1/2
5-HETE
5-HPETE
PGH2
TXAS
5-LOX
鎮痛、抗炎症薬
Licofelone
PGF2α
PGFS
PGDS
PGD2
PGIS
PGI2
TXA2
PHGPx
5-LOXパスウェイ
5-LOX
LTC4S
CysLT
気管支収縮
血管拡張、血小板凝集抑制
TXB2
LTA4
LTC4
GGT
LTD4
アラキドン酸
15-LOX
PHGPx
LTD4
PGES
PLA2
15-HPETE
LXA4, LXB4
PGE2
発熱、痛覚感受性増幅
リン脂質
15/12-LOXパスウェイ
鎮痛、抗炎症薬
(mPGES-1選択的)
鎮痛、抗炎症薬aspirin
12-LOX
12-HPETE
15-HETE
鎮痛、抗炎症薬rofecoxib
(COX-2選択的)
LTA4H
LTB4
COXパスウェイ
血管収縮、血小板凝集促進
好中球と好酸球の
強力な走化因子
CysLT1受容体
Scholich, K. et al. (2006) Is mPGES-1 a promising target for pain therapy?,, Trends. Pharmacol. Sci., 27, 399
38
アラキドン酸代謝ネットワークの
シミュレーション
白血球
10uM A23187( clcium ionophore)
10uM A23187 + 30uM AA
ω-LTB4
(20-OH-LTB4+
20-COOH-LTB4)
LTB4
ω-LTB4
LTB4
39
Yang,K. et al.(2007) Dynamic simulations on the arachidonic acid metabolic network, PLoS Comput. Biol., 3, 3
3.2
化学反応の確率過程論
細胞内に数個しか存在しない分子が関
与する反応では平均値の周りでのゆらぎ
を無視できない。(特にDNAは1個や2個。
転写制御因子は10のオーダ。)
ゆらぎを積極的にモデル化しよう。
40
確率過程としての表現の必要性
oriC
1.51 Mb
1.46 Mb
galK<>
CFP
intC<>
YFP
E.Coli 4.6 Mb
Elowitz,M.B. et al.(2002) Stochastic
Gene Expression in a Single Cell,
Science, 297, 1183
A: lacIによりCFPとYFPの発現量を抑制した
場合、ノイズがみられる。
B: IPTG投与により発現量を上げた場合、ノイ
ズが消える。
C: ΔrecA株では、ノイズがみられる。
kR
kP
γP
DNA → mRNA (x) → protein (y) → Ø
↓γR
Ø
dP(x,y,t)/dt=kRP(x-1,y,t) - kRP(x,y,t) + kPxP(x,y-1,t) - kPxP(x,y,t)
+γR(x+1)P(x+1,y,t) - γRx(P(x,y,t) + γP(y+1)P(x,y+1,t) - γPP(x,y,t)
Ozbudak,E.M. et al.(2002) Regulation of noise in the expression of a single gene, Nature Genet., 31, 69
41
転写翻訳DNA→mRNA→Proteinの
確率過程モデルのシミュレーション結果
kR
kP
γP
DNA → mRNA → protein →Ø
↓γR
Ø
0
kR=0.001s-1, kP=1.0s-1, γR=0.1s-1, γP=0.002s-1
50
100
150
200
42
確率過程は細胞運命と細胞集団の不均一性をもたらす
kR
kP
γP
DNA → mRNA → protein →Ø
↓γR
Ø
kR
kP
γP
DNA → mRNA → protein →Ø
↓γR
Ø
Elowitz,M.B. et al.(2002) Stochastic Gene Expression in a Single Cell, Science, 297, 1183
43
3.3.1
反応速度論と生化学システム理論
システム生物学で最も多用されているモデル化手法
です。
速度式dx/dt=v=f(x)の関数型としては、一次式ととも
に、Michaelis-Menten機構に基づく定常状態速度式や
シグモイド型のHill式が多く用いられています。
解糖系などの代謝系だけでなくシグナル伝達系のモ
デル化も盛んです。
44
化学反応速度式の解
反応モデル:
k1
X
Y
k2
反応速度式:
dX/dt = -2X + Y
dY/dt = 2X - Y
k1=2s-1, k2=1s-1 とした
Keq=Yeq/Xeq=k1/k2=2
閉鎖系:
X+Y=T(const.)
初期条件:
X(0)=3, Y(0)=0
T=3
反応速度式の数値解:
微分方程式の解:
X(t) = 2e-3t + 1
Y(t) = -2e-3t + 2
3
X
mM
微分方程式の解:
dX/dt = -2X + (T-X) = -3X + T
X(t) = Ce-3t + T/3
Y(t) = -Ce-3t + 2T/3
T→∞
2
1
Y
0
0
0.5
1
1.5
sec.
2
平衡状態の解:
X(t) = 1, Y(t) = 2
Keq=Yeq/Xeq=2
45
Michaelis-Menten機構と速度式
Michaelis-Menten機構
ES
E+P
ES
S,P
E+S
k3
E,ES
k1
.01
S
k2
速度式
dS/dt = -k1E・S + k2ES
dE/dt = -k1E・S + k2ES + k3ES
dES/dt = k1E・S - k2ES - k3ES
dP/dt = k3ES
.005
P
E
k1=1,050mM-1min-1, k2=300min-1, k3=15min-1
Km=0.3mM, S0=10mM, E0=0.01mM
定常状態速度式(dES/dt =0)
dP/dt = v = VmaxS/(Km + S)
S→P
但し Vmax= k3E, Km= (k2+k3)/k1
注: dP/dt=kSと近似してはいない。
46
林、坂本編(1981)「酵素反応のダイナミクス」、学会出版センター
化学反応ネットワークの速度式
v XY
→ X → Y
vYZ
Z →
上記反応ネットワークのYに関する速度式は、
dY
 v XY  vYZ
dt
個々の反応が酵素反応で、かつMichaelis-Menten機構を仮定すると
Vmax Y Y Vmax Z Z

V
X
K
K mZ
dY
mY
 max X

Y
Z
dt K mX  X
1

K mY K mZ
個々の反応が素過程であると仮定すると
dY
 k1 X  (k 2Y  k 3 Z )
dt
47
S → P
dP/dt
Hill式を用いた速度式
1
h=4
h=2
0 .8
E + hS
ESh → E + hP
h=1
0 .6
h=0.5
0 .4
Vmax S h
dP

dt K m h  S h
0 .2
0
0
0 .5
1
1 .5
2
S
2 .5
3
48
Sシステムやlin-log速度式
1.5
h
dX i
g
vi  Vi   Vi    i  X j ij i  X k ik
dt
j
k
lin-log速度式
反応速度(v)
Sシステム
Sシステム
1
一次式
0.5
v  f ( E, x1 ,, xm )
v  E(a  p1 ln x1    p m ln xm )
Michaelis-Menten式
lin-log速度式
0
0
1
2
3
4
5
基質濃度(S)
v  S g
g
 log v( S0 )
S v( S0 )
Km
 0

 log S
v( S0 ) S
K m  S0
  v( S0 ) S0  g 
Vmax S0
k E S g
g
S0  cat T 0 S0
K m  S0
K m  S0
u(S )  v(S 0 ){1  g ln( S S 0 )}
49
解糖系の反応ネットワーク
a)
Glc_out (50mM)
HXT
Glc_in
ATP
ADP
vGlyco=
HK
6.0mM/min
Glycogen
vTre=
4.8mM/min
G6P
Trehalose
PGI
ADP ATP F6P
ATP ATP ADP
ADP
PFK
F16bP
G3PDH
ALD
Glycerol
Trio
ATPase
ADP ATP
ADP ATP
NADH NAD
GAPDH
PDC
BPG
3PGA
PGK
2PGA
PGM
PEP
ENO
PYR
Ace
Ethanol
PYK
NAD NADH NAD NADH
ADH
4ATP
4ADP
3NAD
3NADH
Succinate
b)
F16bP
2ADP
Trio:
ATP + AMP
AK
F16bP
DHPA + G3P, DHPA
ALD
G3P
TPI
c) 機能基の保存
[ATP] + [ADP] + [AMP] = const. =4.1 mM,
[NAD] + [NADH] = const. = 1.6 mM
50
Teusink,B. et al.(2000) Can yeast glycolysis be understood in terms of in vitro kinetics of the constituent enzymes? Testing biochemistry, Eur.J.Biochem., 267, 5313
解糖系のTeusinkモデル
問題意識:
試験管内で得られた
酵素反応速度式から
細胞内の代謝物の挙
動を再現しうるか?
Vmax [G 6 P] VP [ F 6 P]

Km
KP
vPGI 
[G 6 P] [ F 6 P]
1

Km
KP
d[Glc_in]/dt = vHXT -vHK
d[G6P]/dt = vHK -vPGI -2vtrehalose -vglycogen
d[F6P]/dt = vPGI -vPFK
d[F16bP]/dt = vPFK -vALD
d[Trio-P]/dt = 2vALD -vGAPDH -vG3PDH
d[BPG]/dt = vGAPDH -vPGK
d[3PGA]/dt = vPGK -vPGM
d[2PGA]/dt = vPGM -vENO
d[PEP]/dt = vENO –vPYK
d[PYR]/dt = vPYK –vPDC
d[AcAld]/dt = vPDC -vADH -2vsuccinate
d[P]/dt = -vHK -vPFK +vPGK +vPYK -vATPase -vtrehalose -vglycogen -4vsuccinate
d[NADH]/dt = vGAPDH -vADH -vG3PDH +3vsuccinate
d[NAD]/dt = -d[NADH]/dt
( 1)
( 2)
( 3)
( 4)
( 5)
( 6)
( 7)
( 8)
( 9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
[Trio-P] = [DHAP] + [GAP]
[P] = 2[ATP] + [ADP]
Keq,TPI = [GAP]/[DHAP]
Keq,AK = [AMP][ATP]/[ADP]2
[ATP] + [ADP] + [AMP] = const.
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
51
Teusinkモデルの定常状態解
問題意識への解答:
Glc_out
多くのパラメータを調整することにより、実験結果と整合的
な定常状態解を得ることはできたが、最初の問題意識へ
の明確な解答はない。
HXT
Glc_in
HK (88)
Glycogen
G6P
(6.0)
困難さの理由:
(2.4)
1.27
Trehalose
・試験管内では予想できなかった環境因子(阻害剤など)
の関与。
・細胞内では生体高分子の混雑の問題があり、予想より
はるかに高い酵素濃度である。
PGI (77.2)
F6P 0.11
PFK (77.2)
(mM/min)
F16bP 0.61
ALD (77.2)
0.74
0.03
DHPA
GAP
TPI
0.36
BPG
GAPDH (136.2)
3PGA
PGK (136.2)
0.04
2PGA
PGM (136.2)
0.07
PEP
ENO (136.2)
8.37
PYR
PYK (136.2)
AcAld
PDC (136.2)
G3PDH (18.2)
Glycerol
mM
0.17
Ethanol
ADH (129)
(3.6)
Succinate
Pritchardら:
Vmaxの同時最適化により、細胞内の動的挙動を解析しうるモデルを構築できる。
Pritchard L. and Kell D.B. (2002) Schemes of flux control in a model of Saccharomyces cerevisiae glycolysis, Eur. J. Biochem., 269, 3894
52
Kholodenkoらによる
EGFシグナル伝達系の短期応答モデル
a) 活性化したEGFRの時間応答
問題意識:
80
活性化したEGFRの割合(%)
EGFの継続的な刺激に伴い、
活性化されたEGFRは刺激後
15秒で最大値となり、その後
急速に減尐するが、アダプ
タータンパク質Shcの活性化
は15秒で最大値を取って以
降もその値を維持している。
この異なった応答機構を解析
する。
60
50
40
30
20
10
0
問題意識への回答:
0
30
60
90
120
時間(秒)
b) リン酸化したShcの時間応答
30
EGFR: EGF receptor, Grb2: GF receptor binding protein 2, Shc: Src
homology and collagen domain protein, PLCγ: phospholipase C-γ
リン酸化したShcの割合(%)
ShcやGrb2などがEGFRのホ
スホチロシン残基を脱リン酸
化酵素から保護するため、反
応r4が一時的に抑制される。
過渡的応答を示すために付
加的なフィードバックループ
は必要としない。
活性化したShcが高い値を維
持するのは、受容体と結合し
た状態ではなく、ShPやSh-G、
Sh-G-Sが蓄積しているためと
推計される。
● 20nM EGF
▲ 2nM EGF
■ 0.2nM EGF
70
20
10
0
0
30
Kholodenko,B.N. et al.(1999) Quantification of short term signaling by the epidermal growth factor receptor, J. Biol. Chem., 274, 30169
60
90
120
時間(秒)
53
Schoeberlらによる
EGFシグナル伝達系の長期応答モデル
EGF
EGFR
EGFRの細胞内移行
Ras-GTP
Ras-GTP
RAF
RAF*
MAPK(RAF-MEK-ERF)
カスケード
MEK
活性化したERK(ERK-PP)の分子数/細胞
50ng/ml
0.5
ng/ml
0.125ng/ml
MEK-PP
ERK
ERK-PP
54
Schoeberl,B. et al.(2002) Computational modeling of the dynamics of the MAP kinase cascade activated by surface and internalized EGF receptors, Nat.Biotechnol., 20, 370
3.3.2
反応速度論/生化学システム理論と創薬
化学反応ネットワークを構成する酵素タンパク質のう
ちから、最も効果的な薬剤ターゲットを探索する試み
がなされています。
ターゲットとなる化学反応ネットワークを最も効果的に
制御しうる治療方針(例:複数の薬剤投与やマルチ
ターゲット薬剤)を検討しようとしています。
55
NF-κBネットワーク阻害剤(多発性骨髄腫の治療薬)の効果解析
dNF/dt=-a1NF・I+d1NF:I+r1NF:I:IKK+dg2NF:I-iNFNF+eNFNFn
dI/dt=-a1NF・I+d1NF:I-a3I・IKK+d3I:IKK+sNFn(t-τ)-dg1I-iII+eIIn
dNF:I/dt=a1NF・I-d1NF:I-a2(NF:I)・IKK+d2NF:I:IKK-dg2NF:I+eNF:INFn:In
dNFn/dt=-a1NFn・In+d1NFn:In+iNFNF-eNFNFn
dIn/dt=-a1NFn・In+d1NFn:In+iII-eIIn
dNFn:In/dt=a1NFn・In-d1NFn:In-eNF:INFn:In
dIKK/dt=k(t)-a2(NF:I)・IKK+(d2+r1)NF:I:IKK-a3I・IKK+(d3+r2)I:IKK
dI:IKK/dt=a3I・IKK-(d3+r2)I:IKK
その他、アポトーシス抵抗性因子の転写
dNF:I:IKK/dt=a2(NF:I)・IKK-(d2+r1)NF:I:IKK
阻害剤A: IKKの競合阻害剤(A+IKK⇔A:IKK)
阻害剤B: 細胞質におけるNF-κBの競合阻害剤(B+NF-κB⇔B:NF-κB)、
Bortezomib: IκBのプロテアソーム分解阻害剤(プロテアソームの触媒部位をブロックする)
・阻害剤AとBortezomibは同じようなダイナミクスを示す。
・核内のNF-κB量を減尐させるためには、阻害剤Aや阻害剤Bがより効果的だろう。
56
Sung MH, Simon R.(2004) In silico simulation of inhibitor drug effects on nuclear factor-kappaB pathway dynamics, Mol Pharmacol. 66, 70
EGFRシグナル伝達系での最適ターゲット群の探索
反応3
反応6
反応14
AraujoらはKholodenkoらのモデル(23変
数、25反応経路、50速度定数)を用いて、
複数のリン酸化反応経路を同次に阻害し
た場合の効果を解析している。
反応3:tyrosine kinase
v3=α・k3[R2]-k-3[RP]
反応6:tyrosine kinase
v6=β・k6[R-PL]-k-6[R-PLP]
反応14:tyrosine kinase
v14=γ・k14[R-Sh]-k-14[R-ShP]
Kinetic scheme of EGFR signaling
1)最適なターゲット位置を探索しうる
2)低い濃度で複数のターゲットを効果的
に阻害することにより副作用を避けうる。
(multi-target drug)
Kholodenko,B.N. et al.(1999) Quantification of short term signaling by the epidermal growth factor receptor, J. Biol. Chem., 274, 30169
Araujo,R.P. et al.(2005) A mathematical model of combination therapy using the EGFR signaling network, BioSystems, 80, 57
57
がん治療における各種キナーゼ阻害剤の評価
Cdc20
増殖刺激
CDK1
分解
サイクリンB
M
Cdh1
CDK1
サイクリンA
CDK4/6
G1
サイクリンD
G2
R
CKI
(p21Cip1,
p27Kip1)
CDK2
S
CDK2
サイクリンA
分解
Cdc20
サイクリンE
CKI
(p21Cip1,p27Kip1)
サイクリンE
サイクリンA
Rb
⊥
E2F
抗がん剤seliciclib
58
Chassagnole,C. et al.(2006) Using mammalian cell cycle simulation to interpret differential kinase inhibition in anti-tumour pharmaceutical development, BuiSystems, 83, 91
がん治療における各種キナーゼ阻害剤の評価
問題意識:
ヒトの細胞周期をシミュレートしうる
モデルを構築し、ブロードなキナー
ゼ阻害効果もつ抗がん剤の効果を
明らかにする。
キナーゼ阻害の異なったスペクト
ルを持つ薬剤の最適に組み合わ
せた治療法を提示する。
課題:
seliciclib(0μM)
アポトーシスやDNA複製機構も組
み入れたモデルの作成。
seliciclib(6.9μM)
59
Chassagnole,C. et al.(2006) Using mammalian cell cycle simulation to interpret differential kinase inhibition in anti-tumour pharmaceutical development, BuiSystems, 83, 91
3.4.1
力学系としての化学反応系
力学系はシステムの時間発展を一般的に解析する学
問分野です。
システム生物学では簡略化したモデルの解析に力学
系の理論(例:分岐解析、極限周期軌道)が多用されて
います。
振動系や履歴現象を示す系の解析に用いられていま
す。
60
力学系としての化学反応系
(2因子反応系を例に)
時間に関して1階の非線形微分方程式
dci
 f i (c1 , c2 ,, cn ), i  1,2,, n
dt
数値解析
感度解析
安定性解析
分岐解析
構造安定性
変数の数を2つに限る
x
2因子反応系
dx
 f ( x, y )
dt
dy
 g ( x, y )
dt
タイムコース
y
time
定常状態 f ( xS , y S )  g ( xS , y S )  0
の近傍の挙動に限る(条件:原系は構造安定)
線形近似(線形化微分方程式系)
d  x   f xS
   
dt  y   g xS
f yS  x  xS 
 x  xS 





J
g yS  y  yS 
y

y
S 

y
相図
x
61
2因子反応系の
ある定常状態近傍での動的挙動のカタログ
b-1) 渦状点
D<0、trJ≠0
実数部分が負
b-2) 渦状点
D<0、trJ≠0
実数部分が正
detJ
a-1) 結節点
D>0、detJ>0
異なる2つの固有値
が共に負
a-2) 結節点
D>0、detJ>0
異なる2つの固有値
が共に正
d) 渦心点
D<0、trJ=0
D=0
trJ
c) 鞍状点
detJ<0
trJ  f xS  g yS , det J  f xS g yS  f yS g xS , D  ( f xS  g yS ) 2  4( f xS g yS  f yS g xS )
62
双安定状態をもたらす転写制御系
リプレッサ2: v
抑制遺伝子2
プロモータ1
プロモータ2
抑制遺伝子1
レポータ遺伝子
リプレッサ1: u
調節因子: m
系の大域的挙動
定常状態3
Gardnerらは右上に示す転写制御系
を大腸菌内に構成し、調節因子とし
てイソプロピルチオガラクトシドIPTG
を用いた実験で、定常状態間の遷
移や双安定状態(履歴現象)を観測
している。
2因子反応系としてみた
数理モデル
a
du
 1 b u
dt 1  v
a2
dv

v
g
dt 1  (mu)
分離線
m=1,
a1=a2=5,
b=g=3
定常状態2
定常状態1
63
Gardner,T.S. et al.(2000) Construction of a genetic toggle switch in Escherichia coli, Nature, 403, 339
双安定状態をもたらす系の分岐図
6
du
a
 1 b u  0
dt 1  v
dv
a2

v  0
g
dt 1  (mu)
a1=a2=5, b=g=3
レプレッサ1の定常状態濃度
2因子反応系の定常状態
D
Y
E
5
C
4
3
2
1
A0
0
B
F
1
2
3
4
X5
6
7
8
9
10
m
64
酵母解糖系の振動反応モデル
Vin
Vp
Vd
Glucose(G) → 3 ATP(T) → 2ADP
ATP
Vc  Vin  k p / 2
dG
 Vin  k1GT
dt
k pT
dT
 2k1GT 
dt
Km  T
ATPによる正のフィード Michaelis-Menten型の
分解反応
バックループ
Vin  Vc
A
極限周期軌道
安定渦状点
D
B
C
Bier,M. et al.(1996) Control analysis of glycolytic oscillations, Biophys. Chem., 62, 15
Bier,M. et al.(2000) How yeast cells synchronize their glycolytic oscillations: A perturbation analytic treatment, Biophys.J., 78, 1087
65
3.4.2
力学系としての化学反応系と創薬
注目する酵素活性の変動に伴う分岐解析により、病
態解析が可能となります。
化学反応ネットワークの粗視化(coarse-grained)により、
基本的な要素の解析が可能となるとともに、適用範囲
も拡大することができます。
分岐解析は効果的な創薬ターゲットの探索を可能とし
ます。
66
ヘキソキナーゼの活性変化が恒常性に与える影響
1
分岐点
エ ネルギ ー 充足率
安定な定常状態
0.5
不安定な定常状態
“trivial”な安定定常状態
0
40
50
60
70
80
90
100
110
120
ヘキソキナーゼ活性 (正常値に対する% 比)
注:エネルギー充足率=(ATP+0.5ADP)/(ATP+ADP+AMP)
ヘキソキナーゼ活性の低下にともなう安定な定常状態
の崩壊は赤血球の老化の鍵になる要因であり、かつ酵
素欠損に伴う溶血性貧血の主なシグナルであろう。
Mulquiney,P.J. et al.(1999) Model of 2,3-bisphosphoglycerate metabolosm in the human erythrocyte based on detailed enzyme kinetic equatiuons, Biochem.J., 342, 597
de Atauri,P. et al.(2006) Metabolic homeostasis in the human erythrocyte: In silico analysis, Biosystems, 83, 118
67
フィードバックループと創薬ターゲット
-AKTによるIRS1の活性制御を例に
入力シグナル(S)
インスリン/インスリン様成長因子
k1
IRS1:インスリン受容体基質1
ネットワークモデル
の簡略化
p70S6K
k5
PI3K
k3
Ø
k0
AKT
mTOR
K4
V4
AKT
IRS1は多くの固形がんにおいて活
性化状態にある。→IRS1のリン酸化
を介したインスリンシグナリングパス
ウェイは抗がん剤のターゲットになり
うる。
k2
pIRS1-Tyr
K3
pAKT
数理モデル化
d
[ pIRS1  Tyr ]  k1 S  (k 0  k 5 )[ pAKT ]  k 2 [ pIRS1  Tyr ]
dt
[ pAKT ]  Gk ( AKT ) 
(V A  1)  K 4 ( K A  V A )  (V A  1  K 4 ( K 4  V A )) 2  4 K 4 (V A  1)V A
2(V A  1)
K A  K 3 / K 4 , V A  k 3 [ pIRS1  Tyr ] / V4
k 0  1.6, k1  0.01, k 2  1, k 3  1, k 5  1.2, K 3  0.05, K 4  0.05, V4  0.2
68
Araujo,R.P. et al.(2007) Proteins, drug targets and the mechanisms they control: the simple truth about complex networks, Nat.Rev.Drug Disc., 6, 871
AKTによるIRS1の活性制御ネットワークにおける
創薬ターゲット
IRS1活性制御ネットワークの特性
入力シグナル(S)
・危険な一方向スイッ
チの機能を果たして
いる。(一度、刺激S
が分岐点S*を越える
と、刺激Sが弱くなっ
ても、高い活性状態
に留まる。)
治療2 k1=0.01→0.005
pIRS1-Tyr
治療1
k5=1.2
→0.6
治療3
k3=1
→0.5
k2
Ø
治療4
k0=1.6
→0.8
AKT
K4
V4
治療1: mTOR阻害剤
治療2: IRS1阻害剤
・分岐点S*を上げること
により、危険な定常状
態に移行しにくくなるが、
危険な一方向スイッチ
の機能は残っている。
・分岐点S*をさらに
下げることにより、
危険な一方向ス
イッチの機能を強
化している。
K3
pAKT
相対的に、正のフィードバックに比
べ負のフィードバックが弱いモデル
となっている。
治療3: AKT阻害剤
治療4:
IRS1とAKTの会合阻害剤
・危険な一方向
スイッチから、よ
り無害な二方向
トグルスイッチに
変化する。
・危険な一方向ス
イッチはなくなり、
より効果的な治療
法となっている。
69
Araujo,R.P. et al.(2007) Proteins, drug targets and the mechanisms they control: the simple truth about complex networks, Nat.Rev.Drug Disc., 6, 871
3.5.1
化学量論解析
dx/dt=0なる定常状態に解析の対象を限定することに
より、モデルの適用範囲を広くしています。
定常状態下での個々の反応過程の速度(流速)が細
胞機能を担っているとの立場を強調しています。
70
化学量論解析
細胞機能は、濃度ではなく、定常状態下での反応速度に規定されている。
反応ネットワークモデル
物質収支則に基づく数理モデル
dX 1
dt
dX 2
dt
dX 3
dt
dX 4
dt
線形代数方程式
 v1  v 2  v3
 v 2  v3  v5  v 6
 v3  v 4
 v 4  v5
S・v  0
dX
 S・v
dt
 1 1 1 0 0 0


1 1 0
1  1
0
S 
0 0
1 1 0 0


0 0 0
1  1 0 

数理計画法
v2  v6
物質収支則 S・v  0
v3  v1  v6
拘束条件1 vimin  vi  vimax
v4  v1  v6
拘束条件2 vi  viobs
v5  v1  v6
目的関数 z  f (v)
化学量論的代謝流速解析
流速収支解析
71
流速収支解析のモデル
 v1 
 
  1  1 1 0  v 2 
   0
物質収支則 S・v  
 1 1 0  1 a 
b
 
拘束条件1 0  v1 , v 2
拘束条件2 a  b  c(const.)
目的関数 z  f (v)
a) ATPあるいはNADH
の生成速度最大
b) 内部流速ベクトル
の二乗和最小
c) 流速当たりの
ATP生成速度最大
72
ニューロンとアストロサイトの
エネルギー代謝連関の流速収支解析
1.ニューロンとアストロサイトの
代謝反応ネットワークの作成
217の反応過程(184の内部反応と33の
交換反応)、216代謝産物(183の内部、
33の外部代謝物)からなる。
2.物質収支則と拘束条件の設
定
3.目的関数の設定
グルタミン酸、グルタミン、GABAのサ
イクル流速の最大化、および全流速の
2乗和最小化。
4.流速収支解析の実施
○ TCAサイクルのフラックス比は実
験と整合的である。
× ニューロンからアストロサイトへの
アスパラギン酸の輸送(0.092)は実験
に比べ高い値を示している。
KIC: α-ketoisocapriate
KIV: α-ketoisovalerate
KMV: α-keto-β-methylvalerate
OX-PHOS: Oxidative Phosphorylation
Fig. Major metabolic fluxes (μmol/g tissue/min) in neuron-astrocyte coupling for resting condition
Cakir, T. et al. (2007) Reconstruction and flux analysis of coupling between metabolic pathways of astrocytes and neurons: application to cerebral hypoxia,
Theor. Biol. Med. Modelling, 4: 48
73
3.5.2
化学量論解析と創薬
物質収支則や拘束条件に変動を加え、生命の維持
にとって基本となる代謝過程を明らかにすることが
できます。
系に外乱を加え、代謝流速変化を計測することによ
り、創薬ターゲットとなりうる酵素群を推定すること
ができます。
74
結核菌Mycobacterium tuberculosisの
ミコール酸代謝経路の解析
マロニル-CoA
合成経路
脂肪酸合成酵素Ⅱ
脂肪酸合成酵素Ⅰ
ミコール酸合成経路
197個の代謝物質、219個の代謝反応、28個の流
入・流出反応からなる物質収支則
S・v=0
をもとに、目的関数
f=0.4926vα+0.2334vcis-methoxy
+0.0327vtrans-methoxy+0.2117vcis-keto
+0.0297vtrans-keto
の最適化問題を解いて、流速vを求める。
28種類の酵素機能を破壊することによる代謝流
速の変化を調べ、致死的な酵素を選択し、さらに
ヒトとホモログが存在しない酵素を「薬剤ターゲッ
ト」として選択した。
FabH, AccD3, InhA, FabD, Fas, Pks13, DesA3
この内、InhAは結核治療薬として用いられている
イソニアジドとエチオナミドの薬剤ターゲットである。
75
Raman K, Rajagopalan P, Chandra N.(2005) Flux balance analysis of mycolic Acid pathway: targets for anti-tubercular drugs., PLoS Comput Biol., 1, e46
代謝核(metabolic core)解析によるターゲット探索
ホスホマイシン
ペプチドグリカン合成経路
大腸菌の439種の代謝産物、758個の反応に
ついて、物質収支則をたて、バイオマス生産
最大の条件で流速を決定する。
サイクロセリン
葉酸合成経路
スルホンアミド
トリメトプリム
グルコースやアミノ酸など環境から取り込む
化合物96種の取り込み量をランダムに変化
させ、最適化による流速決定を50,000のケー
スについて実施し、常に有限の流速を示す
反応を代謝核(metabolic core)として、左に
示している。
既存の抗菌剤(スルホンアミド、トリメトプリム、
ホスホマイシン、サイクロセリン)のターゲット
パスウェイが代謝核として浮かび上がってい
る。
赤線:必須酵素が触媒する反応
緑線:非必須酵素が触媒する反応
76
Almaas,E. et al.(2005) The activity reaction core and plasticity of metabolic networks, PLoS Compu.Biol., 1, e68
代謝流速プロファイリングによる
抗ウイルス薬ターゲットの同定
Glucose
28.27/12.06 = 2.44
Hexose-P
FBP
Pentose-P
0.05/0.02
0.08/0.03
= 2.50
= 2.67
ATP UTP
3PG
Glycerol
PEP
Ala
0.39/0.09
= 4.33
Nucleic acids
実験:
ヒト繊維芽細胞にヒトサイトメガロウイルスを投与し、
非投与の場合との代謝流速の変化を計測している。
結果:
1)解糖系、TCAサイクル、脂肪酸合成系の流速が顕
著に増加している。
2)脂肪酸合成系酵素の阻害剤はヒトサイトメガロウイ
ルスおよびA型インフルエンザウイルスの複製を抑制
する。
3)当該阻害剤は繊維芽細胞のアポトーシスを誘導す
ることはなく、毒性もみられなかった。
DHAP
Asp
OAA
Pyruvate
3.37/0.04 = 84.25
Acetyl-CoA
Citrate
Fatty acids
1.38/0.06
= 23.00
Mal-CoA
3.13/0.17 = 18.41
Malate
αKG
Glu
Gln
HCMV-infected / uninfected cells
Unit: nmol/min/1.5*106 cells
Munger,J. et al.(2006) Dynamics of the cellular metabolome during human cytomegalovirus infection, PLoS Pathogen, 2, e132
Munger,J. et al.(2008) Systems-level metabolic flux profiling identifies fatty acid synthesis as a target for antiviral therapy, Nature Biotech., 26, 1179
77
77
3.6.1
化学反応ネットワークの感度解析
細胞の示すホメオスタシスやロバストネスといった
性質を定量的に表現しようとする試みです。
化学反応ネットワークの機能を担っている主な反
応過程を、感度の大小をみることにより、明らかに
しようとしています。
78
感度解析の背景
ホメオスタシス(1929年W.B.Cannon)
dX
数理モデル  f ( X , p, t )
dt
初期条件 X (t0 )  X 0
生物が外界との相互疎通を行いながら、自己の内部環
境をほぼ一定に保つ現象
キャナライゼーション(1942年Waddington)
拘束条件 g ( X ) Constraint
系への外乱により目的
関数はどう変化する?
環境の変化にかかわらず必然的に定められた一定の
発生、分化の道筋(クレオド)を進もうとする傾向
構造安定性(1972年R.Tom)
目的関数 Obj( X )
系への外乱 P (e.g.X 0, p)
関数fを尐し変化させても動的挙動に大きな変化が生じ
ない系の性質
Obj( X )
評価関数 ロバストネス(~2004年Kitano、Stelling、・・)
P
外乱に対して生命機能を維持する能力
代謝制御解析(流速制御係数)
Cik 
J k
Jk
Ei  ln J k

Ei
 ln Ei
流速制御係数の総和定理
C
k
i
1
i
79
ラット心臓解糖系の感度解析
a) 直鎖状ネットワーク: J = vPGK= vPGM= vENO= vPYK
BPG
3PG
PGK
2PG
PGM
PEP
ENO
PYR
PYK
ソースである1,3ビスホスホグリセリン酸
(BPG)からシンクであるピルビン酸
(PYR)に至る反応の流速Jは主にエノ
ラーゼ(ENO)とピルビン酸キナーゼ
(PYK)によって担われており、両者は
同程度の流速制御係数を示す。
J
J
J
J
CPGK
 0.008 CPGM
 0.008 CENO
 0.547 CPYK
 0.438
b) 分岐ネットワーク: J = vGlut4= vHK, Ja= vPlase= vPGM, Jb= vPGI
J
CPGM
 0.001
G1P
PGM
Plase
C
GlcO
GlcI
Glut4
G6P
HK
J
J
CGlut
4  0.396 CHK  0.59
Glycogen
J
Plase
 0.001
ソースであるグルコース(GlcO)とグリ
コーゲンから、シンクであるフルクトー
ス6-リン酸(F6P)に至る分岐ネットワー
クの流速Jは主にグルコース輸送体
(Glut4)とヘキソキナーゼ(HK)に担わ
れている。
J
PGI CPGI
 0.016
F6P
グルコースのみを含む溶液で灌流した場合のモデル反応
80
Kashiwaya,Y. et al.(1994) Control of glucose utilization in working perfused rat heart, J.Biol.Chem., 269, 25502
NF-κBシグナル伝達系の主要な過程
-感度解析の例題としてー
TNFα
IkBNFkB
IKK依存的な
IκBの分解
複合体形成
IkB
翻訳
NFkB
膜輸送
膜輸送
膜輸送
IkBNFkBn
複合体形成
ikB
IkBn
NFkBn
NF-κB依存的な
転写
IkB gene
NF-κBシグナル伝達系はサイトカイン
や成長因子などの刺激を受けて活性
化し、多くの遺伝子の転写を制御して
いる。
IκBはNF-κB依存的な転写を受ける遺
伝子の一つであるが、細胞質で翻訳さ
れて後、核内に移行し、NF-κBと複合
体を形成し、NF-κBの細胞質への移行
をうながす。
刺激を受けていない細胞においては、
大部分のNF-κBはIκBと複合体を形成
し、不活性な状態にある。
TNFαなどの刺激を受けると、IKKは
IκBをプロテアソーム分解経路に導き、
複合体を形成していたNF-κBは解放さ
れる。
Hoffmann,A. et al.(2002) The IκB-NF-κB signaling module: Temporal control and selective gene activation, Science, 298, 1241
81
Hoffmannらによる
NF-κBシグナル伝達系のモデル
TNFα
全ての反応過程は
素過程としてモデル
化されている。
0
↑k23
IKK
k14
IKKa IKKa+IkB
k20
IKKa+IkBNFkB
k24
IKKaIkB→IKKa
k15
k5
IKKaIkBNFkB→IKKa+NFkB
k21
k1
IkB+NFkB
k6
k3
IkBNFkB→NFkB
IKKaIkB+NFkB
IKKaIkBNFkB
k2
k16
k18
k22
NFkBn
k9
IkBn+NFkBn
k17
IkB → 0
d[iKB]/dt=k12[NFkBn]2
k8
IkBn
k19
0
NF-κB依存的な転
写過程を二次反応
としてモデル化して
いる。
k4
ikB→ikB+IkB
k13↓
例:x+y→z
dz/dt=kxy
NFkB
k7
IkBNFkBn
k12 k10
2NFkBn → 2NFkB+ikB
k11
0 → ikB
Hoffmann,A. et al.(2002) The IκB-NF-κB signaling module: Temporal control and selective gene activation, Science, 298, 1241
82
NF-κBシグナル伝達系のシミュレーション結果
-TNFαによるマウス繊維芽細胞の刺激-
Total NF-kB
NFkBn
IkBNFkB
IKKIkBNFkB
NFkB
IkBNFkBn
NF-κBはTNFαの持続的刺激に伴い、細胞質と核内間をシャトリングしている。
核内のNF-κB濃度は刺激後20分で最大値をとり、その後、100分程度の周期で振動
している。
Hoffmann,A. et al.(2002) The IκB-NF-κB signaling module: Temporal control and selective gene activation, Science, 298, 1241
83
NF-κBシグナル伝達系の感度解析
(核内NF-κB濃度の周期、振幅、ピーク時間に強い影響を与える速度定数)
TNFα
0
↑k23
IKK
k14
IKKa IKKa+IkB
k20
IKKa+IkBNFkB
k24
IKKaIkB→IKKa
k15
k5
IKKaIkBNFkB→IKKa+NFkB
k21
k1
IkB+NFkB
k6
k3
IkBNFkB→NFkB
IKKaIkB+NFkB
IKKaIkBNFkB
k2
k16
k4
k18
ikB→ikB+IkB
k13↓
k22
IkBn
NFkBn
k 19
0
k8
k9
IkBn+NFkBn
k17
IkB → 0
NFkB
k7
IkBNFkBn
k12 k10
2NFkBn → 2NFkB+ikB
k11
0 → ikB
ki: IKK依存的なIκBαの分解過程、 ki: NF-κB依存的なIκBαの転写、および翻訳過程
k13: iKBの自己分解過程、 k23: IKKαの自己分解過程、 k18: IκBαの核内移行過程
84
Ihekwaba,A.E.C. et al.(2004) Sensitivity analysis of parameters controlling oscillatory signalling in the NF-κB pathway: the roles of IKK and IκBα, Syst. Biol., 1, 93
3.6.2
化学反応ネットワークの感度解析と創薬
考察対象となる細胞内の化学反応ネットワークで大きな
流速制御係数を示す酵素は薬剤ターゲットの候補となり
ます。
同じく、考察対象となる細胞内の化学反応ネットワーク
の感度解析の結果、大きな変動係数を与える酵素は薬
剤ターゲットの候補となります。
85
原虫トリパノソーマの解糖系の代謝制御解析
と薬剤ターゲット探索
Bakkerらは「最も効果的な薬剤ターゲットは、寄生虫に対
して高い流速制御係数を示し、ヒトに対しては低い流速制
御係数を持つ酵素である」との仮説の基に、トリパノソーマ
のターゲット探索を行っている。
実験で得られた19種の酵素反応モデル式から定常状態
のフラックスJを求め、流速制御係数Ci={∂J/J}/{∂Ei/Ei}を
Ci={⊿J/J}/{⊿Vmaxi/Vmaxi}
で求めている。
主な酵素の流速制御係数
Vtr=106
1.グルコースの膜輸送
2.ヘキソキナーゼ
5.アルドラーゼ
7.グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ
8.ホスホグリセリン酸キナーゼ
12.グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ
0.90
0.02
0.02
0.02
0.02
0.02
Vtr=143.4
0.08
0.05
0.28
0.23
0.15
0.17
Vtr:グルコースの最大膜輸送速度。単位はnmol/min/(mg cell protein)。
原虫トリパノソーマの解糖系
注1:トリパノソーマはアフリカ睡眠病の原因となる寄生虫
注2:グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼは治療薬の一つスラミン(suramin)の
ターゲットとされている。
Bakker, B. M. et al. (1999) What controls glycolysis in bloodstream form Trypanosoma brucei?, J. Biol. Chem., 274, 14551
Bakker, B. M. et al. (2000) Metabolic control analysis of glycolysis in trypanosomes as an approach to improve selectivity and effectiveness of
drugs, Mol.Biochem.Parasitol., 106, 1
86
JAK/STAT1シグナル伝達パスウェイの感度解析
局所的感度解析:
Yamada,S. et al.(2003)
系は、脱リン酸化酵素の内ではPPNの濃度変化に
最も影響を受ける。
局所的感度解析:
Soebiyanto,R.P. et al.(2007)
系はSOCS1のノックダウンによる影響を最も受ける。
⇒SOCS1が炎症やがんなどの薬剤ターゲットになる。
大域的感度解析:
Zi,Z. et al.(2005)
系はSOCS1、STAT1c、PPNの初期濃度変化に最も
影響を受ける。
⇒これら3つが炎症やがんなどの薬剤ターゲットに
なる。
Yamada,S. et al.(2003) Control mechanism of JAK/STAT signal transduction pathway, FEBS L., 534, 190
Zi,Z. et al.(2005) In silico identification of the key components and steps in IFN-γ induced JAK-STAT signaling pathway, FEBS L., 579, 1101
Soebiyanto,R.P. et al.(2007) Complex systems biology approach to understanding coordination of JAK-STAT signaling, Biosystems, 90, 830
87
3.7.1
化学量論的ネットワーク解析
「細胞内ではどのような定常状態が実現されてい
るのだろう」という問題意識から出発している。
細胞内の化学反応ネットワークで、どのパスウェ
イが定常状態を担っているのかを明らかにする。
88
解糖系の定常状態解 ?
Glc_out
HXT
Glc_in
HK (88)
Glycogen
(2.4)
G6P
(6.0)
Trehalose
PGI (77.2)
F6P
PFK (77.2)
(mM/min)
F16bP
ALD (77.2)
DHPA
GAP
TPI
BPG
GAPDH (136.2)
3PGA
PGK (136.2)
2PGA
PGM (136.2)
PEP
ENO (136.2)
G3PDH (18.2)
PYR
PYK (136.2)
AcAld
PDC (136.2)
Ethanol
ADH (129)
(3.6)
Glycerol
Succinate
定常状態v = (88 2.4 6.0 77.2 77.2 77.2 18.2 136.2 136.2 136.2 136.2 136.2 136.2 129 3.6)t
v   i ei ,
i  0
i
89
化学量論的ネットワーク解析
基準モードと極値パスウェイ
問題意識
条件1: S v  0
条件2: 0  vi , i  Irrev
による拘束を受けている細胞内の化学反応ネットワークでは、いかなる流
速分布が実現されているのか?
非分解性の条件: どの反応を取り除いても定常状態を維持できない
基準モード(elementary mode)
独立性の条件: どの極値パスウェイも他の極値パスウェイの非負係数の線形結合では表現できない
極値パスウェイ(extreme pathway)
条件1と2を満たす任意の定常状態の流速vは極値パスウェイあるいは極
値パスウェイeiの非負係数の線形結合で表現される
v   i ei ,
i  0
i
90
基準モードと極値パスウェイ
Reaction network
v4
v1
A
v3
B
C
v5
ElMo1(ExPa1)
v4
v2
v1
A
v3
v6
C
ElMo2(ExPa2)
B
v5
v4
v2
v1
A
v3
v6
C
B
v5
v2
v6
ElMo3(ExPa3)
ElMo4(-)
S・v  0
v1
v2
v3 v 4 v5 v 6
S   1 0 1 1 0 0 A


1
0 0 1 0 B
1
 0 1 1 0 0 1C


e1
1

1
1
K 
0
0

0

v4
v1
A
v3
C
v6
B
v2
v5
v4
v1
A
v3
C
B
v5
v2
v6
e 2 e3
1  1 v1

0 1  v2
0 0  v3

1  1 v 4
1 0  v5
0 1  v6
1) 基準モード(や極値パスウェイ)の数は、化学反応ネットワーク
の柔軟性、あるいは頑健性の指標となる。
2) 多くの基準モード(や極値パスウェイ)に共通の構成要素となっ
ている反応過程は、定常状態を維持する上で、重要な反応過程と推
定される。
3) どの基準モード(や極値パスウェイ)にも含まれない反応過程は、
誤って設定された反応過程であると推定される。
Klamt,S.&Stelling,J.(2003) Two approaches for metabolic pathway analysis?, Trends Biotechnol., 21, 64
Papin,J.A. et al.(2004) Comparison of network-based pathway analysis methods, Trends Biotechnol., 22, 195
91
酵母解糖系の基準モード
Schwartz, J.M. and Kanehisa, M.(2006) Quantitative elementary mode analysis of metabolic pathways: the example of yeast glycolysis, BMC Bioinformatics, 7, 186
92
3.7.2
化学量論的ネットワーク解析と創薬
基準モード(極値パスウェイ)解析は定常状態を維持す
るための必須酵素群、あるいは必要としない酵素群を
明らかにします。
基準モード(極値パスウェイ)の数は系の冗長性や頑健
性の指標となります。
93
アデニンから出発しATP合成に至る基準モードの例
K+o
Na+o
赤血球の代謝ネットワーク
K+i
Na+i
ATP ADP
解糖系
DHAP
HK
GLC
PGI
G6P
PFK
F6P
2,3DPG
TPI
ALD
EN
FDP
GA3P
1,3DPG
GAPDH
G6PDH
ADK
6PGL
ATP + AMP
PGLase
ADP
PGK
GSSG
2PG
PEP
PGM
PK
4つの基準モードの構成酵素とは
ならない → これら3つの酵素の
欠損によって定常状態は影響を
受けない。
PYR
LDH
LAC
NADPH NADP
ペントース
リン酸回路 6PGC
3PG
ATP
GSH
ADP
4つの基準モードで共通に必要
⇔ AdPRT欠損症ではADEの
蓄積がみられる。
AK
GSSGR
PDGH
GSH
GSSG
GSHR
RL5P
AdPRT
ADO
ADE
AMP
ADA
RPI
INO
R5P
X5P
PNPase
GA3P
GA3P
PRPP
IMP
HX
RIP
PRPPsyn
R5P
HX
S7P
ヌクレオチド代謝経路
F6P
E4P
F6P
aGLC+bADE=cCO2+dLACext+eATP なる基準モードは4種あるが、その一つを示している。
Joshi,A. et al.(1989) Metabolic dynamics in the human red cell. Part I - A comprehensive kinetic model, J.Theor.Biol., 141, 515
Schuster,S. et al.(2005) Adenine and adenosine salvage pathways in erythroicytes and the role of S-adenosylhomocysteine hydrolase, FEBS J., 272, 5278
94
Cakirらによる赤血球代謝パスウェイの基準モード解析
K+o
Na+o
2.81
1.87
K+i
Na+i
ATP ADP
解糖系
0.93
DHAP
HK
PGI
GLC
G6P
PFK
F6P
TPI
DPGM
2,3DPG
FDP
EN
GA3P
1,3DPG
GAPDH
G6PDH 0.21
3PG
PGK
6PGL
ADK
ATP + AMP
PGLase
ペントース
リン酸回路 6PGC
ADP
GSSG
PYR
LDH
LAC
ATP
ADP
AK
ヌクレオチド代謝経路
GSH
AdPRT
0.85
GSSG
GSHR
RL5P
ADO
AMPase
ADA
AMPDA
HGPRT
XPI
X5P
PNPase
GA3P
TK1
PRPP
IMP
IMPase
HX
RIP
HX
S7P
TA
ADE
AMP
INO
F6P
PK
GSSGR
GSH
GA3P
PEP
PGM
これら5つの酵素は48個すべての基準モードの構
成酵素となっており、定常状態維持に必須 ⇔
HKやPKの欠損は重篤な溶血性貧血をもたらす
NADPH NADP
PDGH
R5P
2PG
ATPase
ATP → ADP + Pi
RPI
DPGase
ALD
PRPPsyn
R5P
PRM
TK2
E4P
F6P
95
Cakir,T. et al.(2004) Metabolic patway analysis of enzyme-deficient human red blood cells, BioSystems, 78, 49
3.8.1
ネットワークの構造推定
マイクロアレイなどから得られる“-ome”データを用いて、
細胞内のネットワークを推計したい。
遺伝子、タンパク質間の関係を示すネットワーク構造か
ら、鍵遺伝子など重要な分子やパスウェイを同定した
い。
96
発現プロファイルから遺伝子間の
相互関係を求める
Network Ni
Data D
G0
G7
G1
G2
G4
G3
G5
G8
G6
G9
G10
G11
97
発現プロファイルからの
ネットワーク推定の方法
1.ベイジアンネットワークによる方法
P ( N i | D) 
P( D | N i ) P( N i )
P( D | N i ) P( N i )

P ( D)
 P( D | N i ) P( N i )
i
2.微分方程式による方法
dxi
 f ( x1 , x2 , , xn , p)
dt
dxi
 ai1 x1  ai 2 x2    ain xn
dt
n
n
dxi
g ij
h
   x j   i  x j ij
dt
j 1
j 1
3.関連解析および情報理論による方法
I ( X , Y )  S ( X )  S (Y )  S ( X , Y )
  p( xi , y j )[log p( xi , y j )  log p( xi ) p( y j )]
i, j
相互情報量: Yの情報からXに関して得られる情報量
98
Bayesianネットワークモデル
データ
D
ベイズグラフ
Bg
Exp. G1 G2 G3
1 2 1 1
2 2 2 2
3 1 1 2
4 2 2 2
5 1 1 1
6 1 2 2
7 2 2 2
8 1 1 1
9 2 2 2
10 1 1 1
P(D|Bg8)
Pa1
Ø
G2
G3
P(G1,G2,G3)=P(G1)P(G2)P(G3)
G3
P(G1,G2,G3)=P(G3|G2)P(G2)P(G1)
G2
G3
G1(1) G1(2) Subtotal
N111=5 N112=5 N11=10
P(D|Bg14)
Pa1
Ø
G2
G1
G3
G1(1) G1(2) Subtotal
N111=5 N112=5 N11=10
Pa2
G2(1) G2(2) Subtotal
G1(1) N211=4 N212=1 N21=5
G1(2) N221=1 N222=4 N22=5
Pa2
G1(1) G1(2) Subtotal
G1(1) N211=4 N212=1 N21=5
G2(2) N221=1 N222=4 N22=5
Pa3
G3(1) G3(2) Subtotal
G2(1) N311=4 N312=1 N31=5
G2(2) N321=0 N322=5 N32=5
Pa3
G1(1) G1(2) Subtotal
G1(1) N311=3 N312=2 N31=5
G1(2) N321=1 N322=4 N32=5
P(D|Bg)=Πi=1,nΠj=1,qi(ri-1)!/(Nij+ri-1)! Πk=1,riNijk!
G1
1
G1
ここの例では、遺伝子の数n=3、発現レベルの区分数ri=2
G1
2-7
G2
G1
G2
G3
P(G1,G2,G3)=P(G3|G2)P(G2|G1)P(G1)
14-16 G2
G1
G3
P(G1,G2,G3)=P(G3|G1)P(G2|G1)P(G1)
17-19 G1
G2
G3
P(G1,G2,G3)=P(G2|G1,G3)P(G3)P(G1)
8-13
G1
20-25
G2
P(D|Bg8)=2.23*10-9
P(D|Bg14)=2.23*10-10
P(Bg8)=P(Bg14)だとすると
P(Bg12|D)/P(Bg14|D)=10
となり、データDは、Bg8がBg14よりも10倍ありそうだ、と主張している。
P(G1,G2,G3)=P(G3|G1,G2)P(G2|G1)P(G1)
G1
G3
G2
G3
課題1:遺伝子数に比べ実験数が尐ない
課題2:考えるべきグラフの数が爆発する
n=3→25, n=5→29,000, n=10→4.2*1018
課題3:実際のデータは連続量である
99
Cooper,G.F.&Herskovits,E.(1992) A Bayesian Method for the Induction of Probabilistic Networks from Data, Machine Learning, 9,309
相互情報量による方法と
Bayesianネットワークによる方法の比較
模擬ネットワーク
G0
G7
相互情報量による方法
G0
G1
G2
G4
G3
G5
G8
G6
G9
G7
G1
動的Bayesianによる方法
G0
G2
G4
G3
G5
G8
G6
G9
G7
G1
G2
G4
G3
G5
G8
G9
G10
G10
G10
G11
G11
G11
Hartemink, A. J. (2005) Reverse engineering gene regulatory networks, Nature Biotech., 23, 554
G6
100
3.8.2
ネットワークの構造推定と創薬
最も素朴には、薬剤投与による発現プロファイルと、
当該薬剤のターゲットとされる遺伝子の破壊株の発
現プロファイルは一致すると考えられます。
統計的手法により推定されたネットワークのハブ遺伝
子が薬剤ターゲット遺伝子であるとして解析がなされ
ています。(ハブ遺伝子は致死的である可能性もあるが)
101
発現プロファイル解析と創薬
ヒスチジン合成阻害剤3-ATのターゲット遺伝子HIS3の検証
3-ATはHIS3がコードする酵素の競合的阻害剤であるとされている。
酵母に3-ATを投与した時のプロファイルと、his3破壊株のプロファイルを比較す
ることにより、3-ATのターゲットがHIS3であることが確認されうる。
wt -/+ 10mM 3-AT
wt vs. his3 mutation
102
Marton,M.J.et al.(1998) Drug target validation and identification of secondary drug target effects using DNA microarrays, Nat.Med., 4, 1293
がん遺伝子を中心にした
遺伝子ネットワークの同定
MYC遺伝子が
制御する第一
層、第二層遺
伝子ネットワー
ク
ヒトB細胞の発現プロファイルデータから
がん遺伝子MYCの遺伝子ネットワーク
を相互情報量の方法で同定
・B細胞に関する既存の336種類の発現プロファ
イルデータを用いている。
・転写因子MYCと相互作用する主な56+444遺
伝子のネットワークを、相互情報量をもとに、解
明した(左図a)。
MYC遺伝子が
制御する56個
の第一層遺伝
子と各遺伝子
の相互作用数
・MYCのターゲット遺伝子であると新規に予想
された遺伝子のうち、12遺伝子についてChIP技
術で確認した結果、90%以上の精度でターゲッ
ト同定しうることがわかった。
・BYSLはMYCから直接制御を受けており、ネッ
トワーク上のハブ遺伝子であるため、MYCの機
能調節に重要な役割を果たしていると推測され
る(左図b)。⇒創薬ターゲット?
103
Basso,K. et al.(2005) Reverse engineering of regulatory networks in human B cells, Nat.Genet., 37, 382
システム生物学の将来
2000年代:
1)ネットワークを基盤にした細胞知識ベース(例:KEGGの進化)が完成する。
2)細胞全体のシミュレーションをめざし、高速化技術が進歩する。
「昔のスーパーコンピュータの機能が、今、膝の上のパソコンで実現している」
3)細胞知識ベースに基づく創薬ターゲットの探索と最適化が図られる。
2010年代:
4)分子(DNA、タンパク質)、細胞、組織、器官を重層したシミュレーション研究が一般化する。
5)創薬の現場でシステム生物学が広く活用される。
2020年代:
6)がん細胞/組織の数理モデルを用いて、治療方針や抗癌剤の効果予測を行えるようになる。
「がんはがん細胞の問題ではなく、正常細胞も含めた組織の問題である」
7)細胞の発生と分化を制御するための数理モデルが開発される。
2030年代:
8)ヒト細胞が完全にシミュレートでき、コンピュータに基づく研究が主力になる。
「情報だけで組み立てられた薬学があってもいいのではないか」
9)生体高分子、細胞に計算機能を付与し、診断、治療への応用が進む。(薬概念の拡大)
「大腸菌を利用したファージの複製過程をみると、複雑だけど、結局は“copy”という計算をしているんだよね」
104