ヒト培養細胞の遺伝子機能解明のための ゲノムワイドな

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AUTOMATED LIQUIDHANDLING
ヒト培養細胞の遺伝子機能解明のための
ゲノムワイドなRNA干渉ライブラリーの作製
Hannes Grabner1, Anne-Kristin Heninger2, Ralf Kittler2, Annett Lohmann1,
Ina Poser2, Jan Wagner1, Karol Kozak1, Frank Buchholz2 and Eberhard Krauß1
ドイツ、ドレスデン、マックスプランク分子遺伝学研究所(MPI-CBG)1HT-Technology Development Studio (TDS)、
2
Research Group Buchholz
RNA干渉(RNAi)は、機能が不明である
Production Scheme of the EndoribonucleaseEndoribonuclease-prepared siRNA (esiRNA) Library
個々の遺伝子を特異的にサイレンシングす
ることにより、研究者が迅速かつ効率的にそ
GelGel-based
quality control
の遺伝子機能を調べることができるメカニズ
ムである。RNAi 技術を一部の生物種におい
て容易に行うことができるが、哺乳類培養
細胞においては長い二本鎖RNAによる細胞
に本来備わる抗ウイルス防御能が活性化さ
れるため、より困難であることが明らかとなっ
PCR
15.500
human
clones
- T7 polymerase reaction
- Annealing
- RNaseIII digest
Start
Stop
3’
3’ UTR
fullfull-length dsRNA
ている。この問題は、化学合成された約21
ヌ ク レ オ チ ド の small interfering RNAs
(siRNAs)の使用により、ある程度克服する
ことができるが、本手法は必ずしも有効であ
るというわけではない。優れたアルゴリズム
を用いて、妥当な確率で十分機能する配列
の予測が現在可能だが、最終的に予測した
siRNAが実際に細胞の中で効率的にmRNA
- GelGel-based QC
- Purification
- Concentration
measurement
- Concentration
adjustment
- GelGel-based QC
(e)siRNAs
(effektor
molecules)
図1. esiRNAlライブラリー作製スキーム
を分解するのかどうかは実験で確認するし
かない。
esiRNAs法は、in vitroで長い二本鎖RNA
リメラーゼはこれらのプロモーターから両サ
この問題を解決するために、ドレスデンに
分子をダイサーまたはバクテリアRNaseIIIで
イドのmRNAを読み取り、RNA二重鎖にハイ
あるマックスプランク分子遺伝学研究所の
切断して一部重なるsiRNA分子を得て、更
ブリダイズさせることができる。E. coli由来の
科学者達はテカン社の機器を用い、エンドリ
に哺乳類細胞へ導入する方法である。出発
RNaseIIIを添加後、二本鎖RNAは重なった
ボ ヌ ク レ ア ー ゼ 処 理 さ れ た、い わ ゆ る
物質(図1参照;許可を得て、参考文献3の
短 い siRNA 断 片 ま で に 切 断 さ れ る。こ の
esiRNAs によるヒトのゲノムワイドなライブラ
図1を転載)は15,500個のE. coliバクテリア
siRNA断片には、高活性を示すエフェクター
リーを作製し、様々な科学的応用に活用し
クローンの集合体であり、この集合体は、既
分子の「プール」に加え、一部低活性あるい
ている。同時に彼等は、esiRNA分子を一定
知および予測可能な全てのヒト遺伝子を網
は完全に不活性である分子が混在する。こ
条件下で効率的に細胞に導入する強力な
羅するゲノムワイドなcDNAライブラリーを最
のエフェクター分子プールをカラムにより精
自動化トランスフェクション法も開発した。
大限可能な限りにカバーしている。各遺伝
製 し、最 終 的 に 全 分 子 混 合 物 に 対 す る
子について、96ウェルマイクロタイタープレー
esiRNA濃度を測定し、新しいマイクロプレー
ト中でプラスミド中に挿入されたcDNA断片
ト中で同一濃度になるよう調整を行う(ノー
の増幅をPCRにて行い、さらに両サイドにT7
マライゼーション)。
1,2
ポリメラーゼプロモーターを付加する。T7ポ
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断片化したesiRNA分子の長さ、純度、お
よび濃度を確保するために、全過程段階に
おいてゲル分析に基いた品質管理を取り入
れる。すべての実験データをデータベース
に送り、全操作をLIMSにてモニターする。こ
れまでに、384ウェルマイクロタイタープレート
図2:ゲノムワイドなesiRNAライブラリーを作製、ノーマライズ化するFreedom EVO system。
RNA濃度を決定するUV測定時に、プレートはRoMaアームにてワークテーブルからGENios Plus マイクロ
プレートリーダー(右下角に図示されるようにワークテーブル下部に設置)に搬送される。
中において同一濃度で利用可能な14,000
を超えるesiRNA分子プールを有するライブ
ラリーが作成され、培養細胞で同数のヒト遺
伝子を調節し、生物学的プロセスに与える
ワークステーションには、260nmおよび
8本のチップを持つLiHa分注システムは、正
影響を調べることができる。またこれに続い
280nmを測定するためにテカン社のマイクロ
規化したライブラリーの構築に用いられる。
て、マウスのゲノムワイドなライブラリーも構
プレートリーダー ジェニオス プラスが搭載
様々なesiRNAの終濃度が同一濃度におい
築されている。
され、2波長の測定から濃度と純度の両方
て等しくなるよう、まず始めに、8本全ての
を特定することができる。ハイスループットを
チップ により希釈培地がそれぞれ投入さ
よく調整された有効なライブラリーの基
実現するため、特注384ウェルマイクロタイ
れ、LIMSの指示に従って加数として適量の
本的な前提条件となるのは、高精度な分注
タープレート(Corning UV-Star)にサンプル
esiRNA 混 合 物 が 添 加 さ れ る。こ の よ う に
と十分に統合されたハードウェアとソフトウェ
を保存される。最も正確な分注は、「サンド
384ウェル上に新たに構築したライブラリー
アである。そのため、最終ステップであるライ
ウィッチ」分注(希釈培地14μL、サンプル2
から取り出されたサンプルをゲル上で調べ、
μL、希釈培地14μL)として知られている
UV分光光度計にて再度確認し、正規化を
チップを備えたFreedom EVO ワークステー
方法を用いて、さらにチップミキシング操作
行った後の標準偏差は、有効使用量がサ
ション(図2)を用いた。ディスポーザーブル
により、サンプルを希釈培地と完全に混合さ
ンプル量(2μL)である場合に、20%未満の
せる。
範囲にある。
ブラリーの 正規化に、8チャ ンネルのLiHa
®
®
チップあるいは96チャンネルTeflon の固定
チップが選択可能な96チャンネルTe-MO・
分注システムを用いてesiRNA 濃度のUV測
定を行うために迅速かつ正確に分注する。
ディスポーザブルチップは、静電荷を有して
いるためそのプラスチック表面に負に荷電し
たsiRNAが吸着するが、テフロンでコーティン
グされたスチールニードルはほとんど吸着さ
れない利点がある。
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図3: トランスフェクションワークフロー
ハイルスループットなトランスフェクション手順
新たに作製された本ライブラリーにおい
て、次に重要なステップとなるのはヒト癌細
胞への自動化トランスフェクションである。正
に荷電したリポソームはあらゆるタイプのヌク
レオチドを細胞に挿入するのに用いられ、ヌ
クレオチド鎖を圧縮し「パッケージング」して
細胞膜への透過を助ける。トランスフェクショ
ンの全過程を可能な限り標準化し、CASY®
セルカウンター (Schärfe System GmbH,
Reutlingen, Germany) を用いた一貫した方
法により細胞数を測定し、また、自動化細胞
播 種 法(WellMate® Dispenser, MATRIX
Corp., Hudson, USA)によりピペットの操作角
度やその他の人為的ミスから様々な分布パ
ターンが発生することを回避した。その他の
トランスフェクション過程はFreedom EVO
systemを使用して(図3;許可を得て、参考
文献3の図3を転載)自動化を図った。トラン
スフェクション中に外部のコンタミネーション
(菌類の胞子、酵母あるいは細菌など)から
保護し、また、遺伝的改変を加えたバイオ
セーフティレベル2のウイルスベクター由来
RNAiライブラリーを用いた作業を行うため
に、トランスフェクション部門を完全にS2安
全キャビネット(BDK Luft- und Reinraumtechnik, Sonnenbühl-Genkingen, Germany)
の中に設置する。図に示した改良を加えた
ワークフローにより、12時間のロボット稼動
で、最 大 30,000 サ ン プ ル の 3 回 重 複
(N=3)、計90,000サンプルを処理できる。
参考文献
1. Yang D Buchholz F 他(2002), PNAS 99: 9942-9947
2. Kittler R 他(2004),Nature 432:1036-1040
3. Kraus E 他(2005), Biospektrum 11:436-441
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このゲノムワイドなRNA干渉ライブラリーによ
り、研究者はヒトゲノムの個々の遺伝子を体
系的に調べる類まれなツールを手にするこ
とになり、細胞の基本的な生物学的全過程
における機能が明らかになるであろう。さら
に、今度開発したトランスフェクション法によ
り、当スクリーニング部門は遺伝子の機能特
定をする様々なプロジェクトをハイスルー
プットで行うことが可能となった。
CASYはSchärfe System GmbH社の登録商標で
ある。
Teflonはデュポン社またはその関連会社の登録
商標である。
WellMateはMatrix Technologies Corporation社
の登録商標である。
■この記事は2006年5月発行 Tecan Journal 2/2006に
掲載されているユーザーストーリーを抜粋、翻訳したもので
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